蛆虫とともに生きる

Last-modified: 2014-04-07 (月) 22:08:36

オープニング

蛆虫とともに生きる

 気がついた時には取り返しの付かないことになっていた。
 一度だけなら問題ないと思っていた。
 ごく平凡なサラリーマンの彼は、秘密と悩みを抱えて生きている。
 いつもの職場。今日は遅刻した。上司の小言で迎えられる。
 体調不良を言い訳にする。間違いではない。
 自分の席に向かおう。仕事で気を紛らわそう。彼にとって日常は仕事だけだ。
 だが……。
(ギュゴォォォ…)
 彼の腹から異音が聞こえてくる。空腹の音、下痢の音、ゲップ。いずれにも似た、そしていずれでもない、生理的嫌悪感を催す異音。
 音とともに彼の顔は青ざめる。薬が切れたのだ。彼の日常は失われた。
 彼は仕事を放りだして、トイレに駆け込む。
 トイレの扉を閉めもせずに、彼は盛大に嘔吐する。
 彼の口からでてくるものは、朝食でも胃液でもなく、大量の生きた蛆虫。
 非現実的なまでに有害なそれを、彼は一日に何度も何度も嘔吐する。
 彼以外には蛆虫は見えない。家族も医者も、誰も彼を理解しない。
 嘔吐した蛆虫たちは彼のソウルボードを這い回る。
 街にあふれかえる蛆虫たち。彼の絶望を糧として、ホラーは無限に繁殖する。

ナイトメア・ガーデン

「ホラーはホストを苦しめるためなら何でもします。何でもです」
 あまりの趣味の悪さに夢魔フィリオリも口調が硬い。
 夢魔と夢渡りたちは庭園にて茶会用の円卓を囲んでいるが、夢魔の配慮によるものか、飲食物は提供されていない。
 ホストの名前はアレクセイ。マテリアルでもソウルボードでも、一見、何の変哲もない平凡なサラリーマン。彼と接触することは難しくない。職場のビルで仕事している。用件をでっちあげれば呼び出せるだろうし、トイレなどで張り込みをしても良い。
「幸か不幸か、私達は蛆虫を見ることができます。ですが彼の症状を止める術は、ホラーを滅ぼす以外にありません」
 ホラーは姿を現していない。どこにいるのかもわかってはいない。見つけることができなければ、アレクセイはじきに発狂し、内臓を蛆虫に食い破られて「リセット」される。
 フィリオリが未来予知(フューチャーサイト)の業により垣間見たホラーの姿は黒い大きな化け物の影。そして「無数の蛆虫の群れ」というしもべを連れている。
 ホラーは死霊の紋章を有しており、しもべは蠢きながら指輪のヒールアーツのみを使用する。ホラーを滅ぼすことでしもべも消滅する。
 
「気色の悪いお話でごめんなさい。どうか、お願いします」
 フィリオリは目を伏せて、顔を隠すように頭を下げた。

参考資料

アレクセイ(グロ注意):https://www.evernote.com/shard/s8/sh/5374ccb4-d078-42d6-a5b5-42ab47c0bac6/aa6857f51bd9feb4c941c4af148c3845

ホラー:http://bogleech.com/mtg/horror-nihilith.jpg

参加キャラクター

プレイング締め切り【2014年4月6日23時59分】

プレイング

ヨハンナ

事前にホストの身辺を調査(ネズミに変身して)
異常があればファイアに知らせる。
その後フライスペックにハエを監視に付けてもらいながら町にいる蛆虫をちまちま殺していく(その時逃げないようにフライに魔剣を預けさせられる)
フライたちに何かあったらハエに教えてもらい鳶に変化して駆けつける。
もし調査中にホラーにあったらネズミになってフライたちのもとへ退避
その後は彼らの判断に任せる
いざとなったらカラストリアの翼でホストを抱えて距離をとる

戦闘
一人の時は逃亡
仲間がいるときは仲間の判断に任せる。
戦闘方法
最後尾で待機
基本『吸血』
HP半分以下
ヤンデレ化して【魔剣1】
レミが死にそうな場合鳥に変身してレミを担いで逃亡
仲間のライフが減ると積極的に【メイジ2】

