お屋敷とシザーマン

Last-modified: 2014-03-31 (月) 00:24:42

オープニング

お屋敷とシザーマン

 夜。見知らぬお屋敷の中。
 …いや、もう既に地理を把握しきったお屋敷の中。
 今夜も追いかけっこをしている。
 終わらない追いかけっこをしている。
 追いつかれることがわかりきった追いかけっこをしている。
 シザーマンはゆっくりと、確実に彼女のもとに迫り来る。
 仮面を被った無言の殺人鬼。無慈悲で不死身の異形の殺人鬼。
 わざわざ自らの居場所を誇示するために大バサミを打ち鳴らして。
 逃げて、隠れて、逃げて、隠れて、見つかって、追いつかれて、惨たらしく殺される。
 絶命した瞬間に彼女は目が覚める。
 そしてまた闇からハサミを打ち鳴らす音が聞こえてくるのだ。
 彼女とシザーマンはこれを永遠に繰り返す。
 彼女は狂うことすら許されない。
 恐怖と絶望を闇の住人に献上しつつ、ただ消滅を願うだけ。
 明けぬ夜は無いというが、このソウルボードに朝などない。

ナイトメア・ガーデン

「シザーマン。夢を喰らうホラーの類型の一つです。当然のように人を蝕み、苦しめ、殺す。血の赤色を撒き散らす、黒色の恐怖」
 細やかな手入れの行き届いた庭園で。
 夢魔フィリオリは夢渡りたちと紅茶とマフィンを嗜みながら悪夢を語る。
「悪夢の内容は殺人鬼に追い詰められ殺される夢のループです。ホストが殺害されるたびに夢はリセットされ、また追跡劇が始まります。ホラーは飽きること無く何度でもその夢を繰り返しています」
 
 舞台となるソウルボードは広い洋館。ホストはエリザというフリュー人の女子大学生。美人だが、これまでの度重なる暴行と殺害により精神は非常に不安定になっており、動くものすべてから逃げ回り隠れている。部屋も多く隠れる場所も多いため、エリザを見つけ出し、保護するのはうまくしなければかなりの時間が経過してしまう。
 なお、ホラーの力により洋館内からは庭に出ることもできない。
 
 逆にホラーと接触することは難しくない。ハサミを打ち鳴らして存在を誇示しているし、侵入者に気がつけば排除しようとするだろう。
 巨大な人斬りハサミを持ったこのホラーは夢渡り二人分のライフを持つ。戦闘になればファイターと魔鎌のアーツを使用し、1ターンに2回行動する。だが問題なのはホスト・エリザからの絶望の供給。これを止めなければホラーは1ターンに2点のライフを回復してしまう。
 
「お屋敷はエリザさんのささやかなお嬢さん願望が生み出したもの。どうか彼女を助けてあげて。そして何よりも無事に帰ってきてください。約束ですよ」

参考資料

http://www.hagex.com/pic/2009/0818001.JPG
https://www.evernote.com/shard/s8/sh/4b3af291-7d65-4933-a726-06c484e1b1b9/c1b6b842281d6bf07a6b8bcad7e17d6a

参加キャラクター

プレイング締め切り【2014年3月29日24時】

  • 400文字以内にで行動内容を記載して【veirostanあっとまーくgmail.com】にメールしてください。
  • 締め切りまで何度でも送り直しが可能です。

プレイング

フライスペック

●絶望供給停止
ハーベスト:情報収集(ホスト位置・シザーマン位置・通路)
影纏い:ホストへの接近・確保・拘束。
ホスト対応:説得する。無理なら気絶させる。

●戦闘
三対一で戦える場合のみ戦闘参加。
前衛:HPとシールドが全PC中最高 Yes
後衛:同上 No

●攻撃優先順
1撤退 HP5以下
2魔蟲2 65% 最大HP未満 自シールド1以下
3魔蟲1 75% 敵シールド・プレロマ無
4ローグ2 30% 同上 無
5ローグ1 75% 同上 有
6魔爪2 30% 同上 有

ファイアスロアー

まず、フライスペックがハーベストでホストの位置を確認するまで彼の側で待機。
ホストを見つけ次第移動を開始。
PCもしくはホストに対するシザーマンの接近が早かった場合、クリエイトファイアで通路を燃やし接近を妨害。
と同時に部屋を移動する度にソロモンの鍵を用いて施錠しシザーマンの接近を妨害。

