キョン(本名不詳)の憂鬱 (135-745)

Last-modified: 2010-11-21 (日) 10:16:58

概要

作品名作者発表日保管日
キョン(本名不詳)の憂鬱135-745氏10/11/1410/11/20

作品

小さい頃の俺は、宇宙人や未来人や超能力者や悪の組織やそれらと戦う正義の味方なんかの存在を心の底から信じてる、それは可愛げのあるクソガキだった。
町内会で渡された七夕の短冊に、「某龍球アニメの主人公になりたい」「某龍探索記の勇者になりたい」などと割と本気で書き込むほどだったからな。
 
しかし現実って奴は意外と厳しいもので。
今に至るまで俺には空を自在に飛んだ記憶なんか無いし、掌が光って自動車にコブシ大の穴を空けてオシャカにしたことも無けりゃ、父親の仇を討つために王様に魔王退治を命じられたことも無い。
まぁそれは良いんだ。子供ながらに「そう簡単に空想のキャラクターになれるわけない」と理解(?)していたからな。だが、
「UFOとか幽霊なら、頑張れば見つけられるんじゃないか?」
と、そう思うのはまだ自然だろう?
 
 結果から言うと、全戦全敗。一晩中夜空を見張っても、見つかるのは虫さされの痕on俺の皮膚。近所で噂の心霊スポットに行っても心霊写真の一つも撮れたためしがない。
 密かに期待してた1999年7の月にも、恐怖の大王なんか降臨しなかったしな。
 
 そして小学校の卒業と同時期、俺は人生で初めて、挫折ってものの存在を知ったんだ。
 【望み続けても叶わないものがある】と認めてしまったことで、な。
 
 俺は「不思議」を追い求めることをやめた。
 
 
~~~~~~~~~~
 
 ……そして月日は流れ……
 
~~~~~~~~~~
 
 
谷口 「キョン、聞いたか? 今日転校生が来るらしいぜ!」
キョン「…そういうのって事前にわかるものだったか?」
国木田「職員室に行った時に聞いたんだって。ほら、谷口は今日の日直だから」
キョン「じゃあ『聞いたか?』って問いかけはオカシイよな。谷口、もう一回やり直せ」
谷口 「あぁ? いいだろ別に。そんな細かいコトをお前は…」
国木田「そういう細かいミスが積み重なって、女の子は離れていくんだよ」
谷口 「教室入るところからでいいか?」
キョン「入学式からってのはどうだ」
国木田「受精するところからの方がイイんじゃない?」
キョン「そうか、遺伝子レベルの問題だったか…気が付かなくてスマン」
谷口 「え、何この流れ」
 
 いきなりアホなやり取りで申し訳ない。
 ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は……なぁ本名じゃダメなのか? …ハァ、わかったよ。
 あー、俺は「キョン」。甚だ不本意ながらこれが本名って設定だ。そんな日本人居てたまるか。
 んで今会話してた2人は…あ? 省略? ……だそうだ。すまんな2人とも。
 
 人生初の挫折を知って5年の月日が流れ、俺は高校二年生になった。今のは朝の教室での一コマだ。
 飛びすぎだって? いいんだよこれで。
 とにかく、俺はあれから何一つ変わったことのない平凡な生活を送っていた。そしてそれはこれからも続いていくんだろう。
 普通に就職して、普通の家庭を持って、普通に歳とって、普通に老衰で死ぬ。
 死ぬまでそんな平穏が続いていく。普通万歳!
 
 ……そう思ってたんだがな。
 
生徒 「きりーつ、礼! ちゃくせーき」
 
 担任教師の岡部がやってきてHRが始まった。
 いつもなら、これまた普通な様式に則った面白みのない言葉の羅列で終わるところなんだが…
 
岡部 「あー、今日はひとつお知らせがある。もう知ってるヤツもいるかもしれないが」
 
 ちらりと谷口に一瞥を投げて改めて俺たちに向きなおった岡部は、予想通り転校生の存在を明かした。
 教室前方のドアに、岡部の「入っていいぞー」との声と教室中の視線とが向けられる。         

 そして勢いよく開いたドアの向こうから姿を見せたのは、
 
 どことなく見覚えのある、どえらい美少女だった。
 
転校生「―――出身、涼宮ハルヒ」
 
 妙な感覚に心を鷲掴みにされるのも束の間、その転校生の言葉に俺たちは更に度肝を抜かれることになる。
 
ハルヒ「ただの人間には興味ありません」
ハルヒ「この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
 
 ……恐らく、この中で今の台詞に最も衝撃を受けたのは俺なんじゃなかろうか。
 そんな俺の只ならない雰囲気を感じ取ったのかどうかはわからない。
 呆気にとられている今日からのクラスメイトを一通り見回し、最後に窓際最後尾に座る俺を視界に入れたソイツは、
 
