ある女子高校生の二ヶ月間の乙女日記 (89-406)

Last-modified: 2008-05-13 (火) 02:14:05

概要

作品名作者発表日保管日
ある女子高校生の二ヶ月間の乙女日記89-406氏08/05/1308/05/13

作品

・四月八日
 
 本日は入学式――つまり、今日からあたしの高校生活が始まることになる。
 まあでも、高校なんて何処に行ってもあんまり違わない、要は本人次第よね、なんて考えはずっと変わっていない。
 ただ、どうしてあたしが北高を選んだのかは、やっぱり『ジョン』のことがあったからなんだと思う。
 といっても、もう多分卒業しちゃってるだろうから、すぐに逢えるなんて考えは持ってないわ。何とか手掛かりぐらいは掴めるといいんだけど、どうかしらね。
 それにしても、クラスでの自己紹介のアレ、やっぱりみんな引いてたみたいね。前の席の男子も露骨に『何だ、コイツ?』見たいな反応だったし。
 でも、いちいちそんなこと気にしても始まらないじゃない。あたしはあたしらしく行動するのみなんだからね。
 そうだ、明日からは髪型を、例のあのパターンにしてみよう。果たして気付く奴がいるかどうか、ちょっとだけ楽しみかもね。
 
 
・四月十一日
 
 ずっと教室にいるのもやっぱり考え物よね。今朝はたまたま席に着いたままでいたんだけど、早速前の席のマヌケ面があたしに馴れ馴れしくも話し掛けてきたじゃないの。
 中学時代、その手の輩絡みでは散々懲りていたので、ワザとそっけない反応で返してみた。
 案の定、ビビッてそれ以上の干渉はしてこなかったのよね。あいつもやっぱり他の有象無象どもと同類だったのかしら。
 
 でも、なんでだろう?
 少しだけ――胸が痛い。
 
 
・四月十四日
 
 そろそろ、クラスの女の子たちもワザワザあたしに話し掛けてくることはなくなったわね。中身の無いない話題に一々相槌打ったりしてるような時間ってのは、あたしには無いんだから、ほんとに。
 
 とりあえず、あたしの調べた範囲での北高の七不思議のうち、六つまでは実地検分を済ませることが出来たわ。
 残る一つは……文芸部室か。さすがに夜中に忍び込むまでもないかしら。そのうち調べておこうっと。
 
 
・四月二十一日
 
 体育の授業の前に、あたしがちょっと早めに着替えようとしただけで、何故かクラス中が大騒ぎになってしまった。
 
 バカみたい。
 
 朝倉さん、だったっけ? リーダーっぽい感じの娘をはじめ、何人かに猛抗議されちゃったけど、下らないわね。ほんと。
 もうガキじゃ無いんだし、ちょっと下着が見えたぐらいで過敏すぎるのよね、みんなは。
 
 
・四月二十五日
 
 ついに殆どのクラブ活動への仮入部を済ませた。結局どのクラブも期待ハズレだったわ。時間の無駄でしかなかったじゃないのよ。
 といっても、あたしが行ったとき留守みたいだった文芸部と、なんかゴタゴタしてて結局室内にまで入らなかったコンピュータ研の二つは名簿に名前すら書いてもいないんだけどね。
 まあ、どのみちあたしが求めるものはそのどちらにも無さそうだし、正直どうでもいいわ。
 そういえば、文芸部室は前に七不思議を調べにきたとき以来だったわね。でもこの部って、上級生が一人もいないみたいって聞いたんだけど、大丈夫なのかしら? まあ、あたしが気にしてもしょうがないかしら。
 
 
・四月三十日
 
 早いものでもう今月もお終い。
 
 あたし、この一ヶ月間なにやってたのかしら?
 『ジョン』の手掛かりどころか、不思議の『ふ』の字さえ目にすることもなかった。こんなことだと、中学時代とそんなに変わり映えしないじゃないの。
 さすがにもうあたしに話し掛けてこようなんて酔狂な人は殆どいなくなった。
 朝倉だけは性懲りも無くお節介を焼いてくるんだけど、なんだかあの娘、ちょっと苦手なタイプなのよね。
 ひょっとしてあたし、朝倉から『独りで寂しそう』とか思われちゃってるのかしらね。
 別に、今更どうってことないわ。
 
 独りなんて――寂しくとも何ともないんだから。
 
 
・五月七日
 
 ちょっと、何なのよあのマヌケ面!
 
