Side Story 1 (3-0~9-6)

Last-modified: 2024-04-27 (土) 15:49:21
 
(iOS/Android : ver.5.4.0収録分)
 
 
 
 

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Side Story
 
 
 
Side Story

Absolute Reason

実装:ver.2.0.0(19/03/21)

 

 3-0 

解禁条件 3-4の解禁 & サヤ(Saya)を使用して楽曲「Antithese」をクリア

日本語

新たな目覚めだ、彼女にとってははじめての目覚め。

この記憶の世界で目覚めるものはそれぞれに、記憶もないままに目覚める。彼女もまた同じだった。

けれど、彼女が捉えた角膜を抜ける光の感覚はおおよそ尋常なものではなかった。
心が燃えるようにざわめきつつも、積み上がっていく苛立ちに呻きそうになる。
服の胃の辺りをぎゅっと掴みながら、耳がおかしくなってしまったのではないかと思った。
知らずに自身の目を凝らすと、ふと自身の目が両方ではなく、片方しか見えていないことに気づいた。
思わず顔に手をやって確かめる。

「えっ……?」

咳き込みつつも身を起こす。
彼女が手袋越しに感じたのは、右目の辺りにあるなんだか硬質なものと、
それを取り囲む柔らかい感触だった。
そして自身が手袋をしていることに気づく。
体を見渡して、なぜこのような服を着ているのか困惑してから、
そして服そのものについて知っている自分にまた困惑した。

周囲を探索してみたところ、四方を壁に囲まれた場所のうち、壁の1つに彼女は寄りかかって
寝ていたらしい。そしてその全てが修復不可能なほどに壊れていた。
上を見れば屋根はなく、そしてまず屋根があることを期待した自分に困惑した。
そうしてなんとか、朧げにどこに自身がいるのか思い出しつつあった。
自身が身を預けて眠った壁沿いに、乗り越えられそうな壁までのろのろと歩いた。
煉瓦の山を越えるにつれ、壁も含めたものがすべて真っ白であることに気づいた。
見上げれば、真っ白なのは壁だけでなく、見渡す限りの世界すべてがそもそも白かったのだ。
見渡す限りに続くのは、旧く荒廃した人間社会か、またはいくつかの社会の模造品か…。
全ては奇妙だったし、そしてそれを奇妙と思う自分こそ奇妙であった。なぜ?

彼女が燦めくガラス片に足を踏み出す前には、今見てきたものと彼女自身にまつわる数十の仮説が
脳裏に浮かんでいた。彼女が独りだとしても、自身がその名前を知らないという時点で、
可能性のある真実というのはなんとなく絞れるものだ。

そうして時が経つにつれて、1つの仮説にまつわるいくつもの証拠を見出すようになっていた。

彼女は信念と好奇心と共に生まれたといっていいだろう。白き世界は次々に答えなき問いを
投げかけてくる。数日が過ぎ、廃墟群にその答えはなかった。数週間が過ぎ、硝片の中に答えは
なかった。そうだ、世界は硝片に満ちていて、常にそれ自身が映す多種多様に鮮やかな風景で
こちらを嘲っている。それら硝片はまるで残響だ。実存したものの痕跡であり、世界そのもの、
人工物の模倣であろうものに満ち満ちている。
2ヶ月ほど経てば、もしかしたらそれ以上にかかるかもしれないが、自信を持って信じるに足るなにかを
見てきたと言えるのではないかと、彼女はそう感じている。

この間目覚めたところから遠く離れた、壊れた螺旋階段の上にて、彼女は千々に散りつつも
波打つ塊を空に見ていた。幾千ものアーケアの破片によって形作られた、壊れた窓のようにも
見えるそれを。このとき、彼女は確信しつつあった。彼女の判断こそが正しいという可能性に
賭けられると。

しかしまだだ、まだ決して足りることなどない。推測だけでは、決着がつくものなど何もない。

そうして彼女は誓った。この領域は未知に満ちている。何を語ることもなく、語ったとしても
微々たるものだ。だからこそ彼女はこれを解き明かし、真実を突き止める、と。
この領域に唯一残るいきものとして、これこそが彼女の最初の義務となるもののようだった。

そうして彼女がアーケアを完全に受け入れるとき――

アーケアもまた、完全に彼女を受け入れるのだ――。

膨大で果てのないような知識庫として。
読まれるものとしてのみだけでなく、
追体験するためのものとして。

English

Another awakening, and her first.

Each one awakens in the world of memories with nothing in her head. She is no exception.

However, as light filters through her cornea the sensations that grip her are unusual. Her heart stirs first, passionate, and she almost snarls at the building frustration. She grips the clothes over her stomach, and thinks her ears might be deafened. Her eye squints involuntarily, and she realizes with that that she only has a single eye rather than two. She feels around her face.

“Wha...?”

She coughs, and pushes herself up. What she felt through her glove was something almost soft, surrounding something very solid in the place of her right eye. She realizes she’s wearing gloves. Looking over her body, she wonders why she’s wearing these clothes. She wonders next why she knows what clothes are at all.

She had been sleeping against a wall, and upon an inspection of her surroundings sees that there are three others to make a four-cornered place around her, and every one of them is in extreme disrepair. Looking up she sees that there’s no roof, and questions why it is she’d expected to find one in the first place. In fact, she recognizes where she is... vaguely. She trudges along the wall she’d slept against until she finds one she can step over. As she clears the bricks, she notices that they are entirely white. Looking up, she sees that it isn’t only this wall, but the entire world that’s white. It is an infinite landscape of an old, defeated, human society, or rather a pastiche of several societies. It’s bizarre... Moreover: it is bizarre she finds it bizarre. Why?

Before she even stumbles upon any reflective glass, she has already bet on tens of theories behind what she’s seeing, and who she is. Even that she is alone, and that she doesn’t know her name, tells her much about the potential truth.

And, over time, she finds more reason for one theory in particular.

She was born with conviction and curiosity. The world of white presents questions but no answers. Days pass, and there are no answers within the ruins. Weeks pass, and there are no answers within the glass. Indeed, the world is full of glass, taunting always with views of other, more vivid and varied places. Echoes, imprints of something real, exactly the world itself, so full of what must be copies of human invention. After two months, though it could be more, she feels she has seen enough to believe something, and with confidence.

While atop a broken stairway someplace far away now from where she’d awakened some time ago, she gazes at an undulating and segmented portion of the sky: a seemingly broken window to nothing, crafted from over a hundred shards of Arcaea. She becomes sure of herself in this moment. She can bet her judgment is the truth.

But it’s not enough, and never enough. It can’t be settled with speculation.

So she vows: this realm is a mystery, telling nothing and offering little, so she will solve it and find its reason. As the only being of this realm, it seems, this will be her first duty.

And as she fully accepts the Arcaea... So too do the Arcaea fully accept her...

...as a vast and seemingly endless archive, not only to be read, but to be lived through.

 

 3-1 

※スチルイラストが付属しています。(Illustration : Mechari)
解禁条件 楽曲「Antithese」のクリア

日本語

それは夕暮れ、黄昏のころ。
野外には、太陽から絶え間なく降り注ぐ琥珀色の夕焼け。
その光もしかし、周囲一帯を埋め尽くす機械類に受け止められ、巻き取られる。
今はそのまま、月光へと日差しが近づく、そんな頃。

――パーティには、独特な雰囲気があった。敷地にも館の内にも、外からの目はありえない。
それでも品格ある振る舞いは、特権階級に属する者の最大の義務だ。
その不文律を、少女はよく知っていた。もはや体に染み付いている。
届かぬほどに高い屋根と螺旋階段、そこに縫い留められた日差しを近くに、
薄暗い場所に敢えて腰掛けると、静かに、己の知識とその意味へと彼女は考えを巡らせた。

「ラヴィニア」

グラスから、視線を上げる。すると眼前には、気取らぬ佇まいの自身の婚約者。
息苦しいほどに着飾りながら、その様子に無理に飾ったところはない。
「何を飲む気分だったんだい? 今夜は。」

それを、残された唯一の片目で見つめながら、
「…李(すもも)よ、ドノヴァン」と答えた。

「いいね」と笑い、ふと部屋を見回す彼。
感慨もなく、そんなドノヴァンの様子を見る。ほくそ笑んで、それは言う。
「母上にみんなも、クランベリーの方がいいっていうのさ。健康にいい、って。でも…」
ちらりと、再びこちらに向く視線。
「いやほら、僕はちょっと…あれって苦いだろう? 君も苦手じゃない?」

すこし眉をしかめながら、思考を巡らせて
「…そうね、あまり」と答えた。

「やっぱり、そうだよね」
そう笑って、彼は踵を返す。
「モルガンと話して来るよ、気が向いたら君も来ておくれ」
首肯を返せばそのまま、共通の幼馴染がいる暖炉へと歩いていった。

常に、品格は保たれなくてはならない。

暖炉から数呎ほどの距離へと、火が光を振り撒いている。
その灯りが途切れる間際で、糸に絡め取られるように光がランプへと収まってゆく。
部屋を占めるのは心地よい程度の暗闇で、ほどほどに肩の力を抜ける程度に。
上から吊り下げられたランプらが、読書には十分であろう光で辺りを照らしている。

そこにあるのは互いの顔を見れる程度の明るさと、薄切りにされた肉に、彩豊なパン。
そして呑み頃であろうボトルとグラスが、輝くように白いテーブルクロスの上に置かれていた。
ちょうど部屋を出たところには、中ほどまでが硝子製の壁からほぼ手付かずの野花や岩々、
そして小川が鈍く見える様になっている。
そっと、サテンのような真夜中の青に包まれているようだ。
20人ほどのゲストがパーティには参加していた。部屋の半分を占めるものが大半で、
残りは廊下や書斎(おそらくは図書室だろうか)などに散っていた。
彼女の知る限りでは、そのようだった。

軽くジュースを含んで、味わってみる。
感じるのはまず、甘み。だがそもそも、李など飲んだこともあまりない。
他の、美味しくて口触りのよいものを思い起こそうとする。
けれどそれもすぐに、舌を滑る液体の感覚で上書きされた。

だが彼女は、判別しかねていた。この味がどれほどのものか、ピンと来なかったのだ。

小机の上、凝った意匠のドイリーにグラスを物憂げに戻す。
やがて座ったまま、周囲に耳を傾けては有象無象を見遣りつつ、
自身の他方の眼窩に開く花弁を、所在なさげに指でなぞるのだった。

あるとき、ドノヴァンの言葉を耳にした。
「しかしそんなところまで進んでいるのか…初めてあの話を聞いたとき、
僕はそんな事できるはずがないだろうって思ったんだけど」
「いやあ、チャールズは確信しているようだったよ」と述べたのはモルガン…ではなく、
ナターリアだった。

「素晴らしいな」
無造作に髪に指を通しながら、ドノヴァンは認めたようだった。
「人の手に作られた、まるごとひとつの世界、ね」

「人類も、なかなかやるものじゃないか」

日本語 (旧)

それは夕暮れ、黄昏のころ。
野外にて、太陽より琥珀色の夕焼けが絶え間なく降り注いでいる。
しかし辺り一帯を埋め尽くす機械類が、その光を受け止めては巻き取っている。
そうして日差しはやがて月が投げかけるそれに近しいものになっていく、そんな頃。

そのパーティには独特な風格があった。館は周囲からは隔離されていて、覗く者などはいない。
しかし、特権階級の品格を維持するのはそこに立つ者たちの最大の義務である。
彼女はその不文律をよく、考えずともいいほどに良く知っていた。
今は日差しに囚われ、手の届かぬほど高い屋根と螺旋階段が交わる薄暗い場所に座りながら、
彼女は義務にまつわることに思いを巡らせている。

「ラヴィニア」

ワイングラスから視線を上げれば、自身の婚約者が気取らない佇まいで目前にいた。
もはや息苦しいほどに着飾りながらも、その様子に不必要に飾るところはない。
「それはまさかワインじゃないだろうね」

自身に残された唯一の片目で見つめつつ、
「ただのサイダーよ…ドノヴァン」と答えた。 それを受けて「そうか」と笑うと、ふと部屋を見遣る。
そんなドノヴァンの様子をなんとなく眺めていると、ニヤリと笑みを浮かべた。
「母さんとみんなは少しくらいなら、ワインを嗜んでもいいというけれどね…」
こちらをまたちらりと伺って、
「それは少々どうかと、僕は思うのさ……君は酔いどれた人をみたことがあるかい?」

たじろぎつつも思考を巡らせて、
「ないわ」と答えた。

「ふむ、ならそのままでいておくれ」
フフッと笑うと、彼は踵を返した。
「僕はモルガンと話しているよ、気が向いたら来るといい」
彼女がうなずくのを見ると、ドノヴァンは自身らの幼馴染のいる暖炉近くへと歩いていった。 常に、品格は保たれなくてはならない。

暖炉から数フィート程度の距離に、火が光を放っている。
その灯りが途切れる間際で、光は糸に絡め取られるようにランプへと収まっていく。
残りの部屋を占めるのは心地よい程度の暗闇で、適度にリラックスできるような塩梅であった。
上から吊り下げられたランプらが、読書には十分であろう光で辺りを照らしている。
そこにあるのは互いの顔を見れる程度の明るさと、薄切りにされた肉に、彩豊なパン、
そして呑み頃であろうボトルとグラスが、輝くように白いテーブルクロスの上に置かれていた。
ちょうど部屋を出たところには、中ほどまでが硝子製の壁からほぼ手付かずの野花や岩々、
そして小川が鈍く見える様になっている。
そっと、サテンのような真夜中の青に包まれているようだ。
20人ほどのゲストがパーティには参加していた。部屋の半分を占めるものが大半で、
残りは廊下や書斎(おそらくは図書室だろうか)などに散っていた。
彼女の知る限りでは、そのようだった。 サイダーを軽く含んで、味をみる。
まるで味がわからないようだった。そもそも、サイダーを飲んだこともあまりない。
もっと快い味と口触りのものがあるのにと想いを馳せようとするが、
すぐに舌上に灼けるような感覚を覚えて現実に引き戻された。

どうやら、これは不快であるらしい。
そのように彼女は思った。

小机の上、凝った意匠のドイリーにグラスを物憂げに戻す。
やがて座ったまま、周囲に耳を傾けては有象無象を見遣りつつ、
自身の他方の眼窩に花開いた花弁を、ぼんやりと指でなぞるのだった。 あるとき、ドノヴァンの言葉を耳にした。
「しかしそんなところまで進んでいるのか…初めてあの話を聞いたとき、
僕はそんな事できるはずがないだろうって思ったんだけど」
「いやあ、チャールズは確信しているようだったよ」と述べたのはモルガン…ではなく、ナターリアだった。

「素晴らしいな」
無造作に髪に指を通しながら、ドノヴァンは認めたようだった。
「人の手に作られた、まるごとひとつの世界、ね」

「人類も、なかなかやるものじゃないか」

English

It’s early evening. Outside, the twilight amber flowing out from the sun tries to slip by without
pause, but the devices within the surrounding meadows catch and spool it, changing it to rays
more similar to what might be cast from the moon.

The party has a certain atmosphere. Though there are no eyes without the manor, the fact is that
maintaining an image is paramount to those of upper echelons. She knows this, all of this, innately.
Sitting in a darker place, with sunlight captured and held at ceilings and staircases presently
beyond her reach, she considers the implications of this knowledge in calm and in silence.

“Lavinia.”

She looks up from her glass. The fiancé (dressed very well, almost stuffily, but in casual
posture) is standing before her.

“What have you decided to drink tonight?”

She looks at it through her one proper eye. She answers: “Plum juice… Donovan.”


“Keen,” he says with a smile, looking out toward the rest of the room. She looks at his
expression blankly. He smirks. ”Mum and the rest prefer cranberry—for health, they say—
but…” he says, glancing at her again. “It’s a bitter taste, isn’t it? You don’t like it either,
do you?”

She thinks, wincing. “I don’t.”

“And that is to the good.” He chuckles, then turns away. “I’ll go speak with Morgan.
Join us whenever you like.”

She nods, and Donovan moves to their mutual childhood friend near the fireplace.


As always, images need to be maintained. The fire throws its light only a few feet out from the pit
before the threads of it are wound away, stored into lanterns on the floor. The rest of the room is
dark, but comforting. It’s a setting to relax within. A few lanterns above give just enough illumination
for reading, seeing each other’s faces, and the spread of carefully selected portions of food along
with bottles of drink. Just outside the room, through half-glass walls, an almost untame scene of
wildflowers, stones, and streams is dimly visible: wrapped in a midnight blue, almost like satin.
There are twenty guests at the party, half in this room, the rest in the halls or somewhere in other
studies—perhaps the library. This is as much as she knows.

She drinks her juice, tastes it. She notes the sweetness, not having had much experience with
plum juice herself. She recalls something about a better taste and sensation, but in the moment
now she is compelled to focus on how the liquid feels along her tongue. However, she can make
no true determination of it. It is remarkably unremarkable.

She puts the glass down on the fanciful doily of the short table beside her. She sits, listens, and
watches, touching the flower petals blooming from her other eye rather absently.


She hears Donovan say, “But to think they’ve done so much already. When I first heard of the idea,
I was sure it wasn’t possible.”

“Well, Charles is quite sure it is,” says another of the guests—not Morgan, but Nathalia.

“Astounding,” Donovan grants, running his fingers through the top of his hair.

“A whole entire world, made by human hands,” he says. “Mankind is quite something.”

English (旧)

It’s early evening. Outside, the twilight amber flowing out from the sun tries to slip by without pause, but the devices within the surrounding meadows catch and spool it, changing it to rays more similar to what might be cast from the moon.

The party has a certain atmosphere. Though there are no eyes without the manor, the fact is that maintaining an image is paramount to those of upper echelons. She knows this, all of this, innately. Sitting in a darker place, with sunlight captured and held at ceilings and staircases presently beyond her reach, she considers the implications of this knowledge in calm and in silence.

“Lavinia.”

She looks up from her wine glass. The fiancé (dressed very well, almost stuffily, but in casual posture) is standing before her.

“There isn’t actually wine in that glass, is there?”

She looks at it through her one proper eye. She answers: “It’s cider... Donovan.”

“Good,” he says with a smile, looking out toward the rest of the room. She looks at his expression blankly. He smirks. ”Mum and the rest say a little wine is good…” he says, glancing at her again. “It’s a load of nonsense, I tell you. Have you ever seen a drunk man?”

She thinks, wincing. “I haven’t.”

“Well then, let it remain that way.” He chuckles, then turns away. “I’ll go speak with Morgan. Join us whenever you like.”

She nods, and Donovan moves to their mutual childhood friend near the fireplace.

As always, images need to be maintained. The fire throws its light only a few feet out from the pit before the threads of it are wound away, stored into lanterns on the floor. The rest of the room is dark, but comforting. It’s a setting to relax within. A few lanterns above give just enough illumination for reading, seeing each other’s faces, and the spread of carefully selected portions of food along with bottles of drink. Just outside the room, through half-glass walls, an almost untame scene of wildflowers, stones, and streams is dimly visible: wrapped in a midnight blue, almost like satin. There are twenty guests at the party, half in this room, the rest in the halls or somewhere in other studies—perhaps the library. This is as much as she knows.

She drinks her cider, tastes it. She notes that it has a taste at all, not having had much experience with cider herself. She recalls something about a better taste and sensation, but in the moment now she is compelled to focus on the burn along her tongue. Overall: quite unpleasant. That is her determination.

She puts the glass down on the fanciful doily of the short table beside her. She sits, listens, and watches, touching the flower petals blooming from her other eye rather absently.

She hears Donovan say, “But to think they’ve done so much already. When I first heard of the idea, I was sure it wasn’t possible.”

“Well, Charles is quite sure it is,” says another of the guests—not Morgan, but Nathalia.

“Astounding,” Donovan grants, running his fingers through the top of his hair.

“A whole entire world, made by human hands,” he says. “Mankind is quite something.”

 

 3-2 

解禁条件 3-1の解禁 & 楽曲「Corruption」をクリア

日本語

ランプの中で揺れる灯りに注がれていた視線は、今は未来の夫を探している。
何気なくグラスへと手を伸ばして、一口。
自分がグラスを遠ざけていた理由がなんだったか、思い出すにはそれで十分だった。

人工の世界については、単にどうやら気まぐれに出された話題であったらしい。
多くを語ることもなく、そもそもよくわかっているわけでもないようだった。
彼らの口から熱心に語られた話題は、興味深いものはあったのしても今となっては
思い出すことも難しい。歯がゆさを覚えながらも耳を傾けたが、
もはや口を開いているものはいないのではと錯覚するくらいの有様だ。

少女は我慢に耐えかねつつあった。
おもむろに立ち上がると、座っていた部屋から夜会らしい廊下へ向かい、
さらに彼女が馴れ親しんだ――とはいえ、気持ち程度だが――いくつもの部屋を通り過ぎる。
そのまま探索を続けると、灯りのない漆黒の道と、見当たる鍵穴もないのに閉め切られた
ドアさえあった。そこまでの開かれたドアの先では、数人のまばらな男女が聞き取るには難しいものの、
談笑に興じていた。が、もし彼らが彼女に気づくことがあったとしても、
元の会話に戻る際にわずかに目をやるのみだ。

外へ行きたかったのだ。

その領館の端々には科学的な洗練が見られたが、そのいずれもが古臭い「気品」を体現するようだった。
鈍く光る円筒状の機械類は興味深く、また人造の自然風景もまた奇妙な魅力を持っていた。
が、彼女をなによりも惹きつけたのは、庭園にあった光子変換装置であった。
彼女はその存在は目にしてはいたものの、実際に触れたり直に観察したことはまだないのだ。

端的にいえば、まさしく彼女は好奇心の虜であった。

そも、似たり寄ったりの有象無象が織りなす単調な会合など、長くかまけていたいものではなかった。
生き物や未知の人工物のほうが、考えるまでもなく魅力的だった。

けれど……領地前の公道へと通じる扉にと近づき、
その指先が周らぬほどに大きい木製の取っ手を掴みかけたとき。

彼女は、考える間もなくよく知っていた。
そこを超えても得られるものはなく、またなにも彼女のためにならないと。
世界の全てにおいて、他の居場所なんてどこにもないと。
また彼女にとっての居場所は草原を撫でるからくりではなく、
未来の夫のそばでともにあることだ、と。

「外」というのはただの幻想、実利なき儚い想像だった。

これに感づくことは、好ましいものではなかった。

そうして手は扉から滑り落ちて、振り返りながらも戸の前で佇んだ。
世界のどこかの今の風景を、数多の硝子のひとつひとつから見せるシャンデリアの下で。
それらは彷徨いながらも、常に行くことのできない場所について語りかけてくる。
うつろいながらも、その吊り下げられた調度品のまわりを天体のように回る。
もはやその光景は、この場にある造形が現実から遠いものに思えるほど。

その瞳は、唇は、何も捉えず、紡がない。
豪邸へと重い足取りで戻りながらも、その内にはかすかな不満の焔が灯りはじめていた。

English

Her eye had wandered to the flickering of a lantern, and now it seeks the expectant husband. She reaches for her glass and takes a sip; it’s enough to make her remember why she had put it down in the first place.

The matter of a created world is only really a fickle fancy of theirs. They do not discuss it much. They do not much understand it. What little they might have to say of true interest, she can’t, in fact, properly remember. Irritating. At times, it even feels to her like they aren’t speaking at all.

The girl grows impatient. She stands and passes out of the sitting room into more lavish, more evening- themed halls, passing rooms with which she’s familiar, but only vaguely. She explores, finding stretches of unlit, pitch-black paths, and doors that seem to be locked though their knobs bear no holes for unlocking. What doors are open show rooms of a few men and women each, chatting too quietly to discern. If they ever notice her presence, they only look her way a moment before returning to conversation or rest.

She wants to go outside.

The manor has some technological sophistication to it, but is married to its ideals of old “class”. Yes, the dimming canisters are curious, and the manufactured wilds are peculiar, but what interests her the most are the light-transforming machines in the gardens. She knows of them, but has yet to see them firsthand.

In a word, she is “curious”.

The humdrum of a social gathering so often repeated that this day feels like a thousand identical others is not something she wishes to dabble in long. Lives and creations are too fascinating to ever take either for granted.

But as she approaches the doors to the front driveway...

As her fingers slip upon the wood of the grand handles before her...

She knows, innately, that there is nothing past there, nothing for her. In the entire world, there is nowhere else she could be. Her place is not in the meadows admiring mechanisms, it is in the sitting room with the husband-to-be.

“Outside” is only an idea. A fruitless, ephemeral concept.

That is not a favorable realization.

Dropping her hand she turns and stands below the chandelier, each of its shards showing an image of somewhere else in the world, at this moment. Shifting, always, and speaking of places she cannot go. Fading, almost celestial illumination hangs around the fixture, giving this place and that object a too-unreal quality. Her eye, her lips, say nothing. She trudges back into the mansion, with a small fire of discontent born within her.