ハルヒ「…………?」
 
 整った眉を額に寄せ、
 
ハルヒ「…………!」
 
 大きな瞳を何かに思い至ったかのように更に大きくして、
 
ハルヒ「……見つけたあーーー!!!」
 
 俺を指差し、聞いたことも無い程の大声でそう叫びやがった。
 
 ……多分この瞬間に、今までの俺の日常は音を立てて崩れ去ったんだろう。
 崩れる音は聞こえなかったけどな。きっと今の大声のせいだ。
 
 
~~~~~~~~~~
 
 
 俺は今、屋上に居る。
 
 Q/何でそんな所に居るの?
 A/あの大声を出した直後、転校生に引っ張られてきたんです。
 
 Q/何で転校生が屋上に続く道を知ってるの?
 A/昨日の内に一通り案内してもらったんだそうです。
 
 Q/何で連れてこられたの?
 A/知るわけないでしょう?
 
 Q/なら理由を聞いてみたら?
 A/それは良い考えですね。
 
キョン「なあ、おま」
ハルヒ「とうとう見つけたわよ!!」
 
 A/無理でした。
 
ハルヒ「さぁ吐きなさい、あんたは何者なの!?」
キョン「イキナリ何を言い出すんだ。俺は至って普通の一般人だが」
ハルヒ「嘘おっしゃい! 一般人が逢ったことも無い他人の夢に出てこれるワケないでしょ!」
キョン「知るかそんなコト!……って待て、夢だと?」
ハルヒ「そう! 白状する気になった?」
キョン「いや、そうじゃなくて…」
 
 そうだ、夢だ。
 俺は「夢の中」でコイツに逢ったことがある。しかもつい最近、だ。
 ……しかし。
 
キョン「……確かに、俺はお前と一度夢の中で逢ってる」
ハルヒ「でしょ!? 一体あんたはどうやってあたしの夢に…」
キョン「知るか。どうせ街ですれ違ったとか、そんなトコだろ」
ハルヒ「……はぁ?」
 
 夢ってのは、寝てる間に脳が記憶を整理しようとした時に出てくる、只の残滓だ。
 つまり、俺とコイツはお互い気付かぬうちにどっかの道ですれ違うとかしてたんだろう。
 無意識なことでも脳は記憶してる。だから「すれ違った人物」として脳が処理した結果、「夢の中で逢った」ような感覚が残ったってだけ。
 そうさ。きっとそんなトコに決まってる。
 
キョン「……不思議なんて、そうそうありはしないんだ」
ハルヒ「…………」
 
ハルヒ「……なるほどね。そうやって、あんたは『不思議』なことに踏ん切りをつけたってワケだ」
キョン「…………何?」
ハルヒ「あたしは違う」
 
ハルヒ「あたしは、周りとは違う『特別』になりたい」
ハルヒ「不思議なモノを見つけて、自分もそれと同じものになりたい」
ハルヒ「何にも起こらない『普通』の世界なんて、まっぴら御免なの」
ハルヒ「もっと面白い体験がしたい。もっと面白い記憶を作りたい」
ハルヒ「そのためには、踏ん切りをつけてるヒマなんてないのよ」
ハルヒ「その日が来るまで、絶対に諦めない。そう決めてるの」
 
 ……『強い人間』ってのは、こういうヤツのことを言うんじゃないだろうか。
 その真っ直ぐな決意をそのままぶつけられた俺は、自然と心が小さくなっていくのを感じた。
 昔の俺は何をしてきた?
 コイツみたいに、ここまで真っ直ぐな想いを持てていたか?
  
ハルヒ「………よし、決めたわ」
キョン「………え?」
ハルヒ「あんた、あたしに協力しなさい」
キョン「きょ、協力?」
ハルヒ「あたしの不思議探索に協力しなさいって言ってんの!」
 
 
~~~~~~~~~~
 
 
谷口 「……キョン、お前どうしちまったんだ?」
キョン「何がだよ」
谷口 「あの転校生といっつも一緒に居ることだよ! 正気か!?」
キョン「……不本意ながらな」
国木田「そう言う割には、随分と楽しそうに見えるけど」
キョン「…………」
 
