おべんとう (66-443)

Last-modified: 2007-10-30 (火) 01:20:48

概要

作品名作者発表日保管日
おべんとう66-443氏07/10/3007/10/30

作品

否が応でも体力を大幅に削ってくれる強制ハイキングコースを朝から十二分に堪能し、何の変哲も無い我らが教室の扉を開け、見知った顔の友人たちに軽く朝の挨拶をし、自分の席に腰掛けながらすぐ後ろのなんでかいつも不機嫌そうな団長様に挨拶をする――のが、俺の朝の習慣だ。
なんてことのない日常の一コマ。しかし、やっかいなのがこの日常として組み込まれている「習慣」だ。一連の流れが出来ているが故に、どれかひとつでも欠けるとリズムが狂う。
特に朝のリズムというものがどれほど大事かは皆さんもよくお分かりではなかろうか。朝から組み込まれた日常の流れが狂うと、その日一日調子が狂ったりイライラしたりするもんだ。
出だし、というものはかくも大事なものである。
そして俺は今まさにその一日の出だしが崩れ去ろうとしているところである。別にハイキングコースが平坦な道になったわけでもなく、教室の扉が電流仕掛けになるはずもなければ、見知らぬ友人が挨拶してくるわけでもない。
「なんだ、アイツ今日は休みか?」
そう、ハルヒが居ないのである。基本的にHR5分前にたどり着くように登校している俺であるからして、現時点でカバンが無いというヤツは大概休みまたは遅刻であることになる。
「おぃーっす」
「おはよう、キョン」
「うっす」
「朝からしけた面してんなぁ、お前」
ほっとけ。お前はいつもテンション高すぎなんだよ。
「テンションも上がるぜ。下の光陽園学院でな、かっわいー娘がいたんだよ!ありゃA+は固いな」
あーそうかい、そりゃよかったな。
「つれねぇなぁ。そこは『どんな娘だよ!?』とか食いついてこいよ。ま、お前には嫁がいるからムリか」
黙れ谷口。なんでそこでハルヒがでてくる。
「嫁=涼宮さん、は自覚してるんだね」
お前らがそんなことばっかり言ってくるからだろうが。
「まぁまぁ、満更でもないんでしょ?」
黙れ国木田。この場にハルヒが居たらその口が二度と開かないように縫い付けられるぞ。
「怖いなぁ。そういえば今日はめずらしく涼宮さんまだ来てないね」
「おぉ、だからキョンが不機嫌なのか」
谷口、お前の口は俺が縫い付けてやろうか?
「おぉ怖い怖い」
ハハハと笑いあう。
まったく、ハルヒがいないとこんな話題ばっかりなのはどうにかならんのかね。
はなはだ不本意なんだが。いやほんと。
 
と、バカ話もほどほどにしているとまるで地鳴りのような足音が聞こえてきた。
ドドドドドドドドドッ!!
「ま・・・っにあえーーーーーー!」
バンッ!と開かれる教室の扉。そこには予想通りというべきか、物凄い疲弊感をあらわにしたハルヒがいた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・っふぅー」
肩で大きく息を整え、どっかりと椅子に腰掛ける。
「朝から騒々しいな」
「うっさい!」
不機嫌まっさかりだ。
「おぉっと、こっちにまで飛び火しないうちに退散するとするかな」
「もうHRも始まるしね」
・・・ヤロウ共、逃げやがった。まぁ賢明な判断ではあるがな。
「今日はめずらしいな。遅刻ぎりぎりじゃないか」
「うかつだったわ、目覚まし時計が止まってるなんて・・・」
どうやら余程大慌てで登校してきたようだ。寝癖が整え切れていないし、いつものリボンもちょっと曲がっている。身だしなみを整えられないぐらい急いできたんだろう。
「そりゃ大変だな。っと、岡部が来た。ぎりぎり間に合ってよかったじゃねぇか」
さて、起立、礼の挨拶とともに、今日も一日が始まる。
まぁ、なんだ。ややぎりぎりにはなったが、これで俺もいつも通りってもんだ。
このときは、そう信じて疑わなかったさ。
 
