Main Story 2 (Final Verdict)

少しだけ、かつてのことを思い出す。
あとは、それだけで十分だった。

世界は、赤く染まった少女に頭を垂れた。白い炎が、その身には巻き付いている。
それは何を燃すこともない。ただ、命令を待つのみ炎だ。
一方でぼうっと、脳裏でこんなことになった理由を探していた。

敵は、止まっている。一時とはいえ、戦闘も止んでいる。
だが、まだ終わらない。上方にまだ、それがいる。

すべては他でもない、かつての姿に触れたから。
死を前にしても厭わず、恐れない。そんな姿の頃に、触れてしまっていたから。

だが、その時でさえ死を望みはしなかった。

今もまだ、ずっと死を拒み続けている。

虚ろな谷、割れた空の下、白かった少女の血は滴って、けれど地に跳ねることもない。
ここからは、塔一つが見えるだけ。からっぽの教会、カンパニーレがひとつだけ。

それは奇しくも、彼岸と此岸のようで。
割れた空と、少女たちの境界の目印のようだった。

結論はもう、すぐそこだ。
いつか視たものと、同じモノ。

これは運命（さだめ）だったと、そう言うのだろうか。

今、空に瞬く星の光。裂けたベールの先で、闇の向こうで輝いている。
もう、間合いだろうか。いや、こんな警戒は無意味だろうか？
世界が、視界が遅くなり――そして、止まった。

血が、熱い。目が、重い。

対立は、わかっていた。その一見、鈍く重いだけに見える瞳。
それこそが、『終わり』を齎すのだと。

渇ききって割れそうな舌喉から、わずかな唾液を飲み下す。

――その時、視線が絡んだ。
言葉はなく、けれど、少女の目には明らかな反抗の焔があった。

白い少女の胸中には、いまだ怖気を喚ぶものがあった。『虚しさ』だ。
だが、対立がその静かな目に視たモノは、その虚しさ故の弱さなどではない。
むしろ、そこに潜む意志だった。

それは『生き残る』という、ただそれだけの意志。

他でもないその意思こそが、光の魂を未だ殺し難くしていた。
言葉はなく、けれどその決意だけがあった。

――そして、動く。対立が動く。
その威容は巨龍の如く。

ありとあらゆる形で世界が拒む、少女を遮る。
だが抗う。檻を食い破る獣のように。

肌を裂く、なにか。
大気だろうか、力場のようだ。だが進む。
地に立つ白い獣へと、今、黒き獣が牙を剥く。

まるで、世界が反転したようだった。
言葉にすれば、ただ少女が大地へと着地した、それだけなのに。

莫大な塊として堕つ、大小様々数多の硝子。
硝片全てがそれぞれに打ち付けては地を砕き、縦横無尽に弾け散っていく。
一瞬、腕の感覚がなくなるほどの衝撃だった。だが、強引に感覚を引き戻す。

なんとか膝から体を起こし――視界の隅に何かちらつく。
炎だ。眼下の破片とその隙間。燃え上がる白炎。

理解が脳髄を説き伏せる前に、黒の少女は後ろへと跳ねた。

白く白く、全てが染まる。眼前の全てが刹那に燃えている。
まるで世界の上下が、再び狂ったかのような感覚があった。

臓器に差し込まれて揺れるような悪寒、だが、制止する。立て直す。

顔を上げる。しかし眼前に気配もなく白い少女が既にいた。
まさに今視界を灼いた色がスカーフのように、その肩で燃えている。

再び対立は退いた。退かざるを得ない。

逃げ際に硝片を浮き上げ、すぐに墜とす。大仰な硝子の檻で少女を編み込む。
咄嗟に抵抗に震える白い姿は、だが間もなく微動だにしなくなった。

すぐ対立は見た。再び見ようとした。その眼を、その意志を。
だが違った。その視界が捉えたモノ、光の瞳。
それはただ、己を囲む檻をだけ見つめている。

……すると、白の少女は呟いた。

だが、違った。それは黒の少女が求めすらしないモノだった。

対立の害意。その手が、乱立する硝子の群れを突き破る。
その手と視線が狙うのは、その隙だらけの首だ。
そうして、光もただ見ていた。その手を、迫りくる害意を。

硝子の檻は七色に響いて割れて行く。
そうして、時も止まった。

For a moment, she was remembered. That was enough.

The world bowed to the girl marked by red, as white fire rose from her body. Now cloaked in flames that will not burn without her say, she wonders why this has come to pass. Her foe was stopped. The battle for a moment, was stopped. And there is more. Above these is more.

All because she has touched on what once was; when faced with the thought of dying, she was not afraid.

However, dying was also the last thing that she wanted. And still, now, she refuses to die.

Now, in a valley of nothing, beneath a sundered sky, her blood falls but does not strike the ground. Only beyond here can a single tower be seen: the bell tower of a hollow church, jutting there between the divide as if to mark it for those below.

The conclusion approaches now. It was expected.

What is fate?

Now, there is starlight in the heavens. the veil is rent, and the darkness behind it is glittering. Is it within her notice? Does that matter? The pictures have slowed, and stopped. The fall of the firmament has slowed, and stopped. Her blood is hot. Her eyes are dull.

And Tairitsu knows: despite their dullness, those eyes promise "demise". She knows. She swallows what little spit dampens her otherwise dried-out tongue and throat. She meets those eyes. Wordlessly, she vows to defy them.

In Hikari's heart, "emptiness" threatens. However, it isn't the emptiness that Tairitsu can view through the silent girl's stare. "Will" lurks, but not in weakness. There is a sincere will to survive, unkillable in Hikari's soul. It will not perish. Wordlessly, she vows to live.

Tairitsu moves forth like a dragon.

The world holds her back, and still, like an untamable beast, she resists. Is this atmosphere? It is force―ripping at her skin, and yet she drives forward still, to the true beast standing on the earth. That beast turns her head.

The world seems to turn on its side, and at once Tairitsu meets the ground. Glass falls in a tumultuous clatter, splashing and scattering and flying out. She cannot feel her arm for a moment, but forces it to return to recognition. She drags herself onto her knees, and spots a white tongue of flame flashing through the sheds beneath her. She flies backward then.

The earth is set ablaze.

The world turns again.

Her stomach lurches with motion, though she soon stops and stands still.

そうだ、前にもあった。そのはずだ。

この拒絶。この感覚。
まるで全てが、自分から距離を取ろうとしているかのような。

この凍りついた瞬間のなかで、全てを拒んで、やめてしまいたい自分がいて。
じくじくと内側の不協和に焦れるように、苛立ちが募っていく。

その躊躇い、自身を阻もうとするのは、慈愛からではない。
ただ、どうでもいいだけなのだ。

無関心。徹頭徹尾のどうでもよさ。
怖気さえ感じるほどに、根深いそれを、白い少女はずっと抱いていた。
その強固な冷淡さを少女は——、 どこかで、感じた事があるはずなのだ。

今、内側で少女はせめぎ合っていた。

傷つけるなんて、と思いながら、
けれどやらなくては、と考える。

『成すべき』と『成さぬべき』の相反する感覚、
その摩擦に、粗熱が頭に詰まっていく。

だが、それでもまだ、揺らぐモノがあった。
それは、心のどこか深いところ。失うには強すぎる、彼女自身の真なる願い。

凍った時間の中、黒の少女の前に光はいた。
こちらに伸びる少女の害意、その掌。表情は憤怒に歪んでいる。
引き裂かれた虹が、周囲に漂っている。
対立は、動けない。光は動かない。

くたびれた心の内で、夢見がちな己が問う。
『時間の流れを戻したらすぐに、強引にあの人を遠ざけられないかな？』
そうしたら、諦めてはくれないだろうか、と。

いつかの、虚ろな独善性も顔を出す。
もう、それでいいんじゃないか、と。

そうだ、きっと諦める。そうでなくてもこちらは被害者なんだ。
ただこの事態の終わりを願うだけなら、罪にはならないだろう、と。

再び、世界は動き出す。すぐに対立を押し退けた。
遠く、遠く。一瞬で、見えないほどに離れた礼拝堂の門の後ろへと。

彼方の宙空で動揺のままに、対立は門の格子の一本を掴んだ。
周りに集いはじめる周囲の硝片は、蝶番から金属を引き裂く手助けをするように。
動きながらも脳裏で、対立はすぐにあの獣がしたことを理解し始めていた。

周囲の硝片を集められるだけかき集め、煌めき反射し合うすべてをすぐに上空へと送った。
すぐに、光が見つかるだろう。そして、大地を突き動かした。

捻じ曲げられていく世界の表層、そしてその内側にあるもの。
地に突き立てるように片足を踏みしめて、光はその暴威に抗っていた。

そして気づく、未だ対立の内部にて燃えるその執念に。
光の持ちうる希望すべて、焼却せんとするその渇望、その意義を。

だが、だというなら。

——いったいわたしが、何を望んでいるというんだろう。

くすりと、笑った。

知っている。じぶんが望むものなんて、ひとつもない。

そうして、視覚を置き去りにする速さで、二人の距離は零になる。

この空間の歪曲がどちらに因るものかも、もうわからない。

壊れた大きな門の背後、大聖堂の影の中で、少女たちは対峙する。

そうして、笑顔さえ浮かべて。
光は、繰り返した。対立へと説くように。
「こんなことする意味なんてないよ……」

——それが、黒の少女が聞きたい言葉ではなかったとしても。

Because the sentiment asking for her to stop all this is not kindness, but lack of care: a frightening and deeply seated apathy. This is what she always had. This profound indifference—she must have felt it before.

Within her soul, two wills are at war.

I can't, she thinks.

I have to, she thinks.

And these thoughts—they fight against those building sentiments of "should" and "shouldn't".

But she feels a fire flickering in the depths of her heart; yes, her true wishes are much too strong to lose.

Hikari stands before Tairitsu, whose hand is out and whose face is contorted with rage. Around them, a rainbow has been torn apart and is bleeding through the air. Tairitsu cannot move. Hikari cannot move.

Inside of her, hope asks, "When you bring back time, can't you just push her far away?" Her will-to-be ;considers it.

That's fair, she thinks. Hope can't be a worthless thing.

The world begins to move again, and Tairitsu is sent, in an instant, behind that distant chapel's gates. Her impassioned grasp closes around one of its bars, and glass comes to help her tear the metal construct from its hinges. At once, she realizes what game the beast has played. She takes hold of whatever other glass can be found around her, and sends it all to the air, each flickering and each reflecting. She finds Hikari soon, and then she moves the earth.

Things twist beneath that earth, and within the world's fabric, as Hikari plants down her foot in quiet rebellion. In a sudden but frightening way, she realizes that Tairitsu still has the aim—and the means— to take away all of this. So, to hope?

She chuckles.

She already knew that hope was gone.

The space between them warps. Which of them asked for this, neither can tell. They face each other behind the broken gate, within the shadow of that cathedral.

And, with a smile, Hikari repeats herself. She tells Tairitsu, easily, "I said... you don't have to do this."

It is nothing that the girl in black wants to hear.

「……こんなことって何、意味？冗談のつもり？」

対立は続ける。

「どうせあなたもここにいる理由さえわからないんでしょう？
それとも、私以外に分かる人がいるの？

それに、他でもないあなたが意味を語るの？
……ええ、そうよ。ここで起きる意義があったことなんて一つもないわ。何一つ！
この場所で何が起きようが、それだって無意味！どうでもいいのよ。
そしてあなたは……何一つわかってない。そもそも、何一つ知らないものね。

ここまで、ずっと必死に耐えてきた。……私がこんな世界にいたくているとでも？
正直、自分がもしかしたらこの無意味な物語の主人公かもとか、
悪役かもしれないって考えたことさえあるわ。

でもね、もうそんなの瑣末事。どうでもいいの。
あなただって、最初から死ぬ定めなのかもしれない。けれど、どっちにしても無意味なのよ」

「だから、あなたの言う通り。こんなことに意味はないわ。

……そもそもあなただってこんなこと、する必要なかったでしょ」

なめらかに、けれど重い石のように、お互いに向けられた言葉が転がり出てくる。
尖った言葉は彼女の心を抜けて、前にいる光の、頭上を通り過ぎて行くようだった。
その言葉は、光にとって狂気のようだった。
黒い少女はどうやら、自分と彼女の間につながりを感じているらしい。
けれど、その実感が黒い少女の中にしかないというのが、
どこか狂いというものを感じさせていた。

その対立もまた、自らが発狂していることを自覚していた。
だが思うことといえば、特にない。失うものも、得るものも、何もないだけだ。
そも、ここまで自分を突き動かして来たのもまた、この狂気なのだから。

ただ最期に、一度だけ。

「死にたくない？なら、私を殺すコトね」

「でも、その前に教えてあげる」

「私ね、終わりたいの。死にたいのよ」

それは、素直な、こころからの言葉。

対立は願っているようだった。ただ、奥底からの言葉だった。
その真摯さとその悪辣さ、全てがその言葉に滲んでいた。

だからだろうか、対立の腹には力がたぎり、その手はもう燃えるようだ。

——どうなろうと、彼女は強行するのだろう。
今、すべてを終わらせる気でいるのだ。
己を導いた、そんな感情を胸に。
対立は、未だどちらの支配下にも降らぬ硝片らを喚び寄せた。

——それは、まるで空が切り取られたような。

けれど、視線の先、何かが地平線を上から黒く塗り潰している。
今、空が堕ちてくる。

What 'has' to be done? Are you joking?" says Tairitsu.

"You don't know why you're here, do you? Does anyone, other than me?"

"What has to be done? You're right: nothing has to happen. Nothing in this place matters, and you... you don't even understand. You don't know anything."

"I've kept it up long enough. Do you think I care to be here? You know, honestly, maybe I'm the 'hero' of this worthless story. Maybe I'm its 'villain'."

"Whether I am, whether I'm not... Honestly, whatever; it doesn't really matter. Maybe... you ought to die."
"You're right. I don't have to do this."

"Neither did you."

...The words, pointed as they are, seem to roll out of her like smooth and heavy stones, bowling over and through Hikari before her.

To Hikari, it sounds only like insanity. She feels now like she and the other girl have been connected... but all that's in the other girl's mind is madness.

Tairitsu knows that her mind is madness. And what of it, she thinks? It has been driven there. There is nothing to lose and nothing to gain.

She speaks one final time, saying, "If you want to live, then kill me."

"But you should know this first..."
"I want to die."

Her words are sincere, and her sincerity and wickedness are manifested. Might fills Tairitsu's stomach and burns into her hands.

She will force the ending now, no matter what it will be.

With that sentiment guiding her, she calls upon the shards to which neither girl has laid claim:

The fragmented segments of the sky. They begin to fall, and the horizon darkens.

