概要
作品名 | 作者 | 発表日 | 保管日 |
「figma キョン 制服ver.」の溜息 番外編 | 94-397氏 | 08/07/21 | 08/07/22 |
作品
動けない。以上!
いや、さすがにこれじゃ何のことだか解らんだろうな。いや、俺だって今のこの状況は解らんことだらけだ。もし誰か一切合財を説明可能な人物がいたら今すぐ俺の目の前に来てさっさと全部教えやがれ!
『あくまでも推測の範囲で、ということでしたら僕が説明してさしあげましょうか?』
聞き覚えのあるキザ男の声が脇から届く。
『って古泉か? 何処だ? いるんならさっさと助けやがれ!』
『申し訳ありませんが、僕にはそのような真似は出来そうもありません。何故なら僕もあなたと同じような状況に陥ってるはずですので。ちなみに僕はあなたのすぐ隣にいます』
隣、つっても今の俺は横を見ることすらままならんのだが。
『ああ、この状態では身体を動かすには多少コツが要りそうですね。ゆっくりと首から先の部分だけを回すように意識してみてください』
古泉に言われるまま俺は首を回転させるように意識すると、関節部分だけが妙な動きをして横を向くことが出来た――その目の前には怪人ニヤケ男のfigma が佇んでいた。
『って、古泉? まさか』
『ええ、そのまさかです。あなたもご自分のお体を確認していただければ解ると思いますが、僕と同じ人形の姿をされていますね』
マジかよ! 一体どうなっちまってるんだ?
『……おそらく涼宮ハルヒの能力が原因』
古泉とは反対側から冷静な声がする。
『長門、お前もなのか』
『そう。ちなみに朝比奈みくるもここにいる』
『ふえぇ~っ! なんなんですかー? ここどこですか、何でわたし動けなくなっちゃったんですか?』
無理矢理振り向いたその先には、俺たちと同じくfigma 姿の長門と朝比奈さんが並んでいたのだ。
『ハルヒの能力って、一体どういうことなんだ?』
『理由は不明。ただ、彼女はこのfigma が自律的に行動するような事態を夢想したものと思われる』
って、ハルヒはこのfigma が勝手に動き回ったりしたら面白いだろうな、とかそんなアホなことを思いついたってことなのか。
『そう』
やれやれ、だからって何も俺たち自身をfigma にしちまうなんて酷過ぎやしないか?
『しかし、不幸中の幸いと申しますか、僕たちはこうして意思の疎通を図ったり、多少ではありますが身体を動かすことも出来ますからそう悲観したものでもないでしょう。僕たちに与えられた役割は「勝手に動き回る不思議な人形」ということなのです』
しかしなあ、勝手に動き回るっても、首の向きを変えるのすら一苦労だし、全然移動とかは出来んじゃないか、この状態だと。
『動作は訓練次第でかなり自在に取ることが可能みたいですよ。もっとも関節構造の差異もあるので物理的に不可能なポーズもありますけどね』
『移動不可能なのはわたしたちの背面に取り付けられている固定用台座支柱ジョイントのため。わたしたちが行動可能なのは各々の台座上の限られたスペースのみ』
やれやれ、動けるというよりは、ほんの僅かだけ姿勢を変化させられるってのが正しいみたいだな。
『そうでもない。慣れの問題。あなたが想像している以上に各パーツの可動範囲は広くなっているはず』
そう言って長門は腕をグルグル回したり、片足を大きく振り上げたりした。っておい、長門、長門!
『なに?』
あーなんだ、あんまり無理しなくていいぞ。
『どうして?』
いや、そ、その、あれだ。いろいろと見えちまったら困るもんとかあるだろ。ごにょごにょパンツとかふがふが――、
『!』
慌てて上げた足下ろそうとする長門だが、、関節の方向が少々ずれてしまったのかギクシャクした動きになってしまう。
『うかつ』
いや、まあ、その……すまん、長門。
『いい。あなたに見られることは構わない。問題は後ろ』
ん、後ろって何だ一体?