 正直ビックリした。まさかこんなに早く曜日と髪形の関係について指摘されちゃうなんて、思ってもみなかったわ。
 つい、調子に乗って余計なことまでベラベラ喋っちゃったような気がする。失態だわ。どうしよう、まだ何だかドキドキするじゃないのよ。
 そういえば、男子とまともに会話したのって、随分久しぶりだったんじゃないかしら。
 って、なに? まさか、あたし――嬉しくて舞い上がっちゃってたりするわけ? ありえないわよ、そんなの!
 まあ、あのマヌケ面は、今まであたしが見てきた男子連中とは、ちょっと雰囲気が違うような気がするのよね。自分でも上手く説明できないんだけど。
 それにしても、あいつ何処となく雰囲気が『ジョン』に似てるような……。
 でも、あいつ自身、前にあたしと逢ったことないって言ってたし、そもそも『ジョン』はとっくに卒業してるはずじゃない。なに考えてるんだろう、あたし――バカみたい。
 
 とりあえず、同じことを続けても意味がないから、思い切って髪を短くしてみた。
 そうすることで、あたし自身、なにかが変わるような、そんな予感があったから。
 それにしても、この長さだといろいろアクセントをつけるにも中途半端かしらね。
 
 うん、しばらくはこのお気に入りの黄色いリボン付きカチューシャにしておこう。
 別におかしくないか確認しようとして、鏡を見たあたしは自分で呆れてしまった。
 なに、このニヤニヤしたしまりのない笑い顔は? 自重しなきゃ、自重!
 
 
・五月八日
 
 前の席のマヌケ面は今日もあたしに話しかけてきた。
 あたしは別に、あいつに指摘されたから髪を切ったわけじゃないわよ。ほんとなんだからね!
 でも、あいつがあたしを見る目が、何だかいつもと違ってた気がする。
 似合わないって思われちゃったかな? それとも、ロングの方が好みだったとか。ってなに考えてんの、あたし。
 
 
・五月九日
 
 谷口のアホがあいつのことを『キョン』って呼んでるのが聞こえてきた。
 へえ、妙なあだ名よね。何でそうなっちゃったのかしら? まあ、どうでもいいわ。
 
 そういえば今朝もいつの間にかキョンと話をしてた。どうでもいいような内容なんだけど、別にイヤじゃなかったわね。どうしてなんだろう? 自分でもよく解んない。
 
 
・五月十二日
 
 キョンが中学時代の付き合った男子の話を訊いてきたので、つい大声を出してしまった。
 
 ちょっとだけ――反省。
 
 でも、何でみんな普通の人間で満足しちゃうんだろう? 宇宙人とか未来人とか超能力者とか、絶対友達になるならそっちの方が面白いに決まってるじゃないのよ!
 でも、キョンも何故かちょっと醒めてるみたいだったわ。なんだか悔しいわね。
 
 
・五月十三日
 
 明日は席替えがあるらしい。
 
 もし、キョンの席があたしの前じゃなくなったら、それでもキョンはあたしに話しかけに来てくれるだろうかしら? 多分……来ないと思う。
 
 でも、何でだろう。
 
 どうしてあいつのことが、こんなに気になるのかしら? あたし、自分のことが自分でも――よく解んない。
 
 
・五月十四日
 
 何でこんなことに気づかなかったのかしら?
 
 キョンの一言がきっかけで、あたしは自分で部活を作ることを思い付いたの。
 
 とりあえず、部室は昼休みに文芸部の娘に貸してもらう約束を取り付けた。
 そういえば前あたしが見たときには文芸部には誰もいなかったって思ったんだけど、ちゃんと一人入部してたんだ。
 でも、このままだと確か休部ってことになっちゃうんじゃなかったかしら? 何だか可哀想かもね。
 もしそうなったら、あの娘――長門有希っていったかしら――にはあたしの作る部活に加わってもらえばうまくいくんじゃないかしら? 我ながら名案だわ。
 っていうか、もう昼休みの時点で勧誘するつもりではいたんだけどね。
 
 後は部員を二人補充しないと。
 そうねえ……一人は、前に見かけた、あの可愛い娘にしようかしら。明日の放課後、早速コンタクトを取ってみようと思う。
 あと一人……まあ、そのうち何とかなるに違いないわ、きっと。
 
