「役作り」 (81-262)

Last-modified: 2008-02-21 (木) 22:36:59

概要

作品名作者発表日保管日
「役作り」81-262氏08/02/2108/02/21

作品

最近、ハルヒの声を聞いていない。
 
いや、別にまたハルヒがいなくなった、とか風邪引いて休んでる、とかじゃない。
ハルヒを見ていないわけではないのだ。ハルヒとなら毎日会ってるさ。
ただ――。
 
「おはよう、キョンくん」
 
淑やかに慎ましく、大人びた落ち着いた声で優しく俺の名を呼ぶこの声を――。
俺の頭がハルヒの声と認識できないだけなのだ。
 
 
それは不思議探索中、ハルヒがその馬鹿でかくよく通る声で商店街を賑やかしていた時のことだった。
1人のオッサンが声を掛けてきたのだ。
曰く、「声優のアルバイトをやってくれないか」とのこと。
事情に関しては割愛するが色々とあの業界も大変なのかね。前観たアニメでは谷口によく似たやつが「声優の収入よりC●C●イチのバイトの方が儲かってる」とか嘆いてたっけ。
ちなみに未知との遭遇が大好きなハルヒがふたつ返事で引き受けたのは言うまでもないことだ。
 
あー、ここまではよかった。
古泉は「退屈を我々が紛らわす必要が無くなった」とニコニコしてやがるし、
朝比奈さんは「涼宮さんすごいですねー」と楽しそうに今日もお可愛らしい。
長門もいつも通りで何のリアクションも見せずに今日も厚モノ読破中で無口。
俺だって、楽しそうにしてるハルヒを止める理由なんざどこにも無かったさ。
 
週明け月曜日、声と性格が一変したハルヒに冒頭で紹介したような挨拶をされるまではな。
アフレコまですでに1週間。役作りのためにキャラになりきって過ごすとのことらしい。
基本的にハルヒは天才肌ってやつではあるが、完璧主義者なとこもあるから努力を惜しまない。それが面倒でなければ、楽しければ、と言う注釈条件は付くがね。
ま、いい心がけだ。人のために頑張るハルヒ。文化祭のことを思い出すね。素直に応援してやりたいもんだ。
だがしかし――。
 
「よおキョン、このプリントお前と涼宮の分な」
何で俺に2枚渡す、ハルヒは後ろにいるんだからお前が自分で回せばいいだろう。
「ありがとう谷口くん」
「……は!?」
「……なんだって?」
俺と谷口の驚きがハモった。今のはもしかして、ハルヒ、お前か?
「台本を読み込んでる私に気を使ってくれたんでしょう? ありがとう。でも次は直接渡してくれるともっと嬉しいわ」
そう言うとニッコリ笑って俺の机からプリントを一枚取る。
これがハルヒだというのか? 役作りのためとはいえ谷口にあそこまでの態度を取れるものなのか?
っておい谷口。何頬染めてるんだ。わかってんのか、あれはハルヒだぞ。作ってる役だぞ。
 
昼飯時、ハルヒはいつものように学食に向かわず俺の半分ほどしかない小さな弁当箱を鞄から取り出した。昨日の今日で徹底してんなあ……。
「ねえ阪中さん。よかったら今日一緒にお昼ご飯食べない?」
「わあ、涼宮さんが誘ってくれるなんて初めてなのね。じゃあこっち、机合わせよ」
嬉しそうに阪中が自分の机を動かしていく。
ところで阪中、そこは驚くべきところじゃないのか? なんでお前は平然と受け入れてるんだ? やっぱお嬢様ってやつはどっかずれてるもんなのか?
 
土日を挟んだだけでまるで入学当時のクラス委員長朝倉のように頼れる気さくなクラスメイトに変貌したハルヒにみんな(阪中以外)最初戸惑っていたものの、水曜日にはすっかり慣れきっていた。
ハルヒの周りには常に人が集まっている。男女のべつまくなし。
言葉が間違っているって? いいんだよ。男女の別なく、それでいてのべつまくなしなんだから。
勉強を見てやり、クラス行事や委員の仕事を手伝い、それこそハルヒが常々「くだらない」と断じるドラマの感想やらの四方山話に花を咲かせる。
男子と話していても気さくに応対し、恥じらいを見せ、笑顔が眩しい。男子も目を白黒させつつ頬は紅潮だ。
だがなあ、それでいいのか。お前ら本当にそれでいいのか?
 