 

 3-3 

※アニメーションが再生されます。(Animation : シエラ)
解禁条件 3-2の解禁 & サヤ(Saya)を使用して楽曲「Black Territory」をクリア

日本語

透ける壁の向こうで、旋風が花びらを巻き上げては散らしている。
白とサファイアのきらめきが目に美しく変わりゆく様子が、パーティの若者にとってはお気に召したらしい。
魔法のようだ、すばらしい、などと聞こえてくる。

ラウンジに戻った彼女はその人工の自然による渦を、
豪奢な茶番を見た。

はじめてその花々が舞い散る様子を見たときのことを脳裏に描くと、
思い出すのはもう十分ね、とその思考を切り替える。

それまでの数時間はどこまで行けるかを試していた。

窓は閉め切られている。中庭へのドアには閂が。そしてご丁寧に通気口はネジ止めまでされていた。
彼女の疑問はこうだ。
「(閉鎖されているのはここの人間によるもの?…それとも、私を閉じ込めるため?)」

考えれば考えるほど、若い乙女の心は隠喩と感情に
揺れるものらしいということがわかるだけだった。
現実というのは、見極めるのが難しい。

のぞいたり、つついたり、ひっくり返したり、うろついたり。
それらを飽きるほど行ったあと、
彼女は徐々に客として招かれた友人や知り合いと雑談に興じてみることにした。

「今日はいい天気で…」
「王はまだ…」
「あのさ、先週ね…」

冗長で、かつ不満だった。
こちらの質問は疑念に躱されるか、無反応をもって迎えられるばかりだった。
まるでその質問も、彼女の発言さえもがなかったかのように。

知りたかったのは技術と工学と、その進歩についてだったが、
特に引き出せるような情報もその他の客人からはなさそうだった。
苛立ちが募るなか、聞き耳を立てることにした彼女は、こんな事も聞いた。

『今は泥の球にすぎないが、そのうちテラフォーミングも始める』と伺いましたよ」と。

それについて話しかけても、特に何につながるわけでもなく。
とりあえずそれで良しとすることにして、彼女はまたラウンジの扉を引いた。

今は談話室の中で嵐を見ながら、彼我の様子に想いを馳せていた。

その横を通り過ぎると、婚約者が笑いかけてきた。
「――ラヴィニア、戻ったんだね」と。
無難に流しつつも、彼に気づかれないままにその襟元を凝視していた。

演者はいつだってそう繕っているように感じる。
目立ったり、異質なものには無頓着なのである。
彼女は日に日に大胆に大胆になっていったが、それでもそこの人々の日常には忠実だった。

――品格は保たれなくてはならない、ねえ?
とある疑問を真っ向から尋ねると決めた。答えに焦がれてきた、その疑問を。

「人造の世界……それは、硝子製ではないのかしら?」

「…んん、どういう…?そんなことはないさ、ラヴィニア。そんな些末なものじゃない」

思わず目を見開いて、こめかみがヒクついた。

つまりはあろうことか、そういうことだったのだ。

ドノヴァンは彼女の肩越しに透ける壁を見ながら言った。
「―いつみても愛らしい…そうだろう?まるで君のようだよ…」

が、返す言葉はなかった。
その言葉に確証を認め、決意を決めた。

まるで花びらの渦が穏やかに宙空に舞うように、
彼女は穏やかに軽食類の置かれたテーブルへと歩み寄り、パン類の前で立ち止まった。

ドノヴァンはそのまま喋っている。
「彼らが作った世界では、こういう催しがあちこちで行われるらしいのさ、広く終わりない渓谷でね。
今は不毛な模型にすぎないってだよ、わかるかな。」

その持ち手の上を手を止めて、彼女は聴く。

「だが、やがて賑わうだろうさ、一目見ようと金を積む者たちでね。
そうだ、その未来を考えてご覧よ、ラヴィニア」

息を吐く。実りのない旅路だった、と。
滑らかな木の触感が、自らの手に収まった。

すばやく振り返り、将来の夫へと距離を詰めていく。
振りかざす腕が狙うのは、彼の首。

そしてブレッドナイフの刃は彼の肌に吸い込まれていく。

感慨も、憎しみの火花さえその瞳に散ることはなく、
置く言葉もないままに彼女は彼の喉元を真横に裂く。
そして何が出てくるのかと、じっと近くで観察を続けた。

English

A windstorm scatters petals around terrain behind the walls. Glints of white and sapphire catch the eye, and the youths of the party speak of the change favorably. Like magic. Wonderful.

She comes back into the lounge and witnesses the swirl of artificial nature, the splendor of a farce.

She remembers the first time those flowers were scattered and thinks: she's rather had enough of "remembering".

During the past several hours, she's tested the boundaries.

The windows were locked, the patio doors were barred, and the ventilation ducts were bolted.
The question she had to all this was:
"Are these shut because people shut them, or because I'm trapped in here?"

Metaphor and emotion often swayed the hearts of young girls, she found.It was difficult to determine the reality.

When she'd had enough of poking, prodding, turning things over, and wandering, she began to prattle on with other guests she knew to be acquaintances or friends.

"The weather…"
"The King…"
"You know, the week before…"

Tedious, and uninformative too. Certain lines of questions were met with incredulity or with nothing at all, as if the questions hadn't been asked-- as if she hadn't spoken.

What she mainly wanted to know about-- engineering, technology, progress seemed to especially draw out nothing from the other guests. With her frustration growing, she took to listening in instead, and eventually heard:

"It's little more than a globe of dirt now. We'll terraform it soon, I'm told."

And asking about that… led nowhere as well. That was quite enough to know, however, and so she entered the lounge again.

She stands in it now, watching the storm, and relating to it.

The girl steps past the fiance, who smiles at herpresence. He greets her with, "Lavinia, you're back," and she rests her gaze on his lapel. He takes no particular notice of this.

The players always seem to act in such a way. What stands out, what's unusual, is given no mind. Bolder and bolder she's gotten, but they remain always steadfast to their routines.

To maintain the image, correct? She decides to ask, outright, one question she burns to have answered.

"The man-made world… it isn't made of glass?"

"...Hm? What on...? Of course not, Lavinia. It's not a bauble."

Her eye goes wide. Her pupil constricts.

Of all the things, that had been it.

Donovan looks over her shoulder and through the walls, saying,
"At any rate, isn't it lovely? Almost as lovely as you…"

But she doesn't reply. Recognizing his answer as confirmation, she settles on a decision.

As the spiral of flowers beyond flow almost serenely through the air, she moves to the table of food stuffs, and stops before the breads.

Donovan continues. "I'm told the world they've made will have shows like this across sprawling, endless valleys. Right now, it's only barren. A concept, you know ?"

She stops her hand over a handle, listening.

"But it'll surely be a delight in time, for those who can afford a spot on it. And think of the potential, Lavinia."

She exhales. It's been another fruitless trip. Her hand closes on fine, smoothed wood.

She turns swiftly and steps to the awaiting husband, swinging her hand out toward his neck.

The bread knife's teeth stop in his skin.

Without feeling-- without even a spark of animosity-- she wordlessly cuts across the boy's throat, and watches closely to see what comes out.

 

 3-4 

解禁条件 3-3の解禁 & サヤ(Saya)を使用して楽曲「Cyaegha」をクリア

日本語

覗いたのは血ではなくーー

ーーそもそも、何かですらなかった。

切られた紳士の喉元は惨憺たるもの…であるはずが、記録には「惨憺」とされるものが欠如していた。
そこにあるであろう残忍に引き裂かれたものではなく、あったのは髪のように千切れて
しわくちゃになったような彼の喉元だった。その内は影ではなく、虚無。体のなかにあったのは空虚な
空間だった。疵の端には弱々しく白い光がゆれていて、彼女が一撃を加えるのに使ったナイフもまた、
周囲に小刻みに震える破片をまとわせながら、宙空に浮いていた。

さて、ドノヴァンは理解できていなかった。多くのパトロンたちもまた、同じくに、彼女の凶行に
畏れ慄くばかりだ。崩折れた者に倒れた女性、そしてドノヴァンは喉元に手をやった。数人の男は
彼女へと組み付き、腕は背にやり、首から押さえにかかった。彼女はといえば、ナイフをしっかりと
掴んだままであるものの、狼狽する夫の目を気だるげにじっと見つめるばかり。

自らに組み付く客人たちへと抵抗らしい抵抗もしないまま、ドノヴァンの後方、床の上で深刻な
恐慌状態に陥る娘を見た。その声も徐々に歪み、音量が割れたり、揺れたりし始めている。
その時すでに、その記憶は壊れていたのだ。

実際はこんな展開を迎えたわけではなかった。
今までで一番変化を試みた記憶のなかでさえ、こんな改変を遂げることなどできなかったのだ。
このように平穏な時間に、妻が自発的に自らの夫を襲うなど……

なにかしらの反応を狙った結果、彼女はこのような状況を受けて満足していた。
が、ここまでの記憶の改変は初めてだ。
居合わせた数名は騒動を受けても平然としていたし、また何人かはそもそも顔自体がなくなっていた。
そういう意味では、少なくとも、これは成功だったのだろう。

世界はひび割れ、亀裂は到るところまで奔っていく。
まるで現実が皺のように歪んでいくようだ。

「退屈しのぎに世界をまるごと一つを作る…ね。もっとマシな技術の使い方もあったでしょうに」と、
彼女は独りごちた。

手放したブレッドナイフが虚空に貼り付けられたように動かない様子を見ながら、ため息を吐く。

「『記憶』『残響』『追憶』、そして『硝子』のヒントもなし、ね」

部屋は収縮し、

「これも空虚な夢だったわ」

そして星は割断された。

視界が圧潰していくなか、全ては白く輝きながらぼやけ、曖昧になっていく。
その記憶の中に込められた思い出せる限りの騒音が押し寄せる。
光りと騒音が止むまで、硝子の破片の中、彼女は直立しながらもぎゅっと目を閉じる。
そして微かに燦めく無の空間へ向けてその目を開くと、再度光り輝く痛みの波の中で彼女の精神は捻れ、
そしてもっとも馴染み深くも惑わされてきた世界を見た。

白と荒廃の世界。それは記憶の形をしたアーケアの領域。

「これには期待してたんだけどな」と、手のひらの上でくるくると回るその破片を見ながら彼女は
つぶやいた。
「けど、世界創造に直接関わるものではないし、おまけに無意味だなんて。あーあ、見られるなら、
せめて除去もさせてほしいなあ」

硝片を手放し、それが見つかった場所、地面の上で細く鋭く光を湛える川へと還っていく様子には
目もくれない。手のひらの先を眺めては、サヤという名前の少女はぼんやりと唇に触れながら前へと
歩き出した。直近の記録を振り返りつつ、幾千もの他の記録との比較をしながら。

English

It isn’t blood.

It isn’t anything.

The gentleman’s throat is cut in what should be an awful way... but the memory lacks a concept of what “awful” would be. Instead of a shredded, vicious image, his neck now looks akin to torn and crumpled paper. Inside is not “shadow” but “negative space”: a void inside his body. The edges of the wound flicker weakly with some white light, and off the blade of the knife she’d used to strike him, vibrant shards float aloft... simply hanging in the air.

And Donovan can’t comprehend it. Many of the patrons, too, are in awe and horror of her act. People fall, women faint, and Donovan reaches for his neck. Some men leap for her, pull back her forearm and hold her at her neck. She grips the knife tightly, and with a dull expression stares into the husband’s bewildered eyes.

While she hardly struggles with the guests apprehending her, she spots behind Donovan a girl in absolute hysterics on the floor. The sound of her voice becomes increasingly distorted, beginning to crackle and fluctuate in volume. Already, then: the memory has broken.

This wasn’t how it went. Even the most time-changed memories could not be altered so. For a wife to, unprompted, attack her husband this way during a moment of peace...

She’d hoped to provoke a reaction, and is thus satisfied by this result. Although a few of the other people in the room are unfazed by the commotion, and some even seem to have lost their faces entirely, alteration of a memory to this extent is a veritable first. This, at least, has been a success.

The world begins to crack, fractures appearing wherever she can see. Reality afterward looks almost wrinkled from it.

She says to herself, “Making entire worlds for vacation... Surely there would be better uses for that.”

She lets go of the bread knife and sighs, seeing how it can’t move from the space where she’d abandoned it.

“Not a peep about ‘memory’, ‘echoes’, ‘reflections’—importantly, not ‘glass’...”

The room constricts.

“This was another worthless dream.”

The planet divides.

White blears and obscures, briefly flashing everywhere as the image is demolished. In a rush of every remembered sound contained in that recollection, in that slip of glass, she stands with her eye shut until luminescence and noise fade. She opens her eye to faintly glittering empty space, her mind twists, and after another wave of effulgent pain she sees again the world with which she is both most familiar, and most confounded by:

The world of white and ruins. The memory-shaped realm of Arcaea.

“I’d had a good feeling about this one,” she mumbles, watching the rotation of a shard just above her palm. “But it wasn’t responsible for this world’s creation, and it was almost empty to boot. Hmph. If I can watch them, let me remove them too...”

She dismisses the glass, not looking as it returns to the space where she’d found it: a glinting, sharpened river flowing above the ground. The girl named Saya stares off into the plain horizon, stepping forth while touching her lip absently, and reviewing the events of the recent memory, comparing them all to the wealth of a thousand others.

 

 3-5 

解禁条件 3-0の解禁 & サヤ(Saya)を使用して楽曲「Vicious Heroism」をクリア

日本語

『ーーこれらの他の場所では、人間は神として振る舞える』

彼女はそう学んだ。

右目に花を持つ彼女は、脳裏でその記憶の本を閉じた。過ごした時間は無価値ではなかった、
その殆どが無駄だっただけ。

はじめは苛立ちを隠せなかった。というのも、彼女が訪れた世界は即座にくだらないと
切り捨てたくなるようなものだったからだ。とはいえ、結局そのくだらなさが彼女にとって、
人間の可能性にまつわるとある重要なことを明らかにしたからだ。
まだ今のところ、それはさして重要ではないとはいえ。

「どうやって?」にまつわる仮説より、「なぜ?」という仮説のほうが自身を前へと駆り立てた。
答えを求めた無鉄砲か、それともただ答えに指先が掠れればよいとするものか、
これは世界の廃墟へと向かう、彼女のもう一つの旅路だ。それが彼女の原動力だったが、
200を超える記憶をやり過ごしたのち、彼女にとっての別なるの原動力が現れた。

「アレの復元につながる可能性のあることは特になかったかあ…」と独り嘯きつつ、近くにあった
硝片の流れから一つを招き寄せた。「けど、少しは時間を掛けた価値があってよかった、かな」

硝片のそのきらめきが視界を奪うままにして、彼女はその過去の風景を詳しく検分し始めた。
ぼんやりと、「もうすぐ家ね…」とつぶやいて。

その欠片を手のひらの上に漂わせながら、今ではもう慣れ親しんだ橋の上を渡っていく。
彼女の左には無作為に積み上げられた街だったかもしれない瓦礫の山があり、
右には混沌とした硝片と見分けなどつきそうもない岩の群れがそこにあった。
自身が「生まれた」場所を目指して、その長い道のりを悠然と歩いていく。
どれだけかかるのか気にもとめずに。

どれだけかかろうと、ただ必要なだけ足を伸ばして、彼女は朽ちた4つの壁の前で立ち止まった。
その間にはきらめいて光る巨大な水晶球があった。その形を満たすことなく砕けて、
割れた甲羅のような、水晶球だったものが。その断面からは笑み、涙、死、そして祝福などが
きらめいていた。花に野原、砂漠、大海……動物に人に、技術など。

記憶の破片を継ぎ合わせることで世界の復元ができるかどうか、彼女は知らない。
そもそも、このように継ぎ接ぎを繰り返していくことで、本当にそれぞれを繋げられているのかさえ
よくわかっていないのだ。けれど、試すことだけは出来る。

今まさに持ってきた新しい硝片を少しだけ眺めて、
「さあ、次はどんなものをみせてくれるのかしら」と彼女は言った。

そうして燦めく硝片は開き、少女は新しい時間の中へとほどけてゆく。
またたく間に、その目にはきらびやかな人工の光が満ちる世界が写り、
途切れることのない人混みと夜の闇を越えて天にまで届くほどの無限の塔らが映っていた。
風を切りながら唸る暗い色の乗り物が通り過ぎると、彼女の胸には得も知れぬ不快な感覚が漂い、
独特の不協和音が耳を支配した。新たなアイデンティティと、新たな過去でその身を包みながら、
そして彼女は無感動に観察する。

脳裏に数百もの疑問が浮かぶが、やがてその答えを彼女はすべて見つけるだろう。
何を為しても、何を引き換えにしようとも。

English

"In these other places, humans can act as gods."

That is what she learned.

The girl with a flower in her eye closes the book of that memory in her mind. It hadn't been completely worthless, only mostly.

It had frustrated her at first; the world she had visited was one she had quickly deemed frivolous, but the frivolity revealed something important to her about the potential of mankind. Stil… for now… that wasn't very important.

More than theories on "how", theories of "why" compelled her onward. This had been another of her journeys out through the ruins of the world in a scattershot hope of discovering that answer, or to even brush against it tangentially. That was always her focal drive, but a secondary one had been made manifest after she'd witnessed about two hundred of the memories.

"It didn't have anything new for a potential reconstruction," she whispers, beckoning a shard from a nearby, sparse stream of glass, "but I suppose it's good that it had some sort of value."

She lets the gleam of the new piece catch her eye, and she scrutinizes the vision of the past it offers, muttering absently, "Almost home…"

She carries the fragment over her palm, crossing a bridge with which she's become very familiar. On her left is a haphazard pile of what once might have been cities, on her right is a chaotic mass of glass and stone-- recognizable as nothing. She marches the long way back to the place where she was born", uncaring of how many steps it takes.

She takes however long she needs to reach and stop before a place of four fallen walls, between them an immense sphere of shimmering crystal-- an unfinished sphere broken apart, like a cracked shell, Smiles, tears, deaths, and celebrations flicker in and out its facets. Flowers, plains, deserts, oceans… Animals, people, technology…

She doesn't know if she can recreate a world by piecing together memories. She doesn't even know if she can truly "connect" them at all by gathering them together like this… But she can try.

She squints lightly to the gleam of the new piece she's brought. "Let's see how much you can show me," she says aloud.

So it opens, and the girl fades into a new time. In short order, she sees a world brimful with artificial glow, crowded by endless and nigh-infinite towers of man reaching through clouds of an evening sly, and dark vehicles roaring through the air. An unpleasant atmosphere flows into her lungs. Cacophony flls her ears. As she assumes an identity, assumes a new past, she looks on, unmoved. A hundred questions rise in her mind… She will have them answered. No matter what that takes, no matter what needs to be done.

 

Crimson Solace

実装:ver.2.4.0(19/10/08)

 

 4-1 

※スチルイラストが付属しています。(Illustration : 純粋)
解禁条件 楽曲「Paradise」のクリア

日本語

終わりのない一日というのはきっと、ひどく倦怠感を感じさせることだろう。
ましてや過剰なほどの日照りのもとで過ごし続けるなんて、誰でも月と夜がの恋しくなる。

その少女にとっても、そのあたりの感傷は同じであるらしいかった。

「夜のこない日が、80日?」
「夜がこないまま、7ヶ月?」
「もう1年……になっちゃうかな……」

空の白さが、彼女が家と呼ぶ家屋、その壁のひびからまた手を伸ばしている。
どうやら、なぜだかそれが当たる場所に寝転んでしまっていたようだ。

「もー……はやく誰か明かり落としてってば……」
そんな声を絞り出すのだった。

それでも、なんとか体を起き上がらせた。ややあって目をこすり、緩慢に腕を持ち上げると、
キリリと伸ばす。ようやく立ち上がって、ドアへと向き直る。
この、境目さえ曖昧なArcaeaの世界にて、
また新たな「一日」を始めるため、彼女は息を整える。

冒険は常に喜びに満ちているわけではないし、旅行もまた何か発見につながるわけではない。
それでも、自身の白紙のようにまっさらな記憶といっしょに目覚めてから、ずっと変わらないものが
2つだけ。

それは彼女の心と空だ、限りなく、ずっと輝いている。

「よーっし……!」と、密やかにつぶやく。
「まずは、準備運動から!」

そうして、彼女は眼前へと手をのばす。すると、近づいてくるのは透明な板。
それは記憶の硝子ではなくーー
Arcaeaでもないーー
どこにでもあるような板でありながら、そのサイズは大きかった。
十分に近くまで引き寄せると、その上に飛び乗ってまた次の板を呼び寄せる。

彼女が見つけた拠点は古びた砂浜沿いの家屋で、それは周囲に広がる寄せ集めみたいな街々からは
離れた、寂れた小島の上にあるものだった。海なきその岸辺には、波に打ち寄せられた貝殻のように、
海岸線に沿って家々がまばらに散在していて、その島の奥地にはどこか奇妙な白い木製の巨大な
柱状のものが乱立する平原があった。砂浜のその家は、少女の手が届く限り好き勝手に、内外問わず
少しずつアレンジされていた。そんな家屋の壁と窓をさっと動かすと、間に合わせの階段を作りあげる。
レーストラックやトンネルを作るためだ。機敏にそれを駆け上がって、輝く通り道をその足で感じながら
走り抜けていく。

必要だったのは受け入れるための、ほんの少しの時間だけ。目覚めてからの数日は、
自分の思うままにこのArcaeaの世界を変えるのは、簡単なことだったから。

けれど、彼女の足元より遥か下の、水が果てた海底で何かが煌めく。
何かが、水面のあたりに散りばめられている。

ちらりと目を配ると鼻を鳴らして、にやりと微かな笑みを浮かべた彼女だった。

English

An endless day could be dull. Spending too long under an overeager sun—anyone would start to
yearn for a moon.

Even for her, that sentiment holds true.

"Eighty days of light?"
"Seven months of light?"
"A year... maybe..."

The white of the sky has once again broken through the cracks in the walls of this place she calls
home, and it seems her sleeping body had found the rays while rolling over the floor.

She grumbles, "Turn it off already..."

But still, she picks herself up.
Still, she rubs her eyes and stretches her arms.
She stands and finds the door, ready to face another "day" in the seemingly boundless
world of Arcaea.

An adventure that hasn't always been a delight, and travels that haven't always led to discoveries.
Despite that, ever since she'd first awakened a tabula rasa, two things have always remained
consistent:

both her heart and the sky have always been shining.

"Alright...!" she says under her breath. "Some exercise first!"

She holds out her hand before her and a section of glass flies her way.
Not memory glass—
Not "Arcaea"—
It is an ordinary, typical sheet, albeit a large one. When it spins close, she jumps onto it,
and immediately calls another.

The home she found is an old beach house on a lonely island apart from the abandoned
mélange-cities found everywhere else in the world. It's a beach without an ocean, houses
scattered around its shores like abandoned shells; and deeper inland is a field of strange, gigantic
poles of white wood. The homes have been picked apart over time, from within and without, in
her tampering. Now she whisks away their walls and windows to create a makeshift set of stairs—
to make a racing track, and then a tunnel. She quickly leaps and runs through the gleaming
passage, if only to give her legs feeling.

All this took was a little acceptance. Days after awakening, it was a simple matter to make the
world of Arcaea bend to her whimsy.

But far below her, just above the sands of the phantom sea, something glints: something sparse
and scattered throughout the water.

Throwing a glance that way, she huffs a breath from her nose, and sports a weak smirk.

 

 4-2 

解禁条件 4-1の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Party Vinyl」をクリア

日本語

少女の足元のガラスは簡単に操れる。だがその奇異な硝片ーーArcaeaは少々、いや、
呆れるほどに御しがたいものだった。この記憶の世界ではその硝片がほとんど少女には寄り付かないし、
そればかりか、あくまで閲覧したり散策出来る程度しか記憶に干渉出来ないようだった。

子供っぽく鼻を鳴らすと、そのガラスのプラットフォームから飛び降りる。
その後ろで、彼女が作らせていた造形物が一部分ごとに崩れ落ちた。
自身のその身を重力が捉える前に右腕を伸ばすと、拠点のベッドにあった毛布を呼び寄せて、
心地よさそうにその身に纏わせた。そして次に呼び寄せたのは、柔らかくも重いもの。
数瞬の落下ののち、彼女を受け止めたのは怠惰の玉座、つまりは豪奢だが色味に欠けた意匠の
肘掛け椅子だ。そうして彼女はその身を預ける椅子ごと、拠点の上空に自身を浮かべると、
細目に遠景に見える墓標のようなビル群を眺めた。

彼女はまた、満足気に息を吐いた。もう一朝、爽快な早朝に一走りできる、と。そこで、
いまだ遠いものの、思考が面白くない方に気を取られる。それはこの世界の規模だとか、そこにどんな
事物があるかとか、そういうものだ。そもそも自身がこれまでに見てきたのは、一体その何割程度なの
だろう? 3分の1? または16分の1だろうか? あまりにここは莫大で、そして集められた記憶もまた
膨大だ。風のない中空で肘掛け椅子を揺らしながら、落ちる瞼にも構わずに彼女はその事実を考証する。
ともかくここは広大で、古きも新しきもごちゃごちゃと混ざりあった場所だということ。加えて、おそらく
この世界は彼女のためだけに用意された摩訶不思議なもの、というわけでもないらしいと感じていた。

目を開いて、燦々と明るい空を視界に飾る。

どこかで、もしかしたら世界の反対側にて、星々が空に満ちているのだろう。その空の下、
もしや他の少女たちが空を見上げては、まだ見ぬ陽光へと思いを馳せているのかもしれない。

朱の少女は毛布の前の端を掴むと、肩のあたりに巻きつけた。

終わり無き一日というのは常に新たな始まりがあるということでもあり、
またこの旅路の果てに待つものを誰も知らないということでもある。

English

The glass beneath her feet bends so easily, but the peculiar glass—the Arcaea—has always been
somewhat... no, absurdly recalcitrant with her. In this world of memories, hardly any recollections
will follow her, and most can only be viewed or visited.

