カラム・TLC

Last-modified: 2022-05-29 (日) 16:45:29

合成化学者の腕の見せ所はむしろ精製パートにある

カラムの立て方・チャージ *1

カラムの鉄則

チャージする前に、ほんのちょっとでいいから(TLCが見える量)クルードサンプルを取っておけ!

カラムの太さの選択

私のカラムの目安は液体の場合はナスフラスコの底をカラムにあてて液体の部分より一回り大きいカラムを選択しています。
固体の場合は、溶液にしたときの濃度などを考えて自分の経験則でやってます。

カラムにかける時間

大体カラム1本にかける時間は30分から1時間ですね。*2
拡散してしまうものもあるのでカラムに時間をかけるのは良くないです。分離能が落ちます。

シリカの量

シリカの量はクルードの重さ×20gくらいが妥当だろう。
展開溶媒の組成はあらかじめTLCで目的物がRf=0.3らいに上がるくらいの極性。

クルードのチャージ

出来るだけ極性が低くて溶解能の高い溶媒を使え。
私ならマズ展開溶媒そのもので溶かすことを試みる。溶けなきゃトルエン。だめならクロホ。
チャージに要する溶媒は少ないほうがよろしい(洗いこみの分も含めて)。
チャージするときにシリカ面が乱れるなら2~3mmくらい海砂をひいておけ。
化合物がどうしても溶けない場合はTHF等の溶ける溶媒に溶かしておいてクルードの2~3倍g程度のシリカをいれろ。
コイツをエバポでサラサラになるまで溶媒留去させてカラムにサラサラまぶせ。これを専門用語でまぶしカラムという。
チャージが滞りなくできたら海砂を少し大目にしいておけ。2センチくらい。
これで準備完了だ。あとは展開溶媒を上から流していけ。溶媒ダメをつかうと便利だぞ。

  • まぶしカラムするならシリカよりもセライトのほうがおすすめ。濃縮時に舞わなくなるし、分離も良くなる。

Rf値は?なかなか分かれにくい時は?

Rf値は0.3がベスト
これを下回る溶媒だと、分離能は大して変わらない上に時間が掛かる。
スポットが近いなら上から順に試すとよい

-展開溶媒の比率を変える
-展開溶媒を変える
-カラムを長くする
-フラッシュを諦める
-シリカの粒子径を小さくする
-HPLCで一晩ガンバル

これくらいしか思いつかん。

Rf=0.3ってことはカラムボリューム(CV)の約三倍流出させれば出てくるってことだろ
Rfがそれより大きいとカラムに乗せたのにすぐに出てきて精製効果が薄い。
 →吸着剤を増やす
Rfがそれより小さいとなかなか出てこなくて(溶媒由来の)不純物が増えるし吸着ロスも大きい。
 →グラジエントかけて押し出す

それぞれ対策はあるが、基本をおろそかにすると手間が増えるだけ

海砂がない。替わりに使えるもの頼む

  • 俺は海砂の代わりに硫酸ナトリウムを乗せる。
  • うまい具合に脱脂綿を詰めれば海砂など敷かなくても流速を稼ぎつつシリカが出てくることはない
  • 炭酸ナトリウムを使う。塩基性が問題なければ。
  • 硫酸ナトリウム・硫酸マグネシウム・塩のどれかを使う。

脱脂綿をうまく詰められないんだけど

溶媒で湿らせた脱脂綿を入れてなんでもいいから細長い棒で押さえつけておく。
そのまま海砂なりをざざっと入れて棒を引きぬく。これだけで十分。

分離のテクニック・トラブルシューティング

Rf値=0.3くらいの化合物があっという間に流れてしまう

  • そういう時はシリカの量が足りないのも要因だが、化合物がTLCとカラムの条件差異に敏感な場合が多い
    つまり乾式(TLC)と湿式(カラム)とか、混合溶媒の比率(蒸発やデミキシング)とか
  • モノを乗せすぎか、原点成分が多い。原点成分が吸着した部分は分離能がなくなるから、先にショートカラムで原点成分を除去すると本番カラムが楽になる。

    ガラスフィルター付きロートがあると便利だよ。スラリーにしたシリカを入れて、濃縮物を乗せて、ろ紙を乗せてから溶媒を注ぐとショートカラムができる。
  • クロロホルム/メタノール系の場合、void volumeで一気にモノが出てくる事故は頻発する。これを防ぐためには以下の方法を試すとよい。
    • 流速を極端に落とす。
    • モノをチャージしてから、30分程度放置する。
    • モノをチャージしたら、チャージしたシリカ層にガラス棒を突っ込んでかき混ぜる。

なお、モノが出てくる前の溶離液をリサイクルするとなぜか一気にモノが落ちてくる事故につながることがある。上に足す溶媒は新しいものを用意しよう。

クルードの量によって変えるのは充填剤を積む高さ?カラムの太さ??