ファイアスロアー

ヨハンナと一緒にホストの人間関係を調べる。(怪しまれない程度に)
それがある程度終わり次第、上司・家族ら・医者など関係者を手刀で一人ずつ除外。
で、手刀で気絶しなかった関係者がホラーと断定。フライスペックやレミに携帯で連絡し、合流を打診しつつ戦闘へ。

手刀で全ての関係者が気絶したのであればフライスペックやレミに合流した後戦闘へ。

戦闘方法は下記に記述(上から優先度高-低)
敵のプロレマかシールドが1以上あった場合:ナイト2を使用。
敵のプロレマとシ ールドが0の場合:悪鬼1を使用。
自分のHPが最大HP未満and自分のシールド1以下の場合、若しくは自分のHP及び他PCのHPが10未満の場合:ナイト1を使用。
自分のHPが5以下の場合:撤退。

レミ

フライスペックの体内論を信じて行動。

ペインキルソングで精神的苦悩を和らげつつホラーの事を聞いてみる。
ホストを見つけてからは基本的にそばにいる。

戦闘時には【魔鎌2】『めいどの刃:幻想風味』でホラー本体に4回攻撃してから
あとは【プリンセス2】の『ボイスタイプ:タイラント』のみ仕様
ただし、味方のライフ10以下からは【プリンセス1】『ボイスタイプ:ヒーリング』を使用。
敵が残り少なく(4体以下)になったら本体に【人狼1】の『暴力装置』で集中攻撃。

戦闘時のポジションは前衛。
撤退条件は無し。

フライスペック

ホラーはホストの体内にいる。
しかも胃。腸なら便から排出してる。
ホストは薬を飲むことで一時的に
ホラーの活動を抑えられる。

ホラーに気づかれないよう
ホストを観察。←影纏い

薬が効いている間にホスト説得。
薬がなければ探す。←ハーベスト
蛆虫が見えると言って説得。
「オレも蛆虫を患ってる」とか。←魔蟲2
失敗したら気絶。←手刀

ホラーの位置を正しく確認。←ハーベスト
脱衣すれば一目で判るほど肥大している可能性。

ホラー摘出。
手段は胃洗浄か腹部切開。
ホラーが気づく前に排除。
医療キット探す。←ハーベスト
切る前には気絶。←手刀
切った後は止血。
失血死までに戦闘決着。

攻撃はホラー本体に集中。

戦闘優先順
0 敵によるホストへの攻撃を庇う
1 しもべ蛆虫にホラー本体への攻撃を庇わせない
2 撤退 自分のHP5以下
3 魔蟲2 60% HP<最大 HP 自シールド1以下
4 魔銃2 90% 敵2体以上
5 魔蟲1 70%
6 ローグ1 30%

リプレイ

灰色の街

 ホラーに取り憑かれ、蛆虫吐きと化したアレクセイのソウルボードの中は、彼が現実世界で住まうエルステルダムの街並みの再現。
 灰色の曇り空の、灰色の人間達が無関心に行き交う、ごみごみとした灰色の世界。
「ファイアさん、どうかしましたか?」
 ヨハンナが隣を歩くファイアスロアーに問う。彼は少し思案して答えた。
「…いや、もう少し色彩のある世界じゃなかったか。俺たちの世界は」
「ソウルボードはホストの性質による…そうですから。こんなに煤けて見えるとなるとよっぽどストレスが溜まっているのかもしれませんね」
「俺たちと同じかな」
「…そうかもしれませんね」
 ヨハンナが突然歩みを止める。どうした?と声を掛けようとしたファイアスロアーも、違和感を感じて歩みを止めた。
 何かを踏んだようだ。気色の悪い物を。
 気がつけば、視線をどこに向けても、視界には蛆虫が這っている。
「ホストの吐いた蛆虫が野生化したのかな」
「あ、あの、潜入調査ちょっとやめにしませんか?」
 ヨハンナがホストの家や部屋を想像して背筋を凍らせた。

