おかえりのおまもり(34-134)

Last-modified: 2007-01-14 (日) 23:07:40

概要

作品名作者発表日保管日
おかえりのおまもり34-134氏06/12/2207/01/14

作品

え?キョンが落ちて…
「キョン!」
目の前が真っ暗になる。
その後はよく覚えていない。記憶が再開するのはベットに横たわるキョンの姿から。
「大丈夫ですか!しっかりしてください!」「す、涼宮さん、お願いですから、うぅ」
しきりに古泉君とみくるちゃんが話しかけてくる。
「…大丈夫だから、離して」
なんて冷たい声。自分の声とは思えない。思わず口を抑える
みんなの顔を見る。不安そうな顔。団長のあたしがこんなんでどうするの!
息を大きく吸う。
「大丈夫よ、みんな。こいつだって我がSOS団の一員。すぐに目を覚ますわ」
声は震えていないだろうか。みんなを不安がらせたくなかった。
時計を見る。もう10時だった。
「さあみんなもうこんな時間。帰りましょ」
「え?でもキョンくんが…」
「あたしたちが残ったってしょうがないでしょ。あとは医者に任せましょ、面会時間も過ぎてるし」
キョンの病室から出た所で看護師の女性とすれ違った。
「…やめて」
あたしは小さく呟く。誰にも聞こえない。あたしだって聞きたくなかった。
なんであんな目で見るんだろう。可哀想に、目がそう言っていた。
キョンのケガはたいしたことはない。古泉君がそんなことを言っていた。
だから大丈夫。自分に言い聞かせる。ふと左腕の腕章が目に入った。
そっか。着の身着のままで来たからはずしてなかったっけ。
はずそうとして手を止める。なんとなくこれがSOS団の、あたしとキョンの繋がりな気がして。
みんなと別れたあと踵を返し病院へ、面会時間なんか関係ない。
キョンの病室までやってくる。物音一つしない。
一瞬、誰かがいたように見えた。…ううん気のせいだろう。
キョンの顔を見る。静かな顔、安らかな顔。まるで…
ッ!ダメ!今考えたことを考えてはダメ。胸を押さえて必死で呼吸を落ち着かせる。
大丈夫…大丈夫…大丈夫だからっ!視界が歪む。泣いて…るの?あたし?
「ふ…はっ…うぐ…やだ、泣いちゃ…ダメ…ふあ…やだよ…やだよ…」
涙が止まらない。キョン…キョン!
あたしは知らず腕章を握り締めていた。
そうだ、あたしは団長だ。こんなのダメだ。こんなのキョンに見せられない。
涙を拭う。決めた。あたしは決めた。

 

その日からキョンに付きっ切りだった。病院側に無理を言って泊まらせてもらった。
もちろん学校には行った。その上で可能な限り傍にいようと思った。
学校でも病院でもみんなあたしに気を使ってた。
気を使ってくれるならありがたい。キョンの傍にいるために出来るだけ手伝ってもらった。
あたしがちゃんといつもどおりに動いているのを見て安心した人もいるようだ。
そうだ、みんな心配しなくていい。キョンはきっと起きる。心配するのはあたしだけで十分。
みんなの分の心配をすべて背負ってやる。あたしはことさら明るく振舞う。
「まったくいつまで寝てるのかしら。授業についていけなくなるわ」
古泉君もみくるちゃんもちょっとだけ笑ってくれた。
笑えるのはいいことだ。ちょっとくらい無理をしていたって。
でも有希は笑わないでキョンを見ていた。有希が笑わないのはいつものことだけどその日は妙に気になった。

 

キョンは目を覚まさない。……大丈夫…大丈夫…
「涼宮さん」
「!な、何、古泉君?」
「腕章が…」
「え?」
知らないうちに腕章を握り締めていた。
「えと、なんでもないの、気にしないで」
「…そうですか。僕としてはおまもりなのかな?と思いまして」
「おまもり?」
「はい。彼が早く良くなるように。SOS団団長の象徴である腕章に祈りを込めているのかと思いました」
「へぇ…、ちょっと面白いわね」
腕章をなでる。キョンを守ってくれている、そう思うと頼もしかった。

 