シリカを積む高さはいつも一定にしたほうがいい。変えるべきはカラムの太さ。
カラムの径を変えることで、あたかもカラムを束ねたように分離できる。
充填剤を積む高さは不用意に変えないほうがいい。

Rf値がかなり離れた*3のが同じフラクションに出てきた。こういうことってよくある?

  • 普通はわかれる。
    たまーにそういう挙動をするときもあるけど
    それよりはRf0.6のやつが分解してる可能性を疑ったほうがいいかも。
    • 5cm四方にTLC切って、まず縦に展開して、乾かしてから(しばらくまって)横に展開する。
      対角線以外にスポットがでればシリカで壊れてる可能性が高い。
  • TLCは意外とアテにならないですよ。
    あなたのウデがただ単に悪いって可能性もあるけどTLCとカラムと全然違うのはよくあることだから注意が必要です。
  • crudeに対してカラム太すぎ
    シリカがうまく積めてない
    チャージが下手
    カラム内で分解
    いろいろ思い浮かぶ

Rf値の低いほうが先に出てきた!!

  • Rfが低い方が先にでたことがあるよ。
    あとはTLCでモノとゴミが重なってるけどカラムしてみると意外と普通に分けれたこともあるし。
  • 原点が真っ先に出ることは結構ある。とりあえずそのままカラム続行し、後で原点除去かければ大概OK。
  • 理由はわからないが、同じ2種類の溶媒を混合して展開しても、高極性溶媒の割合が低い時と高い時でTLC上でRfが逆転することがたまにある。こういう時に中途半端な組成の溶媒でカラムすると、TLCでのRf値の差の割りに分離が悪くなってしまう。何かおかしい、と思ったら試しに溶媒の比率を変えてみては?

カラムかけたらクルードのときとRf値が違ってた

  • クルードの時、ゴミとモノが相互作用してる場合ってのも多分あるのかな。ゴミがモノを引っ張ってるってこと。
    ソースがあるわけじゃなくてあくまで僕の経験則に過ぎませんけどね。
  • ピリジンとかDMFみたいな溶媒を使ってると乾かさないで上げるとRfずれるし、ゴミに引っ張られるは十分ありそう。
  • こういう高極性溶媒の時は、反応溶液をスポットした後、TLCプレートを真空ラインでしばらく引っ張ってから展開するというやり方も一応あるが、やはり限界がある。反応液を少量取って水と分液して有機層をスポットするのが確実だが、小スケールだとあまりやりたくないし、何よりめんどくさい。悩ましいところだ。

Rf値が0.08違うモノがカラムかけると混ざってしまう。シリカの量が足りない?

  • TLCは理論段数がかなり高いから、実際の分離が悪くなるのは当然
    �Rf<0.1を一回で分けるのは難しいと思うよ
    展開溶媒の極性をもう少し下げるかシリカ量を増やすか

    カラムのサイズにもよるけど漏れは200倍くらいまで上げることあるよ
    もちろん時間・溶媒量・シリカ量・回収率などを天秤にかけてからね
  • ちょっとかぶるくらいなら俺はさっさと諦めて2、3回カラムやっちゃうなあ。
    極性下げて時間かけてやって結局わかれないとイライラするからw
  • 0.08で分離するなら、1mlずつ分画するとかじゃないと無理だって
    溶媒系を他のにした方がいい
    0.08じゃあTLCかき取りも難しい
  • カラム精製の難易度は、Rfの差より、Rfの逆数の差(= CVの差)が効いてくる。
    同じ「0.08違う」でも、Rf 0.18と0.26を分けるのは相当きついが、
    Rf 0.08と0.16なら比較的どうにかなる。

TLC上ではテーリングしてなかったのに、カラムでダラダラと出てきた

TLCでの条件検討もばっちり。けど、いざカラムをしてみるとモノがダラダラと出てきた。
エバポは追いつかないし、溶媒は無駄に大量消費するし、時間はかかるわ洗い物が増えて、今日は厄日。。。
何がいけなかったの。

