怒王、邪素血巣、河流羅は互いに相手の出方をうかがい、膠着状態が続く。三人の間には異様な緊張感があった。
均衡を破ったのは怒王だった。
「私の重力で地獄の底までつき落としてくれる!!」
邪素血巣と河流羅も怒王へとつっこんでいく。
「食らえ!!我が二十年の集大成、重力破壊兵器!!!」
怒王は手のひらで圧縮させた重力エネルギーを音速でうち出す。
「やばい!!河流羅、避けるぞ!!」
邪素血巣のとっさの判断によって、なんとか怒王の攻撃を回避した。
「ホウ…音速を回避したか。だが…次はどうかな?」
怒王は重力塊を大量につくり出すと、それらを一斉に打ち出す。
しかし、邪素血巣と河流羅はたくみに怒王の攻撃をかわし、間合いをつめていく。
両者の距離は約10m。この距離では飛び道具は不利と踏んだ怒王は光触媒まないたを頭上にかかげる。
剣道でいう、"上段の構え"をとった怒王の姿は地獄の鬼をイメージさせた。
「我がまないたの前では全てが無力!!喰らうがよい!!
まな板潰し!!!」
怒王は上段に構えたまな板を一気に振り下ろす!!
その姿は神のみに許された妙技"覇宴陀辰姫"に勝るとも劣らない。
恐るべき破壊神の姿だった。
「くっ…だが!!俺はこんな所で負けるわけにはいかないんだよぉ!!」
邪素血巣は怒王の頭上高く飛び、そのまな板を避けた。
「お前の重力は下方向のベクトルしか持たない!!
つまり、真上からの攻撃には無力!!終わりだ!!」
邪素血巣は巨大な手裏剣を取り出すと、怒王へと投げつけた。
「さすがは神殺しのヘルファイア。だがお前は一つ、勘違いをしている。」
「な…なんだと?!」
邪素血巣が投げ下ろした手裏剣は反射されたように、邪素血巣へと向かってきたのである。
「バカな…なぜ…!!」
「私の能力は重力操作。重力を負の値にすることも当然可能。」
「まだまだだ!!」
邪素血巣は怒王の足元に強力な火柱を発生させる。
怒王はそれを反重力によって空中へと飛び、避ける。
「大した炎だ。だが当たらなければ意味はない!!」
だが、空中にいる怒王の真下、邪素血巣が発生させた炎の中から、いつのまにか姿を消していた河流羅が飛び出してきた。
「これは…!!」
怒王の真上と真下にいる二人は同時に怒王へと手裏剣を飛ばす。
「しまった…!!上下二方向からの攻撃を重力のみで防ぎきることは不可能…!!」
まさかこやつ、最初からこれをねらっていたというのか…!!
この短時間で我が術の弱点を見出すとは…!!
「だが、それでも私を倒すことはできぬ!!」
怒王は邪素血巣の手裏剣を反重力ではね返すと反重力によって加速がついた河流羅の手裏剣をまな板によってガードした。
「フハハハハ!!残念だったな!!やはり私の術は完全だ!!
ハハハハハ……」
しかし怒王には重大な見落としがあった。
そう、かつての旧友愚王の存在を。
「バ…バカな?!」
怒王の目の前にはすでに腕に風の力を宿した愚王の姿があった。
「油断したな怒王。どんな強力な魔術を手に入れたとしても、
夜災七つ道具を使ったとしても、
他人を信じず一人で戦うお前は俺たちに勝つことはできない!!」
十年も昔のこと。怒王は一人きりだった。
そんな怒王に光を与えてくれる存在が現れた。
彼の名は愚王。物語は動き始める!!