ばーすでぃ (63-775)

Last-modified: 2007-10-08 (月) 02:09:35

概要

作品名作者発表日保管日
ばーすでぃ63-775氏07/10/0807/10/08

作品

高校生にとって、いや高校生に限らず社会人、大学生、中学生に果てや小学生まで入れてもいいかもしれん、とにかく学校、もしくは会社といった生活していくうえで何かに縛られている人たちにとって必要不可欠であり最大の需要である日を俺は今享受せんとするところであり、まぁつまるところ今日はお休みなわけである。学校もSOS団も。
で、そんな貴重なお休みである本日を、日頃某団長様に酷使されている体をゆっくりと休めることにあてようと決意新たに再び夢の世界へ。
―――は、旅立てなかった。
携帯の着信音が部屋に鳴り響く。
着信:ハルヒ
恐ろしいヤツである。なんて見計らったタイミングだ。
「何のようだ。」
「随分なご挨拶ね。朝の挨拶とは思えないわ。」
ごもっとも。
「おっはー。・・・で、なんのようだ。」
一昔前に流行った挨拶。俺の不機嫌さを感じ取ってくれるとありがたいんだが。
「・・・まぁいいわ。アンタ今日暇でしょ。9時に駅前ね。」
ぷつりと切れる。
要件だけ言って切るとはなんと経済的な電話でしょう。じゃなくて。
さて、どこから突っ込めばいいか。
 
 
アイツ朝の挨拶言ってねぇ――――
 
 
 
時刻8:45。駅前に到着。あぁ、俺に拒否権がないのは言うまでもない。
「遅い!罰金!」
集合時間より前についてるんだが。いや、それよりも、
「ビリではない気がするんだが」
そう、そこにいたのはハルヒただ一人。朝比奈さん、長門、古泉の姿が見当たらない。
「皆用事があるみたいよ。まぁやるって言ってなかったからしょうがないけど。」
そうか。俺には反論の余地すら与えずに電話を切るくせに他の連中には予定を聞くのか。
「まぁ、いいじゃない。今日は私が奢ってあげるんだし。」
・・・幻聴か?今、奢ってやると聞こえたんだが。
「なによ。たまには私だってそんな気分の日だってあるわよ?」
明日槍でも降ってくるんじゃないか。
「・・・罰金、払う?」
お言葉に甘えさせていただきます。
 
 
 
さて、いつもの喫茶店。俺はついついハルヒを見つめてしまう。なんでかって?
ビバ☆ぽにて
この一言に尽きる。魅了された人間てのは案外言葉が出てこないもんだな。俺が慣れていないだけかもしれんが。
「目つきがエロいわよ。」
思わず顔を触る。俺はそんなに食い入るように見ていたのか?
「エロキョン」
「・・・お前なぁ、楽しそうに人を罵倒するな。」
「アンタが間抜け面してるのがいけないのよ。」
「そりゃ悪かったな。で、今日はどうするんだ?」
「そうね、適当にぶらついてれば不思議も寄ってくるでしょ。」
きっと今までのスタンスが良くなかったのよ、なんておっしゃりやがりますか。
「ま、気軽に行きましょ」
と、伝票をもってレジへ。おぉ、ほんとに奢るとは。マジで槍でも降らないといいが。
 
その日はほんとにブラブラと散策していただけで終わった。映画みたりゲーセンいったりショッピングモール冷やかしてみたり。まぁ普通のとある休日の一日、ってやつなんじゃないのか?
 
「あー楽しかった。」
ひとしきり回った後、フラリと立ち寄った公園のベンチで一休みしているときハルヒは珍しいことを言った。
当たり前だがハルヒが望むような不思議は現れなかったし、アイツもいつものような突飛な行動はしていない。
今日の俺たちの行動なんてごく一般的な普通の休日の過ごし方だったろうに。
だがまぁ、退屈されるよりはましか。
「そうかい。そりゃよかったな。」
「・・・あんたは?」
普段じゃなかなか見れない表情だ。少し不安そうで、儚げな。
なんだろうな、今日のコイツはどこかおかしい気がする。
「楽しかったさ。なにも起きない『普通』の一日だったしな。」
「そ。」
わざわざ『普通』と強調しても無反応だった。
今日のコイツはやっぱりおかしい。
「で、何を企んでいる。」
嵐の前の静けさ、というのが一番適切な表現なのかもしれん。コイツが大人しい時は。
「別に。ただの暇つぶしよ。」
他人を巻き込んでの暇つぶしは感心できんと思うが。
「アンタも楽しかったんだからいいでしょ。」
結果論で物事を語るな。
「じゃあ俺がつまらなかったといえばお前はどうするんだ。」
「楽しいと思うまで連れ回すわ。」
「脅迫じゃねぇか。」
「・・・つまらなかった、の?」
・・・・・・・・・脅迫じゃねぇか。そんな顔で見られたら、Noなんていえるわけない。
言うつもりもないが。
「さっき言っただろ。楽しかったさ。」
「じゃあいいじゃない。」
だから結果論で・・・やめよう、きりがない。
 