個人的には、実験中のイライラ原因で1,2を争うトラブル。油状のモノをやったときに多く発生した。

  • クルードのチャージを厚く盛り過ぎた。
  • クルードに展開溶媒を少量足すのを忘れた。
  • 最初に低極性でじっくり流した。
  • 展開溶媒に対するモノの溶解性が悪い。

モノの溶解性が悪い場合、溶媒系を変えるか再結晶で精製するほうがよい。
酸性化合物ならカルボン酸、塩基性化合物ならトリエチルアミンなどを加えると改善することが知られている。
参照酸に不安定なもの、アミンをわけたい

原点成分が多いなら予備精製をすることでクルードを減らすことが可能。

HPLCバイアルに100-200mgのクルード、メタ0.5ml/ヘキサン0.5mlを加えシャカシャカふる。
上と下をHPLCで見る。HPLC条件が決まってなければTLCでもいい。
分配係数を利用した精製だから、Rfが0.3ほど違えば大概偏りがでる。
メタに行きすぎてしまうならメタに少しずつ水を足す、ヘキサンを増やすなどする。
有望と思ったら組成をちゃんと詰め、低温にすれば回収率も上がる。
予備精製なのでピカピカにはならないが、元の純度を上げておけば結晶化の結晶も出やすいし、
カラムに乗せる量も減って楽になる。

カラムのコツいろいろ

現場のおっさんのカラムを教えて下さいぃ!

まずTLCで展開系を決める。
目的物がRf=0.2-0.3程度になる極性をヘキサン酢酸エチルで決める。
シリカゲルの量は分けたいものの約30倍~50倍。
シリカゲルと同量ずつ分ける(シリカ10gなら10mlで刻む)

グラジエントをかけるなら最適の半分の極性からスタートし、
半分の極性=5画分
適正の極性=20~30画分
2倍の極性=10画分
を目安に展開溶媒を切り替える。

ヘキサン酢酸エチルで分離が難しそうなときは別の展開系を探す。
エーテル系(diisopropyl etherなど)、アルコール系(2-propanolなど)などを試す。
カラムで採用するか別としてハロゲン系(ジクロロメタンなど)も試す。

どうしてもダメならヘキサンにトルエンを加えた3成分系も試す。
(ヘキサントルエン=1:1)/酢酸エチル、など。
分けたいものがオレフィンをもっていたりハロゲンを持っていたりすると、意外と分離が向上することがある。

テーリングする場合。
酸性(カルボン酸、スルホン酸など)なら酢酸を、塩基性(アミンなど)ならトリエチルアミンを1~2%添加すると切れが良くなることが多い。

酸や塩基に弱い物質ならアルミナ、中性シリカ、シラナイズドシリカなどを使用する。*4

フラクションの回収がかったるい

どこの研究室でもフラスコに装着して吸引ろ過をするアダプタを使っていると思うが(形状はラボによって異なる)、そこに穴の開いたセプタムを装着し、そこにテフロンまたはポリエチのチューブ(30-40 cm)を刺す。アスピまたはポンプで引いて、チューブから吸い取ってフラスコに回収できるように装置を組む。
試験管に取ったフラクションをチュウチュウと吸いとってフラスコに回収すれば、あら簡単。洗いの溶媒も最小限で済む。

逆相オープンカラムってどうですか?

通常、ODSで表面修飾したシリカゲルは極性溶媒との馴染みが悪くなり、含水メタノールのような溶媒に加えてもきれいな懸濁状態にはならない。HPLCのように高圧をかけて強引に溶媒と接触させれば別だが、オープンカラムではちょっとした条件の変化で固相が溶媒をはじいてしまい吸着平衡が成立しなくなるし、最終的にはシリカが浮かび上がる。だから通常は逆相オープンカラムというのは困難だった。

では市販のオープンカラム用逆相シリカとは何か。これは球状シリカゲルをODS化した後に、表面を機械的に削ったものだ。したがって、シリカ多孔質の内部は逆相、表面だけ順相で親水性という性質を持っている。だから見た目、高極性溶媒にも馴染むのだ。
十分な固液平衡が成立すれば、表面積比では圧倒的な逆相表面の性質が現れるが、不十分であると順相の性質が現れる。言い換えると、十分に流速を落とすのが分離と再現性を良くする必須条件だ。
充填するとき移動相でスラリーを作ったら、超音波をかけてシリカ粒子の内部まで溶媒を浸透させ、空気を追い出すべし。よく撹拌して、上澄みは捨てる。これを2~3回繰り返して、分子レベルで固相に溶媒をなじませること。

