鳴苑ジャーナル

Last-modified: 2014-10-14 (火) 14:42:47

第1楽章:神峰翔太が目指す”指揮者”とは?

指揮者最大の役割は?

指揮者は楽器を演奏するわけではありません。でも多くの場合、「○○指揮××オーケストラ公演」と言われるように、指揮者は楽団の中でも一番大きな存在です。では、指揮者は吹奏楽やオーケストラの中で何をしているのでしょうか?吹奏楽やオーケストラは、多くの楽器奏者が集まって初めて成り立つ音楽の形式で、『SOUL CATCHER(S)』にも出てくるように、個性的な人が多いものです。この個性的な楽器奏者たち一人一人の良さを引きだし、その上で楽団を一つにまとめ上げる。これが、優秀な指揮者であるための最も重要な役割なのです。

指揮者はステージ上のクリエイター!

そして指揮者のもう一つの重要な役割が、楽団や演奏する音楽をどのようにすれば良いか?というコンセプトや方向性を考える、クリエイターとしての役割です。そのため、指揮者は音楽に対する自分なりの考えをしっかりと持っていなければなりません。音楽とは物質ではなく、空気のような目に見えないエネルギーです。音楽に息を吹き込み、血のかよった生命体に生まれ変わらせる。そして、音楽という生命体の喜怒哀楽に聴衆が感動し、その聴衆のエネルギーが音楽という生命体をより進化・成長させてくれるのです。指揮者は吹奏楽やオーケストラの音の生命、音の魂を司っているのです。

音楽は生きている!

人体の各部は、目的に向かってバランスを取りながら働いています。考え事をする時は頭に多くの血液が動員され、食後は内臓に血液が集中し消化活動を行います。このように、生命体はその場の状況に柔軟に対応できなければ、本来の力を発揮できません。指揮者は、指揮棒と身体動作を通じてリズムを伝えることで、各パートのエネルギーバランスの配分を柔軟にコントロールし、音楽という生命体の調和、ハーモニーを作り出しているのです。このような結果を引き出すために、指揮者はまず楽団の練習を監督指導する必要があります。その練習の積み重ねが、楽団を一つにまとめて行くのです。

第2楽章:指揮者になるために身に付けるべきこと

指揮とリズムのズレが肝!?

私が指揮法を学ぶ前、テレビでクラシックの指揮者を見て不思議に思うことがありました。なぜか、指揮とオーケストラのリズムがズレているように見えたのです。皆さんも、そう感じたことはありませんか?実は、この指揮棒の動きにリズムの本質、そして指揮者の身に付けなくてはならない動作が隠されているのです。

リズムは「下」から始まる!

通常、私たちは何かが動き出した時に「リズムが始まった」と考えます。つまり、静止状態の指揮棒が動き始めた時、リズムが始まると感じるのです。ここにまず、一つの落とし穴があります。リズムは指揮棒の動き始めた「上」ではなく、跳ね返る「下」のポイントで始まるのです。リズムはボールのように、重力の落下ポイントで跳ね返る時に始まります。指揮者は、このような自然界にも通じるリズム感覚を身に付けなければならないのです。

リズムを正確に伝える技術!

そしてもう一つ、指揮者が身に付けなければいけないのは、リズム感覚を分かりやすく伝える技術です。指揮者は、指揮のリズムにメンバーが戸惑うことなく従えるよう、リズムが始まる一拍前に合図を出しています。例えば皆さんも、重いものを持ち上げる時などは、「せ~の!」と言って息を合わせているのではないでしょうか。これと同じことを、指揮者はやっているわけです。四拍子で言うと「1」ではなく、一拍前の「4」から指揮は始まっています。この「4」のタイミングをメンバーはしっかり確認した上で、楽曲の始まるタイミングである「1」を全員で合わせているのです。「4、1、2、3、4…」躍動的なリズムを分かりやすく提供する。これが指揮者が身に付けなければならない重要な技術の一つです。

第3楽章:指揮者を目指すキミへ

指揮者になるための二つのポイント!