「で、ホントにどうしたんだ。今日はなんか変だぞ。」
俺に奢ったり、楽しかったかどうかなんて聞いてきたり。
俺の意見なんていつも聞いてないだろうが。
「さっき言ったでしょ。ただの暇つぶしよ。」
どうやら平行線を変えるつもりはないらしい。
俺だって特に文句があったわけでもない。ここで「そうか。」といえば、それで終わっただろう。だが、俺は何を思ったかアイツがなにを考えているか知りたくなった。
「なんのつもりか知らんが、暇つぶしの道具扱いなら帰らせてもらうぞ?」
アイツにそんなつもりが微塵もないことはわかっている。ついでに俺も帰るつもりなんて微塵もない。ただ、アイツがなにか気晴らしを必要としているなら、俺もそれなりになんとかしてやりたいと思ってしまったわけで。まぁなんだ、ハルヒがいつもと違うから俺もそれにつられただけだ。
で、アイツはというと、考えを改めてくれたのかその重い口を開いた。
 
「・・・ただの暇つぶしよ。」
 
どうやらコイツは、話す気がないらしい。
 
帰るつもりはなかったが、言ってしまった手前立ち去るしかないか、なんて思案していると、どうやらハルヒの話には続きがあったようだ。
「・・・今日ね、誕生日なのよ。私の。」
「まぁいつも一人だったからね、別にどうってことないんだけど。」
「ただ・・・暇だったのよ。」
なんだろうねコイツは。要するに一人で寂しかったってことだろう。
「なら、誕生日パーティでもやればよかったじゃないか。」
いきなり自分プロデュース自分誕生日パーティなんて開いた日にゃどこの気弱なピッチャーだと思うが、予定してやれば別に不思議な流れじゃないだろう。俺だって祝ってやることもやぶさかではないぞ?
そういえば、去年は誰かの誕生日パーティなんてやらなかったな。こんなイベント見逃さないと思ってたが。
「別にアタシのはどうでもいいのよ。・・・でもそうね、やろうとは思ったわよ。誕生日パーティ。」
「なら、なんでやらなかったんだ?」
「・・・・・・アンタ、有希の誕生日知ってる?」
「いや、知らんな。だが、なぜそこで長門が出てくる。」
「誕生日パーティやるからには、全員の誕生日知らなきゃいけないでしょ。でね、有希にも聞いたのよ。『誕生日はいつ?』ってね。」
俺は聞かれた覚えがないんだが・・・まぁいい。今は長門の話だ。
「そしたらね、有希ってば『わからない』って答えたのよ。」
なんとまぁ。学生証にでも書いてあるだろうに。
「アタシだってそう思って学生証見せてもらおうとしたわよ。そしたらね、『ここに書いてある誕生日は私が長門有希と名乗るようになった日。貴女の言う生まれた日ではない。』なんていうのよ。なんかもうそれ以上聞ける雰囲気じゃなかったわ。」
そういえば、文芸部の会誌の原稿にもそんな感じのことが書いてあったな。役割も、名前もわからない、私は幽霊。みたいな感じで。あれをそのまま長門に当てはめていいものなのかは分からないが。
何も分からないまま、気がついたらここにいたってのか、長門よ。
「それでね、その日を祝ってあげてもいいのかな、って。でもそんなこと聞けるわけないじゃない?」
まぁ、正体をしらなきゃ複雑な事情の家庭、真っ只中だしな。
「祝ってあげたい誕生日が分からないんじゃ、パーティなんてできないでしょ。だからね、アタシは誰の誕生日パーティもやらないつもり。有希だけ仲間はずれになんて出来ないわ。」
・・・こいつはこいつなりに、ちゃんと団員のことを考えてイベントを考えていたようだ。その中に俺の苦労を労うものがないのが惜しいが、まぁ、この際それを言及するのはいいだろう。いまさらだ。
「だからね、今日はただの暇つぶしなのよ。」
「ホントは何もしないつもりだったんだけどね。」
「SOS団の活動が珍しく休みなのも、それが理由か。」
「そうよ。みんな用事があるってのも嘘。暇そうなアンタにしか連絡してないわ。」
・・・俺のほうから理由を聞きだしておいて、気の利いた言葉の一つもかけてやれないのがやけ口惜しく感じる。
「そうか。」
たった一言、場をはぐらかすことしかできないなんてな。
 