光にも、どうしようもないものはある。

そもそも、力を取り戻した直後、かなり早い段階でその殆どは再び失われていたのだ。
その力の拮抗は、奇しくもまるで綱引きのようで。

けれど、まるで違った。むしろ綱引きの範疇ならどれだけ良かっただろう。
——そう。今行われているのは、ただの蹂躙だったのだから。

かの空の一部が噛み砕いたもの、それはまず地表だった。
粉々に破砕されて往く大聖堂。 そして視界の全て。

余りにもその位置は光に近すぎた、偶然とは思えぬほどに。

すぐに察する。これは、ただ小手調べだ。
空のように見えるモノ、その全てがもう対立の指先一つで動くのだ、と。

馬鹿げている。常軌を逸している。
あまりにも途方もない話だった。

地表と大気だったモノ、巻き上げられる硝片と暴風。
すべてが叩きつけられ、まるで混沌としていた。

いくらかを消し飛ばし、相殺することはできた。
荒ぶる有象無象、その一部を、どこか透けるような白焔で呑むくらいならば。

空のごく一部を乗っ取り、己の指揮下に収めることも出来た。
世界まるごとをぶつけるような対立の暴威にも、かろうじて対峙出来ていた。

視界のすべてが、災害という単語が温く感じられるほどの惨状。

もし見上げても見えぬほどの巨人が地表を踏み荒らしたとしても、果たして、その惨禍はここまでだろうか。

加えて、かの白い嵐の中、かろうじて見える黒い部分に、光の干渉できない部分があった。

それは硝片の群れ。対立が支配下に置き、手放さない昏い一群。
かの群れを足がかりにして、今、全てがひっくり返されかねなかった。

それでもまだ、応戦する。平原、正門、そして廃墟だったものが混じりうねる中で。
知らずと顎は震え、歯がかちかちと鳴っていたとしても。

大地を踏みしめても、指先の震えさえまるで頭蓋へと響くようで。
どうにかまだ建っている大聖堂も、際限のない瓦礫の瀑布に重く軋んでいた。

だが、折れない。祈りの園は倒れない。
光もまだ、挫けない。

もっと早く止めるべきだった。その機会はあったのだ。

鳴り止まない心臓。すこしだけ閉じる双眸。

狙いは、なんだろうか。
次に壊すのは世界の核のような部分だろうか。それが、あの少女の標的だろうか？

周囲の風景をなんとか保たせながら、考える。
迅速に、速やかに、彼女を止める手を探る。

そのためなら——。

だが。
突然、光の胸を締め付ける感覚があった。
視線を向ければ、締め付けられていた。
遥か先の黒い場所から胸元へと何かが巻き付いている。

それは鎖のように規則的に並ぶ、鋭利なArcaeaの群れ。
即座に燃やした。灰にした。だが、すぐに鎖は再び絡み付いてきた。

とっさに頭部を守る。が、代わりに腕、膝、つま先、そして大腿。
鎖は今にも腹部に伸びようとしていた。全身を燃やせども、すぐに絡み戻ってくる。

彼女を縛る影の記憶、この陰惨な記憶たち。

どこか感覚に覚えがあるとはいえ、あまりに嫌な状況だった。

拘束の幾つかを解いていく。
足を自由にした頃には、既に対立が近づいていた。

一歩、後ろへと飛び退く。
だがそこには、既に鋭利な棘があった。
まだ自由の効く手足を狙って、意地悪く包囲網が敷かれていたのだ。

その硝片を直視し、燃えろと念じる。

だが返ってきたのは拒絶だった。

すぐに、また繋がれる。
引き倒され、そのまま彼女の足元へと引っ張られた。
跪くような構図。

まだだ。まだ活路はあるかもしれない。
それとも、見逃してしまっただろうか。

（いつの間に、こんな……？！）

のろのろと頭を上げれば、黒い少女。
びたと静止し、立ち塞がっている対立の姿があった。

Hikari cannot control everything.

Rather, her control was lost very quickly after she had gained it.

A tug of war...

No, this would be better referred to as a struggle—

This would be better called a beating.

As the first part of the sky falls to the earth, crushing a part of the cathedral and showering everything in dust, it falls very near to her. This cannot be coincidence—it's too close to be chance. She understands, as more comes down, that Tairitsu has the sky.

And that... can only be called absurd.

The land and the air—the glass, the wind—all of it is being heaved up, pulled down, turned and tossed. She can disappear some of it. She can point at some of it, and make it vanish into nothing but pale and transient fire. She can even pull parts of the sky to her thrall. When Tairitsu throws the world at her, she can catch and throw it back.

It is cataclysmic: as if giants have descended, and now stomp down on the earth.

And amidst the white there is black she cannot touch, called from the distance. There are shards that Tairitsu will not give back. This, everything, is now being taken.

As she battles back—as the plains and gates and buildings rumble—her teeth are forced to chatter. She plants her feet again, but can still feel tremors into her fingernails—into her skull. The cathedral standing over them groans as it is beaten by the debris of the heavens. But, it does not fall. Nor will she.

...She should have stopped this sooner. She had had a chance.

Her heart beats. Her eyes narrow, only a bit—

Is the core of the world going to break next? That's what the other girl wants, right?

As she thinks that, as she holds the landscape together and thinks—so quickly thinks about how to stop her, if that is the case—

Her chest is leashed. A line of Arcaea flies from the darkness and wraps her chest in a pointed embrace. Fire burns this away, but her chest is leashed again.

Her arms are leashed. With effort, she turns her head. Her legs, her feet, her thighs are leashed.

Her stomach is leashed. Her body burns again, and her body is bound again.

These shadows—these memories of woe are keeping her trapped.

That... There's some black humor in that.

Tairitsu approaches, and Hikari breaks some of the bonds around herself, freeing her leg. She takes one step backward with it, and finds a spike just behind her. Some hideous formation, aimed at her unshackled limb.

So, she simply stares into the glass, and wills it to be set ablaze.

Yet it refuses to.

She is tied down again. She is brought low. She is tugged, suddenly, down to her knees. There might still be a way out.

Or, there might have been.

...When did it happen?

When she lifts her head, Hikari finds Tairitsu standing motionless before her.

絡み合う沈黙、満ちる静寂。

言葉はない。けれど、二人は目線はお互いに釘付けだった。
瞬きもなく、見つめている。
ひとまずは止んだとはいえ、戦いの残響音も、まだ止まない。

荒れ果てた周囲一帯、ささやくような風が吹き、
破砕された彫像が、岩々が散乱し、土埃さえ舞う中でも、
二人の視線はただ、じっとお互いへと注がれていた。

視界も晴れない中でも、光には見えていた。
いまだ黒い少女の瞳に、光をここまで追い落とした激情の輝きが。

これは、休戦を申し出るための沈黙ではない。
言葉なき、刃のような脅迫だった。

思わず光が息を呑むと、その空いた首元に対立の視線が向いた。
嫌いな喉元、嫌いな声の編まれるそこへ。

そんな意思が、欲が、視線のままに光の肌に突き刺さる。

光は願った、時よ止まれと。
——だが、止まらない。

己の拘束を焔で解こうとする。
——だが、解けない。

大地は動かず、空も応えはしない。

逆転の秘策が降りることもなく、気づけばただ息を殺していた。

「……」

飛来し続けていた空の一部は、止んだらしい。

いまだに聖堂だったものの崩落は止まらない。

土埃は舞い続ける。二人の間にも、その頭上にも。

鋭利な害意はいまだ、黒い少女の瞳の奥に揺らめいている。

ゆるやかに細められていく、その双眸の奥に。

たとえ荒れ果てていたとしても、この時だけは世界は穏やかだった。

対立は、すると記憶の硝片ににやりと笑いかけた。
光は、いまだ目線を動かさない。

「またこの場所……また戻ってきてしまったわね？」
少しだけ首をかしげて、対立は続ける。

「それで、またやるのかしら。あの奇跡のままごとを」

光は、答えない。

「……奇跡を奇跡たらしめるのは、その出来すぎた都合の良さ。
あんまりにも都合のいいタイミングで、起きる筈の無いときに起きる。
だから、奇跡というの。

あなたもこの破片……Arcaeaを通して、いくつも壊れた世界を見てきたでしょう。
なら解るはずよ。奇跡っていうのは、希望とほとんど同義なの」

「……まあ、いいわ。奇跡が起きようと起きまいと、いずれ死ぬ。それは変わらないわ」

どうにか、光は息を整えた。一方の対立は、ゆるやかに伸びをしている。

「出来ることなら、忘れたいものよね。全てを、綺麗に」

再び動こうとすれば、再び不自由を思い知る。
肩から、つま先さえも動けない。

「あなたは死ぬの。私が殺す。

そしてこの世界……『あなたの世界(Arcaea)』も、一緒に死ぬのよ」

再び、黒い少女の口端は弧を描く。
息を吸って、強張った笑いを吐き出した。

光の頬に片手で触れて、そっとその顎を上向きにする。

「ああ、本当にあなたの言葉は正しかったわ」

もう一方の手を近づけながら、懐しむように続けた。

「だって本当、こんな事必要ない。意義さえない。その通りだもの。
だからあなたを自由にしてあげることも……わたしには無意味だと思わない？」

笑顔が消える。前のめりになる。

近づいてくる目はどこか、見たことのある目をしていた。

後悔と、同情に染まった目。

背後の黒い翼も折りたたまれて、小さくなっている。

頭上には、夜の光が瞬いている。

暴威は全て過ぎたらしい。けれどもまだ、光の心臓は騒がしいままだった。

一方で、彼女を阻むのみでは到底足りないことを、ようやく認めつつあった。

光の喉元から左手を離し、それを対立は引きずり戻す。

鋭利で黒い、その掌中のなにかを。

そうして、終の手向けに、ひとことこう告げた。

「そうだわ。最期に教えてあげる。あなたは光、私が対立。
それが、この世界に押し付けられた名前らしいわ」

「やめて……」

絞り出すような一言は、かすれた羽音のよう。

「やめて……お願い……」

ふと動きを止めて、対立は首を傾げた。

「……またなの？」
少し、考えこむような小休止。

「何一つ変わりはしないのに」

刹那、その拘束を断ち切る、眩い、あまりに眩い閃光。

自由になった光の手は知らずと前へ、まるで、武器を希うように。

手首が、腰が足が、全て竦んでいたとしても。

だが、希う（こいねがう）。
手にはそして、剣の形をした『何か』の造形が結ばれ始めていた。
新しく、造られた『何か』は硝子から造られているようでいて、記憶片の類ではない。

それは、不可能の剣。
刃の近くの空間は歪んでいるようで、煌めくようで。
Arcaeaが現実を歪めることで、ゆっくりとそれは武器として、成っていく。

対立は一連の出来事を、最早どこか可笑しげに眺めていた。
刺々しいあの剣にはそう、見覚えがあったのだ。

その時、再び砕かれる光の拘束。
刹那、掌中にて翻され、剣は大地へと突き込まれた。
すぐに対立を襲う、不可思議な突風。
押し付けられるように、はるか後方へと押し退けられる。

再び掌中で持ち直された剣。
その刃先は、対立へと向けられている。

己の手が震えるのを光は見た。

未だ我が身を押し退け続ける風をやり過ごし、着地する頃には、
対立の視線は自然と、いつか幻に視た刃へと向いていた。

ただ、見つめている。

ただ、待っている。

……いつのまにか、ぎりりと噛み締めていた。

白い少女の貌を見れば、そこには覇気も覚悟もない。

その揺れる表情に、色濃い躊躇。

そんなふざけた有様を許す肚なんて、対立にはもう無かった。

突如、光の周囲に現れる複数の硝壁。
その一つ一つが、距離を詰めてくる対立の姿を写している。
これは反射か、実像だろうか——？でも、なにかがおかしい。

けれど視界に映る全方向から、今まさに襲いかかって来ているのだ。
凶器を掌中に握り込み、害意を全身にたぎらせて。
その事実、その恐怖が電撃のように光の体を貫いた。

すでに凶器は持ち上げられ、他でもないこの喉元だけを狙っている。

縋るように剣を掴む。今もまだ、手は震えたままで。

その時、脳裏に耐え難いほどの何かがが鳴り響く。
まるで聴覚が、痛覚の延長になったかのような。
割れそうなほどに脈打つ心臓の音が、すぐに耳元へと追いついてくる。

この状況はいつまでも続くと、理性が告げていた。

仮に再び、この剣を大地に突き立てれば、
周囲の硝壁は砕け散り、また対立を押し退けることも出来るだろう。

Silence...

Met with silence.

Though they do not speak, the two have locked eyes tightly with one another. They stare, unflinching, as the sounds of their finished battle echo.

Through the rumbling of broken earth, through the whistling of scattered wind, and through the dust and debris cast and rolling out from ruined, beaten monuments... both girls are unmoving, their eyes only on each other.

And yet despite that, Hikari can see it:

In that girl's eyes, an ember of the passion which had brought Hikari down still distantly burns. This is not a suggestion for a truce, it is a wordless threat.

Hikari swallows, and Tairitsu eyes her open neck: eyes that throat that she hates; that voice that she hates.

Her will and her desire prick at Hikari's skin.

Now Hikari asks for time to go still. It flows on.

She tries to destroy her bindings with flames. They remain.

The earth will not yield. The sky will not bend.

With nothing else in mind, she finds herself holding her breath.

"..."

The sky has finished falling... The cathedral is still breaking...

Dust lingers between and above them.

And that sharp and wicked will is still flickering in Tairitsu's eyes.

Those eyes begin to gently narrow. In this moment, although ruined, the world is calm.

...Tairitsu smirks at a memory, then. Hikari maintains her stare.

"We're back here," Tairitsu says. She tilts her head, only a little. "Are you going to do it? Are you going to wish for a miracle again?"

But Hikari will not answer.

"...Miracles are miracles because they're too convenient—too perfectly timed to ever actually happen. You've seen enough broken worlds through these shards... through Arcaea. You know, then, that miracles are the same as 'hope'."

"And besides, with or without miracles, you live... you die."

Hikari breathes. Tairitsu gently straightens her own back.

The girl in black goes on, "You know: I would much rather just forget. Forget everything."

Another attempt to move. Another reminder that she has been brought utterly still. Her shoulders strain. Her toes curl.

"I'm going to kill you," Tairitsu says, "and this world... 「your world」{Arcaea} is going to die."

Again, she pushes a smile across her lips. She breathes in, and forces out a laugh.

With her other hand, she takes Hikari's cheek. She lifts the bound girl's chin.

"You really are right," says Tairitsu as she brings her palm nearer, "I really don't have to do this... for you."

Her smile disappears as she leans forward.

Tairitsu's eyes... have a familiar look.

It is regret, and sympathy.

Her wings of black have folded down.

Above, the night sky continues to glitter.

Although all the fury has passed... Hikari's heart continues to pound.

She admits to herself: it won't be enough to just "stop" her.

Tairitsu begins to bring her left hand away from Hikari's throat, and as she drags it back...

...something black and pointed glitters in her palm.

To end this, Tairitsu says this:

"I'll let you know clearly: my name here was Tairitsu, and yours was Hikari."

"Please..."

Hikari whispers a word forced.

She almost hisses: "Please stop..."

And Tairitsu tilts her head.

"...This again?" She thinks for a moment, and adds, "Nothing's going to change."

Hikari breaks her bonds with a show of blinding light. She stands and holds out her hand to wish for a weapon—

Her wrist, her waist, her legs are all pulled back down.

Still, she wishes, and within her palm a sword begins to manifest. It is something "new". Something created. Not a memory: though still made of glass.

