重い?重いかも…

Last-modified: 2022-07-03 (日) 20:02:41

誰が言い出したんだったかわからないけど、牧野さんに日頃の感謝を伝えよう、ということになった。
みんなで意見を出し合って、伝えたいメッセージと思い出の写真を1枚選んで動画にまとめる、と言う形で見てもらうことになった。
デジタルに強い人が少なくて、遙子さんが動画用のBGMを準備して、私がテキストと写真をBGMに合わせて流す調整をする段取りだ。
ようやく全部のデータが出揃って、編集する段階になった…んだけど。

「何この…何…?」

最初の方はよかった。こころちゃん、愛ちゃん、葵ちゃんあたりはほっこりして見れた。
莉央さん。…バーで言ったこと、って…何?
すみれちゃん。バンプロにいた時におしるこを買ってもらった…?そのくらいの時から大好き…?
優ちゃん。二人で沖縄…?あとこの写真は…?
瑠依さん。ユニットの時はお世話になりました。あと…あのマフラーって牧野さんの…ですよね…?
芽衣ちゃん。お姫様だっこ…?この写真…不自然に空いてる左上のスペースは…?
すずちゃん。牧野さんが…恋…?焼肉は…私も行きたい。
怜ちゃん。盗…撮…?ご両親が会いたがってる…?

…うん。編集のために何度か読み返したけど…。これ、公開情報にして大丈夫なの…かな…?
提出してきたってことは、見られても問題ないって思ってる…ってこと、だよね。
え、怖い…。あと、なんだかモヤモヤする。何だろう、この気持ち。
私は改めて自分の下書きテキストを読み直す。…うん、伝えたいことは伝えてる…と、思う。
そのはずなのに、何かが足りない…気がする。
もう一度、今までのことを振り返ってみよう。

周りからは無理だと言われたけど、星見プロのオーディションに申し込んで。結果は、補欠合格…だったけど。
後で牧野さんにこっそり理由を聞いた時、「アイドルに詳しいというのは提出された資料でもわかっていたけど、一番大きかったのは歌声だな」って、言ってもらえて。
…嬉しかった、な。

少しずつメンバーが増えてきて、上手くいかなかったこともあったけど。
一緒にレッスンして、月ストとサニピに分かれることになって、インタビューも受けて。
あっという間にデビューライブが決まって。
デビューしたと思ったらネクストヴィーナスグランプリ開催が決まって。
…そういえば、牧野さんが初めて部屋に来たのも、そのくらいの時期だったっけ。
一緒に動画を見て、アイドル文化について、語り合った。
それから、何度も一緒にお話ししてるけど、いまだに語りつくせないくらい、楽しい時間…。
あ、いけない。脱線した。

それから、エゴサしてたらMCの声が小さいって言われて落ち込んだことも、あった。
性格を変えた方がいいかな、って言ったら、「ファンのみんなは今の雫が好きなんだ」って言ってくれて。
会話術のレッスンも上手くいかなくて、逃げ出して…。牧野さんに、心配かけちゃった…。
必死に探してくれて、ファンレター、届けてくれた。
私に憧れてアイドルになりたいって言ってくれた、あの子の手紙を読んで。
夢はきっと叶うんだって、思い出すことが、できた。

それからしばらくして、ソロデビューしてみないかって、誘ってくれた。
魅力的だったけど、やっぱりまだ不安で…。ツインボーカルユニットなら、って言ったら快く承諾してくれて。
でも、一番好きなアイドルで憧れの瑠依さんと組みたい、なんて…今にして思えば、とんでもないことを言ってしまった…。
瑠依さんが受けてくれて、嬉しかったな…。
一緒にレッスンしてレベルの差に愕然としたり、サニピとトリエルでやってきたやり方がかみ合わなくて落ち込んで…。
心が折れそうになった時、どうすれば瑠依さんと対等のパートナーになれるか、ヒントをくれた。
それからは、頑張って資料を作って、瑠依さんに見てもらって…お互いに言いたいことを言い合えるようになって。
一緒のステージに立って、瑠依さんへの思いを爆発させることができた。

「…あれ?」

なんだか、自分の事を思い出していたはずなのに、浮かんでくるのは牧野さんとの思い出のことばかり…?
…もしかして。このモヤモヤの正体は…。

「私…牧野さんのことが、好…」

き、まで言い切れなかった。顔が熱くて、胸がドキドキして。
言葉が、出ない。
他に誰もいない自分の部屋なのに、意味もなく周りをキョロキョロ。
当たり前だけど、誰もいない。
ちら、と鏡を見ると、真っ赤になった自分の顔があった。

「うあぁ…」

何で男の人とまともに会話したこともないのに、牧野さんとのお話しはあんなに楽しかったのか。
何で見守られていることにあんなにも安心できたのか。
何でもっと一緒にいたいと思ったのか。
全部、繋がった。ううん、きっと気付いていないフリを、してた。
気持ちに気付いてしまったら、今まで通りではいられなくなるから。
でも、みんなのメッセージを読んで。他の子と写っている写真を見て。
このモヤモヤの正体は、嫉妬。
大好きなみんなに、嫉妬して、しまった。
…でも、止まらない。気持ちが溢れて、止められない。
自分の中に、こんな感情があるなんて、思わなかった。
…みんな素敵だから、最後に選んでもらえるなんて、思えない。
でも、諦めたくない。あの人が、教えてくれたから。夢は、自分の力で叶えるものだって。
だから、諦めない。たとえ、どんな結果が待っていたとしても。
私は、決めた。

「…よし!」

下書きのテキストに、最後に一文を書き加えた。
それは決して強い言葉ではないけれど。
これは、決意表明。そして、もしくじけそうになった時の自分へのエール。

『今も昔も
 私の推しは牧野さん、

 です。』

終わり