「涼宮ハルヒの七夕」 (93-388)

Last-modified: 2008-07-08 (火) 14:15:47

概要

作品名作者発表日保管日
SS「涼宮ハルヒの七夕」93-388氏08/07/0608/07/06

作品

七夕と聞いてみなさんは何を思い出しますか?
ある人は短冊に書いた願い事を、またある人は織姫と彦星の悲しい物語を思い出すでしょう。
俺は夜空に流れる天の川を眺めながらこの原稿を書いている。
もう何年前の事になるだろうか?高校2年の7月、一生忘れないであろう七夕の夜の事を
 
 
七夕記念SS「涼宮ハルヒの七夕 0707スターダストメモリー 星に願いを」
 
0704星の屑作戦発動三日前
 
そのころの俺は期末試験も目前に迫り、毎晩深夜ラジオを聴きながらひたすら試験勉強に追われていた。
2年に進級後は佐々木の助言もあってか、ハルヒが部室で個人授業をしてくれたおかげで成績は緩やかな上昇カーブを描いていた。
とは言えども尻に火が点いた状況に変わりは無く、期末試験の結果次第で俺は進学塾に通う事になりSOS団の活動はできなくなる。
口にこそしないものの、ハルヒは俺が同じ大学を受験する事を願っているだろう、古泉と長門は間違いなく合格する。
朝比奈さんが果たして高校卒業後もこの時代に残ってハルヒの観察を続けるかどうかわからんが、残るとしたら進学先が俺たちの進路になるに違いない
それが規定事項なのだとしたらの場合だが
ハルヒ手製の問題集と格闘しつつ睡魔と闘っていた。ラジオから流れてきたのは「星に願いを」果たして俺の願いは星に届くのだろうか?
全ては俺自身の努力にかかっているのだが・・・
 
梅雨も明けセミたちが準備運動を始めた7月初旬
昨年同様にメランコリー状態に陥っていたハルヒは、その大きな瞳を半開きにして外を眺めていた。
「おはよう、ずいぶん眠そうだな」
「うん・・・最近夜更かし気味だから」
「もしかして、俺のせいか?」
「べっ、別にあんたのせいじゃないわよ!SOS団から浪人なんて出したくないし、問題集を作るなんて団長としての勤めだから」
そんなことだろうと思っていたが、つくづく自分が情けなくなる
「すまない、ハルヒ」
「あんたはそんな事気にしなくていいから、一生懸命勉強しなさい!」
放課後、掃除を終え部室に直行すると珍しい事にハルヒの姿は無く、他の3人が机に向かって何事か書いている。
「何やってんだ、長門?」
「願い事・・・・」
聞いた相手が悪かった。古泉、俺にわかるように説明してくれ
「単純な事ですよ、もうじき七夕じゃないですか、涼宮さんが笹を用意してくれるそうなので飾りや短冊を作っているところです」
そういえばそんな時期だったな。去年の七夕は今から数えて4年前の七夕に(書いててわけがわからない)旅行して中学一年のハルヒにあって東中の校庭に不法侵入し宇宙人へのメッセージを書いた。今より一回り小さいあいつの短パン姿を覚えている。
その後、長門の部屋で朝比奈さん共々、3年後の七夕までボルドーの赤のように保存されたわけだが俺は少しも熟成されていない
「キョン君、涼宮さんとケンカでもしたんですかぁ?なんか元気ないみたいでしたけど」
「あいつが俺とケンカしたぐらいそんなことになるわけないですよ、別のことを思い出しているんです」
その言葉を聞いた朝比奈さんはハッとした。
4年前の七夕でハルヒは女の子をおぶった北高の男子生徒と出会い、そいつに地上絵を書かせたのだ
そいつは宇宙人、未来人、超能力者の知り合いがいるとハルヒに教え「世界を大いに盛り上げるジョン・スミスをよろしく!」と言い残し去っていった。
その後ハルヒは必死にジョンを探したが当然見つかるわけも無く「ジョン・スミス」の名前は唯一体験した不思議な出来事と共に心に残っているらしい
その影響により進学した北高で入学初日に「ジョン・スミス」と再会を果たしたのだが本人は全く気づかず(そりゃそうだ)
毎年この時期になると彼の事を思い出してメランコリー状態になるのだ。
おそらくハルヒは「ジョン・スミスにもう一度逢いたい」と願ったであろうが、とっくにその願いはかなっている。
仮に「ジョン・スミスの正体を知りたい」であったら世界がおかしくなっていた可能性が高い、これ以上おかしな世界になってしまっては俺が困るのだが。
 