An impossible blade... Along its edge, space seems to be bending, glistening. Arcaea rewrites itself, and slowly allows the weapon to be.

Tairitsu thinks: How funny this is...

She has seen that jagged pillar before.

And immediately once more, Hikari breaks free. She turns her sword in her palm, and thrusts it into the earth. With this, Tairitsu is forced backward by a queer gust—pushed so far away.

Hikari brings the blade back up, raising it toward Tairitsu, and as she does she sees her own hand shaking.

Tairitsu lands despite still being pushed away, and her gaze falls again on the familiar sword.

She stares.

She waits.

...Her teeth grind together.

She looks into Hikari's face, and sees that the girl can't focus at all.

The game of bounding back and forth, the hesitation—

She has no patience for even a bit of it.

Glass walls push up from the earth around Hikari, each bearing Tairitsu's approaching figure. Reflections, or maybe true images—? Something is strange about them, and to see them, to feel them coming and see the glinting in their palms, fear pulses through Hikari's body.

That hand is lifted, and it will land nowhere else but her waiting throat.

With both hands now trembling, the girl in white holds onto her sword.

Something sounds off loudly in her head: a painful ringing, followed by the sound of her heart once more in her ears.

Reason tells her that this can go on forever.

If she turns her sword back and thrusts it down again, the walls will fall away, and Tairitsu will be easily pushed.

この状況はいつまでも続くと、理性が告げていた。

再び、この剣を大地に突き立てれば、周囲の硝壁は砕け散り、また対立を押し退けることも出来るだろう。


（なのに、どうして——？）


あの、手……対立の手が、この右頬にそっと触れた感覚。

どうしてだろう。

対立の肢体。
それが、目の前に現れた瞬間、



いったいどうして、白の少女は剣を上へ


（——どうして、突き刺してしまったの……？）




衝撃に凍り付く体。だが、すぐに感情がその凍てついた体を動かした。

黒い硝片が、視界の端。
今、対立の手から落ちていく。
痛みへの反射か、掴んでいた右手が緩んだらしい。

眩い、眩い光がゆるやかに、けれどすぐにその輝きを強めていく。

非現実的な、この世のものとも思えない、その光——

そして後に続く、命が削れるような絶叫と、応えるように喰われて逝く命。

震える叫び。
大地を、そして対立の体もまた貫いて響いていく。






これが、おわり。


そうして、音が止んだ。


ひとつの命と、一緒に。







貫いた、体内へと侵入した瞬間から、その刃は黒い少女の生命を呑んでいた。
その血と彼女の全てが、硝片に呑まれていったのだ。

そのまま粉々に散り、消えていく硝片。
こうして、一つの命は消化された。

遺った体だけが重力に囚われ、崩れ落ちていく。

思考よりも疾く、その手は頬にあった対立の手を取っていた。

だが、すぐに命は宙に消えた。
残ったのは温度の奪われた静寂だけ。

剣が砕けて消える一方で、その指にはいつまでも、あの温もりが遺っていた。

それは赤く、ぬめった温もり。

彼女に掴まれたときの感触が、既にもう一方の手では思い出せないのに。

地に足がつく。
濡れて温もり残る光の手だけが、少女だったモノの胴体を支えている。

閉じられた両の目、顰められた眉間、
……それも今、緩んでなくなった。

安らぎもない、なにもない。
こうして、彼女は死んだのだ。


見開かれた目。
止まらない拍動。

今更追いついた五感が、たった今消えた命の感触を喚いている。


ゆっくりとその左手を引けば、ずるりと倒れてくる彼女の体。

目を見開く。
とっさにその手を戻し、もう一方の手でも彼女だったモノを支える。

そろって地に膝をついた二人の少女は、生気の消えた手を強く繋いでいた。

二度と動くことのなくなったその肺、その胸に触れていると、再び温もりを感じるような気がした。

そして目に映ったのは、他でもない自分自身が付けた傷だった。



空と大地、彼女はそのどちらにも大きな傷痕を残していった。

今は巨大でいびつなクレーターがあるばかり。
周囲の土地はもはや、ほぼ均されてしまっていた。

あの突撃に込められた力というのは、それほどまでに強大だったらしい。

平らになった辺り一面に、雲一つ残らず消し飛んで、未だ空っぽのままの空。

折れずにあった大聖堂など、もう影もあるかどうか。

それでも対立の背後には、爆風でひび割れた煉瓦の壁が飛び出て、倒れていた。

黒い少女の体が盾になり、結果として粉々になることから逃れたのだろう。

だが、もう盾は破れた。



光は対立の……対立だった物の、その顔に、己の顔を寄せていた。

愚かにもまるで、息を吹き返すのを待つかのように。

強く強く、その手を握る。
だが、もう死んだ手だ。
握り返されることはない。

少女は苛立ち、死んだその手を投げるように放り出す。

微かに裂けるのも厭わずに、もう息をしない少女の服、その胸元に爪立てた。

感じる。……温もりを感じる。

だがそれは他でもなく、己の腕に零れた涙だった。
泣いていた。

さっき感じた温もり、少女はその正体を知っていた。
否、分かっていなければならなかったのだ。

見れば、零れた涙が一筋の線を描いていた——赤黒くぬめる、自らの腕の上で。

その光景、その事実に、少女は恐慌へと突き落とされた。

鉄の棒でも通されたように、恐怖で伸びた背筋に、後ろへと転びそうになる。

表情は歪み、唇は震えている。

もう、嗚咽していた。

口元をきれいな方の腕で覆っても、嗚咽はもう止まらなかった。
バランスを崩して後ろに転べば、冷たくなった体もまた倒れた。

己の汚れた手をドレスに下ろすと、こちらに寄りかかっていた遺骸が、大聖堂だった瓦礫にその背中を預けるように倒れ込んだ。



脳裏で反響する、自分が吐いた言葉たち。

まるでそれは自身からの、冷笑のような誅罰のようで。


『こんなことする意味なんてないよ……』




——ああ、どうして笑えなかった。

現実の全て、実感の全て、もはやすべてが無視出来ない。


——いいじゃない、ずっと失意に沈んでいれば。

肌にぬめる、焼き付いた温もりは消えないもの。
そう。消えることはないの、あの剣のように。

死んだよ。死んだの。
あの人は死んじゃった。終わったの。

そう、あなた。
あなたがあの人を殺したの。

でもね？

あの人の苦しみに、痛みに気づいてたでしょ。
あの辛さ、あなたは一度でも分かろうとしていたの？

『もうどうしたらいいのかわかんない』？
……わからないんだ、まだ。

……ううん、出来ない。
なかったことになんて出来ないよ。死んじゃったもの。

なに？また立ち直ってやりなおして、それで元通りになると思ったの？

この所業を、こんな不始末を、もう世界に刻んでしまったのに？

……どうしたの、喜ばないの？勝ったじゃない。

あの子を潰して、消化して。
……今、生きてるでしょ。

なのに、生きている自分が嫌なんだ？
……でも、それならあの人こそ死にたがってたよね。

——今、逃げたね。
逃げたでしょ。
死にたがってた人だから悪くないって、正当化した。

自分がいい子だって言い訳が見つかってよかったね。
どんな気分？

……手遅れなのは頭（おつむ）からのかな。

だって、いつまでもそのまんまだよ。
今だって、ずーっとそう。


——ほんとあなたって、自分さえ良ければ良いんだね。



そんな思考、そんな指向。
心はまるで紙のよう。
ただひらひらと引かれて、落ちていくばかり。

自らの髪を掴んでも、
左手を持ち上げることは出来やしない。

わたし（自分）からわたし（自分）へ。
断罪は止まらない。

卑しいわたし、利己的なわたし、独善的なわたし。

嗚呼、わたしがこうじゃなかったら。

それでも何かが引っかかって、自分に囁く。

『今までだって、ずっとそうだったのに？』



はじめは、ガラスの蝶で出来た雲の中で目覚めたのかと思った。

（ああ、素敵。こんなふうに動くなんて、糸でもつながってるの……？）

膝をつき、ドレスを整えて見回してみれば、糸などついていない。
そもそも、飛んでいるものは蝶ですらなかった。
浮かんでいたのは、ガラスの欠片。

「楽しい」と、感じるままに少女は言っていた。

硝片がその身に映すのは、少女を取り巻く白い世界とは異なる情景。

見えるのは海に街々、火と、そして光。
両手を上げれば遠ざかる硝片を見て、彼女は楽しげに笑っていた。笑っていたのだ。



『Arcaea』
……知りもしなかった。あの硝子に名前があるなんて。
むしろ名前なんて、あの綺麗さの前ではどうでもよかったのだ。

触れて、纏わせて、美しさを眺めているだけ。

——それだけでは、いけなかったのだろうか?



そうだ、きっといけなかった。

それに、知っていたはずなのだ、真に人間が変わることなど出来やしないって。

ずっと、それも分かっていたはずなのに。




それでも、幕は引かれない。
終わりなど、決して訪れない。

ずっとずっと、少女が求める意味などない。

意義などない。ここに見つかるものはない。

死んだ世界に、泣きじゃくる少女が一人いるばかり。

それでも、慰めがただ一つ、否定しようのない事実が一つ。

危うく全てを奪いかけた1人の少女を生贄に、
今、白い少女の奥底に

かの血で深く刻み付けられた事実が一つ。



——そう。





こうして楽園は守られたのだ。

……それは例えば、楽園（パラダイス）。
死後の世界、理想郷、または天国、死者だけが集う世界、とか。

まあ、呼び名なんて好みの問題かしら。
要は死んだ魂が留まる、止まり木のような場所のコト。

そんな場所が存在すること自体には、さして驚くヒトはいないでしょう。
死後の国は空の上にある……そんな話も聞いたことがあるかもしれないわね。

『——まあ、今はそういう場所にいるの。私も、貴女も』

「……ハ、じゃあ、お終い？……あれで？

頬に触れたところで、 あんな硝子細工で刺されて？
もう、感覚がない……わからない……あの子の感触も、もう……

……もういいわ、早く済ませて頂戴。さっさと成仏させるなりして」

『——なぜ？だって、この場所に迷い込んだのは、
貴女の中にわだかまる何かが、まだ在るからではないの？
その胸にはまだ、ほんの少しでも、命が遺っているのに？』

「……もうたくさんよ」

『……いいえ、よくないわ。違う？……だって、こんなの認められない。
どうか聞いて……そして思い出して。 貴女自身のことを。

……だって、これより長くて苦しい時間を、ずっとずっと貴女は過ごしてきたじゃない。
もっと酷くて、つらいものだって見てきたはずだわ。

だから、どうか立って？それで私の——』

「止めて」

『……そう。なら、代わりにお喋りに付き合って貰おうかしら』

「——、耳がイカれてるのかしら。話したくないって言ったのよ?
良いからさっさと——」

『……つまりね、貴女に思い出してほしいの』

「……あなた、良い性格してるって言われない？
——じゃあ、あなたは？すべて覚えてるっていうの。
なら、私が思い出したくない理由だって……つあァ！

くっ……頭が、痛……、……？……これ、記憶……？

……ああ、そういうこと。やっぱり逃げ切れないのね。
この記憶からは、どうやっても。……お世話様、思い知ったわ。
そもそも、もう嫌でも全部、細かく思い出してしまえるもの……


——それで？もし記憶が正しければ……フ、フフ。
そうよね、前にも私こんなこと……でも冗談でしょ、こんなの。
……やっぱり笑えないわ」

『……』

「……前世、ううん、生きていた頃ね。
命あること自体はそう、素晴らしかった。
けれど、生きることはそうじゃない。

だって、突き飛ばされた回数なんて憶えてないもの。
何度唾を吐きかけられたかしら……？

悪意はどこまでも追ってきたわ。どこに居ても、何を成しても。
ただ私は、力を使いこなして……誰かの役に立ちたかっただけだったのに……」

『……私達は、恐れさせてしまったのでしょうね』

「……、わたし、たち？……あなた、結局誰なの？」

『……そういう貴女こそ、誰のつもりなの？』

「……思い出せないの、それだけが。……おかしいでしょう？
でもそうね……対立とでも、そう呼べばいいんじゃない」

『……そう。なら、貴女も私をそう呼ぶことね』

「は、冗談。……待って、それ本気？
……それって……もしかして、私が正しいってこと……？」

『……話が見えないわ』

「——、つまり、つまりよ。
あの子は……一つも考えなしに、この世界を造ったんじゃないかって事よ。

もし私達が……、どころか、
私の人生があなたのと似たモノだったって言うなら、
……そんなのもう悪辣、下劣なんてもんじゃないわ。……あんまりだわ、最低よ」

『……あの子は、何ひとつ教わらなかったんじゃないかしら』

「——は、お優しい解釈ね。可哀想とさえわたしには思えないわ。
元のあの子が生きた現実は、私たちとはきっと違うものなのでしょうけど……。

それでも、彼女は自分の能力に自覚的であるべきだったわ。
その多くを、とっくに知っていなければならなかった。
……どうせきっと、どうでもよかったんでしょう。

だから、私には許すなんて到底出来ない。前世の私と違って、教える人も、導く人も、
きっとあの子にはいなかったんでしょうけど……でも、それでも駄目」

「……だって、導かれた私に結局、実力なんてないもの。
あの創形師（シェイパー）たちとの訓練の後でも、この有様。
だから私とあの子の違いは、知識や学んだことの差じゃない。人としての姿勢の差だわ。

……でも、もしあんな強さが私にあったら、って。
全てを、世界さえも上書き出来るような、あの子の力があったら……
私も、私だって、きっと世界を——」

『——ええ。でもそんな力はなかったわ。だから出来なかったし、しなかった』

「……そうね。だからこうして新たな生、新たな機会を得た。
なぜならそれが、あの子の望み。……あの子がさせたいことだったから。

でも愚かなあの子は、他にもそんな機会を与えてしまった。
……あまりにも馬鹿げてる。まったくの笑い話。……ねえ、そうでしょう？
さあ、笑って？笑いなさいな。ほら……笑いなさいよ」

『……』

「——当然、笑えないわよね。 第二のチャンス？これが？ふざけないで。
これの一体どこが？皮肉にしたって、あまりにもお粗末だわ。

……生きてるだけで精一杯、なのに関わる全てが敵ばっかり。
骨が砕けて血まみれになってても、立ち上がるしかなかった。
でも生き抜いた！這いつくばって立ち上がって、闘い続けたわ。
それが無意味だって分かっていても！

なのに……ねえ、どうして？どうしてまたあの子はやり直させたいの……？！
わたしはただ、少しでも良い世界が、最善の結果が欲しかっただけ。
ただ諦めたくなかった。それだけなのに……」

『……二度目では、諦めてしまったの？』

「……ええ、そうよ。

ねえ、最期に一ついいかしら……？
自分の終わりが近いのは知ってるわ。けれど……逝く前に、外を見てもいい？
私の鳥たちを通してもう一度だけ、あのちっぽけな……あの子の箱庭を見たいの。
……いけない？」

『……ええ、構わないわ』

「ありがとう……こうして見ると狭くて、知らない場所がこんなにもあるのね。
囚われた魂たちがあちこちをさまよって……。
……ううん、あの子たちをただの魂と呼ぶのは違うかしら。
この世界にあるのは記憶だもの。私たちだって所詮、ただの記憶にすぎないし……。

