キョンの悪霊は恐ろしい (13-759)

Last-modified: 2023-01-23 (月) 19:02:02

概要

作品名作者発表日保管日(初)
キョンの悪霊は恐ろしい13-759氏06/08/0806/08/19

作品

「今度の日曜は廃墟にいくわよ」
いつものようにSOS団定例会議が行われていた。
朝比奈さんはいつものようにお茶を給仕し、古泉はハルヒのイエスマン、長門は無反応。いつものSOS団だ。
「ちょっと聞いてるのキョン? 今回は幽霊探索に行くんだからね。気を引き締めていかないと取り憑かれるわよ」
夏休みが無限ループしてるとも知らずよく呑気でいられるな。こんなことハルヒには口が裂けても言えない訳だが
「ところでどこの廃墟なんですか? 」
「古泉君いいとこに気がついたわね。流石副団長なだけあるわ」
「市外に病院の跡地があるの。その病院を取り壊そうとすると決まって事故が起こったりするから気味悪がって手付かずなのよ」
「なるほど」
「で俺達はそこで何をするんだ? 」
「キョン決まってるでしょう。霊と遊ぶのよ。夏休みにはもってこいの体験だわ」
何がもってこいだ。俺が取り憑かれて不幸にみまわれたら責任とってくれるんだろうな?
「あのぅ……その私怖いのは苦手で……」
朝比奈さんがお盆を持ちながらハルヒに辞退を申し出た。
「何言ってるのみくるちゃん。全員揃って行かなきゃ意味ないでしょう?その甘えた根性を叩き直してあげるわ」

 

「ううぅ……」
今にも泣きそうな朝比奈さん。
「みくるちゃんそんなんじゃいつまでたっても一人前になれないわよ」
一応言っておこう。朝比奈さんは上級生である。「ううぅ……わかりました……」
「それでこそ我がSOS団の団員よ。そうと決まったら明日の午後7時にいつもの駅前集合ね」
「夜かよ!! 」
俺は思わず叫んだ。決して怖いわけじゃないぞ。古泉!!ニヤニヤするな。
「キョン~♪もしかして怖いんでしょう」
「断じて違うぞ。もし帰りに警察に見つかったらどうする。生活指導行きだぞ」
やめろ2人してニヤニヤするな。俺は高1だぞ。怖いもんなんか……朝倉を除いて怖いもんなんかねぇよ。
「大丈夫よ。その時はまけばいいじゃない。じゃ決まりね。遅れたら一人病院で寝てもらうからね」
「ひぃぃ」
軽い悲鳴をあげた。俺じゃないぞ。朝比奈さんだからな。
だが今度ばかりは遅れることはできないようだ。
帰り際長門に
「この肝試しは何回ループした」
少し沈黙して
「今回が初めて」
何万回もループしてか?「そう」
何回かループしてれば何が起こったのか聞こうと思ったんだが……
「……怖いの?」

 

「…………」

 
 

俺は長門と別れ風呂に入りエアコンをつけベッドに伏せた。
ここまで明日が嫌な……いやいや楽しみだったことはない。
しかし何だって肝試しなんかしなきゃならんのだ。しかも病院。大抵のことには慣れてきた俺だが今回だかりはヤバい予感がする。
朝比奈さんと寄り添いながら歩くならまだしも一人で寝るなんて非常識極まりないことになればモーリス・グリーンもびっくりなスピードで逃げるぞ
何度も言うが怖いんじゃないぞ。

 
 

翌日午後5時30分俺は軽快にペダルをこいでいた。いくらなんでも1時間前に全員集合してないだろう。
その思いはやっぱり砕け散った訳だ。
「キョン遅い!! 」
こいつら一体何時間前から待機してるんだ?
「という訳で今日病院で1人寝て過ごすのはキョンに決定。実況よろしく」
俺は自転車にまたがり180度Uターンする。だがあの怪物から逃れられるわけない訳で
「コラーー!!キョン待ちなさーい!! 」
荷台をつかみとびきりの笑顔を見せ
「私から逃げられると思ってるの?」
どんだけバカ力だ。片手で俺の自転車の動きを封じやがった。
「これ以上抵抗すると一人で病院に潜入してもらうわよ」
月がハルヒの満面の笑みをはっきりと見せてくれた。悪魔の笑みだった。