 あの転校せ「名前で呼びなさいっていったでしょ!」…あー、ハルヒは有言実行を地で行くヤツなようで。
 あれからほぼ毎日継続して通称「不思議探索」なる怪しげな行為を繰り返すうちに、俺とハルヒは周りから奇異の目で見られるようになっていた。
 良かったなハルヒ、どうやら俺たちは『特別』なもんになれたみたいだぞ。
  
ハルヒ「バカなこと言ってんじゃないの。そんなの『特別』でもなんでもないわ!」
キョン「俺まで一括りにされてんのは言及なしかよ」
ハルヒ「なに変な顔してんのよ。新種の儀式?」
キョン「…んなわけあるか」
ハルヒ「くだらないことしてるヒマがあるなら、もっと動きまわりなさい! 情報収集は基本中の基本でしょ!」
キョン「ハイハイ。仰せのままに~」
ハルヒ「ふざけんじゃないの! まったく……ホラ、行くわよ。今度の目的地はあの廃工場だからね!」
キョン「あそこか……自殺した工場長の霊が出るって噂だが、真夜中に行っても何も出なかったぞ」
ハルヒ「ふふん、あんたとあたしの着眼点を一緒にしないでくれる? 目的は霊じゃないわ。宇宙人よ!」
キョン「何?」
ハルヒ「きっと霊が出るってのはカモフラージュで、実際は宇宙人の秘密コミュニティ施設に違いないわ!」
キョン「それは……スマン、正直一理どころか半理も無いと思う」
ハルヒ「うっさい! あんたは黙ってついてくればいいの!」
キョン「やれやれ…」
 
 とまぁ、常にこんな感じだ。
 まぁ変な噂を気にする暇も無いくらい、毎日が充実してるってのも嘘じゃあないんだが。
 ……妄言だ、誰にも言うなよ。特にコイツには、な。
 