——、みんな、どんなことを考えているのかしら……？
あの時、あの変わった硝片を覗けはしたけれど、やっぱり全ての答えには程遠いのね……」

『みんな、きっと幸福でしょうね。……きっと、ひどく幸せなコトでしょう』

「……フフ、それは意地悪じゃない？——どうしてかしらね、
泣きたくて今、仕方ないの。全部悲しくて、虚しくて……。
どうして……こんなこと……、ほんとなんで私……死んでしまったの……？」

『……』

「……フフ、素敵な顔になってるわよ。

……それで、答えは今回、教えてはくれないの？

………ッツ！！ぐぅッ、……ッ、やっぱり、きついわね……
でも、まるでようやく、本当に全部、わかったみたいな、……？

……ああでも、そういうこと。 ……本当に、酷いわ。
もう泣く体もないからかしら、全部が痛むみたい……」

『……そこが気になっていたの』
「……？」

『あなた、死にたくなかったんでしょう？なのに、どうして……？』
「……、最初の人生は、いつも目の前が真っ暗な道だったわ。
でも、そんな道でもどこかで枝分かれして、どこかへ続いてる。
中には死ねる道だって、あったんでしょう。
けれどね、それ以外の道だってそう。道さえ間違わなければ、あったの。
どこかに必ず、道はあったのよ。

……でも、この世界は違った。
今は虫唾さえ走るわ。活路を見いだせるってバカみたいに信じてた自分にね。

世の中にある道は全て不毛で、休める場所なんてありはしないの。
誰の、どんな道だろうと同じだわ。ずっとずっと、盲目に盲信して邁進して、
足が壊れても進んで……その果てにようやく思い知るのよ。

どんな道を選んでも、どうせ最後に待つものなんて何もないってコトをね……」

『……いいえ、違うわ。私はそうは思わない。
一本くらい、どこか違う場所に通じる道があるはずよ』

「——おめでたいわね、どうしてそんなことが言えるのかしら。
こんなところで死人とお喋りする幽霊みたいな分際で……ねえ、どうして？
それとも、見えていないのは目だけじゃないのかしら。現実さえ見えないの？」

『……ただ、信じてないだけよ。信じたくないの。
どんな時も、希望を、意思を手放してはいけないのよ。……だから、』

「それ、私がさっき言ったことと同じじゃない。
——あなた、現実を直視したくないだけなんでしょう？
認めなさいな。どうせ、全てのものは無駄で、なぁんの意味もないのよ」

『——いいえ。それも違うわ。
だってそんな真実、あり得ない。そんな現実なんて、赦さないもの。

——貴女ならわかるでしょう？
そんな真実、あまりに悪趣味、あまりに醜悪。
……なにより、悲しくなっちゃうでしょう？』

「——、ああ。そうだった……覚えているわ。
そう信じてた……前世で。だから、生きられた。

……そう。あなた……ほんとうに私なのね。
あの子はほんとうに私を……本物を偽造（コピー）したのね。

……なら、私たちみんなそうなのね。
みんな一緒にからっぽで、みんな一緒の偽造品（リプロダクト）。

ああ、本当にそうなのね——。
——彼女だけが生きていて、私たちみんな、とっくに死んじゃっているのね——」

『……』
「……、なら、ならどうして?ならあなたはここにいるの。
他の子たちの原型（オリジナル）は？元の魂は、一体どこにあるというの——？」

『……解らないし、分からないわ』
「そう……、でも私、まだあなたから聞けていないわ。
……どうか、どうか教えてほしいのだけれど、いいかしら。

——あなたは、貴女が本当の私なの？貴女が、私の魂……？」

『——ええ、そうよ。それが私。ずっとここに一人でいたけれど、そうよ。
……ずっと、ずうっと見ていたわ。

でも貴女、実際に目の前にすると案外うるさくて……辛気臭いのね？

……そもそも、貴女だって本物でしょ。ねえ、『対立』？
私たち、どちらも本物なのよ』

「……そうかもしれないわね。そうだったら、いいわね」

『……え、本当に辛気臭いわね。なに、一人でお葬式……？
これが贋作っていうなら、ちょっと表彰ものよ……？』

「……ふふ。……その……ありがとう」

『……まったく、二度目の人生、
しかもまた酷い運命(さだめ)を行く自分を鑑賞するなんて思わなかったわ。
よりによって今回は私らしくない結果になっちゃったし……』

「……？らしくない、かしら」

『ええ、それはもう。自らご高説をご教示くださったじゃない。
諦めちゃったって、そう言っていたでしょう？

貴女には、もっとこう、なんというか……。
どうせ違う結果になるなら、いい方向に違ってほしかったわ。

……それとも、今更変えるなんて遅すぎるとか思ってる？
もう『悪役』は物語から退場したのに？』

「……冗談なのは分かってる……けど、ごめんなさい。
私、どうしようもなく怒っていたの。
私だって、何一つだって諦めたりなんてしたくなかった。
希望がないなんてやっぱり、どうしても思えないもの。

……そもそも、私が死んだのに、まだ貴女はここにいるでしょう？
私がちゃんと消えた後も、もしかしたら貴女はずっとここに遺るのかもしれない。

……もし、もしもよ？貴女が遺っていて、この先の出来事も見続けるのなら。
その、諦めるべきじゃないって……、気がするの。
折れないで欲しいの、私みたいに。上手く言葉にならないけど……。

——、あ。 ……そっか。あのね、私きっと、信じたいんだと思う。

遺ったあの子たちが、きっと自分たちを救えるかもしれないって事を。
貴女が言ったみたいに。いい方向に変わって欲しい。そう願っちゃってるんだわ。

この先に、未来に道があったという事実。……それだけで、私はきっと満足なんだわ」

「……だからね、もし私が完全に消えてしまわずに、
全てが終わってから、私のこと、貴女が見つけてくれたら。
……その時は、教えて欲しいの。みんなが、道を見つけられたって」

『……勿論よ』

「——、不思議ね。生きていた時、何も、誰も寄る辺がなかった時、
ずっと、私は私に語りかけてた気がするの。……ちょうど、今みたいに。
でもね？不思議と一度も、寂しくはなかったの。一人な気がしなかったのよ」

『……あら、知らない？命あるものはね、決して一人になれないのよ』

「——、ああ。そうだったわね。そうやって、言い聞かせてた……。
……ねえ、もう一度あの世界を見てもいい？……なんだか今、見ておきたいの」

「——ぼろぼろの塔に、ガラス片が浮いてて……空っぽに広くて、白いだけの世界。
白くて、白くて、ガラスがあるだけで、追放された魂に吸い寄せられて……。

……ああ、でもね。
遺ってる子たちはみんな、一人も迷わないって、そんな気がするの」

『……あら、誰一人ってことは、ご執心のあの子のコトはようやく吹っ切れたの？』
「『あの子』 ？——鳴呼、あの子。そっか、今なら見れるのね。

……あらあら、ボロボロで、やさぐれちゃって。

……でも、これも良いコトかもしれないわ。
少なくとも、あの子の心は動いた。傷ついて、動揺して——。
前の空っぽの心よりは、よっぽどマシってものだと思うの。違う？」

『……まあ、確かにね』

「あの子が大丈夫かはわからない。けれど、この経験もきっと糧になるでしょ。
……でも正直、今なら謝ってもいいと思ってるわ。私は正しいことをしたと思ってるけど——」

『——え？正しいコト？どの辺かしら、教えて下さらない……？』

「……ふふ。……はいはい、仰るとおりですことよ。
……でもね、やっぱり私は間違ったコトはしてないつもり。一つもね。
やっぱり、お侘びくらいはしたいけれど。

……だって、そうじゃない？こうして私たちは存在してる。
もし彼女も同じなら、彼女だって馬鹿みたいな模造品（レプリカ）ってことでしょう。
無辜の罪で裁かれて、無知であることさえ知りもしないなん、て——？
……これ、お迎えってやつかしら？」

『……心苦しいけれど、そのようね。 ……ねえ、ここでこのまま一緒に過ごしましょ？』

「心苦しいのだけど——フ……どうにも無理ね。
正直ね、存在するって感覚が……もうよくわからなくって……」

『……、
それでも、彼女には伝えたら？』

「——ああ、そうね……

……光。本当に、御免なさい。
私は……自らの行いを悔いてはいない。けれど、
それでもあの憎悪、あの害意は……貴女が受け取るべきものじゃなかったわ。
あれは……もうひとりのあなた……まだ、どこかにいるはずの……

……ごめんなさい、私……あのあなただけは赦せない。
でも……私は知ってる。……貴女が、強い人だってこと。
あんなあなたよりも、きっと……。

だから、そう。 ……きっと貴女は立ち上がれるわ」


『——、さあ、もう目を閉じて』

「もう、閉じてるわ」

『大丈夫よ、心配しなくても』

「……わかってる」

『そう。……また、逢いましょうね』

「……フフ、無理じゃないかしら。
でも……いいの。もう受け入れたから。

どうにかなっちゃうくらい傷ついて、でもどうしても変えたくて……。

そうやって、何かの為に闘ってきた……どんな壁があっても、
どんなに間違って……どんな怪物になったとしても。

それでも……どうか謝らせて。
……ごめんなさい。終わりを選んだことも……全てを捨ててしまったことも……。

仮にね、全部が無駄でも……もう良いの。
二度目を得られた、それだけで……、だからもう、大丈夫。受け入れてる……」

『……ええ、伝わってる』

「それでも……知って欲しかったの。
あの子に、こ、んな惨めな、終末は、厭だって。
こんな、ふざ、……けた終わり方で、 記憶に遺る、……なんて。
……絶対に、……厭。

ああ、ひ、かり……もし聞こえるなら、憶えて、いて……。
そして忘れないで……私は——

——この人生を、受け入れているわ」




——その遺骸、その残影の前で白の少女は哭いていた。

辛くて、苦しくて、轢き潰されたようなその悲しみに、
今際の際、黒の少女が誰かの為に浮かべた微笑みは届かぬまま、
死に逝く彼女とともに消えた。

この世に語られない物語は数多い。
だが、そのうちの幾らかは、語られる前に潰えるのだ。

それでも、澱のように遺る硝片だけが、
その身に彼女たちの残響を宿して、誰かに紐解かれる時を待つのだろう。



これは、記憶の破片。欠片の世界の物語。
これまでも、これからも。

遺された少女たちもまた、そんな欠片を拾い、紡いでいく。

『この欠片にもきっと、意味がある』
だから、新たな一日をただ生きる。

それだけの為にみな生まれてきたのだと、少女たちはどこかで信じている。


——そうしてここに、外も内も傷にまみれたまま、
地面で崩折れる白い少女が一人。

……それでも、彼女もまた再び欠片を拾い、紡いでいくのだろう。




記憶は、ここで生きていく。
全ては記憶されて、終わりの果てまで遺るだろう。
欠片は継がれて、誰かの記憶に紡がれる。

ここに忘らるる記憶はない。
何ひとつ、誰ひとり。

Paradise.
After life, "heaven", the world of the dead.
It should come as no surprise that the departed might linger in a place like that, at least for
a little while. Or perhaps they will linger just above it.

That's where I am. That's where you are."...So that's it? My hand on her cheek? Her running me through with glass? I can't feel either anymore.
I can't feel anything—can't feel her...
...
...Let me go... "


Why? You're here, but... isn't there something still stirring inside of you? You've got a few little pulses of
life left... a little more to go.


"No... "No, it's not quite over yet...
Listen... remember.
Remember yourself...
It's been much longer than this, hasn't it? You've already seen so much worse.
Now get up, fight. Fight agai—


"Stop it."


...Alright.
Let's just talk, instead.


"You're not listening. I don't want to talk. I already said, I just want to... to..."


I want you to remember."...You're pretty annoying, you know.
Then do you remember? If you do, you should know why I...
...

...Ugh...
...These memories... aren't going to leave me easily, now that I know them.
Even if I don't want to, I really am starting to remember every little thing.
And... if I'm remembering right... Ha, I've thought this before, but... is this a joke?"...


"My old life... I loved being alive, but...
Living... was awful.
How many times was I thrown down? How many times was I spat on? Hate followed us everywhere
even though we just wanted to... to take our powers and...
Just... help."


We scared them.


"'We'? And who are you?"


Well, who are YOU?"Well funny thing... that's actually the one thing I don't remember.
...
...I guess you might as well call me 'Tairitsu'."


Then... call me that, too.


"You're kidding... Really? Are you... Are you telling me that I'm right?"


About what?


"That when she made this world, she didn't think about a single part
of it. If you're... If the life I had here was...
...She's... awful."...I'd say she just never learned.


"...I don't feel sorry for her, if that's what you're getting at. We may have come from different realities, but
she must have understood what she could do. She had to know, and she just didn't care. And that's why...
I don't care that she wasn't brought up and taught like I was. Just... look. Look at what all my training with
the Shapers got me. I was different from her because of who I was, not what I learned. If I'd had the
strength... If I'd really had the power to change things, for the whole world—"


I would've, but I couldn't, and I didn't.


"...And that's what I got: another go, because that's what she wanted, and in her stupidity she gave that
to everyone else, too. So... dumb. It's dumb, right? You have to laugh. Come on! Laugh!"


..."What, you can't? Of course you can't, I mean—what kind of second chance was this? Just some
kind of... terrible... ironic reflection.
Struggling while alive, while everything claws and rips at you.
Getting up when you're broken and bleeding—I DID that!
I kept standing up, kept fighting even though I KNEW it was pointless!
Why would she make me live all of that again!? Answer me—why!? I...!
I wanted things to change...
I never wanted... to give up..."


...Did you? This second time around?"I... did.
...
Hey...
I know I'm dying. Could you tell me something? Can I still see outside, before I go? Through my birds...
Can I see her little prison, one last 22:18:42"


...You can.


"Great.
...
So many small and unknown corners, with trapped souls wandering around them.
I guess you can't call them souls. Everything here is only a memory—even us.
What are they thinking...? I only caught a glimpse of that shard, and it didn't tell me everything."Most of them are happy. Very, very happy.


"...Now that's just evil, haha...
I...
...I feel like crying... you k2022-07-23 (土) 22:18:42 I just want to cry—about everything. Why'd I do all this? Why did I die?"


...


"...That's a good look on your face. Have you got an answer for me? Tch... I'm... I just...
It all hurts... Everything hurts. It's like I finally, really get it, and it's...
It's just horrible. I can't even cry anymore..."Well, that's it.


"...?"


You didn't really want to die, so why did you?


"...When I first lived, the road ahead was dark...
But I knew that it would branch into countless others. I could find death somewhere, sure, but I could find
anything else if I just walked down the right path.
It was never like that here, and looking back, I feel sick for ever thinking that it was.
These roads are barren, and there's no place to stop.
Anyone, no matter their path, will march and march on blindly, until
their legs give out and they see the truth of it:
that it doesn't matter what turns they take. Every single path leads to nothing at all."...I actually don't think so. I think... there must be a road here that leads to something else.


