「真夏の同窓会・後編」 (131-850)

Last-modified: 2011-07-19 (火) 23:33:07

概要

作品名作者発表日保管日
「真夏の同窓会、中編」131-908氏10/08/1810/08/21

 

作品

例の一件以来ハルヒとはなんとなく気まずい雰囲気が続いており連絡すらとれない、
SOS団花火鑑賞会と俺の同窓会の日程がもろにダブってしまい、当然ハルヒは激怒するものと思っていたが渋々ながら了承してくれた。
しかしわからん、なぜ花火鑑賞会ではなく同窓会を優先させたぐらいで泣く必要があるんだ?怒鳴り散らして大暴れしてくれたほうがよっぽど楽だよ
そんなことを考えていながら夕闇せまる北口駅前の公園で待っていた。相手はハルヒでも宇宙人でも未来人でも超能力者でもない、中学時代の知り合いだ
そうこうしてるうちにその人物は約束の時間より少し遅れて姿をあらわした。
 
「やあキョン遅れてすまない、夏期講習が思ったより長引いてね」
「気にするな、でも大丈夫か?色々と忙しいんだろ」
「僕に気を使ってくれるのかい?一年以上連絡をくれなかったくせに」
「もともと筆不精なんだよ、時間あるならそこの喫茶店で全部決めちまおう」
そう言って俺は「女子の幹事」といつもはハルヒに強制的奢らされるに入店した。
佐々木とは一年近く学校や塾でつるんでいたがそれ以外に遊びにいったり、こうやって2人で喫茶店に入る事もなかった。
「キョン、会場だが居酒屋は未成年である僕らの予約を拒む可能性が高い、だがカラオケボックスなら予約は取れる、意見はあるかい?」
「ん・・・?ああいいんじゃないか」
「何か不安材料でも抱えているようだね君は表情に心理状態がでやすい、先程から僕の話など上の空で違う事を考えている」
「悪いな、最近色々立て込んでてよ、でも大丈夫だカラオケボックスはいつもハルヒ達と使う店があってパーティルームも広いから予約しとくよ飲食物の手配もしとく」
「飲酒は厳禁だよ、予算はひとり三千円ぐらいで二時間でいいだろう、しかし君は中学時代からの親友と同窓会の打ち合わせをしている時も涼宮さんを忘れないんだね」
「四六時中一緒にいるからな現在進行形でよ」
「羨ましいよ、どうりで僕の事など思い出しもしないわけだ」
「忘れたわけじゃねえ、ただ北高に入ってから、いやハルヒと出逢ってからあまりにも色々あってな・・・っておい佐々木!なんかこの会話変じゃないか?」
「僕もそう思う、自覚症状のなかった病気の一種に感染した事実を知ってしまったような感覚だ」
「なんだそりゃ?どこか体が悪いのか?なんだったら家まで送るぞ」
「キョン、君は変わったな僕の知る君はどちらかと言えば他人に無関心だった。なにが君を変えたのか興味がある」
「人は変わって行くんだよ心も体も、ずっと変わらない物なぞ有りはしねえ」
「そろそろ解散しようかキョン、会場も時間も予算も決定したし後は君にまかせる、女子全員へは僕が連絡する、男子は頼んだ」
 
2人して店を出てバス停に向かい歩いた。中学時代は塾が終わると星を眺めながらバス停までの僅かな距離をこうして2人で歩いていた。
バスが近づいてきた、なんか二年前にタイムスリップしたかのようだ、すると佐々木が
「キョン、二年前の夏休み覚えているかい?ちょうど塾の帰りに歩いていたら花火大会が始まって結局バスには乗らずにずっと花火を見ながら2人で歩いて帰ったね」
「ああ、夜中に自転車二人乗りは危ないから俺も歩いた」
「君は人間は常に変わって行くと言っていたが、ある意味では正解別の意味では不正解だ常に涼宮さんの事を考える君と僕との記憶を忘れない君はその典型だ」
「そりゃそうだ、俺の記憶はミジンコ並みじゃねえよ」
「今日は涼宮さんに連絡しないでいいのかい?君が先程から落ち着かないのは彼女が原因だろう」
「・・・ああ」
その時ずっと微笑んでいた佐々木の表情が微かに曇ったようにみえた
「バスが着たから失礼するよキョン、じゃあ日曜日の四時半に逢おう、ああそれとコレが僕のアドレスだ良かったらこちらに連絡をくれると助かる」
佐々木は俺にメモを渡しバスに乗り込み軽く手を振る
携帯に佐々木のアドレスを入力しようとしたら一件の着信履歴があった。
それはここ数日間俺が何度かけても電話に出てくれなかった女からの着信だ
「・・・ハルヒ」
俺の手の中でメモと着信履歴が交錯する
 