In an almost childish huff, the girl jumps from a crystal platform. Behind her, the structures she's
made all collapse, piece by piece. Before gravity fully takes her, she holds out her right hand,
calling for the blanket from her bed and swirling into it joyously. Then, she calls for something
heavy, something soft. In a few moments after falling, she is caught by a throne of indolence: a
hefty, colorless armchair. Thus, she sits, hanging in the skies above her home, half-gazing at
tombstone horizons.

She exhales again; she's pleased, satisfied. Another successful lovely "morning" run. Still looking
out to the distance, her thoughts drift to less pleasant places: to questions about the size of this
world, and what else it might contain. Has she even seen a third of it? Even a sixteenth? It's a
too-big place, and there are too many assorted memories. As she rocks along the windless air, she
lets her eyelids drop and she considers that fact. It's some immense place; it's some old and
mish-mash, jumbled place. She feels it probably can't just be a world of wonders and oddities
exclusively meant for her.

She opens her eyes to the bright sky again.

Somewhere, perhaps on the other side of the world, that sky is full of stars.
Under that sky, perhaps other girls are gazing upward and wishing for daylight.

The girl in red grips the front of the blanket wrapped around her shoulders.

Days without end mean it's always a new beginning, and no telling what a journey will hold.

 

 4-3 

解禁条件 4-2の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Flashback」をクリア

日本語

「ん、でも……」
空飛ぶ肘掛け椅子により深く身を預けながら、独白する。

「この空の上、太陽はある……のかな……?」

つぶやきながらも遥か天井に目を凝らし、静かに考えを凝らし始めた。

だとしたら、光をここまで均等に散らしているのは一体なんなのだろう?

今になるまで、彼女の旅路は常に前向きだった。
ーーならば、上に行ってもいいんじゃないかな?

悪戯好きそうな笑顔がその顔に閃く。

思うが早いか、椅子の上に立つと毛布を空へと手放した。ひらひらと降下する途中で、木造の柱が
宙空に打ち上がる。椅子から飛び降りて、迫りくる柱から生えた短い鉄棒をしっかりと掴む。
柱の側面にも保険程度に足をかけると、さっとそれに目を向けた。それは柱だ、そしてそれが他の
世界では動力と情報を運んでいた類のものだということを、彼女は知っている。自身の片足を、
ひとつ下に突き出た鉄棒に置き直すことで、片手片足を自由なまま、地面から遥か遠い中空に
浮遊している。旧世界の壊れた異物上にて。

彼女は再度眼前の地平に広がる、都会とその郊外へと目を凝らすと、やがて視線を上へと持ち上げた。
この飛行をどれくらい続ければ太陽が見えるまでたどり着くのかはわからない。
が、一応梯子は必要だろうことは分かっていた。

すると眼下の家々が、彼女の拠点を除いて、更に壊れては崩れていく。羽目板、ベッドフレーム、
大型の衣装箪笥、そして窓までも上へと上がってくると、彼女が崩した瓦礫群はさらに細かくされていく。
全てが堅実かつ強固に、一つの明確な形へと集合していく。しかし少女は建築家ではない。ややあって
出来てきた彼女の塔は天へとそびえ立ちつつも、その様相はおんぼろで、奇妙かつ鋭利に、
鋭角に伸びつつあった。

とはいえ、彼女のいる孤島は資源が豊富なわけではない。使える資材が尽きた後、苦々しい顔で
道半ばの自身の造形を眺めた。わずか上空1キロにも届かないその塔に苛立ちのようなものを感じて。

不機嫌になりながら、おもむろに地平へと向き直ると、その手のひらをそちらに向ける。
集中して、集中して、引き寄せようとする……が、何も起きることはない。

だが、それも当然ではある、そういうものだからだ。
彼女は熟達していて強力な使い手かもしれないが、神ではない。

English

"Hm, but you know..."

She mutters to herself, eased into her flying seat.

"Is there a sun up there, I wonder...?"

She squints at the heavens above, and quietly contemplates.

What makes the light so evenly spread throughout this place?

Until now, her travels have always been forward, so… Why not try upward?

A mischievous smile flashes across her face.

She stands in her chair and drops off the blanket, letting it fall toward the ground. As it drifts drown,
a wooden column launches up past it. She jumps from her chair and grabs hold of the new arrival by
a short, metal bar. With her feet planted against the column's side for security, she gives it a longer
glance. It is a pillar, she knows, used in other worlds to convey power and communications. She puts
one foot down on another bar below, and like that—with one leg and one arm free, far above the
ground—she stands boldly on a broken piece of an old world.

She gazes to the urban and suburban sprawl on the horizon one more time, and then turns her
gazing upward. She can't be sure how far flight will carry her: she knows she'll need a ladder to be
safe.

The houses below, hers excepted, start breaking down even more. Panels, bed frames, armoires
and windows glide upward, and the debris she used and let collapse before is torn out of the sand.
Everything begins to amass, surely and steadily, into a defined structure. But the girl is not an
architect. Her tower is ramshackle, slowly building toward the heavens at odd, sharp, and often
sudden angles.

Unfortunately, her island is not replete with usable material. After running out, she frowns halfway
at her design, feeling annoyed that it cannot even reach a kilometer into the sky.

Grumbling, she turns her eyes on the horizon again and lifts her palm toward it.
She concentrates, pulls... and nothing happens.

But that's only natural. That is of course.

As powerful and masterful as she may be, she is no god.

 

 4-4 

解禁条件 4-3の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Paradise」をクリア

日本語

がっかりしたようにその手を下ろした彼女は、改築に踏み切ることにした。塔の代わりに、
螺旋する階段にしようと。1時間が過ぎ、2時間、3時間と過ぎて、さらにもう2時間が経過したころ、
彼女はようやく一仕事を終えた。自身としても満足ができる出来だった。外観はまだまだあべこべで、
やや出鱈目というにも過ぎる出来だったが、この融合じみた作品は少なくとも先程のものよりは、
よほど実用的であると彼女は確信していた。褒められてもいいくらいだ、と。

新しい造形が完成したことで、一刻も無駄には出来ないと彼女は上昇を開始した。そばに浮かび、
落ちた彼女を受け止めるための肘掛け椅子とともに、螺旋階段を一段一段、一歩一歩登っていく。
少女が道を進むたび、最下層の一段を最上部へと持ってくる。
やがて彼女が登っているのは永遠に構築と解体を続ける階段ともいえるものだった。
立ち込める霧の層を抜けて、最高高度まで登っていく。

その道程はとても長いものとなった。途中に椅子で休んだり、明るい夜を眠り明かすことさえあった。
そうして、概ね4日を過ぎたころだろうか、天国がようやく視界に捉えられるようになった。ここで
彼女が知ったのは、「『天国』とはどうやら、莫大で穿てそうもない分厚い雲の壁のことらしい」という
ことだった。

彼女の進行は最下層の一段が上に置けなくなったところで止まった。ふわりとした空気によって阻まれ、
更に上へと行くことができなくなったのだ。その一段を退かせて、自身の側に待機させると、
覚悟を決めた目で、残ったひとつづきの階段へとその身を急がせた。

最上部にて、間に合せの土台を作るために部品も、ガラスも、柱も下から呼び寄せて、
彼女はその上で頭上へ、雲へと手をのばす。白い壁はその接触を拒んだが、
それでも押し切ろうとした。つま先立ちになってでも、その先を見ることが出来ないかと。

やがて、それは叶わないと知った。

「うそ……?」思わず声に出ていた。

しかし落胆したそのとき、視界の端に何かが煌めいた。

彼女の右側の際から輝くモノ、というより、輝くモノの群れが、彼女の去った雲から降りてくる。
その様子は不可思議なものだ。

よく見れば20個ほどの、もしかしたらそれ以上のArcaeaが、彼女の元へと接近しつつあるのが見える。

そして朱の少女は気づく、人造の足場の上に立ちながら。
この空のないArcaeaの群れの中で、慣れ親しんだなにかの気配を感じるような、
まるで自身に縁のありそうな記憶の欠片たちを見つけたことに。

English

She drops her hand in defeat and decides it's time to renovate. Instead of a tower, a spiral set of
stairs. After an hour, and another hour, and another hour, and two more, her work is finally done
and she is impressed with the result. It still looks ridiculous, and more than a little haphazard,
but this amalgamation, she is certain, is much more sensible. She figures she deserves a pat on
the back.

With the new formation complete, she wastes no time in beginning her ascent. One by one, step
by step, she rises with her armchair floating close by, ready to catch her should she fall. As the girl
makes her way, she pulls from the bottom of the stairs and sends those steps to the top. Soon
after, she finds herself climbing an ever-building, ever-breaking staircase. Through layers of fog,
to the highest point.

The trip becomes a long one, during which she sometimes must have a seat or even sleep through
the "night". And, maybe after what would be four days, heaven comes within her sight. And she
learns this: "heaven" is an immense and impenetrable wall of clouds.

Her progress is halted when a step she sends from the bottom refuses to become the top, stuck on
the fluff of the air and unable to move any further up. She withdraws it and leaves it to hang
beside her. And, with a determined gaze, she rushes her way up the final flight.

At the top, the girl fans the pieces, panes, and pillars out underneath her for more of a platform,
and she lifts her hands over her head—into the clouds. Here she finds that the white resists her
touch, but still she pushes on, standing on the toes of her boots to see through if she can.

And here, she finds, she cannot.

"Really...?" she wonders aloud.

But in her moment of despondence, something catches her eye.

Out the corner of her right: a glint. In fact, a bevy of glints, dropping from the clouds after she's
gone and disturbed them.

She looks, to find a small crowd of perhaps twenty Arcaea—perhaps even more—coming toward her.

And the girl in red realizes.

In these sunless skies of Arcaea, standing on an invented ground, she has found the first group of
memories in this world which are inextricably attuned to her.

 

 4-5 

解禁条件 4-4の解禁 & 楽曲「フライブルクとエンドロウル」のクリア

日本語

周囲一体にはよい香りが漂っている。

聞こえてくる、人々や子どもたちの声。

雰囲気は、明るく活き活きとしている。

誰かが料理をしている、パンを焼いているのだろうか?
家屋の外、街路沿いにまで流れてくる美味しそうなにおいは彼女にも嗅ぎ取ることができた。

見上げれば、雲ひとつない空に一つ輝く太陽が登っている。

これが新しい記憶の世界、そして彼女はその感覚を全身で浴びながら、
その場に立ち止まって全身に受ける感覚を楽しんでいた。

これはとある熟練工のお手伝い、お使いの途中の少女の記憶だ。
どのような職人のお手伝いであったのだろうか?
薔薇色の髪の少女はまだ、その詳細を知らない。だが、さしてそこに関心があるわけでもなかった。

この世界はーー

「す、ごい……!」

ーーなにかの幻想なのだろう。

口をぽかんと開けたまま目を輝かせ、彼女は見れる限りのものを全て見ている。頭上には色紙や布が
屋根から屋根へと結ばれており、まるでそれはフリルのついた電線を思わせる。けれどその実、
電線などではないそれらが与える印象はお祭りのそれだ。舗装された街路に、
赤レンガで組まれた家々、そして黒々とした煙を吐き出す煙突たちすべてが、彼女が今立っているのが
古き良き町、もしくは街だろうか、だと告げている。

他の記憶の書庫で見た、生き物の人形を売る屋台以外には、太陽をモチーフにした円形のネックレスや
護符、お守りの指輪などを売る屋台が通りには点在している。派手派手しいというわけではなく、
けれどパレードでもするような格好を見て、街の人々が自分と少し似た装いだな、と少女は感じた。
見える世界はカラフルで、暖色系の色をよく使いながらも、紺碧の装飾があちらこちらで印象的だ。
やがて少女が歩き出すと、大道芸の類も目に入るようになってきた。
啓蒙し、警告し、聞くであろう者全てを楽しませる吟遊詩人などもいる。

散策しながら、彼女は少しの間、お菓子の類を見ることに時間を費やした。むしろ少しどころか、
警戒されない限りずっと見ていただろうか。散策し、見分し、やがて鮮やかな赤いピースが彼女の目を、
特にその心を捉えたものが一つ。
それは、いちごのタルトと呼ばれるものだった。

弟子の手持ちを使って確保した1ピースをその手に乗せ、待ちきれないようにその砂糖のコーティングを
歯で破る。すると、一つの輝く真実を確信する。この場所はとても素晴らしい場所だと。
信じられないくらい素敵だと!幻想的な世界に、特筆すべきほどの甘味の喜びがここにはある。
そう思った。

彼女は、この記憶の世界を特に心地よく、そして幸せに感じた。熱いものを胸に感じながら、
その足を進めるペースを早めた。スキップをするように、息を吐きながら、
つま先やかかとでクルリと回りながら、すべての曲がり角を曲がっていく。

English

On the air, the fragrance of incense.

Resounding, the voices of townsfolk and children.

The atmosphere, light and fresh.

Someone's cooking—baking—and she can taste the savory scents drifting outside and along the
streets.

Looking up, she finds a sun hanging bright in an empty and blue sky.

This is a new world of memory, and she basks in the sensations of it, remaining still to take it all in.

It's the memory of an artisan's helper: of a girl in the middle of an errand.
What sort of artisan was the helper an aide to?
The girl with the rose-colored hair hasn't grasped those details yet.
But she isn't very interested in them.

This world—

"Just look at it...!"

—it's some sort of fantasy.

Mouth agape, eyes glittering, she looks absolutely everywhere. Overhead, colored paper and fabric
ties rooftop to rooftop, evoking the image of frilled power lines. But they give the impression of a
festival, as power lines they are most definitely not. The flagstone streets, red-stone houses, and
chimneys spouting black smoke tell her this is an old-day town, or perhaps city, she stands in now.

Stalls offering curious circle- and sun-shaped necklaces, talismans, and rings of charms dot the
walkway, beside other stalls selling figures of creatures she's seen before in libraries of other
memories. The townsfolk dress, she thinks, a bit similar to her: as if a parade is on, but not one
too bombastic. It's a colorful world, favoring the warmer colors of the spectrum, though splashes of
azure decoration arrest the eye here and there. As the girl starts to wander, she finds performances
too, and troubadours teaching, warning, and entertaining whomever might listen.

She spends some time during her wandering on samples of confections. More than some time, in
fact: as much time as she can without drawing suspicion. And as she wanders and samples, one
brilliant red morsel strikes her eye, and her heart, very much in particular. A strawberry tart,
it's called.

She gets her hands on it with the apprentice's coin, takes a bite through its glaze, and with that
she is certain of this shining truth: this place is very lovely. It's incredibly nice! A fantastical world,
and one with a notable appreciation for the more sugary delights of life.

She finds herself particularly happy about this world of memory. Feeling zealous, she quickens
the pace of her steps, leaping forward, gasping, and spinning on her toes or heel as she turns
each and every corner.

 

 4-6 

解禁条件 4-5の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Nirv lucE」をクリア

日本語

走らないように気をつけなきゃ。それを強く意識していた。彼女としてはこの街の隅々の些細なことまで
注視しなくてはならないと思っていたから。四角い建物の外に貼られた看板を見て、
ここが世俗から離れた宗教的な場所だと知る。ここではどうやら妖精や精霊などが信仰されている
ようだった。神や悪魔、妖怪までも。眼前でパフォーマンスを続ける演者たちの様子は幻想的で、
奇妙で、そして信じられないものだ。現に全ての演者たちは、自らが行使しているものが魔法だと
心から信じている。たとえばその手中で煌めく粉に火を点けて煙を読み、雲を呼びよせることで
まじないを観客にかけている。はたまた、水たまりに語りかけ、その波紋から運命を詠んだりして。
また、彼らによれば、ひと目では分からない仕組みのようだが、目の前の光を操ることで
その他の存在と交信することも出来るらしい。

この世界は素晴らしく、また不可思議なものに満ちている。
驚きや歓喜、そして全ては見間違いようのない演出だ。

古き趣ある大通りを散策していると、この記憶に纏わることがゆっくりと伝わってきた。
どうやらこの場所は演技や見せかけ、偽りに満ちているようだ。
事実ではなく、伝統だけが過剰に尊ばれている。

だが、彼女が街の外縁部、外との境界に差し掛かり(なお、これはこの記憶の境界でもある。
小さなバリアのようなものを越えようとすると、何らかの障害にふれることになるのだ)――行く手を
阻む低く簡素な木柵の先にある、新緑に覆われた平野を眺めようとしたときのことだ、遠くには堂々と
立つ古きオークの木がまばらにあり、更に離れた湖の煌めきもはっきりと見える――ふと、彼女は
おぼろげに理解した、なぜ人が確証のないものでも信じるのかを。自分自身、宙に浮く硝子のある
世界から来ているのだ。いたずら好きの妖精が原住していそうなこの世界の信仰をどうして
否定することが出来るだろう?どうして論理や自然を超えた概念を拒めるというのだろう?

これはとある熟練工の助手の記憶だ、そしてその熟練工とはいわゆる魔術師、
空想上の存在とされるものを探求する存在である。彼女が意識を間借りしている少女は長い間、
彼の研究がいずれ行き詰まることを知っていた。少女が推察する範囲では、おそらくその研究の目的は
そもそも何かを証明することではない。信仰に励み、自身を高めることこそがその目的のようだった。

朱の少女は吹き出すように笑い、切なげな笑みを浮かべた。だったらとてもおかしな考えだ。
柱に手を預ける彼女の髪を風が撫でる中、西にある古の森とわかる場所が目に入った。
これは飽くまでも単純なお使いを果たすためだけの記憶だ、
あまり遠くへ行けないのはそういうわけだろう。

だが彼女はまた、ここに、別の記憶で戻ってくるという確信があった。
この技術と魔法に満ちた土地は、自分にとても合っているようだったし、
あのArcaeaの世界の天辺にあった硝片の群々も、他の硝片やここで見た以上の他の側面を
含んでいるように思えた。うきうきするような心地で、彼女はドレスの前端をぎゅっと握りしめる。

本当に最高の心地だ。現に彼女の表情に浮かぶ笑顔は、
口の端からどこか落ち着かないようにひくついている。
こんな高揚感を感じたのは、なんだか今までにないような気がした。

English

She must be careful not to run. She thinks, she really must observe every little part of this town
closely. Reading signs posted outside of square buildings, she learns that this is a spiritual
place. It's a land that believes in fairies and spirits; in gods, daemons, and youkai.
The performers she sees are performing the "fantastic", the "strange", the "impossible".
Indeed, every one of them is absolutely certain that what they are performing is magic:
"casting spells" by igniting vibrant powders in their hands to flame, smoke, and clouds;
"divining fates" by speaking toward still pools of water and interpreting the ripples within;
"communing with other beings", they say, by manipulating lights before her eyes in a way she
can't actually determine the mechanics of in a glance.

This world is rich and full of belief: it is marvelous, wondrous, and all an unmistakable act.

While strolling down the quaint avenues, the memory itself slowly informs her that every
part of this place is truly performance, artificial, untruth. Deeply valued tradition, but
absolutely not truth.

Yet when she reaches the city's outer limits (and the memory's, with any attempts to cross a small
barrier met with resistant reality)—when she gazes out to the verdant hills beyond the low and easy
wood fence that has stopped her; to the few but imposing old oak trees, and the clear sparkle of
some distant lake... she understands, somehow, why one might believe in something even with
sound evidence to the contrary. She herself comes from a strange world of flying glass; why deny
the belief that a world like this could be inhabited by trickster fairies? Why reject the idea of things
surpassing nature and logic?

This is the memory of an artisan's helper, and the artisan is a so-called sorcerer who researches the
existence of fantastical things. As the help, the girl she is living through has long known that all his
research leads to dead ends. The purpose, she speculates, is not to really prove anything. It is to
embolden one's beliefs and be better for it.

Now the girl in red puffs a joking breath and smiles wistfully. That's a funny idea. With her hand on
a post and wind flowing through her hair, she spots what she knows to be an ancient forest west
from here. This is the memory of completing a simple errand, and perhaps that's why she is unable
to travel too far.

But she's sure she will be back in another memory. She thinks this land of artifice, magic, and show
very much suits her, and that crowd of glass she'd come across at the top of the world of Arcaea
reflected more facets of the world than this within its other fragments. With a giddy feeling, she
grips at the front of her dress.

It's truly incredible. The smile on her face starts to wriggle anxiously. Somehow, she has never felt
exhilaration quite like this before.

 

 4-7 

※スチルイラストが付属しています。(Illustration : 純粋)
解禁条件 4-6の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「Diode」をクリア

日本語

もう20回、それともそれ以上?とにかく数えることはもうやめていた。

「よーっ…し…」

息が切れて掠れた声で、未加工の木で出来た箱の前でかがむと、手のひらをその上辺に滑らせた。
波立つように埃が上がり、そのまま床に落ちる。そうして、彼女は留め金を外し、箱を開く。

今の彼女は古文書の保管係で、北にある、かつて洪水で国土を失った古き城を探索している。
ありがたいことに、この箱の中の紙は箱自体の湿気からは一命を取り留めているようだった。
古き蝶番が奏でる軋みを背景に、彼女の相棒が別の部屋から成果物について訪ねてくる。
「4世紀ごろの巻物だよ」と肩越しに声を返してやる。うち一つを手にとって広げれば、
人々が意地悪な妖精に対してどのように対処してきたのか、その歴史が詳らかにそこに記されていた。

この手の書物は彼女にとって喜ばしいものだった、特に妖精とされてきたものについて、過去の人々が
どんな物と混同してきたのか、自身なりに考察していたところだったから。昨日は語り部として、脈々と
語り部の先祖から受け継がれてきた冒険譚を楽しげに説くに務めた。中でも、とある先祖はかつて、
膨大な数の宝をはるか遠くのどこかの湖畔に集めたらしい。が、湖からの帰路にて風の精シルフに風で
船を揺らされて、さらに居合わせた水の精ナイアスに船を転覆させられてしまったのだとか。
その後、二柱の精霊は手に入ったその宝を山分けしたとあるが、一連の不始末の言い訳としては
なかなか大掛かりなものだろう。

それでもこの話の解釈としては、慈悲深いものも悪意あるものも、どちらもそんな存在が辺りにいる
というもので良いような気がしていた。そうして、古文書の保管係としての一日が終わると、休息を
取るため、今では一時しのぎの拠点である足場へ、Arcaeaの世界へと帰還した。次に訪れた記憶は
学校教師のものだ。この混沌とした自然と急な危機、そして散漫な人々に満ちたこの世界で、教訓や
ルールを教えることで子供や大人を危険から遠ざけることがその仕事である。

授業は魔法の存在によってとても教え甲斐があり、聞き甲斐もあった。ここはやはり喜びと魅力に
満ちていて、記憶を通して訪れずにはいられなかった。Arcaeaの硝片をそれぞれ巡るたび、
人々の顔はどんどんと見慣れていくし、訪れる場所も他のもの、匂いや風景、
全てを通じて記憶に刻み込まれていくようだ。

全てが信じられないくらいに素敵で、懐かしかった。

天国と彼女が呼んでいる雲の麓で、見つかる限りの記憶の硝片は全て巡り終え、
彼女の知る限りの場所を探索したとき、ようやく喧騒に満ち、手に負えないほどに賑やかなお祭りの日
(とは言っても時間帯は夜だが)の記憶に来ることができた。
これは収穫と生誕の神に感謝を捧げるものであり、かつ悪しき精魂を遠ざけるためのものでもある。

まもなく彼女はランキャスターとハワードという街の民を見つけた。二人は建築を担っている
紳士的な人物で、最後に訪れた記憶で会ってからは数年が経過しているようだった。
けれど二人は変わらぬ精悍さで挨拶をすると、彼女にりんご飴を寄越した。
甘味など渡されては是非もない、何よりも幸せになってしまう彼女であった。
ふと彼らが空を指差す、するとそこには幾千もの鮮烈な色々が閃いていた。
それぞれは神へ、命へ、そして生きとし生けるものへと向けたものだ。

けれど、こんなに素敵な夜であるというのに、彼女には響かなかった。
もの寂しさや、新しい体験への喜びなどで心が高まるでもない。

なぜなら彼女は、これを思い出したから。
この人々がなぜここにいるのか、知っているから。

そうして、この慣れ親しんだ最後の夜の記憶にて、彼女は花火が空に満ちるのを見た。
涙を浮かべながら、その心中の痛みを感じながら、自身が満たされるのを感じていた。

English

Twenty times? More? She's stopped keeping count.

"Al...right..."

With that whisper under her breath, she crouches in front of a chest made of unfinished wood,
swiping her palm across the top. A wave of dust rises off of it and falls to the floor. She unclasps the
front and opens it up.

Today she is an archivist, exploring one of the old castles in the North, where they had lost land to
flooding. Thankfully, the papers inside this chest were spared from moisture by the chest itself.
Hearing the creak of ancient hinges, her partner calls from another room inquiring about her
discovery. "Scrolls from the fourth era," she answers over her shoulder. She takes one of them and
unfurls it, revealing the history of her people's dealings with the Unseelie.

Stories like these amuse her, especially as she tries to guess at what the previous generations might
have confused for fairies and the like in the past. Yesterday, while working as a storyteller, she had
the pleasure of recounting an old passed-down yarn of the teller's ancestors. Some forefather had
once gathered a vast treasure on a faraway shore. On the return across the lake a sylph rocked his
boat with wind, and a passing naiad capsized it with waves. Afterward, the two shared his fallen
wealth. It was quite an excuse for a bout of clumsiness.

But still, she knows it proves nice to think these creatures are around, malevolent and benevolent
both. When her day as an archivist is done and she's returned to the world of Arcaea to rest on the
platform which is now her temporary base camp, she visits the memory of a school instructor and
teaches lessons and rules that would keep any child or adult safe in a world replete with chaotic
nature, sudden perils, and careless people.