 

7時頃俺達は肝試しスポットへ足を踏み入れようとしていた。
ああ見るからに不気味だ。雑草が俺達を拒むかの如く立ちはだかる。この中に入ろうなんて考えてる奴は神経おかしいんじゃないか?
「何よバカキョン」
「俺はまだ何も言ってないぞ」
「あんたの目が私に訴えたのよ。頭おかしいんじゃないか?って」
なんつー鋭さだ。SOS団ファンド立ち上げるといい。きっと儲かるぞ。
「本当にこの中に入るんですかぁ?」
朝比奈さんが声を震わせてハルヒに言う。
「何言ってるのみくるちゃん。我がSOS団は不思議のためならたとえ火の中水の中よ」
「うぅ」
最近唸りぱなしだなこの人。
「さぁ乗り込む前に恒例のくじ引きよ。印は3枚なしは2枚よ」
そういって紙切れをだすハルヒ。何で二班に分ける必要がある。と思いつつ渋々ひく。
印つきだ。

 

結局俺、古泉、長門ペアとハルヒ、朝比奈さんペアに分かれた。
「大丈夫よみくるちゃん。なんたって私がついてるんだから」
「そうですけど……」
「シャキッとしなさい。それでもSOS団専属書記なの?」
うなだれつつハルヒに促され病院へと消えていった。
「集合は8時30分位ね。不思議を見つけたらすぐ連絡すること。いいわね」

 

「僕達もそろそろ行きますか」
俺達は城壁の如く立ちはだかる雑草をかき分け中に潜入した。
月が赤い……。
まぁ予想通り真っ暗だ。俺は家中にあるあらゆる懐中電灯を持ってきた。だって電池切れなんてしたらヤバいだろ?

 

長門を俺は見る。変態エスパーは変態空間でしか能力を発揮出来ないからな。なんか出てきたら長門に退治してもらおう。
「長門なんか感じるか? 」
「…………………」
だから怖いんじゃなくてだな……
「私達以外の有機物質は感知出来ない」

 

「ただここには多数の情報生命体素子が確認できる」
なんだその情報生命体素子ってのは?
「簡単に言えば幽霊ですか?」
頷く長門。
「人間や他の生命体の残存した情報。通常消去されることはない」

 

ああもう勘弁してくれ。
俺は一人先に歩く。こいつらの話は聞きたくないからな。でロビーらしき所に到着して後ろを振り返ると

 

二人はいなかった

 

急いで古泉に電話をかける。おいおい一人置いてきぼり?かよ。まだ一人で寝る時間じゃないぞコンチクショー。
圏外

 

俺は割れた窓から赤い月を眺めていた。月がロビーをよく照らしていた。不気味な位にな。
その時俺の携帯が鳴った。ハルヒだった。

 
 

「もしもしキョン?そっちにみくるちゃん行ってない?みくるちゃんの携帯圏外だしどうしたんだろう」
「いや見てないぞ。それより古泉と長門見なかったか?」
「見てないわよ。ねぇ一回落ち合わない?みんな探した方がいいし」
「わかった。集合場所は最初の受付でいいな?」「わかったわ」
こんなに長くハルヒと電話で喋ったの初めてか?
悠長なこと考えてる暇はない。これは本気でヤバい。あの3人を一気に消せるなん情報生命体素子もなかなかやるな。ったくふざけやがって
俺は階段を一気に駆け下りハルヒと落ち合った。
「遅いわよ。こんな暗いなか女の子一人待たせるなんてあんた気は確か?」
相変わらず理不尽な奴だ。俺だって未だ嘗てないスピードで走ってきたんだ。
「あれお前懐中電灯どうした?」
「みくるちゃん持ってきてなくて私の貸してたんだけどね……」
「突然消えちゃったの。光もみくるちゃんも。辺りを探したんだけどいなくてそれでキョンに電話したの」
とりあえず懐中電灯をハルヒに貸し、現在の状況の把握した。

 

現在宇宙人、未来人、超能力者の3名がこぞって行方不明。携帯は圏外。俺達以外の有機生命体はいない

 

勘弁してくれ。

 

