「涼宮ハルヒの結末」 (91-946)

Last-modified: 2008-06-18 (水) 01:35:02

概要

作品名作者発表日保管日
「涼宮ハルヒの結末」91-946氏08/06/1708/06/17

作品

「タダの人間には興味ありません、この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい!」
 
あのとんでもない自己紹介から10年経った。
 
「いいのですか?こんなところでゆっくりしていて」
行きつけの喫茶店「ペルソナ」で俺はちょいと遅めのモーニングコーヒーを楽しんでいる。
「書斎に居てもなかなか良いアイディアが浮かばんからな」
「そろそろこっちにやってくると思いますが」
古い付き合いのマスターが俺を促す。
「じゃあ、いつも通り裏口から失礼するよ、あの恐ろしいアシスタントに見つかったら書斎に強制収用されちまう」
「10年経ってもお2人はかわりませんね」
「そのニヤケ面だって10年経っても変わらんだろ」
俺は裏口から外に出て足早に去った。
 
「カラン、カラン」ドアの鈴が鳴り、息を切らせた女が凄い剣幕で来店した。
「いらっしゃいませ」
「古泉君、キョンがどこにいったか知らない!?」
「先ほど、裏口から出ていかれましたが」
「あのバカキョン!原稿がどれだけ遅れてるかわかってるの?、今日有希が取りに来るのに」
こんなに大騒ぎしても客がほとんど居ないので問題ない。
店のあちこちには懐かしいボードゲームが並んでおり静かなものだ。
たった一人の客は、美しい長髪を背もたれから垂れさせ一番端のカウンター席でモーニングセットを食べている、スーツの着こなしも完璧だ
「おっはよーハルにゃん今日もキョン君と鬼ごっこかなっ」
「あっ、おはよう鶴屋さん、今日もここで朝ごはん?」
「一樹君の煎れたコーヒーがおいしいからさっ、飲まないと仕事に行く気にならないにょろ」
「お父さんの仕事手伝ってるんでしょ、うらやましいな」
「全然楽しく無いっさ、ハルにゃんが逆にうらやましいにょろ、大好きな人と好きな仕事ができてさっ」
「たっ、楽しくなんて無いわよ、でもあいつあたしが見てないと高校時代をネタにした変な話ばっかり書くから」
「ごめんね鶴屋さん、これからキョン探さなきゃなんないから失礼するわ」
セミロングの髪をポニーテールにした女は獲物を追うシェパードのような速さで店を去った。
「あのふたりも相変わらずですね、見ているこっちが恥ずかしくなりますよ、未だに慣れません、困ったものです。」
「でも、本当にうらやましいな・・・」
それまでの明るい口調から一転して髪の長い女はマスターにつぶやいた。
 
