想刻のジャスティス ~Hellfire Alchemist~/第二章 幕間

Last-modified: 2020-04-04 (土) 01:05:43

 魔法学校敷地内、迷いの大密林(ガーデン・オブ・エンドレス)。東の空が白み出し、草木は静かに活動を始める。
大密林(ガーデン)の中心
――そこだけは木々の代わりに、大きな花畑がオアシスの様に広がっており、空からは包み込む様にして陽光が差している――
で、小鳥たちが楽しそうに飛び回り、鳴いている。


「チュンチュン、チチチ……」
「ふふっ、みんな、今日も素敵な歌声だね」


 その小鳥達の中心で、一人の少年が微笑み、たたずんでいた。森霊(ジュピター)である。


「ボクはたまに思うんだ。キミ達はボクに歌を聴かせに来た天使(エンジェル)なんじゃないかなって、ね。
 いや、森の中にいるから天使(エンジェル)よりも妖精(ピクシー)って言った方が似合うかな。
 うーん、女王様(ティターニア)はどの娘かなあ?」


「けれど、ね」


 楽し気に小鳥達と話していた(森霊は森の動物と意思の疎通が可能なのだ。決して、早朝から独り言をブツブツとのたまっている訳ではない)森霊の顔が、途端に陰り出す。


「キミ達がどんなに歌を口ずさんでも、今の僕の心には響かない、悲愴という名のバラッドとして聴こえるんだ……
 何故って?どうして、って?訊いてくれるのかい…?
 ありがとう、みんな!ボクは幸せ者だよ!うーん!うんうん!」


 森霊は嬉しそうに身もだえし、きりもみ運動と跳躍を繰りかえし続ける。


「それじゃあ、お花達も聞いてくれるかな?
 あはっ、ありがとう!みんな大好きだよ!
 んー…チュッ!んんんー…チュッ!チュッ!」


 花達の快諾を得られ、森霊は投げキッスを辺りに振りまいた(森霊は植物とも意思の疎通が可能なのだ。
草木に、森の生物。森霊を理解するモノは、彼らしかいないのである。)


「それじゃ、話すね。どうして、ボクが元気でないのかを…
 それはね、河流羅ちゃんがいなくなっちゃったからなんだよぉ~!
 なんかね、邪素血巣先輩もとい、お兄さんの修行に付きそいに行っちゃったんだって。
 あんまりだよね、ボクに声をかけてくれてもいいのに!
 まあ、河流羅ちゃんはちょっぴりシャイな小猫ちゃんだってことは、ボクがよく知ってるけども、この仕打ちはないよね!
 もうね、寂しさのあまり、毎夜河流羅ちゃんの夢を見るのさ。
 その夢はね、最初のうちは、河流羅ちゃんがいつものようにボクを侮蔑しながらも、恋慕を含んだ眼差しを向けてくるプギィ。
 
でも、ここから悪夢が始まるプギィ。不意に、河流羅ちゃんがボクを罵倒するのを止めて、唐突に、
 『森霊くん、お弁当作り過ぎちゃったんだけど、良かったら一緒に食べない?』だとか、
 『私、森霊くんのこと、好き……なんだからね?』とか言って、淫売のようにボクを誘ってくるブヒィィィィィィ!!
 あんな売女、あんなビッチ、ボクの河流羅ちゃんじゃないやい!
 ボクは河流羅ちゃんのクールかつ、おしとやかなトコロが好きなのに!
 うわぁぁぁぁん!早ぐ帰っで来でよー河流羅ぢゃーん!!」


 こうして、哀れな森霊の愚痴と鳴き声は、しばらく大密林(ガーデン)に響き渡るのだった…