オニーニ猿蟹合戦

Last-modified: 2021-08-28 (土) 15:58:30
443 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:44:47 [ vtglHRy2 ]


          原点回帰作品 オニーニ猿蟹合戦

444 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:45:19 [ vtglHRy2 ]

~ アイララ ラライラ アイラララ~♪
  虐殺演劇 いいもの作る
  そのため現在 生贄探す♪
  アイララ ラライラ アイラララ~………… 

何やら不気味な歌を歌いながら、2体のAA
モララーとモナーが歩いてくる。

「後二週間後に控えた虐殺演劇大会。あとは実演練習のみだからな!」
「でも最近、なかなか“あいつら”が見つからなくて困ったモナね。
 まぁいざとなったら、養殖場から買えばいいモナけど……」
「養殖だとどうもイマイチだから、なるたけ天然でやりてえなぁ。
 でもよ、絶滅してるってこたぁありえねぇだろ?」
「あの繁殖力で絶滅ってのはあり得ないモナよ。単に隠れてるだけ。
 流石にあいつらでも、警戒心は持ち合わせているだろうモナからね。」
「てぇことは、もしかしたら………」
「この辺にもその類のバカが、いるかもしれないってことモナ。」
「そうだな。例えば…………」
突然、モララーが眉をひそめる。
「そこで踊っていやがる奴らとかなぁ………!」

モララーが指さした、数十メートル先。
たしかにそこには、“あいつら”がいた。
とにかく二匹で、我を忘れたように踊っている。

「ワッチョイ ワッチョイ! オニーニワッチョイ………」
青い空に、流れる汗(?)の中、一生懸命に踊っているオニーニとその弟。
どこの青春漫画の一ページだ とも言える
見るものによっては、実にさわやかな光景だったが………

そんなさわやかな光景など、どこ吹く風。
「まぁだああいうバカ共が、いてくれたとはねぇ……。」
「天の配剤モナよ。とっ捕まえに行こうモナ。」
獲物を見つけたハンターのように興奮する、モララー一行。
その背後には、お決まりのどす黒いオーラが燃えさかっていた。

445 名前:よっしゃあ! 444ゲットォ! ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:46:00 [ vtglHRy2 ]

「ワッチョイワッチョイ オニーニ……」
「いやいやいや! いい踊りをするねぇ!」
「ほんとほんと! ほれぼれするモナ!」
踊り続けているオニーニ兄弟に、平静を装って2体は近づいた。
「ワチョッ? オジタンタチ ダレワチョ?」
「おじ……さん……!? まぁいいや。
 いやね、僕たち、とあるところで演劇活動をしているものなんだけれど……」
「君たちの踊りが、あまりにも素晴らしいものだから
 ぜひともモナたちの劇に、出演して欲しいモナよ。」

「ワチョッ!? ホントワチョカ!?」
「ほんとだとも。ギャラも支払うよ?」
「ワチョ! スゴイワチョ!
 オトートヨ キイタカワチョイ? ニータンタチノオドリガ
 ミトメラレタ ワチョイ!」
「ワチョーイ ワチョーイ!」
思わぬ知らせに、飛び上がるくらいに喜んでいる、オニーニ兄弟。
このままデビューだ! 全国に自分たちの踊りが広がる!
オニーニ兄弟の幻想・夢は、瞬く間に彼らの小さな脳内を埋め尽くす。

しかし、現実はクソ握りの夢を叶えてやるほど甘くはない。
知らぬが仏 と言う言葉があるように………

「ま、ベタな手段だけど、傷つけずに捕獲するには
 一番確実な方法だからな……」
「褒められれば何の疑いもしないモナからね。この単細胞達は。
 ……全くもって、こいつらは………

「救いようのない、哀れなバカだ!」

声をそろえ、ほくそ笑んだ。

「さぁ、それじゃあ場所を移すから、着いてきて!」
「ワッチョイワッチョイ! ワッチョーイ!」

446 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:46:35 [ vtglHRy2 ]

所変わって、移った場所は……
何もない、ガランとした廃工場。
どんなきれいな劇場に案内されるかと思っていたオニーニ兄弟は
やや不安げな表情で辺りを見回す。

「ソレデ ドンナ劇ヲ ヤルノワチョ-イ?」
「……ああ、そういえばまだ、言ってなかったね。
 僕らがやるのはね………」

「猿蟹合戦 モナよ。
 ………別にAPOH氏をパクったわけじゃないモナけどね。」
「サルカニ……ガッセン……?
 コドモニデモ ミセルノ? ワチョ-イ」
「違う違う。僕らの猿蟹は、そんなちゃちな代物じゃない。
 ……まぁ、すぐに分かるよ。
 それじゃあ、お兄ちゃんはこっちに来て。
 弟ちゃんはそこの柱の辺りにいてね。」
「ワチョ! ワカッタワチョーイ!」
浮かれたオニーニ兄弟は、何の疑いもなくモララー達の指示に従う。
既に夢の世界に入っているこの兄弟には、疑いの心など
既に遠くに飛んでいっているのだろう。

