有機合成化学実験-反応の後処理
ハロゲン・過酸化物などの強酸化剤の処理
亜硫酸水素ナトリウム水溶液で分配。二価の硫黄が厄介なチオ硫酸ナトリウムより推奨。
なお、pHをアルカリ側に傾けないと亜硫酸ガスが発生して分液を吹くことがあるので要注意。ハロゲンが過剰に残っている場合は、ビーカーなどで処理するとよい。
また過酸化物を使った場合は濃縮前に必ず、湿ったヨウ化カリウムでんぷん紙で試薬が残存していないことを確認すること!特にエーテル溶媒では必ず過酸化物のテストをする。
- 亜硫酸イオンはアルデヒド(ケトン、ただし普通のケトンでは反応性はものすごく低い)に付加体を作ることがある。付加体は水溶性なので注意が必要。モノによってチオ硫酸と使い分けるべきだ。
DDQ
過剰の酸化剤を潰すのに、亜硫酸塩やチオ硫酸塩は効きにくい。アスコルビン酸(ビタミンC)で潰すといい。分液しても当然水層には落ちないので、試薬が残った状態で濃縮すると、いきなりモノがバラバラに壊れたりする。
ピリジンの除去
塩酸(塩化水素)の除去
濃縮で除去しようと思っても、意外に抜けない(ニオイが残る)。とっておきの極秘テクニックだが、最後に少量のジオキサンで共沸するとスカッと抜けるぞ。
水素化アルミニウムリチウム(LAH)の処理
Wikipedia に解説あり→ 水素化アルミニウムリチウム-反応後の処理
- なお、LAHでもDIBALでも酢エチで試薬を分解するのは勧められない。せっかく作った水酸基が、アセチル化がされること多し。
ベンズアルデヒドの除去
反応終了後に過剰量入れていたベンズアルデヒドを簡単に除去する方法はないものか? カラムするのは面倒くさい
- 基質が影響を受けないなら亜硫酸水素ナトリウムを加えて、分液で除去するという方法がある。*1*2
- 酸化して安息香酸にしてから分液で除くという手があるが、某大学で爆発例あり。
- トルエンぶっ込んで何度もエバポが楽。作ったものまで飛ぶなら無理だが。
- 大量合成の場合、モノを酢エチの濃厚溶液にしてヘキサンを二層になるまで加える。ベンズアルデヒドはヘキサン層に来る。
トリフェニルホスフィンオキシド(TPPO)の除去
Wittig反応、光延反応、Appel反応などで副生するトリフェニルホスフィンオキシドの除去
- 目的物がヘキサンに溶ける場合
ヘキサン-エーテル(4:1 v/v とか)からのろ過 *3
反応混合物を濃縮したものにヘキサンまたはヘキサン/エーテルを加える。トリフェニルホスフィンオキシドの結晶が落ちてくるか、スラリー状か油状にべちゃっとしたのが出てくる。
結晶が出たらろ過をして、スラリーになっても頑張ってヘキサンで抽出をする。
なお、回収した結晶は必ずTLCをチェックしてモノが洗いきれているか確認すること。
どうしても微量の目的物が混入するが、共結晶を作っていたら大量に含まれているのですぐわかる。
また、場合によってはろ液を濃縮したものに再度ヘキサンを加えてトリフェニルホスフィンオキシドを結晶として落とすとさらにカラムがラクになる。 - ドライショートカラム
- ヘキサン/メタノールで分液する
- トリフェニルホスフィンオキシドは稀に共結晶をつくることがある*4。トリフェニルホスフィンオキシドがろ過できたら、最終的に目的物を同定するまで保存しておく*5。
トリフェニルホスフィンオキシドの有機溶媒に対する溶解度 - 塩化亜鉛と錯体を作って沈殿させ除去する方法の報告がある。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.joc.7b00459
スズ化合物の除去
Stilleカップリングなどで副生するスズ化合物の除去方法
- フッ化カリウムの水溶液で数時間から一晩攪拌する
- シリカゲルに対し10%のフッ化カリウムを混ぜてカラムする*6
- シリカゲルに対し10%の無水炭酸カリウムを混ぜてカラムする*7*8
- 世の中には固定化されたスズ化合物というのもある。反応性は落ちることが予想されるが、反応後に濾過すればすむ。
小スケールでたくさん反応かけたときのクエンチでいい方法は?
