スマブラ個人小説/Hooの小説/禁忌の継承者(5ページ目)

Last-modified: 2009-10-18 (日) 05:47:29

本当は4ページ目で終わらせるつもりだったのに、まさかの行数制限により5ページ目が作られることに。
そもそもこの小説最後のページの紹介文がこれでいいのか……?と思いつつ、始まっちゃいます。

最終話 古と永劫の彼方、越えぬべき境界を越えたのは誰か



……


…………


――ここは、どこだ?

私は戦士たちと戦っていたのではないのか?

武器を振るい、知恵を絞り、それこそ死力を尽くした闘争を、愉しんでいたはずだ。

あの亜空間の中で。

だというのに、なぜ日暮れの荒野にいるんだ?

……そしてヘルシング教授。どうしてお前が私の前に立っているというのだ。


「お前の負けだ。アーカード」


負け?一体誰が?私が?

負ける?私が負けるだと?

私は断じて負けぬ。負けるはずがない、決して。


「本当にそうか?ならばお前がここにいる理由を考えてみるがいい」


意味が分からないな。こんな辺ぴな場所で何を考えろと……


……


……いや、ちょっと待て。何だ、何を見ている。

何だこの情景は。何だこの光景の有り様は。


「どうだ?何か分かったか?」


ああ、そうだ。この日暮れの荒野は……。

そうだ、そうだった。

100年前にお前達と戦った時も、523年前に吸血鬼になったあの日も。

ちょうど、こんな日の光だった。


私が死んだ(●●●)光景は、いつもこの……これだ。

そして幾度も思う。

日の光とは、こんなにも美しい物だったとは。


「思い出したか?」


ああ……。思い出したよ。私の願いは果たされたのだな。


「いや、それは少し違うな。お前は確かに戦いに敗れたが、死んだというわけじゃない」


……どうしてそう言える。


「今のお前はフィギュア化……言ってしまえば気絶しているのと同じだ。タブーだって言っただろう。『仮に一つの命を失うほどの攻撃を受けたら、復活する前にフィギュア化という現象が優先される』と」


確かにそうだな。だが、そうなったというのなら無抵抗の状態なのは確実。

私のフィギュアが破壊されたら今度こそ命は潰える。

今の私は、瀕死の状態で生き長らえてるだけに過ぎない。


「それで良いとでも言うのか?」


……何がだ?


「お前は大切な者たちを残したまま“この世界”へとやって来たのだろう?そいつらが心配していないと思うか?」


……ああ、そうだった。何故そのことを考えていなかったのだろう。


私はまだあいつらを残して逝くわけには……


…………


……




「……勝ったんだな、俺たちは」
誰かがポツリと呟き、だがそれははっきりと亜空間に響き渡った。

死闘の末、アーカードはフィギュアと化し――戦士たちの『勝利』となった。

先程の呟きに賛同するものが一人、二人と現れ、ざわめきへとなっていく。
「うおおおおおおおおおお!!勝ったんだぁあああああああああ!!」
やがてざわめきは肥大化して騒ぎへと――敵を倒せたという喜びが満ちたものとなっていった。
近くの人物とはしゃぎ回っている者、傷ついた体を労わる者、フィギュア化していた仲間達を戻しに行く者……様々な反応が見られた。


だが、この場の全員が喜んでいるのかというとそうでもない。
アンデルセンはどこか納得いかないような顔をしている。「この程度で……」とかぶつぶつ言っているが、詳しくは聞き取れない。
そしてマリオは一つ気になることがあった。
マリオ「なあ、本当は居るんだろ?出てきても良いんじゃないか?」
彼は誰ともなく――否、目の前の何も無い空間に向けて呟く。
もちろんマリオの気が触れているわけではない。「彼女」がここに居るという確信があったからそう言ったのだ。
「あら、よく分かったわね」
マリオの考えを証明するように裂け目が突如として現れ、その中から女性――八雲紫が姿を現した。
紫「どうして私がここに来ているって思ったのかしら?」
そんな質問にマリオはうーん、と唸って頭を掻きながら答える。
マリオ「いや、勘に近い部分もあったんだけどさ……。俺がスマッシュボールを取った時に違和感を感じたんだ」
彼は偶然拾ったスマッシュボールの存在がどうしても気になっていた。
あれは“この世界”の戦士たちが切り札を出すために使うアイテム。そんな強力な物がそこら辺に落ちていることなど有り得ない。
だが、マリオがそれを「偶然」拾ったのではなく「必然」的に拾うことになったと考えればどうか。
アーカードの攻撃を受けて吹き飛ばされた時、マリオはほんの一瞬だけ気絶していた。
その際に誰かがこっそりとスマッシュボールを彼の近くに置いていたのではないか。
それでは、そういう事が出来た者は誰か。他の戦士たちはスマッシュボールを持っていたはずが無いから除外。ここへ乱入してきたアンデルセンはそれの存在すら知らないだろうから論外だ。
早い話、『この場にいなかった者』がスマッシュボールを持ってきたと考えられた。
そして、それができるのはマリオの知っている限りただ一人……空間を自由に移動できる神出鬼没な妖怪、八雲紫だ。彼女だったら誰にも気付かれずに物を放ることぐらい造作も無いだろう。
あくまでマリオの仮説でしかなかったが、それは当たっていた。
霊夢「で、何でそんなまどろっこしい真似をしたのよ?」
知り合いの存在を確認した霊夢が――おそらくマリオが紫を呼び出した時点で気付いていたのだろうが――質問を投げかける。
紫「私が蚊帳の外っていう状態に嫌気が差しちゃってね、実はこっそりみんなの後をつけて来たのよ。途中でレプリカと戦った人たちともすれ違って、その人たちをスキマに送って休ませたりしながら、ね。そうしている内にここへ着いたのだけれど……。貴方達とアーカードが話してるのを聞いて、いきなり乱入するような真似は無粋だと思ったのよ。だから私は一旦スキマに入って、なるべく目立たないようにサポートを行ったってわけ。……もし本当に貴方達が危なくなったら割って入ろうかと思ったけど、杞憂に終わって良かったわ」
彼女の答えに、霊夢は「そう」と短く返す。
紫の言い方はそっけないものだったが、浅からぬ付き合いがある霊夢には彼女が何を考えていたか分からないでもない。
レプリカと戦った人たちをスキマで休ませたと言うが、元々その人たちはアーカードを倒すための援護をする予定だったはずだ。紫だってそのことを知っていたはず。それでもそうしたのは、レプリカと戦った者が少なからず疲弊しているのを見て、このままアーカードの所へ向かわせるのは危険だと判断し、無理矢理にでもスキマ送りにさせたのだろう。
そしてアーカードとの戦いでは陰ながら見守り、こっそりと手を差しのべた。更に戦士たちが危なくなったら割って入るつもりだったと……。
何だかんだ言いながら、彼女は戦士たちの安否を気にかけていたのだ。
霊夢「(まったく、素直じゃない妖怪ね)」
霊夢は心の中で呟く。