3日目ともなるとキョンに関わりのない人はクラスメイトでさえ日常に戻っていた。
恨んだり、憎んだりしてはいけない。それは単に八つ当たりだ。
でも…みんなそうしてキョンを忘れていくのだろうか。
想像してしまう。
「ねえキョンってさ…」
「キョン?キョンとは何…いえ誰…ですか?」
「何言ってるのキョンよキョン」
「ふえ、涼宮さん、どなたですか?」
みんながキョンを忘れている。
あたし一人が置いていかれて、だんだん自分がおかしいのではないかと思い始める。
そんな世界は…いやだ、怖い。
知らず涙が頬を伝う。あたしは教室を飛び出し部室に向かう。
教師が何か言っていたが無視した。

 

部室には授業中にもかかわらず有希がいた。いつものように本を読んでいた。
あたしは腕章を抱きしめ泣いた。
有希だけで良かった。この子は誰にも言わないだろう。
「大丈夫」
「え?何?」
「彼はきっとこの世界に戻ってくる」
有希は断言した。根拠はないはずなのにとても心強かった。
でも…なんでそんなに悲しそうなのだろう。
「なんで…そんなに…」
「あなたは笑っているべき」
言葉を途中で遮られる。有希にしては珍しい。
あたしは続けられなかった。強い拒絶と悲しみを感じたから。
「大丈夫、彼を、信じて」

 

その日の夜、キョンは目を覚ました。
その時の事は言わない。普段のあたしでは考えられない大失態を犯したからだ。
思い出すだけで……うー、なんであたしはあそこで…
言うまでもないが、キョンの前では笑えなかった。…先にあんな良い笑顔で笑われてしまったから。

 
 

キョン視点

 

さて、久々の学校だ。俺的には昨日も行っていたつもりなんだがな。
教室のドアを開ける。ハルヒと目が合った。
が、すぐに窓のほうを向いてしまった。少しくらい祝ってくれてもいいと思うんだがな。
クラスメイトが寄って来る。口々に
「大丈夫なのか」「階段から落ちるなんて間抜けだなあ」「心配したよ?」
なんて言ってきた。まあここは素直に…
「悪いな、迷惑かけて」
と言っとこう。輪を抜けようとする。がなかなか開放してもらえずイライラする。
…なんで俺はこんなに急いでる?早くハルヒに会いたいとか?まさか落ち着く自分の席に着きたいだけさ。
だが谷口が背中を押す。
「早く行ってやれよ。涼宮のあんな心配そうな顔初めてみたぜ」
いつものように席に着く。
振り返ってハルヒを見る。
「よう」
「…」
返事くらいしろっつうの、あいからわず愛想がないな。ならこれはどうだ。
「ただいま」
ハルヒはようやくこっちを見て言ってくれた。
「…おかえり」
こっち見たと思ったらすぐに目を逸らした何なんだ一体
「ところでなんでその腕章を教室でもつけてるんだ?」
なぜか答えに詰まった後ハルヒは言った。
「…おまもり!」
ハルヒは耐え切れなくなったように目を逸らした。

 
 

ハルヒ視点
「よう」
キョンが挨拶してきた。昨日のを引きずっているせいか顔が見れない。返事も出来ない。
有希は笑うべき、なんて言ってたけど…、うう、なんでこんなこともできないんだろう。
顔を逸らしてしまう。自分の顔が赤くなっているのがわかる。
キョンは溜息一つついて言った。
「ただいま」
反則だ。絶対に反則だ。許せない。どうしていいかわからないからとりあえず怒っておく。
嬉しくて嬉しくてしょうがない。帰ってきてくれた、ようやく実感できた。
キョンの顔を見る。いつもより優しい顔。
見慣れた、懐かしい、キョンの、顔。
っ!ダメだ。このまま見ていたら泣いてしまいそうだ。
必死で堪えて言う。
「…おかえり」
キョンは安心したように笑っていたが、あたしの腕あたりを怪訝そうに見てきた。
「どうして教室でその腕章をつけてるんだ?」
そう、あたしはこの腕章をつけたままだ。
本当はどうだか知らないけどこの腕章がキョンを助けてくれたように思えたから。
腕章をそっとなでる。相変わらずキョンの顔は見れない。
だから視線は宙のまま言った。
「…おまもり!」

34-134 OkaerinoOmamori.jpg