ホストが鍵を掛けていた場合はソロモンの鍵で突破。無理なら強行突破。

突破後ホストを説得。説得が無理だった場合ホストを手刀で気絶させる。
説得時の台詞「あのホラーは俺らが必ず屠ってやる。だから安心しろ」

絶望供給停止後は、シザーマンとバトル。

戦闘方法
敵のプロレマかシールドが1以上あった場合:ナイト2を使用。
敵のプロレマとシ ールドが0の場合:悪鬼1を使用。
自分のHPが最大HP未満and自分のシールド1以下の場合、若しくは自分のHP及び他PCのHPが10未満の場合:ナイト1を使用。
自分のHPが5以下の場合:撤退。

レミ

探索時は他の二人について行く形で移動。

ホストの説得が難しそうならペインキルソングを使用。

戦闘時には最前衛で攻撃を受けます。

主に【魔鎌2】『めいどの刃:幻想風味』

ライフ15以下から

【人狼2】 『欲望のための欲望』を

味方のライフ15以下から

【プリンセス1】『ボイスタイプ:ヒーリング』を積極的に使用

ライフ15以上で【魔鎌2】『めいどの刃:幻想風味』を四回使用しているなら4回毎に

【人狼1】『暴力装置』を使用。

リプレイ

探索

 夢渡り達が気がつくと、そこは薄暗いお屋敷のエントランス。
 か細い燭台の照明、そして不気味な闇はホストの恐怖を体現しているかのよう。
「フライスペック、レミ。…ついてこれたようだな」
 ファイアスロアーは夢渡り直後特有の軽い目眩に頭を振り、周囲の状況を確認しつつ仲間の存在を確認する。
 ミラーシェイドにブラックコートの怪しい男と、メイド服を着た美少女(だが男)は無事ファイアスロアーの側に。
 お屋敷は予想以上に広い。ホラーよりも先にホストを見つけだすことが果たして出来るのだろうか……?
「オレが探す。お前らは周囲の警戒を」
 フライスペックの手のひらに巨大なハエの幻が現出する。妬みと憎悪の使者たる魔蟲(インセクト)。恵まれしもの、あるいは富めるものの宿敵。フライスペックの一瞥に応えたのか、それは無数のハエに分裂し、羽音を立てて屋敷内に散ってゆく。
 ファイアスロアーは魔銃に手を当て、レミは手持ちぶたさにあたりを見渡す。
 十数分が経過した。
 幾度かフライスペックのもとにハエの群れが戻ってくるが、フライスペックは頷いただけでまたハエは何処かに消えてゆく。
 数十分が経過した。
「まだ見つからないの?」
 レミが豪奢な絨毯の上に座り込んでつまらなそうに抗議の音を上げる。
「…焦るな。歩いて探すよりハエに任せた方が確実だ」
 壁にもたれながら、フライスペックがレミに応える。また闇の彼方からハエの一群が戻ってくる。
「…Bingo」
「お?」
「見つかったぞ。それも両方」
「やったね」
「気を付けろ。ホラーはオレたちの真上だ!」

逃亡

 フライスペックがそう叫ぶのと同時に、天井が破壊され怪人が夢渡り達の前に現れる。
 瓦礫の落ちる音とシャンデリアが割れる音がエントランスに響いた。
「あれが、ホラー…?」
 レミが呻く。
 シザーマン。覆面の怪人。大鋏の殺人鬼。
 そう、あれこそが死だ。死の集合体。刺死。理由も無く人を解体し殺す、死の現象。
 せり上がる恐怖。その姿だけで、その存在だけでホラーは人の精神を破壊し、絶望と恐怖をもたらす。
 振り上げられた、死の大鋏。矛先を向けられるのはレミ。恐怖に打ち勝つために、レミもまたねじくれ湾曲した剣を構え、フライスペックもリベットナックルを構えて。
 迎撃するか、それとも退くか──?
 闘ったとして勝てるのか? 退くとして退けるのか?
 強敵に相対したとき、それは一瞬で判断しなければならない。でなければどちらもできないだろう。
 だがこのとき、それを一瞬で判断した夢渡りがいた。
「退くぞ!」
 ファイアスロアーはそう叫ぶと、二つ名の通りに赤く輝く無数の火種をエントランスにばらまく。それらは急速に床や絨毯、調度、果ては天井に広がって、即席の紅蓮地獄を現出させた。
「走れ、振り返るな!」
 率先して逃走する。
「ヤツ止まってるよ? 炎越しに撃てない?」
「行くぞ。ホストの確保が先だ」
 レミとフライスペックもそれに続く。ホラーが炎を越えた時、夢渡り達は闇の中に姿を消していた。