 
さて、HRも終わり1時間目。
人の絶対的な死角である背後を取られた危機的状況に座しながら、時折忍び寄る魔の手に怯え、かつその攻撃を耐えながら教師様のご高説を承るという俺の授業スタイルなのだが。
今日はまだ一度たりとも背後からの奇襲に襲われていない。逆にここまで焦らされるといつ襲ってくるのかという恐怖に神経がいってしまい授業どころじゃなくなるのだが。
新手の精神攻撃に、俺はその恐怖心に耐え切れず、思わずこっそりと後ろを確認した。
まぁ、朝のあの様子から察するに現状は想像に難くない状況だろう。
ハルヒが机に突っ伏していた。
最初の不思議探検の後だったろうか、前にもコイツはこんなふうに弱弱しい表情を見せたことがあった。こうしていれば割合可愛いんだが、じつにもったいない。
まぁ、授業中でもあるし、ハルヒも疲れてへたっている間は俺の背中も平穏無事に過ごせるだろう。そう思って俺はまた前を向いた。
そんな安易な考えでいた俺が甘かったのかもしれない。
「ぐぅ~~~~」
時が止まった。いや、比喩ではない。全員の動きが止まった。
大体の人が空腹状態を連想するであろう音が、俺の背後から聞こえたのだ。
クラス中のやつらが、教師までもがこちらに視線を寄せる。俺の後ろなど一人しかいないわけであり、なおかつ音源は俺の後ろであるわけだが多分それに気付いているのは俺ぐらいだろう。さて、ここでハルヒを責め立てるのは男としてどうだろうか。ハルヒといえど女性であり、空腹の合図を高らかに鳴らしてしまうなどとは流石に恥ずかしいだろう。
「あー・・・すんません、朝飯抜いてきちまったもんで」
どうぞ授業を、と付け加えて。いい感じにクラス中から失笑を買ってしまったわけだが。
ボソリ、と笑い声に掻き消えるぐらいの小さな声で
「ありがと」
と聞こえたのは、まだ不幸中の幸いだったのかもしれん。
 
 
 
一時間目が終わってから、俺は猛ダッシュでカバンとハルヒを掴んで部室へと逃げ込んだ。
流石にさっきの一件があるせいか、ハルヒは大人しく俺についてきていた。
「朝飯食ってないのか」
コクリとうなずく。
「弁当は持ってきてないのか?今日も学食か?」
またコクリ、とうなずく。まぁ、いつも学食で済ましてるようだから予想はしていたが。
「はぁ・・・とりあえず食っとけ」
と、ハルヒに弁当を渡す。流石にまた授業中にあんな状況を迎えるのは俺も嫌だからな。
・・・なんだかものすごい睨まれているんだが。
「時間ないんだから早くしろ」
「・・・ふんっ」
がばっと奪うように俺の弁当を受け取る。やれやれ、世話のかかる団長様だ。
1時間目と2時間目の間の休み時間なんざ大してあるわけでもない。ロクに食えるとも思えんが、まぁ腹の足しぐらいにはなるだろう。
「っと、その髪もどうにかした方がいいな」
整いきれてない寝癖。後ろ髪がピョンと跳ねている。
「ちょっと、なに勝手に触ってるのよ!」
手櫛でちょこっと梳かしてみたが、効果はないようだ。
ハルヒの苦情?無視無視。
「いいからお前は黙って食べてろ」
「こんなことされて食べれるわけ無いじゃない!」
「時間ないんだからしょうがないだろ。寝癖つけてきたお前が悪い」
「う~~~~~~」
「安心しろ、妹の髪結ったことぐらいはあるから変な髪型にしたりはしねぇよ」
「別にそんなこと気にしてるわけじゃないわよ!」
じゃあなんだっつーの。
「あ、あんたの手つきがいやらしいのよっ!」
「知るか。我慢しろ。早くしないと休み時間終わるぞ」
一蹴。さてさて、このわがままな寝癖をどう隠すかな。
 