極性の相互作用と、疎水性の相互作用では強さが桁違いだ。だから、普通のシリカみたいにクルードの30倍のシリカ量の感覚でいると分離しない。分離がいい時でも、少なくともその10倍は必要だと思う。ただし、不可逆的吸着が少ないだけにカラムそのものは繰り返して使用できる(というか、高価なので一回で捨ててはいけません)。
正直、効率・使い勝手は悪いし、高価だし、技術的にも未完成で、あまりおすすめしたくない(他社から発売されていないのがいい証拠)。逆相中圧カラムのほうが再現性はいいはずだし、時間もかからない。オープンカラムにこだわるなら、フロリジルとかゲルろ過とかポリマー担体(吸着クロマト)を先に検討すべきで、順相クロマトの次に検討される分離手段ではないことは断言できる。安易に逆相オープンカラムを勧める指導者は経験不足である。

  • 親切な解説をありがとう
  • いろいろ納得がいって、感動した。うちのラボにはこんなにわかっている人はいないorz
  • 逆相オープンについてはそうなのかもしれないけど、現在自動精製装置用の逆相カラムが普及しているので素直にそちらを使えば良い。自動精製装置がない?
    そんな貧乏ラボにはいる意味ないぞ

不純物ガン無視して、次の工程行ったら指導教官に怒られた。普通にやること?

それは実験の目的によるよ

不純物が次の反応や精製に影響しないならガン無視でもok
精製ってのは予想以上に時間と金が掛かる作業だからね
実際、大量スケールで合成する場合は分液だけとかショートカラムだけとか多いよ
もちろん先行スケールで無精製テスト結果を確かめてから行う

こういうのは上級生や社会人になってからやればいいので
(BかMか知らんが)今は各ステップで精製した方が無難
もしくは予め指導教官とディスカッションした上でやることだね

  • 論文に合成項載せるなら、
    各ステップで得られる化合物の元素分析とかNMRとかが必要になるので
    そのためにもきっちり単離しておくべき。
  • 不純物がいても次工程が問題なく行えそうなら、
    構造確認用に数十~数百mgのみ精製し、残りは、無精製で次工程に行くのも有り。
    ただ、上の人も言っているが、小スケールで無精製テストは必須。
    あと、合成項を載せない場合でも、最低でも純品の1H-NMRくらいは見ておかないと、
    後になって構造が違いました、となると悲惨(もちろん、必要なら他の分析も行う)。
    crudeでのNMRやLCMSだけだと、意外と間違うことが多い。

まぶしカラム(吸着カラム)をやろうとしてるけど、3倍量のシリカを入れてもサラサラにならない

やってみなきゃわからんところもあるんだが、水分や高沸点溶媒が抜けきらなかったと見る。仕方ないから、そのままカラムにチャージして溶出するんですな。溶出したものをTLCチェックし、濃縮すると意外にカラムにかけられる状態になっているかも知れません。
「転んでも泣かない」というのは2chの鉄の掟だけではない。

モノが高極性溶媒にしか溶けない。無理にチャージしてもカラムで析出して回収できないかも。

  • まあそこは量上げして諦めるのが手っ取り早い気がするけど…
    どうしても収率こだわりたいステップなん?
  • どのステップによるかで話は変わってくるな。
    出発原料に近いんだったら大量合成して再結晶すれば良いし。
  • HPLCで頑張る
    • HPLCもDMSO、DMFにしか溶けないとなるときついんじゃないかね。
      俺はよく知らないけど>>106*5によればカラムが劣化するっぽいし。
  • まぶしカラムで頑張る
    溶ける高極性溶媒に溶かして、crudeの3倍量のシリカを加えろ
    きっちりスラリーにしてからエバポでサラサラになるまで飛ばす
    これをカラムのトップに乗せて海砂まいたら普通にカラムする
    詳しいやり方を知りたければ「まぶしカラム」で調べるといい
    ま、溶ける溶媒がDMSOだと沸点的に無理だろう
    やれてDMFまでか
    (普通はTHFやMeOHでやる)
  • 逆にその溶解性を利用する
    DMFやDMSO溶液へ貧溶媒を滴下して再結晶で精製する
  • 一個ステップを進めてから、精製したら?
  • GFCカラムで頑張る
    GFCカラムはどうかね。セファデックスはMeOH とクロホが使える。DMF の実例もあるようだ。
  • そういうやつは逆相シリカオススメ
    展開液は水メタなんかで。
    つまり、ODS。100%水でも溶出するような極性高いやつは、NH2カラムというのもある。
    溶媒はアセニト水。

カラムにシリカ詰めるとき横から叩いちゃいけないの?