『要するに長門さんは僕には見られたくなかったと仰りたいのでしょうね』
って見てたんかい、古泉!
『不可抗力ですよ、あくまでもですが』
『…………』
何故か長門の周囲からは黒いオーラが立ち込めているような気がしたが、下手にツッコミを入れるわけにもいかないと思ったので俺は敢えて黙っておくことにしたのだった。
『ふえぇ~! い、痛いですー! なんか腕が全然動かせなくなっちゃいました~』
ふと見ると朝比奈さんは変な方向に腕を掲げたまま固まってしまっていた。
『……その方向には関節を曲げることは不可能。肩の部分を軸に腕を回転させるべき』
『か、回転ですか? こうですかぁ? って、あ痛たたた! 痛いですぅ~』
余計に変なポーズを取ることになった朝比奈さんの悲鳴が止んだのは、今回の騒動の原因がこの場に姿を現すほんの直前のことだったのだ。危なっかしいね、本当に。
突然部室のドアが大音響と共に開き、いかにも不機嫌といった表情の団長様が降臨なされた。
「全くもう! キョンだけじゃなくって、なんで有希もみくるちゃんもついでに古泉くんまで今日はお休みなのよ?」
どうやら俺たちは本日の学校を休んでいることになっていたらしい。
しかしなハルヒ。これはお前のせいなんだぞ。確かに無意識なのかも知れんが自分のやったことで自分を不機嫌にしちまうなんて、マッチポンプも大概にして欲しいもんだぜ、本当に。
「あーもう、それにしても暑いわね~!」
ハルヒは俺たち四人のfigma を並べてある団長席の事務椅子にどっかりと腰を下ろすと、トレードマークのカチューシャを取り外し、鏡を前にごそごそとポケットから取り出した髪留めゴムを咥えておもむろに自分の髪を後ろに結わえ始めたのだった。
って、これはまさか?
これから起こることを妄想してつい油断していた俺に対し、とんでもない一言がハルヒの口から零れたのだった。
「アホキョンのバカ! なによ……あんたがいないと、あたし――ツマンナイし、寂しいじゃないのよ……」
はあ? ハルヒ、お、お前一体……、
『おやおや、涼宮さんはこの場に僕たちがいないものだと思っているのか、つい本音を出してしまったようですね』
『物想いに耽る涼宮さんって、何だかとっても可愛いですよね。うふふふ』
『……あなたが彼女の本心を知るにはまたとない機会』
ちょ、ちょっと待て! みんな何言ってるんだ。つーかそもそもそんな喋って大丈夫なのか? ハルヒに聞こえちまうんじゃ――、
『わたしたちの音声は涼宮ハルヒの聴覚の閾値未満のレベルで再生されている。問題ない』
ならいいけどな、って全然よくねえ! 何だこれ、俺に対する羞恥プレイの一種なんじゃねーか?
『まあ、僕たち三人にとっては涼宮さんの独白は想定内のことに過ぎないわけですから、今更驚くほどのことはありませんけど』
って何でそうなる?
と、俺たちが、というか俺一人がパニックに陥ってる間に、ハルヒはいつぞやと同様に、いわゆる『無理矢理ポニーテール』を完成させていたのだった。
と、ハルヒの手が伸びて、俺の身体(当然だがfigma のな)を捕らえる。
『うわっ!』
獲って喰われるというわけではないだろうがさすがに身構える俺、と言っても急にこの動かしにくいボディを操ることも出来ずにただ気持ちの上でそう思ったってだけなのだが――、
「えへへっ♪ ねえキョン、どう?」
へっ?
何故かハルヒはfigma の俺に向かって特上のスマイルを放ったのだった。
ぅぉ、眩しっ!