 だがその時、会話を交わす俺たちをじっと見下ろす視線があることに気付く者はいなかった。
 
 
???「………見つけた」
 
 
 ……あ、今さらだが「これ」は状況描写+俺の心情+神の声って設定だからあしからず。
 突っ込みは受け付けんぞ。
 
 
~~~~~~~~~~
 
 
キョン「到着、っと。……全然変わってないな」
ハルヒ「あんたが前に来たのって、せいぜい5,6年前でしょ? そんなに変わるわけないじゃない」
キョン「それはそうだが。…んで、どこから探す?」
ハルヒ「そうね……とりあえず一階から順に回ってみましょう」
 
 廃工場に着いた頃には、すっかり日が暮れていた。いわゆる「雰囲気が出てる」って奴だな。
 まぁ小学生の頃に来たくらいだ、大して怖くも無い………いや待て。
 
キョン「ハルヒ、止まれ」
ハルヒ「え!? な、なに!?」
キョン「……何かが俺のシャツの裾を引っ張ってる」
ハルヒ「う、嘘っ! じゃあ今もあたしの横に…」
キョン「いやお前だろ」
ハルヒ「あ」
 
キョン「お前な、怖いなら怖いと」
ハルヒ「ななな何よ! あああたしが怖がってるとでも言うの!?」
キョン「…………ああ、スマン。俺の勘違いか」
ハルヒ「あ、当り前でしょ!? このあたしが幽霊如きを怖がるわけ…」
キョン「そうだな、無いな。てなわけで分担して探さないか?」
ハルヒ「えっ」
キョン「その方が効率もいいだろうし」
ハルヒ「うぅ…」
キョン「…………」
ハルヒ「…………」
キョン「……冗談だ。ホラ、行くぞ」
ハルヒ「……っ! こ、この…………もう」
 
 再び俺のシャツを握りしめ、おとなしく俺の後をついて歩くハルヒ。
 …こんな様子のコイツもなかなか…いや何でもない。勘違いするなよ、台本にそう書いてるだけだからな。
 
 しかし。
 
 神様ってのが本当にいるとすれば、きっとソイツはとんでもなく気の利かない奴なんだろう。
 普段と違うおとなしいハルヒを堪能する暇すら与えてくれないんだからな。
 
キョン「っ!? 誰だ!!」
ハルヒ「!!」ギュッ
???「…………」
 
 いつの間にか、俺たちの目の前に小柄な影が立ちふさがっていた。暗くてその姿はよく見えない……
 だが、無言のプレッシャーとでも言うべきものが俺たちに突き刺さるのは確かに感じられた。
 
キョン「お前……噂の幽霊か? それとも…」
???「………私は宇宙人」
 
 ……なんだって?
 
???「こことは違う世界から飛ばされてきた宇宙人」
???「私には使命がある」
???「その使命を果たすために元の世界に帰らなければならない」
???「そして元の世界に帰るために」
???「あなたたちを殺さなければならない」
 
 唐突に現れた「自称・異世界の宇宙人(ややこしいな)」は、これまた唐突に手に持っていた杖を振り上げ、
 
キョン「!!!」
ハルヒ「!!!」
 
 その杖先から発せられた光を俺たちの背後の壁にぶつけた!
 
???「………これで逃げられない」
 
 壁は轟音を立て、粉塵を巻きあげながら崩れ落ちる。
 ……冗談だろ? あんなもん直にくらったら……
 
キョン「くっ……ハルヒ! こっちだ!!」グイッ
ハルヒ「あっ…」
 
 来た道は塞がれてしまったが、まだ逃げ道が無くなったわけじゃない。
 俺はハルヒの手を引いて、「自称・異世界の宇宙人(しつこいぞ)」の死角となっていた階段に向かう!
 
???「……させない」
 
 しかし再び「自称・異世界の宇宙人(メンドイ!)」の杖から光が飛び出し、階段を粉砕する。
 
キョン「っ!! くそっ!!」
 
 あぁもう、一体何なんだこの状況は! 訳がわからん!
 
 しかしその時、
 
キョン「!! ハルヒ!?」
 
 ハルヒが俺の手を握ったまま、「自称・異世界の宇宙人(……)」へと歩を進めた。
 ってオイオイオイ!! ちょっと待…
 
ハルヒ「あなた、名前は?」
???「………?」
ハルヒ「名前よ。あぁ、あたしは涼宮ハルヒ。こっちがキョン」
キョン「お前、何を…」
ハルヒ「いいから。……で、あなたの名前は?」
???「…………長門ユキ」
 
 「自称・異世界の宇宙人」は、名を「長門ユキ」というらしい。
 
ハルヒ「ユキね。イイ名前じゃない」
キョン「まったくだ」
ユキ 「……それを聞いてどうするの」
キョン「もっともだ」
 
ハルヒ「ユキ、あたし達と友達にならない?」
 
キョン「な……」
ユキ 「…………ともだち?」
ハルヒ「そう、友達! どう?」
キョン「待て待て待て待て! 自分をいきなり攻撃してきた相手に何を言い出すんだお前は!!」
ハルヒ「あんたこそ何言ってんのよ! 宇宙人よ? 今を逃したらいつ逢えるかわからないじゃない!」
キョン「ソレとコレとは別の話だ! コイツは俺たちを殺そうと…」
 
 ……いや…そもそも何でコイツは俺たちを殺そうとしてるんだっけ?
 …あぁ、元の世界に戻るためだったか。って待て、何かおかしくないか?
 
キョン「ええと、長門…でいいか? ひとつ聞きたい」
