想刻のジャスティス ~Hellfire Alchemist~/第二章 七話

Last-modified: 2020-04-04 (土) 01:34:47

 愚王の前にはかつての旧友、壊滅寺怒王が立っていた。


「やはりここにいたか…」


 二人はとある廃墟にいた。
ここはかつて、力を得て自らを闇へと墜とした怒王を止めるために愚王が戦い、そして生き分れた、因縁の場所だった。


「ククク…かつての友を止めることもできず、封神になり下がった貴様の実力など、たかが知れている…」
「お前こそ邪竜四天皇になどなって、一体何が目的だ?」
「私は十年前のあの日、力を得た。
 それはなぜだったのか。なぜ神は私に力を授けたのか…
 私はその理由に気付いたのだ。」
「なに…?」
「この私の力はかつて私を蔑んできた人間への復讐のための力だ!
 私はこの力を使って全世界を支配するのである!」
「冗談がうまくなったな!」


 愚王と怒王が同時に動く!!
愚王は袖から手裏剣をとり出すと、音速で投げつけた。


「私の能力は重力(グラヴィティ)
 そのような飛び道具(オモチャ)は私の前では無力!!」


 怒王は自身の周囲の重力を大きくし、音速で飛んできた手裏剣をたたき落とす。


(以前よりも力が大きくなっているな…
 奴の重力結界はあらゆる遠距離攻撃を無力化する。
 だからといって奴に近づきすぎれば重力によってつぶされるか……)


「クク…俺の重量は無敵だ。つけ入るスキなど存在しない」
「それはどうかな?俺の能力は風。
 質量の小さい分子の流れはお前の重力の影響を受けにくい。」


 愚王は真空刃で作った手裏剣を大量に飛ばす。


「ほう…かつての旧友だけあって、私の弱点をよく理解している…
 が、貴様はいくつか見落としていることがある」


 手裏剣は怒王の前で消えてしまった。


「ば…ばかな…!!」
「貴様を含め大半の魔術師は魔術を行使する際、地球上の物理法則を計算の中に含めている。
 それは地球上で魔術を行使する上で必要な過程(プロセス)ではあるが…
 そこに魔術の最大の弱点が隠されている。」
「お前…まさか!!」
「そう、魔術は私がつくり出す異常な重力により、その基盤となる法則を崩され、効力を失う。
 これは重力というよりは魔術の干渉と被干渉の概念に近いがな。」
「く…ここまでの力を持っていたとは…!」
「さあ、貴様が駄目なら今度はこちらから行かせてもらう!」


 怒王は3m以上もある大刀を、軽々と振り回し、愚王へと突進してくる。


(あれほどの大刀を片手で…そうか!大刀の周囲の重力を小さくして…)


 愚王は振り落ろされた大刀を回避するが、長いリーチを持つ大刀から逃げ続けるのはかなりキツイ。
愚王は真空刃を作り出し、応戦するが、怒王の重力にかき消されてしまう。


(怒王の重力を攻略するためには…
 重力に依存しない魔術を再構築するか、怒王の重力魔術を解析して対策を立てるか…
 2つに1つ!!)


 愚王は怒王の猛攻をかわしつつ、今までの戦いを分析し始めた。


(まず、奴の能力の基本が昔から変わっていないとすれば、奴の重力魔法の効力は術者の距離の三乗に反比例し、距離をとるほど弱まるハズ…。
 そして一旦魔法を解除すると、少しのスキ(インターバル)が生じる!)


 それが愚王の知る重力魔法の全てだった。まずはここから糸口を見つけねば!
無数の真空刃が愚王によってつくり出される。
一つは怒王の近くに、一つは壁際に、また一つは天井付近に。
そして、それら全てが、
一斉に怒王に向かい(はし)る。


「愚かなり」


 真空刃は一つ残らず、怒王に触れる前にかき消された。
愚王はそれに臆せず、真空刃を生成し、飛ばし続ける。


(これほど数が多いと、私の重力(チカラ)も、攻めには回せないな。
 全く、煩わしい…が、奴の魔力(チカラ)も無限ではない。
 弱った所を一気に叩けば良いのだ)


 勝利を確信し、不敵に笑う怒王。
真空刃が飛び、かき消される。また飛んでは、消される。
飛び、消される。飛び、消される。飛び、消され、飛び、消され。
終わりの見えない応酬。ワンパターンなやり取り。
…幾分が経った頃だろうか。怒王は、真空刃の雨が止まったことに、不意に気付いた。
愚王は、何もアクションを起こそうとしていない。