紫「さて、私がこうして姿を現した理由は三つ。一つ目はこの戦いが終わったから。二つ目はマリオに私の存在が気付かれ、呼び出されたから。そして三つ目は……」
紫がそんなことを言い出したかと思うと、おもむろにフィギュア化したアーカードのもとへツカツカと歩いて行き、台座の部分に触れようとした。
マリオ「って、おい!?いったい何を――」
マリオは狼狽し、叫び声に近い大声で紫に詰め寄ろうとする。
いや、マリオでなくともフィギュアの台座に触れるという行為が何を意味するか知っている者ならば、誰だって狼狽するだろう。
だが紫は至極まともな様子で答える。
紫「彼を復活させるのよ。……ちょっと気になることがあるから」
マリオ「そうは言っても、また襲いかかってきたら、俺たちで手がつけられるかどうか……」
マリオの意見はもっとも……いや、むしろ正論だ。
仮に倒した敵を元に復活させる義理は無いのだし、ましてや戦士たちの誰もが疲弊している。
現状での戦闘の続行は不可能だ。もしアーカードが未だに戦う意思を持っているなら、確実に負けてしまう。
しかし、紫は食い下がる。
紫「ちょっとしたことをやって彼の思考を読み取ってみたんだけど、その心配は無いと思うわ。それに、万が一戦闘になったら私が責任を取る。……だからお願い」
その態度を見てうむむ、と唸るマリオ。少し迷っているようだが、そのやり取りの中に加わるものが現れる。
スネーク「マリオ、頼みごとを聞いてやっても良いんじゃないか?俺自身、復活させても大丈夫だとは思うが。……まあ、以前にこれと似たような状況があったんだがな」
スネークはアンデルセンとの戦闘の最中に彼がフィギュア化し、レッドがそれを助けた時のことを思い出していた。
あの時は復活させでもして戦う羽目になったらどうするんだとワルイージが反対していたが、レッドはアンデルセンが何かの信念に基づいて行動していると信じ、無闇に攻撃することは無いだろうと判断して――結果、その判断は正しかった。
つまり、今回の状況もそれと似ている。
スネークの知る限り――知り合ってから間もないが、今までの抜け目のない態度や行動から判断して――紫は考え無しに行動を起こすような人物ではない、と思っている。
今回の行動も彼女なりの考えがあるのだろう。
スネーク「(……と、少し買いかぶりすぎか)」
スネークは心の中で自分自身に突っ込みを入れる。

一方、マリオは二人がかりで頼まれてきたためにアーカードのフィギュア化を解除させるということを了承するほか無かった。
マリオ「……仕方ないな。絶対に戦闘なんか起こさせないでくれよ」
やれやれとマリオはため息をつく。
紫「ありがとうね、マリオ」
紫は礼の言葉を述べ、改めてアーカードのフィギュアの前に立ち、台座の部分に触れた。
淡い光が出て……アーカードは復活した。
アーカード「……どういうつもりだ?何故、私を倒したというのに復活させた」
ぽつりとアーカードは呟く。今の彼は仰向けに倒れており、紫がそれを見下ろす形になっている。
アーカードに動く気配は無いようだから、戦闘するつもりは無いのだろう。
紫「ちょっと、ね。貴方が見た夢を覗かせてもらったわ」
彼の質問に対し、紫は何でもないことのように答える。実際には大したことをしたと言えるのだが……。

彼女は『境界を操る程度の能力』を持っている。
この能力は非常に応用が効くもので、全てを説明するとなると時間がかかってしまうため、以下の説明は、あくまでできることの一部を例に挙げるだけに留めたものである、ということをご了承いただきたい。
紫はこの能力を使うことで空間に裂け目を作り、スキマと呼ばれる空間を介して離れた場所へ瞬時に――それこそ異世界だろうと行けるというのはご存知の通りだろう。
だが、スキマを通して行ける場所は異世界のみとは限らない。
彼女は『境界を操る』ことで物語の中のような場所へ行くことも……分かりやすく言えば、現実世界の人間が二次元の中に入るということすらやってのけてしまうのだ。
そんな彼女が、他人が見ている夢を覗くことなど造作も無い。