The context of magic makes these lessons very interesting to impart and to hear. It really is just a
joyous and fascinating place, and she cannot stop visiting. Its people, whose faces become
increasingly familiar between each shard of Arcaea; its places which become engraved in her own
memory throughout others; the sounds and the sights, everything—

It's marvelous, and nostalgic.

When she's been to every other memory she could find in Heaven, when she's explored (as far as
she knows) every part of the land, she at last comes to a bustling, rambunctious festival day—or
rather, a night celebration. It is to give thanks to the gods of birth and harvest, and to dissuade
darker spirits.

She spots the townsfolk named Lancaster and Howard, two gentlemen architects, and they've
gotten on in years from the last memory she met them. But they greet her with vigor and treat her
to a candied apple, which makes her happier than anything else. They point to the sky. It lights up
in a show of a thousand brilliant colors. To those gods. To life, and living it.

However, seeing such a wonderful thing… it doesn't strike her. Her heart does not swell; not with
wistfulness, nor the joy of new experience.

She remembers this. She knows why everyone is here.

So, on this final night in these familiar memories, she witnesses the firework sky entirely satisfied.
With tears in her eyes, and a spot of pain in her heart, she finds herself entirely content.

 

 4-8 

解禁条件 4-7の解禁 & 紅(Kou)を使用して楽曲「GLORY:ROAD」をクリア

日本語

その記憶たちは励ましになるようで、心地よかった。数ヶ月をその中で過ごすことさえあった。
その上で彼女は「帰りたくない」と思ってさえいた。ただ、終わりがあるのは分かっていたし、
その強い思いを抱えつつも、その終わりを見たくないと感じていた。

それでも、未来は記憶の中に見出すことは出来ない。

白に満ちた世界に戻ってしまえば、二度とあの記憶の日々に戻れないような気がしていた。
それでも日々はただ過ぎていくし、紡がれた物語は終わり、愛は、人生は終わっていく。

悔やんでは、いなかった。地表へとゆっくり降りゆく途中で、自分を呼び寄せたあの雲々を
見上げてみる。あの記憶の中で過ごした一瞬一秒すべてに価値があったと、そう知っている。
まるで問うこともなかった疑問に答えが出たようで、その心は満たされていた。

まるで空が周囲に落ちるように、その場しのぎの拠点だったものが速度で自身の周囲に降ってくる。
その中で、彼女の胸中にはうずくように痛む感情があった。

そうして、その真の姿を空が現し始める。

窓台の上、風が髪でその顔を弄ぶ中で、遠い空に輝く硝片がしっかりと静止しているのを彼女は見た。
その欠片たちの後ろから広がる、新しい夜空が目に入った。かつて見たことのない夜だ。
雲々が散ってはこぼれ、ちぎれては消えていくかわりに、その場所を影煌めく虚空が埋めていく。
このビロードのような一面が遥か遠くまで、暗く黒く染めていく。その手前ではラベンダー色の波と
夕焼けが広がり、波打ってはゆっくりと光を湛えていく。星々が煌めいて、一日が終わる。

その心は痛んでいた。

ある名前を彼女はつぶやく、もう一度だけつぶやいて、手の甲でその涙を拭った。

硝子が最後の雲の薄い層を散らす。すると複雑かつ灰色の地平が、その姿を遠景に現した。

笑みを浮かべて、それを見つめた。

そう、笑顔で、だ。

これが彼女の新しい人生だ! いつかこの地平のどこかで、伸ばしたこの腕を取る誰かと出逢うだろう。
いつか、この両手ですごいことが出来るはずだ。

それまで、彼女は前を向く。

このArcaeaの世界で、今を、生きて行く。

English

The memories were heartening; they were comforting. She'd spent months within them, and at
times, she would think, "I never want to leave." Still, she knew they had an ending, and she didn't
want to see it.

Besides, the future cannot be found within memories.

She returned to the world of white knowing she may never visit those days again. Days gone are just
that: stories told and over, lives and loves finished.

She doesn't regret it. As she slowly descends to the surface, looking up to the clouds that had once
called her there, she knows every moment, every second spent in those memories was worth
everything. It's like a question she never asked has been answered, and so her heart is full.

The sky seems to be falling around her, all the pieces of her temporary home dropping faster or
slower around her, and in her chest, she feels a twinge of emotion.

Thus, the sky, the true sky above, begins to part.

Standing on a window platform, her hair whipping up past her face, she sees the glittering glass
above is standing still, and behind the pieces, a new night sky is entering her sight. One she's never
seen before. The clouds scatter and drop, disappear and dash away, as a sparkling void of shadows
takes their place. This velvet plane, reaching far and darkening, before a deep lavender wave of
color spreads out over it, swaying, glowing. The stars are out. The day is over.

Her heart aches.

She whispers a name, this name for the last time, and she wipes her eyes with the back of her hand.

Her glass breaks through the final thin layer of clouds. The complex, graying landscape reveals
itself, to its farthest reaches.

She smiles...

She smiles!

This is her new life! She holds out her hand, knowing that someday, somewhere beyond that
horizon, she will find others who will take it. Someday, these hands will do something great.

Until then, she will look ahead.

Living in the present—in Arcaea.

 

Divided Heart

実装:ver.3.10.0(2021-12-9)

 S-1 

解禁条件 楽曲「First Snow」をクリア

日本語

白姫(シラヒメ)という自分の名を、少女は知らない。

目覚めたとき。——その手には錫杖と、頭には冠があった。
少女にはそれが何か、すぐに分かった。それが何を象徴する物なのかも。
髪は白く、異色の双眸を持つその少女はそうして、信じ込んでしまったのだ。
自らが何らかの、特別な存在なのだと。

「——さあ、頭を垂れなさい!」

『え、なんで?』

「…そう。じゃあここも違うのね」

腕を組み、交差した足。自身を姫と知る少女は視線を外して、王座へと背を預けた。
もっとも腰掛けているのは、ただのキッチンチェアだったが。
記憶の中の友人はそんな彼女に、困惑の目を向けている。
ただ厳密には、硝片を介した誰かの視点での、友人らしき人物にすぎない。


すでに、4つ。
自身の過去と真実を探るため、今日だけで4つの硝片を巡っている。

——なぜなら絶対、理由があるはずだからだ。
価値観が頑なに告げていた。宝器の価値や言語など、知り得ぬ知識の存在ゆえに。
このArcaeaという世界に、彼女がいるという事実。それがなにかの間違いでも、偶然でもないということを。
そんなことより、あの漂白された世界だ。あれこそ意味がわからない。
意味不明だ。だからこそ、物事は詳らかにされなければならない。

「——お聞きなさい、ハム」
『ハル、だけど…?』
「あらそうだったわね、ハト」

一拍を置く。そして両の掌を広げながら、また一言。
「私の城にまつわる記憶を探しているの。私のお城よ、わかるでしょう?」

『…城、?』要領を得ないように、ハルは繰り返した。
『それって…君が女王かなにかのつもりなわけ?』


ゆるく結んだ拳を唇に、少女はその発言を吟味する。

「…姫かもしれないわ」
緩慢に前傾しながら、そう答えた。

『……その、アンリ。大丈夫?』
尋ねる彼から視線を下げた、白けた気分になったからだ。
気分はすぐにそのまま、その表情に波及した。

少女の名前が違うことは、書いたばかりだ。彼女自身もまだ名前を知らないが、
違うことはそれでもわかった。…そんな余裕がもう無いことも。

すぐにこの記憶も崩れるだろう。見ようによっては、それもいい。
——後腐れもないし、効率的だ。だがそれでも、また一つ希望が潰えた。

『そもそもどうして記憶の話を?』
そうのたまうハルに再度、異郷の少女はその視線を向けた。


今日で、4つ。

つまりこれで、53。

どんな記憶だろうと、己に響くものが僅かでもあったら、
少女はすぐにでもひっ掴んで飛び込んでいた。

どこか生気のない、ハルの顔を見つめる。そんな表情を数え切れないほど見てきた。
きっちり4秒、そうして止まる眼前の光景。

そのまま、ひび割れる音に連れられて、世界は崩れ去っていく。

——褪せ消えていく、Arcaeaの中へと。


座っていた縁石から近くに、彼女の錫杖はあった。
手に取って立ち上がり、くるくると右手で弄ぶ。

そうしてまた、歩き始める。探求の旅路を伸ばしていく。

——けれど、双色の少女はまだ知らない。
そして見出すものが、自らのものには成り得ないということに。

English

Her name,though she doesn't know it,is “Shirahime”.

She'd awakened with a crown on her head and a scepter in hand.At once she knew what they
were,and she knew what they meant.The girl with white hair and two-color eyes knows that she is most assuredly special.

“So,bow to me!”

“Un…What?”

“…So it isn't this one either.”

With her arms folded and legs crossed and her gaze cast aside,the girl who knows herself to be a princess leans back in her “throne”—a kitchen chair—while the memory of a friend—the friend of whomever had this perspective she's usurped through a frame of glass—look back at her in confusion.

Four shards today.

She has explored four shards as she's sought the truth of her past—because there is most definitely a truth!Her innate knowledge of the significance of items,her understanding of speech,and how she has always perceived the world she awakened into however long ago informs her thusly:that her existence in the world called “Arcaea ”cannot simply be some trick of chaos and chance.More importantly,regardless of these suspicions,far too much is confounding about the world of white.
Too confounding.She demands certainly.

“Listen,Hamu—”

“Haru.”

“Hato.”She pauses,then opens her palms out at her sides.“I'm looking for which of these memories has my castle.My ‘castle’.You get it,right?”

“A castle,”Haru repeats.“So you think you're a queen or something?”

She puts a loose fist against her lips and considers the notion.

“Well,princess,maybe,”she eventually replies,slouching forward.

“…Are you alright,Anri?”he asks,and she lowers her gaze as sour mood falls over her.In short order,her face reflects the mood.

As mentioned,that is not her name.She still does not know her name,but she does know it isn't Anri.She also knows she's pushing her luck.

In moments,this memory will likely collapse,that's fine—that's fast,and no waste of time.But it is another dashed hope.

“And why were you talking about memories?”Haru continues.The intruding girl glances up at him again.

Four shards today.

And so,that marks fifty-three in all.

With any memory she finds that resonates with her even in the slightest way,she takes hold of it and dives within.

She keeps watch on Haru’s blank face.She has seen countless blank faces just like it.After four seconds,it freezes.

There is a sound of fracture,and the world all falls away…

fading out,into Arcaea.

The girl finds her scepter nearby,before the curb upon which she had been sitting.

She takes it up,stands,and twirls it about in her right hand.

And so,she goes.

The journey for discovery continues…

But the girl does not know this:

Discovery will not be hers.

 

 S-2 

解禁条件 S-1の解禁 & 白姫(Shirahime)を使用して楽曲「First Snow」をクリア

日本語

おそらく、繋ぎ合わせることはそう難くない。
きっと、仮説立てる事もできるだろうし、概ね正しい形に収まるだろう。

多くの少女がこのArcaeaという世界を彷徨い、やがてその果てに己を見出してきた。
双色の少女は、まだ知らない。この硝子の地平を歩んだ多くと同じく、
己がこの世界でたった一人だけだと、彼女は信じていた。
むしろ孤独であるという事が、尊大さが助長したのか、
同時に、それが自らの苦境に思いを馳せるきっかけにもなっていた。

『孤独ということはきっと——私は追放された青い血の一族。
素晴らしい統治者として、皆から慈しまれていたはず……。
きっと、語るにも惨い反乱が——ああ、王女を、姫を、国を裏切った民草が!
この記憶を漂白したに違いないのよ、魔法かなにかで!』

……。
素晴らしい想像力だった。1から10まですべてが違う。
冠と錫杖を持って目覚めた少女はどうやら、魔法に夢見る類のようだった。


だが、それも仕方がない。この白い世界を見て、魔法を疑わない者がいるだろうか?
自身の立ち位置も、そしてそもそも、世界もまた奇妙なのだ。
今までの記憶で、硝片が宙空をふわふわ浮くような世界などなかった。
——彼女の記憶にも、硝片にもだ。

極めつけに記憶を体験できる硝片の存在だ。それでも魔法がない世界だというのか?
そんな理屈で、少女は己の境遇が魔法によるものだと結論づけていた。

少なくとも、こう思いたかったのだ。『魔法のある世界から来た』というのは、
間違っていたけれど、それでも、それが彼女が信じたい仮説だった。

だから、彼女は特別で。ゆえに、彼女は愛されるべきなのだ、と。

『もしかしたら……カッコいい場所の近くにイイ感じの記憶があるかもしれないわ』
色の消えた大地を見回しながら、一人そう呟いた。

『行きましょう!塔とか見つけに!』


まるで行軍するように、少女は突き進んでいく。

その人となりはいうなれば、そう。
——実に、石頭だった。

English

Perhaps she can piece it together.

Perhaps,maybe,she can form a theory,and that theory may be correct.

After all,many girl have wandered into this world called Arcaea,and in time discovered themselves.She does not know this.She,as do so many others in the glass landscape along with her,believes herself to be alone in Arcaea.To be frank,it inflates her sense of importance.That being said,it also makes her reflect on her predicament.

If she is alone,then perhaps she is a noble in exile (no).She was a wonderful ruler,loved by all (no)!Until…there was a terrible rebellion (there wasn't)!The people turned against their queen,princess,and country,and purged her memories clean (quite the story)!With magic!

The girl who woke with a crown and scepter is the kind to believe in magic.

One can allow her this,however.What is the world of white if not a magical one?Her place in it is strange,and the place itself is stranger still.In no memory has she ever found a world in which glass flies and how these glass memories are experienced…this place is magic,no?And that is why she must have come from magic too.

That's what she wants to think.She is wrong—that magic is where she came from—but it is her leading theory.

Therefore,she is special.Therefore,she should be admired.

“Maybe…there are ‘cool’ memories by cool-looking places.”she says to herself as she overlooks the colorless lands.“Let's go find a tower.”

She matches forward.

Indeed.

When describing her,it would be apt to say that this girl's head is one made of stone.

 

 S-3 

解禁条件 S-2の解禁 & 白姫(Shirahime)を使用して楽曲「Blue Rose」をクリア

日本語

恥を、かいていた。またしても。

どうしてか、何らかの理由でその高貴なる発言が聞き入れてもらえないとき、
全力で逃げ出したくなるほどの恥が、自らの身体を突き抜けるのを感じていた。
記憶が割れて戻る頃にはほぼ常に、その頬は見事なほどに赤くなっていた。

硝子の世界に戻るなり、顔を両手で覆う。そして目を閉じて——

……苦痛に呻くのだった。


「ううぎぎ……なんなのよ、あれは……」
口を、開く。

「私の城はどこだっていうの…?」
言葉は止まらない。

「我が忠実なる国民、臣民は?いったい、どこにいるっていうの!!」
地団駄を踏み、拳を握り、歯をむき出しにさえしながら。

「次よ!」と、叫ぶや否や、手近な記憶へと手をのばす。

飛び込む。どこに行くかなんて知りもしない、どうでもいい。
仁王立ちしたテーブルの上、レストランの中心。
高らかに頭を垂れるよう命じた、あのとき、あの人々の、目。

……それが忘れられるなら、何でも良かった。


回る回る、世界が回る。白と黒の影をまといながら、
数秒の後、彼女は転移していた。
踏み入れたその記憶は静かで、けれど趣があって。

辺りは暗く、星は夜空に。鬱蒼とした木々は昇った月さえ、見えないほど。
森の中、開けた場所に少女はいた。背後で、焚き火の弾ける音。

『みえる?』

こちらに、ちいさな子が問いかける。
この記憶では、少女が己の姉妹だと知っていた。
その目を見つめ返し、考える。たしか、とある星座を探していたはずだと。

「いいえ、みえないわ…」と、告げると、

『そっかあ…じゃあ、すわってつづきみようよ』と、返す妹。

……ただ、頷いた。


その手には、何かがあった。よく見ようと、少し年上のわたしは近付く。
側面にはボタン…モニターかな?映るのは映画、否、カートゥーンアニメだろうか?
幼い少女の横で、目を細めて見始める。

どうやら、他のArcaeaで流れていた作品とも同じようだ。
特殊能力のある少年が仲間と力を合わせて、悪と戦う話。ありふれた物語。

モニターを指差しながら、「充電、してきたんだよね?」と私。

『さっきもきいたよ?』と、妹。

「それで…?」

『したもん!』

「よかった…」

そう呟いた自分の言葉は、心からそう思っているようで……。


——どう言ったものだろう。

王室の血を引くものは、アニメなど見ない。そう白姫は固く信じていた。
王族とは政治家であり、統治者であり、老若男女に道を敷く者であるべきだ、と。

でも、そんなことよりも。

……言葉は少なく、座ったまま、耳も目も、釘付けになっている。
そんな、この時間のほうが……よほど濃く、はっきりと心地よかったのだ。

記憶の中の少女に肩を寄せれば、同じように寄ってくれる。

——ようやく、心安らいでいる。

急に静まる、荒んだ心。
それでも脳裏を過ぎった怒りでふと、人生の理不尽さを思い出す。


硝片の中での恐怖を除いたとしても、
それでも人生のほとんどは、辛抱に耐えないことばかりだ。

苛立ちに、衰える力、状況を切り開くには足りない無力感。

それが、人生。——生きるということ。

寄辺になる人なんて、あの硝子の檻で目覚める前はいなかったのかもしれない。
もしかしたら空の玉座の上で、わたしは孤高に統治者然と在ったのかもしれない。

それともわたしは……ああいう時間だけを重ねてきたんだろうか?

もし、そうだったなら——。


きっと……、大丈夫だったのかもしれない。

妹が持ってきた、小さなブランケット。肩がふたり分、あたたかい。

目を見て、「ありがとう…」と言った。言えた。

もう、視線は画面に戻っている。また、見始める。



——そのまま、言葉はいらなかった。周囲の記憶が薄れて、消えるまで。

English

She embarrassed herself again.

Somehow,when her declaration of nobility land on deaf ears,she experiences a deep and crippling shame that courses through her.As the memory falls around her,her cheeks are always dyed a perfect red.

Now,having returned to the world of glass,she presses her hand to her face.

She shuts her eyes.

And she whines with pain.

“Ghhhhhh…what was that…”

…She says.

“Where is my castle!?”

She still says.

“Where are my subjects!?My people!?Where!?”

The girl stomps her foot and balls her fists,gritting her teeth.

“Another!”she shouts,reaching for the first and nearest memory.She dives in,to whatever it is,if only to stop remembering the looks she received while she stood on that restaurant table and demanded obeisance.

A world swirls around her,in shades of white and black,and in seconds she has trespassed.The memory she enters is quiet and quaint.

The stars are out,and it is dark.If the moon has risen,it can't be seen though the trees.She is standing in a forest—in a clearing.A fire crackles behind her.

“Can you see it?”a child asks.In this memory,she knows this is “her sister”.She glances back at the little girl and thinks.According to this memory,the older sister was trying to find a certain constellation.

“No,”says the white-haired girl.“I can't see it.”

“On well.Sit down and let's keep watching,”the sister replies.

She nods.

The younger girl has something in her hands.The older girl walks over to see it better.It's a screen,with buttons on its sides.A movie is playing on that screen.No—an animation?Squinting,she sits down beside the girl and waches.

It seems similar to what she's seen in other fiction across other Arcaea:a typical cartoon about a boy with some power,fighting devilish monsters with his friends.

“…You charged it,right?”she asks,referring to the device.The words come from another.

“You already asked me that,”the little sister answers.

“And…?”

“I did!”

“Good…”

She whispers this honestly,as she honestly means it.

How to say…

Royalty does not watch cartoons.A royal is a statesperson,a ruler,and a guider of women and men.She most definitely believes that.

Yet,she is most definitely more comfortable with this:sitting down and having nothing to say,her eyes transfixed and her ears perked.

She puts her shoulder to the shoulder of the memory-child,and the child returns the gesture.

Now,she feels at ease.

The mood she had before was suddenly silenced.In the wake of her anger,it comes to her mind:life is a truly horrible thing sometimes.

Barring even the horrors she borne witness to in glass:life feels terrible,much of the time.

Frustrations,waning strength,pure inability to change one's situation…

That's how it is.

It is possible she had no one else before she was put in a glass cage.Perhaps she was a lonely ruler,on a lonely throne.

Perhaps she only had this.

If that was so,she thinks…

If that was so,then perhaps things were alright.

Her “sister”brings a small blanket over both of their shoulders.

She glances at the child again and says,“Thanks…”

And she gases back into the screen,saying nothing more until the memory fades away.

 

 S-4 

解禁条件 S-3の解禁 & 白姫(Shirahime)を使用して楽曲「Blocked Library」をクリア

日本語

——あれから、勢いは目に見えて落ちていた。

あの、森への旅の記憶。
大事な人と、ある日の夜を埋められるものを、ぼうっと、ただ見ているだけ。
それだけの記憶、なのに。…埋まったのは、己の熱意の方だったのかもしれなかった。

これが、事実。この身を迎える城もなく、家すらもありはしない。
見つけても、どうせただの思い出だ。忘れられて、置き去りの過去。儚さ、そのもの。

歩き始めても、行き先なんてありはしない。

意味も、終わりさえもない。

つまりはそう、この道に意味などなかったのだ。


「……いたいなあ」

ひび割れた声で、ただ、ひとこと。

夜が訪れない空を見るその目は暖かく、唇は儚げだった。

仮に少女が遥か遠くの地、本当に大国の姫として青い血に生まれていて、
優れた統治者だったものの、追放されていたとしても。

——それでも、少女は人間だ。常に強くあり続けられる人間など、いない。
行き詰まり、言葉も止まり、もう、彼女は感情と思考に溺れていくばかりだった。


不可視の陽光の下、少女はその双眸を閉じる。
頬に感じる、一筋の涙。

もう、泣きじゃくっていた。

雫に囚われた光が、零れ落ちながら消えていく。
だが、魔法によるものではない。

——訪れるはずのない夜に、光が溶けたのだ。

世を照らす陽光、その光が己の顔から引くのを感じて、少女はぱちくりと瞬いた。
周囲の影を、そして紛うことなく天から降りてくる、夜の帳を見るために。


「ふぇ……?」

視線は再度、上に。

そこには、まるで切り裂かれたような空と——そして、天裂く彗星。

「へ、ええ…?!」

それは1分を超えてもまだ長く、まだ落ち続ける。眼前、無遠慮に墜落するその直前、
——風を、白砂を、そしてツインテールを大いに乱れさせた。

唖然、呆然、ただ見つめる。天を裂いた、今眼前に堕ちた星を。
山のように積まれた椅子の上に膝を着く、紅い星。
塵埃を落とそうと、ふるふると頭を左右に振っている。

——そう、あの星こそが、この紅い少女だったのだ。


ようやく見開かれた紅い双眸は、さらに大きく。
満面の笑顔がすぐに、その顔に広がった。

彼女こそがあの紅い星。天へと飛び発った、あの少女。

——その名は、紅(コウ)。

English

Since then,her drive has faded as well.

The memory of trip in the woods,with someone who cared,simply watching something easy to whittle away the hours of the night…it,too,whittled her ambitions away entirely.

Here are the facts:she has no castle,let alone any home,and even if she found either,they would merely be memories:abandoned,forgotten,and in actuality ephemeral.

If she is to walk forward,it will be to no conclusion.

It will be to no sense or end.

To say it in another way:her path is empty one.

So,she whispers,“This hurts…”

Her voice cracks.

She looks at the endless daylight,with terse lips and warm eyes.

Frankly…

Even if she was a princess of a faraway land…a great ruler,deoosed…born nobility…

The girl is human,and humans are not perfectly strong.She is stuck,and quiet,and cursed with emotion and thought.

Under the unseen sun,the girl shuts her two colored eyes and feels tears running down her cheeks.

She sobs.

The light is caught within her teardrops,and that light fades as it falls—not through any magic…

…but instead through the darkening of the sky.

As the gleam of Arcaea's daylight ebbs from her face,the girl opens her eyes to blink.To see shadows around her.To see,unmistakably,night falling on the earth.

“Eh…?”

She turns her gaze upward again.

It seems that…the heavens have been rent,and comet is falling.

“Huh…!?”

It flies down for a minute or more,before landing unceremoniously before her—scattering winds,white sands,and the twin tails of her hair.

Dumbfounded the girl stares,mouth agape,at the crashed crimson star.The star is kneeling on a pile of broken chairs,and shaking its head of dust.Her head.The star is a girl.

She opens her eyes,and opens them wide.In a short moment,a smile—wide as well—spreads across her face.

This is the crimson girl who flew up to the sky.

Her name is Kou.

