英語のお勉強/キースジャレットライナーノーツ

Last-modified: 2012-02-12 (日) 21:36:37

キースジャレットライナーノーツ

ホントにこんな事言ったのかよ?

よく引用されるコレ。

私は創造の神を信じる。事実このアルバムの演奏は、私という媒体を通じて、創造の神から届けられたものである。なし得るかぎり、俗塵の介入を防ぎ、純粋度を保ったつもりである。こうした作業をした私はなんと呼ばれるべきであろうか。創造の神が私を何と呼んでくださったか、私は覚えていないのである。

読んだ瞬間、英語的な響きがほとんど無く、相当な意訳をしていると直感した。と同時に、この時代の団塊バカにありがちな、ひとりよがり訳である可能性も考えた。なにせ、誤訳を平気な顔して法律にしちゃうくらいの世代だから。

Solo Concerts - Bremen & Lausanne

そもそもライナーノーツに原文が書いてあるので、それと比べりゃいいって話。

オレ訳

 最後に、私の目的は何なのか、そして私はなんと呼ばれるべきかについて私自身の立場を明らかにしたい。私は「芸術」を信じない。その意味で私は芸術家ではない。私は私たちが存在する以前に音楽が存在していたという程度に「音楽」を信じている。その意味で私は音楽家ではないかもしれない。また私は「人生」を信じない。人生について深く考えれば誰でもこのような結論になるだろう。

 私には「創造」が出来るとは思っていない。けれども、「創造への道(channel)」にはなり得ると思う。私は創造主を強く信じている。事実、これは彼(創造主)のアルバムであり、このメディア志向の世俗においてもできるだけ創造主との距離を縮めたうえで、彼が私を通じてあなた方に届けたアルバムである。私はなんと呼ばれるべきかに関しては、彼が私を特にどう呼んだのか、覚えていない。

何が言いたい?

我ながらヒドい訳だよ。でも現在の自分の精一杯。こういう難解な英文を訳すときには日本語運用能力が試されるものだと思い知らされる。(with as little in between as possible on this media-conscious earth. のthis media-conscious earthはどう訳して良いものやら。かといって創作しちゃいけないしね:p)

追記:-conscious 複合語で「…を意識した」

  • brand-conscious ブランド志向の 
  • a sex-conscious girl 性に目覚めた少女
  • weight-conscious folks 体重を気にする人たち

earth ; 世俗、この世

という事らしい。電子辞書SR-G7001Mより。this media-conscious earthは「このメディア志向の世俗において」ってしたけどまだしっくりこない。

こんなものでもなお、冒頭の意訳よりは原文に近いと思うけれど。

キースジャレットはこのライナーノーツの最後に「私の目的」「私は何と呼ばれるべきか」の二つを考察している。「芸術」が目的でなくゆえに「芸術家」と呼ばれるにはふさわしくない。「音楽」も目的ではなくゆえに「音楽家」でもない。「人生」そのものが目的でもない。しかし、である。「創造(主)とのチャネル」にはなり得えると言っている。つまり、「私の目的は何か」という問いに対する答えはここにあると(ほぼ)言い切っているのだ。一方で「なんと呼ばれるべきか」という問いに対する答えは「わからん」ということらしい。

冒頭の意訳について

  • 「創造の神」とthe Creatorは大きく齟齬があると思う。日本語的感覚で「創造の神」というと、「○○の神」「△△の神」などいろいろいる神のうちの「創造の神」という意味合いが出てしまうがそうではない。ここではずばりこの世の創造主のことであろう。
  • 「このアルバムの"演奏"は」ではない。そもそもこのアルバム自体が創造主により創造されたものだというのがキースジャレットの見解。
  • 「俗塵の介入」「純粋度を保った」は意訳し過ぎないか?この言葉に相当する部分はwith as little in between as possible on this media-conscious earth. 部分。「出来るだけじゃまを廃し」という意味だが、意味が同じなら創作して良いという事にはならない。(追記:これについて訂正及び判断保留。earthについては俗世と訳すのは正しいし、little in betweenについて「純粋度を保つ」と訳す事はまちがってはいない)
  • 「こうした作業をした私」は完全に創作。原文にはこんな自己顕示は全く見られない。

こういう翻訳を俗塵の介入とは言わないんですか?純粋度は保たれていると言えますか?

キースジャレット本人の、生の言葉にこそ耳を傾けるべきではないでしょうか。


2012年1月14日初出

2012年2月11日 若干修正。this media-conscious earth について追記とかいろいろ