カップリング禁止 (42-342)

Last-modified: 2007-03-08 (木) 22:52:43

概要

作品名作者発表日保管日
カップリング禁止42-342氏07/03/0807/03/08

作品

放課後のことである。
掃除当番やら先生からの雑用やらで遅れて部室へ到着した俺は、
とうに朝比奈さんは着替え終えている時間だろうなあと思いつつも、
万が一朝比奈さんが着替えをしているといけないと思い、ノックして部室へ入った。
既にハルヒ他一同はおなじみの定位置に揃っている。
団長席に陣取ったハルヒの奴は、妙に気張った顔でパソコンの画面を見て腕組みをしているのだが、
何やってんだ?
「…ッ!キョン!あんた、部屋へ入るときはノックぐらいしなさいよ!」しただろ、さっき。
「まあいいわ。…それより、みんな聞いて。」

 

そして突然、我らが団長様は、椅子の上に立ち上がると、例によって高らかに宣言を始めたのだった。
「今後我がSOS団では、団員同士の恋愛色恋沙汰、カップリングに関する話題は一切禁止とします!」
はあ?…一体今までいつそんなのがあったというのだ。
そりゃ、確かに朝比奈さんに心ときめく日々を送っているのは事実ではあるが…
「あの、『カップリング』って何ですか?」質問を発したのは、その朝比奈さんだった。
「いい、みくるちゃん。カップリングっていうのは、誰と誰がお似合いだとか、そういう話題のことよ。
あ、そうそう、それから、今後は文筆活動も禁止ね。」
文筆活動が禁止って、ここは一応文芸部だぞ。そんな無茶な。
俺なんかはにはどうでもいいことだが、長門、お前はいいのか?お前は正規の文芸部員だろ?
「……」長門は例によって本のページへ目を落としたまま、顔を上げる動作はなし。
「あたし、今日は帰るから。以上ね。」
何の前触れもなく、恋愛禁止だの、文筆活動禁止だの、突然帰るだの、
何ヒステリーを起こし始めてるんだ、ハルヒは。
そういえば、俺が部室へ入った時、じっとパソコンを見ていたな…
まさか、パソコンに俺が入れた朝比奈さんフォルダの存在を知られてしまったとか!?
「ちょっとキョン!何言ってる先からみくるちゃんのことちらちら見てるのよ?
みくるちゃんも今日は帰りなさい。キョンに襲われるから。」
な、何を失敬な!
「みくるちゃん!」「は、はいっ!」結局、ハルヒと朝比奈さんは帰ってしまった。

 

気になる。ハルヒはあの発言を始める直前まで、パソコンの画面を見ていた。
パソコンの画面は、何の変哲もない、いつも通りの画面である。
俺が部室へ入った時、ハルヒは腕組みをしていたから、パソコンの操作はしていなかった。
しかしきっと何かある。何かが。
まあそれを調べる前に、まず朝比奈さんフォルダが消されていないかどうかをチェックしよう。
幸いなことにどうやら無事なようだ。
…ん?
謎のフォルダを発見。パスワードでロックされている。
誰が作ったんだ?こんなものがあるとは気付かなかった。長門、お前が作ったのか?
「それを作ったのは、涼宮ハルヒ。無意識的に作ったわけではない。
涼宮ハルヒ本人が、自らの手で情報秘匿の目的を以ってパソコンを操作し作成した。」
何でまたそんなことをしたんだ?俺は、長門に聞いてみた。ハルヒの目的は何だ?
長門の顔に、わずかながらの表情が見えたような気がした。長く付き合っているから解る。
長門にしては、随分と表情が表れた顔である、というべきなのだろう。
しかし、その表情は何とカテゴライズすればいいのか。えらく複雑な表情であるとも思った。
「パスワード解除は可能。ただししない方がいい。」
「残念ながら僕もその意見に賛成です。」そういえばいたのか古泉。

 