これが俺の今現在の状況だ、高校卒業後、俺はハルヒや古泉、長門らと悲しくも学力の差により別の大学に進学した。
ハルヒ達は地元の大学だったが俺は上京し一人暮らしをしていた。
SOS団の仲間たちとも年に数回しか会うことも無く、俺は宇宙人でも未来人でも超能力者でもない友達と平凡な大学生活を送っていた。
高校卒業後のハルヒは閉鎖空間を発生させる事も無くなり、奇怪な力が発揮されることもなく現在に至っている。
俺に転機が訪れたのは大学3年の時の事だ、もともと文系人間の俺は高校時代が懐かしくなり、それを元ネタに小説を書いた。
それが大学の仲間たちに大好評で薦められるがままにある雑誌の賞に応募したところなんの間違いか大賞を頂いてしまった。
その結果、大学卒業後には小説家なるものに就職し地元に帰った。
今は長門と同じ高級マンションにアシスタント(こう呼ばれると怒り出す)と住み執筆活動をしている。
地元に帰った俺を待っていたのは、俺の小説の元ネタ提供者による押し売り就職活動であった。
「あんた、あたしの許可も無く、なんで勝手にSOS団をモデルにして小説なんて書いてるの!あたしがこれからずっと一緒にいて監視するからね」
とそのまま俺の自宅にいついてしまった。
なんでも大学でも優秀な成績でかなり良い就職も決まっていたのに、俺が小説家になったと知るやそれを辞退してしまったらしい
誤解なきよう言っておくが男女の関係は無い、しかし俺にとっては大事なパートナーだ。
無精な俺の家事全般に気を使ってくれて、出版社との交渉事もすべてハルヒまかせ、おかげさまで俺は執筆に専念できている。
もっとも、人気シリーズ作品の最終巻が当初の予定より一年以上遅れており担当者を困らせているが
その担当者とも10年の付き合いなので無理を聞いてくれる、しかしあの漆黒の瞳に見つめられ続けると罪悪感が募った。
朝比奈さんは大学卒業後ふるさとに帰った。いくらハルヒが聞いても場所を教えず去っていった。
ハルヒを除く全員が朝比奈さんが帰るべき場所を知っているのだが、口にはできない悲しさを共有している。
最後にあったときは完全に朝比奈さん(大)になっていたから、今頃10年前の俺に逢っているかもしれない
またあの胸にある星型のほくろを思春期真っ盛りの俺にみせてしまうんだろうな
ちなみに古泉は、ハルヒの力の低下に伴い機関は縮小され最低限の監視のみを任務としている。喫茶店を開いたのには驚いたが・・
しかしペルソナ(仮面)とはあいつらしい意味深なネーミングだな
 
結局俺はハルヒによって連れ戻され担当編集者と打ち合わせの真っ最中。
ショートカットは相変わらずだが良く見れば常人でもわかるぐらい感情を表に出すようになった。
「長門、スマンまだ書けて無いんだよ、今までは高校時代のことをそのままディフォルメしてりゃあ良かったんだが、最終巻の主人公とヒロインをどうしていいかわからんのだ、もう少し待ってくれ」
「そう・・・あなたが納得行くものを書けば良い、私は待つ」
本当にありがたい担当編集者だ、かなりの無理を出版社に通してくれてるのだろう
「しかし、あなたの作品を楽しみに待っている読者や関係者のことも少し考えてほしい」
長門はこの10年で最も変わったのかもしれない、自分の意見なんて聞かれない限り口にはしなかったし、他人のことまで気にはかけなかった。
今まで無頓着だった服装もかなり気を使うようになり、出版社随一のクールビューティーとしてその他社員の憧れの的だ
ついでに言えば高校卒業後ハルヒからの情報爆発は全く無くなったので、親とも言える情報統合思念体から任務を解かれて
怪獣をすべて倒したウル○ラマンのように宇宙に帰っても不思議ではなかったのだが、情報統合思念体は昔の俺が言った
「もし長門が消えてしまったらハルヒをけしかけおまえを消し長門をタダの人間として連れ戻すぞ」
との脅迫を律儀にも覚えていたらしく、そのまま長門を地球に残してくれた。
しかし、空間閉鎖をはじめとする数々の宇宙的能力は長門から失われてしまった。
でもそんなことは関係ない長門は俺達の大事な仲間だ。
それに人間としての能力は高校時代から全く変化なく、驚異的な知識と運動能力そしてコンピューターの扱いは常人の域ではなかった。
大学卒業時には元コンピ研部長氏が設立したソフトウエア開発会社に熱心に勧誘されたが俺とハルヒの近くにいるため出版社に就職した。
たまにバイトで部長氏の会社に顔を出している、それだけでその会社が業界屈指の大企業にわずか3年あまりで急成長したのだから長門有希恐るべし
ハルヒが不在の時を見計らって、古泉そして長門と高校時代の事を小説化する相談をしたが、全く反対意見は無かった。
古泉いわく「どう考えても常識的に考えられない話ですから名前さえ変えれば問題ありません、
それに涼宮さんはこの話をフィクションと認識するのでかえって好都合です」
との事、それには長門も全面的に賛成した。
俺も俺なりにやばいと思う部分はフィルターをかけており安全性の向上をはかった。
最大の懸案事項であるハルヒの不思議パワーも無くなっている。
 