机の上には様々な飾りと共に何枚かの短冊が置いてある。
「彼女が欲しい!!!谷口」そんな事考えてる余裕はおまえには無い
「背が伸びますように・・・国木田」背が伸びてしまったらショタキャラを捨てねばならんぞ
「いつも笑顔で過ごせますように。鶴屋」あなたらしい願い事です。
良く見れば意外な人物の短冊が目に入る
「りっぱな中学生になれますように」そういえば来年から中学だな、制服のサイズがあるのか?中学で急に身長が伸びるかもしれんな
その前に中学生になったら俺をキョン君と呼ぶのはやめてくれ
「お兄さんと仲良くなれますように。吉村美代子」はて?ミヨキチに兄がいたかな
俺が何枚かの短冊を読んでいると古泉が話しかけてきた。
「他人の願い事をまじまじと読むとは、あまり良い趣味とはいえませんよ、あなたも書いてみてはいかがですか?」
願い事ねぇ・・・無い事は無いのだが
「それで良いではありませんか、早く書いて頂きませんと涼宮さんが帰ってきて怒られますよ」
俺は黄色い短冊を手に取り何を書こうか考えた。
「まて古泉、今年も16年後か25年後の願い事を書くのか?」
「いえ、今年は早くかなって欲しい願い事で良いそうです。涼宮さんは何か早く実現したい願望があるみたいですね」
「なんだそりゃ?あいつの願望は全てかなうようになってんだろ、本人が気づくかどうかは別だけどな」
古泉はますます怪しくなった笑顔を寄せる、願い事ひとつ決定、それ以上近づくな
「たったひとつだけ彼女だけではかなえられない願い事があります。あなたが一番良くわかっていると思いますが」
わからん、世界をハルヒ中心に回るようにすることか?地球の自転を逆回転させることか?それじゃ俺は関係ないぞ
その様子を見ていた朝比奈さんは呆れ返った表情で溜息をつき、お茶を煎れるべくガスコンロに向かいお湯を沸かし始めた。
やがてお茶が運ばれてきて朝比奈さんに礼を言うと「はぁい、ありがとうございますぅ」ではなく思いがけない返事が返ってきた。
「キョン君、涼宮さんがかわいそうです・・・」
その涙目は勘弁して下さい、重罪を犯した気分です。それにかわいそうなのは日夜あいつに引き釣り回される俺の方です。
勉強を教えてくれる事には心底感謝してますがね
そのとき微かな声が聞こえた。
「・・・鈍感ではない、ひねくれ者・・・・」
おい長門、何か言ったか?
「別に・・・」
「全く長門さんに同感です」
古泉おまえまで何を言ってるんだ?
 
俺は短冊に筆を走らせる、やはりこれしかあるまい
「世界が平和で変な事件が起こりませんように」
もうひとつは
「成績上昇」
願い事をかなえるには祈る事より、努力を続ける事の方が大事だとはわかってはいるが、俺は凡人なので藁にもすがる、それにひとつめの願いは努力のしようがない
机を見渡すと白い短冊に長門の字で何か書いてある、俺はそれを手に取り首を捻った。
「星の屑作戦成就。長門、朝比奈、古泉」
なんだこりゃ?
「僕たち3人の願い事です。長門さんが最も字が上手なので代表して書いて頂きました。」
この「星の屑作戦」とはなんだ?まさか海上自衛隊の観艦式を襲撃するとか、地球になにかでかい物を落とすとかではあるまいな?
「そのような物騒な事ではありません、僕たち3人で涼宮さんの願い事をかなえてあげるための作戦です。」
一体何をやるつもりなんだ、嫌な予感がするが教えてくれ
「申し訳ありません、作戦決行日時まで待って下さい。あなたに決して害は及びませんから」
こいつがこんな事言い始めたら絶対教えてくれないだろう、教えてくれたら間違いなくそれは嘘だ。それに今まで害が及ばなかったことなんてあったか?
仕方ない、もっとも教えてくれそうな人に聞いてみよう。でも・・・いや返ってくる言葉はわかってるが、これはお約束だ
「朝比奈さん、星の屑作戦の内容を教えてください。」
「キョン君ごめんなさい、それは言えません・・・」
「何故ですか?」
そこまで聞かれた朝比奈さんは俺が何を期待しているか承知しており、人差し指を可愛らしい唇の前に立てて、微笑みながら答えた。
「もちろん、禁足事項だからです」
お約束を済ましたところで長門に目をやると青い短冊に「変革   長門有希」と書いてから俺を見上げた。絶対に教えてくれないだろうな
しばし見つめあった後、微妙に長門の表情が変化した。極めて些細な違いだが俺をまっすぐに見つめて、ようやく言葉を口にした。
 