  • カラムスレで散々既出だが、諸説ある。
    叩けば液状化と同じ効果で粒子径が不均一になり、テーリングしやすくなるというデータがある。
    一方で、堅く詰まっている方が分離がいいという神話があり、それを信奉している人も多い。
    詰まっている方がチャージは楽で、チャージ層の乱れによる分離の悪化は防げるのは事実。

この件に関しては、指導者の意見を聞かないとケンカになるので、素直にしたがった方がいい。

  • ドライ充填は縦振動が良さそう。
    モーターにカム付けてタッピングする機械もあるよ。水車みたいにカッタンカッタンうるさい。

俺はウエット派で、経験的に横から叩いても問題ない。縦割れなんてなったことない。

グラジエントって何?!

グラジエント=gradient, 勾配
ここでは展開溶媒の高極性溶媒比率を徐々に上げていくこと。
低極性メインの展開溶媒で高Rf成分を流しだした後、じわじわ極性上げていけば労力も溶媒量も時間も節約できるかも。

展開溶媒の検討

  • 芳香環を持つ化合物の場合、トルエンを使ってみると分離がよくなるかも。
  • 逆に言えば、トルエン/ヘキサンの使い分けでπ-π相互作用の情報を知ることができる。
  • アルコール
    水素結合についての情報
  • ペプチドなどではクロロホルム/メタノールでしか展開されない時がある。分離に困ったら、メタノールの代わりにトリフルオロエタノール(TFE)やヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)などの含フッ素溶媒を試してみよう。水素結合を破壊する効果があり、ペプチド・カルボン酸などでは劇的な効果が期待できる。
  • ヘキサン/酢エチではモノの溶解性が悪く、チャージ溶媒が多くなりがち。そういう時は、トルエン/酢エチに変えてみよ。トル酢の混合溶媒は単独溶媒以上にモノをよく溶かす。
  • メタノール25%以上のクロメタ系ではシリカの溶解が問題になることがあるが、この場合はエタノールに変えるといいという人がいる。ただ自分の経験では、エタに変えると分離特性は非常に悪くなる。
    • 一定量のシリカゲルからメタノールで溶け出してくる量はほぼ一定。*6
      なので、メタノールのみで先にカラムを立てておき、1-1.5volほどメタノールを流したのちに、クロメタ系の最初の溶媒を流して置換する、という手もある。
      これなら高濃度のメタノールを流してもシリカはほぼ出てこない。溶媒と時間のロスにはなるが、モノの極性から大量のメタノールで流し出すことが目に見えているならこれがおすすめ。
    • もっと徹底的にやるなら、「大きなグラスフィルター中でメタノールに懸濁し混ぜる→濾過」を数回繰り返す。乾燥させればメタノールを含まない展開溶媒でカラムすることもできるが、真空引き+加熱してもメタノールを完全に飛ばすのは難しいので注意すること(メタノール洗浄しない時と比べて分離は変わる)。

フラクションコレクター使用の是非

フラクションコレクター(フラコレ)の好みは研究室で大きく異なる。
使用に否定的な研究室では「あんなもん、天秤(フラクションカッター)に液が溜まる。良くない」と決めつけて、学生にも使用をダメ出しする例も多く見受けられる。一方、流速を落としたカラムのフラクショネーションに一度使うと手放せなくもなる。バカバカしくて手取りなんかやってられない。
天秤に溜まったフラクションの溶媒が揮発してオイルや結晶が析出してくることがあるので、ときどき溶媒で洗ってやればよい。また天秤の受け部分の空気との接触をなるべく防ぐようにすれば、天秤での溶媒蒸発はそれなりに防ぐことができる。
フラコレ任せにして、その場を離れるのが一番いけない。溶出と分離を時々チェックして、適切な処置をしなければならないのは、手取りでもフラコレでも変わらない。

カルボン酸の精製

カルボン酸をカラムで精製すると、テーリングするために回収率が悪くなる。テーリングするのは、カルボン酸の二量化平衡のためだと言われているが、詳細は不明。また、時に自身の酸性でシリカゲルを溶かすためにカラムを通すと純度が低下するという事故が起こったりする。
だからなるべくカルボン酸ではカラム精製しないのがコツである。エステルをケン化したあと酸性樹脂で中和するとか、ベンジル基を接触還元で除去するとか、そういう合成ルートを選択すべきである。