 

 S-5 

解禁条件 4-8S-4の解禁 & 白姫(Shirahime)を使用して楽曲「nέο κόsmo」をクリア

日本語

「はっじめましてーっ!!」
活力に満ちあふれた、紅の大きな声が響く。対する白姫は固まって…青い顔だ。
……ただ、身動きが取り得ないその反応は、過ちだった。

——直後、家具の山から飛び上がる紅。そして突撃、
そのまま、ツインテールの少女に飛びついた。なぎ倒すほどの勢いだった。
堪らず「ほぎゅわあ!?」と、なんとも無様な効果音を発す王族(自称)が一名。

「わああー、本物!!本物だ!ここにきみはいるんだね!」抱きついた後で、腕を離しながら、
紅は喜びを隠そうともせず、もう一方の顔やら耳やら髪やら二の腕やらぺちぺちとしていた。

白姫はといえば、もう絶句していた。その全てに。

笑いながら、白姫の朱くなった頬をくいっと、紅はつまむ。
「これ、記憶じゃないよね。ね?」と、尋ねながら。

「げ、現実ょお!」と、姫君(自称)。咄嗟に主張するその声は、すこしだけ上ずっていた。


「あそうだ。名前ってわかる?自分の名前!…あっ、あたしは知らないんだけどね。…むっ、いや今なら分かるかも!」と、紅はせわしない。指を立てて、そのまま能天気に考え込み始めた、
が……まもなくこめかみをトントンと叩きながら「うー…やっぱダメっぽい…」と、しょんぼりと項垂れるのだった。

「ちょ、ま、っちょっと待って…!!」と、白姫。紅い少女はころころと笑っている。
「私、え、あ?、んんん…?や、あなた……そうまずあなたよ!大丈夫なの?!」
その一言は、質問というよりは、命令のようではあったが。

「うん!大丈夫!」と、紅は笑顔だ。
「空から降ってきたのよ!?」と、論すように強調する白姫。

「そだねー!なかなか、に…」と、爆心地へと向けられる紅い目。
腰に手を当て、ぴたりと静止…そしてくいっと空を見上げる。
そのまま、戻ってきた視線は白姫へ。目が合う。

「夜だー!?!!」
「気づいてなかったの?!!」


「あはは…見てなかったもんで」と、紅は腰に手を当てて、振り返る。

「…あなたは上で、何をしていたの?」
「あ、記憶を見てたよ。そこそこ数あってね」
「じゃあ……あなたも視れるのね?」と、白姫。
それに得意げに頷くと、「見れますともー」と紅は答えた。

「それとあなた、飛べるの…?!」

「んー、というよりはー」その頭を左右に振り振り、紅は答えた。「物を浮かせれるってかんじ」
と、言うが早いか、杖のように指を一振りすれば、緩やかに浮き上がるカップボード。
その指先のとおりに、標的にされたそれは二人の周囲をゆるりと回った。

「できないの?」と尋ねられ、猛然と振られる白姫の頭。
そのツインテールがちょっとだけ、でんでん太鼓のように揺れている。紅はくすすと笑みを漏らした。

胸に手を当てて、白姫は言う。「人間ですもの、私。」


Arcaeaの世界では度々、運命のような瞬間がある。
それは一人の気まぐれか、はたまた二人のめぐり合わせか、
時間と現実は歪み、絡み合う。

それでもまさしく、この瞬間は偶然による産物そのものだった。

少女たちは、語り合う。
——硝子とお互いの目的、そして勿論、あの空についても。実験もいくつか重ねた。
紅の魔法で白姫は運べるのか?また、その力は白姫にも学べるのか?など。
1つ目は成功し、2つ目はうまくは行かなかった。


もちろん、他にどれぐらいの人がいるのかなども考えた。
自分たちと同様の、だ。

結果、他の迷い人の存在も念頭に置きながら、今も離れゆく陽光を追うことにした。
おそらくその多くが空を見上げては、その新しい表情に驚いているだろうから。

そうして、縛る宿命も運命もなく、二人は共に歩き始めたのだった。

English

“Nice to meet you!!”

Kou booms her greeting with a voice full of life.Shirahime stiffens,and pales.This is the wrong move—it affords her no mobility.Kou leaps out at her from her pile of furniture and tackles the twin-tailed girl,nearly toppling her.This elicits from the self-described royal a distinctly ignoble “Bwagh!?”

“On wow,you're real!You're actually here!”After hugging her,Kou removes her arms and starts cheerfully patting the other girl's face,ears,hair,and sides.

To all of this,Shirahime finds herself speechless.

Kou pulls on Shirahime's scarlet cheeks,laughing.“This isn't a memory,right?”she asks.

“I'm real!”the “princess”insists with a voice slightly distorted.

“Oh!Do you know your name?”Kou asks.“Oh,I don't know mine,”she adds.“Maybe I know it now!”she guesses,lifting a finger optimistically.“Aah…I don't.”She taps her temple,and tilts her head apologetically.

“Slo—…Slow down!”the other girl begs.The girl in red laughs,and Shirahime stutters on,saying“I…!What!?Are you…Hey!Are you okey!?”

Although that question from her sounds more a demand.

“I'm fine,”says Kou with a smile.

“You fell from the sky!”Shirahime reminds her,pointing for emphasis.

“Yhah,I guess I di—”Kou begins,turning to see where she came from.She stops,puts a hand on her hip,and points to the heavens.With this,she glances back at the other girl and declares,“It's nighttime!”

“You didn't notice!?”

“Well,I didn't look,”Kou replies,now turning back around with both hands on her hips.

“What were you doing up there?”

“There were some memories,”the red girl explains.“I watched them.”

“So you can watch them too?”Shirahime asks.Kou nods with enthusiasm.

“I can!”she says.

“And you can fly!?”

“Not really,”she answers,now with a shake of the head.“I can make other stuff float.”She demonstrates with her finger acting as a wand,and a cupboard being the subject,swirling around the two of them to her direction.“You can't?”she asks.

And Shirahime wildly shakes her head,which spurs laughter in Kou once again as her twin tails whip to and fro.With a hand over her chest,Shirahime declares:“I'm HUMAN.”

In Arcaea,in its time,there have been moments of fate.The tides of time and reality are bent and twisted by the whims of one or the convergence of two.

However,this moment is merely chance.

The girls talk—talk of glass,of purpose,and naturally of the sky.Experiments follow:can Shirahime be carried by Kou's magic?Can Shirahime learn this magic herself?Yes,and no.

Of course,they also wonder how many others are out there,the same as them.

And it is with this in mind that they follow the fleeing daylight.Perhaps…there are others looking up,and marveling at the new sky.

Just like that,with no fate or destiny tying them,these two begin to walk together.

 

 S-6 

※スチルイラストが付属しています。(Illustration : Mechari)
解禁条件 S-5の解禁 & 白姫(Shirahime)を使用して楽曲「Lightning Screw」をクリア}

日本語

紅い少女は、ふと思う。
——あれから何週間になるのかな?それとも、何ヵ月だろう?と。

冥い空の下、二人の少女は共に、影に沈む廃墟を歩いていた。
先頭を進む紅に対して、白姫はといえば口籠り、後ろに引っ込んでいる。
前に響く紅の笑い声と、その背中に添えられた白姫の手。

今となっては、記憶の外でも"お姫様"ぶった恥晒しをかますようになってきた。
言葉に詰まったり尻込みしない彼女の方が珍しい。
そんな臆病にも図々しい王族(自称)には、もう、紅も慣れきっていたのである。

だが今ではそんなツインテール娘も、確実に(ようやく)びくびくすることも
随分少なくなった。話し声にも、歩く様子からも、それが見て取れる。

ほんとうに長い間、共に旅をしてきたのだろう。だが、ずっと続くものはない。


長い旅路を経て、紅と白姫は明らかな境界線へとたどり着いていた。
空に浮かぶ、散り散りの雲に明るい星、けれどまた、陽光も天にある。

絶景を前にして、言葉はなかった。
その顔に浮かぶのは、ひたすらに感嘆だけ。

だって今、少女がふたりの立つ場所はそう——

——朝と夜の境目、そのものなのだから。


「綺麗……」「ほんと…」
白姫のささやきに、紅はうなずく。

夜空に瞬く、すみれ色の星々。陽光は白く、黄金に輝いている。
二人の立つここはまるで、魔法のようで——思い出のようで——。
揺らいでは渦巻いて、蠢く天空はプリズム状の大蛇を思わせる。
まるで、仮縫いされた世界の縫い目を見つけてしまったかのよう。
見つめ続けたら、世界のことも、その起源も分かってしまいそうな、そんな景色。

視線を最初に降ろしたのは、紅だった。白姫はまだ、かの絶景を振り切れずにいる。

「それで……どうする?
だーれも、見つからなかったけど」

「そうね……」と、浮いた相槌が帰ってきた。

「…二人で探し続けよっか、このまま?」


その発言で白姫の目線も、ようやく降りてきた。
眼前には、新たなArcaeaの地平。——光と影の広がる、地平線。

紅い少女を見つめるその顔は、だが穏やかにそのまま、左右に振られた。
「私は——このまま境目に沿って進むわ。誰か見つかるかもしれないから」

「あなたはこのまま、太陽の下へ戻って、先へ進むべきだと思う。
何が隠されているのか、確かめて来て」


思わず、両目を見開いた。

もう、随分と長くなった。……共に歩いた距離も、過ごした時間も。
だからそれなりに、紅は分かってきたつもりだった。
騒々しく振る舞う彼女の、その派手さと自慢話が、
実はその内の臆病さを隠すためのものだったり、とか。だからこそ——。

「…命令なんてできたんだ?そっち」と、紅は驚きを隠せなかった。

「…もちろんです。——、この私の冠、見えていなかったの?」
返ってくる、そんな軽口。見下したような、からかう様な目線で。

「…あは、ちゃんと見えてるよ」と、紅は笑う。

また、下がる視線。見つめるその先には、硝子の丘。


「ふふっ、冗談よ。……私ね、思ったの。挑戦してみたいって」
言いながらその異色の双眸には、翠の瞳が映り込んでいた。
しっかりと、紅は見つめ返している。
しっかりと、紅は見つめ返す。

「それがね、今だって思うの。それに私に成し得ないことも、
あなたなら出来ちゃうんじゃないかって気がして、ね」
双色の姫君は、そう続けた。

少しの、静けさのあとで。紅は、頷く。
そのまま足元、コンクリートの板を呼び寄せて、飛び乗った。

「じゃー早速、夜を見てこようかな。——、また会おうね、会えたら!」
ニカッと笑顔で告げたその一言に、気易い笑顔で白姫は応える。「会えるわよ」と。

——思わず、惚けた。目を瞬かせてしまう。この白いお姫さまはまた、驚かせてくれるなあ。

笑顔が、さらに輝いた。その言葉を、心の奥深くで信じられたから。


——そうして、紅は飛び立つ。星の瞬く夜空へと。
白姫も前へ、また一歩。

……きっとその胸にはもう、夢見る理想の王国はないのだろう。
だってもう、知っている。誰かがいるって、知っているのだ。
こんなに広大な世界でも、いずれきっと、見つけられる。

王冠と錫杖が象徴するのは、高貴さ。
そしてその高貴さは常に、人を彼女の周囲へと惹き付ける。
——いつか求めた、ちいさな篝火のように。

…その身はきっと、高貴な出自ではないのかもしれない。
心は弱く、時に揺れ、弱音を吐くこともあるだろう。

それでも、その魂には輝きがあったのだ。

——君主が持つ、真の輝きが。

English

She,Kou,begins to wonder:has it been weeks,or have months passed between them?

Under the dark,these two girls have wandered together through shadow-bathed ruins:with Kou leading,and with Shirahime stammering behind;Kou's laughter ahead,and Shirahime's hand at her back.Further,the "princess's"habit for embarrassment has escaped merely the confines of memory—rare is the moment she will not stumble or stutter,and by now Kou is well-accustomed to the shaking,brazen,self-proclaimed"royal".

However,the twin-tailed girl has most definitely,of late,been shaking far less:in her voice when they talk,and in her movements when they go.

Truly,the two have traveled together long.But it won't be forever.

Now Kou and Shirahime,quite a ways into their travels,find themselves at a clear divide.

Thought the clouds are torn and the stars brought out,not all of the morning light has faded.

The girl view the heavens without a word,and with awe-filled faces.

After all…

…they now stand at the division between night and day.

“Pretty…”Shirahime whispers.

“Yhah,”Kou agrees.

The stars of the night are violet.The day is white and golden.Where they meet,what might be magic—might be memory—churns and twists,like a shifting and prismatic serpent.It is as if they've found the world's haphazard seam.Seeing it,they almost know:know what the world is,and how it came to be as well.

Kou brings her eyes down first.Shirahime,however,cannot tear away hers.

“Now what?”Kou asks.“We didn't find anyone,huh?”

“No…”Shirahime replies.

“Should we keep looking together?”

Shirahime brings down her eyes as well.
Before them is the new Arcaea landscape:of shadows and light.

She looks at Kou,and calmly shakes her head.

“I'm going to follow the line:I'll find someone out there,”she says.
“And you should go back to the heavens and see what they're hiding.”

Kou raises her eyebrows.

The two have walked for quite some time,and in their time together,Kou believed she had the other girl figured out.That Shirahime was a boisterous sort—but that all of her flair and bombast existed only to obscure a shivering heart.Therefore…

“…You're taking charge?”Kou asks,as it's just too surprising.

“Of course,”Shirahime says,with a dismissive and teasing glance.“You see this crown on my head,right?”

Kou chuckles,“Yeah,I see it,”she answers.

And Shirahime lowers her gaze again,staring out to the glass hills.

She tells Kou,“I'm kidding…I just had the thought:I want to take a chance.”Shirahime meets Kou's green eyes and the girl straightens her back.The princess states,“We should take one,and I think you'd better do what I can't.”

And…after a few moments,Kou nods.She calls a slab of concrete to her feet,and hops on.

“I'll go see the night,then,”she says.“Let's meet up when we can!”She grins.

“We will,”Shirahime answers with an easy smile.Kou blinks,and loses her own.Once more the white-haired girl has surprised her.Deeply,she believes those words,and her face brightens up again.

Kou flies to the starlight,and at once Shirahime steps forward.

Perhaps she has forgotten her want of a kingdom.

She already knows:there are others here.

The world is vast,but she will find them.

What a crown and scepter mean is nobility,and what a noble does is draw others to her,like a much-needed hearth.Maybe her blood is not noble at all.

However,it must be said:despite her whining,her wavering,and her very weak heart…

…her soul very much is.

 

Ambivalent Vision

実装:

  • 5-1から5-6:ver.2.6.0(20/03/25)
  • 5-?(5-7から5-9):ver.3.12.0(22/02/17)
     
     5-1 
    ※スチルイラストが付属しています。(Illustration : softmode)
    解禁条件 レーテー(Lethe)を使用して楽曲「Genesis」をクリア
    日本語

    その断崖からは、すべてを見下ろせた。

    帰するところ、人の営みからついに離れた者たちは、ヤドカリのように自身の魂を脱ぎ捨て、
    後継、新しい命のため、それを遺す。それらの霊魂が向かうはその地の霊溜まり、
    頭上にて煌めきながら、微かに光るその場所へと召し上げられる。

    その霊魂らは水に似ているようで、ほとんど形と言えるものがない。
    総じて雲間を突き抜ける鮮やかさへと、白く流れ往くのみだ。かの灰色の地平こそが彼女の世界。
    その光景は――特異にして、壮観なその光景こそは――多くの者に感嘆を抱かせ得るものだろう。

    彼女にとっては、それが日常。
    それこそが毎日で、そして仕事だった。

    「左の方にさ、揺れはない?」
    背後から同輩が声を投げかけるので、微かに首を傾けて、地べたに座る同僚に視線を返す。
    その彼の膝の上には浅くて黒い、水盤占術に使用される水鉢が大きく口を広げている。
    その浮かんだ水紋を見るに、今しがた術を行使したばかりのようだった。

    「ない」と答えて、静かに声を投げ返す。「何か気になった?」

    「どうやら、そちらで地面がちょっと揺れたらしくて」彼は返す。

    「それは……よくないね。様子、見て来る?」

    「うーん……これは亀裂が入ってるかな」とつぶやくと、「処理を頼むよ」と同輩が言った。

    一言、「ええ」とだけ返すと、そのまま崖から飛び降りた。

    落ち往く彼女のスピードは、今昇りゆく霊魂らによって減衰していく。
    ブラウスと袖、スカートを繋ぐ、ぴんと張られた一組の紐を彼女は探り当て、それを一気に引く。
    すると、ほどけた布地がぶら下がり、やがて布地から微かな光が生じては、
    彼女の衣服がバタバタと大きな音を立てて波打ち始める。
    そうして、死者たちの影響がやがて緩和されていった。

    地面にそっと降り立つと、すぐに腰元で折りたたまれた大鎌を取り出した。
    フルサイズに展開しながらくるりと回し、足を揃えて柄に腰掛ける。
    そうしていまだ遠い目的地へと、彼女は飛翔していった。

    亀裂の内に囚われた霊魂を宥めつつ引き出し、その間隙を塞ぐため。

    そしてあの崖に戻り、他の異状を監視するため。

    これを成す為に彼女はいたし、同じことを果たしてきた。
    毎日、毎日。そう、これが彼女の責務だったから。
    そうして、いつかあの霊魂たちの中に彼女も加わることだろう。

    とはいえそれも、今ではもう過ぎた話。

    そう、遠い昔にそれは過ぎたのだ。
    今はもう、自身の知る世界と営みなんて、形なき記憶に過ぎないのだから。

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     5-2 
    解禁条件 5-1の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「Moonheart」をクリア
    日本語

    けれど、死の本来のあるべき形はこうではない。

    人生の終わりについて、彼女の生前で疑問などなかった。
    死者に起きたことなんて些細なことであったし、来世や次の世界なんてものもない。
    生まれてきた世界で生きて、そして死んでいくだけ。天国や地獄、または煉獄とやらは、
    太古の昔にだけ都合が良かった、モラリストの寓話に過ぎないのだから。

    なら、ここは? ある日自分が目覚めたこの、謎に満ちた領域は一体なんだというの?
    何だというのだろう?

    そもそも、否だ、これがどうしたというのだろう…?

    「ん……」

    砂漠を目に映しながら、灯台の天辺で膝を抱えている。
    ただただ目に入るのは一面の白だ。白に重ねて、ひたすらに白。そしてあとは、Arcaeaという硝片。
    顎を掌に預けつつ、左へと伸びる橋へと気だるげな視線を投げかける。
    どこに伸びゆくかなんて知るわけもない。

    「ふーーっ…」
    ため息を絞り出し、ゆるやかに立ち上がると、腰元の大鎌を手に取った。
    愛用のそれもこの場所では前と同じように操れるわけではないけれど、旅の供としては十分だ。
    ふと何気なく、前髪を分け目に逆らう方へと手櫛で流す。
    すると、後ろへなで上げるように、左方一対のツノを指でなぞりあげた。

    そもそものところ、そうだ。Arcaeaの中に見出してきた今日までの記憶では、角のある人間なんて、
    そのすべてにおいても一人として現れはしなかった。

    これらの記憶だけが、この世界の記憶と硝片の中で唯一関心を引くものだったがため、
    彼女はそれらを鑑賞し、分類することにその時間の大半を費やしていた。記録のように、
    手元に残るようにしてきた。現に事実として、彼女のような有角の種族が一度でもどこかに
    存在したかどうかの手がかりは、これらの記録には一縷さえありはしなかった。

    彼女の種族……『種族』? それはそもそも『種族』なのか? その仮説はそもそも妥当なのだろうか?
    生きて日々を過ごしていた頃、彼女はその『人々』の一人として、霊魂相手の庭仕事に
    勤しんでいたのだろうか? 今となっては些細だけれど、きっと、もう少しはっきりと思い出せれば
    取り戻せるような気がするのだ、以前の彼女……のようなものを、どうにか。

    今はこの、彼女が拠点とこのArcaeaの世界で呼ぶ場所にて、どの硝片が去り、または残り、
    また新しく現れたのか確かめることに没頭していよう。そうして彼女は灯台から歩き始め、
    新しい日常に備えるのだった。

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     5-3 
    解禁条件 5-2の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「vsキミ戦争」をクリア
    日本語

    未だ、大鎌は宙空を翔ける。

    気だるげに箒に跨る魔法使いのように、鎌の鈎柄に腰掛けて飛ぶその少女は、
    壊され、荒廃した通りの一つを下って行く。垂直に立つ鎌の刃は彼女の後ろ、
    またはすぐ隣と、旋回や曲折の度にその向きを転じている。
    風を切るその様子は、手足を動かすかのように滑らかだ。

    進むにつれて、浮游する硝片の寄せ集めが目に入るようになってくる。
    今目にしているものは道の上で、寄り添う川のように並んでいて、彼女が到着してからというもの、
    硝片の群れは増えも減りもしていない。この群れは特に奇妙で、ゆえに日毎、彼女は確認に訪れる。
    今日に至っても、その内に秘めた記憶の輝きは以前認めたそれと同じものだった。

    連なることなく、繋がることなき数多の記憶たち。それは遊戯の、歌唄の、悲嘆の、
    または強大かつ敏捷な機械群、などなど……。
    むしろあれこれ詰め込まれたオムニバス作品のようなそれは、
    印象に焼き付くほどのその非一貫性を高めていて、そこに興味が惹かれる。

    その中で、もっとも気に入った記憶を彼女は探す。

    硝片の群れで特定の一つの記憶を見つけるなんて行いは当然、
    まさに干し草の中で縫い針を求めるようなもの。
    けれどその硝片は、どうやら彼女のことを同じように気に入っているようなのだ。

    鎖のように伸びる群れから外れて、滑るように飛ぶ彼女のもとにその硝片は近づいていく。
    かすかに笑みを浮かべると、手のひらに浮かべるよう、大鎌からはずした右手を伸ばす。

    その硝片の内にあったのは、小さな手製のフルートを作る工程、その最後の瞬間。
    小さなその楽器を形にするには、とてつもなく長い分数、時数、日数、はたまた月数が
    掛かったことだろう。だが、それを成したであろう彫刻師は、自分の情緒と感情をすべて、
    この一瞬に込めることにした。
    このためにあれと。

    音を吹き込む、するとその音色はすぐにかの者を顰めさせた。ひどいものだった。

    けれどそれでも、奏でることはできる。

    この記憶は辛苦に満ちた旅路の終章であるがそれと同じくして、より壮大な記憶の始まりでもある。

    なんて趣深い立ち位置なんだろう……

    真に――群れを同じくするものもまた、同等に特異であるのだろう。

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     5-4 
    解禁条件 5-3の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「Blossoms」をクリア
    日本語

    その記憶は、大切なものだった。

    そもそも、もしそこまで『大切』だと言えるなら、いずれにしろ彼女へと至る道を探り当てていただろう。
    初めて飼ったペットや、人の生存や犠牲、初めて口にしたことば、感銘を受けた演説、
    私的に大事な会話…。それら諸々の特異な記憶が、たびたび彼女が散策していたり、
    近くを浮游すると、徐々に付いてくるのだ。

    彼女は気にも留めていない。特異な記憶らは、風変わりなこの場所に安置されることを好んでいる。
    これは良いことだが、もっと良いこともある。

    Arcaeaの世界は、どのような内容であっても保守を続ける、記憶の保管庫としての役割を持っている。
    ひどく痛んだ歯の記憶、美味しかった食事の記憶、馬に乗ったときの記憶、溢れたミルクの記憶。
    それが記憶されたことがあるというのなら、すなわちそれはここにある。

    そしてその記憶の一つ一つすべてが、中でも際立って稀有なものも含め、一人の人となりを
    形作るのだと、彼女はそう思っている。加えて、その記憶たちこそが、一人の人間が存在したという
    実体の伴う唯一の証拠としても、その意義が在る、とも。

    記念碑と墓標、それは記憶の名の下に興される。または、その喪失も――。
    時としてそれは、死よりも惨く、受け入れがたいということを、彼女はArcaeaの内で見た。

    「……」

    静かに宙空へ静止すると、嘗ては街の中心であった広場へと降りていく。
    ここでは、数え切れないほどの硝片が宙で漂っている。ここはまるで……
    そう、順当なことばとしては『庭園』のような、けれどここにある『植物』もどきは、
    何一つとして始めから育ったものはなく、すべて齎されたモノだ。

    彼女はそれでも、平等に手入れをする。
    ここにあるのは全て、彼女が『住み家』とした場所で見つけたArcaeaの硝片。
    これらの硝片らは最初からそこに在ったわけではなく、すべて漂流してきたのである。

    「……ふう」鼻を鳴らして、ぼんやりと硝片らを吟味していく。
    硝片らが離れていくことは普通はないものの、たびたびどこかへふらふらと漂い離れていくことなら...…

    そしてそれが、彼女をざわつかせる。

    ……果たしてArcaeaは、硝子のような脆い形をとる意味はあるのだろうか? と。

    ……多くを尋ねるべきでないことは、生前、それでも身に染みていたから。

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     5-5 
    解禁条件 5-4の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「corps-sans-organes」をクリア
    日本語

    「え?」

    頭上でゆらめくArcaeaを見つめていた、その視線は突如として乱された。

    ……あんなもの、いったいどこから?

    思考の対岸から突如として、まるで紳士的に、所作の整った見知らぬ人のように出でたそれは、
    小ぶりな記憶の体を成した、ささやかな戒めだった。

    初めはその有無すらわからなかったが、それでも繰り返し思い返せば、それは確かにそこにあった。

    覚えている。これが、実際に起きたことだと。

    霊魂の奔流がその勢いを落とし、夜の帳が降りる頃。
    古びた二本が形作る木陰に腰を預けながら、自分は同輩に話しかけていた……。

    「そのうち、君はある種の矛盾の中に立たされているような気がしてくるだろう」と、彼は言う。
    「すべての生命は貴重ではある。けれど同時に、この退屈な仕事の日々だ。
    大小の違いはあっても、それらの命がただの統計、数字の一つのように感じてくることもあるだろう。
    それでいて、生命自体に頓着しないどころか、むしろ数字にこそ執着するように成りつつある自分が、
    まるで冷徹な他人になりつつあるように感じるようになりさえするだろう」

    「けれど、それでもいいのさ」と、儚げな笑みを霊魂の奔流に向けながら、少し間を空けて
    宥めるような一言を向けた。「そんな思考に呑まれていたら、内から引き裂かれるような心地だろうね。
    あの谷に行った時、どんな理由できみはこの道を選ぶと言ったんだい?」

    答えを返す、返ってくる。

    「ほらね、みんなそう言うんだ」と。
    そして、その声がどれだけ温和なものであったか、鼓膜が思い出す。
    「それをしっかり覚えておくんだよ。そうしたらきっと、大丈夫だから」

    けれど、ここで終わりだ。もうない。視界はもう上方へ、鋭利な宙空へと向いたものへと戻っている。
    『しっかり覚えておくんだよ』? 覚えておくって、それは一体、何を……?

