想刻のジャスティス ~Hellfire Alchemist~/第四章 一話

Last-modified: 2022-05-29 (日) 06:47:46

第四章 ―因縁(キズナ)


 二人はぶつかり合う。


「届け!!俺の心の刃!!」
「消え去るがいい!!神炎院邪素血巣!!」


 マスターソードとミキサーが交錯する!!
大爆発。そしておとずれる静寂。


「バ……バカな…この…俺が……負けるなど……!!」
「残念だったな堕神。仲間を思う気持ちはどんな力よりも強いのさ」


 堕神は倒れた。長かった四天皇との戦いが終わったのである。


「邪素血巣!!」


 舞花がかけ寄ってくる。


「邪素血巣!!大丈夫?!」
「俺は大丈夫だ…だけど、たくさんの人が亡くなった。
 山本、田中、鈴木、佐藤、サラリーマンたち、そして…神仏…」
「邪素血巣……」
「俺は……強くなった気でいた。
 だけど、あの時と同じで俺は大切なものを何一つとして守れてないじゃないか……」


 あの日、そう、邪素血巣が心に大きな傷を負ったのはあるむし暑い日のことだった……


――――――――――――――――――――――――――――――


「ハハハッ邪素血巣、ここまで来れるかな?!」
「待ってよ父さーん!!」


 そこにはまだ幼なかった邪素血巣と、その父、美来鳥の姿があった。
父、美来鳥は東京タワーのてっぺんにいた。


「今のお前ならここまで来れるハズさ!!」
「無理だよう……」
「あの日誓っただろう?自分の限界を自分で決めつけない、と。
 さあ、お前も音速を超えてみろ!!」
「音…速…!!」


 音速、すなわち強者と弱者の境界。


「父さん!!僕、音速を超えてみせるよ!!」


 もう何もおそれない。自分は父の望む姿であり続ける!!


……………………


「ついに音速を超えたな……さすがは俺の子だ。
 お前には……つい、期待しすぎてしまうな。」
「父さん……」
「邪素血巣、父さんな、お前が音速を超えたら再婚しようと思っていたんだ……」
「再婚……?」
「そうだ……新しい母さんができるんだよ。お前は許してくれるか…?」
「もちろんだよ父さん。当然じゃないか!!」


 そう、父さんは再婚できるハズだった。


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その翌日、東京都内では大雨が降っていた。
「父さん、どうしたの?こんな所に呼び出して…」
「……」
「……死んでいる…!」
それは、悲しい偶然(じこ)だった。


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 いつものように東京タワーのてっぺんで、美来鳥が光速を保つ訓練をしていた時のことである。
タワー修復の作業にあたって、美来鳥と居合わせた、人間国宝の多和直治(タワナオハル)(78)は語る。


「いんやぁ、びっくりしたよ。
 儂はあの美来鳥という人のことは知らなかったんだが、光速訓練(ライトニング)を朝早くからやっていてねぇ。
 今時珍しい、良識の有る方だったよぉ。
 けどねぇ、にわか雨が降ってきたのが正午頃だったかなぁ。
 美来鳥さんは豪雨も意に介さず、光速訓練を続けておったんだが、
 それがいけなかった!!
 雨で濡れたタワーのてっぺんに、雷が落ちたの。
 水を伝って電気が流れてねぇ。儂は、てっぺんのちょっと下の方で弁当食ってたから、
 死にかけた!
 あ、別に愛妻弁当じゃないよン。儂独身歴78年だしー。
 そんで、あわや、というその時!
 美来鳥が身を挺して儂を守ってくれたんじゃああああああ!
 彼は死んだ。最期の言葉は
 『光速を超えろ、邪素血巣……しかし、焦ってはいけないぞ…
  時間をかけるからこそ、光を超越できるのだからな……
  だから…早く……邪素…血巣……』
 彼は儂の命の恩人だぁ。いやはや、本当に彼は良い盾だった。」


 …以上の証言は、新聞の一面をかざり、それは邪素血巣の目にも入った。
邪素血巣は思った。これは不幸な事故ではなく、仕組まれた殺人であると。
そして、邪素血巣の脳裏に、ある、確信めいた予想が浮かび上がった。
事の顚末はこうだ。
多和直治は汚想路死胃組の一員だったのだ。
他の組員が人工雷雨を降らせて、多和を狙う。
すると、美来鳥の正義の心(ハート・オブ・ゴールド)が反応し、思わず多和を助けてしまう。
それはヤツらの思うツボ。
美来鳥は、多和の身代わりとなって、汚想路死胃組に暗殺されたのだ。
美来鳥は犠牲になったのだ…


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 邪素血巣はにわかには父の死を信じることができなかった。
彼は昔の父の姿を思い返していた。
それはある暑い日のこと……