「星の屑作戦の全てはあなたにかかっている・・・」
 
その後ハルヒから呼び出された俺は鉈を片手に近所の竹林へ向かった。その結果、沖縄に特攻した戦艦大和のように蚊の編隊から幾度と無く爆撃を受け
痒さに耐えながらパンダの非常食ぐらいはある笹を持ち帰った。虫除けスプレーをもってたのなら何故俺にかけてくれないのだハルヒ?
そして飾りつけを始める、何枚もの短冊や折り紙で作ったちょうちん、朝比奈さんそのでかい星はクリスマスツリー用です。(未来はツリーも七夕に飾るのか?)
「おいハルヒ、おまえの短冊が見当たらないけど、書いてないのか?」
真っ先に途方も無い願い事を書いていても不思議ではないのに、それは見当たらない
先程までの元気さから一変して再びメランコリー状態に陥ったハルヒは、悲しげな瞳で笹を眺めている。
「うん・・・まだ書いてないの、月曜には書いてくるから大丈夫よ」
一体何を書くつもりなのだろうか、古泉の言っていた言葉がひっかかる
 
(涼宮さんは何か早く実現したい願望があるようですね)
 
それはどうやら俺にも関係あることらしい、例の「星の屑作戦」とやらもハルヒの願い事をかなえる事が作戦目的なら俺は無関係では済まない。
 
0705星の屑作戦発動二日前
 
土曜日で通常なら不思議探索でかけなばならぬのだが、期末試験も近いので試験休みになり自宅のリビングで俺は問題集と格闘していた。
「キョン、そこスペルが間違ってるわよ!」
「えっ、どこがだ?」
臨時家庭教師はハートマン軍曹のようにスペルの間違いを指摘する。
そう、休日にもかかわらず、ハルヒは俺の家までやってきて勉強を教えてくれる。口調のわりにはどこか楽しそうだ。
ごめんなハルヒ、本当はみんなと一緒に不思議探索に行きたかっただろう・・・・
ハルヒは短パン姿で、その長い足をあらわにしておりTシャツの下には薄っすらとブラが見える、これで勉強しろと言うのも酷な話だ
勉強場所を俺の部屋ではなくリビングにしたのは正解だった。それに相手がハルヒでも年頃の男の部屋にふたりっきりはマズイだろ
俺にだってそのくらいの常識はある、お袋に妙な誤解されたくもないしな
ようやく問題を解き終わり、ハルヒは赤鉛筆で採点を始めた。すると玄関のチャイムが鳴り妹がドタドタと階段から降りてきて応対に出た。
「あの・・・勉強中でしたか、すいませんおじゃまします」
妹とは対照的にしずしずとリビングに入って来たのはミヨキチだった。そう言えばミヨキチの短冊に「お兄さんと仲良くなれますように」なんて書いてあったな、古泉から聞いた話によると、その短冊を見たハルヒは不機嫌になり
俺を待たずに竹林に向かってしまったそうだ。何故?
「また今度、私に勉強教えてくださいね」
「いいよ、でも中学生になったら俺が教えてあげる事ができるかな?数学とか自信ないし」
 
「ベキ!」
 
何か音がした。ハルヒを見るとこちらには目もくれずに採点作業を続けているようだが、右手に握られてた赤鉛筆は真っ二つに折れている
そして顔を上げ俺をにらみつけた。
そんなに睨むな、自信のない解答がいくつかあったけど、赤鉛筆折るほど怒ることないだろ
「お兄さん、明日はお暇ですか?また見たい映画があるんですけど」
「明日は・・・」
そこまで言いかけたとき急にハルヒは立ち上がり、ミヨキチに向かって微笑みながら言った。
「ごめんね、今日の家庭教師代として、キョンは明日あたしに隣町のお祭りでたこ焼きとか綿飴とか奢らなきゃならないの、だから映画は無理なのよ」
おい!そんな話聞いてないぞ、勝手に俺の予定を組むな
しかし、鋭い眼光で俺を睨みつける団長様に逆らえるはずも無く、肯定せざるを得なかった。
その様子を妹がニヤニヤしながら見ている。何が面白いんだ?
二人は二階に上がり、ハルヒの採点も終わった。俺の間違えた問題をひとつひとつ丁寧に解説してくれる。さっきまでとはエライ違いだ
休憩に入るとハルヒが妙なことを聞いてきた。
 
