キョンの妹 (13-850)

Last-modified: 2007-01-25 (木) 23:44:26

概要

作品名作者発表日保管日(初)
キョンの妹13-850氏06/08/0806/08/19

作品

「お兄ちゃん!おっはよー!」

 

俺はすんでの所で、布団にくるまったまま転がり、妹のエルボースマッシュをかわした。
まだまだあまいぜ妹よ。お兄ちゃんは二度は同じ技は食らわないぜ……って
お兄ちゃん?! 

 

「おまえ?! 今、お兄ちゃんて言ったか?? 熱でもあるのか!?」

 

俺が慌てて布団から起きあがると、
セーラー服のハルヒがベッドの上で肘をさすりながら起きあがろうとしていた。

 

「ん?なにいってんの?お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ?」

 

ああ、そうだった、いつもお兄ちゃんて呼んでくれてたっけ。
いつもキョンとかキョンくんとか言われていたのは気のせいのような気がしてきた。

 

何か記憶が混乱している。

 

俺とハルヒは近所で評判のまるで恋人同士みたいな仲のいい双子の兄妹。
毎朝、仲良く北高に登校している。

 

ハルヒは中学校時代に色々あって、俺以外誰とも仲良くなろうとしなかったが、
高校に入ってから二人でSOS団という団体を立ち上げ、あとは知っての通りだが、
なんだこの違和感は?

 

まあ、とにかくいつも通りバタバタと朝食を取り、

 

「早くしてよね!お兄ちゃん!」

 

とかハルヒに急かされながら身支度を調え、
いつも通りあの強制ハイキングコースを二人で仲良く肩を並べて歩いている。

 

だが、なんだ、いつもこんなにベタベタくっついてきていたっけか、こいつは?

 

「なによ?なんかあたしの顔に付いてる?」

 

「いや、何でもない」

 

「変な、お兄ちゃん」

 

なんか知らないがお兄ちゃんと呼ばれる喜びをかみしめる。
そのときから朝感じていた違和感はどうでも良くなりつつあった。

 

さて、放課後。いつもならハルヒと並んで部室に行くのだが俺が掃除当番のため後から
一人で文芸部室に乗り込んだ。

 

そして、置物のようなあいつに「よ!長門!」と挨拶をして、俺は団長席に腰を下ろした。

 

長門は無口な元文芸部員。いつ来てもここの席に座って黙々と読書をしている。
俺は彼女に何度も助けられているため、彼女だけには頭が上がらない。

 

先に来ていた麗しのマイシスター・ハルヒはSOS団黎明期に朝比奈さんが用意した
メイド服を今ではうれしそうに着こなし、団長である俺に

 

「はい、お兄ちゃん。熱いのしかなかったけど、これでいいわよね。」

 

と、入れ立てのお茶を出してくれる。
あーいつもハルヒの入れてくれるお茶は最高だな。俺は再び幸せをかみしめた。

 

しばらくすると、

 

「遅れてゴメンネ!」「すみません。遅れました!」

 

と言いながら朝比奈さんと古泉が入ってきた。
グラマーで超絶美人の朝比奈さんはちょっぴり童顔だが一つ年上で俺の姉貴代わりみたいなモンだ。
いつも常識的な意見で俺たちを引っ張ってくれる。SOS団の調整役と言った感じだな。

 

古泉は謎の転校生が団員にほしいと言ったハルヒの提案で、俺が拉致してきたのだが
こいつは妹に気があるらしく、俺の見ていないところで色々とちょっかいを出しているようだ。
いつか必ずクビにしてやる。

 

実はこの三人はハルヒが探し出し俺が拉致したのだが、何と驚くべき事にそれぞれ
宇宙人、未来人、超能力者という不可思議な属性付きだ。
そして三人三様にハルヒの謎の力を調査していると言うことだが、それをハルヒは知らない。
ハルヒにいらぬ心配をかけさせるわけにはいかないからな。
俺が3人に絶対に秘密にするように言ったのだ。

 

と説明したがなんかおかしくないか?何か変な気がするがまあいいか。

 

「さて、みんなに集まって貰ったのはほかでもない。今日は何の日か知ってるよな?」

 

俺が古泉の方を見ると、古泉は

 

「えーと、団長の誕生日でしょうか?」

 

とビクビクと答えやがった。違う、そうじゃないもっと大切な日だ。

 

「ハルヒさんの誕生日でしょ。キョンくんが大事な日ってそのくらいじゃないの?」

 

