いつしか父親と見た夕焼け。
「お父さん。どうして夕日は赤いの?」
右どなりにいた父、神炎院美来鳥は邪素血巣に優しくほほえんだ。
「それはな、邪素血巣、我々の心優しき神、恵古那が私たちを見守っているからなんだよ。」
「えこな…?」
「そう。恵古那様はいつでも人々を優しく見守っているんだよ。」
「へぇ…すごいや!!」
幼かった邪素血巣は素直にすごいと思った。
「邪素血巣、……お前も……恵古那様のような、立派で……心優しい人間に…なるんだぞ………」
「父さん?!父さん?!!
……どうしてこんなことに!!死んじゃイヤだよう…」
「邪…素血巣…最後にお前とこの景色が見られて…良かった…
父さんは…もうここまでのようだ………」
「死んじゃやだよ父さん!!」
「強く…優しい、みんなに愛される術者に…なるんだぞ………」
そう言って美来鳥は息絶えた。
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そう、あの日以来邪素血巣は父の遺した言葉通り、強く優しい人間になるよう努めてきた。
そしてそんな彼の心の支えは父が敬愛していた恵古那だった。
「俺は……今まで何のために生きてきたというんだ……」
邪素血巣にはもはや何もなかった。あるのは絶望。
邪素血巣が今まで心の支えとしてきた恵古那は父が言っていたものとは全く違うものだった。
その事実は一人の少年から希望をうばいさったのだ。
そんな邪素血巣の脳裏になつかしい人影がうつる。
その人物は…
「父さん!!」
邪素血巣の脳裏には当時のままの父の姿があった。
「邪素血巣」
父が語り始めた。
「邪素血巣。たしかに恵古那のことは残念だったかもしれない。
だが、それでもお前の心の本当に深くにあるもの、それは変わらないハズだよ。」
「父さん……」
「恵古那がお前の理想と違っていたからといって、今までのお前の人生が無駄になってしまうのか?
違うだろう。周りをよく見てごらん」
そう、邪素血巣の周りには河流羅、愚王、舞花、みんなの姿があった。
「恵古那がなくても、お前にはこんなにたくさんの仲間があるじゃないか。
邪素血巣、君がそんなでは彼らを裏切ることになるんだぞ。」
「ハッ…!!父さん……!!」
邪素血巣はいつのまにか、たくさんの仲間に囲まれていた。
昔とは違う。邪素血巣はもう独りではない。
「父さん!!俺、どうかしてたよ。
そうだ、俺はたくさんの人達に支えられて生きてる!!
俺はもう迷ったりしない!!」
「ハハ……やはりお前は父さんそっくりだ。
お前がそんな風に育ってくれて、私は誇りに思う。
……ではな、邪素血巣。友を大切にするんだぞ」
そう言うと父は脳裏から消えていった。
邪素血巣の瞳が炎帝をとらえた。
「火炎道炎帝……ケリをつけてやる!!」
「おもしろい!!夜災の力、思い知るがよい!!」
ぶつかり合う二人の闘志。
しかし迷いを断ち切った邪素血巣の炎に炎帝のかりそめの炎はかなうわけがなかった。
「バ…バカな?!グギャアアアア!!」
炎帝は一瞬にして灰となった。
「邪素血巣!!」
皆が邪素血巣へとかけ寄ってくる。
「み……みんな!!」
邪素血巣の周りに皆が集まる。
「舞花、河流羅、先輩……俺……みんながいたからこそ、今まで生きてこられたんだって気が付いたよ……!!」
「邪素血巣、一人、重要な人物を忘れているよ!!」
邪素血巣はふとそんな声が聞こえた気がした。
「そうだ…忘れていた……大魔導校長もだ!!」
「そうだね邪素血巣。君の周りにいる人、全てが君の宝さ。」
「先輩……!!」
「さーて!!炎帝も倒したことだし、帰ろうか。
今日も馬のうまーい動きでフォークだよ!!」
こうして4人は魔法学校へと帰っていったのだった。