「あんたわかってるの?それともわからない振りしてるだけ?・・・」
 
 
「そんな器用な事ができたら、もっと成績がいいはずだろ」
俺の答えが要領を得なかったのか、ハルヒはその日家庭教師が終わるまで、ずっとメランコリー状態のままだった。
その夜、昼の問題を復習していると携帯が鳴った。
「夜分遅く申し訳ありません、実は今日の昼ごろ小規模ではありますが閉鎖空間が発生しまして、何か心当たりはありませんか?」
「いや、特にハルヒを怒らせるような事はなかったぞ」
「そうですか・・・しかし注意して下さい。涼宮さんは繊細な方です。あなたから見て些細な事でも、ストレスを感じることがあるのですから」
また延々と嫌味とウンチクを語られても苦痛なので話題を変えた・
「わかってるさ、明日あいつと隣町の祭りに行くのだが、みんなはどうする?」
「遠慮しておきますよ、そこまで不粋ではありません、それに長門さんと朝比奈さんも例の作戦の準備がありますので明日は来れないと思います」
「一体なにをするつもりなんだ?」
「当日のお楽しみです。明日はお二人水入らずで楽しんできて下さい」
「おい!変な誤解をするな、あくまで家庭教師のお礼にだ・・・」
「ツー、ツー、ツー」
電話は切れていた。静けさを取り戻した部屋にはラジオから「夏の日の1993」が流れていた。http://jp.youtube.com/watch?v=HF3agTov9Rc&feature=related
 
0706星の屑作戦発動前日
 
日曜日、待ち合わせの公園には約束の15分まえに着いたのだが、毎度の事ながら先を越されており、電車が来るまでの時間つぶしに二人で喫茶店に入った。
「なにさっきからにやにやしてるのよ、気持ち悪いわ」
アイスカフェオレを飲んでいる白い首筋にどうしても目が行ってしまう。こいつの外見だけは文句のつけようが無い
昨年も愛用していたハイビスカス柄の浴衣、手にはお揃いの巾着袋を持っており、ここ最近伸ばした髪はポニーテール
時速90キロのストレートがど真ん中に来たようだ。しかしハルヒだぜ?冷静になれよ、俺
「いや、随分気合が入っているとおもってな、そんなに祭りが楽しみだったのか?」
「別にそうでもないわ、ただ浴衣を着てみたかっただけだから」
きれいな指がストローをもてあそんでいる。こんなにきれいな指だったか?知らなかったよ
変な気分になってきた。いつも一緒にいるのに今日に限って心臓が高鳴ってゆくのがわかる
「最近悩みでもあるのか?俺じゃ力になれんかもしれんが、話を聞くぐらいの事はできるぞ」
通常と違い俺のめずらしく優しい口調におどろいたハルヒではあったが
「特にないわよ、せいぜい雑用係の成績をどうやって上げようか考えるぐらいのものね。あんたはあたしの心配しなくていいから自分の心配をしなさい!」
時間も迫ってきたので伝票を持って先に俺が席を立つとちいさな声が聞こえたような気がする
 