とりあえずハルヒと一緒にみんなを探すことにした。
「私のせいでみんながどっか行っちゃったのかな……」
いつになくしょぼくれてるハルヒ。ああお前のせいで俺は一人ロビーに取り残される恐怖を味わったんだぞ。まず俺に謝れ
「お前のせいじゃないよ」
俺は何を言ってる。何故ハルヒを貶さん。今がハルヒに復讐するチャンスだぞ俺。みすみす逃す気か
「本当に?私のせいじゃない?」
ハルヒが問う。
「ああ本当だとも。悪いのは情報生命……じゃなくて幽霊だ」
なんか幼稚園児を励ましてる様な変な感覚に襲われつつ俺は

 

ハルヒに手を伸ばした
「何よ」
「手をつなぐんだよ。お前まで消えて貰ってはかなわんからな」
これは本心だ。こいつまで消えたら俺はみんなを探さず家へひたすらダッシュするからな。
「………」
黙るなよハルヒ。あと手をその柔らかいものに押し当てるの止めてくれないか?理性がなくなる
「とりあえず2階へ行くか?」
コクンと頷く。いつから長門になったお前は。
2階も人の姿はなく3階へと階を進める。時計をみるともう9時を回っていた。もう流石にマズいな。
その時
俺の携帯が鳴った。今日はよく携帯が鳴る

 

相手は非通知だった。

 
 
 

「もしもし」
俺は意を決して通話ボタンを押す。
「イマカラ5カイノインチョウシツヘコイ」
テレビでプライバシー保護のため声を変えているあの声でそいつは不気味に話した。
「お前は誰だ」
「オマエニコタエルヒツヨウハナイ」
「なんで院長室に行かねばならんのだ」
「コレバワカル。インチョウシツニツヅクカイダンハ1ツシカナイ。セイゼイサガスコトダナ」
一方的に電話は切れた。
「何だって? 」
「さぁな。院長室へ来いだと」
生暖かい風が吹いてきた。ああもうね本当に勘弁だぞ。
「きっとそいつがみんなをさらったのよ。キョン。院長室に行くわよ」
「やれやれ」

 

俺達は4階へ通じる階段を探していた。さっきの階段は3階から上に通じてなかったからだ。
3階は病棟らしくひたすら部屋が続いていた。もちろん部屋の中には何もない。ただカーテンだけがヒラヒラとなびいていた。
ハルヒが手を強く柔らかいものに押し当てる。
ひょっとしてこいつも怖いのか?
「何よ」
こっちをハルヒはみて言った。
「お前、もしかして怖いのか? 」
「そっ……そんなわけないでしょう。バカキョン!!」
でまた強く柔らかいものを押し当てる。どうでもいいが抱っこちゃん人形みたいに手にくっつくな。
その時だった。

 

後ろから足音がしたのだ。

 

ペタ、ペタ、ペタ………
明らかに素足で歩く音だ。床には窓ガラスが散乱していて素足なんかで歩いたらケガでは済まない。
情報生命体素子はあれか?肉体を持ってなくても足音がだせるのか?器用だなおい。
「………キ、キョン?」
「な、何だよ?」
「一応聞くけどあんたの足音じゃないわよね? 」
「ああ、俺じゃない。俺は靴履いてるしな」
つーか明らかに俺達が止まってるのに足音がするんだが。

 

俺は後ろを振り返った。
そこには肩まで髪がかかった女が立っていた。

 

「キキキ、キョン。あの人あんたの知り合い?」
「い、いや。少なくともあんな不気味な人を知り合いに持った覚えはない」
内心もうダッシュで家に帰りたい。ところでハルヒ、お前幽霊と遊ぶとかぬかしてなかったか。今から遊んで来いよ。俺はその間に逃げてやるから
「キョン。私のお化けのイメージと言ったらオバQなの。あんな貞〇みたいな人と遊びたい訳ないでしょう」
どんなイメージだよ。あんな可愛いお化けだったらテレビで心霊番組なんかやるか。

 

でその貞〇みたいな女は俺達に近付いてくる。これはヤバさMAXだ。逃げるぞハルヒ。
「うん」
そう言って俺達はダッシュした。まさか本当にでるとはな。
ひたすら逃げる俺とハルヒ。そして十分距離を稼いで俺達は止まった。
で後ろを振り返るとお約束の通り
「くけけけけけけけけけけけけけけけけ」
と言いながら這って接近してくる化物の姿があった。

 