  • カルボン酸の精製では、ゲル濾過が絶大な威力を発揮する。
  • 量にもよるけど数グラム程度なら普通に逆相カラムでの精製がおすすめ

芳香族化合物の分離

芳香族化合物が脂肪属化合物と分離しない場合は、シリカゲルにMgOを混ぜることを試してみよう。芳香環はMgと弱い錯体を形成するので、分離が良くなる可能性がある。
なおカラムから流出しなくなってしまった場合は、トルエンを使って押し出すと良い。

TLC

吸湿して分離の悪くなったTLCの再生。

軽く焼く、それだけ。
特に蛍光剤の分解なども無く分離能が回復する*7
少なくともメルクのは問題なし。
軽く焼いてみると、かなりの水分が湯気となって飛び、元のような状態に戻る。
切り置きしていたTLCが古くなって湿り、捨てていたような方は一度試してみたらいかがでしょう。

  • この方法は、古くなって担体がガラス板から剥がれそうになった逆相TLCにも有効。焼くと復活する。

酸に不安定なもの、アミンをわけたい

酸性で不安定なものを分けるときや、アミンを分けるときにトリエチルアミン1滴とかいうやり方はよく聞くが、
展開中に吸着されちゃって境界線(βフロントって言う)ができて思ったほどにはうまく行かない。

ヘキサンかなんかに1%ぐらいのトリエチルアミンを加えた溶液をサンプル瓶に用意しておき、
使う前のTLCを「どぶっと」漬けて、乾熱で30分くらい乾燥させたものを用意しておくといい。
シリカの酸性が均一に中和されたものができる。
どぶっとつけるときに、一定の速度で一気に浸すことがコツ。

UVでスポットが強く出たのに、焼いてみたらたいしたことなかった。どっちが正しい?

UVの濃さは吸光度で決まる。定量性はない。
発色度合いは発色メカニズムに関与する官能基で決まる。
二つは全然別の話。

 
  • アニスアルデヒド/硫酸の発色は、比較的物質量に比例して焼けると言われている。ただし感度はリンモリブデン酸よりも劣る。
  • UVを365nmで照射して蛍光発色で検出しても、通常の有機化合物では量はほとんどない。参考程度にしておいたほうが良い。
  • プレパラーティブTLCでは白熱電球に透かしてみると、薄い影として量がわかったりする。

最近の若いもんはTLCを軽視してよろしくない、との意見あり。

そんなもの(HPLC-MS)よりTLCはずっと便利だぞ?
当然、呈色試薬で官能基の判別可能
中性・酸添加・塩基添加であげれば、酸塩基物質かはわかる。pHメータの標準液やHPLCのバッファー使えば
pH設定も可能だからある程度pKaもわかる。
ヒートガンで炙れば沸点低いか昇華性あるかわかるだろ。じゃまなピリジン・DMFもすっきりだ。
ヘキサン・トルエン使い分ければπ電子相互作用の情報が得られるし、
アルコール使えば水素結合能も予測可能だ
一操作ごとにスポットしておけば実験のトレースも可能
後処理条件で有機層と水層打つのは基本。2回(or時間差)展開でシリカゲルでの安定性もわかるし
スポットの形でカラムの出方も予想可能。カルボン酸やアミンはアンモニウム塩や酢酸塩の方が
綺麗なカラムになるときも多いぞ?
難溶性・シリカゲルと相互作用するものは濃度変えればRf変わる。そんなもんカラムで析出してはまるぞ?
ろ取の溶媒?そんなもん、サンプル管に溶媒張って上澄み並べてTLC上げればわかるだろ?
ろ液と結晶うって、逃げの割合確認するのは忘れんなよ?
それは至福の一枚だから、ゆっくり上げるがいいさ。

以上がTLC数枚並べて展開するたった数分でわかるんだぞ?
なぜあげない!

 

カルボン酸のアミド化をMSで見てたバカがいたので書き込みました。
そんなもんスポットの形でわかるだろ、と。
あ、UVランプにデジカメ設置は便利ですよ? 

