「待たせましたね、愚王先輩。あとは俺にまかせておいて下さい。」
「ちなみに私もちゃんといるからね。」
愚王の前には邪素血巣と河流羅が立っていた。
「先輩、奴の戦闘スタイルや弱点を簡単に説明して下さい。」
「うむ。まず奴は重力使いだ。半径500m以内の重力を操ることができる。
ただし奴の能力は自身との距離の3乗に比例して弱くなる。
よって近づきすぎなければ重力による攻撃は心配ないが…
…それでも問題点がいくつかある。」
「何ですか?」
「まず奴の重力結果は魔術的、物理的を問わずあらゆる遠距離攻撃を無効果する。」
「物理攻撃はともかくとして、魔法もですか?」
「そうだ。正確には、地球の基本法則に依存する魔術だ。」
「よーするに魔術の基礎的法則に重力を介して干渉をしているわけだよね」
「お前ら俺にわからないように話してるだろ?」
「とにかく、相手は魔術を無効果するすべを持ってるってことだよ。」
「だが、奴の能力も完全ではない。
まず重力の特性上、真上からの攻撃には弱い。
また、複数の対象を同時にとることはできず、一旦術を解除すると次を発動するまで少しのスキが発生する。」
「それがあいつの弱点ね…
魔術使殺し、戦士殺し、弓兵殺しの鉄壁の守りってことか」
「俺には、何もできなかった…くっ」
三人の間に重苦しい空気がただよう。
彼らは煩悶としながら、対抗策を考えはじめた。
「……」
「……」
「……」
熟考している邪素血巣達を守るのは、河流羅の張った氷のバリア、氷朿の城塞。
怒王はそれを静かににらみ続けている。
「……」
「……」
「…あーもう、じれったいな!」
唐突に叫び出す邪素血巣。
「考え抜いて、どうにもならないんだったら、どうにかして突き倒す!
炎の力で押し通す!そんでもってアイツをぶん殴る!それしかねぇだろ!?」
邪素血巣の拳を真紅の業火が覆う。
「邪素血巣!!」
「うおおおぉぉっっ!!」
邪素血巣の目が怒王をとらえ、一直線に駆ける。
が、
「愚かなり。G・R!」
「ぐあぁ!」
進行方向と逆に重力を掛けられ、元いた場所へと邪素血巣は吹き飛ばされた。
「くっ!まだだ、こんなものじゃない!」
「お兄ちゃん!」
「止めるな、河流羅!こいつはここで、俺が倒す!」
「ううん、止めない。…私も闘う。」
「…そうか、わかった」
邪素血巣と河流羅の表情がひきしまる。
辺りをピンと張りつめた雰囲気が支配した。まるで、この廃墟が一瞬にして凍ったかのように。
「行くぞ、河流羅!挟撃する!」
「うん!」
河流羅は"空に舞う氷姫"で、怒王の背後へと移った。
「!!」
「食らえ!怒れる赤炎竜!」
「壊魔重」
「氷晶の舞踏会!」
「抗菌性まな板!」
壮絶。超絶。
「厳そかなる黒炎竜!」
「潰魔降!」
「其は氷姫の臣!
其は氷姫の傀儡!
冷氷園の大凱旋!」
「マイナスイオン配合まな板!」
凄絶。卓絶。
双方から技を仕掛ける邪素血巣、河流羅。
対し、それら全てを防ぎきる怒王。
ビリビリと、周囲に衝撃が広がり、岩塊が崩れ転がった。
「このまま燃やし尽くしてやるぜ!」
「油断は禁物。お兄ちゃん」
「ククク…来い!貴様らまとめて押し潰してくれる!」
かくして、彼らの戦いの幕は切って落とされた。
「怒王…あの余裕の態度…!まさかあの技を習得しているのか!?
いけない、早く僕が伝えなくては…ぐっ!!」
傷ついた者達。傷つけあう者達。
全てを見守るのは、廃墟の偶にひっそりと咲く、一輪の花のみだった。
―続く―