灰色の職場

 ビルの中。顔色一つ変えずにフライスペックが廊下を這い回る蛆虫を潰す。
 影纏いの業により姿を隠しながら、働くアレクセイを監視する。
 うだつの上がらないサラリーマンだ。営業のため、電話帳をめくりながら飛び込みの電話をかける。無言で切られる、あるいは罵声を浴びせられて通話が終わり、また別の電話をかける。これを一日中繰り返す仕事。ノルマを達成できなければ上司からも罵声が飛ぶ。

「お疲れ様です。ご主人様♪」
 休憩室で憔悴しきったホストを出迎えたのは、ふりふりのメイド服で着飾ったレミ。
 呆然とするアレクセイに寄り添い、耳に甘い息を吹き付けて、手を引いてソファに誘う。
「何を悩んでいるの?」
「…!?」
「吐き出してみてよ。ご主人様の秘密、悩み、白いの。僕が忘れさせてあげるよ?」
 上目遣い。あざとい仕草。誘惑するように囁くレミ。甘き囁きはペインキルソングという業となって、ホストの精神に干渉する。
「ああ…、幻覚が見えるんだ。…俺にしか見えない蟲が」
「幻覚じゃないさ。オレたちにも見える」
 フライスペックが姿を現し、レミと目配せ。
「お前の知っていることを教えてくれ。この蛆虫はなんだ。薬で抑えているのだろう? 薬はどこにある…。オレも蛆虫を患ってる」
「……。」
 薬。その単語が飛び出すと、アレクセイはビクンと身体を震わせて、夢渡りたちへの警戒を露わにする。
「お、俺は何も知らない。薬なんて」
「どうしたの? 心配いらないよ?」
 レミが声色を変えて囁くが、惜しむらくは歌姫の業に魅了効果は存在しない。
「し、仕事に戻らせて貰う」
 立ち上がって立ち去ろうとしたホストを、フライスペックの手刀が一閃した。
「あーあ、乱暴なんだから」
「人目の付かないところに移動させる。お前も手伝え」

灰色の家

 ヨハンナとファイアスロアーが辿り着いたのは、薄汚れた低所得者向けのアパルトメント。エレベーターは止まっていて、階段で4階まで昇らなければならなかった。蛆虫を潰しながらアレクセイの部屋に向かう。ファイアスロアーがインターフォンを鳴らし、宅配業者と偽ってホストの妻を呼び出して、手刀一閃。
「…ん。奥さんはシロか」
 倒れ込む妻を支えつつ、素早く部屋の中に。息子らしき幼い少年が驚いている。手刀一閃。
「この子もシロ」
「酷い判別法…」
 ホラーは手刀では気絶すまい、ならばモブに化けているホラーを炙り出すには関係者全員に手刀を放って判別すればよかろうという発想だった。
 そして始まる家捜し。床も壁も天井も蛆虫が蠢き、足の踏み場もないほど。ファイアスロアーはホストの私物や仕事の書類を。ヨハンナはネズミに変身し、アレクセイの部屋をそれぞれに。
「…何かあった?」
「…何かなこれ」
 ヨハンナがベッドの下からなにやら怪しげな箱を取り出した。
 厳重に施錠されたそれは、ファイアスロアーが手を翳すと大きな鳥の姿が瞬き一つの間だけ現れて、解錠される。
「なるほど、これが薬か」
 箱の中にはパッケージに入った白い粉と注射器。わかりやすい。

灰色の倉庫

 アレクセイが目覚めると、そこは薄暗い倉庫の中。
 周囲を探ろうとして手足を拘束されていることに気がつく。
 そして見知らぬ四人が動けぬ自分を見下ろしているという状況。
「有罪確定。もう何も隠す必要は無いぞ」
 フライスペックが白い粉と注射器をアレクセイに突きつけて、ファイアスロアーが彼の自宅から見つけたと補足する。「私が見つけたんですよ」とヨハンナがさらに補足した。「凄い凄い」とレミが感想を述べた。
「ストレス解消によくわからん麻薬に手を出して蛆虫を飼うことになったんだな?」
「……ああ。」
「なんだ、ただの屑か」
「マテリアルでもやってるんだろうな」
 ホストをボロクソにけなして。
「薬の売人に会わせてよ。警察にもいわないであげるよ?」
「…会ってどうする気だ?」
「手刀を喰らわせる」