今回は、指揮者になるための要点を二つピックアップして紹介します。まず一つ目は、”どんな人が指揮者に向いているのか?”という人間性や性格のポイント。そしてもう一つが、”指揮はどこで学ぶことができるのか?”という勉強面でのポイントについてです。

指揮者に向いているのはこんな人!

私の経験を通じてお話しすると、メンバーの前に立って指揮をするというのは、初めのうちはかなり恥ずかしいものなのです。指揮をするということは、自分の思いや感情をメンバーに伝えるということ……すなわち、自分をさらけ出すことになるわけです。感情のこもっていない指揮で、人を動かすことは出来ません。感情をストレートにカラダの動きとして現す思い切り。これが指揮者に必要な覚悟です。そういう点で、指揮者には役者やダンサーにも通じる精神性や身体感覚が必要となります。

どうすれば指揮者になれる?

指揮は、全くの独学だけではなかなか身に付けることが難しい技術です。音楽大学や音楽専門学校では、指揮の技術を教えてくれる「指揮法」というクラスが存在し、クラシック系の音大では、「指揮科」という指揮者を養成する専攻学科も存在します。その他、個人的に先生や先輩から技術を身に付ける、ということもよくあることです。楽器習熟を目指す楽器奏者と違い、指揮者は楽団が生み出す”音楽”の芸術性という総合力を引き出すことを目指します。そのため、音楽を学ぶ以上に、人間性を磨くことも大切な要素になるのです。

第4楽章:「ホルン」について知ろう!!

「ホルン」ってどんな楽器?

「ホルン」は英語で”Horn”と書くように、古くは「角笛」から始まった楽器です。マウスピースと呼ぶ吹き口に唇を振動させながら息を吹き込む金管楽器の1つで、円錐状の管がカタツムリのような形になっています。ベルと呼ばれる開放口が後ろ側を向いているのが特徴で、後ろから音が出て会場全体に反響する「ホルン」の音色は、吹奏楽やオーケストラの中でも一番柔らかな響きをもっています。

楽団内での「ホルン」の役割は?

柔らかい響きを持った「ホルン」は、エッジがきいたメロディーの裏で、美しいハーモニー作りに活躍します。マーチなどリズミックな曲では、裏拍を「~パ・~パ・~パ・~パ」と短音で小気味良く吹くことで、柔らかく躍動感のある和音が生まれるのです。また静かな曲では、「ホルン」特有の遠鳴りのような音色をメロディーにし、広がりのある空気感を出すのにも使われます。

「ホルン」奏者に向いているのはこんな人!

「ホルン」は管楽器の中で、楽譜通りの音を出すのが一番難しい楽器です。例え同じ指使いであっても、ちょっとした息の強さの違いなどで色々な音程の音が出てしまうので、「ホルン」奏者は細かな神経と身体コントロールが必要です。従って、基本的には神経の繊細な人が向いているわけですが、時には真逆な図太い神経を持つ、名「ホルン」奏者もいます。神経質に成り過ぎても、良い演奏は出来ないのです。

第5楽章:「トロンボーン」について学ぼう!!

「トロンボーン」ってどんな楽器?

「トロンボーン」は管楽器の中で唯一、スライド管と呼ばれる部分を伸縮させて音程を変える金管楽器で、正確な音程を取るのが難しい楽器です。主に中低音の音域で使われ、楽譜上ではヘ音記号が用いられます。低音部が得意な「ベーストロンボーン」や、スライドではなく、トランペットで使われているようなバルブ(ピストン)で音程を変える「バルブトロンボーン」は、ジャズなどでもよく使われます。

楽団内での「トロンボーン」の役割は?

エッジの効いた大音量からやわらかい音まで、中低音のオールレンジをカバーする「トロンボーン」は、吹奏楽を下から支える屋台骨的な楽器です。「トロンボーン」とトランペットが合わさると、金管楽器ならではの分厚く力強いサウンドが生まれます。また、人の声のように音程を上下にスライドさせるフレーズを演奏できるのも特徴。マーチで行進する時は、管が伸び縮みする関係上、最前列のポジションが与えられ非常に目立ちます。

「トロンボーン」奏者に向いているのはこんな人!