「それじゃ、始めますか。最初から。
 まず蟹モナーが、おにぎりを見つけるところから!
 オニーニ兄ちゃん! そこで立っててね!」

言われたとおり、舞台(?)の中央辺りに立つオニーニ兄。

いよいよ、僕らの踊りのデビューワチョイ………。
甘い希望を胸に、体まで文字通りにとろけそうになるオニーニ兄。
だが……

「はい! 蟹さん登場!」
モララーのアナウンスと同時に、扉の開く鈍い音が。
その音に思わず、オニーニ兄もその方向に振り返ったのだが……

直後、石像のように硬直した。
それは、モナーの腕の“モノ”を見てのことだった。
おそらく“蟹さん”を模してのモノだろう。モナーの手には……
巨大なノコギリが二枚、鋏のように合わされて握られていた

447 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:47:18 [ vtglHRy2 ]

「ワ……ワチョ!?」
オニーニ兄の危険感知センサー もとい
被虐生物が危険を感知する機能、被虐センサーが働きだした。
身の危険 身の危険! 本能は無意識のうちに、身の危険を感じ取っていた。
被虐センサーが働きだし、突然おどおどするオニーニ兄。
そんなオニーニ兄に、追い打ちを駆けるように

シャアッ………シャアッ………

その金属音で威圧するように、獲物を狙う蛇のように
モナーは腕のノコギリ鋏を、閉じたり開いたりしている。

「じゃあ、まずは………蟹さんがおにぎりを見つけたところから……
 さて、おにぎりを見つけた蟹さんは……どうするのかな?」
「当然、掴むモナ。」
モナーはノコギリ鋏を、獲物に食らいつく肉食獣のように大きく開く。
その眼下には、すっかり怯えたオニーニ兄の姿が。
危険センサーの針など、とっくに振り切れているだろう。
この場から逃げ出そうとしているようだが、足がすくんで動けない様子。
まさしく、蛇ににらまれた蛙 状態だ。

「ア……アア……ア……」
「おいおい。まだ何もしてないモナよ? 何をそんなに怯えてるモナ?」
「流石に何されるか分かったんじゃないか? クククッ。
 クソ握りにしちゃあ、ずいぶんと優秀な機能をお持ちのようだ。
「ま、その優秀な機能が現在、災いしてるってところモナね……。
 そいじゃあモララー、“つまむ”モナよ?」
「躊躇する必要はねェよ。思いっきりやっちゃってくれ。
 まだ、後がつまってるんだし。」
「それじゃあ………!」


や……や…… やめて………ワチョ………!
な、何でもするワチョイ そ、そうだ! 踊るワチョイ!
お、おにーたん達、これで許して………

オニーニ兄は必死に、心の底からの哀願をした-- だが 

「何をゴチャゴチャ言ってるモナ?」
「俺、オニーニ語分かんないから。」

エ


答えたのは、二人の絶望的な返答。

448 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:47:35 [ vtglHRy2 ]


              ぐしゅ

449 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:48:13 [ vtglHRy2 ]

「ビギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

さてさて、お聞きの通りの聞き苦しい悲鳴を上げたのは
ご想像の通り、顔をノコギリ鋏でざっくりやられている、オニーニ兄。

「蟹さんがオニーニを掴んだらっ 次は何?」
「今度はお猿さんに、会いに行くモナ~♪」
「ナァ~イスゥ!! オテテを振って、元気よく歩いていきましょぉ~!」
「おっけー!」
そしてモナーはぶんぶんと、大きく手を振り出す。
もちろん、オニーニ兄を挟んだまま。
「ギョアアアアアアアア! イタイ! イダイワヂョ! ハナジデェェ!」
のほほんとしたモララーのナレーターとは裏腹の、オニーニの絶望的な悲鳴。
だがそんなオニーニをあざ笑うかのように、ニヤニヤとモララー達は話しかける。
「大丈夫モナよ! こいつは鋭利な刃物じゃないから
 絶対に真っ二つにはなりゃしないモナ!」
「だ~けど鋭くない分、刃の形が複雑な分
 傷口をジワジワとグジャグジャに引き裂くから、かえって辛いかもな。
 ま、こうやって嬲るには最適なんだけどな!」

そうしている間にも、ノコギリに挟まれてぶんぶんと振り回されている
オニーニ兄の顔からは、他の生物で言うところの血や肉片に当たる
米粒が、ボロボロとこぼれ落ちている。
しかし二人が言ったように、少しずつ ジワジワと。

「オ オニーターーーーン!!」
柱の影から、成り行きを心配そうに見守っていたオニーニ弟だったが
兄の悲痛な悲鳴に耐えかねたか、飛び出そうとその身を現した--
が

「お前の出番は、まだ先なんだよ。
 それまでそこで、大人しくしてろ。」

それを予期していたかのように、モララーが何やらリモコンを操作する。
すると

ガゴォン!!