 
ここは文芸部室。別名SOS団アジト。
Q、さて、ここにはあるものがあります。それはなんでしょう。
A、朝比奈さんお着替えセット。
まぁ髪留め用のゴムぐらい見つけるのも容易なもの、ってことさ。
「あんまり動くなよ。変な髪型になってもしらんぞ」
頭の輪郭に合わせてすすっと髪を集める。顎のラインから耳の中心を通る直線を見極め、ややその直線の上側の後頭部で髪をまとめ、指に絡めておいたゴムで形状を固定する。
するとあら不思議、ポニーテールの完成。
まぁまじめにやるのであればもっとめんどくさいことになるのだろうが、さっとやるにはこんなもんだろう。
しかし、なんというかハルヒもやっぱり女の子なわけで。髪の毛の質というか手触りが全然違う。男勝りな行動力にあまり意識することは少ないが、やはりヘアケアとかにも気を遣っているのだろう。
っと、いかん。調子に乗って触りすぎた。また手つきがエロいとか言われちまう前に終わらせんと。
「ほれ、こんなもんでどうだ」
「・・・なんでポニテなのよ」
「別にいいだろ」
「やっぱりアンタ、ポニテ萌えなの?」
・・・あの出来事は一応ハルヒの夢の中の話、ってことだよな。「前も言っただろ」なんて逃げた日にゃ酷いことになりそうだ。
「やっぱり、ってのはどういうことだ。俺がそんな趣向を露呈した覚えは無いが」
すると、ハルヒはハッと何かに気付いたような表情をしたあと、見る見る顔を赤く染まらせていった。おそらく、コイツもあの出来事を思い出したんだろう。
「うっさいわね!いいから質問に答えなさいよっ!」
ボロを出さなくてすんだのはいいが、地雷は踏んでしまったようだ。
しかたない、これぐらいは自己責任か。俺にとってもあまり思い出したくないものを思い出させちまったみたいだし。
自分の趣向を露呈するなんぞ、若干恥ずかしい気もするが正直に答えてやるか。
すぅ、とすこし意を決して。
「好きだ。悪いか」
「・・・へ、へぇ」
なんだ、リアクション薄いな。人が意を決して趣向を暴露したってのに。
「急いで食っちまえ。とっとと教室戻るぞ」
「わ、わかってるわよっ!」
食事を再開し、ものすごい勢いで弁当をかきこむ。すげぇ、全部食い終わりそうだ。
・・・しかしまぁなんだ。いいなぁ、ポニテ。
弁当をかきこむ仕草に合わせてフルフルと小刻みに揺れる。うーむ、ハルヒもだまっていれば美形だからな、いい目の保養だ。
「っと、ゴミついてるぞ。ちょっとむこう向け」
箸をとめ、ひょいっと頭についているゴミをとってやる。
うーむ、正面から眺めるポニテもいいが斜め前から見るこのポニテもなかなか・・・
「いや、やはり斜め後ろから見下ろすのが一番魅力的か・・・」
びくり、とハルヒの肩が跳ねる。しまった、口にだしてたか。
「・・・アンタさっきからおかしいわよ」
「・・・すまん、まったくだ」
「アンタがそんなに積極的だと気持ち悪くて仕方ないわ」
返す言葉も無い。
「またアホなこと口走る前に俺は先に戻る。弁当箱は置いてこいよ、俺がここで食ったことにしなきゃならんからな」
やれやれ、今日の俺はおちおち目の保養もままならんとはな。
 
 
 
教室にもどると同時に谷口が寄ってきた。
「よぉ、腹ペコキョン」
「OK谷口、顔と腹と脚どこがいい?」
「ハハッ、今日のキョンは暴力的だな」
「うっせ。ほっとけ」
「で、どこいってたんだ?早弁か?」
谷口よ、お前のその無駄な詮索能力に今ほど感謝したことはない。
「あぁ、部室で食ってきた。背に腹は替えられんからな」
周りにも少し聞こえるぐらいの声ではっきりと言う。アフターケアまでばっちりだ、俺。
「そーかそーか。で、なんで涼宮を連れて行ったんだ?」
・・・谷口よ、お前のその無駄な詮索能力に今ほど怒りを覚えたことはない。
「まぁ、あれだ。アイツの寝癖を直しに、ちょっとな」
「隠すなって。夫婦で愛の逃避行だろ?」
「OK谷口、今すぐ逃げたほうがいいと思う」
多分お前の位置からじゃ見えんと思うが、俺の真後ろからものすごい威圧感を感じるからな。
「谷口。アンタに選ばせてあげる。人中と水月と向う脛、どれがいい?全部でもいいけど」
恐ろしい。俺と同じ選択肢なのに急所オンリーとは。
ちなみに人中は鼻の下のくぼみ、水月はレバー、向う脛はまぁ普通にスネだ。
うまく入れなきゃ効果絶大とまではいかないが、まぁこいつならやりかねんなぁ。
 