「心配してくれて、ありがと・・・」
 
空耳ではなかったと思いたい。
 
宵闇が空を覆い始めた頃、俺たちは祭りの会場に到着し屋台の見物をしている、綿飴を食べながら楽しそうに俺の横を歩くハルヒを何人も男達が見惚れていた。
まあ、外見だけは良いからな、まさかこの浴衣姿の美少女が悪名高き北高SOS団団長とは夢にも思うまい
しかし何かがおかしい、今日に限ってハルヒはわけのわからん事を言い出さず。せいぜい俺に屋台のたこやきやらりんご飴をおねだりする程度だ
よく考えたらこれもおかしい、いつもなら団長権限とやらで強引に買わせるくせに
「ねえキョン、とうもろこし食べたい」とか言って100ワットの笑顔を俺に向ける
情けない話だが、怒っている顔より100ワットの笑顔のほうが俺にとっては効き目が強い、そして「やれやれ」とつぶやきながらも買ってしまう
どう見ても恋人同士だ、徐々にフィルターの機能が低下してきているのがわかる。俺の理性よもってくれ、おや、俺もどこかおかしいぞ
屋台の灯りに照らされたハルヒの顔をじっと見つめてしまう、瞳はキラキラと言う擬音語がぴったり合うほど輝いており、その無邪気な笑顔にどうにかなりそうだ。
「なによ、あたしの顔になんかついてる?」
「なんでもねーよ」
「ふんっ、エロキョン」
ああそうですとも!おまえが俺のフィルターをぶっ壊す寸前まで追い詰めたからじゃねえか!
そんな俺の心の内を知ってか知らずか、ハルヒも頬をりんご飴のように染めているようにみえるが、多分照明のせいだろう
「キョン!金魚すくいやりたい」
その笑顔をやめてくれ、今の俺はどんな要求にもイエスとしか返事ができないし、どんな質問にも正直に答えてしまう
集中力を失った俺は一匹も採れなかったが、ハルヒは7匹も捕まえ、その中から気に入った黒と赤の金魚2匹をビニール袋にいれて持ち帰ることにした。
「俺の家はだめだぞ、シャミセンが食ってしまうおそれがあるからな」
「しょうがないわね、あたしの家で飼うわ、それより見てよ黒い金魚、間抜け面があんたにそっくり、よし!この子の名前は「キョン」に決定」
「勝手に俺のあだ名を使うな、そんな事言ったら、この赤い金魚はふくれっ面で怒った時のおまえにそっくりだから「ハルヒ」と命名しろ」
「何言ってるのよ、バカキョン!」
ハルヒは空いてる右手で俺の胸を小突いたが、いつもの破壊力は無く、まるで猫がじゃれているように心地よい、
そして俺の心臓は回転数を更にあげてしまった。
人ごみが凄いのでお互い無意識に(フィルターは限界に近い)手をつなぎ川辺の静かな場所に移動してそこにあるベンチに腰を下ろした。
「ボチボチ帰るか、おまえの親も心配するだろ」
「うん・・・でももう少しだけ、ねえキョン、今日はあたしと一緒にいて楽しかった?」
「あたりまえだろ。おまえは楽しかったか?」
「まあまあね、家庭教師代が不良債権にならずに済んだわ」
静寂と暗闇があたりを支配していたが、突然光に包まれた。
「見てよ、花火までやってるのよ!」
ハルヒは花火を見たあと言葉を失った。さっきまでは気づかなかったが周囲では何組ものカップルがいちゃついている。
耳を澄ませば茂みの中からはガサゴソと人の動く音と共に、怪しげな声まできこえてくる
「キョン・・・」
俺たちは見つめあい動けない、そしてハルヒは瞳を閉じる
フィルターも理性も完全にぶっ壊れてしまった。「迷わず行けよ、行けばわかるさ」アントニオ猪木の言葉が頭をよぎる(おまえやれんのか!?)
俺はハルヒの両肩を掴み、顔を近づけた。これで二度目だよな、しかしハルヒの体は小刻みに震えている、こいつの肩ってこんなに細いのか・・・
 
「サンド~バ~グに浮かんで~きえ~る」
 
俺の携帯の着信音「あしたのジョー」がけたたましく鳴って、ハルヒは我に返って顔を暗がりでもわかるくらい真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
仕方なく電話に出る
「おいキョン、この前貰った巨乳物のエロ本、凄く良いぞ国木田に貸してやっていいか?」
「このゲロハゲ!もう少しだったんだぞ、あしたおまえのテンプルにクロスカウンター叩き込んでやる!真っ白な灰になるまでな!」
「空気読め!」とはこのような事態に陥って初めて使って良い言葉であろう
もしかしたらどこか近くで俺たちを見ているのか?そして心のどこかでほっとした。
結局ハルヒはまたしてもメランコリーになってしまい、そのまま一言も喋らず駅まで来てしまった。
「キョン、携帯が鳴ってほっとした?・・・」
俺の返事も聞かずハルヒは闇の中に消えていった。
 