最近の懸案事項は原稿の遅れ以上にハルヒのことだった。
お互い20代半ばである、給料は充分な額を幸い払う事ができている、しかしいつまで俺と一緒に働いているつもりだろうか
ハルヒにはハルヒの人生があって、そろそろ結婚話のひとつやふたつ親から勧められてるのかもしれない。
ただの仕事のパートナーでも男と同居(同棲ではない、念のため)し続けていたら良縁があっても不意にしてしまう
うちの妹なんて大学生なのに婚約してしまった。
相手をつれて俺の家に挨拶にきたときは俺もハルヒも腰を抜かした。
俺がメガネ君と呼んでいた、かつてハルヒが家庭教師を務めていた近所の男の子だった。
今は大学で「時空平面ナントカ理論」を研究しているらしく日夜研究にいそしんでいる。
朝比奈さん(大)がこの義弟となる男を守ろうとしていたのは、このことが理由だったってことは理解できる。
妹が「キョン君もはやく結婚したら~」なんて言っていたが、鬼のようなアシスタントと
冷静極まりない編集者に追い回されてる俺に相手がいるわけないだろ
いつまで俺を「キョン君」と呼び続けるのだろうか?
 
話がずれた。
長門が帰ってしばらくの間俺は書斎にこもってワープロソフトと格闘していたがどうにもならない
小腹が空いたのでダイニングに向かう。テーブルの上には夜食のおにぎりが用意されており手紙が添えられている。
「キョンへ、あんまり無理しない事、あと洗濯物は干して箪笥にしまっておいたから感謝しなさい、今日は実家に帰るわ、明日には戻るから」
このままで良いのか?と考える、俺はともかくハルヒは結婚適齢期だ、こんな生活させていたら、あいつはずっと俺と仕事を続けるだろうし
それが良いとは思えない
そろそろはっきりしなきゃいけない時が来たようだ。多分ハルヒは首を縦には振らないとはおもうが、こんな関係ズルズルと続けるわけにはいかない
お握りを頬張りながらテレビをつけると地元のローカルニュースが流れていた。
「県立北高校の旧館、現部室棟が老朽化の為、来週から取り壊し工事に入ります」
俺たちが在学中もかなりぼろかったのでいよいよ来るべきものが来たのだろう、色々な思い出が甦る。
最後はこの部室で終わりにしよう、俺の小説もハルヒとの奇妙な関係も、食事を終えた俺は執筆意欲を取り戻し書斎に戻った。
 
翌朝、早めに古泉の喫茶店に向かう
「おはようございます。今日は早いですね」
「実はおまえに話があって早目に来た」
古泉は俺のいつにない真剣な表情に仮面を外し真顔になっている
「部室棟が来週取り壊されるの知ってるか?」
「はい、もちろんです」
「実は明日ハルヒと2人で最後のお別れをしてこようと思う、俺はその場であいつとのけじめをつけるつもりだ」
「どのようなけじめかは伺いませんよ、僕はそこまで無粋ではありません」
「何年ぶりかのバイトが入るかもしれんぞ」
「それは無いと思いますけどね、ようやくあなたと対等な友人になれますよ、その時は・・・」
「ああ、男ふたりで昔話でもしながら酒を酌み交わそう、上手くいったらの場合だがな」
カラン、カランと鈴が鳴りもうひとりの常連客がやってきた。
「鶴屋さん、おはようございます」
「キョン君きいたかなっ?部室棟が取り壊されちゃうにょろよ」
「ええ、知ってますよその件について古泉と話をしてたんですが、そろそろ行かなきゃならないところがあるんでこれで失礼します。」
俺は鶴屋さんから逃げるように店を出た。
 