邂逅

(カチリ)
 ファイアスロアーが手を翳すだけで、鳥を連想させる悪鬼(フィーンド)の幻が現出し、部屋の施錠は解錠される。
 ハエが指し示したその部屋は何の変哲もない、しかし瀟洒で豪奢な寝室。
「こんばんは。あれ、いない。ベッドの下かな?」
「クローゼットの中だ」
 フライスペックの言に、夢渡りたちの視線がクローゼットに集中する。
「エリザ…だったかな。君を助けに来た」
 ファイアスロアーが呼びかけるが、クローゼットからは物音一つ聞こえない。
「ボクたちは味方だよ」
 沈黙。
 もしかして、誰もいないクローゼットに話しかけているのではなかろうかと錯覚するほど。
(歌っちゃおうか? 気絶させるよりはいいよね?)
 レミが二人に目配せする。気絶させて絶望供給が止まる確証はないし。
 …と、クローゼットの扉がゆっくりと開き、倒れ込むように若い女性が現れる。
 エリザ。屋敷の主。ソウルボードのホスト。被害者。犠牲者。哀れなるホラーの餌。…なんの変哲もない女学生。
 恐怖に震え、虚ろな瞳を見開いて、幾十幾百の死を幻視しつつ、それでもいつもと違うパターンに、万の一つの奇跡に縋って、生命を賭してエリザは姿を現した。
「…助けてくれるの?」
 か細い声。彼女が悲鳴以外に声を出したのはいつぶりだろう。
「あのホラーは俺らが必ず屠ってやる。だから安心しろ」
 回転式拳銃を弄りつつファイアスロアーが解決策を示す。ホストの表情に笑みが浮かぶ。
「大丈夫? 立てる?」
 レミがホストを助け起こす。「ええ」とエリザが応え、よろよろと立ち上がる。
 …遠くから大鋏が打ち鳴らされる音が聞こえてくる。
「大丈夫。お前の悪夢はもう終わりだ」

戦闘

 寝室の扉にはソロモンの鍵による施錠がされていたから、シザーマンは合鍵を持ってしてもこれを開くことができなかった。
 代わりに扉から大きな鋏の刃が突きだし、その刃が出し入れされることにより、軋みを上げて扉は突破された。
 夢渡りたちは突破されることを予期していたから、間髪入れずにおのおのの業(アーツ)を撃ち出す。
 夢渡りの呼び声に応じ、魔蟲と悪鬼が現出しホラーを牽制する。その合間を縫ってレミが魔鎌を召喚し、そのままホラーを切り裂いた。
 今やホストは夢渡りの手の内。彼女の希望は夢渡りたちに力を与え、レミの呪いの刃は確かにシザーマンを捕らえた。
 だが次の瞬間、レミはそのクラシックスタイルのメイド服を自らの血で赤く染めた。腹に深々と刺さる刃。
「レミ!」
「……、痛いのは、慣れてる……」
 ファイアスロアーの魔弾がシザーマンの刃を鈍らせ、フライスペックの放つハエの群れがホラーの皮膚に蛆虫を産み付ける。だがシザーマンは動じない。覆面の上からは何の感情も感じることが出来ず、異様な腕力によって大鋏を横殴りに振り回し、レミを壁に叩き付けた。
「あはは…」
 腹と口から血を流しながら、メイド服の美少年はゆらゆらと立ち上がり、恍惚と殺人鬼に語りかける。
「もっと…もっとボクを愛してよ」
 痛覚がなにか別の感覚に置き換えられているのか。被虐という毒がレミの欲望に火を付ける。欲望のための欲望が更なる暴行に耐えるべく自らの傷を癒やしていく。
 そんな狂える少年に突き降ろされるとどめの一撃。
 怪力のホラーはレミの身長にも迫る大鋏を持ち上げて、振り下ろす。
 一撃。意識が飛ぶような衝撃、あるいは快感がレミを襲う。骨の幾つかが軋み、ひび割れ、折れた。
 二撃。それは頭蓋骨に向けて振り下ろされる──。
 しかし生きている。レミはまだ死んでいない。
 そのままでは死んでいただろう。しかし代わりに血を流し、ひしゃげているのはフライスペックの右腕。
「有罪確定」
 動かぬ右手の指を見て、フライスペックがそう呟く。
 その瞬間、殺人鬼の皮膚に植え付けられていたハエの卵が爆ぜた。

覚醒

 ホラーはその報いを受けた。
 背徳のメイドの妙なる歌声の下で、その皮膚という皮膚に卵を産み付けられて、腐り化膿して。
 ファイアスロアーの銃撃により加護を破壊されて。
 シザーマンを形作っていた悪夢の力は打ち崩されて、黒い霧となって霧散してゆく。

「…やっつけた?」
「ああ。現実世界にお帰り」
 ファイアスロアーがエリザの肩を叩く。
「…有難う」
 ホストは微笑んで、目を閉じる。エリザと世界が、ソウルボードが揺らめき消えてゆく。
 ホラーの残した黒い霧をおのおのの紋章に回収して、夢渡りたちはソウルアクセスにより退去した。