死の色のホラー

 手刀を喰らわせるまでもなかった。
 ホストに案内されたチンピラたちのたまり場。路地裏の奥、通りから隔絶されたその空間にいたのは異形だった。
「な…ば、化物!?」
 アレクセイが腰を抜かす。
 夢渡りたちは動かない。アレクセイに目もくれない。視線は異形に釘付けとなったまま。
 酷く歪んだ巨人のシルエット。影に覆われた全身。異様に大きな腕と爪。
 …化物。…正真正銘の。これは人間ではない。
 夢渡りたちは理解する。これはホラー。動けないのは恐ろしいからだ。
 見る者に恐怖をもたらす。ホラーは根源的なそれを備えている。視線さえも逸らすことができない。
 破壊、死、恐怖、叫び。そして絶望。それらがホラーの存在意義。ホラーはそれらによって構成されている。ホラーは矮小な人間たちを残らず畏怖させ、虐げ、嗤い、喰らう。
「うげぇぇ、ごぼォォォ」
 アレクセイがのたうち回り、嘔吐して、大量の蛆虫を路地裏に放つ。
 明らかに彼の体積を上回るほどの蛆虫の嘔吐が、夢渡りたちを覚醒させた。
「ヨハンナ、ホストを頼む!」
 最初に硬直から立ち直り、叫びつつホラーの前に立ち塞がったのはファイアスロアー。彼が右手を伸ばすとともに、背後に鳥の姿を模した悪鬼が現出し、四方八方に電撃波と衝撃波を撒き散らす。
 もはや恐怖は無い。それぞれの紋章の魔物たちの加護が、恐慌をもたらす気配を打ち消して。それぞれの称号が己の為すべき事を本能に告げる。
 ヨハンナは背から蝙蝠の翼を生やし、アレクセイを抱えて飛び去る。
 フライスペックはファイアスロアーの影と、彼の悪鬼の放つ牽制の火炎波と氷結波の合間からホラーに迫り、銃撃を伴うゼロ距離格闘術を繰り出す。
 レミもまた、ウィンク一つして歪な剣を召喚し、めいどの刃としてホラーの影の一部を引き裂いた。
「来るぞ、耐えろ」

 巨大なホラーの身体が震え、周囲に蒼く輝く無数の種子が浮き、現象が発生する。
 周囲の気温が急速に低下した。零下何十度もの冷気。空気中の水分が凝固して無数のきらめく刃となり、ホラーの念動力により夢使い達に襲いかかる。
 先のフライスペックの警告も虚しく、夢渡りたちはズタズタに引き裂かれてゆく。
「レミ、…生きているか」
「冷たくて気持ちいいくらいだね」
 ボロボロに引き裂かれたメイド服の美少年が、呪われためいどの刃を振りかざす。
 ホラーの身体がまた震え、冷たく輝く氷刃の群が夢渡りをまた襲う。
 だが、彼らは立っていた。それぞれが身を躱したか、紋章の魔物に保護されて。
「オレたちの呪詛で動きが鈍っているのさ」
 フライスペックがホラーのシルエットの眉間に当たる部分、心臓に当たる部分、喉に当たる部分に正確な射撃を決めて。
「…だがタフだな」
「あの蛆虫たちよ」
 頭上からのヨハンナの声。
「蛆虫がホラーを祝福しているみたい」
「やはりそうか。蛆虫から蹴散らすべきかな」
「いや、ホラー本体を集中攻撃だ」
「了解。…旦那、やっちゃって!」
 ヨハンナが右手を伸ばす。彼女の背後にコートで身を包んだ吸血鬼が現出したかと思うと、目に留まらぬ速さでホラーの背後を取り、見えぬ太刀筋で黒い影を一閃、二閃した。吸血鬼は剣にしたたる赤黒い血を啜って不敵に笑う。
 ホラーの放つ苦し紛れの氷の嵐はまたも誰も傷付けることなく終わって。
「有罪確定」
 フライスペックがホラーのコアを射抜き、破壊した。

灰色の牢獄へ

 特に後日談はない。
 夢渡りたちはホラーの残滓を紋章に回収し、ソウルアクセスにより退去した。
 アレクセイが目を覚ますとそこは病院のベッドの上で、目を覚ますなり違法薬物の所持と服用により逮捕された。