"What makes you say that, when you're trapped out here only able to talk to the dead? Are you stupid?
Were you paying attention, even once?"



...I just can't believe that. I have to have hope...
I don't want to believe that... that...


"This is just what I was saying. You don't want to see the truth? Nothing here mattered at all."No.
It can't be the truth.
I can't let it be the truth.
You understand. If that's the truth, wouldn't it be... gross? Wouldn't it be too sad?


"...
...I do remember that, from back when I was living. Thinking like that was what kept me alive.
You really are me. She really copied me out and... it really is true for all of us—we're all hollow, copied souls.
It's true...
She's still alive. We're all dead."...


"But then... why are you here? Where are the originals for everyone else? Where are their souls?"


...I don't know, and I don't know.


"Alright, but...
Actually, you still haven't said so... so, just... just tell me, alright? Are you really the real me? Are you my soul?"


Yes... that's what I am. Yes, I've been all alone out here, and yes, I've been watching.
And you're pretty annoying, huh?
Aren't you also real, Tairitsu? Aren't we all?"Maybe we are. Maybe I was."


Yeah, annoying.
I doubt someone as annoying as you could be fake.


"Ha...
...
Thank you."


I'd never have guessed I'd be watching myself experience a terrible fate again in a second life,
only for things to change."What changed?"


You said it yourself.
You gave up.
I wanted you to... I don't know.
I really wanted the change to be... good....
Do you really think it still can't be? The "villain" is dead, after all...


"I know you're joking, but... I'm sorry.
I was just angry.
I don't want to completely give up on it either.
I don't think it's hopeless. I mean, you're still here after the end, aren't you? Maybe you'll still be here
after I'm gone...
And... if you still are watching after I'm gone...
...I really think you shouldn't give up hope like I did.
Maybe, I don't know...
...No, I know it:
The girls left here might be able to save themselves. I want to believe that.
A change, just like you said...
That's all I want.
If I don't go away forever, if you can find me after all of this, let me know when they do."I will.


"This is funny too, huh...
When I was alive, when the others weren't there, I remember I always... talked to myself.
But, you know... I never felt alone."


No one alive is really alone.


"That was it...
That's what I always told myself...
...I want to see the world again.

A ruined tower, and pieces of glass floating in the air. A wide world of white.
White, white, and more glass. Drawn to departed souls...
But I can see it on their faces:
None of these girls are lost anymore."..."None of them"? Looks like you finally forgot about her.


"'Her'...?
Oh, you're right, her... I actually can see her, too—well, she's really torn up about this...
...But isn't that a good thing? It's... different. She's upset, she's hurt...
It's better than 'nothing'."


Hm... Yeah."I'm not sure if she'll be okay, but I am sure she'll take this with her. Honestly... I'd even apologize to her,
thinking about it now. I think I did the right thing, but—"


You didn't do anything right.


"Pff...! Hah. Okay. but... I don't think I did anything wrong.
I'd apologize to her. I mean... Why wouldn't I? We're real. And if she's real... then she's just another fool
ghost, punished for nothing and knowing nothing.
...
This is really it, huh...?"


I'm sorry to say, but... yes, I'm sure.
...
Don't go."Sorry to say, but... I can't just do that. I'm honestly... barely here..."


...


Tell her.


"...Yeah.
...Hikari...
Honestly, I'm sorry. I don't have any regrets, but... the hate I felt wasn't even... for you. The other... you...
She's still out... there. Still a...live...
I still... hate her.
But you...
...
You should know that... you're stronger than her.
That's why, Hikari...
...I know you'll stand up again."Close your eyes.


"They're already closed."


Don't worry anymore...


"I'm not worried."


I'll see you again."I don't think so.
But that's okay.
I accept it.

I had everything to suffer, but I still wanted to change everything for the better...

I fought FOR something... no matter what it was I had to face.
No matter... how misguided... I became...

...

I'm sorry... that I chose to die.
I'm sorry for throwing it all away.
...Even if I wasted it... I was lucky to get another chance.
So... I accept it."I know.


"I want her to kn... tha... I don't... don't want a... pathetic...
I don't want a... stupid finale... to be all I'm remembered... for.

...If you can hear me, I want you to know this, Hi... Hikari...
I mean it. Don't... forget...
...
...
I accept this life."A girl weeps before her remains now.

So anguished, so crippled with grief, the girl misses the final smile on her face before it fades.

Some of this tale remains untold. The truth is, some tales end without ever being fully told.

And their pieces—their shards are what remain, to be put together and understood.This has always been a world of shards, a world of pieces.

The girls have always been left to pick those pieces up.

Believing that reflections have meaning. Believing that being, at all, is why anyone would ever be.

Now the girl in white crumples down to the earth, hurt and alone.

But she will find and carry pieces too.Memories will live on, here.

All will be remembered, until and past the very end.

They will all carry on.

And none will ever forget.

赤い血と埃の中、あの子は座りこんでた。

自らの愚行、そして自己憐憫で……
光は、もうボロボロだったわ。

顔を覆う小さな手……
その指、隙間から覗く視線は、一つに釘付けだった。

もう一人の私……貴女の遺骸にね。


……怖いでしょうね。自らの中に、いつ暴れ出すのかわからないモノがあるのは。

それは、別の一面。
怖気が走るほど全てに無関心で、どこか自棄じみた一面。
この惨状、そして他でもない貴女に死を届けた張本人こそ、彼女の別側面。

それでもどこかで、あの子はきっと感じているのでしょうね。
すべてが、この出来事のためにあったという事実を。
……私にも解るもの。

——死ぬ定めにあった貴女と、その処刑人としてのあの子。
きっと全てが確約されたことだった。
……そんな、どうしようもない事実を、ね。


薄汚れた衣と、弛緩していくその背すじ。
世界——"Arcaea"から、張り詰めた何かが抜けるような感覚。
『異変は消え、もう安全なのだ』とでも言うような、そんな安堵。

——でも、感じるの。
あの子の心へ入り込んで、緩ませようとする、何かの気配を。
……この状況を受け入れろ、自分を受け入れろ、って。

『"Arcaea"を受け入れろ』って、そんな囁きのような——。
……でも、あの子は——



「たい、りつ……？」



呟かれたそれは、名前だった。
……涙に震えたその声は、ほとんど聞こえない程度のものだったが。

「どういう、こと……？『ここでの名前』……？」

そして思索に包まるような、沈黙。

ふと、また"囁き"を聞いた。
『——お望みであれば、その答えもここにはあるでしょう』

『——ここは、全ての記憶の書庫なのですから』と。
……だが少女は、なおも思索に沈んでいた。


「……」


思索する。思案する。
その水面下で募っていく『無関心さ』と、深まる憎悪。
最早、目が眩むほどに。己への憎悪が止まらない。止められない。

当然だ。起きたことが覆るだろうか？
あんな終わりが許されて然るべきだろうか？
あの結末の意味、そもそもの意義は？

あの死は一体、彼女にとって何だったというのか？

ここまで彼女は、自分を諦めなかった。
だからこそ今、自分を赦せなかった。

胃に巣食う吐き気に、ひくつく顎。


「……」


足元は地面、手と膝を砂につけて、前傾するような姿勢で、光は尋ねた。

「あの、あなた……Arcaeaさん……は、私をなぐさめに来たの……？」

そう言って強張った腕をすこし緩めれば、手足にひんやりとした感触が伝った。
ゆるやかに目を閉じて、まだ低い声音で呟く。

「わ、分かる……感じるわ」

「ここは……楽園なの……？怯えて、くたびれて、弱った人たちのための……？」

「……」

渇いた、味覚のない口で、唾を下そうとする。
閉じた目を開いて立ち上がれば、指間から砂が零れ落ちていく。
知らずと、握り込んでいたらしい。

「わからない……わからないの。
わたし、また逃げてもいいのかな……
また、あなたに慰めてもらってもいいの……？」

「……ううん、違うよね。絶対そうじゃない」

「——グスッ、……いや、だなあ……」

「……こんなの……嫌だよぉ……！」



「……ッうぶ」

突如、崩折れるように前に屈む。
その手は口を、胃を押さえて、体が大きく揺れていた。

少女の拒絶に既視感を覚えたのか、再び"世界"の関心が彼女に向いたらしい。

口を固く閉じ、恐怖に目を見開いて、そして光は、急に涙ぐんでいた。

……私にも聞こえたわ、急に耳障りなノイズが。
耳に——いいえ、あの子の頭の中、そして心臓から聞こえているようだった。

あんなのもう、囁きなんかじゃない。
肌の下から震えるみたいな……

静かな、だが有無を言わさぬよう力強さで、その内側に声が響いた。

『——覚悟を決めて、そしてお告げなさい。己の望みを』と。

「告げる……わたしの……？」


それは、奇しくも彼女のありのまま。
なぜなら光は、己の心のままに生きてきた少女だ。

そして彼女自身をここに導いたのもまた、その心だ。
そう、この"世界"で目覚めるよりも、ずっと前から。

——なら、全ては直感的な行動だったのかしら？

……つまりあの子の体は、全ての経緯、そしてこの"世界"を作り出す前の自分を、
全て、最初から憶えていたとでもいうの……？

……フフ、まあ……そんな瑣末事、どうでもいいわね。

でも、可笑しい。笑ってしまいそう。
……だって、とびきりの皮肉だと思わない？

——せっかく生み出されたのに、他でもない生みの親、その一時の感情で、
全てがなかったことにされ得るだなんて……まるでコメディだわ。



干上がるように浅い呼吸、乱れる心拍。
それが実に一分を越えた後、少女の答えは明確だった。

「——『巻き戻したい』」

「……ううん、『取り戻したい』、それだけなんだ。
わたしの望みはきっとこれだけ……それだけが願い事」

「……だって、対立さんは生きてなきゃ。
だってこんなの、わたしが死んじゃうようなこと？
これって、だれか死ななきゃいけないこと？」

「……こんな意味わかんない、こんな世界のために……？」

「……おかしいよ。そんなの、絶対にまちがってる！
何でもする、何でもあげる……もう、全部あきらめちゃってもいい。
……だけどこんなの、ぜったいに認めない！」

手中の砂、掴んでしまっていた大地を、固く固く握り締めた。
手放して投げ捨てる、その前に。

「死んじゃっても、いいよ。
それで全部、変えられるなら——！！」



今、"世界"の心臓が動く。その拍動に、不思議と寒気はもう止んでいた。
——ああ、それでも"世界"は彼女を諦めない。絶対に、諦められないのだ。
けれどその時、再び語りかける声が内側から……それは、"囁き"とは違う声。

流れ込んでくるその感情、その知識。
胸元から指先まで、今、響いてくる。

『死んではなりません。生きるためにあなたは生まれ、
そしてあの時、生きると、ご決断なされたのですから』と。

——もう、光にも分かっていた。
あとを追うように聞こえてくる、罪悪感と、謝罪と……
気づけば、視界は潤んでいた。


けれどその涙が零れる前に、鼓動があった。
"世界"が、その核が拍動したのだ。

世界——"Arcaea"は囁き、語りかけてくる。
『——だからどうか、あなたまで終わらないで』と。



『——終わるのは、この"世界"だけでいいのです』



唇は、固く。
とうに溢れた涙は、頬を伝って落ちていく。
白の少女は、頷いた。

——再び、起きる拍動。


そして世界が——



——"Arcaea"が、その輝きを失い始めた。



——流れ込み、雪崩込んでくる、膨大な何か。
それは掌へ、心臓へ。
思わずすべてを止めて、崩れ落ちてしまいそうになる。

——しばらく、光の頭の中と視界には、膨大な記憶が流れ混んでいたようだわ。
かつては忘れていて、今は無視している記憶が、ね。

それでも今、その目には貴女の遺体だけしか写っていないみたい。

きっと、自分の為すべきことがはっきりしたからかしら。
——それに、私ももう引っ張られている感じがするの。
下へ、下へ……貴女が殺された場所に、ね……


……それにしても、あの子は分かっているのかしら？
つまり、己が何を犠牲にコトを起こそうとしているのか、
そして、この結末がいったい何をもたらすのか、ってことを。

……どうなんでしょうね？
なんて、きっと貴女にも解らないか、フフッ。
——、 それにしても、こうしてお呼ばれしているわけだけど……

……私、あの場所に漂着する頃には、ここでの事を憶えていられるのかしら？
そして、ちゃんとその時の"世界"の状態を、理解できるのかしら……？

……きっと、無理でしょうね。そんな気がする。



……



……まあ、あの子の心のままにさせてあげましょう。
今起きてるコトも、これから起きるコトにしても、精々、頼りにするとしましょう。

だって、貴女ならきっとそうする……でしょう？
結局、貴女が正しかったのだもの。
『別のあの子』と光は、全く違ったものね。

……ねえ、対立。

わたしにもそろそろ、お迎えが来たみたいよ。

……でも、安心して頂戴？
私たち、ちゃんと一緒だから。
連れていくから、ね……




再度の墜落を強いられる空と、隆起していく大地。
それは、少女の願いのために。

彼女は殺す。
"世界"を殺す。
今再び、黒の少女を生かすため。

この死んだ"世界"に、存在しうる命や魂など真にはない。
あるのはその形代だけ、残響だけ。

そもそも始めから、白の少女も、黒の少女も、どちらの魂も尋常のそれではないのだから。

真に、"世界"はそんな用途のために造られていない。
故に、ここは潰えるだろう。その願いを契機にして。
それでも、"世界"は応える……応えようと、全てを尽くしていた。


光の願い、その成就には2つの要素が必要だった。
つまり黒い少女、その原型（オリジナル）の魂。
そして、二人目の彼女の記憶が封じられた、数多の硝片だ。

今、魂は元の片割れ、記憶の欠片を喚んでいた。
彼方から急速に、裂かれるように引き寄せられる記憶たち。

渦巻く、渦巻く、光と影の奔流。
光を中心に、現実という閉じられた幕を引き裂いていく。

記憶している、記録している。
"Arcaea"は、その少女のことを憶えている。

そして今、命令は下された。
曰く、破片は原型へ、記憶は現実へと還れ、と。

——そして、ついに在った。
それはまるで今生まれたようで、まるでずっと居たかのよう。


果たして願いは、裂けた魂は一つに成り得たのか？
……否、問いが違う。前提が違う。
もう道理はない、法則もない——白の少女が願ったから、『そうなる』のだ。

対立と名付けられていた少女と、その記憶。
今、きらめく硝片の群れが渦を越えて、その姿を表していた。



——広大な地平を、苦しみながら歩き続ける少女が一人。

嘆きと悲しみに追い立てられながら、それでも少女は前に進み続けた。

それは、自身の救済のために。
それは、いつかの自由のために。

少女が胸に懐くのは、たった一つのささやかな願い。
こころからの笑顔、その理由（しあわせ）を手にすること。

彼女が立ち上がりつづけ、立ち向かい続けたのは、
この世界にそんな、笑顔の在り処をつくるため。
……例えそれで、世界全てをひっくり返すことになったとしても。


そんな記憶、そんなイメージ。
視界を走り去る『誰か』の記憶が、光の注意を乱していく、逸していく。
それは浸食してくる原典の記憶から、そして前世の記録から。

そして嵐の中を通り抜けてくる、『誰か』の涙。『誰か』の痛み。

ほとんど忘れ去られていただろうそのいくつかが、集ってくる。

だが、そんな光の魂とその潜在的な善性こそが、
凄惨な記憶たちを今に至るまで遠ざけてきた。

今もまた、『誰か』の致命的な絶望の記憶、その痕跡を探すことだけで精一杯。
もはや残りの経緯や記憶など、少女の手には届きすらしない。

——けれど光は、そんな致命的な絶望、その捜索を諦めた。
まだ見つからない、二人の出会った記憶も。

……絶望に歪んだ『誰か』の道の果てを知りながら、
その記憶を戻すことなんて、光にはできなかったから。


……こうして生まれる『対立』という少女は、
かつての激情と苦痛の多くを知ることはないだろう。

それでも数多の困難と苦痛を生き抜いた人物としての己だけを知り、再誕を遂げるのだ。


その時、突如として新たな力が光に芽吹いた。
立ち上がる四本の光柱、吹き出すような力の源泉が地中から伸び上がる。
呼びかけに応え、今現れた影なる魂から、"世界"が彼女を守ろうとしているのだ。