アーカード「それで、どう思った?」
おそらく自分自身とヘルシング教授が夢の中で会話していた時のことを指しているのだろう。
そう思い、アーカードは質問をした。
紫「貴方が望んでいたことは闘争と自らの終焉。それは間違いないわよね」
質問を質問で返す形となったが、アーカードは文句を言わず静かに首を縦に振る。
紫「不死者が死を望むって考えは分からなくも無いし、貴方の言うように『化け物を倒すのはいつだって人間だ』という理論も理解できるわ。私が住んでる所だとそれを地で行っちゃってるわけだし」
でもね、と言い、アーカードの考えへの肯定から今度は意見する形へと彼女は言葉を紡ぐ。
紫「ヘルシング教授は言っていたんでしょう?『大切な者たちを残したまま“この世界”へとやって来たのだろう?そいつらが心配していないと思うか?』ってね。その人たちのことを放ったらかしにして勝手に死んだら、どう思われるのかしらね」
少々の皮肉がこもったような内容を言われ、アーカードは苦笑する。
アーカード「確かにそうだな。私がいる場所には一人の主と一人の僕が待っている。勝手に逝ったら、『何をしている』などと怒られてしまうか……」
そんな彼を見て、紫も少しだけ表情を緩める。
紫「もし全力で戦って逝きたいと言うのなら、身の回りで起ころうとしていることを全て片付けてからにしなさい」
アーカード「これから私が厄介事に巻き込まれてしまうのが分かる、とでも言いたそうだな」
紫「どこかの巫女じゃないけど、勘には自信があるのよ」
何だそれは、とアーカードは心中でのみ突っ込んだ。言葉に出すとややこしい事になりそうだからあえて言わない。

そんな彼の元に近付く人影があった。
アーカード「アンデルセン、か……」
アンデルセン「ああ、そうだ」
アンデルセンはただ無表情で、淡々とアーカードに話しかける。
アンデルセン「だがな、俺が倒すべき吸血鬼は目の前で無様に横になっている奴ではない。傲岸に、不遜に笑う化物だ。貴様が全快でない状態で得た勝利など、何の価値も無い。第十三課の方が格上だと思い知らせてやるためにも、次に会った時には万全の状態で戦えるようにして来い。その上で、今度こそ俺一人の力で貴様を討つ」
基本的にカトリック教徒以外の者と手を組まないアンデルセンが戦士たちに協力したのは、アーカードが全力で戦えていない状態にあったことを知ったから、というのが理由である。
アンデルセンは、相変わらず『アーカードを倒して良いのは我々だけだ』という考えを持っているが、それは相手の手札を全て切らせた上で勝利する、といったことが前提となっている。
生憎ながら、今のアーカードは手の内を出し尽くしたとは言えない。そんな彼とやり合ったところで張合いがないから、戦士たちに手を貸して早急に終わらせた、ということだ。
アーカード「いいだろう、宿敵よ。次に会った時こそ決着をつけようじゃないか」
アーカードは口角を少しだけ持ち上げるようにして笑い、アンデルセンとの再戦の意思を表明する。
……が、すぐに彼の瞳から光が抜けて行き――
アーカード「だが、少し疲れた……。今は……休ませてくれ……」
そう言うと、アーカードはゆっくりと瞼を閉じた。
紫「……寝ちゃったのね」
考えてみると、アーカードは“この世界”にやって来てから、戦士たちと戦ってすぐにタブーのエネルギー体の一つを回収し、なおかつMr.ゲーム&ウォッチを利用して何体ものレプリカを造った。その後空中スタジアムにて残りのタブーのエネルギーの回収、そして復活したタブー、戦士たちと続けて戦闘をしたのだ。ほとんど休まずにそんなことをやったら、どんな体力自慢でも間違いなく倒れてしまう。
紫「(私だったら絶対途中で寝ちゃうわね)」
基本的に一日の半分を寝て過ごすこの妖怪は、仮に体力に自信があってもやらないだろう。そんなハードスケジュールだ。
紫「(それにしても、良い寝顔ね。まるで楽しいことをして遊び疲れて眠ってしまった子どものような……。アーカード、貴方が自分を倒してくれるほどの実力を持った者たちと出会えたからかしら)」



マスターハンド「……それでは、お前たちは元の世界に戻るのか?」
亜空間の外にある荒野。朝日が薄らと見えるものの、未だに辺りが暗い中、マスターハンドは六人に問いかける。
紫「ええ。私たちのようなイレギュラーな存在が長居し続けるのもどうかと思うから……」
その質問に、紫が代表して答えた。


戦士たちとアーカードの激闘が終わった後、倒された当の本人は眠ってしまったわけだが、彼が再び目を覚ましたのは太陽が昇りきって、そして沈んだ後だった。
アーカードが目を覚ましたということで、“もう一つの世界”の住人であるアーカード、アンデルセン、霊夢、魔理沙、レミリア、そして紫は帰ることとなったのだ。
ちなみに六人は亜空間を通って帰ることもできる――実際、アーカードとアンデルセンは亜空間を通って“この世界”にやって来たわけだし――のだが、紫曰く「あんな不安定な空間は危なっかしくて仕方ない」ので、彼女がよく使うスキマを利用して帰ることになった。


紫「あ、でも“この世界”って結構面白そうだから、たまには暇つぶしに来るかもね」
マスターハンド「それでいいのか……」
イレギュラーな存在はまずいと言っておきながら、真逆のことを言い出す紫。自由奔放な妖怪である。
マリオ「それじゃあ、ちょっとしたお別れってとこだな」
今、この場には六人を見送るべく戦士たち全員が集まっている。その誰もが口々に労いの言葉をかけあっていた。


