想刻のジャスティス ~Hellfire Alchemist~/第二章 四話

Last-modified: 2020-04-04 (土) 01:23:17

「邪素血巣、気付いているね?」


 愚王は邪素血巣にそう答いかけた。


「もちろんですよ先輩。女王(クイーン)(キング)両取り(フォーク)されかかっていますよね。
 俺は今、それを回避するための手を考えている所です。」
「ちがう。そっちではなくて…」


 突如教室の外から大根が飛んできた!
彼らはそれをギリギリでかわす!
チェス板に直撃したダイコンはそのまま大爆発した。


「この破壊力は…千葉県産の大根!!何者だ!」
「ほう…一目で千葉県産と見破るとは…大した方ですね」


 俺たちの目の前には両手に大根(ソード)を持った一人の男が立っていた。


「私の名はイマーム。イマーム=アル=マルドゥーク」
「そうか…貴様が鳥取を治める王か。」
「左様。貴方たちには死んでいただきます。」


 そう言い終えると同時に無数のラッカセイが飛んできた。
愚王は素手で、河流羅は氷で防いだが、反射的に邪素血巣は炎を出してしまい、
それを火種にラッカセイが大爆発し、四人はふっ飛んだ。


「バカな…無音性(サイレント)に加えこの破壊力…八街産か!!
 まさか世界で三番目に危険な国八街のラッカセイだったとは、これから何が出てくるんだ…!?」
「余計なおしゃべりはもう終しまッ…」


 話のとちゅうに河流羅が空気を読まずダメ出しする。
河流羅は氷によって太刀をつくり出した。


「フム…そんな脆い武器で私の大根(ブレード)とどう戦おうというのかな?」


 河流羅は太刀を片手にイマームへとつっこんでいく。
イマームの方も地を蹴って飛び出し、河流羅との間をつめる。
河流羅は太刀を横に薙ぐ。この位置ならばイマームのの大根(コウゲキ)は届かない。
イマームは彼女の攻撃をかわすと、その(インターバル)をついて間をつめ、二本の大根を時間差で振るう。
彼女はそれを太刀ではじく。


「やはり相当な魔法力を帯びているな。
 普通の氷(ナチュラル)とは違うというわけか…」


 河流羅は剣先に意識を集中させる。
長続きすればかくじつに負けてしまう。だから…いちげきで!
太刀の周りに急速に冷気が集まってくる。


「なんかはじまったが、この距離では剣はとどくまい…」


 イマームは落下生を投げるじゅんびをする。
 河流羅は太刀をしっかりと持ち、剣道のように頭上にもってくる。
そして、


「ハァァー!」


 一直線に太刀をふりおろした。
そしたら…なんということでしょう、空気中にちらばっていた冷気を太刀がふりおろされるに吸収した。
そして一気に刀身が5倍ほどにふえてイマームめがけてふっとんでいった。
 だがイマームもてだれ!
一瞬のはんだんで横にとびよけようとする。


「甘い。そんな大技あたるわけが…何!?」


 イマームの足下がいつのまにかこおっていた。


「クールポイント。基本的に戦闘中に座標計算を行っておくのが私の戦い方。
 残念ね。」


 河流羅のつくる氷は魔力を得ているため、ぬけ出すことは不可能…
…のはずだったが、イマームはすでに脱出していた。


「私は全身に砂の衣を鎧のように身につけている。
 たとえ氷につかまったとしても体から(サンドアーマー)を切り離せば抜け出すのは容易い。」
「むむ…困ったね。鎧とあっては並の物理攻撃では歯が立たないよね。」
「だったら俺が風の能力でサポートするか?」
「駄目。貴方の風は私の冷気を分散させてしまって相性が悪い。
 風の能力は私やお兄ちゃんのように温度の変化を操る能力とは噛み合いが悪い。
 そして私の冷気はお兄ちゃんの炎に対しても弱い。
 つまるところ、3人の相性は最悪ってこと。」
「炎と風の相性は良かったハズだぞ」


 邪素血巣はそう彼女に言う。


「普通はね。でも未熟な"火"に愚王の颶風は強すぎるんだよ。
 風の力を受けるためにはある程度の"炎"とならないとね。」
「くそーなんとかならないのか?個人では勝てそうにないぞ」
「だがただ一人、河流羅ちゃんと相性がピッタリの男がいた。
 そう、彼の名は森霊。緑川森霊(ジュピター)だ!!」
「しかし困ったな…だったら次は誰が戦う?」
「ここはこの愚王が先輩として戦うべきだろうな!」
「緑川森霊……彼はこの魔法学校(ルーンアカデミー)に残された最後の切り札(キボウ)!!
 しかし彼の力をもってしても、鳥取の王(テキ)にかなうかはわからない…
 森霊を失えば封神(シエラ)には大きな痛手となる。
 皆は必死に彼を止めようとした。」
「先輩…気を付けて下さい。相手は手に大根(エモノ)を持っている…!!」
「『心配することはない。俺を誰だと思っているんだ?俺はあの…緑川森霊!!』
 彼はそう言った。
 
『しかし…』
 部下はそれでも心配そうだった。
 『もう俺の前で…大切な人達が死ぬのを見たくないんだ!
  無力な自分、強大な力の前になにもできずにいた自分…
  もうあんな過去をくり返したくないんだ…!!』
 彼の瞳には決意の光(オモイ)が満ちあふれていた。
 『みんなに伝えておいてくれ…愛している、とな…』
 そう言って森霊は敵の元(クラヤミ)へと向かっていくのだった…!!」


 と言い終えると同時、森霊はイマームへと向かって行く!!