    「思い……出せない……」と、柔らかく呟いた。けれどその一字一句さえ、喉に絡んで、
    音にするのも難しい。

    同輩の言葉は正しかったのだ、今ならわかる。目元にじくじくと溜まっていく悲しみの実感と、
    共に訪れる暖かくも鈍い嘆き、そして新たに姿を現した自分の記憶。けれどその実、
    ひどく欠落している記憶。あの問いかけへの回答も見つからないままに、
    自分の心中へと押しかける自分の記憶に、心は折れた。
    あまりにも耐え難い辛苦だった。

    この辛苦、自分が致命的に欠落しているという自覚の疼痛を、いかに言葉に表せるだろう?

    硝片の雲の下、彼女は目を固く閉じている。項垂れて、鼻先は掌底に、額は折り曲げた指先へと
    預けていた。泣きはしない。泣くなんて出来ない。ここで、このつらさの前で泣いてしまったら、
    今まで直視を避けてきた現実が、一気に牙を剥くんだろう。
    地面にしゃがみ込んで、今は唇を噛むばかりだった。

    ぜったいに、涙を見せるなんてない。そうでしょう?

    自身にしがみついて、褪せた世界で震えながら、孤高の魂の担い手は息を整えようとする。
    呑まれたくはないから、呑まれぬように。けれど、落ち着き始めたところで、ある考えが湧き上がる。
    もしこれが死であったら、と……。

    ……忘却のほうが、よっぽどいい。そう思った。

    English (未記入)
     
     5-6 
    ※スチルイラストが付属しています。(Illustration : softmode)
    解禁条件 5-5の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「Lethaeus」をクリア
    日本語

    心中で起きた決壊、それがもたらしたのは静寂だった。
    ……いつも以上の静けさ、まるで数日分のそれが一度に過ぎたよう。

    あの記憶の根幹を成すもの――つまり、多くを尋ねるべきでないという教訓のことだけど――は、
    黙考の中で、自分に関わる全てに彼女が拘ろうとしていたことに気づいたからだ。

    とはいえ、その試みは浮足立ったものだった。
    旧い記憶とその感覚は、忘れるには余りあるほど、陶酔的なものだったから。確かに、
    忘れ行くことを拒みはしたものの、それ以外の多く、あまりにも多くを忘れてしまっている……
    自分の人となりが、半分を残して壊れていたことにようやく気づいたのだから。

    これ以上は、止そう。

    さまよう記憶の硝片を、今日も広場へと導いている。これを反復することで、習慣になり、
    いずれ自然になるように。もしかしたら退屈こそが、彼女を救い得るのだろう。
    表層近くに潜んで、永久に彼女を呼び続ける、油溜まりのように惨めな感情が溜まった洞穴から。
    心に嘆きしかないのなら忘却のほうがいいと思った、そんな感情を味わうよりも。

    そしてArcaeaの硝片を導いていると、一つの硝片が陽光を受け、彼女の視線を吸い寄せるように
    輝いた。さして考えることもなく、その硝片を近づける。

    そこに映るのはとある光景。前かがみに道端に座り込み、自身の手で何かをかばう少女の姿だ。
    蟻たちが少女の手の外から、少し距離を空けた地点で萎縮している。
    手の内に隠しているものに、はっきりとそれらは関心を寄せてはいたけれど。

    守り人はその記憶へとさらに注意を向けて、少女が庇っているものは、傷ついたマメコガネだと
    探り当てた。しばしの熟考の末、小さきものをその両手で拾い上げて、立ち上がる。

    それだけだった。

    若き観察者はしばらく、その動きを忘れる。けれど、やがてにやりと口角を持ち上げた。

    なんて、明らかに無駄な記憶だろうか。

    マメコガネは、回復したのだろうか。あの少女は何歳まで生きたのだろう?
    そしてどれくらいの間、この記憶が少女の内にあったのだろうか?

    そう、たかが昆虫一匹に。

    少女は笑みを漏らす。

    皮肉なものだ。何かを思い出すことが、ここにいた理由さえも忘れさせてしまったのだから。

    Arcaeaとは記憶の世界だ。それが死者のみの記憶か、はたまた生者のものなのか。
    ――分かるはずもない。どちらにしても、誰しも忘れる物語が積み上げられていく。
    寿命を終えた精神や体、記念碑、または土地などでさえも。
    どのようにしてか、Arcaeaはそれらをすべて、着実に収集していく。

    少女は一人だ。同輩ももういない。そして目覚めてからは何かをする理由さえ、与えられてはいない。
    けど、だからといって無為に過ごすわけではなかった。

    今、彼女はここにいる。前の自分の人生は終わった、それだけだ。

    それでも、出来ることはあるんじゃないだろうか? いまだ、彼女は責任を感じている。
    あの時答えた、魂の担い手になろうとした理由を思い出せない。
    けれど、それがなんであれ、以前の欠けていない自分の掲げた理由を、
    欠けた自分でも出せるはずだと、何かが告げているのだ。

    有史以来、未来で何が起きるかわかる者など、いた試しがない。

    命と記憶は瞬きの間に消え去りうる……けれどここでは、そうじゃない。
    自分の記憶は失われてしまったのかもしれない、けどこれらは違う。『魂の担い手』は、
    『記憶の担い手』へと。
    少なくとも、いい言葉の響きだと彼女はそう思った。

    そう。ここでなら永劫に覚えていられる。

    ここに、わたしがいる限り。

    English (未記入)
     
     5-? (5-7) 
    解禁条件 5-6の解禁 & レーテー(Lethe)を使用して楽曲「NULL APOPHENIA」をクリア
    日本語

    ――彼女だ、彼女がやったのだ。
    それ以外の説明がない、原因がない、可能性があり得ない。
    そして今、すぐそこにいるんだろう。

    馴染みの大鎌の柄を掴む、鼓動を抑えて息を呑む。
    自身の使命を思えば、心は冷たく固く、鋼のようになる気がした。

    そうだ、使命は決して終わらない。
    たとえここで命が尽きて、レーテーが死ぬとしても。

    天上、硝片とともにきらめく空。
    死神の彼女が膝をつく台地は今、両端から崩れ始めていた。
    熟考と祈りを終え、なんとか立ち上がる。

    そうして眼前、一人の女を睨めつける。

    「つまりは」
    刺すような視線を気にもせず、投げかけられることば。
    「まだ理解したくないって、そういうこと?」

    「話に、ならない……なぜ、こんな……」
    視線をそのままに、レーテーは答える。

    「ずっと交渉なら、しているでしょう。
    ……むしろ少しばかり、上達してきた気さえするわ」

    答えながら、レーテーは自分の声が震えるのがわかった。
    「……勘違い。交渉について図書館で調べて来るべき」

    噛み付くようなことばに、向き合う女は答えない。
    表情ひとつ変えずに、けれど視線は地面に落ちた。

    「……、そこまで嫌われてしまったかしら?」

    けれど、レーテーもまた答えない。
    握りしめられた大鎌の柄だけが、十分物語っていた。

    「なるほど、残念。……でも」
    片目だけでレーテーを見ると、女は言った。
    「……安心して、どっちを選ぼうと同じこと。
    あなたの存在価値は、さして変わらないから」

    「……そんな事ッ」
    声を張り上げた。歯の震えを、怯えを上書きするように。
    「……聞いてない、どうでもいいッ!」

    帰ってくる言葉はなく、ただ無機質な視線だけ。
    その全てが端的に、『見え透いた虚勢ね』とこちらに告げていた。
    それでも、レーテーは対峙する。

    「渡さない……穢させない!この魂たちは、絶対に!」

    「……魂たち?『アレ』が本気で魂だと、未だにそう考えていると?」
    ようやく返ってくる声、けれど、困惑したような声色で。
    「私たちは魂がある。けれど『アレ』は違う、ただの死んだ魂の残響よ」

    女が言葉を切り、後ろに視線を向ければ、
    不気味に頭上を通り過ぎていく、刺々しい硝子の『雲々』があった。
    「あんな大した価値のないものに……」向き直る前、女はそうつぶやいた。

    「もう一度言いましょう。……『アレ』には確実な利用価値があり、
    私たちなら今こそ『アレ』を活用できるのよ。その実態が何であれ、ね」

    「黙、れえ!」

    突貫する。声を張り上げ駆け出して、大鎌は大上段に。
    眼前の敵を黙らせようと振り下ろす。

    だが、幻影だ。

    ――切り裂かれ、崩れる虚像。
    「なるほど。そもそも、あなたは硝片を使うことすらできない、と」

    ――困惑の上にかぶさる声は、後ろから。
    「なぜなら、この場所とその実態を受け入れていないから」

    音を捉え、ピクリと動く左耳。
    振り向けば台地の反対、光の中から現れる女の姿があった。

    女は、なおも続ける。
    「まあ、その不正確な動機はともかく、
    あの滅びた世界の欠片の山は、私が活用させてもらうとしましょう」

    姿勢を正した女は、片目のある位置を手で覆っていた。
    ようやくその視界に死神の女を収めるようにして、向き直る。

    下ろされる、たおやかな手。
    本来なら瞳の位置に咲く、一輪の花がきらりと光った。

    女……サヤは、淀むことなく言葉を告げていく。

    「だってこんな状況でも、私たちには役目がある」
    憤怒に染まった二対の瞳と、冷たく澄んだ隻眼隻花。
    「……でも、ただ一人。使命も何も、あなたにはない」
    そして視線が、また絡まった。

    瞬間、レーテーは激怒した。
    胸中を埋め尽くす、慷慨と憤激。
    対するサヤは、ただ、見つめていた。
    冷たい視線はその実、困惑と不服に揺れていた。

    この瞬間、二人の間で、
    奇しくも苛立ちだけが共通言語だった。

    English (未記入)
     
     5-? (5-8) 
    解禁条件 5-? (5-7)の解禁 & Apophenia レーテー(Apophenia Lethe)を使用して楽曲「Genesis」をクリア
    日本語

    まだ空が欠けてしまう前、二人が出会ってしまったとき。
    世界の半分に夜が訪れた後、再び出会ってしまったとき。

    出会ってしまう前からも、出会ってしまった後からも。
    言葉を交わしてから、ずっと、ずっと……ずっと。
    恨みは積り怒りは募り、吹き上がるように煮え揺る心。
    レーテーは今、激昂していた。

    狙いは死者たち、硝子の中の魂たちだ。そうに違いない。
    ずっと、ずっとその視線に感じていた。
    身を寄せる魂たちに、集い来る想いたちに向けられるソレに。

    あのひとは己が神だと、死者を弄んでいいと、
    そう思っているらしい。

    でも、死せる者は聖なるものだ、浄くあるべきものだ。
    穢すような蛮行を死神が赦すことは、決してない。

    不躾で無神経な女(ひと)へと突貫する。
    だが、再び消えた。顔色さえ変えずに。

    ――思い出せ、思い出せ。
    かつてここに導いたモノを、そして自分を救ったものを。

    硝片が合間を、周囲を飛び回る。
    サヤはただ、レーテーを観察している。

    覚えているはず。あの苦しみを、あの安堵を。
    あの感情たちが嘘のはずがない。

    大鎌を大地に叩きつける。
    サヤは切り裂かれるでもなく、ただ観察を続けている。

    そう、あの感情は嘘じゃない。
    わたしはわたしを、己の使命を知っている。
    あれは憶測だ、信念がないから決めつけてる。
    そうにちがいない

    「……レーテー」

    耳にした、聞き覚えのある音。
    知らずと動きが止まっていた。

    「知っている?これが、あなたの名前だと」

    凝視する。眼窩に花の収まったその女を。
    心が破れそうなほど、何かを喚いている。

    「知っているわ、見てきたもの」

    「……、え?」

    「全部見たわ、あなたの記憶……あなたの過去を」

    心臓を、鷲掴みにされるような感覚。

    「う、嘘」

    「名前って、馴染むでしょう?」

    揺さぶられるような心地。
    言い返そうとしても、舌がもつれるようで。

    「私は馴染む気がしたわ、自分の名前を知ったときにね。

    ここにはあなたが知るよりも多くの人間がいるわ、死神さん。
    そしてかつての名前のまま、みんなここにいるわけではない。

    ……でもあなたは、そのままでしょう」

    心臓に、血液に、広がってくる馴染みある暖かさは、
    けれど心地よいからこそ、今はゾッとするような心地がして。

    「(――違う、踏みとどまるべき)」

    温もりを押し流すように、押し込むように。
    レーテーは再び立ち返る。……すなわち己の憤怒と、決意へと。

    「……あなたのこと、もともと脳天お花畑の妄信家のような、
    誤った動機で動く類の人間なのかと思っていたけれど……”知った”ときにわかったわ。
    あなたは違う。単に過去の自分を覚えているのね。極めて稀なケースだわ」

    「……風に話しかけるの、楽しい?」
    苦し紛れに、そう告げた。

    「……」
    サヤは、じっとこちらを見ている。

    「声さえも嫌われてしまったかしら」

    「……嫌いだとか、言ってない」

    「ええ、必要もないわ。……隠せていないもの」

    ――ずきりと。見抜かれたような、射抜かれたような痛み。
    動揺は、けれど、すぐに嘲るような哄笑へと変わった。
    その声は……どこか震えて、乾いていた。

    「――可笑しい、可笑しい!
    人の心を、知ったかぶり?あなたが?
    心を知らず、金属みたいな心なのに!あなたが?!」

    矛先を向けられたサヤの視線が、再び地面に落ちた。
    「……知ってるわ」
    隻眼隻花の少女から、帰ってきた言葉はあまりにか細いものだった。

    「なに?」

    「知っているといったの」
    と、先程よりもはっきりとした声。
    その視線は、しっかりとこちらを向いていた。

    「知ってるわよ、心の内容物くらい」

    「……本当に?」

    レーテーは、更に問う。
    「その言葉、偽りはない?今の言葉、空虚だった。……きっと心が、空っぽなのね」

    答えはなかった。けれど、その目線が外れることもない。

    「……その目、その花びらの奥で、
    何を考えているかはどうでもいい。ただ、阻止するだけ。」

    レーテーも見つめたまま、言葉を続ける。

    「わたしの過去と、存在を知って……それで何?
    むしろ、それならわかるはず。わたしにとって、この場所の意味が。
    この魂たちを、穢させるわけにはいかないことも」

    目線はいまだ、外されない。

    「わたしの使命は、これ」

    そう、これこそが必要なもの。
    今ならそう感じられた。

    大鎌を掌でくるりと回すと、レーテーは再び構えた。

    「ここで止める。どんな理由があったとしても」

    English (未記入)
     
     5-? (5-9) 
    解禁条件 5-? (5-8)の解禁 & Apophenia レーテー(Apophenia Lethe)を使用して楽曲「NULL APOPHENIA」をクリア
    日本語

    空から架かる硝片の光。
    それはレーテーが集めてきた魂たちと、
    サヤが集積してきた記憶片たちによるものだ。
    二つの群れが接する際で、二人は再び出会った。

    だが、その二つが交わることは、決してない。

    ここで記憶され、偲ばれる、数千の、忘れられた生命たち。
    死神の少女はその光景に、いつかの魂の霊溜まりを視ていた。

    『どんな理由で、きみはこの道を選ぶと言ったんだい?』
    何だったんだろうか。志のまま、今日まで歩き続けてきた理由は。
    かつての自分の答えを未だ、レーテーは思い出せずにいた。

    それでも、彼女はずっと示し続けてきた。
    今の記憶のない自分なりの答えを。
    正しいと思えることを為す、それだけで、彼女には十分だったのだ。

    それでも……

    「ッ――?!」

    もう一方の女へ向けて、再び振るわれる凶器。
    だが、サヤが行った動作は、指一本だけのもの。
    衝撃。見れば、指の腹に備えられた魂――硝片。
    たったそれだけで、刃が食い止められていた。

    振り抜いて中腰の姿勢のまま、かの隻眼女を睨めつける。
    表情はあまりの不快さに歪んでいた。

    そのまま返って来た視線には、一厘も譲る様子はない。
    激昂のあまり、文字通りレーテーは逆毛立っていた。
    他意なく死せる者を無みするような敵の振る舞いに。

    「おまえ……!!」
    漏れていた、低く唸るような声が。

    「尊い魂を弄び!私から奪って!何を得るつもりなの!」

    「……得る?」
    思わず少女は聞き返す。
    鍔迫り合いながら、今なお刃を向けるこちらを直視して。

    輝く指先、瞬く花弁。
    そうして隻眼隻花の少女はまた消えた。
    消える虚像に空振る得物、現れる実像はさらに遠く。

    「……、あなたと知り合って大分になるけれど。
    これまで一度もあなたに嘘を吐くとか、そういうことはしてないわ
    その点が伝わっているかすら、今となっては怪しいけれど」

    右目の位置で、花弁が輝いている。
    一拍置くと、サヤははっきりと言葉を紡いだ。

    「この果てに、私が得るものは一つもない。……我欲や、私怨のためでもないわ」
    素直な感覚を言えば、『本当の事なんだろう』と、そう感じられた。
    けれど、レーテーは許せなかった。己がその言葉を、素直に信じることを。

    「……今、わかったでしょう?私の意図も、やりたいことも」

    打ち切られる言葉。その時、10の硝片が天上から現れた。
    隻眼隻花の少女の両肩に、背面に、一つ一つがきらめいている。

    「……認めるわ、少々感情的になっていると」
    瞑目し、一呼吸。……ややあって、再び左目は冷たく開かれた。
    視線の先は、再び死神の少女。そうして、鋭く問いかけた。

    「……でももう、わたしの意図はわかったはずよ。
    なのにどうして、あなたは邪魔をするの?」

    問いかけに、返ってきたのは。

    「わたしが、邪魔ァ……?」

    吐き捨てるような一言、唾棄するような嫌悪。

    「……それでなに?神にでもなるつもり?
    それとももっと、不遜な願いごと?
    だから、協力してって、そういう交渉ごっこ?」

    「……、私がいつ、神ごときになる話をしたかしら」

    「……今ッ!まさに今!!おまえが!!神を気取ってる!!
    魂たちを使い潰して、そんな意図じゃない?!まだ認めないの?!!」

    「……、ただ、成されなければならないことをしているだけ」
    ゆっくりとその指先を、激昂するレーテーに向けた。

    「前にも言ったわ。ここにいるのは私とあなただけじゃない。
    あなたが知るよりも多くの人間がいるの」

    二人の間に、落ちる静寂。
    広がるのは、灰色の大地。

    「滅びゆくこの世界を見殺しにしたいなら、すればいいわ」
    その言葉は固く、その姿勢も動かぬまま……「でも」

    「……私はもう、十分すぎるほど死を視てきた。
    それでもまだ、積まれるべき犠牲があると言うのなら」

    視線は、こちらに向いている。

    「この世界最後の死は、あなたに担ってもらうわ」

    隻眼隻花の女が纏う硝片、およそ10門。
    その全てが、こちらに向いている。

    「こちらに全ての記憶片を渡しなさい、死神。
    さもなくば、奪わせてもらう。……もう私に、私たちには時間がないの」

    記憶とはつまり、魂のことだ。
    レーテーの心は、決まっていた。

    ――到底絶対、有り得ない。

    「死なせはしない、癒やしてみせる。
    ……その手段も、見つけてみせる」
    毅然と、レーテーは答えた。

    「……ああ、そう。莫迦なのね」
    忌々しげに、苦しげに。

    「あなた、本当に莫迦だったのね。
    いえ……この際だから率直に言いましょう。
    もううんざり。その声帯からすべて、ずっとずっと忌々しい」

    レーテーは、ころころと笑った。
    「奇遇。……本当に、気が合う」
    ゆらり、と。大鎌を構えて、立ち上がる。

    嗚呼、心も無く、魂も無い、
    そして救さえもない女(ひと)よ。

    ――次こそ貴方(おまえ)に、死を贈ろう。

    English (未記入)
     

Ephemeral Page

実装:ver.3.3.0(20/12/03)

 

 7-1 

解禁条件 楽曲「Alice à la mode」のクリア

日本語

暗い庭園、花々と森の狭間で。

壁の端で、銀色の網がきらめいている。周囲の材質はどちらかといえば石のようだが、もしかしたら、
硝子なのだろうか?そもそも、ここはどの世界よりも奇妙に回る場所だ。
埋めるように宙空にも漂う硝片からどこかの現実が流れ込んでは、
色彩豊かな記憶が廃墟が散在する白い荒地に映し出されている。
今はアメジストの柱がいくつも立ち並び、おそらくはその柱の埋まる地中から明滅する光が、
地面すべてを照らしていた。

そんな場所で少女が一人、装飾豊かなパステルグリーンのテーブルの手前で、
意匠を同じくする椅子に腰掛けている。脇のスーツケースに手を片方のせて、
上品な革で出来たその上辺に、指を沿わせながら。他に、人影はなかった。

「発つべきだ、アリス」

そう、2つだけ。それ以外に影はない。

青年が一人、いつものようにその手に紅茶を持っていた。
彼女が目線を外したところで、そのまま注ぐ。
少女は、スーツケースの上、手のひらを預けることにしたようだ。

「今の、聞こえました?」
少女、アリスは尋ねた。

青年は首をかしげると、耳を澄ませてから答える。
「何も、聞こえないが?」

他方の腕をもちあげ、肘をつく。前のめりになりながら、顎を手の上で休ませた。
「そのとおりです」彼女は答える。「この記憶は――いえ、この記憶たちは……静かなのです」と。

「何だというのだ、それが?」

「最後に音を聞いたのがいつかってことですよ!」彼女は少し声を荒げて、暗にそれが愚問であると
主張した。「みてください、この庭園を。静けさと、美しい景色。なによりこの風景……。
テニエル、これは中々のものですよ?」
スーツケースから手を持ち上げて、眼前の暗い風景を手で示しながらそう言った。
空色の花々が、暗く光る景色を彩っている。

「中々と言えば」おもむろに青年、テニエルはティーカップで自身を示しながら嘯いた。
「この私の相貌の端正さこそ、中々のものだと思うがね?」

厚かましさに思わず、持ち上がる片眉。

「お黙りやがりませんか?」
手でも不快さを示しながらそうぴしゃりと告げた。

「おや無礼だな、ひどく無礼だぞ」という彼の一言に、
思わず苦言を漏らしながら背もたれにその身を預ける。
やりきれないと頭を左右に振りながら。

とはいえ、他の場所に行くことも出来ないままだ。
正確な時間で言えば、この世界にどれほど足止めされているのだろう?

保護者テニエルは彼女に付き従う。「君から離れるわけにはいかない」と頑なに、延々と。

だがそれ自体が苦痛なのは、言うまでもない。アリスはそんな彼を見る。
眼前を過ぎる黒と橙の蝶に一瞥さえ示すこともなく、テニエルはティーカップの中に視線を落としている。
すると、おもむろに中身を地面に棄てた。もちろん、ただの一滴も飲まれていなかった。
――これは極めて、いつもどおりの風景だ。もはや、テニエルらしい日常といっていいだろう。
すると彼は口を開いた。カップの底の澱を飲むためでなく、主張を示すために。

けれどそれが音になる前に、「それで」というアリスの一言が割り込んだ。
発言はそのまま「要するに今、出発するべきと……それが言いたかったんですね?」と続いた。

「……理解しているならば、頼む」とだけ返すテニエル。

それを、アリスは聞き入れることにした。
どうやら彼は、全く無意味に何かを言う人間ではないらしいからだ。
立ち上がると、白い地平線へと向かうテニエルの後を追った。通り過ぎる傍らで、
現実味のある記憶が褪せていく。解けるように、滴るように、すべてが虚空へと消えていく。
ただ一つ、アリスの肩の近くで戯れる、蝶だけを除いては。
今はテニエルもそれに視線を投げているが、いずれ、それも消えるだろう――。

そう。記憶がすべて、そうであるように。

English

A dark garden betwixt forest and flowers.

A silver web glints in a corner of glass. Well, is it glass? More likely it's stone, but this particular world operates more strangely than any other. Reality bleeds in from elsewhere, through floating shards that fill the air, projecting colorful memory into lands of ruin and white. Now there are pillars of amethyst, glowing from a light beneath that fills the entire floor.

She sits in a fanciful, pale green chair, before a small and pale-green table, her hand atop her suitcase which rests beside her. She drags her finger down the leather of its top. There are no other people here.

"We should leave, Alice."

"No other people"―but there is at least one other person.

He's here, holding tea as he often is, having again prepared it when her eyes were turned away.
She lays her palm on her suitcase.

"You hear that?" she asks.

He tilts his head, listening closely before replying: "I hear nothing."

Lifting her other arm, she rests her elbow on the table, slouches forward, and props her chin up with her hand. "That's right," she says, "in this one... or these ones... it's quiet."

"And what should that matter?"