展開槽

かぶせ蓋式の秤量瓶がずば抜けて使いやすい。1個3000円ぐらいと高価なのが難点だが、経済的に余裕のあるラボでは是非オススメしたいアイテム。使う人が多ければ、当然安くなるし・・・

呈色剤

呈色剤の一覧

TLC発色試薬の調製法:http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~kanai/document/img/TLCStains.pdf 
代表的な呈色剤の調製法と対象化合物の一覧。ワンポイントアドバイスもあり。
Dyeing Reagents for Thin-Layer and Paper Chromatography:http://www.cchem.berkeley.edu/rsgrp/TLCStainGeneralReference.pdf
335種類もの呈色剤のリスト。汎用される呈色剤のレシピを素早く調べるのには不向きだが、もしかしたらいい呈色剤が見つかるかも?

ヨウ素

ヨウ素の蒸気に晒してもいいが、ヨウ素とシリカゲルを茶色になる程度の量だけ混ぜて展開槽に入れておくと扱いやすくて便利。
シリカゲルにTLCをディップ?して数秒後に引き上げればいい。

リンモリブデン酸(リンモリ)の緑色が気にくわない。見にくい。

硫酸とリン酸に溶かすと背景は白になる。→改良リンモリブデン酸
調製方法:http://www.scc.kyushu-u.ac.jp/Yuki/link/tlc.html
ただし、この方法ではリンモリでの微妙な色調の変化が失われることに注意。

  • なお、色覚異常の人にはリンモリのスポットは非常に見にくい、ということは覚えておくこと。
    指導者はプライバシーに十二分に注意してケアしてあげる必要がある。

アミノTLC用の発色剤

末端がアミンで修飾されたアミノシリカは高価だが、ここぞというときに役に立ち便利だ。しかし対応するTLCは、代表的な発色剤(リンモリブデン酸、ヨウ素、過マンガン酸etc.)によりTLC表面全体が発色してしまい困る。私の独自調査によると上記の改良リンモリブデン酸が唯一まともに使える発色剤だった。他にも使えるのありますか?

バニリン硫酸

感度はイマイチだが、比較的モノの性質に発色が左右されないという性質がある。言い換えると、物質量に発色の濃さが比例する。

アニスアルデヒド

化合物によってスポットの色が変わり、カラフルに焼けるのが特徴。Rfが近くても色の違いで判別できることもある。官能基の少ない化合物等には役に立たないこともある一方、官能基に富む化合物は非常に濃くくっきり焼ける。経年劣化して着色したもの、特に赤くなったものは焼け具合が新品と比べて大きく変わってしまうので、作り直す。大量に作って冷蔵保存しておき、使う分だけ小さい瓶に入れておくと良い。アニスアルデヒドに漬けたTLCをアセトン蒸気にさらすと真っ赤になってしまうので周辺ではアセトン使用禁止。

過マンガン酸カリウム

オレフィンを持つ化合物に特に有効(加熱しなくてもスポットが見える)だが、ある程度の濃さであれば割と色んなのに使える。リンモリブデン酸で見えない時でも試す価値がある。しかし感度はあまり良くなく、化合物の濃度が薄いとほとんど見えないことも多い。TLCを加熱し過ぎると全面黄色くなって何もわからなくなってしまうので、ほどほどに。

キャピラリーって折る?洗う?

お好きな方をどうぞ
ただし折って使う場合は、必ずアンプルカッター(ハートカッター)で傷をつけてから折ること。これだけでスポッティングの容易さに天と地ほどの差が付く。

プレパラーティブTLC

自作品

自分の出身研究室では100mg程度以下の分離は原則としてp-TLCだった。1枚で最大で数100mg程度も乗せることができる。
市販品より自作品(メルク)の方が圧倒的に使いやすいが、係を決めて作成するのは正直面倒だった。しかも作った人によって、かなりの品質のばらつきがある。
うちの研究室のレシピ:決められた量よりも2割り増しで蒸留水を加え、巨大乳鉢で混和。その後、標準作製法では1時間放置だが、容器に移して超音波を30分かけていた(この熟成を経ないと、ひび割れなどで品質が低下する!)。このスラリーをガラス板の上に適当量流して裏から叩いて均す。これをコルク台の上に置いて表面が乾くまで(約一晩)放置してから、縁をカッターで落として通風型の乾熱乾燥機を使って110度で1時間以上焼く。
メルク品にはギプス(バインダー・焼き石膏)が入っていないので、調製は比較的難しい。和光などで市販されているギプス入りは固めの仕上がりになって調製も簡単だが、分離はイマイチ。
掻き取った後には酢エチに浸して、超音波をかけると簡単に崩れる。