さてさて、授業だ授業。国木田、この死体どかしといてくれ。
 
 
 
それからの授業はなんら普段と変わらん授業だった。時折訪れる悪魔の攻撃も健在だ。
しかし、朝っぱらからハルヒが遅刻寸前なんて珍しいことするからどうやら俺の調子はおかしいらしい。俺が先、ってのは性にあわんのかね。ことごとく地雷を踏みに行っちまいそうだ。
今日はもう大人しくしておこうと考えていると、気がつけばもう4時間目が終わっていた。
・・・そういえば弁当あげちまったから今日は学食か。
「さて、ご存知とは思うが俺はこれから学食だ」
「ほー。まさか涼宮と一緒に食うためにわざとあんな芝居を・・・」
懲りないな、谷口。今度は多分延髄とか飛んでくるぞ。ホントに死ぬぞ。
「何?延髄希望?ドロップキックのがラクなんだけど」
ホラミロ。
「わかったから、ホラ行くぞハルヒ」
仮にも友人だからな。これ以上死体にするのも目覚めが悪い。
「コ、コラ!キョン!」
あーあーあー聞こえんな。いいからそこらへんで勘弁しといてやれ。
「ちょ、待ちなさい!そんなに強く引っ張ったら転んじゃうでしょ!」
言われてハッと気付く。しまった、俺はなにを・・・!
「・・・なんで放すのよ。」
いや、すまん。あまりに無意識だった。無意識にハルヒの手を・・・
「・・・アンタ、ホントに今日どうしたのよ。悪いモンでも食べたんじゃないの」
分からん。なんつーか、こう、前に前にって感じなんだよなぁ。
朝っぱらからお前が遅れてきたからか?
「なんでアタシの所為なのよ」
いやお前の所為ってわけではないが。お前が俺の前にいないから俺が前に行くしかないんだろうよ。
「・・・ふんっ、まあいいわ」
なにがだ。
「感謝しなさい!アンタの奇行に付き合ってあげるわ!」
いやいや、付き合わんでいいから静かにさせてくれ。
「いいから学食いくわよっ!ほら、アタシを引っ張っていきなさい!」
・・・勘弁してくれ。
 
 
In学食。俺は入学以来母親の弁当で過ごしていたがゆえに今回が初利用となる。食券を買って並ぶらしいが、どうにもわからん。ランチAとかだけ書いて内容を書かないとは何事だ。俺が右往左往している隙にハルヒはさっさと行っちまうし。
あぁもうなんでもいいか、と思っていると。
一番会いたくないやつに出会ってしまった。
「おや、奇遇ですねぇ」
ぐ・・・なぜ貴様がここにいる。
「なぜ、といわれましても。僕もここの生徒ですし。学食ぐらい利用しますよ」
むしろ利用する方が多いですよ、と。余計な情報までくれんでいい。
「貴方がいるほうが珍しいではありませんか。それに・・・」
ちらり、とハルヒのほうに視線をやる。
「ご同伴とは」
・・・古泉、それ以上口を開いたらお前のアルバイト増やしてやるぞ。
「おやおや、それは困りますねぇ」
ニヤニヤとむかつく野郎だ。
「そうそう、先ほど鶴屋さんと朝比奈さんもお見かけしましたよ」
お、素晴らしい。朝比奈さんの見目麗しいお姿を拝見できるのならば今日の失態もすべてチャラになりそうだ。
「・・・全員集合」
うぉっ。な、長門も来たのか。
「今日はカレーの日」
そ、そうなのか。
「おやおや、皆さん揃ってしまいましたねぇ」
・・・別にいいじゃないか。
「いやぁ、申し訳ありません。涼宮さんとお二人っきりの時間をお邪魔してしまう結果になってしまって」
アホいえ。アイツと二人食ってるところなんか見られてみろ。また在らぬ噂が立つだろうが。
「・・・貴方は5分43秒、教室からここに食堂に来るまで涼宮ハルヒと手を繋いで来た」
「その間に貴方たちを目撃した生徒は21名。目撃した生徒からの波状伝播により、翌日までに全校生徒に知れ渡る確率は92%。平常的な手段ではもはや収束不可能」
それって・・・まさか・・・
「明日には公認のバカップル」
バ、バカップルて・・・どうにかならんのか、長門?
「うん、それ無理♪」
ぶっ。な、長門・・・
「バックアップのリロード時に侵入したと思われる。大丈夫、デリートした」
 
「コーラァー!キョーン!はやく来なさいっ!」
どうやらハルヒは朝比奈さんたちを捕まえて席を占拠しているようだ。
・・・呑気なヤツめ。あぁ、どうすっかなぁ、もう。
「大丈夫。情報操作は得意」
マジか!なんとかしてくれるのか!長門!
「普及率100%にしておく」
うぉーーーーーーい!
 