レッド「結局、アーカードと決着を付け直すために戦い続けるんですね……」
アンデルセン「ああ、そうだ」
レッドはアンデルセンと話をしていた。彼としてはアンデルセンが神父である以上、戦闘といった行為は相応しくないから、迷える人を導くことに徹して欲しいと思っていたのだが……。
アンデルセン「生憎だが、化物を殲滅するのは我々の役目だ。こればかりは譲ることはできない」
そうですか……。と小さく溜息をつくレッド。しかし、アンデルセンは次のようなことを言った。
アンデルセン「それはともかく、お前は純粋な奴だな。初めて俺と敵として会った際に説得しようとしたり、果てはフィギュア化したのを助けたり……。帰ったら、孤児院のみんなに『暴力をふるって良い相手は化け物共と異教徒共だけです』と言っていたのを改めるか、考えてみようか」
そう語るアンデルセンの顔は穏やかなものだった。
孤児院に務めているということもあって、彼は子どもには優しかったりする。レッドに向けるその目は、孤児院の子どもたちに向けるものと同じだった。


魔理沙「そんじゃ、短い付き合いだったけど悪くなかったぜ」
サムス「その短い間に色々あったっていうのも、懐かしいわね……。弾幕を避ける練習をしたり、一緒に戦ったり……」
今、この場の一団にいるのは魔理沙、霊夢、レミリア、そして戦士たちの中で霊夢たちと一番交流が多かったサムス、ピット、セネリオの六人だ。
霊夢「まあ、いい暇つぶしにはなったわ。でも、神社に帰ったら休みたいわね……。こんなに動いたのは久しぶりだったし……」
欠伸を噛み殺しながら、霊夢はそう言う。
ピット「(僕が数日見ただけでも結構欠伸をしてたような……)」
セネリオ「(どれだけ寝たがりなんですか、この巫女は)」
二人はこっそりと突っ込んだ。彼女はこう見えて幻想郷で数々の異変を解決してきたというらしいが、甚だ疑問だと彼らは思ってしまう。だって威厳とかカリスマが欠片も無いし。
霊夢「何か変なこと考えてない?」
ピット&セネリオ「「いいえ」」
割と図星だったが、即座に否定する。

レミリア「まったく、妙なことで話題が持って行かれそうな気がするんだけど……。別れの場だっていうのに、そんなので良いの?」
会話の中心から外れていたレミリアがぼそっと呟く。
魔理沙「まあ、お別れだとは言っても紫の言い方からするといつでもこっちに来れるみたいだし、別に良いんじゃないか?」
そう魔理沙に言われたものの、自身としてはその場の雰囲気に合わせた方が良いと思っているのだけど……、この巫女と魔法使いがそういうことをするのは有り得ないか。
とりあえずレミリアはそう考えることで一応自分の気持ちを納得させた。

レミリア「そうそう、まだ貴方達に言ってなかったことがあったわね」
突然レミリアが――この微妙に間の抜けた空気を変えるかのように――そう言い出したかと思うと、サムス、ピット、セネリオの三人の正面に立ち、彼女は頭を下げた。
レミリア「この度は私の妹が起こした暴走を止めてくれて有難う。本当ならもっと早く言っておくべきだったのでしょうけど……ともかく、感謝するわ」
サムス「いえ、そんな……」
ピット「僕たちはそんな大したことはしてないよ……」
セネリオ「……」
傲慢でプライドの高いはずの彼女が頭を下げたのを見て、三人は少し驚いてしまった。
魔理沙「いつの間にか随分と謙虚になったんだな。これから何か降ってきそうで怖いぜ」
からかうように魔理沙は言うが、当の本人は冷静に受け流す。
レミリア「力ある者は傲慢に振舞うのではなく、自分が認めた者たちには自分なりの礼儀を以って接すれば良いと思っただけよ」
霊夢「その考えの変化って、憧れの吸血鬼の影響?」
レミリア「……さあ、どうかしら」


紫「それじゃあ、そろそろ私たちは帰るわ」
そう言い、紫は自分の隣に裂け目を作り出した。
マスターハンド「うむ、元気でな」
マスターハンドと戦士たちはそれを見送――

「おーい、待ってくれぇ!」

――ろうとしたところで、一人の男がどこからともなく走って来た。
スネーク「お、お前はッ……!」
その男の姿を見て、スネークが誰の目から見ても分かるほどうろたえた。
青いツナギ、そして割とマッチョで不自然なくらいに澄んだ瞳……
オリマー「お知り合いですか?」
知り合いも何も……とスネークは口ごもってしまう。そんな様子を見かねたのか、男はオリマーの質問に答えた。
「ああ、確かにお尻合いだ」
ワルイージ「ちょっと待てwwその言い間違いはシャレにならねーよww」
紫「あのー、ちょっといいかしら。そこの貴方、何の用なの?」
くだらない(あと色々な意味で危なそうな)会話を遮るため、紫が口を挟んできた。
男は会話に割って入られたことにちょっと不服そうな顔をするも、答える。
「いやまあ、何て言うか、俺も色々あって“この世界”にやって来たんだが、そろそろもと居た場所に帰りたくなってな。ってことで、俺も送ってくれ」
“もう一つの世界”から来た人が他にもいたことに少し驚きつつも、紫は自身の横に浮かぶ裂け目を指差した。
紫「仕方ないわね……。この中をまっすぐ通って行けば、そのうち貴方の住んでる場所にたどり着くと思うから、行ってらっしゃいな」
「ありがとうな。それじゃあ、遠慮なく入らせてもらうぜ」
礼の言葉を述べて男は裂け目の中に片足を踏み入れるが、ふと体を捻って戦士たちを見回した。
「俺は帰るが、結構イイ奴らも多そうだから暇になったらまたこっちへ来るかもな。だからその時は……」