「いいに決まってんだろ。あれなら俺様的美的ランキングAAAランクをつけてもいいぜ」
だがな、結局のところあれはハルヒなんだぞ。
「なあキョン、お前本当に涼宮と付き合ってるわけじゃねえんだよなあ?」
まさか谷口……いいか、お前のその感情は一時のものだ。あの上っ面はアフレコが済んだら消えてなくなる砂上の楼閣だぞ。
「いやいや、俺はそこまではしねえけどよ。いいのか?」
何がだ。
「いまや北校における涼宮の人気は朝比奈さんを超えようとしている。たった3日でだ。すでに惚れてるやつもいるかもな」
……それで。
「以前のイメージのせいで今んとこはまだなんもねーみたいだけどよ。告っちまうやつも出るかもな」
今言ったろう、すぐに元のハルヒに戻る。時限爆弾だとわかっていてオレンジにかぶりつく馬鹿はいない。
「いやいや、そこはそれ。一度惚れちまったら普段に戻っても醒めるとは限らねーぞ。恋は盲目だからな。それに涼宮のやつも昔ほどは酷くねーしよ」
……谷口までハルヒの成長を感じ取れているというのはちょっと意外だったな。
「キョンみてえにマゾっ気があって涼宮の傍若無人を許容できる男が全校男子の中に現れないとも限んねえってことさ」
失礼なことを。俺を変態性愛者みたいに言うな。そんなんじゃねえっつの。
「もういい、黙ってろ谷口」
にやりとして肩をすくめる谷口に無性に腹が立つ。
「どうしたのキョン、涼宮さんの話?」
パンを買って帰って来た国木田が、せっかくアホを黙らせたのに話題を蒸し返しやがった。
「凄い変わりようだね。僕としては好ましい変化だと思うんだけど、キョンにとってはそうじゃないのかな?」
……別に。ハルヒの性格設定なんざ俺の知ったこっちゃねえだろ。
「僕は谷口の言うように涼宮さんが誰かと付き合うなんてのはありえないと思うけどさ。僕はキョンのほうが心配だよ」
何で俺なんだよ。
「月曜からずっと不機嫌だよ。中学時代にも見たこと無いくらいね」
……知らねえよ。
 
「ねえキョンくん。その、お弁当作ってきたの。よかったら一緒に食べない?」
頬を染めて恥じらいながら包みを差し出すハルヒ。ここははにかみ笑顔の可愛さにドキッとすべきところなんだろうね。
「……悪い、お袋が作ってくれてんだ。みんなで分けるなりしてくれ」
美味いのだろう、きっとものすごく。母親が昨日の夕飯の残りを詰めただけの弁当よりもずっと。手が込んでて見た目にもよくて栄養バランスも取れているに違いない。
でも食べる気にならない。
「そうだったわね。ごめんなさい。また今度作ってくるね。その時は前の日に言うから」
嫌な顔ひとつせず笑うハルヒの顔が頭にくる。
そのままそそくさと弁当を持って屋上へ退散した。
1人屋上で食べる弁当は侘しかった。
 
