想刻のジャスティス ~Hellfire Alchemist~/第二章 五話

Last-modified: 2020-04-04 (土) 01:27:34

「ウソだろ?!奴はやられたんじゃなかったのか?!」
「おそらくさきほどのは奴の分身…本体は砂にまぎれて身をひそめ様子をうかがっていたらしいな」
「あんなに強いのが分身だったっていうのか…?!」
「分身とはいえ、両手に大根を持っていた。このような事態は十分ありうる」
「でもね、分身っていうのは大量の魔力を使うもの。
 それに加え(サンドアーマー)を常に維持しているわけだから、敵もかなり消耗してるハズなんだよね。」
「それでも奴は強いぜ?どうするんだ?」
「こーゆーとき私の水の魔術が役に立ちそうだよね!」
「おお!そうか、お前は元々水属性だったよな!」
「…と言いたい所なんだけど、実は久しく水の魔術は使ってないんだよね。
 実際今の今まで水が扱えることわすれてたし…」
「えー?!なんだよそのオチ?!水の方も大切にしてやれよ…」
「元々水の扱いが下手だから氷の力を開発してたんだよ。
 それに水と氷の関係は氷が優勢な立場になるってこともあって…」


 まさかこんなオチが待っていようとは…


「何とかならないのか?」
「うん?一応花に水をあげるくらいならできるかも」


 やべぇ、ほぼ役に立たねぇ。


「じゃあアレだ。俺の炎で溶かして水にするっていうのは?」
「ダメ。氷の術でつくった氷は溶けるとそのまま消えちゃうの。」


 河流羅は続ける。


「…まぁ水が使えなくとも私がなんとかしてみせるよ。イマームの戦闘スタイルはだいぶ見えてきているしね」
「だったら河流羅、これを使え。役に立つかもしれん。」


 愚王は彼女に一本の千葉県産のゴボウを渡す。


「いいねゴボウ。これは強そう。」


 そう言って彼女はゴボウを構える。
そんな彼女の姿は一見シュールそうだが、厳かな雰囲気をかもしており、とてもしっくりくる。


「ほう…ゴボウか。それも千葉県産の一級品。
 農家の鈴木さんの畑で育った正真正銘の武器(エモノ)。私の大根に対抗するためか。
「それだけじゃないよ。」


 そう言うと河流羅はゴボウの周囲を氷でかため一振りの太刀をつくった。


「氷によるコーティング。そして鈴木さんの畑の土。ゴボウが持つ魔力。
 相当な強化をしてきたな。」
「今度のは一味違うよ。」


 そして互いに一気に距離を縮め、大根とゴボウを打ち合った。
次の瞬間打ち合った点を中心に激しい衝撃波が起きて、三人は吹きとばされそうになった。


「くっ…この距離でこの衝撃波の強さ…
 何て高レベルな魔力の打ち合い何だ…!!」


 二人は剣を組み、剣越しににらみあっていたが、鈴木さんの畑の分、若干河流羅の方が優勢だった。
互いに互いの武器の量を悟り、河流羅はこのまま押し切ろうとしたが、
イマームは、河流羅より数段上の身のこなしで、いったん引き、すかさず切りかかり、スピードの差で河流羅を後手後手に回し、
反撃の糸口を掴ませようとせず、形勢逆転に成功した。
河流羅はこの状況を打開すべく、イマームの大根を防ぐ反動であえて空中に吹っ飛び、空中戦に持ち込もうとした。


「空中戦か…面白い…ッ!!」


 そう言ってイマームも空中へ飛び出し、激しい空中戦を演じ始めた。
河流羅はクールポイントで空中に一瞬氷を作り、
イマームは身にまとっている砂に一瞬魔力を注ぎ固めて、それぞれそれを足場として斬撃の止まない空中戦を繰り広げた。
ここでもやはり身のこなしの差で優勢となったイマームだが、河流羅には秘策があった。


「どうしたどうしたァ!!」


 先ほどと同じように、後手に回った河流羅にイマームがこう叫ぶ。
確実に傷が増えていく河流羅だったがその目はいたって冷静だった。
前からずっとイマームの戦いを見てきたため、河流羅にはイマームの動きがよく分かるようになってきた。
河流羅は突っ込んで来るイマームをよく見て


「そこだ!!」


 イマームの不意を突く水の魔法でイマームの砂を濡らして足場をくずした。


「バ…バカなッ!!」


 不意を突かれ、踏むはずだった足場をくずされ、バランスをくずしたイマームに河流羅は、
ありったけの魔力を注いだ鈴木さんの畑の土で育った千葉県産のゴボウで渾身の一撃を叩き込んだ。


「ゴボウの持つ基本特性(ステータス)"打撃"。その衝撃は砂の鎧を通して中の本体へと伝わる。
「くっ…そうか…!!
 鎧と相性が良い打撃を得るために、ゴボウを用いていたのか…!!」


(このまま戦い続けても無意味だな。ここは一旦退くか。)


「フハハハハ、なかなかの魔法力だ。今回は私の負けとしておこう。
 さらばだ!」


 そう言うとイマームは砂につつまれ、あとかたもなく消えてしまった。
部屋にしばらくの間沈黙が続いた。


「ふぅ…」


 河流羅がつかれたようにため息をついた。


「うまー…逃げられちゃったね」
「まあ、鳥取の王を相手によく戦ったんじゃないか?」


 愚王が言った。河流羅も愚王も消耗しているようだ。
あれだけの魔術戦をくり広げたならば当然のことだ。
今日は朝からハードすぎる。皆は一日ゆっくりとすごすことにした。


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 一方邪神竜社。


「なに…!しくじっただと?」
「ああ。だが、相手は邪素血巣の他に妖水鏡の妹と愚王がいた。
 仕方がないだろう」
「愚王だと?」


 怒王は古き友人の名を耳にし奮い立つ。


「クク…ついに私の出番がきたようだな…」


 怒王は武者震いした。


「私はこれから魔法学校へと向かう。久しぶりに古き友の顔が見たくなったのでな…!」
「ふ…だが気をつけろ。奴らは強いぞ」