「戦闘(や) ら な い か♪」


スネーク「帰れ!!」



紫「それじゃあ、今度こそ私たちは帰るわね」
珍入者が出てきたものの、今度こそ彼女たちはもと居た世界へ帰ることになった。
次々とスキマの中へと入って行き、残るはアーカードのみになったところで、アーカードが口を開いた。
アーカード「お前たちとの闘争の時間、あれは何物にも代え難いものだった。この私の我儘な願いを聞いてくれたことは感謝している。……そして重ねるようだが、私はいつか再びこちらへ来よう。その時にはまた相手をしてもらえるか?」
そんなことか、とマリオは苦笑しながら快く引き受ける。
マリオ「もちろんさ。いつでも来いよ。俺たちはあんたを迎えてやるぜ」
まあ、今回のようにいきなり姿を現すんじゃなくてちゃんと連絡はして欲しいけどな、と冗談交じりに言いながら。
それを聞いて、アーカードもまた苦笑する。
アーカード「そうだな、今度会う時は前もって知らせておこう。……では、私の身の回りのことが片付くまで、さらばだ」
他の戦士たちも、口々にさようならと言い始める。それを聞きながら、アーカードはスキマの中へと消えていった。


かくして“この世界”での闘争は一旦幕を閉じ、再び戦士たちの間に平和が訪れることとなった。

エピローグ

~イギリス、ロンドン~
王立国教騎士団本部。その一室にて、一人の女性が眠っていた。
女性は安らかな寝息を立て、安眠を楽しんでいる。
まだ外は太陽の光が昇ってくるかどうかという時間帯、人間が活動をするには些か時間が速い。


……ふとそこへ、一人の男が足音を立てずに現れる。
もちろん部屋には鍵がかかっているから、本来なら出入りすることはできない。
しかし、男は常識を外れた存在――吸血鬼だ。ドアをすり抜けて部屋の中に侵入することなど造作も無い。

男は一歩、また一歩とベッドに横たわる女性のもとへ近付いていく。
そして女性の傍に立ったところで身を屈め、その柔らかそうな首筋に牙を――

ダンダンダンダンダンダン!!

――立てようとしたら、いきなり銃で撃たれた。
誰に撃たれたのか?今この場には二人しかいない。男は銃を持ってはいるが、自分に向けて撃つような真似はしない。
ならば答えは簡単。寝ていた女性が起き上がり、銃を撃ってきたのだ。

「な、な、何事ですかっ!?」
「インテグラ様、大丈夫ですか!?」
銃声を聞き付けたのか、ここに務めている女吸血鬼と執事があわただしく部屋の中に入って来た。
しかも女吸血鬼の方は対戦車ライフルまで持ち出しており、下手をすると派手な戦闘が繰り広げられてもおかしくない。
……ちなみに鍵がかかっていたこの部屋を、彼女はドアを蹴破ることで入って来たわけだが、そこは察して黙っていただければ幸いである。

「ク…クハッ……ハハッ……」

ふと、女性の血を吸おうとしていた男が笑い声を上げた。三人にとって聞き覚えのある声だ。
執事が明かりを点けてみると、そこにいたのは……
アーカード「手荒い歓迎だ。それにやかましい」
王立国教騎士団の鬼札、アーカードだった。
「マ、マスター!どこ行ってたんですか!?いきなり消えちゃってて、心配してたんですよ!」
彼の姿を確認するやいなや、女吸血鬼が詰め寄ってくる。彼女にとってアーカードは自分を吸血鬼にした主人であるため、彼が数日前に姿を消した時にはそれはそれは心配していたのだった。
「まったくだ。ろくに知らせもせず、何日も見かけないと思ったら、いきなり戻って来て……。一体何をしていた」
血を吸われかけた女性――王立国教騎士団局長にしてヘルシング家当主、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングは枕元に置いてあった眼鏡を掛けながら、アーカードに尋ねる。
その質問に対し、アーカードは笑みを浮かべて答えた。
アーカード「素晴らしい時を過ごしていた。闘争だ。私と、私とまっとうに戦えるほどの力を持った人間たちとの、な」
何とも楽しそうな彼の様子を見て、女吸血鬼はマスターとまともに戦える人なんていたんですねーと驚き、執事はやれやれといった様子で呆れ、当主は従僕であるアーカードの態度にこめかみを押さえ……、早い話、三者三様の反応を見せた。
「ウォルターの案で、騒ぎにならないよう貴様が行方不明になっていたという情報は外部に漏らさなかったし、こちらでは何も事件は起こらなかったから問題は無いが……。万が一のことがあったらどうするつもりだ。後で説教するから覚悟しておけ」
そんな主人の注意を聞き、アーカードはただ苦笑していた。



~幻想郷~
魔法の森の入り口に位置する道具屋、香霖堂。
そこの入り口の戸が開き、呼び鈴の音が鳴った。
「おい、こーりん、いるかー?」
呼び鈴の音に遅れて、少女の声が店内に響き渡る。滅多に客が来ないことで有名(?)なこの店だが、今回は違う……わけでもない。少女――霧雨魔理沙は客として香霖堂を利用したことが無いからだ。
「おや魔理沙、今日は何の用だい?」
店の奥から、森近霖之助――香霖堂の店主にして、魔理沙の昔馴染みが姿を見せた。
彼は「何の用だい」と魔理沙に聞いたわけだが、それは既に彼女を商売上の客として見なしていないことを表している。今回もそういった目的ではないだろうと、おおよその見当をつけていた。
魔理沙「実はな、八卦炉が壊れちまったから直して欲しいんだ」
霖之助の予感は的中。何でまた壊してしまったんだい、と溜息混じりに質問してみる。