 
星の屑作戦発動当日
 
部室では七夕パーティーが行われている。クソ暑いなか団員たちの他にも鶴屋さん、国木田、そして昨夜絶妙のタイミングで俺の理性を守りやがった谷口
阪中さんから預かった短冊には「ルソーがずっと元気でありますように」と書かれている
万一軽い病気にでもかかったら、彼女は入院してしまうな
テーブルの上にはお菓子がおかれ試験前の息抜きにみんなは大喜び、様子を見に来たコンピ研部長氏も参加し短冊に願い事を書いている
「長門さんが次期部長になってくれますように コンピ研一同」
やっぱりそれですか・・・「嫁」になってくれますようにじゃなくてよかったが
 
「ハルにゃん、どうしたっさ?元気がないにょろよ」
実は今日ハルヒとは口を聞いていない、俺もどこかおかしかったのか昨夜の出来事がきまづく感じられ目も合わすことすらできない
「なんでもないわ!あたしはいつでも元気いっぱいよ」
「そういえばハルにゃんの短冊がみあたらないけど、書いてないのかいっ?」
「うん・・・何を書いていいか悩んじゃってね」
そのとき風鈴の音が部室に流れ、一時の静寂が訪れた。
おい!国木田こっちをみてニヤニヤするのはやめろ、古泉だけで充分だ
肩を叩かれ振り向くと谷口が俺の目をみつめて何度もうなずいている、何が言いたい!?
おまえが下らん電話をしなければ・・・・どうだったのだろう?正直わからない、周囲の雰囲気に乗せられただけかもしれないし、俺の勘違いだったかもしれん
顔を合わせて正直な事を伝えるのはさすがに無理だ、どうすれば良い?
 
パーティーも終わり玄関に向かおうとすると
「ごめん、忘れ物しちゃった。みんなは先に帰っていいわよ」
と言い残しハルヒは部室に戻ってしまった。
「しょうがねえ、つきあうか」
俺がハルヒの後を追おうとすると何者かが俺の袖を小鳥でも掴むような弱弱しい力で引っ張る、前にもこんなことがあったな
「どうした長門?」
「行っては駄目・・・・」
へっ、なんでだ?
「僕もその方が良いと思います。」
「わっ、私もそうおもいますぅ」
朝比奈さん、古泉まで、ハルヒは部室に何を忘れたのですか?
「涼宮さんが部室にひとりで引き返した理由をあなたにもわかっているはずですよ、それより今夜「星の屑作戦」を発動します。11時にお迎えにいきますから」
もうわけがわからん、この話にどんなオチをつけるつもりだ?作者よ
 
 
0707・23時00分・星の屑作戦発動
 
夜23時、俺の家の前に車が止まる音がした。「星の屑作戦」開始らしいお袋と妹の目を盗んで外に出ると
黒塗りのタクシーが止まっていた。ドアが開き後部座席に座ると車は動き出す。
「新川さん、俺をどこに連れてゆくつもりですか?」
「市内のとある場所です。すぐに到着しますのでご安心を」
15分ほど走って車は止まる。無人の雑居ビルの前だ
「終わりましたらお迎えに参ります。星の屑成就の為に頑張って下さい」
車を降りた俺は呆然と空を眺めた。天候にも恵まれ天の川がはっきり見える、どんな願い事も今夜ならかなうような気がした。
ビルの中から古泉が出てきて俺を案内する。
「実は「機関」の重要な施設でしてね」
一体この雑居ビルに何があるのだ?
案内された部屋では長門と朝比奈さんも待機しており俺を待っていた。
案内されたのは小さなラジオ局、ミキサー室とおおきな窓ガラスで遮断された部屋には大きなマイクがぶら下がっている。
「そろそろ種明かしを頼む、俺に何をさせるつもりだ?」
その声を待っていたかのように古泉が語った。
「このラジオ局からの放送は涼宮さんの部屋でのみ聞く事ができるようになっております。涼宮さんが学校では言えない悩みをリスナーからのメールと言う形で投稿してくれるわけです、ごくまれに彼女が聞いて欲しいと願った相手にはこの放送が受信できることもありますが」
それで俺に何をしろと?まあ薄々わかってきたがな
「今日は七夕特別企画としてあなたにパーソナリティを勤めて貰います。これは今までの内容をまとめたものです」
古泉から渡された書類に目を通すと気を失いそうになった。本当にハルヒがこれを投稿したのか?みているだけでもこっぱずかしくなる内容だ
「キョン君、お願いします。今夜だけは正直になって涼宮さんのリクエストに応えてあげてください・・・」
そんなこと言われても、困ったなどうしよう
「ここで逃げたらあなたは本当にひねくれ者、軽蔑する、やってみて後悔するほうがやらずに後悔するより良い、このままではジリ貧になるのは眼に見えている」
長門は俺を脅迫しているのか?以前宇宙人に殺されかけたときの台詞を俺にぶつける
そして古泉は仮面を外し真顔になっている
「僕の仕事は涼宮さんの笑顔を作る事です、それは「機関」の仕事よりも生きがいを感じてます。その笑顔が僕に向けられるものではないのがいささか残念ですが」
3人は俺をみつめてプレッシャーを掛けてくる、もはや断る事などできはしない
「わかったよ、ただし放送が始まったらみんなスタジオから出て行ってくれ、それが条件だ」
「最初からそのつもりですよ、機材の操作は長門さんが遠隔操作してくれますのでご安心を」
長門がいる時点でこの放送内容が全てばれてしまうのは規定事項だが、これは気分の問題だ
「では台本をおいてゆきます。オープニング曲が鳴ったら放送を始めてください」
しばらくすると12時の時報と共に深夜ラジオではおなじみの曲「ビタースウィートサンバ」が流れてきた。http://jp.youtube.com/watch?v=N2H23aJxWOk
 