「一樹君、キョン君はなに話してたっさ」
「僕の口からは言えません、しかし長年続いたアルバイトがもう終わりになります」
「そしたら、いよいよただの喫茶店のマスターじゃないかっ」
「ええ、ですから僕は「ただの喫茶店のマスター」になります。それ以上でもそれ以下でもありません」
「いいな、一樹君は好きな仕事ができて、私なんかただのお飾り物よ・・・」
髪の長い女の人は急に悲しげな顔になり、笑顔のマスターは急に真剣な顔になった。
「身の程知らずを承知でお願いします。この店で僕と一緒に働いてくれませんか?」
髪の長い女の人は驚いた様子でマスターをみている
「そっ、それってプロポーズかなっ」
「そう受け止めて貰って結構です。ご存知でしょうが僕のバイト先が閉鎖します、そうなればもう障害は無いはずです」
マスターの声が震えている、
「ありがとう!返事はキョン君とハルにゃんがはっきりしてからでいいかなっ」
「一向にかまいません、しかし良い返事を期待します。あと、明日の夜に貸切パーティーの予約が入りました。お待ちしております」
髪の長い女の人はマスターを手を振って店を後にした。
 
「長門、これでいいか?」
場所は出版社の応接室、ここでようやく最終巻の原稿を完成させた俺は担当編集者にその原稿を見てもらっている。
「問題ない・・・誰もが望んでいた結末」
「そうか?はっきり言って余り自信は無いんだが」
長門は俺を不思議そうな眼でみている、未だにこの眼をしているときの長門は苦手だ
「なぜあなたがこの結末を書くのに時間がかかったのか、私には理解できない」
「結局怖かったのさ、これは俺とあいつの分身みたいなものだからな」
「怖れる必要は無い、あなたはもっと自信を持つべき、涼宮ハルヒもそれを望んでいる」
「明日、あいつとふたりで部室にお別れをしてくるよ」
「そう・・・」
原稿を受け取り長門は席を立とうとした。
「長門、今日はうちに夕飯食べにこないか?あいつも今夜は帰ってくるから」
長門は振り向き、思ってもみなかった事を口にした。
「ごめんなさい、今日は約束がある」
その顔は明らかに紅潮し俺と眼を合わせようともしない
「この原稿の完成祝いに同僚の男性と食事に行く約束をした・・・」
マジか?嬉しい事だが俺の心には一抹のさみしさがあった。
「その人から今夜大事な話があると言われている、おそらく・・・」
長門、言わなくていいよ、おめでとう。もう俺とハルヒの心配をしなくていいから自分とその人の事だけ考えろ
次の瞬間10年かかって初めて長門の満面の笑みをみた。
「ありがとう、すべてあなたのおかげ、あとはあなた自身の結末を完成させて」
長門は原稿の束を抱え去ってゆく、その様子を顔見知りの男性社員が見ており、帰り行く俺に頭を下げた。
 
翌日、ハルヒと共に北高に向かう、長い坂道を車も使わずふたりで歩いた。
職員室に着くと若い男性教師が応対に出てきて鍵を渡す。
「ハルヒ、俺はちょっとこいつと話があるから鍵を持って先に行っててくれ」
「わかったわ、先に行ってる」
俺はその教師と1年5組があった教室に向かった
「ちょうど、春休みで良かったぜ、生徒が居たらいまや有名人のおまえはもみくちゃだ」
俺は窓際の後ろから二番目の席に、その教師はかつて自分が座っていた席に腰を下ろした。
「まさか、おまえが小説家になるなんて想像もしなかったぜ、小説を読んだ生徒たちに俺の青春時代が暴露されて大変だよ、少しは格好良く書いてくれ」
「そんなこと言ったら、おまえがまさか教師になって北高にいるなんて想像もしなかったぞ」
「覚えてるか?眼鏡の生徒会長、今じゃ県会議員でじきに国政にうってでるらしいぞ」
「ああ、覚えてるさ部室棟を残そうと色々骨を折ってくれたらしいな、昔文芸部を潰そうとしたのにな」
「秘書の喜緑さんと一緒に来て頭下げてたよ、あれはそのうち大物政治家になるぜ」
懐かしい風景が広がっている、この教室で俺はあいつと出逢ったのだ、色々クラスメイトにも迷惑かけたが
「そんなことねーよ、俺たちも楽しんでたんだぜ、いつになったらお前らがひっつくのかをな」
教師からこの教室で共に学んだ友人に戻っている
「ぼちぼち、部室に行ってやれ、あいつを待たせたらどんなに恐ろしいかおまえが一番良く知ってるだろ」
「わかった。もういくよ」
俺が教室を出ようとドアを開けたとき後ろから声が聞こえた
「キョン、俺は5分しかもたなかったが、おまえならどっちかがくたばるまで大丈夫だろ、いい加減決めて来い」
「ありがとよ、谷口」
俺は振り向きもせずに答えた。
 