彼女の話によると、つい先日、異世界にまで行ってきて強敵と戦ったというのだが、その際にミニ八卦炉を無茶な方法で使ったから故障してしまったらしい。ついでに言うと、愛用の竹箒もボロボロ……どころの話ではなく粉々になったんだとか。
霖之助「まったく、これが何で出来ているか知ってるのかい?」
そう言いながら、霖之助は魔理沙に修理を頼まれた物を手に取る。
このミニ八卦炉、実は素材として色々な物が使われており、その中には希少な金属の緋々色金や幻想郷の外でしか手に入らない道具といった物も含まれている。それを修理するとなると骨が折れるが……
魔理沙「まぁそう硬いことは言わずに頼むぜ」
両手を合わせてお願いされると、霖之助としては断るわけにもいかなかった。
霖之助「仕方ないな。まあ、早くても一週間はかかるだろうから、それまで大人しく――」
からんからん、と再び店の呼び鈴が鳴った。
「お邪魔するわよ……って、先客がいたのね」
声の主は香霖堂の常連の一人(だが客ではない)、博麗霊夢だった。
霖之助「いらっしゃい。今日は――」
霊夢「お茶を飲みに来ただけよ」
やっぱりかと霖之助は苦笑し、湯呑はいつもの所にあるから勝手に飲んでって良いよと言っておいた。
魔理沙といい霊夢といい、客らしい振る舞いなどせず、むしろ冷やかしに来ているような部分もあるが、霖之助はそんな彼女らを邪険に扱ったりはしない。
つくづく甘いなと思いつつ、彼は八卦炉の材料を探すため、店の奥へ入って行った。


霊夢「それにしてもミニ八卦炉が壊れるなんて災難だったわね」
魔理沙「形ある物はいつか壊れるってことだ。仕方ないさ」
店の入り口から、かすかにだが二人の話している声が聞き取れる。
霖之助「(いや魔理沙、それは君が無茶をして使ったからこうなったんだろう?)」
もし霖之助があの場にいたらそう突っ込んでいたかもしれないが、あいにく彼は一人離れている状態だから、心の中だけに留めておいた。
霊夢「でも修理してもらってる間に異変が起こったらどうするつもり?十八番無しで挑もうっていうのかしら」
魔理沙「何を言ってる。私をマスタースパークしか撃てない火力バカだと思ってもらっちゃ困るぜ。何なら一回弾幕ごっこでもしてみるか?」
……まったく、反省していないな。そう思ってポリポリと頭を掻き、彼は再び八卦炉の材料を探し始めた。



~紅魔館~
「あ、お嬢様。お待ちしてました」
紅魔館当主の帰還に一番早く気付いたのは、門番の紅美鈴だった。
美鈴「みんなが今か今かって待っていますよ。早く行ってあげてください」
ニコニコしながら言う美鈴に「そう」とだけ返し、館の中庭へ続く門を通ろうと――
レミリア「美鈴、今日は門番の仕事は休んでもいいわ。せっかくの祝宴に貴方だけ省かれてたら不憫でしょうし」
――したところでレミリアは美鈴の方を振り返り、仕事を休んで宴会に参加しても良い旨を伝えた。
美鈴「……へ?」
信じられないことでも聞いたかのごとく、ぽかんと口を開けてしまった。
今までレミリアが部下たちに積極的に休暇を与えたことは無かったわけではないが、役割上、年中無休が強いられる門番を休ませるとはこれいかに。
レミリア「何ボーッとしてるの?早くついて来なさい」
美鈴「あっ、は、はい!」
すたすたと歩いて行ってしまうレミリアを美鈴は追いかける。
美鈴「それにしても、何でまた急に私を休ませようと……」
レミリア「たまにはそれでも良いって思っただけよ。明日からはまたいつも通り働いてもらうから、覚悟しなさい」
言い方そのものは厳しい感じがするが、それとは裏腹に部下を思いやる心が見え隠れしている……ような気がしなくも無い。
美鈴「(お嬢様、少し見ない間に丸くなったなぁ……。何か心境の変化でもあったのかな?)」


紅魔館の正面玄関に位置する場所まで行くと、美鈴は主の前に立ち、ドアを開ける。
そしてレミリアは中へと入り……
「「「「お帰りなさいませ、お嬢様!!!!」」」」
レミリア「……これはまた随分と、大掛かりにやったものね」
館に勤務する妖精メイド全員が出迎えの挨拶をしてきた。彼女らはお世辞にもメイドとして有能とは言えないが、人数だけで言えば軽く三桁は超えるほどいるので、一斉に挨拶するとなれば、かなりの音量となって館の隅々にまで響き渡る。その音量に、レミリアは少々圧倒されてしまった。
美鈴「ほら、みんな待ちかねていたでしょう?」
美鈴の言葉に追従するかのように、こちらへパタパタと走ってくる者が一人――
「お姉様、お帰りなさい!!」
フランドールが走った勢いのまま跳びかかり、抱き着いてきた。
レミリア「まったく、部屋の中で走り回るもんじゃないっていうのに……まあいいわ。ただいま、フラン」
そう言って、微笑みながら優しく妹を抱きしめ返す。
レミリア「そして咲夜も。よく準備してくれたわね。パーフェクトよ」
いつの間にか自身の傍に立っているメイド長にも労いの言葉をかけた。
エントランスから続く紅魔館のロビーには大量のテーブルと椅子が配置され、皺一つ無い純白のテーブルクロスがかけられており、その上には様々な料理が所狭しと並んでいる。
これだけの準備をするのに、大量の時間がかかったことだろう。
咲夜は時を止める能力を持っているとはいえ、一人でやるぶんには限界がある。おそらく、屋敷中の妖精メイドを総動員させたに違いあるまい。
咲夜「感謝の極み。……ところでお嬢様、随分とご機嫌がよろしいようですが、向こうの世界で何かあったのですか?」
レミリア「血をね、分けてもらったのよ」
主君がいつもと少しだけ態度が違うことに気が付いた咲夜は質問をしてみたが、要領の得ない答えが返ってきた。
咲夜「……と、言いますと?」
レミリア「こっちへ戻ってくる直前に、尊敬する吸血鬼の血を分けてもらったってこと」