「さて、次はどこ行こうかしら。」
ハルヒはもうさっきの話は終わりにしたようだ。だが、俺はこのまま終わるわけには行かない。自分から気まずい雰囲気にしておいてハイそうですかと次にいくなんて無責任なことできるか。
とりあえず状況整理をしてみようか。
・今日はハルヒの誕生日
・ハルヒは誕生日を祝うつもりはない
・それは長門の誕生日を祝っていいものかわからなかったから
・それでも今一人でいることを拒んだ
・つまり、ホントは誰かに祝って欲しい
と、くれば俺のとる行動なんてひとつだろ。
「ハルヒ、30分ココを動くな。」
「は?」
「いいな、ちゃんとここにいろよ?」
そして俺は全力でその場から立ち去った。後ろでうろたえるハルヒを置き去りにして。
・・・状況だけ見ると酷いな、俺。
 
さて、今日の手持ちはそんなに持ってきていない。となればどっかで金を用意しなければならない。――緊急用のお年玉貯金を使うとき、か。
「まさか、コレを使うことになろうとはな。」
どこの秘密兵器だと突っ込みながら、軽く自嘲気味に嘆く。基本的に金に頓着がない俺は毎年のお年玉をしっかりと貯金している。正確には貯金という名の放置だが。
だから、さっきも述べたとおりこいつは緊急用としてとっておいてあるわけだ。普段の小遣いでやりくりしている俺に、こいつを使うときが来るとは思わなかった。
「まぁ、緊急事態だしな」
何故だろうか、貯金を下ろしているというのにどこか満足感が有る。有意義な金の使い道を知った気分だ。なんでだろうな。他人のため、だからか?
 
なんてことを考えつつ、俺は急いでプレゼントを買ってハルヒが待っているであろうあの場所へと走る。あぁそりゃもう全力で。
 
 
 
「ちょっと!どこいってたのよ!」
「ハァー・・・ッハァー・・・ま、待たせたな・・・」
息が続かん。
「置き去りにするなんていい度胸じゃない?どんな罰を与えて・・・」
しゃべる体力が残っていない俺は、ハルヒの言葉を遮るように買ってきたものを渡した。
うすうす、アイツも気付いたことだろう。少し、嬉しそうな表情になったのを俺は見逃さんぞ?
「な、なによコレ・・・」
「開けてみろ」
ハルヒの期待にこたえられそうな突飛なものでないのは申し訳ない、俺が買ってきたのはなんて事のないただのネックレスだ。誕生石を連ならせ、ちょっと縦長のデザイン。すっきりとした感じでネックレスそのものが存在を誇張しすぎずそっと胸元を引き立ててくれそうな、そんなイメージを持った。女性に贈り物なぞしたことのない俺にはどんなものが喜ばれるかなんてわかりゃしない。ただ、アイツにはさりげなく魅力を引き立ててくれるようなものが似合うかななんて思っちまったんだから仕方無いだろう。
「ちょ、アンタこれ・・・」
さて、こっちも適度に息が整ってきたところで
「誕生日おめでとう、だ。ハルヒ。」
どうだハルヒ。ちょっとはお前を憂鬱にさせた代償にはなったか?
 