柱の上の方から、ちょうどオニーニ弟を閉じこめるように
小型の、鋼鉄製の籠が降ってきた。

「コ コ コレハ ナニワチョーーイ!?
 ダチテェ! オニータン ダチテェェ!!」
なんとか脱出を試みようと、檻の中で暴れる弟だったが
檻の柵は、直径3センチはあろうかという鋼鉄のパイプだった。
クックルが暴れても脱出が困難であろう、この頑丈な檻
オニーニ程度の力では、文字通り傷一つ付かない。

「お前の力ごときじゃ、いくら暴れたって無駄なんだよ。
 大人しく、兄ちゃんの最期でも見物してるんだな!」

そしてモララーは、座っていた椅子から跳ね起きると
近くにあった梯子を伝い、柱の、梁の上へとよじ登った。
「“猿”配置完了いたしましたぁ~♪」
どうやらモララーが、“猿”の役のようだ。

450 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:51:05 [ vtglHRy2 ]

「蟹さん蟹さん。こんにちわぁ♪」
「おやおや猿さん。そんなところで何をしてるモナ?」
「ちょいとうまそうな柿がなってたんで、とってるところなのよ。」
「それはいいモナ! モナにもちょうだいモナ♪」
「いいよ。そいじゃあ……」

そこまで言うとモララーは、おもむろに立ち上がり
懐からなにやら、球のようなものを出すと……
「これでも食らいなさい!」
モナー蟹に向かって、緩く投げつけた。

「はっはっはっ。モナにそいつをぶつけて気絶させ
 その隙におにぎりをパクろうって寸法モナね?
 …そうはいかんモナ!」
するとモナー蟹は、ノコギリ鋏で鋏んでいるオニーニ兄を持ち上げる。
そして……

ドブッ!! 

「ギャボッ!!」
一発  

グジョッ!! 

「ゲバッ!!」
二発

ブヂュッ!! 

「ワヂョオゥ!?」
三発…………

「ワッヂョオォォォ………!!」
「オニーニグローブの鉄壁の守り、伊達じゃないモナー!!」

三発が三発、すべてオニーニ兄の顔面にクリティカルヒット
そして更に三発全てが、緩く投げられたとはいえ
完全にオニーニの顔面にめり込んでいる。

「ワッ ワヂョッ!! オメメガ ミエナイワヂョッ!! ワヂョォーーー!!」

顔面の半分以上が潰され、半狂乱になって叫ぶオニーニ兄。
そんなオニーニを、さも愉快そうに眺める二人。
「まったくうるせえクソ握りだな。こんなんじゃパクろうって気も失せるぜ。」
「ははは。たかだか顔面に玉がめり込んだだけで、こんなに喜んじゃって…!
 オニーニちゃん。これからもっと楽しくなるモナよ?」
モナーの、何か含みのある発言に
オニーニ兄の騒ぎ声が   止まった。

451 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:52:37 [ vtglHRy2 ]
「ソ ソレッテ………ドウイウ イミ…………ワ ヂョッ!?」
意味ありげなモナーのささやきに、オニーニが首を傾げたその瞬間
「ワッ ワヂョォウ!!?」
お決まり通り、オニーニ兄が突然苦しみ始めた。
「ア アタマガ ワレソウニ イダイワヂョイ!! イダイ! イダーイ!!」
「あ、効果が出始めたモナね。案外早かったモナ。」
「クソ握りの体温で、とろけ始めてきたか……。
 ま、あの玉作るの大変だったんだから、その分楽しませてもらいましょうかね。」
「オ オジダン! ダズゲデ ワヂョーーイ!!
 イッダイサッキ ナニ ナゲタ ワヂョーーイ!?」
文字通りの、頭が割れそうな頭痛と闘いながら
オニーニ兄は必死にモララー達に問いかけた。
そしてまた“オジサン”の部分に眉をしかめ
モララーが顔を引きつらせながら答える。
「………ったく、相変わらず口の利き方のなってねぇ奴だな…… まぁいい。
 どうせ死に行くゴミだ。教えてやるとするか。
 いやね。さっき投げ込んだ奴……あれね……
 生ゴミの塊なんだよ。」
「ワ ワヂョッ!? ナマゴミ!?」
「しかも夏場に二週間、炎天下の元に寝かせておいたどろどろの特別製モナ!
 ふふふ。夏場の炎天下に二週間も放置しておいたんだから
 その生ゴミは、もはや雑菌と腐敗毒の塊モナ! 
 モナたちでもそんなの体に入れたら、えらいことになるモナ!」
「その毒の塊を冷凍庫で凍らせて、玉状に固めたんだぜ。
 まったく、途中で何度倒れそうになったか……。」
「ま、そんな至高の代物モナ。た~っぷりと味わってほしいモナね!
 特に君の場合、頭にぶち込まれた上に、頭の米と生ゴミが絶妙に混じり合ってるモナ。
 十二分に、その効果を堪能できると思うモナよ!」
「俺らで言えば、髄膜炎なり日本脳炎の末期症状みてーなもんだからな。
 くくく。耐えられるかな?」