また突っ走る俺とハルヒ。なんであんな速いんだよ。蜘蛛か?あの女は。
「あった。あったわ。4階へ続く階段よ。ほらナースステーションの向こう。」
確かに階段らしきものが見える。
「よし。一気に駆け上がるぞ。多分上がったらあの蜘蛛女は昇ってこないはず」
「なんでそう言い切れるの?」
「なんとなくだ!!」
そうでも考えなきゃ院長室着く前にくたばっちまうぜ。
俺たちはナースステーションを横切り階段へ向かった。

 

ちくしょうここは富士〇ハイランドのお化け屋敷か?
脇目もふらず俺達は4階へ駆け上がった。
あの蜘蛛女も追って来なかった。
寿命が3年は縮まるぞ。
「……………」
ハルヒが震えているようだった。普段はあんな強がりなのに今や朝比奈さんみたく気弱になっている。
俺はしっかりハルヒの手を握った。

 

思えばSOS団初の不思議体験をしてるんじゃないか? 4階病棟を見ながら俺はそう呟いた。

 

「確かに今不思議体験してるわ。だけどね私の言う不思議体験は未来人とか宇宙人とか超能力者とか幽霊とかと遊ぶことなの。こんな恐怖体験することじゃないの」
相変わらず勝手な奴だ。
辺りを見回す。月がよく部屋を照らしてくれる。俺たちは 今ラウンジにいるようだった。椅子と壊れた自動販売機がある。
ああどうしてこんなことになったんだ。と思いつつラウンジをあとにした。

 
 

4階は何事もなくクリアすることできた。
で今俺達は5階へ続く階段を昇り院長室に向かってる筈だった。

 

「ここ手術室か?」
「そうみたいね。【手術中】のランプがあるし」
鋼鉄の手術室の扉と大窓と開きっぱなしのエレベーターのドアがこの階にはあった。
「院長室はここにはないみたいだな」
黙って頷くハルヒ。だからその抱っこちゃん人形みたいに俺の腕を抱くな。
それにしてもまたヤバい香りがプンプンするところに来ちまった。
「下に降りるか……」
「う……」
ハルヒは多分『うん』と言いたかったのだろう。しかしその前に
ドンドン!!ドンドン!!
手術室の扉が叩かれていた。明らかに内側から。
「ううぅぅ」
朝比奈さんとは全く違う男のうめき声が手術室から聞こえる。そして【手術中】のランプが光った
「おい! 逃げるぞハルヒ」
俺達は手をつなぎながら4階へ駆け下りた。
お化け屋敷にしたってここまでリアリティ出せないぞ。
俺とハルヒは精神的に参っていた。こんな2度も恐怖体験すれば参るのは当然である。
「……絶対離さないからね」
ハルヒはぎゅっと俺の手を掴む。普通ならかなり嬉しい状況なのだがそんなこと考えてる余裕は俺の頭にはなかった。

 
 

4階に戻った俺達はまた5階へ通じる道を探していた。
「もしみんなが見つからなかったらどうしよう……」
ハルヒは恐ろしく小さな声で呟く。
「見つかるさ。なんたってあの3人だからな」
朝比奈さんはともかく古泉と長門は大丈夫だろう。
そう呟いて俺は懐中電灯て辺りを照らす。至る所に落書きがしてある。物好きなやつらめ。
俺達は病棟を抜けた角に小さな階段があることに気づいた。4階を2ループした後のことである。
「ハルヒ行くぞ。準備はいいか」
ハルヒは手を強く握り
「いいに決まってるでしょう。みんなを助けるためだもん」
そう言って俺達は5階へと歩を進めた訳だ。

 

院長室はとても重厚な鋼鉄でできていた。微かに光が漏れている。
俺達は意を決して扉を開けた。さぁ何がでることやら

 

中にいたのは行方不明になった3人と新川さん、森さん、多丸(弟)さん。
事態を飲み込むのに数十秒かかった。ああ古泉めまたやりやがったな。
「古泉……またお前の」
俺は元気なく言う。強烈な脱力感に襲われる。
「ええ。また僕の仕込みです」
てめぇ。そのニヤニヤ顔を3倍に膨らましてほしいのか?
ハルヒは
「よかった……」
そう呟いてみんなのもとへ走っていった。よっぽど心配だったらしい。

 
 