「さっきのショッピングモールでちょっと見かけてな。お前に似合いそうだな、って思ってたんだよ。」
恥ずかしいな、おい。というか冷静に見ればおかしな状況だろ。彼氏でもないヤツから「お前に似合いそうだから」なんて贈り物もらっても気持ち悪いだろうに。しかもジュエリーて、アホか俺。テンパって気が回らなかった。なんとなくアイツに似合いそうなものを買って・・・だいぶマズイチョイスをしてしまったんではなかろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
無言。しかもうつむいてるもんだから表情もわかりゃしない。やっぱりまずかったか?
「・・・まぁ、なんだ。気に入らんなら捨ててくれてかまわんから。」
所詮自己満足に過ぎなかったか。喜ぶ顔を見たかった、てのは俺の我侭だしな。
「・・・んでよ」
なんだ?
「なんでよ!なんでアンタはこんなっ・・・」
こっち睨んだかと思えばまた下向きやがった。
・・・そこまではっきりと拒絶されると俺も辛いものがあるんだが。
「・・・すまん。」
どうやら俺の初プレゼントは失敗に終わったようだ。ムリに背伸びしてもロクな結果にならんということか。手痛い授業料だな、まったく。
「・・・・・・・・・・・・」
余計気まずい雰囲気にしちまった。すまん古泉、閉鎖空間で頑張ってくれ。
「ア、タシ、は、団長、だか、ら」
句読点がおかしいぞハルヒ。なんていえるわけもない。よくみたら地面にポタポタと雫が落ちてる。泣いてるのか、アイツが。あのハルヒが。
「み、んな一緒、じゃなきゃ、いけない、のに」
「有希を、仲間、は、ずれ、なん、て、で、きない、のに」
「た、んじょ、うび、なんて、」
「ず、っと、ひとり、で、」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
堰を切ったかのように、突然泣き出した。
「おい、ちょ、ハルヒ?」
さてどうしたものか。突然大声で泣き出した女の子。うろたえる俺。そしてココ公園。
流石に視線が痛い・・・
「落ち着けって。な?」
苦し紛れにしかならないと思うが、そっと肩を抱いて頭を撫でる。まさかこんなドラマのワンシーンみたいな真似をすることになろうとは・・・どんだけ厄日だ、今日は。
 
さて、ハルヒが落ち着くまでちょっと考えてみようか。今のハルヒの言葉を聞く限りでは、どうやら誕生日を祝う、という行為がよろしくなかったみたいだ。
・・・長門、ね。長門の誕生日を祝っていいかわからない、ってのがそんなにネックになってるとは思わなかったな。こいつのことだからきっかけがあれば強引にでも祝ってやるもんかと思ったが、俺も考えが甘かったようだ。ことSOS団のことになると、真剣なのは知っていたが。
ハルヒからしてみれば不安だったのだろうか。いつ、どこで別れてしまうかも分からない人の繋がりが。それぞれが目的を持ってここにいる事情も知らなければ、裏でアイツにばれないようにコソコソなにかやっているのも気付いているだろう。勘のいいやつだからな。
踏み込めない一線、でも感じているのだろうか。
・・・まったく、俺はコイツのパイプ役にでもなろうってのかね。
「ハルヒ。」
少し、話してみようか。
 
「落ち着いたか?」
コクリ、と頷く。うっ、可愛い・・・じゃなくて。
「さて、どこから話すか。」
「まずな、長門だ。アイツの誕生日だがな、アイツが『長門有希』を名乗るようになった日でいいと思うぞ。長門は長門なりに今を気に入っているはずだ。SOS団のピンチにはいつも自分事より優先して動いてくれてるだろ?生まれた日、じゃなくても、今の『長門有希』になった日を祝われても悪い気はしないだろ。誕生日は生まれた日を祝うだけじゃなくて、出会えたことを祝ってもいいはずだ。今ここに君がいてくれてありがとう、ってな。」
今日は恥ずかしいセリフオンパレードか。そんなこと気にする余裕もないが。
「それから古泉もな、いつも胡散臭い笑顔でいるが、アイツもSOS団副団長ってのに誇りを持ってる。時々裏があるんじゃないか、なんて思っても結局はSOS団のために動いてるんだよ。みんなで楽しむことを考えてるアイツに嘘はないさ。」
「朝比奈さんだって、みんなのために何かしたいと思ってる。それでも自分には何も出来ないからって、お茶汲みぐらいしか出来ないからって一生懸命なんだよ。まだ追い込みシーズンじゃないとしても、受験生で忙しいはずなのに顔出してくれてるだろ。朝比奈さんだってみんなと居たいと思ってるんだ。」
アイツらに直接聞いたわけじゃない。でも、出会った頃と比べて、「任務」なんてものを抜きにして動いているように見えるのは気のせいじゃないはずだ。時にそっちを優先させるとしても、俺の言ったことに間違いなんてないよな?
みんな、SOS団が好きなんだよ。あぁ、そうさ、俺だって。
「俺だってそうだ。最初は巻き込まれたついでに居ただけだったけどな。だんだん、そこに居るのが楽しくなったんだ。お前に振り回されて、やれやれなんていいながらとんでもないことするのが楽しいんだ。」
「だからな、ハルヒ。お前一人で気張る必要はないんだ。みんな好きでSOS団に居るんだから、もっとみんなに相談しろ。一人で結論だして遠慮なんかしなくていい。冗談や興味本位での行動じゃなきゃ、一歩踏み込んでも誰もお前を嫌ったりしねぇよ。」
 