 
 
翌日。どうやらまたハルヒは遅刻のようだ。俺が教室のドアを開けると、普段いるであろう席に人影が無い。
「もう昨日みたいなことはこりごりなんだが・・・」
やれやれと溜息をつきながら自分の席につく。
「よっ、キョン」
「おはよう」
「・・・うーっす」
・・・確認したくないが、確認せねばならんことがある。
「なんだなんだ、元気ねぇなぁ」
「なんでお前はそんなに元気なんだよ」
「おお!良くぞ聞いてくれた!実はなぁ・・・」
「あぁ、もういい」
今はそれどころじゃない。
「なんだよ、俺にも彼女ができそうだってのに。なんだキョン、自分だけよければいいのかっ!」
「・・・なんだと?」
まさか。とは思うが。いやそんなはずは無い。いやしかし。・・・長門のいった通りなのか?
「聞いたよキョン。涼宮さんと付き合うようになったんだって?」
「誤解だ。デマだ。陰謀だ」
「まぁまぁ、照れなくていいよ。こういう場合『おめでとう』、でいいのかな。それとも『ご愁傷さま』?『式には呼んで』?どれがいいかなぁ」
「やかましい。誤解だといっているだろうが」
「なに?そんなに嫌なの?」
「別に嫌ってわけではないが・・・誤解のままにしとくわけにはいかんだろ」
って、今の・・・
「そ。じゃあいいじゃない。ほっとけば消えるわよ。そんな噂」
ハルヒ、まさか今の・・・
「それよりキョン、アタシ今日朝ごはん抜いてきちゃったのよね。だからアンタの弁当よこしなさいっ♪」
と、俺のカバンを漁り弁当を強奪する。っててめぇ、ちょっと待ちやがれ。
「・・・さっそく痴話喧嘩か」
「微笑ましいけどそういうのはよそでやってもらいたいねぇ」
好き勝手言いやがって。
くそ、俺の日常はどこへ・・・
 
 
 
 
昼。ハルヒに弁当を強奪された俺はやむなくまた学食を利用することになる。
ちくしょう、ちょっと庇ってやったらハルヒのやつ遠慮なくつけあがりやがって。
「キョン、こっちきなさい!」
うぉっと。コラ、引っ張るな。
で、俺が連れてこられたのは文芸部室。
「なんだ、学食いかないのか」
「アタシはね、恩を仇で返すほど薄情じゃないのよ」
よく言うぜ。
「だから・・・ハイ」
・・・差し出されたものはなにやら四角い箱。いやまぁパッと見る限り弁当箱のようだが。
「お弁当よ、お弁当。見れば分かるでしょ」
・・・なんだ、まさかわさびたっぷりロシアン寿司でも入ってるんじゃないだろうな。
「そんな幼稚なことしないわよ。お礼だって言ったでしょ」
聞いてないが。つか、弁当あるなら俺のじゃなくてそっち食えよ。
「アンタバカ?お礼だって言ってるもの食べるわけ無いじゃない」
いやいや、じゃあ俺の弁当食うなよ。それじゃチャラにならんだろ。
「だから、明日も作ってきてあげるわ」
は?
「これは昨日のお弁当のお礼。今日のお弁当のお礼は明日作ってきてあげるって言ってるのよ」
「で、要るの?要らないの?」
・・・まぁどうせこのままなら学食だからな。ありがたくいただくとしようか。
「そ。アンタ運がいいわ。今ならおまけがついてくるのよ」
おまけ?
「こうゆうこと」
するとハルヒはおもむろに髪の毛を束ね、ゆっくりと俺に近づき―――――――
 
 
 
「で、噂は否定する?」
「・・・誤解じゃないなら、否定する必要はないだろ」
 
まったくもって、やれやれ、だ。
 
【了】