スキマの中を通っていた時の話だ。
六人のうち、アンデルセンが一番最初にもと居た場所へと帰り(吸血鬼であるレミリアと一悶着起こしそうになったので紫がさっさと送り返させた、と言った方が正確だが)、それに続く形でアーカードもスキマの中から出ようとしていた。
レミリア「では、ここでお別れね。貴方と戦ったあの瞬間……一分、一秒たりとも忘れていないわ。素晴らしい時を提供させてくれてありがとう」
レミリアはアーカードに対し、礼を述べる。彼の存在を初めて知ったその瞬間から持っていた願いが叶ったことに対する礼を、だ。
アーカード「そうか、あの戦いを素晴らしいと言ってくれるのか。何よりなことだ。だが、お前は結果的に負けた。憧れとしている存在を超えられないままでも良いというのか?」
挑発とも取れる言葉をアーカードは放つが、レミリアは、そんなものじゃないわと苦笑しながら返す。
レミリア「勿論、貴方の強さを追い求めることを止めるつもりなんか無いわ。次に会う時……例えそれが百年先だろうと二百年先だろうと、今度こそ私は勝って、最強の夜族となってみせる」
アーカード「ならば、私はその時も己の出せる力全てを以て迎え撃つとしよう。それが尊敬してくれる者に対する礼だからな」
そう言ってスキマの中から出ようとするが、再び振り向いて、おもむろに手袋を外し始めた。
彼は指の腹に爪を立て、力を込める。つ、と紅い滴が流れ始めた。
アーカード「最後に……だ。この血を舐め、味を覚え、その脳に刻んでおくといい」
アーカードは指をレミリアの眼の前に差し出す。
レミリア「そうして頂けるなんて光栄だわ。では、遠慮なく……」
恭しく彼の指を手に取り、レミリアはそこから流れ出る液体に負けないほど鮮やかな紅色の舌を這わせる。

赤い液体が彼女の喉の奥へと滑り落ちてゆき――数十秒経ったところで、指と舌はようやく離れ離れになった。
レミリア「ん、ありがとう。貴方の血、美味しかったわ。それではまたいつか……さようなら」



レミリア「……という事があったのよ」
いつの間にやらレミリアの話を妖精メイドたちやフランドール、咲夜、美鈴、さらには話の途中からやって来た親友のパチュリーと、紅魔館の者全員が耳を傾けていた。
パチュリー「私は吸血鬼じゃないからよく分かんないけど、血を分けてもらったってことは、レミィが尊敬している存在に一歩近づけた、ということでいいのかしら?」
レミリア「噛み砕いて言えば、そんな感じになるわね。そして彼の血、実によく馴染むのよ。あの程度の量じゃ命の通貨にはならないはずなのに、どことなく力がみなぎる感じがする。数百万もの命を所有していたらしいからね、彼。それの影響でも受けたのかしら」
美鈴「まさか本当にパワーアップしてたりして……」
冗談交じりに美鈴は言ってみるものの、ひょっとしたら本当に強くなってるんじゃ……そういう思いを、この場にいる者たちの半分ほどはしている。
「いやぁ、すごいっスねー」
「全くもってそうだな」
突然、二人の男が割り込んできた。一人はチーマー風の恰好で、もう一人は白いスーツを着ている。
どちらもレミリアの知らない存在だ。
レミリア「……誰?」
「初めまして。原作九巻まで出番がなくて暇を持て余しているので、それまでここで居候させてもらおうと思ってるルーク・バレンタインです」
「あんちゃんと違って永久に出番が無くなっちゃったヤンです」
白スーツの方はちゃんと自己紹介をしたものの、言っていることの一部が意味不明で、チーマーにいたっては何を言ってるのか全く分からない。
咲夜「あの、彼らは裏方で知り合ったと言いますか、このパーティーの準備を手伝ってくれたんです」
咲夜が説明を補ってくれたので、この二人はそれほど悪く無い者たちだとは判断した。……やっぱり理解できない言葉が混じっていた気はするが。
レミリア「そうなの。まあ、手伝ってくれたことには感謝しているわ」
一応礼を言っておくと、ヤンとかいうチーマーがへらへらしながら返事をした。
「折角こうして手伝いに来たんスから、何か見返りが欲しいところなんスよ。だから金くr」
パチュリー「消し炭にしてあげましょうか?」
ヤン「すいません今のは無かったことにしてください」
レミリア「……はぁ」
前言撤回。その、何だ、品位が欠けている。
「まぁまぁ、吸血鬼同士、仲良くやって行きましょう」
ルークがとりなすように言うが、
レミリア「……これでいいのかしら」
紅魔館に新しく同族がやって来たことを素直に喜べない当主であった。



~ローマ近郊の孤児院~
「お邪魔しまぁす……」
野太く、それでいて独特な響きのする声を出しながら、こそこそと孤児院の中へ入ってくる神父がいた。
そう、アレクサンド・アンデルセンである。なぜ彼がそんなことをしているのだろうか。
まず一言で今の状況を述べるとすれば、気まずい。勤務しているこの孤児院を無断で数日間休んでいたことになるから、関係者に遭遇してしまうと、色々と質問攻めに遭いかねないからだ。
幸い、今は夜中だから誰かに会う可能性は低い。とりあえず自分の部屋に逃げ込み、言い訳でも考えておく。