影——近づいてくるそれがなんなのか、光には一瞬わからなかった。
莫大で、背筋の凍るような形の幻。

宙に浮かび、空を遮る眼前のそれは、
もはや実体のある死のようにしか見えなかったのだ。

それは近づくにつれて、やがて緩やかに速度を落とすと、
やがてくるくると光の周囲を回る、
黒い少女だった記憶片たちへと流れ込み始めた。

その時、光はようやくその正体に思い至った。
勇気づけられたように影へと頷くと、硝片へと入ろうとするその魂たちを、そっと導いた。


こうして邂逅し、新たな体を構成していく二つの要素。
失われていた原典の魂はようやく、もう一人の対立の魂と再会した。
傷ついて、ひび割れていても、二人だった一人が今、一つの肉の殻を編み上げていく。

だが光の足元、地面の振動はもはや耐え難いほどになっていた。
なんとか踏みどまりながら、新たな生命を両の手で編み続ける。
雷鳴のような呻き声が響く。"世界"が苦痛に呻いている。

それでもなお、光は己の意思にしがみつく。
この願いは徹してみせると、決意を確かにして。


"世界"を作る核、そのものを捻じ曲げる。
堕ちた女神の再誕、そのためだけに。
こうして、"世界"という絶対のルールは曲げられた。

静かな、そして明確な光の命令により、"世界"は今、死の一撃を受け入れる。


平衡感覚が狂うほどの光と影。
"Arcaea"の断末魔。
これが、終わりの始まりだった。


あらゆる存在の楔となっていた願い。
今、それは覆された。押し流されるように急速に流される空に、
現実に残留するありとあらゆる光が、遥かな地平から白い少女へと流れ込む。

深く、眩く光りながら浮かぶ、対立の体。
青息吐息に編んだばかりの魂を今、そこに光が押し込んでいく。
まるで世界全てを、詰め込むように。

この星と生命、その全てに繋がって——




——こうして少女は、"Arcaea"を棄てた。




終わりの陽光の下、ある双子の少女が二人。
頭上を走り往く雲々を見つめている。

半夜の空の下、ある高貴な風貌の少女が一人。
ゆるやかに広がる大地の裂け目と、はるか上空に消え行く星々を見つめている。

世話焼きの少女に、探索する少女。
全てを観察し、願う少女もまた、見つめている。

それは喜色旺盛な少女、腹減りの少女、野心豊かな少女、戦の女、旋律の少女も——。

——少女たちは皆、見つめていた。
全ての命が引き込まれていく場所を。
——そして、終末を。




そうして、しばらくの後。

光は感じた。
最後の命の煌きが、救いたかった少女の体に宿るのを。
掌中に残った命の感触は消え、今、対立の姿がはっきりと結ばれていく……。

……白い少女もまた、それをじっと見ていた。
その一連の出来事の中、自身のどこかから、何かが消えるのを感じながら。

だが、今やそれも些細なこと。

風が穏やかになり、雲が元の鈍い足並みを戻す頃には、
光の視界はぐるぐると回っているようだった。

昏倒する前に、なんとか足を踏みしめる。
まずは落ち着こうと、今の状況を理解しようとした。

つまりは己の所業、その結果を理解しようとしていた。
だが……落ち着くことなどできなかった。
その思考を占めるのは、ただひとつだけ。


「（対立さんは……いきているの……？） 」


——


ゆるやかに、再び落ちていく土煙。

少女が覚えているのは、ひとつだけ。

……それは、終わり。
止り木のような、終点での記憶。

……もうだれもいない、あの場所での想い出。
閉じた目から、知らずと静かに涙が零れた。

……ゆっくりと瞼を開く頃には、
そんな記憶も、こぼれ落ちるように消えてしまっていたけれど。




——白い少女は見た、その瞼が動くのを。
驚くままに、口を両手で覆っていた。
……息が、喉に詰まるようだ。

大仰な儀式を経て、荘厳な光景を展開して。
……その割にはなんて、単純な結果なのだろう。

だがはたして、己の願いは成就したのだろうか。
否、していいのだろうか？

こんな僅かな願いと、努力のみで。

頭の隅へとそんな思考を追いやりながら、
光は、前へと踏み出した 知らずと、足は震えていた。
ようやく開く、対立の双眸。

一度の瞬きの後、再び開かれた目は、まだまるで微睡むようで。


——駆けていた、逸っていた。
気づけば光は転ぶように、もう一方の少女に抱きついていた。


「…いやっ！なっ、なに？！だれ？！あなた……えっ？！」

少女は動転して——けれど、思わず黙ってしまった。
そこには我が身を省みずに縋り付き、
強く強く、何よりもただ抱き締めるばかりの光がいたから。

見れば、子供のように泣きじゃくっている。

白い少女はどうしようもなく、もう一方の少女の肩で泣いていた。

不信に揺れる目の、わけもわからないままの少女に縋りついて。


——多くの亀裂が入る、遠くの地平。
永久に降り注いでいた光も今は昔、空はただ、酷く薄暗い。
傷だらけのこの世界。

……それでも光の関心は、残る物——残る者にしかなかった。


戸惑いながらも対立は、その手を、いまだ震える光の背中に置いた。
知らずと、二人はお互いを慰めあっていた。
終わり往く、壊れた世界の片隅で。

「……めんなさい……ごめんなさい……！」
繰り返す、繰り返す。まるで傷ついたレコードのように。
そんな光を受け止めながら、やがて対立は口を開いた。

「……あなたが何をしたのか、私は知らないわ。
けれどもう、きっとあなたは正したのでしょう？
なら、何を謝るというの……？」

その言葉を受けて、ようやく光はその身をゆっくりと離した。
まだ、少女を抱き締めたままではあったけれど。

嘆きに昏れながら、けれど視線を惹かれてしまうどきどきとした高揚との狭間で、
その鼻も目も赤くして、光はただ、対立を見つめていた。

言葉も見つからないまま、光はひしと対立の胸元に抱きついた。
対立はただ、やさしく少女を抱き止める。

やがて、静寂が満ちて……
黒の少女は変わらず抱き留め、宥めている。

いまだ泣き続ける、その少女の涙が止まるまで。




——灰色になった世界を、二人は旅した。

はじめは暫く、対立がもう一方の少女の手を握っていたけれど、
その足並みが揃うまでに、そう時間はかからなかった。

もう、対立は憶えていないようだった。
かつての悲劇も、その辛苦も。
少なくとも、凄惨なものだけは。


今まで対立にすり寄ってきたような、黒くて暗い記憶片も、
もう彼女に関心すら無いようだった。

光もまた、似たような状況だった。
身を寄せる白い記憶片もなく、踊るように親しげな挙動を示すこともなかった。

かたや、陰から自由になった少女。
対して、昏く色彩を失っていく少女と、その"世界"。

けれど……
……もう、硝片のきらめきなんて、
今の光が心から笑うためには、もう必要ないのだ。


——崖へと向かう、二人の少女。
失われた記憶の大地は今、緩慢に廃れている。
向かうのは、辺りを一望できる場所。

廃れゆくこの地は、褪せては崩れてを繰り返している。
いずれ、土砂の大小さえ遺さずに、すべてが無に帰すのだろう。

たどり着いた二人の少女は、ただそこに立っていた。
大地の行く末も知らず、また、自身の過去も記憶も手放して。

そこで光を見つめる対立の表情は静かで……けれど穏やかなものだった。
それは、かつての生涯でこそ浮かべた表情だろうか。
……それを見て光は、ただ微笑んだ。


『この先には何が待つのか』
そんな問いも、もう二人には関係ない。

今、二人には『もう欠けていない』という感覚があった。
その感覚が揺らぐことは、ない。

また、言葉にせずとも、もう光はわかっていた。
この旅路、その終わりが既に近いということを。
これからの、未来への道は前にある。

すぐに新たな旅もまた、始まるだろう。

……だから、少しだけ考える。ぼんやりと実感する。
これからの旅が導くもの、それがわからないという事実について。

可能性の先は、もう知り得ないのだ、と。
そう噛み締めて、また、ふと考える。

『彼女……前の私は、知っていたのかな……
踏み出す一歩の続き、その行き先のこと。
だってずっと、ずっと前だけを見て進んでいたから』


……


命あることを選んだなら、あとはただ、生きていこう。

この世界を生きて、そのすべてを見ていこう。

一瞬一瞬を、心から受け止めて生きていこう。


そんな感傷と想いを、決して手放さない。

そう、光は誓った。



目を開き、しっかりと前を見て、胸いっぱいに息を採り入れる。


知らない明日、となりの女の子、見たことのない人々、そして、隠された場所。


心に広がる様々な想いを、白の少女は慈しむように抱えていく。




そうして、対立の手を取った。





彼女たちはまだ、前に進んでいくのだから。

Hikari sits amidst dust and blood.

I see her there... Her folly has ruined her. Self-pity has ruined her.

As she gazes through her fingers, her hand still on her face,
she finds, once more, the sight of you, my second self, dead.

And the apathy which brought about your death―
the apathy which brought about this all―must be threatening to encroach again.

I know it: the girl in white and red can feel it. She can feel that she was meant for this.
That you were meant to die, and she was meant to kill you.

Her back relaxes...
The world itself... Arcaea... She can likely feel tension releasing throughout it.
Relief...

The disorders is gone... It's safe now...
But I can hear it to...
Something like a whisper, easing into her heart, seems to ask her to embrace this state.

To embrace herself, and embrace Arcaea.
...However―

"...Tairitsu..."

...She whispers something to herself: a name. Her voice is shaking, barely audible through her crying.

"What did you mean...? That our names 'here' were those...?"

She falls silent, and seems to wonder.

The whisper comes again, telling her: if you want it, those answers will arrive.
This place―it is an archive to all memory...
...And yet still, she remains silent.

"..."

Beneath her building apathy is a sheer and shining hatred.
She cannot stop hating herself.

Obviously not. After all that's happened... how could she allow an ending like this?
What would it mean? What would it mean for her?

She... She, who walked here, could never accept it.

With nausea eating at her stomach, she clenches her jaw.

"..."

Hikari puts her hand to the dirt and sand below her and lurches up onto her knees.

And she askes,
"Arcaea... Were you here to heal me?"

Her arm relaxes... like a cool sensation has woven up the limb.

"...I can feel it,"
Hikari mutters as her eyes slowly close, her voice still hoarse.

"...Paradise, for someone scared, tired, and weak..."

"..."

She swallows the dry nothingness in her mouth.
Opening her eyes, she grabs up sand and begins to rise to her feet
as much of it pours out from between her fingers.

"I don't know what to do..."
Hikari goes on,
"...but would it be right of me to let you hold me again?"

"It... absolutely wouldn't."

"I... don't want this..."

"I don't want it...!"

―
"Mmf―!"

Hikari suddenly bends over, gripping her stomach and pushing
her other hand against her mouth. She sways heavily.

Her "refusal" seems to be enough to make this world recognize her once more.
As she holds her mouth shut, eyes wide in fear, she suddenly winces.
I can hear it too: a sharp noise, flying suddenly through her eyes―through her head―

And inside her heart again―no longer a whisper, but almost a vibrating bellow.
A silent, yet powerful voice filling her and saying: decide, and speak your heart's intent.

"Speak... my...?"

As she is...
...Hikari is nothing but a girl moved by her heart.
And it is heart that brought her here―long before she first opened her eyes.

Is it instinct? Does that "body" remember how this all happened...? How she was before...?

Ha...
I don't really care.
I just... find it very funny, and ironic, that this new heart would undo it all in a single beat.

Her answer... after her breathing has become shallow, after her heart has trembled long past a minute,
is ultimately clear and resonant:

"My intent... is to reverse."

"I have to bring her back."

"This world... doesn't make any sense!
You think I'd die for it? You think I'd let someone ELSE die for it...!?"

"I can't! I won't!
Whatever I need to do, whatever I need to give up... I'll sacrifice it all for that...!

She holds the earth in her palm, firmly, before throwing her hand out and scattering the sand.

She declares, "I'll die if it means I can change all this―!"

The world's heart beats, and its sound silences her cold.
It would never give her up. It will not.
The voice fills her again―

And its sentiments, and knowledge, enter her chest and run to her fingertips.

It says, You cannot die.
You were born here to live, and living is what you chose.

Hikari... knows this.
And guilt―apology―forces tears to well in her eyes.

But, the world's heart beats again before she can cry.
Do not die, says Arcaea.

―
Only let it end.

...And so her lips tighten.
Tears break past her eyelid, and trace down her cheek.
And she nods.

A heart beats again...
And like that―

―Arcaea begins to lose its light.

And in so doing, it floods into her, flows into her hands and heart.
It drives her down. It nearly causes her to collapse.

For that while, memories flash across her eyes, but I can tell... they are memories ignored.
Her eyes fix upon your lifeless corpse instead.

I think all she knows know... is "what she has to do".
And I can feel myself being tugged there already... down, down...
down: to where you were slain.

...
Does she... truly understand what it is she's abandoning?
Does she truly understand what is "ending"by this?

I don't know.

...You won't either.

...Actually, if she's taking me, then... will I remember any of this? Will I understand?

No... probably not. But... she seems so sure of herself now.

...

I'm going to let that heart of hers be the beacon for whatever comes after.

...I trust it. You would, too, wouldn't you?

After all, you were right...

The two of them... are completely different.

..."Tairitsu"...

...I'll be going now.

But don't worry.

I will surely take you with me.

The skies are forced down again, and the earth rises to her will.
To die, and to make Tairitsu live again.

Lives and souls cannot truly be brought into this world of the dead.
Only their shapes, only their echoes...

And to begin with, the souls of the girl of light and the girl of conflict... were never quite ordinary.

Truly, the world was not meant for this.
Surely, the world will shatter for this.
But it will do everything to rewrite it all―or at least try.

It would need both the girl in black's "first soul"
and what fragments can be found of her second self's...

And now one fragmented soul calls out to a full other.
Swiftly, that other soul is torn from beyond the pale.

