3人を魔法学校で待っていたのは魔法学校の校長であり、封神の創設者でもある龍ノ神大魔導だった。
「校長?!」
「神炎院邪素血巣。ずいぶんと立派になったものよ。
邪素血巣、わしがあの時言ったことはおぼえておるな?」
「もちろんです、先生。ですがあの時は敵が攻めてきていて、途中までしか聞けませんでした。」
「左様。そう…あの時わしが言いたかったこと……
"あの時"は伝えることができんかったが…
じゃが邪素血巣。お前はすでにその答えを見つけているのではないか?」
「え…?!」
「わしはもう長くはもたぬ……
最期にそのことを伝えることができて、よかった………」
「先生?!どうしてこんなことに?!先生!!
…先生……!
先生ーっ!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――
――一方その頃、邪竜結社最深部「甘き闇」中枢にて。
「無聊……」
そこには、邪竜結社長雪姫がいた。
「人寰を圧伏することの、何と無聊なことか…
森羅万象は、妾の闇力の前では、塵芥に等しい、というわけだな」
冷笑を浮かべる雪姫。そこに、2つの人影がやってきた。
「堕神に、炎帝か。何用だ。」
堕神達はひざまづき、頭を下げた。
「はっ、御報告がございます。」
「まず、大魔導が死にました。死因は老衰です。」
その言葉に、雪姫の表情が喜びで染まった。
「フフフフ…そうか、あのくたばりぞこないめ、朽廃しおったか!
妾が折伏するまでもなかったな」
「そして、もう一つ…怒王が倒されました」
堕神は苦々しそうに、そう述べた。
「…!ふん、あの愚昧な弱卒か。
まな板まで与えてやったというのに……
相手は何者だ?」
「卑鬼を打ち破り、イマームをしりぞけた、あの神炎院邪素血巣でございます」
「ふむ。取るに足らぬ童子と思っていたが、我らが大望の蠹害となり得るのなら、駆蓄せねばなるまい…」
雪姫の目が炎帝をとらえる。
「炎帝よ」
「はっ」
「以前、自らの髀肉を託っておったな。
行け。邪素血巣の首をとって来るのだ」
「わかりました。」
「堕神よ」
「はっ」
「お前には別に任務を用意してある。奴の指示に従え」
「承知しました」
今、炎帝の魔の手が、邪素血巣へと向かう――!
――――――――――――――――――――――――――――――
「私の名は炎帝。貴方が邪素血巣ですか?」
「ああ」
睨み合う炎帝と邪素血巣。側で見守るのは、河流羅と愚王と豚。
ただならぬ雰囲気が、大魔導の墓前をとりまく。
「炎帝…!邪竜四天王が二番手の、あの炎帝か!」
「知っているんですか、愚王先輩?」
「河流羅……奴はあの"黒雪"雪姫の左腕だ。
今は亡き大魔導校長の一番弟子だったらしい。」
「校長先生の…!?」
河流羅の額に一筋の冷や汗が流れた。
「邪素血巣!奴の使う炎魔法に気をつけろ!」
「うわぁぁぁ!!」
「お兄ちゃん!」
それは、一瞬の出来事であった。
突然、邪素血巣の足元から猛烈な勢いで火柱があがったのだった。
「いかがですか?私の魔術の火加減は…」
「くっ!てめぇ、今何しやがった!」
「教えてあげません」
炎帝は無数の火の玉を作り出し、邪素血巣へと飛ばし始めた。
「風の式、"雨"。私の風林火山の四式の内でも最弱ですが、火球一つの表面温度は八千度を越しますよ!」
必死に避ける邪素血巣。
「くそっ!かわすので精一杯だぜ。これでも食らいな!"火炎焱燚"!!」
「ぐふっ!…おや、少しはできるみたいですね。
私のコートが燃やされてしまいましたよ。」
"雨"が止まった。このちょっとした出来事に、愚王は驚きを隠せなかった。
「今のは、無詠唱魔法への割り込み詠唱!」
「無詠唱魔法に、ですか?」
「うん。炎帝が火球を生成し、射出するという一連の動作は、
永続的な無詠唱魔法の展開によって行われているのは、河流羅もわかっていると思う」
「はい、そうですね」
「このボク、森霊も、当然気付いていたよ!」
「邪素血巣は、その展開式に割り込んで、無詠唱火属性魔法"火炎焱燚"を展開、発動したんだね。
しかし、相手の展開式を見抜く力、無詠唱魔法の発動、割り込み詠唱の成功率。
どれも飛躍的に成長している…!倒して見せろ、邪素血巣!」
邪素血巣が炎帝の姿をとらえる、が、
「な…何だアレは!」
コートが燃え、あらわになった炎帝の胸部には、光り輝く直方体状の物体がくくりつけられていた。
「フフフ…バレてしまったか。なら教えてあげましょう。
これは"ガスコンロ"。
夜災七ツ道具の一つであるこれは、私の火魔法の火力を十段階で増減できるのです。
…さらに!」
おもむろに、怪しげな液体が詰められた瓶が取り出された。
「これは、"サラダ油"!恵古那という古代都市で発見された夜災七ツ道具です。
このサラダ油をまいた所は、ちょっとした火気にも反応し、
発火した際には、通常の百倍の火力を持った火炎が発生するのです。」
「さっきの火柱も、それを使ったのか…!」
「ご名答。ガスコンロとサラダ油を組み合わせれば、百の十乗……100^10=一垓倍の火力となるのですよ!