「どうした。草刈りはもう済んだのか?」
「ああ、十分すぎるくらいにな」


 愚王の目は、強く、輝いていた。


「…行くぞ!!」


 愚王の左右から、やや大きめの真空刃が発生し、怒王へと()ぶ。


「クク…馬鹿の一つ覚えだな。愚かなり!」


 二つの真空刃は、今までと同じように消滅した。


「それで精一杯か?我が旧友よ」
「……お前の重力結界の効力は半径500mだな。
 そして、僕の真空刃が消えるのは、半径10m以内。」
「…!!」


 怒王の目が大きく見開かれる。


(こいつ…まさか、まさか!
 ひたすら真空刃を飛ばし続けていたのは、私の能力を図っていたからか!
 この短時間で重力結界の有効範囲を分析するとは…)


「お前の弱点は三つある」


 と、愚王が言った瞬間、怒王の真上――20m上にある天井――から、巨大な岩塊が落ちてきた。


(くっ、先の真空刃はまやかし(ブラフ)か!天井を切り取ったな!)


G(グラビティ)(リベル)!」


 とっさに重力の向きをずらし、岩塊を吹き飛ばす怒王。
その顔には、焦りの色が表れている。


「一つは、真上からの攻撃には弱いこと」


 足に風力を宿し、疾走。一瞬にして怒王の前に立つ愚王。


「!!」
「一つは、重力結界は、一度に複数の対象をとれないこと。
 岩盤に気を取られていたお前は、魔法無効化(アンチ・マジック)できない。」


 愚王の魔法の槍、凱風帝王(ザン)が、怒王の体に深く、突きささった。


「一つは、己の力だけを信頼し、相手を軽んじていたこと。
 愚かなのは怒王、お前だよ。僕の勝ちだ…」


 すると、怒王の体が小刻みに震えはじめた。
…笑っているのだ。


「!!…生きている?」
「ククククク……笑止千万!
 その程度で私を殺せると考えていたとは…ククク!」


 愚王は動揺していた。目の前の光景を、男を、脳が理解しようとしていない。


「確かに、この凱風帝王(ザン)で貫いたはずなのに…
 …!!折れている!?」
「貴様は我が重力の障壁を打ち破った。それは褒めてやろう。
 だが、この決して破ることのできない無敵の装甲"まな板"を突破するには力不足だったようだな…!」
「まな板だと!?…実在していたとはな…!」


 ――まな板。それは、世界に存在すると言われている幻の神具、"&ruby(やさい){夜災}七ツ道具;"の一つである。
夜災七ツ道具は野菜の持つ真の魔力を引き出せる。
どれか一つを手に入れることができれば、国を支配できるという伝説さえある。


「…はっ!?こいつ、腹にまな板を隠し持っていた!?」
「残念だったな、愚王。魔法は通じないのだ」


 そう言い終えると同時に怒王は大刀を振りぬいたが、愚王はギリギリでかわすと同時に腹を避けて真空手裏剣を投げた。


「っふ…下らん…!」


 まな板が変形してことごとく手裏剣を防いだ。
遠距離では重力による防御に、近距離ではまな板の防御に大刀の攻撃…
スキのない戦闘スタイルに愚王はなすすべがなくなってきた。


(くそ…こうなったらタマネギ(アレ)を使うしかないのか…)


 そう考えふところの北海道産のタマネギをにぎるが、


「っふ…野菜か…まぁ使ってみればいいだろう…!」


 怒王は余裕の表情で野菜を使うのを推める。


(何なんだ、あの余裕の表情は…こちらが北海道産のタマネギを持っているかもしれないというのに…
 はっまさか!!あの夜災七ツ道具のまな板のことだ、野菜の効果を全てはね返す能力があっても不思議ではない…
 くそっ…分が悪い…ここはいったん退…)


「気付いたか。だが逃がしはしない…ッ!!」


 怒王の声を聞き思考中から我に返った愚王だったが、時すでに遅し。
無数の上空の落花生が強い重力を受け、すさまじい速度で降り注ぐ。
まさに落下星と言ったところか…
無数の爆発に飲まれ、愚王は片ひざをついた。


「ぐふっ…奴は…」


 爆煙に互いに包まれている中は愚王は自分の体に重力軽減をほどこし、一瞬で愚王の背後を取った。


「!!」
「終わりだ」


 暗く重い声が響き、時間がスローになる。


(ダメだ…かわせな…)


 大刀が振り下ろされたと思はれた次の瞬間。
愚王と怒王の間に激しい火柱が上がった!!


「なんだこの炎は…ま、まさか?!」
「世界を構成する五大元素。
 正義と秩序を司る清き炎は夜の闇を暖かく照らし出し、万物のゆくべき道を示す神の御技なり。」
「貴様は……邪素血巣!!神炎院邪素血巣!!」