モララーたちが、何やら言っているようだったが……
オニーニ兄には、もはや聞こえていなかった。
生ゴミ玉を打ち込まれた激痛に加え、更にはその毒が全身を駆け巡っているのだ。
意識どころかその命さえも、もはや風前の灯。
そして同時に、溶け出した生ゴミはオニーニ兄の頭からあふれ始め
その激烈な臭いを辺りに漂わせ始めた。
「うっげ……。
 モララー。もうこのゴミ、放していいモナか?
 だんだん臭くなってきて、もう耐えられそうにないモナよ!」
「ああよ。こっちにまで漂ってき始めた……うげぇ。
 しかも、蝿までたかってきやがった……!
 よし! “感動の対面”に移るから、さっさと捨ててくれ!」
「言われなくとも!」
そしてとうとうオニーニ兄は、ノコギリ鋏から解放された。
ただしその“解放”ですら、オニーニ兄には安らぎをもたらさなかった。
解放 ノコギリ鋏が開かれたと同時に――
オニーニ兄は、地面と接吻。直後に
その、形を何とか留めていた頭を地面に  はじけさせた。

452 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:53:05 [ vtglHRy2 ]

はじけさせた………
と、いうことは? その意味する物は?

……それすなわち、溶けてドロドロになった
生ゴミ爆弾が、オニーニの頭と一緒に地面に拡散したと言うこと。
つまり………

「うげぇえぇぇぇぇぇ! 静かに置くべきだったモナ~!!
 頭がはじけて、臭いが一気に拡散したモナよ~!!」
「ぐはぁぁぁぁぁ!! こ、この臭い…!
 作った自分が言うのも何だが、これほどまでとは……!!

……まさしく今舞台上は、デスゾーンと化していた。
もはやスカトロしぃでも尻尾を巻いて逃げそうな、この臭い。
オニーニ兄が、最期に一矢報いたか?
絶命した彼の傍らで、二人が悶え苦しんでいる。
「こ、これは本番でやったら、最悪死者が出るな……! うげぇ……
 も、モナー! 惜しいが、本番ではこいつは使わないでおこう!」
「異議なしモナ~!! で、モララー! 続けないと!」
「あ、そうだな! クソ兄弟の、感動の対面!
 そして敵は、舞台裏に引っ込む! うげっ。」
そしてモララーは、先ほどのリモコンを操作すると
モナーと一緒に、一目散に舞台裏へと避難していった。

「ニ……ニーータァァーーーーーーン!!」
檻から解放され、弟は一直線に変わり果てた兄の元へと向かう。
「ニータン! ニータン! シッカリシテ ワチョイ! ニータン!」
激臭漂うデスゾーンも何のその。オニーニ弟は
無我夢中で兄の側へと走り寄った。
「ニータン! オキテワッチョイ! マタイッショニ オドロウヨ ワッチョイ!
 ダカラニータン オキテェ! オキテェェ!! メヲサマシテ ワッチョイ!」
しかし、弟がどれだけ必死に呼び起こそうと
兄はとっくに屍と化し、声の届かぬ世界にいる。
弟の必死の声はただ空しく廃工場の壁にこだまし、消えゆくだけだった。
「ニータン…… ドウシテ ワチョ……?
 ドウシテコンナコトニ ナッタワチョ……?
 ドウシテ………!?」

そこまで言うと、オニーニ弟の顔つきが変わった。
兄の死に動転していたのが落ち着いたのか
ぎろりと、先程モララー達が退散していった扉をにらんでいる。
復讐心の、めらめらと燃える炎をその目に秘めて。
「アイツラガ… アイツラガ ニータンヲコロシタワチョ……!!
 ゼッタイニ……ゼッタイニ ユルサナイワチョーー!!
 ニータンノカタキ ウッテヤルワチョー!!」
そして弟は、扉に向かって体当たり
そのままモララー達を追うべく、全速力で走った。

その様子を……
二人は通路に仕掛けたカメラで見ながら、何かの準備をしていた。
「やっぱ追いかけてきたモナね。
 流石単細胞生物。行動の予測がしやすくて助かるモナ。」
「まぁ、そうでないとうまくいかないから困るんだけどな。
 ……これからが、猿蟹の真骨頂……なんだからな!」