よくしゃべったな、俺。こういうのは古泉の役割なんだが、居ない人間に押し付けることも出来まい。たまには、俺もこんな役割でもいいだろ。
 
「さて、ハルヒ。もう一度だけ言ってやる。」
 
「誕生日おめでとう、ハルヒ。」
 
さて、その後、だが。
やはりハルヒはハルヒだった。
「アンタに言われなくてもわかってるわよ!」なんて言いやがった。
まぁそれがどこまで本心かなんてわかりゃしないがな。泣き顔よりも笑顔になったんだから、俺もいつもと違うことをした甲斐があるってもんだろ?
が、問題はその後である。ハルヒはハルヒであったが。俺が俺じゃなかった。
どうやら俺は渡したプレゼントが失敗したのを思いのほか表情に出していたらしい。
買いなおそうかと思っていたが、ハルヒが気を遣ってか「それでいいからアタシに着けなさい」なんて言うもんだから、俺もそれに従ったわけだ。これ以上の出費はなかなかきついからな。
しかし、だ。いつもと違うハルヒを見て、いつもと違う俺になって、どうやら俺はいささか混乱していたんだろう。きっとそうさ。そうにきまってる。・・・誰かそうだといってくれ。
 
俺がハルヒにネックレスを着けてやると、アイツは微笑んだんだ。いつもみたいな明るい笑顔じゃない。思わず綻んだ、みたいに、自然に、ニコリ、と。
『見るもの全てを恋に落としそうな笑顔』は俺なりの最大の賛辞のつもりだったんだが。
どうやらそれを上回るものがあったらしい。いや、らしい、じゃないな。
今、俺の目の前にある。
「好きだ。」
・・・誰かに乗っ取られたとしか思えん。無意識だった。気がついたらそんな言葉がでてきていた。あぁもう俺がびっくりだ。びっくりしすぎて目の前が暗転しそうだ。
いや、別に嘘をついたわけではない。嫌いなわけはないし、一緒に居るのは楽しいし、アイツの面倒を見切れるヤツが他にいるとも思えんし、アイツが他の野郎と仲良くするところなんて想像もつかんし、って、つまるところあれか。俺はアイツに見合う相手は俺しかいないと思っていたのか?そうなのか?どうなんだ俺?
 
落ち着け、俺。・・・最早どうしようもないだろ。「好きだ」なんて言っちまった後に「嘘だ」なんて言えるわけも無い。嘘じゃないんだし。あとはなるようにしかならないだろ。
後はハルヒの返事次第、だ。
「・・・で?」
『で?』って。でっていうか。そこで。
「あー・・・・・・ただの一般人で悪いが、お前の彼氏にしてくれないか?」
「ふーん?」
ニヤニヤとまぁ愉快そうに。俺がうろたえてたのがそんなにおもしろいか。
「・・・そうね、まぁいいわ。アンタの精神病に付き合ったげるわ。アンタみたいなのほったらかしとくとSOS団の名が貶められそうだしね。」
結構な言い草である。
「彼氏にするなら、宇宙人みたいなのかそれに準ずる何かじゃないといけないんじゃなかったのか?」
OKもらったのにわざわざ自分から否定することも無いんだがな。
ハルヒはそんな俺を見て、「バカね。」と一蹴した。
 
「栄えあるSOS団の一員なのよ?そんなの宇宙人以上の存在に決まってるじゃない!」
 
ハルヒはやっぱりハルヒであった。
 
とびっきりの笑顔に、どうやら俺はもう離れられなくなったみたいだ。
まぁあれだ、ハルヒのご都合パワーなんかじゃなく、アイツの魅力そのものに俺が改変されたんだろうね、きっと。
 
あぁ、今年から誕生日パーティがイベントに追加されたのは、言うまでも無いだろ?
俺の誕生日、期待してるぜ、団長様?
【了】