A tornado flies around Hikari then,
ripping the veil of reality around her apart in a torrent of shadow and light.

Arcaea "remembers" the other girl, and at Hikari's command those memories come rushing back as glass.
They seem almost instantly born. Or perhaps they have always been here.
...Will they even suffice? Can this world weave two fractured souls?

...It will. The rules do not matter. Hikari will make it so...
With these memories of the girl named Tairitsu...
Gitting through the storm, those glass memories come swiftly.

There was a girl here once walked the lands in agony.
A girl dogged mercilessly by sorrow and grief...
Yet she strode onward to save herself.

To save herself and to grasp freedom.
She had only ever wished for one thing:
the chance to have some reason to smile.

To make this world a better place, she was a girl who stood and faced it,
even if "better" would mean turning this world over.

The memories flash across Hikari's eyes, distracting her even more from her own encroaching recollections.

Few of the other girl's tears pass through the storm. Much of her pain seems to have been forgotten.

It seems so... but in truth, as a soul of light, still pushing away
the cruel truth of that sould as she is, it is all Hikari can do to find even the fleeting moments
of the other girl's sincerest despair―the rest, the longer of them, lie beyond her grasp.

...However, knowing where that truest pain had led the girl in black, Hikari gives that sorrow up, and so too gives up the mment that they met, which she cannot find.

The Tairitsu born of this all... will be one who has not seen the true depths of her plight,
but will still know herself as one who was born and lived in the midst of struggle.

New energy booms out from Hikari. Four columns of light, immense fonts of power, erupt from the ground.
It is the world protecting her, as the shadow sould to which she called finally descends.

She almost fails to recognize it at its approach. What floats before her and begins to block the sky
is something like Death: the immense and chilling shape of a phantom. It gently slows as it nears,
and there, at once, the dark begins to flow into the rotating glass.

There she truly comprehends it. With a firm nod, she eases the process, guiding sould to glass.
The lost soul of Tairitsu "before" thus becomes the living essence of the now body to come,
with that of Tairitsu "after" stabilizing the rest of the shell.

The shaking beneath Hikari's feet becomes almost too much to bear.
Hikari rimains as still as she is able, and steadfastly directs the new life between her hands.
With a thunderous groan, she feels the world bending in agony, and yet she holds onto her will.

Without being deterred, in her heart she reaffirms her vow.

She twists the core of the world itself. It, too, will fuel the rebirth of a fallen deity.
Like this, finally, once absolute rules are rewritten, and with Hikari's sound and silent order
new death spikes solidly into that core.


In an overwhelming pulse of light and shadow, Arcaea begins to die.

The wish that made existence is overturned. The skies run rapid overhead, and what light remains of this
reality cascades to her from horizon. As she pushes the crafted soul into Tairitsu's now-floating
and deeply effulgent body, with sweat dripping off her brow, Hikari pushes, too, the entire world―

She channels the life of the earth.

She abandons Arcaea.

Below the now-ending daylight, twin girls watch as clouds rush past above them.

Below the half-night sky, a noble gazes at a rift slowly tearing apart the earth,
and gazes above to see star after star fading.

A girl who tends and cares, a girl who wanders and seeks, a girl who watches and wishes―

A soul of joy, a soul of hunger, a sould of ambition―

A heart of war, a heart of song―

―they see the end, as all the life of the world is taken now to one, distant place.

And soon...

...Hikari feels the last wisps of that life flow into the body of the girl she wishes to save.
Tairitsu's form begins to drift back to the earth as the life fades out from Hikari's hands,
and as it does...

...the girl in white feels, too, that a part of herself is being lost in the current.

...None of that concerns her.

When the winds die down, and as Arcaea's skies above are left slowed, dull...
she feels very lightheaded and plants her foot down before she might fall.

She tries to calm herself, trying to grasp what she, truly, has done.
But... she can't.
And overwhelmingly, her thoughts focus on this:

Is tairitsu alive?

―

Dust drifts down from the sky again.

She does remember this...

...at the end, at that lowest point...

Nobody was there, and she closed her eyes to tears.

She opens them now, slowly...

...just as those memories leave her entirely.

Hikari sees the motion in her brow.
The girl in white holds her own fists over her mouth and her breath catches in her throat.

For all the splendor, she thinks, it was all so simple―

Too simple―
Could her wish have been granted for so little as hope and effort?

Hikari shakes her head of these thoughts. She steps forward, shaking.
Tairitsu's eyes open fully, and blink once, before their lids fall again halfway.

Hikari rushes forward then, falls to her knees, and hugs the other girl.

"Wh... What...!? What are y―!?"

The girl is silenced as Hikari clings to her,
embracing her more tightly than anything else before in her life.
And, Hikari starts to sob.

She uncontrollably cries into the other girl's shoulder―
the girl who stares back in disbelief, unsure of anything.

Many more rifts have been carved through the landscape.
The light which once eternally poured from the sky has been suddenly, and starkly dimmed.
The world... is wounded.

And yet, Hikari's focus remains on "what"―"who" remains.
Tairitsu lifts her hand, and places it gently upon Hikari's shaking back.
Each unknowing, the two comfort one another at the end of the world.

"I'm sorry... I'm so sorry..."
Hikari endlessly repeats.

"...Whatever you did,"
Tairitsu replies,
"you made it right, didn't you? So why are you apologizing...?"

Hikari slowly pulls herself away, though she still holds the other girl.
With her eyes and nose reddened, she gazes on Tairitsu with misery, and tugging elation.

She suddenly buries her face in Tairitsu's chest, and Tairitsu holds her in return, softly.
The scene begins to quiet, and the girl in black allows the girl in white to weep.

―
They set out into the gray world.

For a while, Tairitsu holds the other girl's hand to walk her forward,
but it doesn't take long for their paces to match.

She does not remember her tragedy―at least, not the worst of it.

And the black shards... They don't take interest in her any longer.

For Hikari too. Those white shards which were so fond of her no longer dance nearby and close.

One has lost some aspect of dard, and the other... and the world... continue to lose light.
Though...
...to smile sincerely, Hikari no longer needs the light of glass.

The girls walk to a cliff's edge.
They look out to see a land of lost memory, slowly falling to decay.
And it will decay. It will collapse, fade, and crumble to nothing.

They stand there, not knowing this, and only "knowing" each other,
foregoing the past, and foregoing memory.

Tairitsu looks to Hikari with a steady, and quietly warm expression―
It is the expression she wore once, whenever able, within another life.
Hikari, seeing it, smiles with the simplest ease.

"What awaits"...?
What awaits could never matter.

That sense of "completeness" they each feel... cannot be shaken.

And...
Implicitly, Hikari knows this journey is at its end.
The road to the future lies ahead, and there a new journey will begin.

...She takes the time to acknowledge that she cannot know what, precisely, that journey will bring.
She can never know what might happen.

She acknowledges this, and closes her eyes to another thought:
...Did she know, before, where her steps would take her?
She only, always, stepped forward.

...

If you've chosen life, then choose to live.
Live in this world. See this world. Feel it and truly accept every last moment.
With this statement, she chooses to hold firm.

She lets her eyes open and she breathes in the air.
The unknowable winds ahead, the girl beside her, the faces she has not seen, and the hidden places beyond...

She holds all for it close to her heart.

She takes Tairitsu's hand.

Because they will go on.

――これは、そう遠くない昔の話。
――暗くて冷たい、どこかの出来事。

静寂――荒廃した何もない地平に満ちるものは、ただそれだけ。
継ぎ目さえ見えない分厚い空の下、空っぽになってまだ間もないその場所が、
寒々しくそこにあった。 かつては瑞々しく赤と緑を湛えただろう草花も、
今では遺影のような灰色に沈んでいる。

この場で唯一雄弁なのは、散らばるように残る足跡だけ。
それだけが、この場所に存在したであろう生物の痕跡を囁いている。
そんな遺言にさえ、天から降る白いモノはひとえに等しく積もり往く。
ただ、ふわふわと落ちるそれは雪ではない。……白い白い、灰だった。

来たる冬は、まだ遠く。
けれど、この場所はあまりにも暗く、冷たく――

――そして、全てが凍っていた。


灰化粧と氷に包まれた大地の上、膝をつく少女が一人。
分厚い雲間から差し込む光明へと、首ごと上向きに視線を向けていた。
見開かれた目、釘付けになったその視線の先には、雲間から滑り込む光明があった。
それは天使か、はたまた神そのものか。

家か、ねぐらか、そのようなものは少女にはない。
母と父はもう死んだ。保護者や血縁はもう死んだ。
かつて机を並べた、駆け出しの創形者（シェイパー）たちはもう死んだ。
偏見で少女を侮蔑し続けた人々はもう死んだ。

遺るのは少女の片手に握り込まれた硝子の欠片、窓だったモノの残骸だけ。
だがそれでも、彼女には機会があったのかもしれない。


選ばれた、特別だった。
若かった、だが学んだ。
あとは、試すだけだった。

少女の身全て、丸ごとを賭ける。
そうして挑めばもしや掴み得たかもしれない、僅かな可能性。

例えばすなわち、時戻し。
報復のため、時を戻すその行為が結実する期待性。

どころか、それ以上の飛躍性。
何らかの『神』にすら成りうる異常性。

そんなモノも、その身には秘められていたかもしれない。


まだ、全てを止められる。
まだ、全てを取り戻せる。

握り込むは硝片。願うは彼女の種の救済。

そうして少女は希う（こいねがう）。
どうかこの世界に救済をと、ただ祈る。


……だが、できない。叶わない。
意思さえあれば叶うことは多い。だが、無から力は編み出せない。

人一人が自由にし得る意思の全てを振るいながら、
分かったのは、ただひとつの事実。

ただ、己の意思には価値が無かったということ。

そうして少女は、涙に溺れた。

天にましますかれらの神よ。
ただ、その意志のほうが価値が上だったというだけ。

その願いこそ、彼女の種の根絶であり、殲滅であり、消滅だった。
こうして全ては、彼女を遺して灰になった。

そして今、願いは履行されつつある。
他ならぬ、その者自身の手によって。


ちいさな硝子に映る己の双眸が潤んでいく。
ちいさな硝子が歪んでいく。

涙と、嘆きと、伝わり震える顎を見た。
その無力、その不発に、五体全てを塗りつぶす痛みだけがあった。

全てが全て無価値だった。
少女が成したことは何もない。
現に今、全てが無に帰しつつある。

そして降り立つ天使――処刑人。

いまだ項垂れ、折れたままの黒髪少女。
御使いが近づき、今、少女に手を振り上げても、まだ。


――そうして、少女も消えた。


名前さえ忘却された、とある少女。
その死由は、彼女の一存を越えていた。

彼女を知る者はなく、懐く者ももういない。
そして少女の軌跡は、もう消えた。

――だが、そんな死の間際、
その魂を、誰かの願いが連れ去った。


—

—―あれから、そう遠くない昔の話。
――暖かくて暗い、どこかの出来事。

明かりを絞ったのは少女自身。
ここは別の時間、別の場所。別の少女に別の世界。
そのどれもが全て、忘れ去られた名前ばかり。

引かれたカーテン、閉じられたドア。
鍵だけでなく、ドアノブの下にねじ込まれた椅子。

下手人の少女は寝台の上。
膝を抱き、見開かれた双眸は釘付けのまま。

動かないまま、定まらぬ視線のまま。
その瞳はただ、虚空だけを映していた。


すべからく当然のこと。
その意識は『彼女そのもの』に呑まれていたのだから。


走る奔る。とある記憶が脳裏を走る。それはひたすら絶え間なく。
座っているはずの少女。されど見える視界は俯瞰の位置。階段の上から見下ろす構図。
明瞭に聞き取れてしまう両親の囁き、五感の遥か外側に転がるはずの話題。

その言の葉の節々には、けれどどこにも悪意はなくて。
それでも、行き来する言葉はやはり、少女についてだった。

少女を愛していないわけではない。少女が愛されていないわけではない。
ただ、他ならぬ少女自身が、己を愛せないだけで。

その内側、そのどこかから、何かが欠けているように思えてならなくて。
両親を愛し返せるための、何かがない。

……ただ、それだけで。


――いまだ明瞭な視界はやはり俯瞰、階段はその真上から。
その時、その場所、まだ燻るように残る欲求もまた鮮明だった。

重力の感覚や内なる激情、そして脳裏のあれこれ。
その全てが手すりと共に手放して、身を任せたくなる蠱惑だった。
見える階下、玄関ホールは大理石の床さえ、今は素晴らしい行き先に見える。

……でも、覗く疑問。湧く疑念。
『もしそれで駄目だったら？』と、そんな疑心で落ち着かなくなる。

……そうして、今日も少女は自分を閉じ込める。
静かに、部屋へと自分を回収して。


少女は消え去ることができない――何故？
少女は逃げ去ることもできない――何故？
少女はこんな思考に囚われている――何故？
少女はこんな精神に囚われている――何故？

――何故少女（わたし）は、消えられないのだろう？

突き刺さる爪。
深く深く、ふくら脛に。

見開かれる、釘付けの目。
加速する過呼吸が加速する。

そして願ってしまう、逃げられたら、と。


苦悩、それは白髪の少女が抱えるもの。
神、それこそが白髪の少女そのものであること。

だが、苦悩の種は神であることではなくて。
そも、少女は神であったことを知りさえしなかった。

こうして、彼女は希う（こいねがう）。
追い詰められたまま、陰鬱に逃避を夢想する。
そうして、願いは叶えられてしまった。

『どこか、遠い場所へ。わたしが幸せになれるところへ』


—

死んだ黒髪の少女。
消えるはずのその魂を掠め取ったのは、そんな願い。

それは遠くの世界、異なる現実で願われたから。

だが、黒髪の少女にではない――より強い力に。
白髪の、他でもない彼女に願われたから。

こうして、とある”世界”が編み上げられた。
白髪の少女、それだけの力で。

とある”世界”――その無意味な名を、『Arcaea』という。


死者たちの聖域。
そのためだけに造られた世界――”Arcaea”。

だが己の願いが聞き届けられたあとも、まだ少女は生きていた。
それでもまだ、『死』の感覚をすぐ傍に感じていた。

思慮というモノは、あの願いになかった。そんな余裕など少女には無かった。
飽くまでも己のための聖域、それだけの願いだったのだから。

Arcaeaという”世界”と、その糸に絡まった人々。
その行く末全てを知ったとしても、それでも少女はこれを善行と評すのかもしれない。

異なる現実、異なる時代。多くのものを超越して、
“Arcaea”は数多の世界へとその糸を伸ばしていく。

かの”世界”は、もう生きていた。
そこに思考能力のようなものはない。
ただその命を、死んだ者たちと分け合いたいと、それだけを願っていた。


導かれることもないままに、
けれど、”世界”――その『核』に対話し得る人物のみを捕らえていく。

現実と現実の狭間、その継ぎ目に造られた空間へ。
暗闇。柔和にも遠く、紫の星灯りの点在する場所へと。

導かれた魂は、あまりにも多かった。
その黒闇の向こう、新たに瞬く境界の地。
――白い、白い”世界”へと。

完璧な複製の後、”世界”はそれぞれの魂を解放した。
それぞれに新しい体を振る舞ったあと、陽光絶えぬ、温かな場所へと。

ただ安全に、ただ安寧を。
無限に等しい時間と、終わりなき人生を過ごして貰う為に。

だが、それが自らの創造主の救済に成りえない事も、”世界”は理解していた。


原典となる人物の魂を抽出、複製し、そしてその複製を新たな体へと埋め込む。
その後、解き放たれた原典の魂は、本来の行き先へと向かう。
"世界"に出来たのは、ここまで。