部室棟につながる渡り廊下を通って三階に上がった。そういえばよく廊下で朝比奈さんが着替える終わるのを待ってたな
となりのコンピ研があった部室と文芸部室の間にコードが引かれてた跡が残っている。
さんざん迷惑かけられた部長氏だったが、結局そのお陰で大企業の社長になれたんだよな、あのゲーム対決は損して得をとった結果になった。
さて、ドアをノックしよう、まさか「ひゃーい」なんて懐かしいスウィートヴォイスが帰ってくるとは思えんが
 
さて丁度その頃、喫茶店「ペルソナ」ではマスターが貸切パーティーの準備に追われている。
カラン、カラン
「御待ちしておりました。そろそろお見えになる頃かと思いまして」
「久しぶりね、古泉君、長門さん」
教師風の服装をしたセクシーダイナマイトが客がひとりしかいない店に入ってきた。
「ひさしぶり・・・」
カウンターで読書中の敏腕編集者は小声で答える。
「今夜のパーティーには出席されないのですか?」
「出席はできないけど、私が喜んでいたと伝えてほしいな」
「まだ結果はでてませんよ、規定事項なのですか?」
「あっ、いけない禁則事項だったのに」
「まあ、結果はわかりきってますけどね本人以外は」
「一度だけこの時間平面のふたりに逢うわ、多分6月ぐらいだと思うけど」
「そのときは、必ずブーケを受け取ってください」
コーヒーを飲み終えたセクシーダイナマイトが立ち上がった。
「ごめん、もう行かなきゃ、今から高校生のキョン君に逢いに行くの「白雪姫」を教えに」
 