「涼宮さんのご機嫌が優れないようです」
……古泉、何で俺が屋上にいるってわかった。ってか第一声がそれかよ。
「長門さんにお聞きしました。ここにお独りでいる、と」
なるほどね。あいつならどこにいても、トイレのどの個室かまで割り出せるに違いない。
いっそ弁当持ってあと10分早く来てくれりゃな。今ならお前とでも仲良く弁当をつつけそうだぜ。
「そうですね、ではそれはまた次の機会にでも」
「ハルヒの機嫌が悪い、だって? またアレか」
「いえ、閉鎖空間は発生しておりません。まだ」
まだってことはこれから発生するのかね?
「機関としては、そのような見方をしています。ただ私見を述べさせていただけるなら、発生はしないのではないかと」
……一応理由を聞いておこう。
「なんとなくそう思うとしか言いようが無いんですよ。申し訳ありません。後はまあ、僕の個人的な願望です」
そうかい、まあ俺としては変てこ空間がいくら発生しようと関係ないからな。好きにやって世界を守ってくれるがいい。それよりも、
「ええ、そちらは僕達の担当ですから貴方は気を使われなくても結構です。ただ、僕はSOS団団員として涼宮さんの機嫌が優れないのには心が痛みます」
まあ、それには同意しといてやるか。
「それに貴方もです。僕は貴方の心は涼宮さんのそれのように感知することは出来ませんが、貴方は目に見えて不機嫌そうだ。友人として見過ごすわけには参りません」
お前までそんなことを言うか。
「今週からの涼宮さんの人当たりや性格設定は欠点のつけようがありません。完璧と言えるでしょう。事実涼宮さんの校内での知名度はこれまでとは違った点でうなぎのぼりです」
そんなことは知ってるよ。
「では貴方はそんな彼女の何が気に食わないのでしょうか」
……気に食わないなんて言ってねえだろ。誰にも迷惑をかけてないどころか手助けまでして今じゃ誰からも好かれてる。
教師達にだって受けはいいし、普通の学校生活ってやつをあいつの持ってる本来の能力が活きる立ち居地で送ってる。
「以前のようなエキセントリックな言動は影を潜め、勿論超常的な何かを引き起こすことも無い。我々がフォローせねばならないことは何一つ無くなり、世は総て事も無し。かつて貴方が望み、目指した状況ではないかと」
……なんだそのニヤニヤは。腹が立つ。ああそうだよいいことだらけじゃねえか。お前としても万々歳だろう。
「なのに貴方は苛立ちを隠し切れない。まるで恋人が雲の上の存在になっていくのを寂しがる男性のように」
「そんなんじゃねえ。お前は俺に殴られたいのか。鬱憤晴らしのためにその顔を捧げにきたってわけか?」
「……申し訳ありません」
肩をすくめると同時に古泉の纏っていた偽悪的な空気も緩和される。なんとなく息苦しかったせいか思わず俺も一息つく。
「こういった回りくどい態度を取れば貴方も素直になるかと思ったんですが。はっきり正解を僕の口から言った方がよさそうですね」
ああ、そうしてくれ。今日の俺は気が短いぜ。
「簡単です。今の涼宮さんが貴方にとって魅力的でないからですよ」
ほう、それは聞き捨てならんな。俺が一般大衆の好みと大きく外れたアウトサイダー志向の持ち主だといいたいのか。
「そうではなく、これは僕にとっても当てはまることです」
お前も、あのハルヒが嫌だ、と?
「ええまあ。今の涼宮さんの人格は演技だから、と言いたいのではありません。演技と切り捨ててしまうには自然すぎますから」
ならあれのどこに欠点があるんだ。
「欠点、というのとも違います。僕たちはいつもの涼宮さんを知っています。そんな彼女の魅力もまたこの学校の誰よりも知っているつもりです。だから、でしょうね。今の涼宮さんの魅力よりも普段の涼宮さんの魅力の方が僕たちにとってはより琴線に響くわけです。それに気づかず振り回される周囲や普段の涼宮さんを見ることが出来ないことに少なからず苛立ちを感じている、違いますか?」
……否定する材料は、見当たらねえな。
「結構です。では貴方の苛立ちの原因は以上だと仮決定させていただきます。違う結論が出た場合はご報告ください。適宜修正いたします」
いや、というより俺の苛立ちなんぞどうでもいいだろうが。今はハルヒが不機嫌だって話だろ?
「そうでしたね。では話を戻しましょう。なぜ涼宮さんが不機嫌なのだと思いますか?」
そりゃ決まってる。いい加減演技に疲れてきてつまらないことしてる自分に嫌気でも差してきたんじゃないのか?
「違います」
随分はっきり切り捨ててくれるじゃねえか。
「漠然とですが感じ取れますから。涼宮さんはこの状況そのものは楽しんでおられるようです。クラスメイトに囲まれ楽しく過ごす学校生活というのも久しぶりのことでしょうし。何より1週間限定のイベントのようなものですから。あの性格と態度を貫くこと自体は彼女にとって特別な苦ではないようですね」
だったら何が原因なんだよ。
「思うに……貴方が苛立っているのが原因ではないか、と」
 