「俺は負けない!俺を思ってくれている人がいる限り!」


 勝負は一瞬だった。イマームは倒れた。
森霊にはそう見えていた。


「やった…ぜ…!!俺たちの愛が勝ったんだ…!!」


 だが実際にやられていたのは当然のように森霊だった。
森霊はただ自分が勝利した光景(ビジョン)を妄想していただけだった。


「やったよ河流羅ちゃぁぁん…」


 森霊は負けたことにも気付かず、ただ妄想に酔いしれそして…星となった。
愚王は足に風の力を宿しイマームにつっこんでいく!


「速い!」


 愚王の拳は彼の足のスピードを乗せられ、音速をこえた速度でイマームへと向かっていく。


「速い。だが動きは直線的。私にヒットする代物ではない!」


 イマームの足に砂がまとわり、その体ごと横へとすべらす。
が、
愚王の拳はイマームへと届く前に、空中で止まった。
――と同時に、イマームはふき飛ばされ、壁へと叩きつけられた。


「な…何だ今のは!貴様、一体何をした!?」
「あんたには見えないだろうね…」


 愚王の腕に風の力が宿り、イマームに襲いかかる。
そしてまた、その拳は宙で動きを止め、


「ぬうっ!?」


 イマームの体がはね上がった。


「邪素血巣!愚王先輩は何をしているの?」
「わ、わからねえ…!」
「私にも、あの技は見切れない…」
「河流羅ちゃんにもわからないの!?」
「…ごめん」
「いや、お前が謝る必要はないぞ!?」


 邪素血巣、舞花、河流羅、この三人も、愚王の技が、突き出される拳が、見えていなかった。


「ぐ…!なるほど、速度か…」
「おや、二発目でようやく理解(わか)ったかな?」
「風の力で、驚異的な速度を得た拳は、突き出す過程で、そのスピードを増やし続け、音速へと達する。
 音速の拳が急速に止まれば、衝撃波が発生し、前方広域に向かって進む、といった寸法か。
 …中々に厄介なものだな…くっ!」


 イマームの顔が苦痛に歪む。対して、愚王は余裕の表情でたたずんでいる。


「分析御苦労様。…で?」


 愚王の拳が容赦なく突き出され、イマームを衝撃波が切り刻む。
砂が四方へと飛び散り、舞った。


「ぬあぁぁぁっ!!」
「俺の拳は、避けることができない。
 どこまでも真っ直ぐ(ストレート)にあんたを圧倒する…!」


 イマームがバスケットボールのように幾度もはね上げられ、砂の鎧が徐々に削られていく。


「河流羅、今だ、やれ!」
「…はい、先輩!」


 再び氷の太刀が生成され、それを握りしめる河流羅。


「クールポイント!」


 イマームの足が氷によって固まる。


(サンドアーマー)がふき飛んだ今なら、やれる…」


 氷の太刀が冷気を帯び、吸収、巨大化する…!


「食らえ、銀世界を舞う剣奴(フリーズ・ダンサー)!!」


 河流羅はクルクルと回りながら、華麗なステップをとり、何度も、何度も斬り払う。
…いや、巨大な太刀で叩き斬る光景は、えぐると言った方が良いだろうか。


「これで終わり、(アン)(ドゥ)(トロワ)!」


 イマームは無数の肉塊となり果て、散った。


「やった…んだね…!うまー!」


 安堵する舞花。喜びのあまり、とびはねだした。


「くっくっくっく…!これは驚いた。
 油断していたとはいえ、この私の(サンドアーマー)を打ち崩すとは…!
 面白い、面白いぞ、貴様ら!」
「何…だと…っ!!」


 ちょうど今、倒したはずのイマームの声が不気味に響く。


「高位の魔法使いともなれば、搦め手の一つや二つ、用意しているものなのだよ。
 まだまだ詰めが甘いな、妖水鏡の。」
「どうして、死なないの…!?」


 肉塊は砂塊と化し、部屋中から、校庭から、ありとあらゆる場所から砂がやって来て、砂嵐となって混ざり出す。
…そして、砂嵐の中から現れたのは、


「「「「!!」」」」
「この程度で殺せるとでも思っていたのか?」


 傷一つないイマームの姿だった。