"When was the last!?" she slightly raises her voice, telling him with its tone that she finds his question absurd. "Silence and a pleasant view... Look at the gardens, Tenniel. This landscape is... handsome."
She picks up her hand from her suitcase and indicates the dark wilds fading in and out before them, and to the sky-blue flowers dotting the shade.

"I," Tenniel starts, gesturing toward himself with his teacup, "am handsome."

Her blow twitches at the gall.

"Shut," Alice starts, gesturing toward him with her hand, "up."

"Terribly rude. Awfully rude," he notes. She shakes her head, grumbles, and leans back in her seat.

Precisely how long has she been stuck in this world, unable to travel to any others?

Forever, the ward Tenniel has been with her, steadfast in his claims of "I cannot be apart from you."

However, that largely proves itself to be a pain. She looks at him now. A black and orange butterfly flutters past his eyes, and after it passes he looks into his cup. Then, he tosses the cup's contents to the ground, having not drunk even a sip of it. A very, very usual habit―in fact, consistent Tenniel behavior.

He opens his mouth, not to lap the dregs, but to speak. "We really should go," says Alice, preempting him. "That's what you want to say, isn't it?"

"If you understand, let us take care," he says.

And she listens to him. He never seems, she thinks, entirely without reason. So she stands and follows him to the white horizon. The memory fades around them as they pass. It melts and drips, all, into nothing. All except the butterfly, which flies along at her shoulder. For now, Tenniel watches it again.
But it will fade, too―

All memories do.

 

 7-2 

解禁条件 7-1の解禁 & アリス&テニエル(Alice & Tenniel)を使用して楽曲「Eccentric Tale」をクリア

日本語

さて、ここは一体どこなのだろう?そもそも、『現実』とは、一体何なのか?

少なくとも、彼女が数多の世界を旅したことがあるのは真実である。

そして、今も旅している。彼女にとって、それは物を食べ飲みするなどと変わらない、
人生の一部であった。もっとも、この一番あたらしい場所に来るまでは、
そのどちらも必要はなかったけれど。過去、Arcaeaの世界に来るまでに訪れて、
目にした場所は数え切れないほどあった。
遭遇した奇妙な植物、風変わりな人々などの多さは、枚挙に暇がない。

ある時はファンタジーじみた生き物や魔法など、人が想像しうるおおよそすべてを彼女は見て……
『多次元間百科事典』、だっただろうか? まあ、そんな名前のものに記録してきた。
(どうやらこれは、喪失してしまったらしい)
アリスの仕事は当然、常に新鮮だといっていい。だが……

この世界は酷く独特だ。この世界に踊るように混ざり込んでくる、はるか遠い世界の記憶。
そして、それらがすべて単なる映像というわけでもない。音を聞くこともあれば、
異風な自然の匂いを嗅ぎ取ることも、記憶から味覚を刺激されることも。
そしてもちろん、まるで現実のもの同様に触れることさえ出来るのだ。
故に、問わざるを得ない。現実とは、なんなのだろう?と。彼女には、
このArcaeaの世界のような場所では、それが看過できない重要な問いのように思えていた。

もし、あくまでその存在が一時的にも拘らず、けれど五感でしっかりと体感出来る物があるとしたら?
はたしてそれは幻覚なのか、それとも現実と言って良いのだろうか?数多の世界を旅してきた彼女でも、
こんな世界はいまだかつてない。この世界は、どんな目的のために存在するのだろう?

故に、彼女は尋ねた。この旅の連れに、表情の一つ変えず、前置きもなく。
「ねえ、現実ってなんなのでしょう、テニエル? どうやって今この場所が現実だとわかるのですか?」

「現実だとも」彼はまたカップから紅茶を棄てながら、そう言った。「なぜなら、君の五感すべてがこれを
現実だと認識しているからだ。それが贋作や幻覚のたぐいだと、何故疑う? なぜだアリス、
なぜ自らの両手で触れられるモノの実存を問う? それだけで、十全だろう」

「……そうですね」と、彼女はきっぱりと話を切る。
こういう物言いをしている時の彼とは、対話するだけ無駄なのだ。

「話は終わりか?なら、あれを見ろ」と、地面のある一点を示す。二人は今、キャンプファイヤーの
記憶に迷い込んでいた。テニエルはなんとはなしに、その手の紅茶をかけて火を消した。
「一体、これはどうなっているのだろうな……?」と、そう尋ねながら。

「それを聞くのですか? わたしに?」と、信じられないとでも言うように返すアリス。

「どうやら彼らの楽しみを、私は台無しにしたようだな……」と、その連れは呟いた。

「まあ、この記憶も消えるのです。些末なことですよ、テニエル」

「だがアリス、目にしているものが現実だ。そしてなにかから視線を外せば、
それは消滅でもするというのか?違うだろう。……現に、あの炎が消えたのは私の手に因るものだ」

「お茶をそうやって所構わずブチ撒けるの、やめてくださいません?」

「ふむ、ならば謝罪の文を置いておくとしよう」

「誰が読むんですか誰が! 誰もいないでしょう?!」

ニヤリと笑って、テニエルはサッとノートパッドとペンを取り出す。手紙を書く彼を尻目に、
呻きながらもアリスは笑いを噛み殺すのだった。

彼が自分と共にあることを疑わない理由を、思い返すのはこういうときだ。
だが、こんなやり取りも近頃は、珍しくなってきた。「(近頃、ですか……)」と、彼女は考える。

はじめは、違ったのでしょうか?

アリスはすこしだけそんな思考に傾けはじめたが、歩くにつれて新しい風景が視界を埋めるにつれて、
いつのまにかその考えも抜け落ちていた。

そうして、日々は続いていく。

English (未記入)
 

 7-3 

解禁条件 7-2の解禁 & アリス&テニエル(Alice & Tenniel)を使用して楽曲「Alice à la mode」をクリア

日本語

決して、彼は嘘をつくようなことをしない。

彼は、自身の知る限りを知っている。息をする術を誰もが知るように。
――もっとも、彼に呼吸というものは必要ないが。

あるいは、養う術を知っている。食べる必要もないとしても。
飲むことも知ってはいる。水さえ、その身に要るところはないとしても。

また、彼女に付き従い、守る術も知っている。だが……

……現実には生々しく、ほぼ遠ざけるのも叶わぬ心地よさがあるのだ。

見えるもの、感じるものは現実だ。
見える、感じるものが現実だと知ることは、それが真実であるということだ。
真実は、胸の内に平静をもたらす。真実なくしては、自らを未知や、恐怖へ晒すことになる。
むしろ、より惨いものにも無防備になると言えるだろう。

――自らが知り得る必要のない真実、己を害する真実にも。
または自らの望む全ては、到底果たし得ぬという現実を知ることにも。
そして、全てには等しく不可避の終焉があるということを知ることに対しても、無防備になってしまう。
そんな真実や、そのたぐいの真実は、まさしく人一人を苦悩の底へと落とすだろう。

だが、彼はそれでも嘘はつかない。

『彼』は確かに、常に彼女を見守ってきた。

『彼』は確かに、自由を与え、胸が震えるように真新しく、異なった場所へと導いてきた。

それが、現実だった。そして、今もそうだ。

彼女の笑顔以外、なにもいらなかったから。

けれど、心臓があるべき場所にある重さが、彼女が更なるものを求めていることを知っている。
見えるもの超える、何かを。

「……持ってきたのか?」庭園の記憶の零れものにすぎなかったはずの花を見せられて、
彼女にそう尋ねた。

「まあ……なんといいますか。淡い色が可愛らしかったもので……」優しい視線を向けながらそう
明かした。「まるで他の世界で見た、空みたいじゃないですか」と告げると、
「名前はなんというのでしょうね」と、手元を見つめていた。

彼は、知っている。

「わからんな」彼は言った。「いずれ消えるぞ、確実に。他もそうだったようにな。
それを手元に残す理由などないぞ、アリス」

「……そうかもしれません、でも好ましいのです」アリスは彼に言う。
そして、次にそう言うことも、もう知っていた。「きっと、消えないと思います」

視線が、泳ぐ。筋も通らず、理由もないまま、彼はまた紅茶を棄てる。
――よくわかっていたのだ。彼女が正しく、その花が消えることはないということを。

だからこそ、それを彼は憂慮しているのだ。

「……好きにするといい、アリス」と、そう伝えた。

即座に、「そうします!」と楽しげに返し、アリスは耳元にそれを差す。
そして「何人も、わたしの生き方は決められないのです!」と大げさに、高らかに宣言するのだった。

胸元を指ではじきながら、テニエルは虚空を見ていた。

なんと不運なことだ。

ここでもまた、彼女は正しいのだから。

English (未記入)
 

 7-4 

解禁条件 7-3の解禁 & アリス&テニエル(Alice & Tenniel)を使用して楽曲「Alice's Suitcase」をクリア

日本語

世界は非現実的に混じり合い、変わっていく、それがアリスを常に魅了する。
対するテニエルはといえば、特に感極まるような様子もない。

故に、怖気のするような火を出す空飛ぶ機械のいた記憶の世界の次に訪れた、
燃え盛る悲劇の記憶を置き去りにしてきた時、アリスは面と向かって彼に尋ねたのだ。
「テニエル、あなたには熱意とかないのですか?」

この問いに、彼はニヤリとして答えた。「苦しむことも皆無だ、無いな」

その答えに、アリスは退屈そうな視線を向けるのだった。

その結ばれた彼の胸に、なにかがあるに違いない。そう思って彼女は、楽しそうな物を写す彼の目に、
きらめきや息の詰まりなど、喜びの欠片を見つけようとしていた。

ある日(そもそも夜が来ないこの世界に時間の概念があるならば、だが)、古いアトリエの記憶に
二人は訪れていた。

そこでアリスは、ちょっとした計画を実行すると決めていた。彼女は珍しくテニエルが気をそらした瞬間に、
こっそりと注意深く離れて、ドアの後ろに隠れる。いなくなったと気づいたテニエルは、すぐにあたりを見回す。
まもなく、「……アリス? いや、近くにいるはずだ。気にするな、気にしなくていい……」と呟くのが聞こえた。

埃まみれのテーブルとスツールには目もくれず、テニエルが歩いていくのを隠れた場所から彼女は
見ていた。そして、キャンバスの乗ったイーゼルの手前で彼は止まった。周囲を検分し、見つけた
木炭を手にすると、空白の紙の前のスツールに腰掛ける。そして、描き始めたのだ。からかう喜びも
自ずと鳴りを潜めて、アリスは静かに観察するばかりであった。

……そうでした。

この世界で、わたしが目覚めたころ……

テニエルは自分たちの帽子を次々と変えていた。アリスをからかいながら、常にアリスがしたいことを
言うように言っていた。詩歌や散文詩などを引用することも、よくあった。この閉じられた世界に迷い込み、
道しるべもないとき、アリスを導いたのは彼だったのだ。今よりももっとおどけながら、喜びながら。

けれど……思ったよりもすぐに、すべて止めてしまったんでしたっけ……

今、彼女の知るテニエルは、仮面を付けている。まるでそれがほとんど、新しい顔でもあるかのように。
だからきっと、忘れてしまっていたのだろう……。

(たしか、彼は芸術が好きだったんですよね? いつも画廊の記憶を見つけた時、教えてくれてたっけ……)

今、彼は自身の周囲を描きながら、キャンバスの前にあるスツールの代わりに、
その床の場所にティーカップを付け加えた。彼の創作だ、いうまでもなく実際のものではない。

ドアの後ろから、アリスは「よく描けているではないですか、テニエル」と一言投げかけた。

それに驚くこともなく、そのまま木炭を見つけた場所に戻す。

肩越しに一瞥すると、テニエルは簡潔に「模造品に過ぎないさ」と述べた。

「でも、想像したのでしょう? そのカップを」と、スケッチを差しながら言った。

「……そうだ、想像だ。だが私より、君のほうがよりよい想像力を持っているに違いないさ、アリス」
認めながらも、そう返す。

そうして、また笑う。

彼女はとっさに答える。「まあ、そう拗ねないでください、兄さん。
その技術は称賛に値するものです、まあ私の完璧な頭脳に比べれば……、――」

そして、止まる。
どちらともなくもう一方の目を見つめると、やがて、その言葉に理解が追いついた。

English (未記入)
 

 7-5 

解禁条件 7-4の解禁 & アリス&テニエル(Alice & Tenniel)を使用して楽曲「Jump」をクリア

日本語

「……それで、完璧な頭脳に比べれば、どうした?」

「……テニエル」
彼を、呼んだ。

「私の名前は、動詞の類ではないぞ。正確に何と比較しているのか、答えてもらおうか?」と、
揚げ足を取る彼。

けれど、アリスは折れない。「テニエル!」声を張り上げ、部屋に踏み込んでいく。
「あなた、どういう理由でああ呼んだのか知っているんでしょう?!」

「私の名前だろう」告げるテニエル。

「『兄さん』がですか?」狼狽しながら答えを返すアリス。

「テニエルがさ」そして、笑顔でそう言った。

「そうじゃないっ!」再度声を張り上げ、ぎゅっと手を握りしめ、地面を踏みしめる。
「わたし達、家族だって言うんですか?!」

「できるなら、そう……」スツールの上で振り返りながら、口を開こうとする。
どこか独りよがりで、据わり悪そうに……けれど考えていたことを言おうとする前に、改めて考え込む。
口をつぐんだまま、彼は目をそらしながら顔をしかめていた。

「あら、話さないんですね」責めるようにそういうアリス。
「そうだと思ったんです、分かってました……! 最近、あなたはいっつも――」

「美しい?」まだ逸らそうとするテニエル。「それなら常日頃から――」

「テニエル、わたしは真剣に言ってるんです」冷たく、アリスは割り込んだ。

「ならばこちらも真剣に言うが」テニエルは告げた。「この話はしたくない」

「不安にさせるからですか、理由もなく?どうして?」アリスは退かない。
部屋に踏み込みながら、怒りを露わに彼に問う。「『兄さん』と呼んだのです。
それも、明らかに親しげに。これが何を意味すると?気づいてないはずないでしょう、テニエル。
知らないはずがない。隠しきれてないですよ。さあ、話して。今すぐに、答えてください!」

彼は呻く。「遠慮させて貰おう」

「テニエル!」

「……構わないでくれ」

「わたしはもう大人です!不都合な言葉だって真実だって、耐えられます!」

「そう、単純じゃないんだ……!」

「それともなんですか、親代わりにでもなったつもりですか!」

「……ッ、彼は!親も同然だっただろうが!」

歩みを前に、怒れるアリスが立ち止まる。その目はテニエルへ、今は立っている彼へと
釘付けにされたままだ。
彼の言葉を咀嚼して、ただひとこと「……何ですって?」とだけ、尋ねた。

「う……く、無様な、自ら明かしてしまうなんてな……」テニエルはささやくように言う。
刹那のうちにその眼の端に輝きを湛えて、帽子のつばに隠れるようにうつむいた。
「違うぞ、アリス。君の兄では、私はない。だがな、覚えているのだ。彼を」

「……つづけてください」アリスは毅然と、続きを促す。

そうして彼女の連れは、自身のベストから取り出した。
輝く硝片、一片のArcaeaを。

「記憶ですか?」そう尋ねる彼女に、テニエルは答える。

「君のものだ」

アリスは無言で、その指に支えられた硝片を眺め、待った。

「……この世界は、皆目わからない。だが、君の存在によって、数々の記憶がこの場所に
投影されているのはわかる。私には、起き得ないことだ。おそらく……発生した時の記憶が……。
いや、むしろあそこは、散らかって……ああ、そうだ、はじめに君が眠っている周りに散らばる
無数の硝片から、『彼』のことを強く思い出したのだ。彼の様に知覚できたが、思考は……
とかく、いささか奇妙な経験だったと言っていいだろうな」

彼は微笑んだ。「その時知ってしまったものが唯一、私に……君の無知を願わせたのさ」

「……わたしなら、大丈夫です。テニエル」
宥めるように、そう言った。

その顔から床に、光の粒が零れる。ごくごく小さな水飛沫が、跳ねる。そして、震える声で彼は言う。
「戻ってから、そうは言えないかもしれないぞ」

それでも彼女へ、硝片を持ったその手を伸ばす。

アリスは、そっと受け取った。

硝片の内に、陽光と、窓際で波打つカーテンが見える。

その時ふと、アリスの頭上、帽子に手の重みを感じる。
その袖が邪魔して、テニエルの顔は伺えなかった。

彼は言う、「中身を見れば、君ならわかるはずだ。それと、アリス……」

返事をする前に、硝片を握る。「なんでしょう?」

「……わたしは所詮、ただの模造品にすぎない。だが、君は……」
声が、途切れる。「きみは……」

「はい……?」そう、続きを待っている。

「……達者でな」彼は、そう言うことにした。「用心するんだぞ、アリス?」

「……筋が通りません。あなたは模造品だとか言った後、『だが』と言いましたよね……?」

「……フン」そんな軽い、聞き逃すように鼻を鳴らすと、アリスの帽子から手を退ける。
否、その帽子を手に取ると、自らのものと入れ替えた。見られる前に背を向けて、告げた。
「私はただの模造品だ。だが、今回だけは聞き入れてくれ。……それだけだ。他に言うことはない」
そんな、嘘を。

追求は、なかった。かわりに、硝片を見つめて起動する。

色彩が渦巻く中、だが彼女は、青年の言葉を確かに聞いた。

「……そうだとも。贋作の願いなど、聞かせるわけにはいかないんだ」

その言葉の真意を問おうとしたとき、視界がどこか、見慣れたものに変わったのだった。

English (未記入)
 

 7-6 

※スチルイラストが付属しています。(Illustration : Mechari)
解禁条件 7-5の解禁 & アリス&テニエル(Alice & Tenniel)を使用して楽曲「Felis」をクリア

日本語

これと言った特徴のない……それどころか、もはや味気ないくらいだろうか。そんな場所にアリスはいた。
白い床に、天井を備えた病室だ。正確には、入院患者用のそれである――静かな部屋の中、
開け放たれた窓から見える、外をひらひらと浮かぶオオカバマダラ。
そして、その場所を認めるが否や、驚くべきことに、失くしたことにも気づかなかった記憶が、
その頭蓋の中に流れ込んできたのだ。

たとえば、すぐ外に公園があること。
親切でやさしい看護師さんたちのこと。
天気もいつも心地よかったこと。
そしてほぼ毎日、わたしがここで過ごしていたこと。

あまりの情報に呑まれそうで、なんとか落ち着こうと……したところで、背後にする足音。
振り向けば、ドアの前にいたその人は紫陽花を手にしていた。
前のあいた着心地の良さそうな、薄めのフード付きスウェットに身を包んでいる。
その下にTシャツと、緩めのスラックス、そして飾り気のないカジュアルな靴を履いていた。
なにより、その顔。その顔を、知っている。テニエルに似たその青年。だが、名前は……。

「……セドリック」

窓際の寝台から、か細い声がその名を呼んでいた。

通り過ぎざまにアリスへ丁寧な会釈をすると、青年は目覚めたばかりの患者のもとへと向かっていく。
その金髪を、輪郭を、人好きのする少女の顔を見るまでもない、これは少女自身の記憶なのだから。
その名は、アリス。

買ってきた紫陽花を、セドリックは花瓶に供えた。
すでに、供えられていた紫陽花は花束になって、寝台の横に揺れている。
椅子を引いて、近く隣に座る。だがその手に、ティーカップはない。求めるわけでもないようだ。

「セドリック……」再度、少女は名前を呼んだ。よろめきながら、上半身を寝台の上に起こす。
「今日は、アトリエにいるのかと思ってました」

「いいやアリス、そうじゃないさ。働く時間も自分に合わせているからね」
テニエル、ではなくセドリックはそう言う。その声は、彼そっくりだ。

「気分はどうでしょうか、お変わりないですか?」

二人は今の彼女を見ると、微笑んだ。

その言葉は、知らないうちに口から出ていた。正確には一応、なんとか考えることだけは出来ていた。
そのまま、脳裏で世界の新しい真実を処理する一方で、この記憶の中での発言を、
自動的に体がなぞっているだけに過ぎないようだった。あくまで、その渦中の傍観者の一人として。

「最近は、執筆はやってるのかい?」尋ねるセドリック。

「最近は、作品は描いてるのかい?」ニヤリと笑いながら、病床の少女は軽くおどけて見せた。

「最近、描いているか、ねえ……」繰り返すと、天井を見上げると、呆れたような表情をした。

「あは、なのに来ちゃったんですか!」笑いながら返すアリス。「どうせ多忙だろうと思いました!」

「3ページだ、仕上げてきたとも」誇らしげに、笑顔で答えた。

「うむ、よろしい!」

「それで、君こそ進捗なしかい?」

「書きましたよ!たくさん書きましたとも!」

「なら見せてくれよ、ほら。こんな本も持ってきたからさ」

「うむうむ、よろしい!」

少女はベッド横の戸棚に手を伸ばす。ノートや筆記具、それと、もっと使い込まれていてもよさそうな
タブレットがそこに収められていた。一方、青年は鞄から本を一冊取り出す。

……ああ、そっか、そもそも旅をしたことなんてなかったんですね。
巡ってきたのは、いつも読み聞かせてもらった話や、物語、夢の中だけ。

笑いながら、軽口を交わしつつ、二人は語らい始めた。

4日だ。

たった4日だったのだ、この全てが潰えたのは。ずっと続くことはないとしても、それでもあと、
300と65回くらいは、彼女にこんな日々が訪れると信じていた。覚えているのは早朝、激痛を感じたまま、
あとは意識が遠のいたことだけ。あとは、なにもない。
誰かが電話をするように、叫んでいたこと……たった、それだけ。

テニエルは、知っていたのだ。

この記憶は、どうにも長く感じた。最後の日々が篭められているこれを、アリスはもう見たくはなかった。

どれだけ打たれ強かろうとも、これは直視に耐えぬ恐怖だ。何も変えられないまま、
自身の症状は悪化する。常に孤独なまま、最後にはそこに居合わせることすら彼にはできなかった。
夢も物語も、願うばかりでは成就はしない。

その表情にまだ笑顔がある間に、その記憶から彼女は離れた。
その時が果たして、二人の最後の時間だったのか、覚えていない。
知りたくもなかった。

――これから、あなたは死ぬのです。そして死んだのです。

アトリエの記憶に立っていたこと、それがアリスの覚えていたことだった。

「テニエ――」顔をあげて、見れば。

だが、いなかった。

そこで、記憶は褪せ始めた。おそらくは……テニエルが言ったように、彼自身は模造品。
だからこそ、真実が明らかになった時点で、時間切れだったのだろう。

アリスが立つのは、空っぽのArcaeaの中。
映すもののない目で、前を見ている。

そうして、ありとあらゆるものが彼女に向けて絶叫を向ける。

この『荒野』も偽物、『身体』も空っぽ。
『記憶』もいびつで、わたしの『人生』はわたしのじゃなかった。
物語のように華々しい終わりもなく、この手に残るものも、兄さんも傍にはいない。

ひとりなんです、アリス。

そうやってあなたは、一人で死んだんです。

アリスはいつのまにか、自分が膝から崩折れていたことに気づく。
手袋越しの指が、地表を虚しく削っていた。

ひどく、冷えるようだ……そう感じる。泣きたいのに、涙は出てこない。

……そう、感じる。

感じているのだ。

『現実だとも』

脳裏に響く。テニエルの声が、あの言葉が、残響する。

『なぜなら、君の五感すべてが現実だと認識しているからだ』

じっと、手を見る。手が、見える。
手袋を強く引く。その感覚が、ある。

髪から花を取る、音が聞こえる。香りがわかる。口を開いて、花びらを食んでみる。

現実とはなんだろう?見るもの?味わうもの?触れるもの?
もし、それこそが現実だというのなら――


――『アリス』は死んでも、わたしは生きています。生きているんです。

そして、テニエルが記憶だったというなら彼もまた、どこかに残っているに違いない。

自身が異界を巡る旅人だったこともまた、わかっている。

『真実』がどうあってもわたしが、ここにたどり着いたなら。

きっと、道はあるはずなんです――。

――彼女は探し出すだろう。

その生涯で一番、自分のことを見ていてくれたひと、
彼を取り戻すための活路も、そしてそれ以外のものも、全て。

たとえ、この旅でもう一度会えなかったとしても。
彼の一部はもうずっと、胸の中にいてくれると知っている。

……まずはお茶を淹れて、棄てることから始めても良いかもしれない。
そう思えば、もう一度笑えた。笑顔になれた。

そうして、少女は決意する。
地面を踏みしめて、「真実」の硝片をしっかりと掴みながら。
これから新しい道を示す、地平線の先を常に見据え続けるとしても……

……ここに導いてくれたもののことを、決して忘れないと、そう誓った。

English (未記入)
 

Esoteric Order

実装:ver.3.6.0(21/05/11)

 

 9-1 

解禁条件 楽曲「Paper Witch」のクリア

日本語

目の前の景色が、移り変わっていく。

一歩一歩が踏まれる度に次々と変わっていく、景色。
その一歩が地面を変え、空間を、変えていく。
今、少女は織物の端に近づいていた。世界という名のそれが、
決して縫製されきっていないことを確かめる、ただそれだけのために。
ゆるやかに、すぐ近くを通り過ぎていた硝片が、急に蠢いた。まるで動揺した様に。
少女の周囲に白さは乏しく、むしろ黒くなっていた。
宙空に星がきらめき、歩いてきた軌跡はひび割れていた。