だが、"世界"に『光』と名付けられた個体、その原典の人物、魂はそうではない。
彼女だけが元の世界に遺ったまま。――まだ、生きているのだから。

創造主の魂魄の複製、その強制行使。
それだけが、思慮というモノを持たない"世界"にできた最善だった。

しばらくの時が過ぎた頃。"世界"は稀有にも、創造主に似た魂を見つけた。
その他に類を見ない悲惨さに見舞われた魂は、母なる人物に似ていた。

奇異なことに、その原典の魂は不可思議な挙動を見せた。
手放されようとも、この偽りの"世界"、その境界から出ていくことをせず。
ただ、新たに生まれた己の模造品を、じっと見守り始めたのだ。

――そうして、対立は目覚めた。白い大地、崩折れた塔の中で。


—

いくばくかの時が過ぎたあと。
思慮もなく、救われた一人が全ての存在を脅かすことがあった。

だが幸いなことに、再び”世界”は安寧を取り戻した。
他でもない、再臨した創造主の手によって。

飽くまでもただ、受け皿として造られたこの世界――”Arcaea”が、
そんな事態に出来ることは、かの原典、創造主へと呼びかけることのみだった。

呼びかけ自体が稀ながら、結果としてその喫緊の声は応じられた。
そう、かつてアノマリーが”世界”そのものに、危うく亀裂を入れかけた時のように。

かつての際は、新たに硝片の監視者が用意され、そして命令が下された。
いわく、そのアノマリーの数々を食して消すように、と……。


こうして、”世界”は存在した。
存在し続けてきた。

既に千年を数えても尚、存在し続けている。


今、大地を染めた赤い血など、もう痕跡もない。
処女雪のような、白い大地が残るだけ。既に対立の遺骸もまた、焼失している。

辺りに満ちる暖かさ。雲無く眩く、輝く大空。
真珠のように白く、けれど果てのない大地が戻っていた。
そう、これこそが真に美しい世界。

遠くに視える、点在するシルエット。少女たち。
それは、終わりのない旅路の中で、安息を選んだ少女たち。
この喪失しかない”世界”の中で、永劫の時の中、ただ凍ることを選んだ少女たち。

もし、永久に眠る彼女たちに走る思考があるとするならば、
それは、きっと遠い過去の想い出だろう。彼女たちはもう、最良の選択をしたのだ。

そうだ、彼女たちは幸福だ。
永久に数多の世界、数多くの記憶を追憶し、彷徨い続けるよりは、ずっと。


そう、幸福でなくてはならない。
少女たちは幸福でなくては駄目なのだ。

他に”Arcaea”が与える選択肢などはない。
いまだ『境界の狭間』に埋まるこの”世界”から出ていく、手段など……

……そもそも、外界は外に、遠くにあるものだ。二度と訪れる手段はない。

少女たちは眠る。散在して、眠り続ける。
かの双子も、兵の女も、旅装束の少女も、高貴な少女も、歌う少女も。
今はもう、誰もが物言わぬ美しき彫像。

硝片もまた、いつしか休息をするようになった。
壁へ柱へ、寄り添うように親しげに、大きく集っている。

まるで、大きな結晶のように。
まるで、辺りに腐食するように。


――、この美しい”世界”はとにかく、神に見守られている。
その光はただ、天上から消極的に見守るのみだ。

そうして、ずっと記憶していく。


……そう、彼女は記憶していくだろう。これからずっと、古い世界が忘れた全てを。
わずかで均等な温もりとその関心を以て、全てを見守る。

もはやそれは嗜好品のようなモノ。
意思が褪せ、心やつれた神の耽溺するモノ。

もしかしたら、彼女はとうに変質してしまったのかもしれない。
今の彼女は遥か遠く、かつてより高位の存在には違いないのだから。

とある真実を一人、胸に大切に抱えながら、けれど誰かが気付く事を祈り続ける。
たとえ叶わぬとしても見つめ続けると、少女は決めていた。

そう、真実だ。たとえ消極的に見つめるだけだとしても、
己がこの”世界”の住人に全てを与えているという真実。その実感が、光にはあった。


少女の視界、その外を彷徨う、とある哲学者とその衛星。

その麓のとある場所、希少な記憶を手繰る角有りの女性。

離れた場所、沈黙の大地を踏みしめ歩く、片目に花を宿した女性。

ただ空虚。ただ虚栄。
今の”Arcaea”も、また同じ。

――それでも、きっとマシだったのだ。

そう、目に入る全ての人々が唾棄してくる世界よりは。
そう、己の存在、尊厳まで焼却し続ける、自分自身よりは。

――そうだ、きっとこの方が良い筈なのだ。
命あることを愛しく感じるために生きながら、虚栄に浸り続けるほうが、ずっと。


現実。それはあらゆる面で虚ろなもの、無価値なもの。
なにより、取るに足らないもの……そのはずだ。

人が唯一欲するものがあるとしたら、それはきっと、その一個人に届き得る全て、
その際の際、採れる限りの全てを採り尽くすことくらいだろう。

それは例えば、喜びを。
または愛を、希望を、権力を。

そして、光は――

――ただ、信じていた。

愛も希望も権力も喜びも全て、仮に手に入れたところで何一つ、
振るう必要などないと。……そう信じていた。


ただ今を享受し、生きる。
そして生ある事実に感謝し、慈しむこと。……それだけでいいのだ、と。


そこに、生命の意味はない。人生の意義はない。
千年が過ぎて今になっても、さらに千年を過ぎたとしても。


現実というもの。
それは結局、ひたすらに進んでいくものだ。
終わりというものは、見えることがない。

そしてこの世界――”Arcaea”とは、記憶の容れ物以上の意義を持たない。

見えず、知られず、気に留められることのない記憶。
益体もない、実体のない、ただ封じられている静かなる記憶。

それらはこの静寂の中、永久に保たれる。
光が救った数多の失われた命と、そして、それを省みない彼女と共に、ずっと。


それもそうだ。
まだ見ぬ記憶も、未知の感情もここにはない。

なぜならこれこそ、『命の全て』。
記憶片という、追体験と干渉さえ可能な過去そのものに、"Arcaea"という世界すべて。
それこそ天上より光が照らし、光が導き、そして授けるモノである。

それは万人の幸福のため。それは恒久の平和のため。
どの人生、どの前世でもあり得なかった、その全てのため。

これこそ彼女の愛する世界、これこそ彼女の愛たる”Arcaea”。

これは憐憫ではない。これは追悼でもない。誅罰でもなければ救済でもない。
ただ、喪われた命すべてに与えるモノ。

かくして、運命の車輪は回り続ける。
これまでも、そしてこれからも。

その先には、けれどなにもない。

It wasn't long ago...

Somewhere dark and cold...

A barren, empty land rested in silence; newly cold, and newly empty, under a sky
leaden with dense clouds. The green leaves and red flowers had turned gray, and
only the footsteps of the living remained to tell that they all had once been
there. White now fell from the heavens and covered up their steps. No snow fell; only ash.

All had frozen, and winter had yet to come.


On the ash and ice-covered earth, on her knees, was a girl with her neck craned up to face what light
now bled through the gray. Her eyes were wide and staring. Before that light was an angel or, maybe, a god.

There was no home to turn to. Her mother and father were dead. Her guardians were dead. Her fellow
fledgling Shapers were dead. Her people, who had always scorned her, were all dead. All that remained
of what she knew was a shard of glass in her hand—a fragment from her window. But still, perhaps,
there was a chance—


She was chosen, and special.

She was young, but learned.

She only had to try.

If she tried, very hard, there was perhaps the smallest chance... to reverse time's flow. To strike back.

To even, maybe, turn into a sort of "god" herself.


Thinking she could stop all of this.

Thinking she could bring everyone back.

The girl looked at the shard of glass in her hand, and wished to save the world.


—However...

...she could not.

Will alone cannot create strength from nothing. She had all the will that one could imagine,
and her will was worthless.

Knowing that, she began to cry.

The will of the god above was worth more. Its wish had been for her and her kind to vanish, fall,
and fade into dust, and that wish would be granted, in moments, by its hand.

The girl saw her eyes in her own reflection, and watched as the image became distorted
with her tears. She could see her grief through her shaking jaw, and her impotent, overwhelming pain.

Nothing mattered at all. Nothing she had ever done, and nothing now.

The black-haired girl kept her head bowed as the angel descended. When it reached her, it raised its hand.


And shortly, she was gone.


That child's name is forgotten.

The reasons for her death... were beyond her.

Her life would not be remembered by anyone.

But when she died, another wish took her away.


—

It wasn't much longer ago than that...

Somewhere warm, though still dark...

She had made it dark. Another girl in another time and another place, with all names forgotten. She had
drawn her curtains. She had locked her door. A chair was beneath the knob. She sat on her bed, and kept
her eyes wide and staring.

She hugged her knees.

Staring.

She stared into nothingness.


She was overwhelmed by "herself".


A memory played endlessly in her head. She could see the view from atop the stairs, and vividly hear
her parents' words, whispered from beyond her sight.

They weren't saying anything against her, but they were still discussing her.

It wasn't that they didn't love her.

She could not love herself, and she felt that inside of her, something was missing that would allow her
to love them.

She very well could still see the view from atop the stairs. She had felt everything tugging at her to
let go of the banister then, and fly to the marble foyer below.

But what if it didn't work?

The girl had managed to return to her room after that and quietly lock herself away.


Why couldn't she disappear?
Why couldn't she walk off into nowhere?
Why were her thoughts like this?
Why was her mind like this?
Why couldn't she disappear...?

Her nails dug into her calves.

Her stare widened. Her breathing quickened.

And she wished that she could run away.


The girl with white hair was troubled. The girl with white hair was a god.

She was not troubled because she was a god—her godhood was a fact she never knew.

In her heart, she made a sullen wish for refuge, and that wish was granted:

"Somewhere else, where I can be happy."


—

The girl with black hair died, and a wish called her soul away.

In a distant world, in another reality, a girl more powerful than her had made that wish.

The white-haired girl was so powerful that her wish had created a world.

A world with a meaningless name: "Arcaea".


Arcaea was a sanctuary meant to save the dead.

Though she'd been alive when she'd made her wish, she still keenly felt that sense of "death".

She'd given it no consideration, none at all—in fact, she couldn't have thought straight if she'd
tried. She only wanted something there for herself. It's possible, really, that if she knew the fate
of those caught in Arcaea's web, she would see herself as having done a very good thing.

The world reached out to countless other places across time, across separate realities.

It was alive, and though it had no thought it nonetheless "wished" to share life with those dead.


Unguided, it caught any it could that spoke to its "heart".

In a space crafted between the seams of the real, in darkness spotted with soft and distant purple starlight...

...so many souls were wrapped into the weave, and brought to a new and shining border beyond the black.

The world of white...

From there, the world made a perfect imprint of each, and also released each. It gave each imprint a warm
place, gave them a new shape...

It gave them infinity, to view and relive endless life in safety.

But it could not truly save its maker...


It was able to take true souls, double them, and bring the doubles into new bodies, releasing those
first souls to whatever else awaited them... However, the soul of the one who would be known as "Hikari"
was fixed back in its first world. She was still alive.

...Arcaea, always unthinking, instead forced a copy of that soul as best as it could.

And much later, it found a soul more tragic than any other it had yet to find, similar to its mother's...

Strangely, that soul could not be properly kept either. When released, it could not leave the false
world's border like the rest... and so began to watch its star-crossed copy on the new, white earth instead.

Tairitsu... woke in a ruined tower.


—

And time passed...

Unthinkably, one of the saved had threatened everything...

But mercifully, the one who had made this all returned, and soon the world was safe again...

Arcaea was only crafted to exist. It had called out to its maker, and that maker had heeded that call. Like
Arcaea had made a monitor for the shards... like it bid that monitor to swallow up any anomalies that
fractured its fragile existence...


So now, it exists, and has existed.

It has existed, ever since, for over one thousand years.


The red blood that stained the earth was erased, leaving behind pure, white land. Tairitsu's body
was burned away...

Warmth filled everything. The sky grew bright.

The pearl and nearly endless landscape came together again.

And now, it is a truly beautiful world...

Dotted in figures: of girls who chose to rest in a land of endless travel. They chose to be frozen, and to
stare eternally into this world of the lost. And if they are thinking at all... it is of a very distant past.

And that was surely the better choice…

That was surely better than walking and watching other places forever...


They must be happy. They need to be.

Arcaea had nothing else to give them but that choice. The world was
still buried "inbetween", and escape was—

—and... any realms outside of it... were outside, and away, and could
never be seen again.

So, the twins, the girl with a blade, the traveler, the noble, the girl with a song...

They and others are angelic figures.

And the glass shards of Arcaea often come to rest now, too. They gather along
walls and pillars, compacting in great and plentiful formations. Like crystals.

Like corrosion.


—This beautiful world is overseen by a god. Above it all, Hikari watches passively...

...and remembers…


She remembers everything old worlds have forgotten. She sees them, with marginal warmth
or interest. An indulgence, of sorts, for the mind of a faded and listless god.

Maybe... she has transformed. Who she was and who she is... She must be "higher" now.

She cherishes a truth she can only pray that others would understand—though if they
will not... She has only chosen to watch the world.

Yet... though she watches it passively, she knows she has given them "everything".


...

...Outside her purview, a philosopher and satellite wander.

Beneath it, a horned woman tends to precious memories.

A woman with a flower in her eye... trudges through silent lands.

It is vain. It is vanity.

Arcaea now—is vanity.

And that... is better than the alternative.

Better than the world which spits at you. Better than yourself, who loathes your very way of being.

Living to love being alive, and succumbing to vanity...


...Reality, in all of its facets, is an empty, worthless, and inconsequential thing. The only thing one could
ever want would be to take what one can out of it.

Take pleasure. Take love. Take hope. Take power.

And with it...

...

Hikari believes this: one has no need to do anything.


Take. Live. And, sincerely, love being alive.

Love that...

Though not even for a thousand years, nor even a thousand more... will life ever mean a thing.


After all, reality marches on with no discernable "end" in store. And Arcaea, specifically,
was never anything more than a vessel for memories.

Incorporeal, contained, silent memories—while the outside remains unseen, unnoticed, and uncared for.

And those memories will exist forever here in that silence, together with those lost lives Hikari has saved,
and with her turning no eye to those lives, as always.

Because here there is no memory unseen—no emotion not felt. This is "all", which Light shines down upon,
and which Light grants.

It is for happiness. It is for eternal peace; unlike in any life you might have left behind.
This: she loves. This: Arcaea—

—Given to lost lives with neither favor nor condemnation.

And so, like this, the wheels of fate here continue to turn...

...while no destiny waits beyond.