乾燥カラムの小スケール版みたいなものだけど試験管中でピペット分液した場合なんかは
普通のろうとに綿栓して乾燥剤をしいてろ過すると大体水分が除ける。
小スケールで大量に反応かける場合のクエンチに便利。
フリーデル・クラフツアシル化でAlCl3のクエンチにアセトンを突っ込んでる。なんで?
complexを作る*9。触媒が等量必要なのは教科書にも書いてある。
濃縮中にモノがフラスコの中でガチガチに結晶しちゃってどうしたらいいのか・・・
フラスコの中に長めのスパチュラを入れて、突沸に注意しながらエバポにかける。析出した結晶が砕かれて処理が楽になる。
溶媒が共沸で除去できるかどうか、わかりません
Azeotropic Data (ACS Publication)を見よ。下記サイトで全文公開されている。ACSの会員や購読者である必要なし。
http://pubs.acs.org/isbn/9780841224445
DCC使った反応の後処理
通常、ウレアをろ過して除去するのだが、分液振ってもカラムにかけてもいつまでもいつまでもウレアの析出に悩まされることがある。
これはウレアが除去できていないのではなく、未反応のDCCが混じっていてすこしずつ分解しているのが原因だ。DCCはTLCではリンモリでも発色しない。溶媒先端に溶出されるのだが、シリカ上でだらだら分解してすべてのフラクションを汚染する。
これを防ぐには反応の後処理で、効果的にDCCを分解する必要がある。これにはシュウ酸のメタノール溶液を加えるとよい。シュウ酸はDCCで分解されて炭酸ガスと一酸化炭素になる*10。もちろん過剰のシュウ酸は、アルカリと分液すればよい。濃縮したら、オイルの状態で酢エチの濃厚溶液にしてろ過すると、割とさっぱり抜ける。
ただ、DCCにはアレルギーを起こす人がいるので、なるべく使わないほうがよい。揮発性があるので、本人だけではなく周囲の人にも被害が及ぶことがある。この感受性は人によって大幅に異なり、呼吸とともに吸い込んだ場合は重篤な症状になることもあり得る。
Moffatt酸化など、代替手段がある場合には禁止されてもいいぐらい。
アミンの取り扱い
Bocなどのカーバメート系保護基を脱保護した場合、反応がカルバミン酸-NH-COO(-)で止まることがある。これはTLC上ではシリカの酸性で分解されるので、全く検出できない。特にインドールなどの塩基性の弱いアミンをBocで保護し、TFAで脱保護した時に起こりやすい。この場合、塩基性で抽出処理するとカルバミン酸の酸性のために水層に落ちる。
また普通のアミンも重曹で分液を振っただけでカルバミン酸が形成することがあり、これまた水層にモノが落ちる。
こうした事故を防ぐためには、一旦酸性にして完全にカルバミン酸を分解し濃縮して塩酸塩で捕捉するとか、重曹(用事調製が必須)洗いを短時間で済ませるといった対策しかない。
さらに運が悪いと、モノによっては酢酸エチル溶液にしただけでアセチル化されることがあり、この場合は溶媒にも注意しなければならない。自分の経験の範囲ではグルコサミン誘導体は30分ぐらい酢エチ溶液にしただけでN-アセチル化された。
またアミンを重アセトンでNMRをとったら、Schiff baseを形成しその先の反応が進行しないという悲喜劇もある。
後処理ではないが、Zを外すのにメタノール中で接触還元していたら、メタノールが空気酸化したホルムアルデヒドとSchiff baseを形成したのちに還元されN-メチル体が得られることもある。
- これを防ぐためにはメタノールを活性亜鉛と還流してから蒸留するか、フリーアミンを塩酸塩で捕捉すると良い。
思ったよりアミンの反応性は強い、ということを忘れてはいけない。