あいつの制服 (82-278)

Last-modified: 2008-02-28 (木) 02:28:09

概要

作品名作者発表日保管日
あいつの制服82-278氏08/02/2808/02/28

作品

 六限目の体育の授業なんてのは最悪だ。まして、疲れ切った体に鞭打って、体育倉庫の後片付けまでさせられた日にはな。
「おい、キョン。さっさと戻ろうぜ。もう着替えしてる時間なんてねーかもな」
 って、谷口。元はと言えば、お前がふざけてたせいでこうなったんだろうが。それにしても、国木田は要領がいいのか、捕まることなく逃げ出していたみたいだったな。
 
 結局、遅れに遅れたせいで、俺と谷口が教室に辿りついた頃には、ホームルーム開始寸前の時間となってしまっていたのだった。
「あっ、国木田!テメェ、コノヤロー、お前だけまんまと逃げちまいやがって。俺とキョンはさっきまでこき使われてたってのによぉ」
「まあまあ、谷口。ほら、もう着替えの時間も無いと思って、制服持ってきてあげたよ」
 谷口はブツクサ言いながら国木田から自分の制服を受け取る。って、国木田、俺のはどうしたんだ?
「ああ、ごめん。僕も慌ててたから、キョンの分は忘れてたよ。ははは」
 やれやれ、後で六組に取りに行かなきゃならんとは。ものすごくマヌケと言うか惨めな気がするぜ。
 
 何故か俺の後ろの席では、ハルヒまでが体操服姿のままだった。何だ、さっきお前着替えなかったのか?
「ええ。だってあたし、今日は掃除当番なんだもん。制服汚さなくて済むなら、その方がいいじゃないのよ」
 なんだかな。制服が汚れる程、お前が熱心に掃除をするとも俺には思えんのだが。
「なによ、それ。――そうだ、キョン。あんたもまだ着替えてないみたいだし、あたしのこと、手伝いなさいよ」
 おいおい、勘弁してくれ。さっきだって俺は散々こき使われて、肉体的にも精神的にも疲れきっているってのに。
「二人で分担すれば、面倒な仕事もさっさと片付くじゃない。ねっ、キョン。いいでしょ?決まりねっ!」
 とまあ、俺の意見なんて最初から聞く耳を持たないのは相変わらずである。
 結局、ハルヒの掃除当番に無理矢理付き合わされ、俺が六組の教室を覗いたときは、中にはもう誰一人残っていなかった。
「ちょっと、キョン。なにしてんのよ?」
 いや、さっきの体育終わったとき、着替えどころか制服持って来れなくってな。でもおかしいな、どこにも見つからないぞ。
「――ねえ、ひょっとしたら、有希がなにか知らないかしら?部室に行ってみましょ」
 
 ハルヒの予想は当たりだった。体操服姿のまま、文芸部室に俺とハルヒの二人が顔を出すと、
「……これ」
 と、長門が俺の制服の入った袋を差し出してきたのだった。
「ねっ、あたしの言った通りでしょ。それにしても、さすがは有希ね。気が利くじゃないの。――いい、キョン?あんたは雑用係のクセに、細かいところに気が回らないんだから、少しは有希を見習いなさいよ」
 常に一言多いハルヒである。
「でも、涼宮さんもキョンくんも、どうしたんですか、体操服のままで。……うふっ、お揃いですね」
「なっ、みくるちゃん、何でもないわよ。あたしは掃除当番だったし、キョンはグズグズしてて着替え損なったみたいだし…………そうだ!」
 唐突に、ハルヒの瞳の輝きが通常の三倍程に煌きを増す。何だろう――非常に嫌な予感がするぞ。
「ねえ、キョン。あんた、この間の罰ゲームの件、まさか忘れていないわよね?」
 おい、ハルヒ。それって、まさか、思い切り恥ずかしい格好をして、デジカメで証拠写真を撮影する刑、ってアレのことか?
「そうよ。みんなも覚えてたでしょ。せっかくだし、今やっちゃいましょう」
 マジかよ!――誰か、助けてくれ――なあ、おい、長門?
「……約束は、守るべき」
 そう冷たく言い放った長門だったが、気のせいかその視線に宿るものには、僅かにだが、好奇心めいたものが含まれているような感じがしてならなかった。
「ところで……涼宮さんは、彼にどのような衣装を着てもらうおつもりですか?」
 古泉の質問に、ハルヒは腕組みして思案する。
「そうねえ……う~ん、メイド服は、今みくるちゃんが着ているし、無理に脱がす、ってわけにもいかないわよね」
 一瞬、朝比奈さんが身を震わせる。まあ、いくら俺の罰ゲームのためとはいえ、そこまで無茶はしないだろうから安心してください。
「っていうか、みくるちゃんの衣装だと、体型的にキョンには小さすぎるわね。――かといって、カエルさんの着ぐるみじゃ、ありきたりすぎてつまんないし――」
「では、こんなのは如何ですか」
 古泉はそういうと、何やらハルヒにコソコソと耳打ちする。
「ええっ、古泉くん…………でも、そ、それって」
 驚きの声を上げるハルヒに、古泉は、
「それだけではありません…………」
 と、追加の密談を続行していた。
 ハルヒは何やら少々の間、戸惑うような様子を見せていたが、
「解ったわ。――でも、これだとあたしまで罰ゲーム対象みたいな気もするじゃないのよ」
 と、表面上は不満そうなセリフだったが、まるでニヤケ笑いを押し隠すような感じで、
「ほら、キョン。あんた、あたしの制服貸してあげるから、さっさと着なさい!」
 と、俺に向かって自分のセーラー服とスカートを手渡してきた。
「お、おい、ハルヒ。お前、本気で言ってるのか?」
「あたしはいつだって本気なの。――――それから、キョン――――あんた」
 ハルヒは少し言い淀んだかと思うと、
「代わりにあんたの制服、ちょっとあたしに貸しなさい!」
 と、頬を少し朱に染めて叫んだのだった。
 