フフフ…計算は得意ですかな?」
「2つの夜災七つ道具を同時に扱うとは…さすが邪竜四天王といった所か。
だが貴様は一つ大きな勘違いをしている」
「なんだと?!」
「わからないのなら教えてやろう…それは相性さ。」
「相性…!!」
「"ガスコンロ"と"古代都市恵古那"、これらは火と油。
一見相性がよく互いの力を増幅し合うと思えるが……両者には"決定的な違い"があるのさ。」
邪素血巣は語り続ける。
「それは……時間さ。」
「!!」
「両者には圧倒的な時間の差、文明の差が存在する。
よってそこから生み出される炎も、構造的に弱くなるというわけさ…」
「バ…バカな!!」
「お前のような長生きのあまり時間の感覚がにぶった者には分からないだろう…
"万物のめまぐるしく移り行く様"はな。
そして…そんなお前はどんなにみにくく力を求めた所で真の炎使いにはなれない!!」
「くっ…!!図に乗るな小童がぁぁ!!」
邪素血巣と炎帝が同時に動いた。
邪素血巣は炎で剣をつくり出し、炎帝へと斬りかかった。
炎帝はガスコンロの上に片足のみで立ち、もう一つの夜災七つ道具であるサラダ油のボトルを天へと突き出すと、呪文を詠唱し始めた。
「古代都市恵古那の神々よ。今こそ我にヘルシーなる力を与えたまえ。
そのヘルシーさは全国のメタボで困っているお父さんを救済する、正義と秩序の炎なり。
いざ恵古那の力をもって無駄な脂肪を燃焼せん!!」
そう唱え終えると同時に炎帝の両手から高温の炎が発生した。
「無駄だ!!いくらメタボのお父さんの心を得たからといって、今の俺にはかなわないぜ!!」
両者の炎がぶつかり合う。そして…
「残念だったな炎帝。やはり貴様は真の炎使いではなかったようだな。」
「ぐ…こ…この私が貴様ごときに…!!」
「炎をつくり出す最も重要な要素、それは…友情さ」
「笑わせるな、……小童が。炎とはすなわち力!!
今から貴様にそのことを教えてくれる……!!」
炎帝は手に持っていた恵古那のボトルを開けると、中の油をすべて飲みほした。
「何…!!貴様…正気か?!」
邪素血巣の前には恵古那の力によって莫大な魔力を得た炎帝の姿があった。
「フハハハハ!!ついに恵古那の力を得たぞ!!これで私は無敵だ!!」
「こいつ…!!」
「神炎院邪素血巣。見せてやろう、私の最大最強の力を!!」
炎帝はガスコンロをスノーボードのように操り、邪素血巣へと接近してきた。
「く…速い!!」
邪素血巣はそれを避けることができず、ガスコンロにはね飛ばされた。
「ぐはっ!!」
「どうした?神炎院。まさか私のガスコンロの動きにもついてこれぬとでもいうのか?」
「く…!!炎帝の奴…ガスコンロによる熱で地面を液化させ、摩擦を極限まで減らしたというのか…!!」
「クク…ご明察。これが堕落都市ソドムとゴモラを滅ぼした神の力!!
メタボとキャバクラによって腐敗した人間への神罰!!」
「メタボとキャバクラだと…?!それは世のお父さんたちのオアシス!!
ま…まさか古代都市恵古那の真の目的は…!!」
「そう、そのまさかだよ。恵古那の真の目的はお父さんの救済ではない。
滅亡させることだったのだよ。」
「そ…そんな……ウ、ウソだろ?!」
「おどろくのも無理はない。だがこれは真実なのだよ。
当時ではおやじ達による若者狩り、通常"おやじ狩り"やおやじ同士での電者内でのチカン、そしてメタボ。
世は堕落しきっていたのだ」
恵古那がおやじ達を滅ぼした…
邪素血巣は衝撃のあまりぼうぜんと立ちすくしていた。
今まで邪素血巣は恵古那の慈愛に満ちた行為を人生の目標としてきた。
邪素血巣のすべては恵古那があってのものだった。
そう、それはあるむし暑い日のこと……