スライド管のポジションで音程を決める「トロンボーン」は、スライドを一番伸ばしたポジションがかなり遠いこともあり、腕の短い人には難しい楽器です。唇を振動させて音を作る吹き口のマウスピースも低音向けで大きく、唇の厚い人に向いています。また、音程がスライドの長さの変化で変わってしまうので、正確なピッチ感覚が必要となります。

第6楽章:1ページでわかる「ユーフォニウム」!!

「ユーフォニウム」ってどんな楽器?

オーケストラの編成では使われることの少ない、吹奏楽ならではの中音域を担当する金管楽器で、「ユーフォニアム」と発音されることもあります。腕の前で抱きかかえるような、演奏時の構えが可愛らしい楽器です。音の出口(ベル)が上を向いているのも特徴で、マウスピースはトロンボーンと同じものが使われます。アメリカなどでは、”バリトン”という名称で呼ばれていました。

楽団内での「ユーフォニウム」の役割は?

トロンボーンと同じ音域を担当しますが、とてもやわらかく、明るい音色が特徴。美しい和音を作ることもできますが、中音域のサブ・メロディーなどに使われることも多いです。オーケストラの編成ではあまり使われない楽器なので、オーケストラ楽曲の吹奏楽アレンジでは、チェロのパートを振り分けられることもよくあります。

「ユーフォニウム」奏者に向いているのはこんな人!

「ユーフォニウム」は比較的大型の楽器ですが、トロンボーンのように分解することが出来ないので、楽器を運ぶ時は大変です。従って、小学生や身体が小さめの人には負担が大きいかもしれません。ソロ楽器として使われることは少ないので、”縁の下の力持ち”や”名脇役”といった性格の人が向いています。身体的には、息をたくさん使う楽器なので、肺活量を鍛える必要があります。

第7楽章:「チューバ」の基礎知識!!

「チューバ」ってどんな楽器?

「チューバ」は吹奏楽の中で一番大きく、そして最低音が出る金管楽器で、ユーフォニウムを大きくしたような形です。サイズが大きいので、ユーフォニウムのように腕に抱きかかえるのではなく、座っている椅子の先端や太ももの上に楽器の下部をのせた状態で演奏します。またマーチなどでは、大きなベルが前に向いたスーザフォンという楽器が代わりに使われます。

楽団内での「チューバ」の役割は?

最低音が出せる「チューバ」は、リズムのきっかけを低音で刻みノリを安定させる、楽団の大黒柱的楽器です。息の長いフレーズよりは、アクセントの効いた短い低音を出すことが多く、中高音を担当する他の楽器とは違った役割が任せられます。楽団のリズムを自分で引っ張っていく、という独自の感性と責任感が求められます。

「チューバ」奏者に向いているのはこんな人!

楽器、マウスピースが大きいということもあり、やはり体の小さな人には向きません。行進で「チューバ」の代わりに使われるスーザフォンも、担ぐだけで結構な重さがあります。また、ほかの演奏者とは違うパートを演奏することが多いので、他人に染まらない自分のキャラクターを持っている人には楽しい楽器です。そういった意味では、職人気質の楽器とも言えるでしょう。

第8楽章:「アンサンブル」を楽しもう!!

「アンサンブル」の面白さとは?

「アンサンブル」とは、「合奏」や「合唱」など、多くの楽器や音色が織り重なって、一つの音楽を作り出すことを言います。一つの楽器だけでは生まれない響きやリズム、そして躍動感を、「アンサンブル」では生み出すことができるのです。そのサウンドの中に身を置くと音楽や大自然は自分一人で出来ているのではなく、多くの要素が組み合わさった調和から生まれている、ということを実感することができます。

「アンサンブル」はここが難しい!

「アンサンブル」は、多くの仲間とともに生み出すものです。ゆえに、自分の主張を押し付けるような演奏からは「アンサンブル」のハーモニーは生まれません。”楽器を演奏する”という主観的な行為をしながら、”人の音を聴く”、”人の気持ちを察する”などの客観的な感覚を同時に持たなくてはいけないのです。一筋縄ではいかないからこそ、それが出来たときには、素晴らしい瞬間が待っています。

「アンサンブル」を楽しむための準備

音楽の美しさ……その第一歩は、”強弱のある音楽”と言えます。つまり、人と人とのハーモニーから生まれる「アンサンブル」には、緩急をつけて演奏する技能が必要となるわけです。大きな音をシットリ聞かせる。小さな音をクッキリ聞かせる。緩急や強弱があっても、周りの音と調和する気持ちを忘れてはいけません。そのためには、音色の鳴らし方の研究、そして人のリズムを聞く感性が大切なのです。

第9楽章:プレイバック名場面!!