キョン「何で俺たちを殺すことが『元の世界に帰ること』につながるんだ?」
ユキ 「………それは」
 
 だが、長門が口を開いた瞬間。
 再び轟音とともに天井が崩れ落ち、長門へと降り注いだ!
 ……展開が急過ぎるとか言うなよ。巻きでいかないと尺が…いや、こっちの話だ。忘れてくれ。
  
ハルヒ「ちょ、今度は何!?」
キョン「知るか!」
 
 もうもうと煙が立ち籠める中、ゆらりと動く影が見えた。長門か?
 …いや違う、影は「3つ」ある。
 
ユキ 「………あなたたち……どうやって」
???「ふぅ……なんとか間に合いましたね」
???「いたた……ご、ごめんなさい! もうちょっと穏やかに降りるハズだったんですけどぉ」
 
 姿ははっきりしないが、声は聞こえる。
 一つは長門だな。後の二つは聞き覚えがない…随分と緊張感のない男女の声だ。
 
???「失礼。大丈夫ですか、お二人とも?」
 
 男の方が、俺たちに近づき声をかけてきた。
 長身のイケメンだ。だが中身はただのホモ野郎だから騙されるなよ皆。
 
キョン「……誰だ、お前は?」
???「初めまして。僕は『古泉イツキ』と言います」
イツキ「どうか『いっちゃん』と呼んd」
キョン「古泉だな。で、あっちの可憐な女性は?」
イツキ「……あちらは『朝比奈ミクル』さんです。平たく言えば、僕の仲間です。ご安心を」
ハルヒ「ご安心をって……」
イツキ「僕たちは、あなた方を助けに来たんです」
 
キョン「助けにって……あの長門ユキとか言う宇宙人からか?」
イツキ「その通りです」
ハルヒ「でも、ユキはさっき『違う世界から来た』って……」
イツキ「その答えは簡単ですよ。僕たちも異世界から来た、というだけです」
キョン「サラッと言ったが、それ絶対簡単じゃないよな」
 
ミクル「ふにゃああああああ!」
 
ハルヒ「!? なに!?」
イツキ「っ! しまった…ミクルさん!」
 
 唐突に挙げられた悲鳴(?)の方向へ顔を向けると、長門が朝比奈さんに馬乗りになっていた。
 ってこの絵面はマズイ! お前ら見るな!
 
イツキ「ミクルさん、今いきます!」
 
 古泉はそう叫ぶと紅く輝く掌を掲げ、
 
イツキ「ふん……もっふ!!」
 
 球状に象られた光を、奇妙な掛け声とともに長門に投げつけた!
 
ユキ 「!」
 
 すんでのところで赤玉を避ける長門。その隙に朝比奈さんは長門からオタオタと距離を取る。
 
ミクル「す、すいませぇん! たすかりましたぁ」
イツキ「いえいえ、こちらこそ時間をかけてしまい申し訳ありません」
ユキ 「……あなたたちがこの世界に居るのなら話は早い。ここであなたたちを倒せばそれで終わり」
 
キョン「あー……ちょっといいか?」
イツキ「何でしょう?」
キョン「さっぱり状況がわからん。説明を要求する」
イツキ「ええ、そうして差し上げたいのは山々なんですが……」
ミクル「い、今はちょっと……」
ハルヒ「てゆーか、あなたたちは何者なの? 少なくとも異世界人ではあるわけよね?」
イツキ「はい、そうです。加えて僕は超能力者、ミクルさんは未来人でもあります」
キョン「うん、とりあえず設定乗せすぎだと思う」
ハルヒ「突っ込まないの! それよりすごいわ、まさかあたしが望んだ存在全部に本当に逢えるなんて!」
キョン「叶った直後に殺されそうな勢いだがな!」
 
 長門が再び杖を振り下ろし、同時に俺たちを突風のようなものが襲う!
 しかし古泉が負けじと赤い光をドーム状に展開、俺たちを包み込んだ。
 
イツキ「…これで少しは時間をかせげます」
キョン「そ、そうか。じゃあ今のうちに…」
ハルヒ「あなたたち、あたしたちと友達にならない?」
キョン「お前黙っとけ!」
ハルヒ「なによ、今を逃したら…」
キョン「いつ逢えるかわからないって!? それどころじゃないことぐらい察しろ!!」
ミクル「あ、あの! ケンカはやめてくださぁい!」
 
 と、朝比奈さんの必死の嘆願により俺たちは正気を取り戻した。
 そうだった、今は口論なんかしてる場合じゃない。
 
ハルヒ「…ゴメン、ミクルちゃん」
キョン「すみませんでした」
イツキ「いえいえ、お気になさらず」
キョン「お前が言うな!」
 
ミクル「あ、あの…さっき言ってた状況説明なんですけど……」
キョン「ああ、お願いできますか?」
ミクル「いえ、全てを説明するにはやっぱり時間が足りなくて……」
イツキ「ですので、ここは『彼女』に任せようと思います」
ハルヒ「彼女? だれ?」
イツキ「ミクルさん、お願いします」
ミクル「は、はい! では……」
 
 すると朝比奈さんは懐から拳銃のような物を取り出し…銃口を俺たちに向けた。
 
ハルヒ「え!? ちょ、ミクルちゃん!?」
イツキ「落ち着いて下さい、今から撃つのは弾丸ではありません」
ミクル「お二人には、閉鎖空間に行ってもらいます」
キョン「閉鎖空間?」
イツキ「簡単に言えば、精神の世界のようなものです。そこに居る『彼女』が全てを教えてくれますよ」
ミクル「じゃあ、いきまぁす!」
キョン「ぅえ!? ちょっと待っ」
 
ガァン!!
 
 
~~~~~~~~~~
 