再び部室に戻る
「遅いわよ、罰として今日の帰りに夕飯おごりなさい!」
「スマン、谷口と話し込んじまった。」
「原稿だって遅くて有希に迷惑かけてるんだからね!」
ハルヒは俺を待っている間、すっかり物置になってしまった部室から懐かしいものを見つけ出していた。
埃まみれで字はすっかり霞んでしまっているが、間違いなく団長席に置かれていた三角錐だ。
「見てよキョン、これ残ってたんだ、持って帰っていいかな?」
「大丈夫だろ、どう考えてもこの学校よりおまえが持っていたほうが価値があるだろうしな」
ハルヒは机を引っ張り出し、かつて自分が座っていた場所に移動させて、その三角錐を置いた。
「思い出してきたよ、長門が本棚の前で置物のように本を読んでて、朝比奈さんがメイド服でお茶を煎れてくれて、俺と古泉はボードゲームをしてるんだ
そんな時間がゆっくりと流れてると、突然ドアが開いておまえが100ワットの笑顔で笑っていて厄介ごとをもってくるんだよな」
「あんたはそれをネタに本を書いてるんだから覚えててあたりまえじゃない、いつになったら最終巻の原稿はできるの」
「昨日脱稿して長門に渡したよ、これでOKだってさ」
ハルヒは怒ったような顔を近づけて俺に聞いてきた。
「ふ~ん、それであのふたりはどうなるの?やっぱり曖昧なまま終わるわけ?」
ここからは小説の話か俺たちふたりの話かわからなくなってくる。しかし俺は小説の中だけ歴史を改ざんした。
「いや、卒業式の後、何もなくなった部室に主人公がヒロインを呼び出し、告白して終わるんだ」
それを聞いたハルヒは驚いた様子で顔を真っ赤にしている。
「へっ、そっそれじゃモデルになった話と全然違うじゃない」
微妙な雰囲気が部室を支配しているが、ここからが本番だ
「早いもんだよな、初めてここに来たのはお互い16だったのに今じゃ26だ、ほら俺はともかく女はそろそろな・・・」
「そろそろ何よ!あたしが結婚できないとでも言いたいわけ?そっそりゃああたしだって・・・」
おい、まさかとは思うが
「結婚願望あったんだ・・・おまえにも」
ハルヒは俺から眼を背けて後ろを向いてしまった。まさか勘弁してくれここまで来たのに俺の独りよがりだったのか?
しかし、確かめねばなるまい、どっちみちこれで終わりだ。
「ひょっとして好きな人がいるのか、ハルヒ?」
ハルヒは俺のほうに向き直って、長門のようにミクロン単位でうなづいた。
終わった。俺の人生もうだめだ、いや、まだだ、まだ終わらんよ!
恐る恐る尋ねる、最後まで意地を張り続けるとは俺も馬鹿な男だ。
「へっ、へえ~どんな奴なんだ?」
ハルヒはうつむき俺の顔を見ようともしない 
 
「ずっと、そばにいてくれた人、何年もずっと・・・ずっと・・・いつも・・・」
 
いたか!?そんな奴ハルヒにいたのか!?こいつはなんでそんな奴を待ち続けてるんだ?頭に血が上った。
「そんなに長い付き合いなのか!?そんなにおまえを待たせてるのか!?なんで俺に黙っていた、そんな奴はろくな男じゃないぞ」
 
「・・・そう、ろくでもない男なの、すごく鈍感で何を考えてるのかさっぱり判らない、ずっと一緒なのに」
 
俺はハルヒをそこまで待たせている男に嫉妬した、どこのどいつだ、その大馬鹿野郎は、名前を聞き出して一発ぶん殴ってやる!
ああ、そうさ!当たり前だろ!?
 
「だから誰だって、そいつは!?」
 
ハルヒはようやく顔を上げたが、その顔は100Wの笑顔でも、憤怒の表情でもない
今まで見たことも無い、眼を真っ赤にして、絶望の淵に叩き込まれたような表情をしていた。
 
「あたしにそこまで言わせる気?・・・バカキョン!」
 
 
俺の脇をすり抜けて、猛スピードで走り去ろうとしたハルヒの手を間一髪で掴んだ
 
まさか・・・
 
俺はかつて閉鎖空間でそうしたようにハルヒの両肩を掴み、今度は違う事を言った。一世一代の大勝負、神よ我に力を与え給え
 
「ハルヒ、小説と同じかもしれんがここで終わらせる」
「何よ急に、マジな顔しちゃって」
「二度と言わない、俺は下手な小説を書くしか脳のない男だし、おまえの望む宇宙人、未来人、超能力者でもない、こんなこと言う資格ないかもしれんが」
「ゴチャゴチャうるさ~い!だから何が言いたいの!?」
 
 
「頼む、俺と結婚してくれ」
 
 
「・・・その一言・・・待ってた・・・ずっと」
 
ハルヒは涙が止まらない両目を閉じ、俺はその唇に自分の唇をかさねる。
 
「本当はね、ずっと前からキョンのこと好きだったの」
「ずっと前って、いつからだ?」
「わすれちゃった・・・」
 
 
机の上では三角錐が太陽の光を受け影を作っていた。
  
  おわり