453 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:54:01 [ vtglHRy2 ]


「ニータンヲ カエセ!」
息を弾ませながら、オニーニ弟が飛び込んだのは
以前は事務所にでも使われていたのだろう、小さな部屋だった。
「ワチョ……? モララータチハ ドコワチョ……?」
「ここだよん。」
突然聞こえてきた声に、はっと弟が振り返ると……
そこにあったのは

壁に開いた、無数の穴。
「針治療でも、堪能してくれたまへ。」
「エ」
次の瞬間 その壁の穴から
何かが勢いよく飛び出してきた。

「イッ イタァァァァァイィィワチョオォォォォ!! ナニワチョカコレハァァァァ!?」
突然、
何が起こったか、その場でゴロゴロと転げ回って悶え苦しむ弟。
何が起こったか? よ~~く、見てください。よ~~く。

よ~~く、見てみると………
オニーニ弟の体の表面に、何かキラキラするものが確認できた。
キラキラ反射する、小さな……… これは、針か。

「ワッ ワヂョオオォォォォォウウ!!?? ビリビリスル ワヂョーーイィィ!?
 イダイ イダイ ワヂョイィィ!! カラダガヤケル ワヂョーーイィィ!!」

「猿蟹合戦「蜂の毒針攻撃」!
 とりあえず今回は、20本飛ばしてみたが……
 威力は申し分ねぇな 俺の『スティンガー』は。」
「『スティンガー』と言っても、追跡ミサイルじゃないけど。
 でも、いい悶えっぷりモナ。」
「ったりめーだろ。ただ針を飛ばしただけじゃねーんだから。
 この俺が、その程度で済ますわけがねーだろ。」
「というと、例によって何か細工がしてあると?」
「あーよ。あの『スティンガー』には
 悪名高い極辛唐辛子の、ハバネロをぬったくってある。
 針に塗った程度の量じゃ、普通の連中なら大した効果は出ねぇんだが
 あのクソ握りの体格なら、効果覿面ってとこだな。」

「ワーーー! ワヂョォウッ!! イダイワヂョォイ!! タスケテワヂョォォォイイ!!」
針の刺さった痛みと言うより、ハバネロの灼熱感と激痛に
悶え、転げ回るオニーニ弟。
だが転がり回るごとに、針は一層深く刺さっていく。
哀れオニーニ。自分で自分の傷口を広げているとは。

「ははは。ゴロゴロ転げ回ってるモナよ。よっぽど痛いモナね~。」
「ふふふ。“蜂の毒針”に苦しんでる、苦しんでる! 何て滑稽な姿だ!
 ………じゃ、そろそろ助け船でも出してやるか。」
モララーはそうつぶやくと、また何かボタン操作をした。

454 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:54:35 [ vtglHRy2 ]
オニーニが転げ回っていると、部屋の隅から
何やら小さなボールのようなものが、オニーニ弟の方へと転がってきた。

「ギャワヂョオオゥゥ!! ギョオワァァーー!! ゲ………?」
痛みに転げ回っていたオニーニ弟は、その傍らに
何かが転がってきたことに気づいた。
金属の、玉だ。
「ワッ ワヂョ……? コレハ ナニワチョ………?」
傍らに転がってきた、金属製の球体を手に取るオニーニ弟。
そしてその金属球を手にした瞬間、部屋にモララーの声が響いた。
「身悶えご苦労様、オニーニ君。
 …………さて今回、君の悶えっぷりが見事だったんでね、
 僕らの方から一つ プレゼントを用意したんだ。
 君が今手にしている、その玉のことだよ。」
モララーの言葉にオニーニ弟は目を輝かせて、その手にある“金属の玉”に目をやる。
もっとも、“金属の玉”と言っても完全な球ではない。
球体の一部に、変な部品のようなものがついた代物だった。
「コレガ ゴホウビ……? コレイッタイ ナニワチョ?」
「それはね。中に解毒剤が入っているんだ。……君は今、さっきの針のせいで
 全身がまだズキズキするだろう? それを一瞬で、治してくれるんだ。」
「ホ ホントワチョイ!?」
「ああ。その金属の玉、一部に変なものがついてるだろ?
 そこにはわっか状の針金が着いてると思うから、そいつを抜いてくれれば
 解毒剤が出てくるよ。」
「ワ ワチョッ!!」
早く全身を焼く痛みから逃れようと、痛みに震える手で
針金の輪に指をかけるオニーニ弟。

ピンッ

これで、解毒剤が――

だが、次の瞬間

455 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:54:57 [ vtglHRy2 ]



ド カ ァ ァ ァーーーーー ン ! !