 
ハルヒ「……て………てよ…」
ユサユサ
キョン「……ン……んう……?」
 
ハルヒ「…きなさい!この馬鹿キョン!」
ドゴォ!
キョン「ぬぁ!?」
 
 いってぇ……何だ?
 
キョン「っくぁ……あ?ハルヒ?」
ハルヒ「やっと起きたわね。まったく」
 
 目が覚めると、そこは我らが学び舎だった。
 …いやいや、何だよこれ。何でこんな所に。
 
ハルヒ「ここが、閉鎖空間……なのかしら?」
キョン「え?……ああ、そうか。そうだった」
ハルヒ「……あんた今忘れてたでしょ」
キョン「仕方ないだろう。寝起きなんだから」
 
 とりあえず身体を起こし、辺りを見回す。
 見た感じは夜っぽいが…違うんだろうな。灰色の空なんざ見たことない。
 月も星も、人工的な明かりさえ一つも見当たらない。そして耳が痛くなるくらいに何の音もしない。
 小一時間もこんな所に居たら気が狂いそうだ。
 
キョン「つーかココ……なんとなく見覚えがあるような」
ハルヒ「そりゃ、学校だもん。毎日来てるからでしょ」
キョン「いや、そうじゃなくて……もっとこう……………そうか!」
ハルヒ「な、なに?」
キョン「夢だよ! 前にお前と逢った夢! その場所がココだったんだ!」
ハルヒ「………あ!!」
 
 そうだ、完全に思い出した。
 以前見た夢…確かにその舞台はココだった。
 ……精神の世界…とか言ってたか? それが何か関係しているのだろうか。
 
ハルヒ「……『彼女が全てを教えてくれる』って言ってたわよね」
キョン「ああ。……その『彼女』が何者で、何処に居るのかもわからんがな」
???「ここにいるよんっ!」
キョン「うお!?」
 
???「やあやあ、驚かせちゃったみたいだねっ! ごめんごめん!」
 
 イキナリ俺たちの前に姿を現したのは、長い黒髪の美女だった。
 すんげぇ笑顔。八重歯がまぶしいぜ!
 
???「あっはっは! 上手だねぇ!」
ハルヒ「!? ちょっとキョン、何考えてんのよ!」
キョン「!? なんだこれ!?」
???「ここは精神世界でもあるって聞かなかったかい?」
???「つまり、頭の中で考えてることも全部丸聞こえになっちゃうってわけっさ!」
 
 マジかよ! こりゃ迂闊なことは考えられん……って無理だろそれ。
 
キョン「まぁいいや。とりあえずあなたは?」
???「あたしかいっ? あたしは鶴屋さんっさ!」
鶴屋 「言ってみれば、この世界の管理人ってトコかなっ?」
ハルヒ「管理人……あの、あなたに聞けば何でも教えてもらえるって聞いてるんだけど」
鶴屋 「まっかせるっさ! ほんじゃあ時間も無いようだし、巻き巻きでいくよん!」
 
 えー、ということでこっからは箇条書きでお送りしよう。決して面倒になったわけじゃないからな。
 
 ・あの3人は何者?
 ⇒異世界において世界の平和を守ろうとする2人と、その敵みたいなもんっさ!
 ・なんでこの世界に来たの?
 ⇒前回の映画でユキっこが吹っ飛ばされた先がこの世界だったみたいにょろ!
 ・あの二人はどうやってこの世界に?
 ⇒そこは未来のテクノロジーの出番っさ!
 ・長門はなんで俺たちを殺そうとしたの?
 ⇒実は君達には凄い力があってね、君達を殺して起こるエネルギーの暴走を使って帰ろうとしたのさ!
 ・凄い力って?
 ⇒2人の気持ちを揃えて呪文を唱えてからあるコトをすれば、望みを何だって叶えられる力なんだよっ!
 ・そういえば、前に俺たちがココで逢った夢を見たのは何で?
 ⇒君たちは2人で一つな存在だから、お互い無意識に引き合ったのかもね!
 
 
 ……うん、こんな重要なことをダイジェストでお送りしてよかったのだろうか。
 いや、時間がないってのはわかってるけどさ。それにしても…痛い! 叩くな!
 わかったって! 続けりゃいいんだろ!? まったく、やれやれだ。
 
ハルヒ「あたしたちに、そんな力が…?」
キョン「…俄かには信じられんな」
鶴屋 「でも、そう言う設定なのさっ!」
キョン「いや鶴屋さん、設定とか言わないでください」
鶴屋 「おっとぉ、ゴメンよっ!」
 
 ……さっきお前も言っただろって? 俺は良いんだよ。神の声なんだからな。
 
キョン「つまり、あいつらをどうにかするには…」
ハルヒ「あたしたちが気持ちを一つにして、そう願えばいいってことね!」
鶴屋 「その通りっ! そんならさっそくイってみようか!」
キョン「よし、気持ちを一つにするぞハルヒ!」
ハルヒ「ええ、気持ちを一つにしましょう!」
 