 俺は、古泉と二人で廊下に出るよう命じられた。って、ここで着替えしろってことなんだろうな、これは。
「まあ、全部脱がなければないわけでもないわけですし、構わないんじゃないですか」
 俺が構うわ!何でこんな格好を他の誰かに見られるようなリスクを負わなければならんのだ。
「では、僕が身を挺して、あなたの貴重な姿を包み隠して差し上げま」
 いらん、近寄るな、ニヤけるな、離れろ、今すぐ!
 
「もう入っていいわよ~」
 ハルヒの声に従って、何とか着替え終えた俺は、古泉と入室した。
 その途端、ハルヒは大爆笑だ。
「あははははは!なにそれ、キョン。マジで超キモ過ぎるわよ、あんた」
 何だよ。お前が命令したんだろ。
「うぷっ、そんな、涼宮さん。わたしは、くすっ、とっても、似合ってると、思いますけど……ぷふぅ」
 笑いを堪えようとして微妙に堪えられていない朝比奈さんがフォローしてくれた。って、全然嬉しくないんですけど……。
「……可愛い」
 長門、お前、それ本気で言ってるのか?
「本気」
 やれやれ、もう、どうにでもしてくれ。
 
 と、そこで初めて気付いた。
 ハルヒの奴も、俺の制服に身を包んでいた。
 なんというか、その、ダブダブの袖の弛み具合とか、普段の俺みたいな、ラフに垂らしたネクタイとか、妙に新鮮で――不覚にも可愛いとか思ってしまった。
「ん――――どしたの、キョン?」
 いや、な、何でもない。っていうか、ハルヒ、ズボンの裾、余ってるからって踏みつけるなよ。
「仕方ないじゃない。いくらあんたが短足でも、あたしよりは長いんだもん」
「さてさて、お二人とも、並んでください。記念撮影と参りましょう」
 古泉の奴はニコニコ笑いながらデジカメをセッティングしている。
「えっ、やだ、古泉くん、あたしも撮るの?」
「いいじゃないですか。せっかくキョンくんも涼宮さんも、普段はこんな格好すること、ないでしょうし――その、お二人とも、とっても、似合ってますよ。えへへっ」
「一期一会。……思い出は大切に」
 朝比奈さんと長門の説得もあり、ハルヒは口では嫌々ながらも、満更でも無さそうな表情で俺の隣に立った。
 なあ、ハルヒ。何でお前、そんなに嬉しそうにしてるんだ?
 
 その後、俺はハルヒの要求で色々なポーズの写真を撮られることになり、しかも、そのときの無理な格好で、セーラー服の脇の部分が解れてしまったりとか、ちょっとした騒動が起こったりもした。
 結局、体操服姿に戻った俺は、男子制服姿のままのハルヒに、自宅まで連れて行かれるハメになった。しかも、帰宅して開口一番、俺に制服を破られたとぬかしたハルヒのせいで、ビックリ仰天のハルヒの母親から二人してお説教を食らう始末である。
 まあ妙な誤解は解消したものの、そのまま晩御飯をご馳走になったりとか、泊まっていきなさいと引き止められたりとか、何か今日は一日でいろんなことがあったな。どうなってやがる?
 帰り道、正直くたびれたが、まあ、仕方がないか、と諦め半分、実はもう、引き返せないところまできてしまっているのかもなと、自嘲気味に思う俺なのであった。

イラスト

以上です。なんか、いろいろと、すまんです。 orz
 
82-280 haruhi_exchange_suit.png
  
ラクガキ、っていうかこれ、グロ画像?自分で描いててなんだけどキモスww