結局、俺は謎を残したまま家へ帰った。
ハルヒがパソコンを見ていた事と、恋愛禁止発言の関係、謎のフォルダの中身――
それから、帰り際に、長門は読んでいた本を貸してくれた。いつぞやのように、半ば強引に。
俺の部屋で、長門が読んでいた本を読む。長門の本にしては、何というか、易しめの本だな。
たぶん10代少年少女向けの恋愛小説だろうか。しかも薄い。絵が多い。字がデカい。
長門にしては珍しいと思った。俺でも今日中に読めちまいそうだ。ホントに、珍しい。
何かが書いてある栞が挟まっているか探したが、そんな物も特に見つからない。
その本のあらすじをかいつまんでまとめると、こんな感じだった。
ひとり文芸部で活動する主人公の少女は、ある日図書館で困っているところを
誰とも解らぬ少年に助けられ、少年へほのかな好意を抱く。
その後いろいろあったのだが、主人公はその少年とめでたく再会を果たすことが叶った。
少年は文芸部へ入部。二人は一緒に読書や文筆活動やデートを楽しみ、幸せに過ごしましたとさ。

 

その翌日の放課後。
俺は今日も掃除当番の予定だったのだが、それは谷口へ譲ることにした。近い将来の昼飯と引き換えだ。
気になることもあったしな。部室のパソコン絡みで。
例によってハルヒは、既に部室へ直行していた。
さて、俺も部室前にいる訳である。
まだ朝比奈さんが着替え始める時間には早過ぎるようにも思ったが、
万が一朝比奈さんが着替えをしているといけないと思い、ノックして部室へ入ることにする。
部室の中にいたのは、ハルヒと長門だった。
団長席に陣取ったハルヒの奴は、妙に目を爛々と見開いてパソコンの画面を見ている。
昨日とは異なり、今日はマウス操作をしているようだ。
長門は相変わらず読書中。
朝比奈さんが例えどんな仕打ちを受けても淡々と読書を続ける、あの読書中の長門だ。
ところで、ハルヒの奴は一体何を見てるんだ?
その時、なぜか俺の脳裏には、直感で昨日の謎フォルダの存在が稲妻のように浮かび上がった。
きっとハルヒの奴は、あのフォルダを開いているに違いない。俺はそう直感で確信した。

 

おい。何やってんだ?ハルヒに近づいて声を掛ける。
「…ッ!あんた、部屋へ入るときはノックぐらいしなさいよ!」
昨日と同じような反応。ノックならしたぞ。
画面を見ると、まさしく昨日の謎フォルダと思われるフォルダが開かれている。その中には…
さらにフォルダがあった!それも「kyon」という名前の!!
おい、ちょっとマウス貸せ!何で俺の名前のフォルダがある?
「さ、さあ、何かしらねえ。何でもないわよ。」
何だその言い訳は。思いっきり嘘っぽいぞ。とにかくマウスを貸せ。貸せってば。

 

普段のハルヒなら、ここで俺がマウスを奪い取ることができるような隙など見せないのだろうが、
この時はひどく動揺していたのか、俺がキーボードを奪い取って
パソコンを操作するふりをしたりしたところ、あっさりとマウスを奪取できる隙ができた。
そのままマウス奪取に成功。
残念ながらそんなに俺はパソコンのキーボード操作は得意じゃない。
つまりキーボードを取ったのはフェイントである。卑怯なマネをしたとか恨むんじゃないぞ。
さて、問題のフォルダの中身を開くと…

 

俺は絶句した。
何かヤバそうな名前のテキストファイルと思われる物たちの群れ。何だこれはおい。
手当たり次第にいくつか開いてみる。
次々に開く窓の中を目の当たりにして、俺は再度絶句した。な、何だこれはーーーーーッ!!
ちょっと読んだだけで小っ恥ずかしさで死にそうになるような、作者不詳の恋愛小説と思われるものたち。
これもだ。これも。これも。
しかも、登場人物の名前が揃いも揃って「ハルヒ」とか「キョン」とかいうのは何の間違いなのか。
訂正を求める!
そして決まって先頭行にはこう書かれている。「ハルキョン SS」。
これもだ。これも。これも。これも。これも。
おいハルヒ。俺はハルヒの名を呼びつつ振り返った。無論、これらに関する説明を求めるためである。
「…インターネットにあったのよ。」
ハルヒの言葉は、嘘ではあるまい。ハルヒがいくら何でもこなせて文才があったとはしてもだ、
このような代物を書き溜めるとは到底考え難い。
だが何故これほど取っておく必要がある?
「だ、団員を有害な情報から遠ざけるためよ。」
アホか。インターネット上から取ってきたのなら、
これらは原情報ではなく、そのコピーでしかないではないか。
もしや、昨日のお前の一連の発言も、動機はそれなのか?
「こんにちは。大変お取り込み中のようですが、失礼します。」
古泉が部室へ入ってきたようだが、今はそれにかまっている場合ではない。
物事には優先順位というものがあるのだ。

