邪素血巣は深夜の2時、とつぜん父にとある住宅地に来るようさそわれた。
それはそれは一時間ほど前、とつぜん父が部屋にやってきて、寝ている僕を起こし、こう言ったのである。
「邪素血巣。今から父さんと戦うんだ。
一時間後、図羅何・死に来い。」
図羅何・死というのは、ここから電車で二時間ほど行くとある、高級住宅地である。
「少しでも遅れれば不戦敗とする。」
「負けたら……どうなるの?」
「負ければお前のオヤツを俺が食うだけさ。」
その言葉に邪素血巣は恐れた。
「なに、安心するといい。
大丈夫、音速の半分の速度さえあれば間に合う。
それに戦いでもお前にハンデを与えるさ。」
邪素血巣は安心した。父はいつも通りだ。
そして……夜の2時、図羅何・死。
戦いは始まった。内容は……そう、野球!!
球場で行わず、あえて住宅地で野球をするのが父のモットーだった。
「ハッハッハ!!どうやら間に合ったみたいだな!!」
美来鳥は夜にもかかわらず、大声で笑った。とてもうれしそうだ。
「野球の内容は普段と同じだ。九回まで行い、十点差でコールド成立。
さらにお前にはハンデとして、私はバットのかわりにカイワレを使おう。」
しかし邪素血巣には気になる点があった。
「でも…人数が足りないよ…」
しかし父は動じない。
「二人でするんだ。守備も攻撃もな。父さんが手本を見せよう。」
こういうわけで、攻撃は僕から。父さんはどうやって一人で守備をするのだろう……
「プレイボール!!」
試合開始。父の音速を超えるスローカーブ。
ズバン!!
僕は空振る。スローカーブでこの速度……!!
しかもいつの間にか父はマウンドから消えており、僕の後ろ、つまりキャッチャーのポジションに移動していた。
「どういうこと……!?」
「つまり、球を投げると同時に自身はキャッチャーのポジションへ移動したというワケさ」
「そんなことが人間に可能だなんて……」
「さあ、次、いくぞ!!」
いつの間にかマウンドにいる父。そこから電子の速度で放たれるチェンジアップ。
しかし邪素血巣には、それが目で追えていた。
「うおおおお!!」
いい当たり。ライナー性の打球が三塁線へと飛ぶ。しかし!!
美来鳥はそれを音速で移動してキャッチしていた。
「フッ…甘いな、邪素血巣。」
父の攻撃だ。父はカイワレで次々とヒットを打つ。すでに満塁だ。
おどろくことに父は音速で一、二、三塁とホームを移動し、その残像によってランナーをつくり出していた。
邪素血巣には父が4人いるように見える。
だが、邪素血巣も必死でくらいつく。すでに九回裏十対九で二アウト、ランナー一塁、邪素血巣の攻撃だ。
すでにフルカウント。次で勝負は決する。
時刻は朝5時。朝日を背に父は言った。
「これで最後だな……いくぞ、邪素血巣!!」
父の最強のストレート。それは光の速度で放たれた!!
「うおおおお!!」
親子の全力がぶつかる!!そして……
カキィン!!
美来鳥の球を邪素血巣は真芯でとらえる。打球はピッチャー返しとなり、美来鳥へと向かう。
当然邪素血巣は、父がそれを避けるなり、キャッチするものだと思っていた。
しかし、違っていた。打球は父に直撃した。
それが邪素血巣が見た、父の最期だった――――――――――
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そして、また父は僕を遺して死んだ。
邪素血巣は思った。二回死んででも、父は僕に何かを伝えたかったに違いない、と。
「父さん…どうして僕を遺して死んでしまったの…?」
しかし邪素血巣にはわからなかった。
邪素血巣にとっては、父は一番大切な存在であり、それ以上に大切な物など考えられなかった。
邪素血巣はふさぎこんでしまった。
「そのような姿では美来鳥さんに失礼ですよ。」
突然、声がした。あわてて振り返ると、一人の女性がいた。
「私の名は雲山治二理留。美来鳥の婚約者です。」
「父さん……の?!」
「美来鳥さんは聡明で心優しい方でした……。
彼はいつでもあなたの自慢をしていました。
『光速を超えられるのはあいつだけさ…』と言って聞かなかったのです。
きっと彼はあなたに過去の自分を重ねているのでしょうね。」
「父さんの…過去?!」
「彼もまた超光速を求める一人でした。」
「超光速……?!」
「超光速とは二十八次元上の物質を光速で動かした時に生まれる三次元の影……
その速度でならば、時間はもちろん、二十八次元を構成するすべての要素を掌握できるのです。
しかしそのためにはたくさんの知識と大きな設備が必要です。
だから美来鳥さんはつくったのです。」
「何…を…?!」
「それは謎の組織『光速を超える者たち』。
光速を超えんとする者の集団!!」
「!?…まさか父さんが…」
「その組織は超光速を求める二十八人の美来鳥さんから成り立つ最強の軍団でしたが…
悲しきことかな、あのおそろしい汚想路死胃組の目についてしまい、彼らの陰湿ないやがらせにより、最強の軍団は壊滅寸前まで追いこまれてしまったのです。」
「!?…父さんが二十八人も…!?」
「!?…父さんが二十八人も…!?はっ!!あのとき、おそろしい汚想路死胃組が…」
「汚想路死胃組たちによって、二十八人の美来鳥さん達は根絶やしにされ、ついに、たった一人となってしまったのです。」
「一…人…?!」
「そう。しかし、その最後の一人こそ、かつて美来鳥が望んだ力を持つ者なのです!!」
「超光速……!!」
「そう、彼は汚想路死胃組たちによって最後の一人が殺害された、その時、その力に目覚めたのです!!」
「最後の一人が殺された時?!それってどういうこと…?!」
「二十八人の美来鳥を束ねる、もう一人の美来鳥がいるということですよ。」
「二十九人目…!!」
「他の二十八人の光速使いを支配し、自らを光速を超えし者と名のる。
それこそが『光速を超える者たち』をつくり、二十八人の美来鳥を創り出した本当の美来鳥!!」
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「邪素血巣~そろそろ帰ろーよ。」
舞花の声に、俺は我に帰る。辺りはすでに暗くなっていた。
どれくらいの間、物思いにふけっていたのだろう。
「三日間だよ」
「へ?」
「邪素血巣ってば三日間もずーっとボケ~っとしてたんだよ。
みんなあきれて帰っちゃったんだよ?」
「まじか……」