…………俺? 何で俺なんだよ。
「他の皆さんには評判がよくても貴方だけは不機嫌であること。いつに無く素直に優しく貴方に接することが出来るのに貴方は涼宮さんを見ない、見るのが辛い。彼女の心境も理解できる気がしませんか?」
しないね。ハルヒがそんな乙女チックな思考回路なはずがねえ。
「では他の仮説はありますか?」
……そりゃ俺には浮かばねえけどよ。
「この状況を楽しんでいるという僕の感覚を前提として考えるならこれ以外には浮かびません。仮説がひとつしかない以上それに基づいて事態の解決を図りたいと思うのは間違いでしょうか」
誘導が上手いもんだ。答えが「はい」しかねえじゃねえか。「いいえ」選んだら堂々巡りさせる王族かお前は。
「では了解が取られたようですので、解決策を提案したいと思います」
お前は本題に入るまでの枕が長すぎる。以後もうちょっと端折るように。
「考慮いたします。それで単刀直入に解決策ですが――、貴方が涼宮さんに『いつものお前に戻ってくれ。俺が好きなのは普段のお前だ』とか囁くのはいかがでしょう」
拒否権発動、パス2だ。
「それじゃまるっきり告白じゃねえか。んな嘘言ったら後が怖い」
「嘘、ですか。本当にいつになったら素直になっていただけるんでしょうかね」
「俺は素直だよ。これが俺だ」
「ではそう言うことにしておきましょう」
やっぱり喧嘩売ってるだろお前。
「心に響く説得を考えたつもりなんですが……」
さて、他に方法が思い浮かばない以上覚悟を決めたほうがいいらしい。ただし、譲歩できる部分と出来ない部分があるぜ。
「やれやれ。わかったよ、俺だってあいつがらしくないって思ってんのは確かだ。普段のほうがいいってくらいの説得はしてやるよ」
「そうですね。告白というものはムードやタイミングもまた大事ですから」
こら、そんな「今はしないけどいずれは……」みたいな前提で物を言うな。俺はあいつに告白する予定など無いぞ。
「そうなんですか? 涼宮さんからの告白待ちと言うのもなかなかに」
だからそう言うんじゃねえっつの。
「失礼しました。では、首尾よくいくことを願っていますよ」
「あんま期待すんじゃねえぞ」
 
 
あ~……そうだな、結論からいこうか。結構こっぱずかしいことを言った気もするしな。説明すんのも手間だし。
駄目だった。以上。
ああ? どう駄目だったかって? まあそりゃあれだ。あのキャラで、
「ごめんなさい。でもアフレコまでは役作りに集中したいの。それが終わったら、いつもの私に戻るから。ごめんなさい、キョンくん」
笑顔を曇らせて謝るハルヒにそれ以上何も言えなかった。
申し訳なさそうにするハルヒの思いは本当なのだろう。それでも、ほんのちょっとすら仮面を外してくれなかった。
なんだか悔しい気もしたが、当然っちゃ当然さ。
目標持って頑張ってるのはあいつだ。それを関係ない俺が、あいつがらしくないのがつまらないって理由だけで邪魔していい道理は無いのさ。
 
ハルヒに誘われてついていったアフレコ現場でも俺はイマイチ居場所が無かった。まあそりゃバイト声優が連れてきた何するでもない見学者だからな。
1週間なりきってただけあってハルヒの演技は素人目に見てもよかった。一緒に仕事してたプロ達も絶賛していたし、あいつもアフレコ現場で輝いていた。
隅っこにもたれかかってボケっと見学してた俺の頭の中ではなぜか去年の12月20日を思い出していた。
改変された世界の中で、ハルヒは俺のことを知らなくて、なんだか随分あいつが遠くに行っちまったような感じがしたな。
今は、ちょっと違うが。今のハルヒはまるで知らない奴みたいで。近くにいるのにずいぶん遠い所にいる気がするね。
 
