秋祭り (15-329)

Last-modified: 2023-01-24 (火) 21:27:46

概要

作品名作者発表日保管日(初)
秋祭り15-329氏06/08/2006/09/04

作品

#ハルヒとキョンは付き合っているという設定です。

 

ハルヒが日課である昼休みの学校探索中、長門に出会った。
「これ」長門が一枚の紙をハルヒに渡した。
「ん?なんなのこれ?」
「秋祭り。近所にある公園で行われる。」長門は淡々という。「私は用がある。ゆえにあなたにあげる。」
「へえ、有希、悪いわね。」ハルヒはうれしそうにいった。
「彼といくのが望ましい。」長門はまっすぐハルヒをみた。ビー玉みたいな瞳には
なんのメッセージも込められていないように見えた。「推奨」
「え?ああ、…まあそのつもりだけど」ハルヒは小首をかしげながら言う。「ま、とにかくありがとね。有希」

 

5時間目も終わり、あとはHRを残すのみという休み時間なんだかよくわからない時間。
ハルヒが一枚の紙を俺に渡した。……秋祭りin公園か。
「へえ、秋祭りねえ」ハルヒから渡されたパンフレットを見ながら俺はいった。
「うん、有希がね、くれたのよ。」ハルヒは外を眺めたまま言った。「どう、いかない?」声が小さいので聞きとりずらい。
「そうだな。えーと、…今日か。えらい急な話だな。」
「いけないの?」ハルヒが驚いたようにこっちをみた。「そんなこと許さな」
「いや、行けるんだが、開始7時か。部活終わってからだと忙しいな。」
「…そんならいいけど。」ハルヒは安心したように言う。「ちゃんとお金もってきなさいよ。」
「おまえもな。」

 

放課後のSOS団。ハルヒは秋祭りの話を持ち出した。
ハルヒの声に「一応」とか「やむなく」とか「しかたなく」といった感情が入っているように聞こえたのは、俺の気のせいだろうか。
「残念ですが、今日は用がありまして。」古泉は残念そうな声をだしている。が、
顔にはちっとも残念と書いていない。
まあハルヒに振り回される以外のことをしたい気持ちも分かるが。
「あたしも一緒には行けないんです。」朝比奈さんはほがらかに言うが、突然なにかにおびえる小動物のような素振りを見せて付け足した
「あ、用があってだめなんです。」
「そうか、残念ねえ。」ハルヒの声はまったくそう思っていないと俺には断言できる。
「しょうがない、キョンと二人でいくかぁ。」ハルヒはうれしそうにいった。
…回りにはバレバレだが本人は気づいていないので、そっとしておこう。

 

祭りと言えば浴衣であり、ハルヒも浴衣姿である。いやぁ秋に見る浴衣もいいものだな。浴衣万歳だな。いっそ一年中でもいいぞ。浴衣。
髪をアップにしてくれれば、俺としてはもう何もいらないのだが、いつもの黄色い
リボン付カチューシャである。まあ揺れるリボンを見るのも悪くはないのだが、うなじにハァハァしたいのも男の本能だと断言しておきたい。
「どしたの、キョン?」ハルヒが笑顔で言う。「さてはあたしの魅力にメロメロ?」
「ああ。」いや、油断してただけで、その。…もういいや、ごめん。って誰に謝っているのだろうか、俺は。
ハルヒは息を飲んで、プイと振り返った。
「バカ。いきましょ。」

 

祭りと言えば屋台である。こじんまりとした公園なので、屋台もそう数は多くないが、それでもさまざまな屋台がでている。しかも結構な人が出ている。
これでは、ハルヒとはぐれてしまいかねない。そう思ってハルヒの手をとろうとした瞬間、ハルヒが手首をつかんでくる。
「あんた、迷子になりそうだから。」
迷子といわず、はぐれそうだからといえばいいのに、こいつは。

 