市販品

メルク製を使っていた。
0.5mmx20cmx20cmで最大50mgくらいの分離ができる。
掻き取ってから、乳鉢で粉にしてから溶出すると良い。

チャージ

研究室によって流儀が分かれる。
パスツールピペットを適当な長さにしてから先端を伸ばし、傷をつけないで折る。斜めに折れた先端の、自分好みの角度で少量ずつ線状に塗りつける。研究室によっては先端に脱脂綿を詰めて、サインペンのようにして塗りつけているのも見たことがある。
またサンプル瓶に溶液を作っておき、L字型に曲げたステンレス管(HPLC用)を使って毛細管現象で塗りつけるという例もある。
世の中には自動塗布するアプリケーターなるものも市販されているが、こんなもの買うのは馬鹿馬鹿しいと言わざるをえない。

 

チャージは細くすればいいというものでもない。細くするために極端に濃度を高くしても、溶媒とのなじみが悪くなって展開が不均一になりやすい。狭い範囲で均一にチャージするのがコツ。
また、高極性の溶媒(例えば酢エチ)で短く展開して濃縮するというテクニックもあるのだが、完全に溶媒を飛ばすのが比較的困難で、乾燥の途中でモノが壊れたりする事故が起こらないとも限らない。また溶媒が飛び切らないと、高極性溶媒の影響で分離が悪くなったりする。個人的には勧めない。

展開

展開層の内側には濾紙を立てかけておいて、展開層内部に溶媒の蒸気を飽和させると良い。展開前に展開層を振りまぜると効果的。溶媒蒸気が内部に飽和すると、展開層に手を突っ込んでみたときに少し暖かく感じる。何度か試してみるとこの感覚を会得できる。
この飽和操作はヘキサン/酢エチ系ではそれほどでもないが、クロロホルム/メタノール系ではバンドがまっすぐになる絶大な効果があり、当然分離も向上する。
分離が不十分であるときには二重展開も進められるテクニックであるが、当然時間は倍かかる。溶媒先端が半分ぐらいまで展開されたときに一旦乾燥させて、もう一度展開すれば時間の短縮になる。半分展開したところでUVを確認して、繰り返しても良い。

かきとり

自分は木工用カッターの刃を2コマ分折ったものを愛用していた。
研究室によってはスパチュラの平らな方をヤスリで研いだりしたものを使っている例もある。また彫刻刀の平刃を使っている人もいる。市販で専用の器具もないわけではないので、お金のある人はお好きにどうぞ。

 

ちなみにかきとったシリカを回収するには、不要なカタログのグラビア印刷ページが最適。ツルツルしているので回収残しが発生しにくく、印刷されているので白い粉の残存がわかりやすい。

 

溶出にはG4グラスフィルターが推奨。研究室によっては、ヒダ付き濾紙やエリュート管などいろいろある。研究室の先輩と相談して適当な方法で行う。
ただ何れにしても、濃縮すると微細なシリカゲルの混入は避けることができない。濃縮して、小さいナスに移すときについでにろ過する(パスツールピペットに詰めた綿栓でゆっくりろ過するだけでも効果あり)と良い。このろ過をするかしないかによって、NMRの分解能に差が現れる。

モノにUVがない時は

白熱電球のデスクランプに透かして、黒っぽく抜けるところをマークする。研究室によってこの作法にはいろいろやり方があり、白色照明板にかざしたり、光を反射させて見たりして検出することができる。この時、完全に溶媒を乾燥させないことと、軽く上下にゆすることがコツ。
また同時にUVを当ててみて、なんとなく発生する筋を見ながら溶媒の上がり方のクセを見ると参考になる。

もちろん端を切ったり(市販品の場合)セロテープで剥がしたり(自作品の場合)して、リンモリブデン酸やヨウ素などで発色させてもいいが、この方法ではロスが避けられない。
それ以外に、ニクロム線を張って電気を流して加熱し、そこに押し付けると有機物のある場所は焦げるというやり方を耳にしたことがある。また水をスプレーして有機物がはじくのを見るといいともいう。しかし、実際にやっているのは見たことがない。


*1 参考スレッド:カラムの立て方 - Fr2 http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bake/1297450212/
*2 結局のところ当然だがモノにも大きく左右される
*3 0.6と0.1みたいな
*4 ただし分離能力は通常のシリカより弱いので注意。
*5 逆相HPLCに多量のDMSOやDMF液をインジェクションするとカラムが劣化することがあるから要注意
*6 なのでこれはシリカゲルそのものの溶解ではなく、含まれている無機塩が溶出されているという説もある
*7 めちゃくちゃ焼いたらどうなるかは保証できない。