456 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:55:59 [ vtglHRy2 ]

解毒剤が出てくる代わりに、大爆発が起こった。

「猿蟹合戦 「熱ではじける栗攻撃」!
 アツアツの爆風をまき散らしてはじけ飛ぶ、手榴弾の味はどうだ!」
「ま、手榴弾と言っても、そのままのを使ったら
 オニーニの体なんて跡形もなくなるから、火薬量はかなり減らしてあるモナ。」
「実際の話とは順番が逆だけど、別に問題はねぇだろ?
 どっちが先になろうが よ。」
「どっちが先でも、苦しむことには変わりはないモナー!!」

愉快そうに会話をする二人を後目に、オニーニ弟は………
突然の不意打ち 予期せぬ新たなる激痛に
体をビクビクと震わせている。
「ふふふ。ある意味では確かに“解毒剤”だったろう?
 君の体の表面の“毒針”は殆ど吹っ飛んだはずだからね。」
「ま、その代償として
 ちょっと火傷しちゃってるモナけどね。」

………モナー達の言う、“ちょっと”
それは如何ほどのレベルのもののことを言うのだろうか?
何せ、オニーニ弟の現状は
何とか死んではいないようだったが、その体は
余すところ無く、爆風に焼かれ
まさしく“焼きおにぎり”状態だった。
時折窒息しかけの金魚のように、ぱくぱくと口を動かすのみ。
もはや意識があるかどうかも、定かではないが……

457 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:57:05 [ vtglHRy2 ]

「じゃあモナー、仕上げと行こうか。
 おいコラ、起きろクソ握り。」
モララーが、冷徹に叫ぶと

「ワッ ワヂョォォッ!!」

まるで魔法。ぐったりとしていたオニーニが、急に跳ね起きた。
魔法? いやいや、そんな摩訶不思議なものではない。
なぜなら今度はよく見なくとも、よく見えるから。
オニーニの尻に、さっきの針が十本近く刺さっているのが。

「いつまで寝てんだ、このカスがっ。
 とろとろしてっと今度は、全身動けなくなるぐらいに
 スティンガーをぶち込んでやるぞ!?」

すごむモララー。だがオニーニには、そんなすごみを聞く余裕もない。
手榴弾による全身火傷に、抜け残ったスティンガーの痛み
そして今回の、尻に刺さった新たなるスティンガーの痛み。
今のオニーニの状態は、後一歩でお花畑を渡りかねない状態だ。  

「ふふふ。後一歩って所か。まぁいい。
 おい、いいかクソ握り? これから大事なことを話してやるから、よ~く聞け。」
「ワ……………、ワチョ…………イ……………?」
ずたぼろのオニーニが、何とか返事をする。
「くくく。俺らの猿蟹合戦に協力してくれて、どーもありがとう。
 おかげで非常に参考になったよ。
 でだ。もう帰りたいだろ? お家に帰りたいだろ?」
「ワ………ワチョ…………」
イマイチイエスかノーか、分かりにくい返事ではあったが
さすがにここで“ノー”と答えはするまい。
まぁモララーにとっては、どちらでもいいことだったが。

「“安全な”出口を教えてやる。
 ……右手に扉が見えるだろ? それだ。」

モララーの指示通りに、右手方向を振り向くオニーニ弟。
確かにそこには、扉があった。
「ワチョ……カエ……レル………。コレデ………カエ………レル」
ふらふらと、その扉に歩いていくオニーニ弟。
……って、おいコラちょっと待て。
踊りのデビューはどうした、ギャラはどうした
そして何より、兄ちゃんの仇はどうした!? オニーニの弟よ!

だが、それはこいつら被虐生物の悲しさ。
自分の命が危険にさらされれば、まず何よりも自分の命を最優先してしまう。
たとえ肉親の死であろうと、復讐を決意しようと、自分の命が危険ならば
そちらを取る、という寸法だ。

「ワチョ……アト……スコシ……。オウチ………カエレル………。」
一歩ずつ、一歩ずつ
地獄からの脱出口に近づいていく、オニーニ弟。

………地獄からの、脱出口?
甘い甘い。甘すぎる。
お約束のこの展開。当然ながら
これからオニーニを待ち受けているものは、更なる地獄だ。
あの扉は、地獄からの脱出口ではない。
地獄への入り口なのだ。


「カエレル…………」
オニーニが扉のノブに手をかけ、回した瞬間。

スッ

床が、消えた。

458 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 22:59:27 [ vtglHRy2 ]

「ワチョッ!?」
突然の、予期せぬ出来事。落とし穴。
帰れるという淡い希望は、モララーの冷徹なる一撃で叩きつぶされた。

「………お前ってさぁ……………
 本ッ当に、救いようのないバカなのな!!」

「ナ ナニワチョ!? カエレルンジャ ナカッタノ ワチョ!?」
元から頭だけは出る作りになっていたようで、オニーニは
落とし穴から頭だけ出して、何やら叫んでいる。