 

だがしかし、
「昨日決めた規則に関して、何か問題でも?」古泉はそう言いつつ、こちらへ近づいてきた。
まずい。
ハルヒとの会話で熱くなっていた俺の脳髄だったが、ここはクールダウンさせる必要がある。
とっさに、俺はそう判断した。というか、正直、血の気が引いた。
今ここで古泉が近づいてくると言う事はだ、
この一連の恥ずかしいファイルを発見される可能性がきわめて大なのである。
このようなもの、断じて知られてなるものか。知られてはならん。だがどうする?
「ハルヒ、パソコンの電源を切れ!」
「わかったわ、キョン。」
優先順位は変更だ。俺は、ハルヒへマウスを手渡した。

 

ふう…何とか最悪の事態は免れたようだ。
「お見事なチームワークでした。ところで涼宮さん、差し出がましい申し出なのですが、
昨日の件、僕個人としては、団員の恋愛の自由を配慮してはどうかと思うのですが。」
「そ、そう。ま、まあ、副団長の古泉くんがそう言うのなら、少しは…」
おい、ちょっと待て、古泉。
何を珍しくハルヒへ意見している。
ハルヒが答えるまでもない。俺が回答する。昨日決めた規則はこのまま永久に継続だ。
お前は知らないだろうが、俺は見てしまったんだよ。
団員のモラルが低下するとどのような恥ずかしい事態になるのか、その片鱗をな。
「は、はあ…そうなのですか。」
そうだ。強いて許されるとするのなら、俺と朝比奈さんの、清い交際ぐらいのものだろう。

 

あ。
……
な、何という失言!
しかも、いつの間にか、部室の中には当の朝比奈さんがいらっしゃるではないか!
朝比奈さんは、耳まで真っ赤になって、頬を押さえながら、俺の話を聞いていた…
あ、朝比奈さん、い、いつからそこに…?
「あの、一応ノックして入ったんですけど…」
い、いや待てよ落ち着け俺。よく見るんだ。朝比奈さんは心なしか嬉しそうにも見えなくもな…

 

俺は宇宙人でも未来人でも超能力者でもなく、ごく普通の一般人のつもりだった。
しかしどうしたことだろう?俺にも超常能力が見に付いたとでもいうのだろうか?
振り向かなくとも解ってしまうぞ。背後に何か物凄い殺気がふたつ。何故だろう?

 

ひとつは、煮えたぎった熱湯の如くぐらぐらと熱く、
もうひとつは、極北の氷山の如き寒気を感じる。

 

「キョン、さっきの発言、ちょっと説明してくれるかしら?」
「……本、読んだ?」
殺気(複数)が、俺のすぐ背後で話しかけて来る!

 

ああオフクロ、俺のこれまでの人生が走馬灯のように…
幼稚園のクリスマスイベントに現れたサンタは偽サンタだと理解していたし記憶をたどると周
囲にいた園児たちもあれが本物だとは思っていないような目つきでサンタのコスプレをした園
長先生を眺めていたように思うそんなこんなでオフクロがサンタにキスしているところを目撃
したわけでもないのにクリスマスにしか仕事をしないジジイの存在を疑っていた賢しい俺なの
だが宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力者や悪の組織やそれらと戦うアニメ的特撮的マンガ
的ヒーローたちがこの世に存在しないのだということに気付いたのは相当後になってからだっ
たいや本当は気付いていたのだろうただ気付きたくなかっただけなのだ俺は心の底から宇

 
 

「僕はしばし部室の外へ避難させていただきます。
……『やれやれ』ですね。」

 

おしまい