想刻のジャスティス ~Hellfire Alchemist~/第二章 一話

Last-modified: 2020-04-04 (土) 01:18:33

第二章(ウゴキダスハグルマ)因縁(キズナ)


「さて、今から修行を始めるわけなんだけど、覚悟はできているかい?」
「フフ…俺に不可能はないのさ」
「君は学校に入ってからの5年間、ずっとこの分野をサボり続けてきたからね。
 すこーし荒療治になるかもしれないね」
「こわがらせても無駄っスよ!なんてったって…」
「まずはじめに、なぜ魔導書を4冊用意したのか、わかるかい?」
「えーと…」
「それはね、今この場に4人いるからなんだよ邪素血巣。」
「?」
「今日、具体的に何をするかと言うとね、まず君を含む全員が一冊ずつ魔導書を持つ。
 そうしたら全員が同時にそれらを音読する。君はそれを聞き分けて覚えることで、一冊分の時間で4冊の暗記をすることが――」
「待て待て!!それヤバくないか?!」
「そうかな?」
「『そうかな?』じゃねぇ!!俺は聖徳太子か?!そんなことが人間に可能なのか?!」
「聖徳太子の場合はもっと人数が多いんだから平気だよ。
 それに実際、河流羅はそうやって勉強してきたんだってよ。」
「そうそう」


 河流羅がさも当然のようにうなずく。


「私もチェスの本だったらできると思うよ?」


 舞花も不思議そうな目で俺を見ている。


「お前ら……実は人じゃないだろ……」
「じゃあはじめよーか!いくよー」
「や…やめろぉぉぉ!!」


 こうして俺の修行が始まった。


――――――――――――――――――――――――――――――


「はあ、はあっ!!」


 彼は走り続けていた。急げばまに合うかもしれない。
彼は一生懸命に走った。しかし息づかいが荒いのは走っているからではない。


「ハアハア…!!ああ河流羅ちゃぁん!!ハアハア!!プ…プギィィィ!!」


 森霊は愛しの河流羅を求め、学園内を奔走していた。


「河流羅ちゃん!あの整った顔だち、氷柱のように幽雅な肢体…!!
 そしてあの美しい髪!!!河流羅ちゃん、君の全てが可憐だよ…!!!!
 あの娘はクールを装っているけどけっこうさびしがりやなトコロがあるからな…
 きっとボクがいなくてさびしがっているに違いない!
 あんなにカワイイ少女を悲しませてしまうなんて…ボクは本当に罪な男サ。
 待っててくれよ河流羅ちゃん、ボクと恋という名のシーソーに乗って愛という旅路を歩もう!!」


 森霊は正弦曲線をえがきながら河流羅の元へと向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 そのころ「邪神竜社(イルンダ)」本部――


「……」
「……」
「……」
「…早くも三天王になったわけだが…」
「…前にも言ったでしょう。奴は最弱だったから、この程度だったのでしょう、と。」
「しかし、このままでは世間に『邪神竜社(イルンダ)よえー』というイメージが定着しかねない。」
「要するに俺らがイメージダウンを避けるために奴の尻ぬぐいをしろってか…
 ハッ…めんどくせぇ…
 …ッ!!いいこと思いついたぜ…!!」
「思いつくな」
「だまってろ」
「鳥取のアイツに任せよう。」
「!!最近ヒマだとグチっていたアイツのことですか。まぁよいでしょう。」
「そうだな、アイツは世界で二番目に危険とされる国の統治者だ。
 卑鬼(エンヴィー)のようなヘマはしないだろう。」
「決まりだな。」


 堕神(ルシファー)が立ち上がった。


「さっそくアイツにメールするか。」


 ジャラリと無数のキーホルダーが付けられたケータイを取り出すが、


「…いや、電子機器による連絡(コンタクト)封神(シエラ)の盗聴組織の網にかかる恐れがある。
 これはA級機密事項だ。…しょうがない、直接出むくぞ。」
「そうだな。しかし、全員で出むくのは本部が空になるから危険だ…
 そうだな、一人残して二人で行こう。」
「誰が行きましょうか?」
「そうだな……あみだくじでもするか。」


 ……堕神(ルシファー)が残ることになった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 ここは鳥取。世界で二番目に危険とされる国である。
国に点在する居住区の内以外の場所では人の血肉に飢えた"なし"たちが徘徊し、
鳥取の沖合、対馬海流より吹く風によって強大な魔力を得た砂丘の砂は生物を蝕む。
その過酷な環境に到底普通の人間は住むことができず、この場所に住んでいるのは強力な魔力を持つ重罪人と恐ろしい形相の怪物だけである。
 そんな鳥取を統治する恐るべき魔術師がいた。
封神において重要指名手配人である彼の名は――口に出すのも恐ろしい。
そして彼の名前のわかりずらさもありまって彼はいつしか"王"と呼ばれるようになっていた。


「ほう、来客か。珍しい…」
「貴方が鳥取の王となってもう十年になるのね。」
「お前はたしか…そうか、あの"御右衛門"のガキか。」


 彼の前には雨恵菜が立っていた。


「邪神竜社が四天王の名誉回復という名目で貴方と手を組もうとしているわけなんだけど…」
「それは初耳だな。」
「鳥取と邪神竜社が手を組めば妖水鏡にとっても脅威になる。
 また、封神も理由をこじつけて我々に干渉してくる可能性がある。
 そして一番の問題は舞花に危険がおよぶと、おそらく彼が参戦してくるということ。
 でもこちらとしては(ヤマト)の力を封じておくためにも彼に危険な目にあってほしくないわけで…だから」


 雨恵菜はイマームを見る。


「貴方には死んでもらいます。」


 そう言い終えるや否や、二人は同時に飛び出していた。
イマームは砂で剣をつくり出すとそのまま雨恵菜に斬りかかる。
彼女はそれを後方に下がり、ギリギリでかわそうとするが…!!
イマームは砂剣に魔力をこめ、剣の先端をのばしリーチを長くする。


「むむむ」


 しかし彼女はイマームの剣をかわしていた。よく見ると、イマームの剣の先の部分が吹き飛ばされている。


「ほう…空間操作か。これほど高度な計算を必要とする能力を一瞬にして使用するとはな。
 なるほど、戦闘前にできる限りの計算をあらかじめ行っていたというわけか。」
「さすがは鳥取の長。たった一度の攻撃でよく分析している。
 でも…私と会話なんてしていて平気なのかしら?
 私はこうしている間もあらゆる条件においての計算を進めている…」
「ふっ、時間がないのは逆にお前の方ではないのか?」


 たしかに強力な魔術師が数人こちらに向かってきているようだ。
おそらく彼らは邪竜四天王…彼らまで戦いに参加されてはさすがに分が悪い。
ここは逃げられるうちに逃げておくのが得策か…


「そう簡単に逃がすと思っているのか?」


 イマームは円維形にした砂の塊をつくり出し、飛ばす!
しかしその攻撃は雨恵菜に当たることはなく、彼女はすでに姿を消していた。


「便利なものだな。自身の周囲の空間とともに空間跳躍したか。
 これではまるでテレポートだな。
 だが、指定空間内の質量が大きいほど術の効果は弱まる……移動してもせいぜい100mほどか。」


 だがイマームは彼女を追うことはしなかった。
彼女とはまた戦うことになるだろうと、そう考えたからだ。


「さて…次の来客を待つとするか」