恋は遠い日の花火ではない
  


佐々木と別れてから自転車を漕ぎ自宅へ戻ると早速電話をかけ直す、しばしのコールのあと
「・・・なによ、あんたは同窓会の幹事で忙しいんでしょ?あたしに電話してる暇なんてあるの」
「予定がダブった事は謝る、だが俺が散々電話かけても返事しなかったくせに、お前から電話をかけるとは一体何の用だ?」
「一応明日の予定を伝えておくわね、5時に有希の部屋に集合その前にあたしとみくるちゃんで買い物を済ませておくわ、鶴屋さんと谷口も来るわよ一応国木田にも声かけたんだけど・・・」
「そっか、国木田はこっちに出席するからな」
「谷口から話を聞いたんだけど国木田はこっちに来たかったみたいね、谷口が鶴屋さんの家から一緒に荷物を運ぶって聞いたら急に涙声になって同窓会幹事の不手際を恨んでたらしいわ、何でかしら?」
「大好きな谷口君と一緒に荷物運びたかったんじゃないのか?」
「そんなんじゃないわね、女の勘だけどアイツは中学の同窓会に出るより一緒に花火みたい人がいるんじゃない」
「何が言いたい?仕方ないだろ俺は幹事だから欠席も早退も出来ない、でもSOS団をどうでもいいと思ってるわけじゃない」
「別に言いたいことなんてないわ、何か勘違いしてんの?とりあえず連絡終わり、明日はあんたの顔見たくないからもう1人の幹事さんと一緒に頑張りなさい」
電話は一方的に切れた。
 
そして同窓会当日
 
どこか心に澱みのようなものを抱えつつ同窓会会場のカラオケボックスに向った。
自転車を駐輪場に止めカラオケボックスのドアを開けるとロビーのソファーに佐々木が座っており軽く手を挙げる
「キョン、思ったより早かったね」
「おまえも早いな、ところで出席者はどうだ?」
「うん、部活とか夏期講習とかで八割ってところかな、岡本さんは部活が休みだから来るみたいだよ、そっちはどうだい?」
「中河はアメフト部の合宿でネクロゴンドに行くから欠席だ、須藤の奴は飛びついてきたよ、国木田も来る、でもアイツ隣のクラスだったような気がするけど気のせいか?」
「確か僕らとは違うクラスだったと思うけど気にしないほうがいいよ、僕も彼と洋楽のCDの貸し借りしてたって思い出したのはつい最近だ」
すると佐々木は「クックッ」と特徴ある独特の笑顔を見せ
「須藤にとってみれば天下分け目の関が原か天王山だからね、せめてメルアドぐらいは交換しないと僕らの苦労は水の泡だ」
「まあせいぜい頑張って貰おう、しかし特に仲が良かったわけじゃないし俺に言わせりゃ天王山じゃなくて湊川の合戦だ、勝ち目はない」
話し込む俺と佐々木に割り込む奴がいた
「湊川の合戦で負けた楠木正成は歴史に名前を残したよ、須藤が意識してるかどうかはわからないけど勝っても負けてもすっきりするんじゃないかな」
割り込んできたのは国木田だった。
「やあ、幹事でもないのに早めに来るとは君らしいね、お目当ての人でもいるのかい?」
佐々木は国木田に方を向き髪をかきあげる
「ここにお目当ての人はいないよ、ところでキョン大丈夫かい?今日はSOS団の花火鑑賞会だったんでしょ涼宮さん怒ってなかった?」
「悪かったな、おまえはそっちに行きたかったんだろ同じクラスでもなかったはずなのにまたどうして?」
「どうしても気になることがあったからね、一度はエルバ島に退いたナポレオンが復活をかけて島を脱出しフランスに上陸したような状況だから」
「須藤がナポレオンかい?どちらかと言えば楠木正成か矢吹丈と言ったところじゃないのかな?日本人が好むのは後者のような破滅主義だが」
国木田が一瞬ではあるが佐々木を見て確かに笑った
「須藤じゃなくて別の人だよ、それに恋愛なんて勝ち目が有るとか無いとかでそういう物じゃない自分にとって世界一の相手がいるから勝負しにいかなきゃならないんじゃないかな、僕もそのタイプの人間だよ」
「国木田、おまえ好きな人とかいるのか?もしかして今日の花火に・・・」
「そんな事は今はいいよ、それよりそろそろ準備にとりかかろうキョンと佐々木さんは受付でいいかな、僕は中で準備してるよ」
俺と佐々木をロビーに残しパーティールームに向う国木田の背中に向かい佐々木は声をかけた
「ナポレオンはフランスを一時奪回したがワーテルロー会戦で負けて全てを失い最後はセントヘレナ島で孤独に死んだよ」
国木田は何も答えなかった。  

つづく