「あたし、綿菓子食べたい。」そういってハルヒは俺をひっぱり綿菓子屋に向かう。
ツインテールでミニスカの店員が出迎えた……って、朝比奈さん?
「あれ、みくるちゃん?」
「え~誰ですかそれ。」どう考えても朝比奈さんの声なのだが。「わたしはみちるっていうここの看板娘ですよぉ」
「あ…そう…」ハルヒは小首をかしげながら戸惑っている。「まあ、いいわ。綿菓子ちょうだい。」
「200円になります。」
ハルヒがおれの脇腹をつっつく。…ああ分かった分かった。自称みちるさんに俺が金を払う。
「仲良くてうらやましいですわ。」自称みちるさんは俺が部室でよく見かけるすてきな笑顔を浮かべていった。「ちょっとサービスしときますねえ。」
そういって巨大な綿菓子を渡された。おい、これ、通常の3倍はあるんじゃないのか?
「ふ、二人で食べれば平気よ。」ハルヒがいう。「あんたも食べなさいよ。」
「まあ、ひとつの綿菓子ふたりで食べるなんてロマンティックぅ」自称みちるさんは目をうるませながらいう。
しかし、ロマンティックという言葉の使い方を間違えてるような気がするが。
「い、いきましょ。」ハルヒがあわてたようにいう。

 

「へえ、手品だって。」ハルヒがある屋台を指さした。「珍しいわね。」
ハルヒが手にしている綿菓子に食いつきながら、うなずいた。
「ミスターマッガーレの手品だよ、よってらっしゃいみてらっしゃい。」どっかで聞いたような声がする。「あれ、鶴屋さんじゃないの?」
「やぁやぁハルにゃんにキョン君、いらっしゃい。」本当に鶴屋さんだった。
「なんで鶴屋さんがここに?」とハルヒ。
「いやぁ、ウチにかかわりのあるところから頼まれてねえ。客引きやってくれって。」
「そういえば、綿菓子屋にみくるちゃんもいたなぁ。」
「みくるはいないよ。あの子はみちるっていうテキ屋の看板娘にょろ。」
「そ、そう……」ハルヒはさっきから小首をかしげっぱなしだ。
「そんなことはいいにょろよ。マッガーレの手品みてかないかい?」
「ああ、そうね。」

 

我が目を疑った。髪をオールバックにして、仮面舞踏会でつけるようなマスクをつけているが、おまえ古泉だろう?
「いや、あたらしいお客さんがいらっしゃいましたね。」微笑みを浮かべるのはいいが、おまえ古泉だろう?「ようこそ、ミスターマッガーレの手品に。」
「こ、古泉くん?」
「それはどなたですか? わたしはミスターマッガーレ。流浪の天才手品師ですよ。」
いぶかしむハルヒが俺を振り返った。俺にできることはハルヒの肩に手を置いて、首を横に振ることしかできない。

 

「じゃあカップル向けの手品をひとつ。」マッガーレはトランプを手にとると、
シャッフルを始めた。手品師を名乗るだけあって流れるようにカードが動く。
「この手品は女性が引いたカードを男性があてるというものです。もし当たればそのカップル向けは永遠に幸せになると逸話があります。
いかがですか?やってみませんか?」
「え、ええ。」ハルヒが戸惑いながら答えた。「お願いします。」
「ではカードから一枚ひいてください。」トランプを扇状に開いて、マッガーレが言う。
ハルヒはおずおずとカードを一枚引いた。
「それを自分だけで確認して返してください。」
ハルヒはそっと自分だけでカードを覗き見て、カードをマッガーレに返した。
マッガーレはまた器用にカードをシャッフルし始めた。古泉にこんな趣味があったとは知らなかった。しかし、なんのためにこんなことをやっているのだ?
「ではそちらの男性。この中からカードをひいてください。」やはりトランプを扇状に広げたマッガーレがいう。ハルヒがひいたのと同じ位置のカードを引く。
「よろしいですか? それではそのカードを彼女に見せて上げてください。」
カードをそっとハルヒに見せた。ハルヒの目が大きく見開かれた。
「すごい…あたしの引いたカードだ。」
「いやすごい。これであなたたちは永遠の幸せを得たということですよ。」マッガーレは本当に喜んでいるが、それは手品が成功したからなのだろうか?
「おめでとうございます。みなさん、盛大な拍手をお二人に」
拍手されて、死にたくなるなんて、初めての経験だった。

 