院長室で雑談する俺達SOS団の面々。
「だからお前は最初にハルヒにどこで肝試しやるか聞いたのか」
「はい。涼宮さんは当日場所を言いかねませんでしたし」
「長門。お前他に人間はいないって言ってなかったか?」
「……あれは嘘」
「僕が前もってあなたが長門さんになにか聞いたときのマニュアル本を作成しておきましたから」
どこまで暇人だお前は。
「で新川さん達は何しにここまで」
「はい。朝比奈様や古泉、長門様をここに誘導するためでございます」
ああそうですか。あなたも相当暇ですね
今回の事件を要約するとこうだ。
古泉はまず長門と2人は俺を置いて逃亡。朝比奈さんは多丸さんが後ろから捕まえ新川さんのところまで連れて行った。
で泣きじゃくる朝比奈さんを森さんが懸命になだめつつ一行は院長室に移動
そこで古泉が変声機を携帯に装着し非通知で俺に電話したのである。
「どうです。涼宮さんとは恋人気分になりましたか?」
生憎そんな余裕は0だったんでね。ハルヒ反論してやれ。
「…………」
赤くなって黙っている。おいおい。
「ふふっ」
森さんが笑う。何が言いたいんですか?

 

「であれも仕込みだったんだな」
「あれとは?」
古泉、とぼけやがって。4倍にその顔をして欲しいみたいだな。

 
 

「ほらあれだよ。3階で蜘蛛みたいに這ってきた女とか手術室の中でうめいてドア叩いてた奴らだよ」
「いや僕達は知りませんよ。そんなに人員に余裕はありませんからね。ずっとこの6人でいましたし」
俺とハルヒは顔を見合わせる。じゃああいつらは何なんだ?
生暖かい風が吹き抜けた。
「あの……あの……それってもしかして……」
朝比奈さんが声を震わせる。
「本物でしょうね」
森さんが恐怖心を煽るような口調で言う。
「……そろそろお開きにしましょうか。10時を回ってますし」
森さん。だから怖いって。
泣いた朝比奈さんを森さんがまたまたなだめつつ俺達は院長室をあとにしようとしていた。
「……有機生命体がいないと言ったのは嘘。しかし情報生命体素子が多数いるのは嘘ではない」
長門は俺に言った。じゃあ俺が見たのはやっぱり……
「幽霊」
全身の血が凍結した感じがした。

 

俺達は新川さんに連れられて下まで降りていったその間ハルヒはずっと俺の腕を掴んでいた。
「バカキョン。言っとくけど怖くなんかないんだからね。ちょっと寒いだけなんだから」
気温は28度位だぞ。寒い訳ないだろう。
「もう。黙って掴まれてればいいのよ」

 
 

雑草をかき分け俺達は外に脱出した。あの廃墟病院にはもう1年はいた気がする。
「明日にでもお祓いしますか。僕の知り合いに神主さんがいるんですけど」
もうあえてなんで知り合いに神主がいるんだとはつっこまないぞ。
「ああ。そうしてくれ。特に俺達2人は念入りにやってくれ」
「わかりました。それはそうと新川さんの車があるんですが後ろに3人しか乗れないんですよ」
ニヤケ顔の古泉がこっちをみる。何だよ何が言いたいんだ? お前まさか……
「いいわ。古泉君。有希、みくるちゃんと一緒に帰りなさい。私達は電車に乗るから」
おいおい。俺達が今日一番の功労者だぞ。何言ってるんだ阿呆。
「助かります。本当に心苦しいですが先に失礼させていただきます」
古泉……明日覚えてろよ。
新川さんの車はすぐに闇へと消えた。

 

時計を見た。午後10時42分。こんな時間に電車あるのか?
「とりあえず駅までいきましょ」
俺達は駅に向かって歩いていた。もう廃墟で散々走ったので俺には走る気力がなくなっていた。
「キョン……ありがとう」
何だ?やぶからぼうに
「だってあんな状況になったら私置いて逃げだすかと思ってたから」
ああ確かに逃げ出したかったさ。あんな非常識な化物が出たんだからな。
「お前を置いて逃げ出す訳ないだろう。あとでどんな目に遭うか…」
そう言いかけてる途中

 

ハルヒは俺の頬にキスをした。

 

でその後結局終電に間に合わなかった。
その後、朝までのことは2人だけの秘密だ。