そんな俺にお構いなしにハルヒはベラベラと独り言を垂れ流し始めたのだった。
「ねえキョン、聞いてくれる? この前のことなんだけどさ、あんたって――」
………
……
…
はぁっはぁっ、はぁっ……。
これはある意味最大の拷問なのかも知れん。
ハルヒは両手で俺を掴んだままこっ恥ずかしいモノローグを延々と至近距離から俺に浴びせ続け、しかもその内容は机の上に並んでいる三人に筒抜けなのである。
いつの間にか朝比奈さんは動かせるようになった両手を顔に当てて如何にも恥ずかしそうなポーズ。
長門は微動だにせずいたが、これまた興味津々といった様子だ。
古泉は今にも噴出しそうと言った感じに必死で笑いをこらえているとしか思えん。
チクショウ、穴が無くても穴掘って埋まりたい気分とはこのことを言うんだろうぜ。
「はあっ、あたし――バカみたい。キョンのfigma 相手になにやってんのかしらね」
自嘲気味に呟くハルヒ。
そうだ、こんな辱めを続けるなんてもう止めてくれ、って、おいハルヒ。お前何をする気だ? 顔が近い、よ、止すんだハルヒ! 早まるな――、
「あたし、今日はもう帰るわ。――キョン、明日はちゃんと学校に来なさいよ。約束なんだからね」
ハルヒの艶やかなリップ即ち唇が俺の顔面に大接近する。待て待て、人形相手だぞ! 正気かお前? アッー!
………
……
…
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
と、背中に衝撃を感じて俺は目を開けた。
ってアレ? さっきのは一体……まさか夢?
ぶんぶんと頭を振ってから身体を起こす。さっきまでのfigma 動作のクセが付いちまったのか実に奇妙な感じがして仕方が無い。
やれやれ、明け方の五時過ぎかよ。寝直すにも中途半端な時間だな。
ふと携帯電話を見るとメールが三件着信していた。
『お疲れ様。あなたのおかげでわたしたちも元の姿に戻ることができた。感謝する』
『中々興味深い体験でしたが、さすがに今回はどうなることかと焦りました。でも、やはりあなたが鍵となって事態はなんとか収束を迎えられたようですね。改めて御礼を申し上げます』
『元に戻れてよかったです。キョンくん、ありがとう。これからも涼宮さんのこと、よろしくお願いしますね』
って、やっぱりさっきのは夢じゃなかったのか!
いつの間にか辺りも明るくなり始めていたのだが、俺はベッドに逆戻りして頭を抱えたまま悶々とする羽目になったのだ。
その朝の五組の教室。
「――キョン!」
俺が到着した頃にはハルヒは既に着席している、まあそれはいつものことなんだが、ハルヒは俺の顔を見るなり何故か安堵したような表情になったのだった。
それにつられて油断したのか、
「ようハルヒ。……何だ? もうポニーテールにはしないのか?」
俺は朝っぱらから思い切り地雷を踏むようなことを口走ってしまったのだった。いかんいかん、きっと寝不足のせいに違いない。
「って、キョン? なんであんたがそのこと……まさか」
訝しむハルヒ。さて、どうやって誤魔化したものやら?
「い、いやその、最近暑いし、なんつーか、その、ちょっとでも涼しそうな髪型っていうか、まあな。あはは」
うーむ、いくらなんでもこれは苦し過ぎたか?
だが、俺の心配を余所に、
「へっ? そ、そうね。暑いもんね。あんたに言われたからとか、全然そういうんじゃなくって、こんなにも暑いんだから、仕方ないわよね」
ハルヒはそういって再現VTRの如く、俺の目の前で長さ以外は理想の髪形を完成させたのだった。
「えへへっ♪ ねえキョン、どう?」
ハルヒは再度俺に向けて特上の笑顔をバッチリと決めたのだった。
勿論だが、それに対する俺の返事も当に決まっているのだ。
「ああ――凄く似合ってるぞ、ハルヒ」
お茶濁し
以上でございます。って番外編ってなんぞwww
ラクガキは相変わらずできないのでこんなもんでお茶を濁す。
つーか既に誰かやってそうな気がwww
「あんたたち、一体なにやってんのよ?」
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