「はい、涼宮さんの分は以上です。お疲れ様でした!」
街中でスカウトかけてきたあのオッサンの声ではっと我に返った。あの人何気に偉い人だったみたいだな。
役者やスタッフから口々にねぎらいや賛辞の言葉を投げかけられそれに丁寧に返していくハルヒ。
……あいつは随分変わったな。
ちょっと前まで、暴走する馬鹿女のフォローを俺がしてやらねえとって感じだったのに。
古泉が言ってたな、「恋人が雲の上の存在に…」って。そんなんじゃねえよ、娘が巣立つ父親だ。……と思う。
結局、俺とハルヒはスタジオを出るまで一言も交わさなかった。
 
「あー、つっかれたわね~!」
スタジオを出て、ハルヒの第一声である。
作らない声、あいつらしい明け透けな感想を言って伸びをする姿が随分と俺の心を和ませた。
感じてしまった喪失感が消えるわけではないけども。
「でも楽しかったわ。貴重な経験だったしね」
そりゃよかったな。お疲れさん。
「あ、そうだ。ねえキョン」
「ん、なんだ?」
いつもの大股な早歩きで俺の2、3歩先を歩いていたハルヒが振り返った。
 
「久しぶり」
 
「え……」
「なんか……どうも月曜からキョンと話してた気がしなくって……なんというか、ノリよノリ!」
「お、おう。そうだな。久しぶり、だな」
 
はは、なんてこった。
今頃気づいた。
古泉がごちゃごちゃ長ったらしく言ってたのなんて何ほども当たっちゃいなかった。あの会話全部無駄だったんだ。
俺とハルヒがどうも憂鬱だったのは単純なことだった。なんてこたない、一言で済む。
お互い、しばらく会ってない気がして寂しかっただけなのだ。
ガキみたいな理由だろ。恥丸出しだ。古泉には言えねえな。
さっきまで感じてた寂しさなんざどうでもよくなるね。馬鹿馬鹿しい。
 
「さて、帰るかハルヒ」
「帰る前になんか食べてかない? あたしお腹空いちゃったのよ」
いいけど、俺あんま金持ってないぞ。
「ちょうど臨時収入が入ったんだしたまにはあたしが奢ってあげるわよ」
まじでか。団長に二言は無いな。食べた後で「やっぱキョン払っといて」とか無しだぞ。
「しないわよ失礼ね。それにまあ、今回はあたしが……集合に遅れたわけだし」
集合に遅れた……?
一瞬、意味を量りかねた。今日待ち合わせたときもハルヒは先に来ていた。じゃあなんだ……。
ハルヒが遅れたことといえば。そうだ。
俺からしてみればこのハルヒは実に1週間ぶりだ。
そして以前俺が3日間の昏倒から目覚めた時に聞いた原則。「SOS団は年中無休。絶対みんなが揃ってないといけない」だったっけな。
 
まじまじとよく見るとハルヒはいつものアヒル口になって目を逸らしている。
顔が赤く見えるのは夕日の照り返しのせいだけなのかね。
さて、それなら夕日を背にしてるはずの俺の顔が熱いのは何でなんだろうね。
 
「なら団長様にゴチになるとするか。1週間分の遅刻の罰、何を食わせてくれるのか楽しみだね」
「団長にご馳走になるってのにその態度は何よキョン!」
どうも俺の態度が不興を買ったようだ。そっぽを向いて歩き出してしまう。悪かったって、待ってくれよ。
「あんたは常日頃からあたしに対する感謝の気持ちが足りないのよ!」
へいへい、ありがたく頂かせて貰うさ。
 
歩きながらハルヒが振り向く。
1週間ぶりに見る100ワットの笑顔で。――やれやれ、前見て歩かないと危ないぜ。
 
「ほら、行くわよキョン、早く来ないとおいてくからねっ!」