 そうそう、肝心なことを書き忘れるところだった。
 席替えの結果、あたしはキョンの後ろの席になった。
 偶然なんだろうけど、まあ結果オーライよね。しばらくは一安心だわ。
 って、浮かれてる場合じゃないわ。そもそもキョンの後ろの席になれたぐらいで嬉しかったりするわけないじゃないの。バカみたい。
 
 
・五月十五日
 
 『SOS団』か。
 
 うん、我ながらナイスなネーミングよね。キョンもブツブツ理屈こねたりしないで、この素晴らしさをちゃんと理解して欲しいところだわ。
 それにしても、朝比奈みくるちゃん、最高じゃないの! 北高の女子の中でもベスト・オブ・萌えキャラの称号を与えても構わないぐらいだわ。
 前から校内で見かけてたんだけど、何だか寂しそうに遠くを見つめているあの表情に思わず女の子のあたしでも胸キュンだったのよね。
 言うならば、地上に舞い降りた萌えの天使か女神様ってところじゃないかしら。
 そのままでも十分可愛いんだけど、みくるちゃんの魅力を最大限に発揮するためにもなにかもう一押し必要かな、って思ったあたしは、コスプレなんてのもいいわね、と思って早速通販でめぼしいものをゲットすることにしたの。
 さて、部室も確保できたし、団員も残るはあと一人。そうねえ――『謎の転校生』なんて人材が欲しいところよね。
 
 
・五月十六日
 
 SOS団のことをもっと世の中に知ってもらうための準備が必要よね。
 とりあえず、いろいろ部室に必要になりそうなものを集めることにしようかしら。
 パソコンも出来れば欲しいところだけど、帰りに寄ったパソコンショップで作ってもらったチラシを見た限りでは、それなりの値段がするみたいなの。
 でも、携帯電話でネット通販ってのも面倒くさいから、早いとこなんとかしたいわね。
 そういえば、昨日注文したアレ、明日早速届く予定ってのは便利でいいけど、お小遣い足りなくてあんまり買えなかったし、パソコン購入なんて夢のまた夢だわ。
 あたしたちには軍資金なんてものはないし、なにかいい手はないかしら、ほんと。
 
 それにしても、もっとキョンにも協力して欲しいのに、なんか上手くそれを伝えることができないあたしが、自分でももどかしいわ。
 
 そういえば、今日初めて『キョン』って呼んでみた。何だか恥ずかしかったけど、そのうち慣れるわよね。もっと自然に呼びかけられるようになったらいいな。
 
 
・五月十九日
 
 パソコンは何とか入手することが出来たわ。
 みくるちゃんにはちょっとだけ悪いことしちゃったかな、って思う。後でちゃんと謝っておこう。そうだ、お詫びってわけじゃないんだけど、明日はこの届いたばっかりの衣装で一緒にコスプレ、なんてのはどうかしら。
 そうね。せっかく派手な格好するんだし、それだったらSOS団の宣伝用のビラでも作って配布することにしましょう。うん、それがいいわ。
 となると、ますます早いうちにSOS団のウェブサイトを完成させないとね。
 あたしは詳しいことよくわかんないからキョンにお願いしてみたけど、こういうときってやっぱり男子は頼りになる、ってことなのかしらね。ブツブツ言ってる割にはキョンも乗り気みたいだったし。
 
 
・五月二十日
 
 ああムカつく!
 
 なによあのバカ教師ども! どうしてあたしの邪魔をしなくちゃいけないわけ?
 
 あんまり腹が立ったもんだから、今日の日記はこれだけ!
 
 
・五月二十一日
 
 あんなに身体を張ってまで宣伝したってのに、メールはまだ一通も来ない。
 みくるちゃんも学校を休んでたし、つまんないからあたし一人で勝手に先に帰っちゃったけど、ちょっと失敗だったかしら。
 
 でも、あたしの方からキョンに『一緒に帰りましょう』だなんて――言えるはず、ないじゃないのよ!
 
