炎帝を倒した、その日の夜。屋外では雨がしきりに降っていた。
そんな雨空の下、薄暗い路地裏を重い足取りで歩む者がいた。
邪素血巣である。
「大魔導先生…美来鳥父さん…どうして皆死んでいくんだ……
争いは何も生まないってのに…」
邪素血巣は嘆いていた。戦乱渦巻くこの世に。
「もう死ね、皆死ね…隕石落ちて皆死ね…」
邪素血巣は絶望していた。人間という存在に。
「クソッ!壁なぐっちまった…!」
いらだつ邪素血巣。そこに一人の怪しげな人物が唐突にやってきた。
「ねぇねぇお兄さん❤あ・た・しぃ神仏ってゆうのん。
おぢさんと、イイコトしてかなぁい?」
一目惚れ。邪素血巣は初めて恋というものを知った。
(神仏…!なんてカワイイ人なんだろう!
人間ってなんて素晴らしいんだろう!)
世界は明るい。邪素血巣は、神仏を目にして、大魔導や美来鳥のことを完全に忘れ去ってしまった。
立ち直った邪素血巣。恋愛は、悩めるオトコノコをあっという間にゲンキビンビンにしちゃうノダ!
「神仏さん…!」
「なぁに、ボーヤ?」
「一目見たときから、好きでした!同棲してください!」
「ムホホホホ…イイわよん。あーたみたいな強引なオトコノコ、嫌いじゃねぇ。
来な」
それは運命のめぐり合わせか、はたまた必然か。
「ムホ。ウチはシングルベッドしかなかったわねぇん。」
「俺、それでもいいです…」
「あらぁん、ダ・イ・タ・ンなんだからもぅ!
優しくしてやるよ」
「神仏さん…!」
今夜、邪素血巣は魔法学校での住まいを捨て、神仏のアパートへと移っていった。
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翌日、魔法学校の授業は全て終わり、放課後。
舞花と河流羅は屋上で黄昏れていた。
「お兄さん、どこ行っちゃったんだろう…」
「邪素血巣がいないと、うまー!できないよ…」
邪素血巣が学校の寮を去っていってから、寮内は騒然となった。
邪素血巣の部屋は一夜にしてもぬけのカラとなっており、
ルームメイトの津島は、行方不明。
当の邪素血巣も、杳として居場所がわからなかった。
「うまー…困ったね。邪素血巣がいないとなんだか面白くないよ…」
舞花がそんなことを言っている間、河流羅は別のことを考えていた。
そう、それは過去に別々の道を歩くと誓い合った姉、雨恵菜であった。
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「じゃあ…私はもう行くわ。河流羅あなたは封神に残るのね!」
「うん」
「止めない!私は止めないわ。だってそれはあなたの決めたことだから!」
「うん」
「涙は見せない。だって、涙ある別れに涙はないけれど、涙なき別れにこそ涙があるのだもの」
「うん?」
「では、バイバイベイビー!」
「待って…!お姉ちゃーん!」
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……
…
「私に謎の言葉を残していったお姉ちゃん…
必ず見つけ出して、尋問してやる!」
河流羅の瞳には、熱い闘志が込もっていた。
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一方その頃
「どうして…どうして!」
邪素血巣は絶望していた。
邪素血巣がホストの仕事を終え、アパートへ帰ると、机の上に手紙が置いてあった。
『拝啓
まだ残暑の厳しい今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
邪素血巣様においては、益々御健勝のことと存じます。
さて、この度、私は神仏様を拉致させて頂きました。
そこで、本日二十時に、新宿駅改札口にて、決闘をさせて頂きたく存じます。
来ない場合は、神仏様を破壊いたしますので、悪しからず。
それでは、また後ほど。
敬具
堕神より』