ある日の深夜。久しぶりに使う自室のデスクでPCを開く。
麻奈の誕生日ライブへ向けた準備を進める傍ら、俺はもう一つの準備を進めていた。
事前に打ち合わせを行って、全員の賛同は得られた。
あとはいかに本人にバレないようにことを進めるか、そして時間が少ない中で間に合わせられるか。
「マネージャーとしての腕の見せ所、か」
ふっと息を吐きつつ缶コーヒーを机に置くと、作業に取り掛かる。
明日には残りのデータが揃う。それまでにある程度は形にしておかなければ。
少し下がってきた眼鏡を直すと、画面に映るソフトとの格闘を再開した。
10月15日。今日は、私の誕生日。
星見プロのみんなもクラスの友達も、お祝いしてくれた。…感謝の気持ち、ちゃんと伝えきれなかった、かも。
平日だから当然授業はある。それに、この後はお仕事も。
プロとしてやっている以上、当たり前のこと。でも、やっぱり少し、寂しい、かな。
終業のチャイムを聞くと、みんなに軽く挨拶をしたら、メッセで来ていた待ち合わせ場所へ猛ダッシュ。
今日は荷物が多くて、つらい。段々速度が落ちてきたところで、見つけた。
「雫!こっちこっち!」
学校から少し離れたところにあるコインパーキング。
牧野さんも私を見つけて、手を振ってくれた。
「はぁ…はぁ…。お疲れ様、です」
「お疲れ様。そんなに急がなくてもよかったのに」
「ううん。牧野さんの送迎、久しぶりだったから…」
「確かに、最近はこうやって現場に送ることも少なかったな。すまない」
「大丈夫。…でも、やっぱりたまには、お願いします」
ぺこり。
「そうだよな、もっとみんなのこと見ないといけないよな…」
「ん。みんな忙しいから、ちゃんと話したいと、思う」
「気を付けるよ」
牧野さんがどんどん申し訳なさそうになってる。話題、変えないと…。
「えっと、今日は…」
お仕事の話をしようと思ったんだけど。
「ああ、まだちゃんと言ってなかったか。誕生日おめでとう、雫」
「!あ、ありがとう、ございます」
急に言われると、照れる。
「本当はもうちょっと引っ張ろうかと思ってたんだけど…星見プロのみんなと俺からのプレゼントだ」
「え、みんなから…?すごい…何だろう」
元々そんなにない語彙力が、無くなる。
手渡された包みをまじまじと見る。そんなに大きいものじゃ、ない。
触った感触は、ちょっとごつごつしているような?なんだろう、すごく覚えがあるような感じ。
「そんなに気になるなら、開けていいんだぞ?」
牧野さんが見かねて言ってくれた。
「ん。それじゃ、開けるね」
かわいい包装をなるべく丁寧に開けて、中身を取り出す。
これは…。
「トリエル、リズノワ、月スト、サニピ…これって」
「みんなのライブとコメントを収録したスペシャルブルーレイだ」
「お、おおおおぉぉぉぉおおお!!!!!」
え、何これすごい…。
「こんなの、いつの間に…」
「俺はマネージャーだぞ?みんなが麻奈のイベントの準備をしている時に、スケジュール調整してこっそりと、な」
全然気づかなかった…。
「え、こんなの、私、いくら払えばいい…?給料3か月分?」
「それは婚約指輪の相場だ」
「…48か月無給で働いたら、みんなと婚約できる可能性が…?」
「現実に帰ってきてくれ」
冷静なツッコミが心地いい。
あれ、でも…。
「サニピ、私のパートはどうしたの?」
「ああ、みんなで相談して、振り付けも調整して全員で歌うようにしていたぞ。
怜が『やっぱり雫のパートは雫の歌声じゃないと締まらないわね』とも言ってたな」
うあ、ただでさえ気持ちが高ぶってるところに、そんなこと言われたら…。
「ごめん、ちょっと泣く」
「いい仲間を持ったな」
「…うん」
サニピで、よかった。
ひとしきり泣いた後、牧野さんがハンカチで涙を拭ってくれた。
「さ、そろそろ現場に向かうぞ」
「うん。よろしくお願い、します。
あ、今日のお仕事終わったら、このBD、一緒に観てくれる?」
「ああ、そうだな。編集の時にざっとは見てるけど、完成したのを通しで見てる時間は無かったからな」
「え、牧野さんが編集、したの?」
「みんなからのプレゼントだって言ったろ?」
ごめん、また泣きそう。
「折角だから、事務所の大きいモニターで見ようか。少しくらい音大きくしても大丈夫だし」
「ん、朝までエンドレス再生、しよう」
「いや、さすがに日が変わる前には終わろうな?」
「残念」
一生大事にしよう。一緒にお墓に入れてもらうように、遺言にも残さないと。
しっかりと鞄にしまい込むと、牧野さんの待つ車内に乗り込むのでした。
終わり