キョン「…………」
ハルヒ「…………」
 
キョン「…………」
ハルヒ「…………」
 
キョン「…………」
ハルヒ「…………」
 
キョン「…………」
ハルヒ「…………」
 
キョン「…………どうしろと」
ハルヒ「あたしが知るわけないでしょ!」
 
鶴屋 「う~ん、仕方ないっ! 一つヒントをあげるっさ!」
キョン「おお、ありがたい!」
ハルヒ「お願い、鶴屋さん!」
 
鶴屋 「ここは、頭の中の考えが勝手に伝わるってのはさっき言ったね?」
鶴屋 「そこでもう一息。お互い相手をどう思ってるのかを考えてごらん!」
ハルヒ「!!」
キョン「!!」
 
ハルヒ「あ……///」
キョン「う……///」
 
鶴屋 「ふふ~ん? なるほどなるほど~。まぁこれで気持ちは一つになったにょろ!」
鶴屋 「それじゃあ後は呪文と、最後にするコトを教えるだけだねっ!」
 
 
 ………今からでも台本の差し替えとか効かんものか……
 
 
~~~~~~~~~~
 
 
ユキ 「……これで終わらせる」
ミクル「あ、あの構えは長門さんの最終奥義『地球割り』!!」
イツキ「マズイですね、お二人は間に合わないか…!?」
 
キョン「あー、まだやってたか」
ミクル「きょ、キョンくん! 涼宮さん!」
イツキ「どうにか間に合いましたね。……全てを知っていただけましたか?」
ハルヒ「まぁ、大体はね」
ミクル「すいません……助けに来たと言っておいて、結局お二人に頼らないといけないみたいで……」
キョン「いえ、それこそあそこで2人が来てなければ、俺たちはとっくにお陀仏だったでしょうから」
ハルヒ「そういうこと。……それじゃあ、いくわよキョン!」
 
ユキ 「……!」
 
 ……えー、皆さん。ここからはできれば耳を塞いでいただければありがたい。
 
キョン「……なぁ、マジでやるのか?」
ハルヒ「あ、当たり前でしょ! リアリティはとことん追求しなきゃならないの!」
キョン「くっ……これ上映した日からどういう顔して歩けばいいんだ」
ハルヒ「あくまでフィクションなんだからね! かか勘違いするんじゃないわよ!」
キョン「やれやれ、わかったよ。……じゃあいくぞ」
キョン「だ、だいちにいきづく…」
ハルヒ「真面目にやれって言ってんでしょ!!」
キョン「ええい、わかったよこの野郎!! こうなりゃヤケだ!!」
キョン「いくぞ!『大地に息づく草木達よ』ー!!」
ハルヒ「『夜空に煌めく星達よ』!!」
キョン「『我らの祈りを叶えたまえ』―!!」
ハルヒ「『その呼び掛けに答えたまえ』―!!」
 
 笑ってんじゃねえ古泉! 朝比奈さんも! 長門まで!!
 ちょっと、余計なこと言ってんじゃないわよ! 真面目にナレーションしなさい!
 出来るか!! あーもう我慢できん、こっからは早送りだ!!
 ああ、何してんのよ! 一番の見せ場が台無しじゃないの!!
 うるせえ!! キスシーンなんざ誰が見たがるってんだ!!
 あたしとあんたの関係を全校生徒に見せつける絶好のチャンスじゃないの!!
 関係ってなんだ!! 巻き戻すな!! 大体お前さっきフィクションって…
 あの、これ全部録音されてるんですけど。
 時間的にこれがラストチャンスだった。
 ふぇぇ、2人の顔がくっついたり離れたりしてますぅ。
 そのまま流してた方がまだ良かったんじゃないですか?
 気付いてない。もうこのままラストまで編集してしまったほうがいいと思われる。
 そうですね。まぁ完成稿を見たお二人の反応が楽しみでもあります。
 ……さて、お待たせしました。いよいよフィナーレです。
 
 
~~~~~~~~~~
 
 
 はぁ、はぁ……あ? いつの間に進んだんだ……まぁいいが。
 えーと……あぁ、ここか。よし。
 
 あれから一週間が経ち、俺の周りは平穏を取り戻した。
 ……未だに俺たちにあんな力があったなんて信じられないが。
 俺はあくまで一般人、そんなことに関わる機会自体無いと思っていたからな。
 
 まぁそれは置いといて、だ。
 あれから俺とハルヒの関係に変化があったかというと……
 ………あー、あれだ。いわゆる恋人って奴に……演技だからな!
 くそ、今さらだがアイツに台本書かせるんじゃなかったぜ。
  