記憶の織物であるところのArcaeaは、そもそも端がほつれている。
見過ごされ、忘れ去られてきたほつれ糸だ。
その前、その渦中に今立っている少女こそ、初の生き証人なのである。

「――…どうやら」

彼女は今、真にひとりだった。

「誰かがここにたどり着くとしても、私と同じ道を辿る人はいないのでしょうね……」
声に出た一言は、確かめるような独り言。
呟きはそのままに、ねじれた荒れ道に沿って進んでいく。
「そういうことでしょう?道が形を失ってから随分になります。
目の前の景色はそのまま、変わり続けてますし……」

彼女ははるか遠く、右方にある事象、その一連の様子を眺めていた。
上向きにくるり、下向きにくるり、回っている白い螺旋が、
やがて崩れて、有象無象の粒子と散っていく様を。
そのまま、その粒子ら――欠片らは暗闇の中をきらきらと光りながら、
緩やかに彼女に向かって漂ってきていた。

「また欠片、ですか。――なにか、言うことはないのですか?」
と、傍らに浮くモノへと水を向ける。カロンと名付けられたソレへ。
衛星のようなソレは、動かない。その無駄に出来た頭を撫でながら、
「さあ、話してごらんなさい」と、命じてみる。

しかしその頭上で浮く、三角形の輪が意味もなく回るだけだった。

「……まあ、でしょうね」と、頭に手を置いたまま振り返ると、
眼前に広がる、その虚無の世界をじっと見つめた。
「ええと、『底の世界(lowest world)』と名付けたんでしたっけ…
なんとかこうしてあそこに向かえば、道すがらきみの寿命を延ばしつつ、
記憶を蓄積しつつ、そうしていずれは意識も…と思っていました…が、
それでもきみはいまだ…何も識りはしないようですね、カロン」

失敗作のしっぽが、ゆるりとSの字を描く。
揺れる耳はどこか物憂げに、けれど考えなしのようでもあって。

手を離しながら、「その動きは、愛らしいですけれど」と、
そう、ラグランジュは心から、安らいだ様子でそう認めた。

まだ白い世界にいた頃、硝片から作り出された衛星はやがて、お気に入りの場所と思しき
少女の左肩へと漂うように戻っていった。そうして、形が定着しつつある道へと、少女は向き直る。

奇異なことに、今まで見たものの中でもその道は、一段と幅が広かった。
――もはや道というより、平地だ。今見る限りでは少なくとも、そう見える。
そんな彼女を推し量ろうと、右側からArcaeaが集い始めた。
この人物、その心に、付け入る場所はあるのか、と探るように。
少女が意に介さず歩き始めると、どうやら違うらしいと見て、早々に散っていった。

彼女がここにいるのは、記憶のためではない。そしてこの、記憶の地は、
飽くまで過去の記憶に過ぎない。限界を超えても、学ぶことは多く、発見することもまた、多い。

これが、この場所がほつれた織物の端。
移り気に姿を変える道を進みながら、この場所の揺らぎと出会いたいと少女は考えていた。
そして叶うなら、この織物、それ自体の続きを手織れるようにと。

そうして、彼女は進む。自らが選んだ世界へと。
昏き世界、『虚無』へと。

English (未記入)
 

 9-2 

解禁条件 9-1の解禁 & 楽曲「Crystal Gravity」のクリア

日本語

ここには、およそ理解できるものがない。

もはや、ここという概念すらない『虚無』。けれどここが、Arcaeaそのもの。
境界と理の外であるこの空間が告げている。そう、最初からこの世界の全てが、
本当は真実を告げていたのだ。目覚めたときから、ずっと。

なにより、目覚めたばかりの少女が自らについて考えられるほど落ち着く前に、
Arcaeaが自ずとその存在を示してきたことは忘れてはならない。
(そして彼女が最後まで、『自分について考える』ことはなかったということも)
その上、ただ存在を示したわけではない。しつこく、実的に示し続けたのだ。
まるで、『ようこそ、この世界へ。そしてこれが世界だ』とでも言うように。

あるのは記憶に特化した、抽象的な書庫と、理由もなくまばらに散在する廃墟群。
そして意味のない名前のついた、名前のない少女。
それでも孤独な少女は、この世界の流れに気づくこともないけれど。
最初に彼女がしたことといえば、書庫が提供する『蔵書』を読むことだった、
だからそうして、少女は硝片を覗いていったのだ。

そこに一貫したテーマのようなものは一つとして見つけられず、
またつながりのようなものもなかった。書庫ならば、分類し、選分し、
整頓するシステムがあって然るべきだというのに。
――それもまた、観てきた記憶から得た知識にすぎないけれど。

Arcaeaにおける記憶はといえば、もはやそこに意図の類は見られなかった。
配置されている場所から、向かう場所においてもそうだ。
そもそも、彼女の存在自体もまた必然性がなく、まるで偶然起きたことのようで。
それに思えば、彼女は目覚めた最初からArcaeaという世界を知っていた、
にもかかわらず、自分がどうしてこの世界にいるのか、知りもしなかったのだ。

「……それに考えても見てください、カロン。これまで見た世界について。」

その言葉で、カロンの目が少女の方へ。ただその目に、思慮の光は見受けられなかった。
一人と一匹の主従はいまだ、『虚無』の中にいた。何処に向かうでもなくただ、歩いている。

「きみの材料になった世界といってもいいでしょう」
と、そっとカロンの耳に触れながら言葉を続けた。
「その中で一つでも、明確な意図の元に作られたモノなど、ありましたか?
これと似たような記憶を見た覚えはないですし、きみの材料になった記憶においても、
心当たりがないので……。まるで、明確な意図のもとに作られた世界でありながら、
どこか意図が欠落しているような…」

「その辺、きみは…どう思いますかね?」
言葉を切って、同行者に尋ねた。

視線はそのまま、眼前に揺らめく白い道に向いているだけだった。
仕方なく、手を放す。

「……、思えてならないんですよ。あまりに半端な仕事だと」
とひとりごちれば、カロンが頷いたような気がした。
静かに、共に進みながら、彼女は過去に思いを馳せる。

すると、眼前にその思いを馳せた過去、そのものが現れた。

……または、これこそが現在なのか?

「これは、一体……?」

ありありとその声色に、心からの困惑が出ていた。

突如、雲のようなものが現れたのだ。今までは浮かぶ道しかなかった、その場所に。

宙空で揺らめく、あまりに非現実的に、唐突に現れたその造形。
どうやらソレは、少女が気づかない内に発生したらしかった。

少女はそこに、再び見た。
雲のようなものの向こうに、廃墟と白、浮遊する硝片の世界を。
それは唯一覚えている世界で、置き去りにしてきた世界だった。

English (未記入)
 

 9-3 

解禁条件 9-2の解禁 & 楽曲「Far Away Light」のクリア

日本語

これは、今起きていることだ。

もし記憶だったとしても、目覚めてから見たものとは全く異なっている。
誰かの視界ではなく、そもそも乗り移る視界がない。

飽くまでも、どこまでも、映るのは古く、荒廃した世界。

「……」

少女は言葉もなく、眺めている。

「……いわゆる馬鹿にされている、というやつでしょうか。私」

そう漏らしつつ、彼女は前に進んで行った。

ふと考えたのだ、最初の世界について。すると、あの世界の景色が自ら現れたのである。
冷やかしか? 虚仮にしているのか? ああ、きっとそうに違いない。たしかにアレは、
どこか少女を嘲っているようだったから。道なりに進んでいると、更に同様の白い世界の景色がいくつも、
雲様に広がっていた。殆どは空虚なもの、けれどそのいくつかには、誰かが映って――。

想定通りだが、捻りがない。その雲のような窓を少し調べてみればどうやら、
不可視の壁があるようだったし……

そもそも、Arcaeaの世界自体に関心が残っているとか、あの場所に留まる意欲があるのなら、
こんな場所ではなく、少女はあの世界に留まっていたのではないだろうか。
それでもなお、以前の、かの地での生活に彼女は思いを馳せてしまっていた。

多くの記憶を見てきて、一時はこの世界の真実を含む記憶がどこかにあるかもしれないと、
そう思っていた頃もあった。だが見てきた殆どは、言ってしまえば『薄っぺらい日常』だ。
その日その日の出来事だけ。朝の目覚めから、夜に訪れる死まで。始まりから終わりまで、
ありとあらゆるモノの一巡があっただけ。真実なんてそんなものは、存在しなかったのだ。
多くを、それでも学んだ。だがこの世界については、何一つとしてわからなかった。

それでも、より多くを識るためにかの世界を離れ、世界の端に行くことを決めた時、
思ったのだ。世界の一部くらいは連れて行こうか、と。けれど少女はむしろ、
世界の一部…おそらくは良い部分から、何かを作ろうと考えたのだった。

そうして、カロンを見る。周囲にきらめく旧世界への窓には目もくれず、
少女は、自分の衛星だけを見つめていた。

そもそも少女はこの衛星を、気まぐれで作ったのではなかったか?

あの時、脳裏に浮かんだのは、とある仮説。もしもこの記憶でできた場所が、
この人の消え失せた世界が、なにか新しいものを作る材料になるとしたら……?

硝片、Arcaeaをいくつかまとめて手繰り寄せ、一つになるように願った。
すると、今のカロンの形になったのだ。

「……」

そのカロンからはだが、何も語られず、為されることもない。

それでも母星に寄り添う月のように、カロンは彼女と共にある。

だから、もうあの世界はいらないのだ。

あの世界が少女にとって、どれだけちっぽけな存在なのかは、
今、まさにカロンこそが体現しているのだから。

English (未記入)
 

 9-4 

解禁条件 9-3の解禁 & 楽曲「Löschen」のクリア

日本語

暗がりの中を進む。静かに、静かな衛星を道連れに。
その思考は再び、あちらこちらへと飛び交っている。

どうしても、あることを考えてしまう。

もしかしたらどこかに、全てを創造した神がいるのではないか、と……。

少なくとも、この世界の責任を負うものを神と呼ぶのは、正しいはずだ。

言ってみれば、そんな仮定が今彼女を突き動かしている。

――その神らしきモノを、見つけるためだ。

「いわゆる、インテリジェントデザイン、というやつですかね」
呟くのは、ここにあった記憶から学んだ知識。

「ですが、これは……」その思考が脱線する前に、そう続けた。
自身の前、眼前の光景に目を向ける。

世界の歪みは、もはや計り知れないものになっていた。左右は斜めに、上下は反転している。
動きたい方向へと歩きだしても、意識が逸れればすぐに、浮き上がったり、落ちたりしてしまうのだ。
造物主の失踪した世界はどうやら、少女の無意識が求める形を好き勝手に取るらしかった。
結果として見えない地面に見えない階段やら、それでいて物理的な実体を持つ
長々とした道として、彼女の眼前に現れているようだった。

そして、あとは少女が気付いた通りだ。
その視線は、上へと向いていた。

「……こんな有様です。この世界は感情から生じた、という方がそれらしい気がしますね」

この世界という、意図のわからない作品の落とし所は、そんなところだろう。

太陽が、ここにはある。あの白い世界では、空そのものから光が降り注いでいるようだったけれど。
ここでの太陽は闇に紛れて、忘れられたように弱々しく光るだけだ。
それとも、Arcaea世界の終わりない日々が、光を奪い去ってしまったのだろうか。

「……それも先日、終わりを告げたようですけれど」
独りごちる、視線の先にあるものに関心を向けながら。
そこにはもう雲はない。代わりに見えるのは、きらめく数多の星空だ。

数時間か、数日前か。虚無の中、複数の渦らしきものが現実を引き裂き始めた。
まるで、旧世界を見せていた雲に代わって、奇異なものを見せようとでも言うように……。

消えた太陽に造りかけの世界が、大きなヒントだった。
当然、引き裂く渦や旧世界の雲もそうだ。個々にある全てが一つの事実を語っている。

白の世界に戻ってもそうだ。『それ』は度々現れた。
ここでも、どこであろうとも『それ』は現れ、周囲の存在を脅かすのだ。

それこそが『アノマリー』。具現化した異常なるモノ。

白い世界でも、それには度々遭遇してきた。少女の周りに硝片の窓があった頃、
廃墟では更に頻繁に見かけていたくらいだ。今ではラグランジュにとって、
日々の出来事といって差し支えないが、それでも、物事を奇怪に変質させ、
無益な混沌をもたらすモノの代表格が『アノマリー』だった。

この空間は、『アノマリー』が密集したような、いわば群生地だ。
しかも彼女の見る限り、その発生になにか意図がある様子もない。
ここにある全ては、あくまで空間に生じる発作的なモノに過ぎないらしい。

ゆえに、少女は疑う。この世界を作った神のコトを――。

「……」

黒い渦を前にして、歩みを止めれば、緩やかに記憶の硝片が、中に吸い込まれていく。
この場にはもう、いくつとも残らない硝片が、もはや透けては薄くなり、やがて割れていく。

世界の果ては、もう確実に近い。

その腕を、少女は掲げる……。

記憶も、植えられた考えや先入観もなく、
けれど、人格とこの世界の知識だけを持って目を覚ましたことで、
少女の心は揺れ続けていたのだ。

少女が紡いで、考えてきた全てに関わらず、彼女は、思っていた。
この混沌としたArcaeaの世界に何の意義もないなんて、
到底、そんなことが在り得るはずがないと。

だって、こんなにも意味に満ちて、意図に満ちている。

記憶も、建物も、硝片も。

そして、あの子たちだって。

本当に、なぜなのだろう?

「……カロン」
自らの作った衛星、その名を呼ぶ。
気づいた様子などなさそうだが、それでも少女は言葉を続けた。

「まだ、思考も難しいのでしょうか……? ちゃんと着いてきてはいますけど……
ねえ、カロン。わたしのことを主人と、信じていますか……?」
名を呼ぶ。すると、その目が瞬いたような気がした。

「ここから生まれたんです。きみも、私も。
だからなにか、わかったような…気がするんです」
眼前に渦巻くモノに、腕を差し入れた。少女は無造作に、気張った様子もない。

……カロンはただ、その様を見つめている。
今まさに主人の片腕が、文字通り糸のように分解されていく、その光景を。

「……どう、思いますか。これが手品の類にみえますかカロン?
それとも私達、同じなのでしょうか。きみに血は通っていません。
なら私には?はたして、通っているのでしょうか……」

ほどけていく、ほつれていく。少女のからだ。

心臓は、あった。今も、少女の中で脈打っているのが見えている。

思考も出来る。現実に、彼女は存在している。

では逆になぜ、私がここに? そもそも、なぜ人が迷い込むのか?

……きっと、この体にも血は流れているのかもしれない。
けれどそれを、一滴として見ることはかなわない。

記憶の中で見てきたものとは、この体は全く異なっていた。

今、銀色に輝く糸は、さっきまで私の手で、胴体だったもの。

――ようやく、確信できた。この肉塊(からだ)が、造り物だと。

「……っ?!」

横から、衝撃。カロンの体当たりに、思わず飛び退いた。
すると銀の糸が直ちに巻き戻り、彼女の体は元に戻っていた。

空っぽの手のひらを、じっと見る。
それから、カロンを、変わらず、何を言うこともないその衛星を見る。

……肩の力が抜けた気がした。
結局、少女こそが主人である、ということでいいらしい。

従者の視線に応えながら、呼びかける。

「……さあ、行きましょうか? 行けるところまで」

English (未記入)
 

 9-5 

※スチルイラストが付属しています。(Illustration : Saclia)
解禁条件 9-4の解禁 & ラグランジュ(Lagrange)を使用して楽曲「Aegleseeker」をクリア

日本語

こんなことにいつなったのだろう。
いったいいつ、この暗闇がこうなった?

暗闇は抜け落ち、世界もまた零れ落ちた。
Arcaeaの世界の外には、何もないのだ。

唇を震わせても、言葉を運ぶ空気さえ存在しない。
震えるものはない。音も当然、生まれない。

ただぼんやりとした空間が、眼前に広がっている。

まるで、目を動かすほどに、空間が滲むような。
まるで、見えるべきものではないとでも言うような。

――すこしだけ、帰ることを考えていました。
来てすぐに、帰還についてもうちょっとだけ真面目に検討していたら、
ここから出て、帰ることも出来たかもしれません。

けれど、もう迷ってしまったんです。

…いえ、もう違いますね。

『迷う』とは、『場所』の概念が前提になる言葉です。
実に基本的な、上下左右という概念もそう。

ここにはもう、存在しないのです。むしろ、随分前から存在していません。
そんな大事なことを私は、今の今まですっかり意識していませんでした。
加えて、対象『私』の存在も消失。認識ができません。

はい、もう手は存在しません。足も、舌も存在しません。

現在、残存部位は眼球のみ、それと脳に残る影らしきもののみです。

現状報告。つ、まり……

く……感覚と、動作が奪われてしまうと、
ほぼすぐに分裂してしまうようです……精神が。
集中、しないと……それこそ、この世界の神ごときの二の舞を踏むわけにはいきません。

……

……んっ。

つまり、そういうことです。事実としてこの世界は、本当に考えなしに作られたモノで。
いわば……設計図のないデザイン、曖昧な模造品。

大地があって、太陽があって、そして日没のあとには夜空へ星が登る…。
そして、その後には…? これ、明らかに考えてなかったですよね?

正直、言わせてもらいたいんですが…。

あなた、何をこの場所に求めていたんですか? なぜここに誰かを導いたんです?
私の過去をまるごと隠したのは、何故なんですか?

私は、誰かだったんです。それを奪った。奪われたんです、あなたに。

……。

…私は、他の人とおなじように死んだのでしょうか?

兄を愛した彼女のように? 紅い紅い少女のように?

恐れるとでも思ったんですか?そんな死を、私が?

これが……フッ。

……こんな場所から、何を理解しろというんでしょう。さて…。

ここで、あなたが自分自身のために作ったこんなモノに閉じ込められて、
どうしろっていうんですか? 自分のためですよね? これを作ったのは。
どうせ楽園のような……逃避行、そんなところですか。
そもそも、どうやって成立させたんですかねそれに何の意味がありますか?
意味とはなんですか?

……、また、分裂しそうに。

本当に、無意味な……。

……はあ、ふふ。今なら正直、あの子がこの世界を憎むのがわかります。心から。

この世界について理解した人は、この世界の滅亡を願うことでしょうとも。

――あなた、これで救ったつもりでいるんですか。私を?ありえない。
仮に、そうだとしても。今私は自分をしくじった。そうでしょう? なんのために。

こんなモノで、一体何をしろっていうんですか?

……っ、カロン。

か、カロンは…ここにいませんよね。私の、体は? 今でも――いえ。

……すぐに。

すぐにここから消して下さい、私を。カロンはどうしてあの時私を止めて……?

振り返れば……振り返る?

目が、まだ私には目があるんですか?

み、みえない…。
私は、どこに…?
い、いや……嫌!
嫌です、本当に出られないんですか? 戻れない?
ここから出られないんですか?
うごけない?
嫌ッ、ほんとうにうごけないの?

……っく……。まだ爪があったら、噛み切っていたかもしれません。

……言っておきますけどね。

私は硝子じゃ…人型の硝子じゃありません。

たとえ私が硝子から、作られたとしてもです。

ええ、感じます。わかるんです。こんなの、何一つ欲しかったわけじゃない……。

聞こえていますか、この言葉が。

言いますよ、何度でも。……こんなの、求めてたわけじゃないッ!!

……ただ、知りたかったんです。知りたかったんですよ、私は。

その結果が、これだと……?

こんなもの。こんなの、なにも……。

……

……ここまでの全てが無意味だなんて冗談、
……吐き気さえしそうです。おなかが、気持ち悪い……


……おなか、胃? あ、え、腕……?

……そうでした。もう、ないんでしたね。

……これが光だと、そう言えるはずないんです。

私の周囲のこれは、形容しようのないものです。

あの荒れた世界を離れてこの『虚無』に来た時は、闇を歓迎さえしましたよ。

だって、違いました。眩しさもなく、わかりやすさもない。

光と闇。どちらも沢山の世界でありふれているモノです。
光は暖かく心地よくて、闇は恐ろしくて、わからない。

でも私はだからこそ、知りたかったんです。闇の昏さを。

……

…すぐに気づきましたよ、どこかで感じていましたけど。
この場所が、弱い心の持ち主を匿う安全基地として作られたことは。

でも生憎、私は違います。
こんな逃避先を作るような、弱い心の持ち主じゃない。

仮に造ったとして……私ならもっと上等なものを創ります。

カロンがその成果……、いえ、そのものを示してくれています。

私が先陣を切って闇を進んで来たのは、よりよい真実を見いだすため。
……けれどいつもの想定通り、真実というのは苦くも無慈悲なものですね。

はあ、こんな状態になって長く経ちすぎました。もう、時間の感覚がありません。

そうしていつも、再び直視することになるんです。

光を。――彼方に輝く、真実の光を。

……きっと、ずっと私を導いてくれていたのでしょうね。

こんなの、誰にも言うことはないでしょうけど。

なんだか負けた気分です。散々主張してきたものを覆さざるを得ないようで。

けれど、今なら確かに感じます。あの光が今は私を手招いている。

あの旧い世界からの光が輝いて、私を呼んでいる。そうして――

――その光に、私は救いを見出すのです。

……

いいでしょう、取りましょう。その手を。

近づく。近づけば近づくほど、指先がわかる。吐く息が、見える。

どうやら、戻れているらしい。

ならば私はきっと、ここに真実を置いていくだろう。

忘れることは、ない。だが、持っていくこともない。

だって、明らかなのだ。

私なら、あんな神よりいいモノが作れる。

でも、まず初めに、腕を取り戻さなくては。

それに……自分が秀でているなんて軽薄な言葉よりも、
きっと先に実現して見せるべきなのでしょう。……叶えてみせますよ、実際に。

けれどほんとに、増長しているわけではないんです。
あんな場所から逃げ延びることが出来たとはいえ。

どちらかといえば、これは応報のようなモノです。

――私は、世界を変えてみせましょう。またはより良い世界を作りましょう。

あなたはこの世界を酷く壊れたまま放置している。
本っ当に、もっとどうにか、上手く出来たはずでしょうに……。

わたしなら、あるいは。いえ……

もう、わかってるんです。答えなら。

――

English (未記入)
 

 9-6 

解禁条件 9-5の解禁 & ラグランジュ(Lagrange)を使用して楽曲「Far Away Light」をクリア

日本語

Arcaeaの地平は、およそ不可能に満ちている。多くを知るラグランジュといえど、
知るべきことを全て学んだわけでもないし、疑問も多い。…今となっては、後回しでいい。

結局、あの虚無の中でも再び自分を見つけることはできた。
全身を、欠けることなく。もちろん、カロンも一緒に。

どうやって『最果て』にたどり着いたのか、いまだに彼女にもわからない。
そもそも、それ以外のこともわからないままだ。けれど――

――つまり、この奇異にも壊れた世界という牢獄は、
薄弱な魂によって作られたもので。理性から外れた行動は存在しないのだ。

『最果て』から戻ろうとも。『虚無』から生還して、
『誰か』を見つけて、『旧世界の窓』の向こうに届いたとしても。

不可能に満ちたこの世界で、できないなんてことがあるのだろうか?

少女は、カロンを両手で抱えあげた。その眼には光がきらめいている。

「……では、きみが私のガイドさん、というわけですか?」
そのきらめきに目を合わせながら、尋ねてみる。

気ままなカロンは、無言を返すのみであった。

……それでも、少女の口端には笑みが浮かんでいた。

「……、見ないで下さいよ、そんな目で。ほらその『だからいっただろう』みたいな目。
そもそも、きみ喋ったことさえないじゃないですか……」

そんな一言に、カロンは……ぴくぴくと耳を動かした。

「……へー」

少女は、前進する。
自由になった衛星は間もなく、いつも通り、少女の肩のあたりにふわふわと落ち着いた。

一人と一匹は、歩いていく。
今、Arcaeaへと、雲のようなその輝きの群れへと向かっていく。

――その時、なにかが少女の注意を惹きつけるまで。

他のモノとは異なり、それは奇異な輝きを湛えている。その表面は波打っていて、
内側では硝片自体の時間がねじ曲がっていて、先へと飛び飛びになっている。

今見えるのは、世界の裂け目のようなもの。
そこでの空は、いつかのように割れていて――、
けれどいつかのように、紅い少女が裂いたわけではなかった。

見えるのは、影に身をつつむ少女。

光を纏った少女もまた、そこに。

そうだ。あちら側では今、新たな『終焉』が訪れようとしている。

ラグランジュは食い入るように、その結末を見守っている。
眼前の光景に飛び込みそうなほどに。

全てを超えて、それは結末、墜落へと続くもの。

不協和へと向かうもの。

そうして、少女は笑う。
目の前の出来事は、明らかな悲劇だというのに。

光と闇の、舞うようなせめぎ合い。

これが、Arcaea。

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コメント

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  • 3.10で実装されたスチルイラストを追記しました Esoteric Orderのイラストのみイラストレーターが分かりませんでしたので分かり次第追記願います -- 2022-01-10 (月) 13:25:08
    • 追記感謝です! -- 2022-02-17 (木) 13:45:08
  • Esoteric Orderのストーリーを抄写中に行数オーバーしました。ページを分割する必要がありそうです。(私はできません。誰か代わりにお願いします) -- 2021-06-05 (土) 14:35:57
    • 一応書き方を工夫すれば行数を節約できそうでしたが、再編集時の見やすさやストーリーの追加、他言語の補充などを考慮して、分割させていただきました。何か問題点があれば修正よろしくお願いします。 -- 2021-06-06 (日) 20:33:47