第10楽章:「サックス」について知ろう!!

「サックス」ってどんな楽器?

1840年代にアドルフ・サックスというベルギーの楽器製作者によって発明された楽器、それが「サックス」です。金管楽器と木管楽器双方の良さを取り入れた楽器として、クラシックだけでなく、ジャズの分野で注目されたこともあり、幅広い音楽を取り上げる吹奏楽の世界でも人気の楽器です。音の強弱、ニュアンスの変化が付けやすく、最も人間の肉声に近い音色の楽器とも言えます。

楽団内での「サックス」の役割は?

「サックス」の音色は、金管の明るい音色と木管の優しい音色の橋渡しとして、吹奏楽全体の響きをブレンドする音です。そして、他の楽器に比べ個性や色気を表現しやすく、吹奏楽がポップスやジャジーなレパートリーを演奏するときに本領を発揮します。なお、吹奏楽のジャズ版とも言える”ビッグバンド・ジャズ”では、アルト2本、テナー2本、バリトンと、5本もの「サックス」が使われます。

「サックス」奏者に向いているのはこんな人!!

私自身、長年吹いてきて感じることは、「サックス」の存在感は強烈だ、ということです。小編成のアンサンブルやジャズのセッションなどでは、フロントに立つので非常に目立ちます。したがって、”自分の主張を持っている”、”目立つこと怖れない”といったワイルドで個性的な人に向いています。そして最後には、ワイルドさの中に潜む繊細さが「サックス」のSOULを決めるのです。

第11楽章:「ピアノ」と吹奏楽の関連性

吹奏楽に「ピアノ」は使われる?

以前は、吹奏楽に「ピアノ」が使われることは、あまりありませんでした。なぜならば、元々吹奏楽が持っている特色の一つに”移動性(モビリティー)”の高さがあるからです。どこにでも持ち運べる楽器で、時には行進さえもしてしまう楽団。それが、吹奏楽の始まりでした。しかし、最近ではホールなどで演奏するために作曲された、”移動性(モビリティー)”の低い作品もたくさん生まれており、「ピアノ」の出番が増えてきているのです。

なぜ指揮者は「ピアノ」を弾けた方が良い?

”多彩なハーモニーを聞き分ける”ことは、音楽を理解する上で、大切な要素の一つです。楽団で演奏される音楽は、ほとんどの場合スコアに全パートの音楽が記されています。指揮者は、そのスコアを手掛かりに、作曲家が抱いた曲のイメージを探り、音楽をまとめあげていくのです。そして、スコアから楽曲を学ぶ上で「ピアノ」は欠かせません。それは、「ピアノ」が”一人オーケストラ”と言われるほど、幅広い音域を演奏することができるからなのです。

音楽が好き、好きになった人へのメッセージ

学校の音楽の授業が嫌いでも、その後素晴らしい音楽家になった人は沢山います。音楽に興味を持ったら、まずは音楽友達を作り、他の人が聞いている音楽を教えてもらいましょう。音楽の幅が広がることは、感性を高めることに繋がるからです。そして、ゆくゆくは楽器の演奏にトライ。この時、知ったかぶりしないことが大事です。見栄を張らなくても、知っている人が親切に教えてくれます。楽器演奏は、一度中断することがあっても、いつでも再開できるものです。あまり深く考えず、”好き”という気持ちを大事にしてください。

文:宮浦清…バークリー音楽大、ICU卒。サックス奏者、作曲家、呼吸研究家。現在は音楽番組の制作にも携わる。

※宮浦氏が手がける音楽配信番組「Sound States」http://www.facebook.com/SoundStates
※出典:WJ(ウィークリージャンプ)2014年20号~31号