「え、えらい目にあったわね。」ハルヒは顔を赤く染めて言う。「なんなのかしら、古泉くんてば。」
「いや、まいったな。ははは…まあ、次いこうぜ。」
「そ、そうね。」ハルヒは視線を泳がせると、別の店を見つけた。「占いだって」
また祭りに似つかわしくない店が出ているな。

 

そこにはとんがり帽子に黒マントの長門が座っていた。目もすわっている。
まるで前においた水晶玉に視線だけで穴をあけられるか実験してるようでもあったが。
「あ、あの、有希よね?」
「こんばんわ。ブラックマジシャンユキの店にようこそ」水晶玉から視線を外した長門が言う。
「有希よね?」
「さあ、ふたりともすわって。その水晶玉に手をあててみなさい。あなたたちの将来を占って上げましょう。」
ハルヒと俺は長門のいうままに丸いすに腰掛けて、水晶玉に手をあてる。
「私の占いによれば、数年先あなたたちは岐路に立たされるが、それをクリアできる。そしてあなたたちの未来を手にいれる。それは幸せ。」
長門は水晶玉を見もせずに言った。この水晶玉の役割はいったいなんだ?
「へ、へえ。」ハルヒは打たなくていいあいづちをうつ。「そうなんだ。」
「そう。素直になること。それがキーワード。」
「あ、そう。」ハルヒはなんとなく俺を見ながらいう。「素直になってるつもりだけど、な。」
「それは二人きりでの話。」
「なんで知ってんのよ!?」笑ってるような怒っているような表情でハルヒがいった。
「その水晶玉が私に教えた。」長門は水晶玉をまるで見ずにいった「とにかくあなた達は仲良くすることが望ましい。」
「なんなのよ、それ」ハルヒがぼやくようにいった。
「あなたたちの仲がこじれると、私達が大変。」長門は言い換えた。「いや、そうではなく宇宙的未来的超能力的大問題に発展しかねない。」
「そ、そう。」ハルヒの頭上に大きなクエスチョンマークが浮かんでいるのが見える気がする。「よくわかんないけど、とにかくありがとね。」
丸いすから腰を上げたハルヒに長門が言う。
「二人っきりになりたいのであれば、この奥の茂みが安全かつ快適。」
大きなお世話だぞ、長門。

 

「まったく、有希といい古泉くんといい、なんなのかしらまったく」ぼやきながらハルヒは長門が安全を保証した茂みに腰を落ち着けた。
「まあ、なんだかわからんが、楽しいお祭りじゃないか。」
「恥ずかしいわよ。まったく。」そういいながらハルヒはすこし体をこちらに寄せて来た。「みんなして、なに考えてんのかしら。」
「確かにな。」ハルヒのいい匂いにつられて、肩に手をまわしてしまう。
「エロキョンになってるわよ。」そういいながら、体を俺に預けるな。
「しょうがないだろう…俺だって男なんだから。」
ハルヒが瞳を閉じてすこしだけあごを上げる。ああ、こういうサインに男は弱いんだよなぁ。ああ、唇がおいしそうだ。
軽い口づけを交わす。ああ、それだけさ。他にはなにもしていないさ。
そこでは、な。

 

翌日、昼休みに古泉と会った。
「昨日はどうでしたか。」
「おまえの仕込みか?」
「発案は長門さんですよ。僕は手伝いだけです。」
「長門が?どういうことだ。」
「恋愛によって涼宮さんの力が変化したということで、長門さんが非常に興味をもっているのはご存じですよね。さらなる刺激を与えたいと彼女がいいだしたのです。」
「長門は主流派で干渉を好まないと聞いたがなあ。」
「恋愛という要素による変化を想定してなかったのでしょう。」古泉はにこやかに解説した。「概念もないに違いありません。さらにその刺激は安全と判断できますしね。」
「ハルヒが不愉快になることはないという判断か」
「そうです。」古泉はいう。「僕の手品はいかがでした?一週間で覚えたにしてはなかなかでしょう。将来はああいう道もいいかもしれませんね。」
古泉は機嫌良さそうに去っていった。

 

教室に戻る途中で長門に会った。
長門は芒洋とした表情を浮かべたまま言った。
「また、お祭りに。」
もういいって。

 

おしまい