「ばぁかが。そこまでぐちゃぐちゃに実験材料にしといて
 誰が素直に帰すかよ。最期まで使うに決まってんだろ?」
「ソンナァ! モウ イヤワチョォォォ!」
「嫌っつっても、俺ぁやるぜ。
 猿蟹合戦最終! 「石臼攻撃」!」

モララーがまたリモコン操作をすると、地面から
巨大な石臼がせり上がってきた。
その石臼の粉入れ口に、オニーニをはめ込んだ状態で。

「さ~てと、もう何やるかは分かってるよな?
 さっきの爆風で、お前の体の 少なくとも表面は
 カラッカラに乾燥したはずだからな。
 ………“グラインド” してやるよ。」
そして、舌なめずりをするモララー。
よく意味は分からなかったが、何か今まで以上に
とんでもないことをされそうだと、オニーニ弟は絶望にふるえる。

「せ~めて“君”は、いいニクコプーンになってちょうだいね~!」
「ワッ ワチョ!? ニクコプーーン!?」
思いも寄らぬモララーの発言に、オニーニはびくりと更に体を震わせる。
「そ~よ。ニクコプーン。さらさらのニクコプーンね!
 さっきも言ったけど、お前、少なくとも体の表面はカラッカラに乾燥してっから、
 イイニクコプーンになりそうだぜ~♪
 ま、しばらく時間はかかるけどな。あんまり急いで作ると、質が落ちるからな。
 じっくりと、お前の体をすりつぶしていってやるよ。」

「ワ……ワ……ワチョ……、シヌノハ……イヤ ワチョ……!
 オ…オネガイ……ワチョ……。タスケテ……ワチョ……! ナンデモ……スルカラ……ワチョ……!
これからゆっくりとすりつぶされていく という処刑法に
身じろぎし、命乞いを始めるオニーニ。
……そんなことしたって、結果は目に見えているのに……

「何でもする? それじゃあせめて
 よい悲鳴を上げながら死んじゃってください。頼むよ~♪
 ……っと、そうだ、忘れてた。モナー!」

モララーが声をかけると、今までどこに行っていたのか
モナーがぬっと姿を現した。
なぜか全身を防護服のようなもので包んで、手には何かが入ったビニール袋を持っていた。

「まったく、こんないいものがあるって知ってたら、苦労はなかったモナねー。
 モララー、持ってきたモナよ?」
「ご苦労さん。俺もあれ作るとき、そいつがあるって知ってたら……
 まぁいい。オニーニ君。ごめんごめん。こいつを忘れてた。
 ……だからね、前言撤回。君はニクコプーンにならなくてもいいんだ。」
「ワ…ワチョ……?」
「代わりに、こいつは僕らからの、最後のプレゼントだ。」
そしてモナーは袋の中身が見えるように、オニーニ弟に向かって袋の口を開いた。
直後、例の耐え難い異臭があたりに漂う。

459 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 23:00:29 [ vtglHRy2 ]

「ニ……ニータン!!」
袋の中身は、先ほど非業の死を遂げたオニーニ兄だった。
地面にぶちまけた死体を詰め込んできた、その袋の中身は
もはや形容しがたい、不気味な色の"モノ"と、臭いに満ちていた。

「やれやれ。ついさっきなんだよな。この廃工場に
 こんないい装備品があるってわかったのは。」
どこから持ち出したか、モララーがガスマスクを装着する。
モナーがつけているものと、同じ代物だ。
「うひひ。モナー、頼むわ。」
「あいよ モナ!」

モララーに指示されると、モナーはおもむろに例の袋を持ち上げる。
そして
「ブラザァ・コラボレェショォォン!!!」
袋の中身を、オニーニ弟の頭の上に一気に投下した。

「ア゙ーーーーーーーーーーーーーーー!!」 
ただでさえ体の表面は火傷していて痛いのに
そこに、得体の知れない代物が降りかかって来た。
パニックと、激痛。
オニーニ弟はもはや、半狂乱だ。 

「おいおい。せっかくまた兄弟の感動の再開を
 させてやったのに、何で泣き叫ぶのよ。」
「きっとお兄ちゃんとまた会えて、叫ぶぐらいうれしいモナよ!」
「ははっ そりゃそうだな! 流石に兄ちゃんは原形とどめてねーから
 抱擁とかは無理だけど、存分に再会を喜んでくれ!」

「ギャアアアアアアアアア!! イダァァァイイィィィワヂョォォォォィイィ!!??」
モララー達がのんきに話していると、オニーニ弟の苦しみ方が変わった。
おそらく目、鼻、口、そして体の傷口から、兄を死に至らしめた
件の雑菌が進入しているのだろう。