 とにかく、こ…恋人同士になった俺たちは、相も変わらず不思議探索に精を出していた。
 自分自身が前に言ってたような『特別』だと判明したってのにな。
 アイツが言うには「それはそれ」なんだそうだ。
 
 ああ、変わったことはもう一つあった。
 今後も活動を続けていくにあたって、「活動拠点を作るべきよ!」とハルヒが言い出してな。
 校内で使っていない空き教室があると知るや否や、矢のようにすっとんで行ったのが今日の昼。
 
 んで、今は放課後。ハルヒが目星をつけた教室に2人で向かっているところなわけだ。
 
ハルヒ「ふふふ、きっとビックリするわよ!」
キョン「そんなに変わった教室なのか?」
ハルヒ「それは見てのお楽しみ!」
 
 そして辿り着いたのは……文芸部室?
 あぁ、そういや去年で廃部になったとか聞いた覚えがあるな。
 
 「早く開けてみなさい」と目で催促するハルヒを後目に、内心緊張しながらドアを開けると……
 
イツキ「やあ、どうも」
ミクル「お久しぶりです~」
ユキ 「……おひさ」
 
 バタン。
 
 ……錯覚だよな。ああそうだ、間違いな
 
ハルヒ「ちょっと何してんのよ! 皆に失礼でしょ?」
キョン「いや……ちょっと待て。落ち着け」
ハルヒ「落ち着くのはあんたよ!」
 
 再び開いたドアの向こうに居たのは、間違いなくあの日の三人だ。ってオイ!
 
キョン「なんでお前らがここにいるんだよ!! 元の世界に帰ったんじゃなかったのか!?」
イツキ「ええ、そのハズだったんですが…」
ミクル「実は、あたしたちの組織が揃ってお二人に興味をもってしまって…」
ユキ 「……世界を変えるほどの力を持った生命体。極めて希有な存在」
ハルヒ「さっき廊下で立ってるところを見つけてね。あたしが引っ張ってきたのよ!」
キョン「お前ちょっと黙っとけ」
 
 キーキー喚くハルヒを後目に、俺たちは言葉を紡いでいく。
 
キョン「つまり何だ、今度は俺たち二人を監視するためにこの世界にやってきたってのか?」
イツキ「ええ。ですがもう二つほど、より大きな理由があります」
キョン「……何だよ」
イツキ「まず一つ。それは、『涼宮さんが僕たちの存在を願った』ということです」
キョン「何?」
ミクル「閉鎖空間から出てきたお二人が、力を使ってあたしたちを元の世界に帰そうとした時なんですけど」
ユキ 「彼女は『皆くだらない理由で争ったりしないで、あたしたちと友達になっちゃいなさい!』と願った」
キョン「……それが叶っちまったってことか。まったく……」
 
 まぁ転校初日の挨拶であんなコトを喋ったくらいだからな…当然と言えば当然な気もするが。
 何か知らんが長門も2人と仲良くなってるみたいだし。これはこれで結果オーライって奴なのかね。
 
イツキ「そして、もう一つの大きな理由ですが」
ミクル「お二人に興味を持ったのは、あたしたちだけじゃないんです」
ユキ 「……この世界・異世界を含めたあらゆる次元の知的生命体があなたたちに関心を持っている」
キョン「!?」
イツキ「それらの中には、過激な手段を使ってでもあなた方の力を手に入れようとする者もいるでしょう」
 
 …………あー、つまり……
 
長門 「あなたたちは我々の監視対象。危険に晒すわけにはいかない」
みくる「わ、悪者さんからあなたたちを守るために、お傍に居させてください!」
古泉 「女性だけに任せるのもなんですから、僕もご一緒させていただきますよ」
 
 断言しよう。
 この日この瞬間に、俺の日常は崩れ去るだけで飽き足らず異世界に旅立ってしまったのだ、と。
 
 それから俺たちは、この力を狙う悪の組織やら秘密結社やら異次元の支配者やらとドンパチしていくことになるのだが……
 
 それはまた機会があれば話そうか。
 
 ……叶うなら続編なんか出ないことを祈る。マジで。
 
 
 
 
「キョン(本名不詳)の憂鬱」 完
 
 
 
 
 

出演:涼宮ハルヒ/涼宮ハルヒ役
      キョン/キョン役
      長門有希/長門ユキ役
  朝比奈みくる/朝比奈ミクル役
      古泉一樹/古泉イツキ役
     鶴屋さん/鶴屋さん役
      その他大勢
撮影:キョン・その他
照明:キョン・その他
編集:キョン・その他
監督:涼宮ハルヒ・キョン
スペシャルサンクス:鶴屋財団
提供:SOS団