足音を立てないように気をつけながら、ようやく自分の名が書かれた表札のあるドアの前まで辿り着いた。
アンデルセンは「ヌハァ……」と安堵(?)の息を吐き、ドアノブに手を掛け――
「神父さま、何やってるんですか!」
――ようとしたら、孤児院の寮母さんに見つかってしまった。


結局、小一時間ほど寮母さんに絞られる羽目になった。
やれ数日もの間何をしていたんですかだの、やれ無断の外出は禁止ですよだの。終いには、最近の身辺にかかわる愚痴まで聞かされたり。アンデルセンは「どうもすいませぇん」と謝って、適当なことを言いながら、何とか説教をしのいだ。

そしてようやく自分の部屋へと戻ってこれた。ベッドに腰掛け、先程の説教による(心理的な)疲労を取り除くべく、寝――


ピリリリリリリリリリリッ


――るつもりだったのに、仕事用の携帯電話が鳴り始めた。相手は想像がつくが、出ないわけにはいかない。
アンデルセン「はい、もしもし」
「今まで何をしていたんだ、アンデルセン。何度も電話をよこしても繋がらなかったが、どこにいたんだ」
電話を掛けてきたのは十三課の機関長、エンリコ・マクスウェルだった。
アンデルセン「それはですねぇ……」
マクスウェル「言い訳は後で聞く。それよりも、法王猊下からのご命令があってな。明後日にヘルシング局長と会合することになった。護衛としてお前も着いて来い」
説教をくらうと思っていたアンデルセンは、あっさりと話題を変更したマクスウェルの態度に拍子抜けしつつ、質問する。
アンデルセン「何でまた、あの新教(プロテスタント)と会う羽目になったのですか?」
マクスウェル「北アイルランドでの一件は覚えているだろう。それによって我々が作った借り(●●)を返さないといけない。あいつら、ミレニアムの情報を手に入れるのに躍起になっているようだからな。だからそれを教えてやろうというわけだ」
なるほど……とアンデルセンは納得した意思を示す。マクスウェルは、ヘルシング局長のことを「異端教徒のメス豚」と呼んでいる。そんな彼が王立国教騎士団に手を貸すような真似は普通はしない。法王猊下の「会合しろ」という命令には、そういったことも含まれているのだろう。もっとも、ミレニアムの情報を教える前に、相手に「お願いします」とでも言わせるつもりだろうが。
アンデルセン「それで、何で私を護衛に?ただの会合なら他の者でも足りるのでは?」
マクスウェル「ただの会合で済みそうにないからお前に頼んでるんだ。あちらにはアーカードがいる。白昼堂々と銃を撃つような馬鹿な真似はしないと思うが、万が一の時には、拮抗状態を作るためにこちらも相応の戦力を持っていないといけない、というわけだ」
アンデルセン「ほう……わかりました。ではぁ」
こんなにも早くあいつと再会できるとは。そう思うと、アンデルセンの気分は高まった。
アンデルセン「(今度こそ一切合切の決着を付けようじゃないか。楽しみにしているぞ、アーカード)」



~イギリス、ロンドン~
この日のヘルシング本部は慌しかった。局長のインテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング――インテグラはマクスウェルから送られてきた手紙により、王立軍事博物館で待ち合わせをしないといけないからだ。
インテグラ「愚図愚図するな。ウォルター、車は用意してあるか?セラス、万が一博物館で戦闘になりそうになったら寸前で阻止しろ」
きびきびと執事や新米の吸血鬼に指示を飛ばしていく。彼女は二十代前半と若いが、十年前からヘルシング家の当主を務めているだけあって、その指揮にはそつが無い。
インテグラ「……そう言えばアーカードはどうした。まさかまだ寝ているんじゃあるまいな?」
と、ここでアーカードが姿を見せていないことに気付く。今日はここの主要人物はほぼ全員出払わないといけないというのに……。
インテグラ「あいつめ、大事な時に――」
アーカード「何か御用かな?インテグラ」
愚痴の一つでも吐こうとしたところに、いきなりアーカードが壁をすり抜けて現れてきた。
今に限った話ではないが、神出鬼没である。驚かせるな、とインテグラは注意をする。
インテグラ「今日は何をするか分かっているのか?」
アーカード「分かっているとも。護衛だろう?いつもはこんな時間に起きないから、少し眠い程度だ。だがそんな理由で義務を忘れたりはしない」
からかうようなアーカードの口調に、思わず溜息を吐いてしまう。
「そんじゃ、ここの警備は俺たちに任せて、安心して行ってきてください」
ここに雇われて間もない傭兵が、ひらひらと手を振りながら言ってきた。
今日ヘルシング本部に残るのは、彼と彼の率いる傭兵部隊ぐらいである。
インテグラ「ああ、任せたぞ。……さて、行くとしようか。私について来い」
その言葉に、執事は「もちろんですとも」と答え、新米の吸血鬼は「ヤ、ヤーッ!」と了解の返事をし、そしてアーカードは胸に手を当てて軽くお辞儀をし――
アーカード「了解した。我が主」
彼が認めた一族の末裔に従順する態度を見せ、後をついて行った。


――アーカードが数日前に体験した戦士たちとの闘争は、バレンタイン兄弟のヘルシング本部襲撃後、
ミレニアムに関する情報の入手に奔走していた、僅かな合間におこった出来事……いわば寄り道のような
ものだ。その寄り道は修正され、彼と、彼を取り巻く者たちとの物語は再び動き出す。
                                          TO BE CONTINUED...