ハバネロ針に体を貫かれ、焼かれ、手榴弾で焼かれ
そしてとどめに得体の知れない、毒物の固まり――

………この時点で、既に殆ど死んだようなもの というより
放っておけば、そのままオニーニはゆっくりと意識を失い
黄泉の世界に旅立てたものだが……………

そうは問屋が降ろさない。

「本番では、オニーニの兄貴をサンドバックにして
 ぐちゃぐちゃにしてみようモナ~♪」
「はははっ。ちょいとベタだが、観客の安全を考えりゃ
 そいつが一番いい方法かもしれねぇな。そいつにしよう!
 ………じゃ、こっちもそろそろ始めるか。」
「もう十分に、“この世”での再会は済ませたわけだし
 ………後はあの世で、仲良くやってくれモナ。」
「じゃ、いっきま~~す!!」

モララーが、リモコンのボタンを押した。
名残惜しむように、感慨深そうに
じっくりと、しっかりと。

460 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 23:00:50 [ vtglHRy2 ]


ゴリ………ゴリ………ゴリ…………………………

床の石臼が、不気味な音を立てて回り始める。

「キ キャアァァァァァ!! アンヨガァ! ア アンヨガァ!!」
瀕死の状態でも、石臼に足を潰され始めたのが分かったか
オニーニ弟が悲鳴を上げる。

「臼を引く速度は、一分間に12回転ッ!!
 それが一番きめが細かく、香りも良い粉が出来るッ!!」
「どこの漫画のパクリモナ。まぁ実際
 それくらいの速度が一番、恐怖を与えるにせよ
 痛みを与えるにせよ 効率のいい時間モナからね………。」

ゴリ……………ゴジュ………………
…………ザリ……………ジュリ…………グジュ…………

段々と、臼の音が生々しくなっていく。
今は、どこまで巻き込まれているのか?
腹か? 胸か? それとも既に頭か?
…………まぁ、ぐちゃぐちゃになった兄貴が
上に覆い被さっているから、確認のしようもないが………

グジュリ………………ブジュリ………………
…………ジュブ………………ブジュ…………
……グブッ…………ジュル……………………

……………………………………………………

461 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 23:01:11 [ vtglHRy2 ]



          ぐぢゃっ

462 名前:cmeptb ◆KSdlFS2kHA 投稿日:2005/10/01(土) 23:01:31 [ vtglHRy2 ]

「…………で、実際
 リハーサルやってみて、感想どうよ?」
“演劇”に名を借りた殺戮を終了させ、二人は後かたづけをしている。 
「生ゴミ爆弾は当然として、他にもまだ色々直さなきゃいけないところもあるモナね。
 石臼とか………。何もこんな大きなものじゃなくても、普通ので十分モナよ。」
「ははは。確かにな。
 リハーサルっつーことで、ちょっと悪ノリしてみただけだよ。
 ま、ちょっと過ぎたな。あとで山ほど消毒薬をぶち込まなきゃいけねぇ。」
「そんな程度で、大丈夫モナかね…………。」
「………ま、それよりも問題は、“イケニエ”だろう?
 今日は運良く捕まったが、次はどうすんだよ?」
「………別に、問題ないモナよ………?
 本番まで後二週間もあるんだから、その間に
 探し回れば、絶対に見つかるモナよ。
 所詮は単細胞生物。隠れる場所なんて…………。」
「ふふふふふ………。まぁそうだな。
 ! そうだ! 本番はベビオニーニでも使ってみるか?
 蟹の子供ってことでよ! プチプチ潰してやるんだぁ……!」
「………おいおい、モララー。蟹の役はモナだよ?
 モナはクソ握りのベビなんか、産みたくないモナ。」
「あ、そーか。すっかり悦に入ってて、忘れてた………。
 でも、ベビオニーニを使うっていうアイディアは悪くねぇだろ?」
「捕まれば、ね。
 ………とりあえず、指針には入れておこうモナ。」
「はははっ。楽しみだなぁ………!
 早く来ないかなぁ、本番………!」
「本番は他も頑張るだろうから、会場は確実に鉄臭くなるモナね。
 モナ達も負けないように、がんばらないと………。」
「ああよ。優勝だ、な………!」

そして二人は後かたづけを済ませると、足早に廃工場を後にした。

………………しかしまた、戻ってくるつもりなのだろう。
件の“ゴミ兄弟”のみを片づけて
他の設備は、そのままにしてあるのだから。

よりよい作品を作るべく、改良すべく
“リハーサル”を続けるために。

本番までに一体、何匹の哀れな兄弟達が大地に帰ることやら。
………それは誰にも、分からない。

                  終

アブ板むかしばなし (4):作中で触れられていたAPOH氏の猿蟹合戦