 
みなさんこんばんは、七夕の夜いかがお過ごしですか?スタジオの窓からも天の川がはっきりと見えます。
今夜ならどんな願い事もかなうでしょう。この放送は西宮市某所をキーステーションにあなたに向けてお送りします。
ではさっそくリクエストのコーナーから、
もうすっかり常連ですね西宮市の「カチューシャ」さんからのメールです。いつもありがとう鈍感な彼とはその後どうなったのかな?
 
こんばんは、いつも楽しく聞いています。あの鈍感、試験が近いのにボーッとしてるからもう大変、今あいつの為に問題集をつくっているの。
大変だけどあいつと一緒の大学にいきたいから頑張らなきゃ
今日は部室の笹に短冊を着けてきました。ひとつは
「あいつの正直な気持ちが知りたい」
もうひとつは
「あの人の声がもう一度聞きたい」
あの人って言うのは鈍感な奴じゃなくて4年前の七夕に一回だけ会った。謎の男子高校生の事です。不思議な人だったから声だけでも聞きたかった。
だから願いがかなうようにこの曲をリクエストします。
 
 
今日はいつものパーソナリティではなく俺が答えるよ、いいかな?
カチャーシャさん、彼は怖いだけだと思うよ、万一告白して失敗したら仲間たちとの関係がおかしくなってしまうし彼は成績があまり良くないみたいだから、自分じゃカチューシャさんにふさわしくないと思っているんだよ
だから、今は、まだ待ってあげて欲しいな、必ず彼は成績をあげて同じ大学に合格できたらカチューシャさんの思いに応えてくれるはずだから。
 
では願いがかなうようにリクエストされたこの曲「星に願いを」聞いて下さい。
http://jp.youtube.com/watch?v=WIbxLEdr7fs
この時間のお相手は世界を大いに盛り上げるジョン・スミスでした。
みなさんおやすみなさい
 
 
俺が放送ブースから出てくると古泉たちが帰ってきた。
「お疲れ様でした、玄関で新川さんが待っておりますので、そのままお帰りください、また明日学校で会いましょう」
 
0708星の屑作戦終了
 
ビルから出て空を眺めたら天の川に流れ星が走った。ふたりの思いを繋ぐように。
ハルヒ、おまえはどこかで今の流れ星をみているのか・・・
 
 
あたしはラジオの電源を切り外に出た。空を眺めると天の川がはっきりみえる、ジョンとあたしは織姫と彦星みたい、七夕の時しか接触できないし
でもあのジョン・スミスを名乗ったラジオの声、毎日聞いている気がする
天の川に流れ星が見えたとき、あたしはジョンの正体についての答えがでた。
でもありえない話だし、もしそうなら、いつかきっとあいつの口から真実を語ってくれるはずだから、あたしの胸にその答えはしまっておこう 
 
 
答えはいつもあたしの胸に・・・http://jp.youtube.com/watch?v=k4EhwdPIijo
 
終わり、二人ともよい七夕を