 
・五月二十二日
 
 ついに謎の転校生がやってきたわ!
 名前は――古泉一樹くん、ちょっと話した限りでは、何か正体を隠してるとかそんな感じは見られなかったけど、でもあの物わかりのよさは、キョンにも見習って欲しいところなんだけどなあ。
 まあいいわ。これで団員は五名揃ったし、いよいよSOS団も本格的に活動開始よね。
 
 
・五月二十三日
 
 みくるちゃんにメイド服を着せてみた。思った通り、最高だわ! 今日はいっぱいデジカメで写真も撮ったし、後で有効活用させてもらいましょう。
 それにしてもキョンったら、みくるちゃんじゃなくて何であたしまで撮ってるのよ? 全くもうあいつってば――でも、知らなかったわ。へえっ、あたしって、こんな顔して笑ってたんだ。
 一応、この画像は保存しておこうかしら。
 
 そんなことより、明日はSOS団の第一回市内不思議探索パトロールだ。
 五人揃っての初めての活動らしい活動なんだし、気合を入れていかないとね。
 
 
・五月二十四日
 
 なんか、後悔だらけの一日だったわ。
 それにしても、みくるちゃんの服、すごく可愛らしかったな。羨ましいとかそういうのを通り越して、女の子のあたしからみても思わず惚れちゃいそうだったわ。
 キョンとみくるちゃんの二人で並んでる姿、まるで恋人同士みたいだったな――って別にあたしは何とも思ってないわよ。ただ、わかってんのかしら、キョン。ニヤニヤしちゃって、もう!
 それとも……やっぱりキョンって、みくるちゃんみたいな可愛い女の子が好みだったりするのかしら?
 そういえば、午後にキョンと戻ってきた有希、ぶ厚めの本を大事そうに抱えてたけど、何処に行ってたのかしら? 気のせいかもしれないけど、いつもクールなあの有希が、あたしにはちょっとだけ嬉しそうにしてるように思えたのよね。
 あーあ、それにしても、クジ引きでは二回ともキョンと一緒になれなかったじゃないの。
 でも、心の奥のどこかではそのことで一安心しているあたしがいる。
 キョンと二人きりになったら、あたしどんなこと話せばいいのかしら? ダメ――わかんないよ、そんなの!
 
 とにかく、我ながらちょっと集中力に欠けてたような気がするわ。こんなのだから不思議なことの一つも見つけられなかったんだわ。
 
 キョンには明後日学校で反省会って言ったけど、今日一緒だった古泉くんたちの手前、どうしたものかしらね。
 
 
・五月二十六日
 
 何だか今日はすごく疲れたような気がするわ。
 結局キョンには声を掛けることも出来なかったし、仕方がないから一人で土曜日に探索したコースをもう一回調べて回ったんだけど、何の収穫もなかったし。
 家に帰ってから鏡を見てビックリした。あたしって、今日一日こんな顔してたんだ。
 自己嫌悪。メチャメチャ凹むわ。自分自身がどうしようもなくイヤな女の子に思えて、余計にイライラしてしまう。
 こんなんじゃ、明日キョンに会ったときどうすればいいんだろう? まともに顔見せられないじゃない。
 
 
・五月二十七日
 
 今日は体調も気分も最低だった。何だか急に暑くなっちゃったし、体が重い。
 そういえば、今日は二日目だったのよね、アレ。憂鬱で憂鬱で仕方がないわ。
 
 ウェブサイトにみくるちゃんの画像を載っけようとしたら、キョンにすごく怒られちゃった。
 まあ確かに、キョンの言ってることは間違っていないけど、あいつったらなにかとみくるちゃんのことばかり気に掛けてるみたいだし、そんなことをつい考えてしまうあたし自身がなんだかすごく――みっともない気がするじゃないの。
 気まずくなって部室から出て行こうとしたら、当のみくるちゃんと鉢合わせちゃった。ひょっとして泣きそうな顔になってるの、見られちゃったかな?
 
 
・五月二十八日
 
 あの朝倉が急に転校しちゃった。
 いろいろとあたしにも思うところはあるけど、なんかあの娘には妙なところがあったのよね、といっても上手く説明できないんだけど。
 でも、委員長ってのを抜きにしても、なんだかんだであたしに最後まで世話を焼いてたのはあの娘だけだったんだし、そういう意味ではちょっとだけ複雑かも知んない。
 せめて、一言ぐらいはお別れの言葉を掛けてあげるべきだったのかもね
 それにしても昨日はなにもそんな素振りはなかったのに、急にカナダに転勤、しかも父親らしい人物が電話で連絡してきただけ。
 ちょっとどころなんてのモンじゃない。不自然な点が多過ぎるじゃないのよ、これって。
 で、朝倉のことを調べるって名目で、せっかくだからSOS団の活動はお休みってことにして、あたしは初めてキョンと二人きりで下校した。
 
 結果的には……何だろう、失敗しちゃった気がする。
 
 あたしは迂闊にはしゃぎ過ぎたりしないようにってことに気を取られちゃって、あまりキョンと話が出来なかった。
 キョンは何だかずっとつまらなそうにしてたし、あたしはうっかり長々と自分語りなんかしちゃったし……やっぱり、引かれちゃったわよね。反省。
 そういえば有希が帰ってくるところに偶然居合わせちゃったけど、キョンと有希の間の雰囲気が、なんだかただ事じゃなかったような気がするわ。
 
 まさか、有希もキョンのこと……、
 
 はあ、なに考えてるんだろ、あたし。ほんと、自分でもイヤになるわ。
 
 
・五月二十八日その2
 
 自己嫌悪のあまり、家に帰ってから不貞寝してたら晩御飯をすっぽかしちゃってママに怒られちゃった。
 
 明日こそはちゃんと気持ちを切り替えて、もっとキョンに自然と話し掛けられたらいいな。
 
 
・五月二十九日
 
 キョンのバカ! なによ、みくるちゃんとくっついてデレデレしちゃって。
 
 最悪だわ。世の中の一切合財に八つ当たりしても治まんないって感じよね。
 もしあたしの人生がゲームか何かだったら、確実にリセットボタンを押してるところだわ。
 
 はあ、もういいわ。今日もさっさと不貞寝しよ。
 
 
・五月三十日
 
 どうしよう。まだ胸がドキドキしてる。恥ずかしくて、あたし死んじゃいそう!
 
 アレって、やっぱり夢だったのかしら? でも、あたしのこの唇には、キョンの唇の生々しい感触がまだ残ってる。って、きゃー!!
 
 うん、落ち着きなさいよ、あたし。まだ明け方にもなってないんだし、騒がしくしてママたちに見つかったら実も蓋もないわよね。
 
 それにしても中途半端な時間に目が覚めちゃったな。もう一度眠ることにしよう。
 
 
・五月三十日その2
 
 ダメだわ。やっぱり全然眠れない。
 
 でも、さっきのアレは、夢にしては妙にリアルなことばかりだったわ。それに、何だかとっても楽しかった気がする。
 だけど、最後、肝心なところで目が覚めちゃうなんて、どういうことなのよ! ……史上最低の悪夢だわ、ほんとに。
 
 でも、もしあの夢の中のキョンのセリフがほんとなら、普段はあんなに冷めた感じのあいつでも――『つまらない世界にうんざりして』て、『もっと面白いことが起きて欲しいと思』ってたのなら――あたしとキョンの想いは同じだったってことよね?
 
 あたしはとっても知りたかった――アレはほんとは夢なんかじゃなかったのかどうかってことを。でも、キョンに直接訊くわけにもいかないし、どうしたらいいんだろう?
 
 そっか、確かあのときキョンが言ってた言葉がもし現実のことなら……うん、試してみる価値はありそうよね。
 
 
・五月三十日その3
 
 結局、今朝の夢のことは解らずじまいだった。
 だって、キョンのあの笑顔――反則よ! あれじゃ『あんたってポニーテール萌え?』って訊こうにも無理ってモンじゃないの。
 でも、なんであたし、こんなにニヤけてるのかしら。
 
 今のあたし、何だかとっても嬉しいのよね。
 
 嬉しさついでにみくるちゃんにナース服を着せてみたら、予想通りに萌えパワー炸裂って感じだったし。昨日までのモヤモヤもどこかにサッパリ消えちゃったわ。
 
 そういえば明日は第二回SOS団市内探索パトロールの日なのよね。
 今度は――キョンと二人の組み合わせになれたらいいな。
 
 
・五月三十一日
 
 全くもう、無断欠席だなんて、有希もみくるちゃんも古泉くんもなってないわね。
 でもまあ、今日は一日キョンと二人きりだったし、それでチャラってところかしら。
 ってなに書いてんのよあたしって!
 
 とにかく、SOS団はいつでも全員集合、そう決めたんだからね。
 
 さて、今度はなにをすればいいのかしら? SOS団の存在をこの世に知らしめるためには、まだまだ宣伝が必要だし――キョンだって、もっともっと楽しいことを望んでるはずでしょ?
 
 ねえキョン。覚悟しなさいよ。
 
 あたしがこれからあんたのことをずっと引っ張っていってあげるんだからね!

イラスト

 
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