確かに朝比奈さんが言う通り、それの方がもっと大事だがそうじゃない。
大体俺たちは双子だから同じ誕生日だ。

 

「7月7日と言えば七夕だ!
 七夕と言えば、アルタイルとベガに向かって短冊で願い事をする日だ。
 そうだったよな、ハルヒ?」

 

ハルヒがさすがお兄ちゃんて感じの目で俺を見てうなずいている。
お兄ちゃんはお前がやりたいことは何でもお見通しだ。

 

俺はそこで、とっておきの物を披露することにした。
掃除道具入れから、昼休みにとって来た笹をじゃじゃーんって感じでハルヒに見せびらかす。

 

「えーいつの間に取ってきたの?すごい!お兄ちゃん!」

 

ヤブ蚊にいっぱい刺されたが、このハルヒの笑顔ためならどうって事無いさ。

 

「さて、いまから、みんなで短冊に願い事を書いて貰う。
 ただし!アルタイルとベガは遠く離れている、たしか、えーと」

 

「16光年と25光年よ。」

 

「ああ、そう、ハルヒの言うとおり、16光年と25光年離れている。
 つまり、16年ごと25年後にかなって欲しい願い事を書くんだ。いいな」

 

そう言うと俺はみんなに、短冊を配る。
愛しの妹はなんて願い事を書くんだろうな。お兄ちゃんとても楽しみだ。

 

長門は無言で、
朝比奈さんは「そうね、何がいいかしら」と言いながら
古泉は、「よわったなあそんな先の事なんて考えられませんよ~」と半泣きで言いながら筆を動かしている。
さて、俺の書くことはもうとっくに決まっている。

 

『ハルヒに金をよこせ』『ハルヒに犬を洗えそうな庭付きの一戸建てをよこせ』

 

いつかお前が結婚することがあってもこれで安心だ。
しかし、いつかお前も結婚するんだよな。お兄ちゃん想像してちょっぴり涙がでてきてしまった。

 

まあ、とにかくみんなも書けたようだし、まずは古泉のを見てやる。
『世界が平和になりますように』『家内安全ですごせますように』
なんてかいてやがる。まったくにあわない。

 

朝比奈さんは
『私の美貌が永遠に続きますように』『永遠に男に困りませんように』
と書いてある。あなたならこの二つとも願いが叶いそうですよ。

 

長門の短冊は味気ない
『調和』『変革』という殺風景な漢字を習字の手本のような楷書で書いたのみだ。
何だ?この既視感は?

 

最後にハルヒのみると……
『お兄ちゃんといつまでも一緒にいられますように』『お兄ちゃんが幸せになれますように』
畜生、お兄ちゃんまた涙が出てきた。お兄ちゃん死んでもお前を幸せにしてやるからな。
ああもうね、涙がとまらなくて、前が見えないよ。

 

代わりに古泉、それを笹の葉につるして、アルタイルとベガの方に向けて立てかけておいてくれ。

 
 

そんな感じで今日のSOS団の今日の活動は終了した。
俺とハルヒは二人で学校をあとにし、その途中ハルヒは俺に話しかけくる。

 

「ね、お兄ちゃん覚えてる?3年前の七夕のこと」

 

ああ覚えてるぜ。俺が忘れるわけがない。

 

「二人で中学校に忍び込んで、でっかい地上絵を書いたあれね。」

 

ああ、そうだったな、俺は3年前に時間遡航して俺はハルヒに地上絵を書かされ、
ハルヒにジョンスミスと名乗って……

 

あ、あれ? 俺? 俺は確か朝比奈さんと3年前に帰って中学生のハルヒに無理矢理協力させられ
いや、ハルヒは妹だろ、3年前も妹で、もっと前も妹で、おばさんに付けられたキョンというあだ名が
気に入りいつもキョンくんと言ってい……いや、なんだ?何かが違う?

 

「あのときすごく楽しかったわ。
 あとで先生に全部ばれて、あたしをかばってお兄ちゃんだけで書いたってお兄ちゃんは言って。
 お兄ちゃん一人だけで怒られたっけ。あのときはほんとにごめん。あたし、……」

 

ハルヒが続けて何かを言っているが、まったく耳に入らなくなっていた。

 

そうだ、思い出した。ハルヒは妹じゃない。おれもSOS団の団長なんかじゃない。
ハルヒがSOS団の団長で、妹は別にいる。いつもキョンくんと呼んでくるあの小さな妹だ。

 

「ハルヒ、すまないが先に一人で帰ってくれないか?ちょっと急用を思い出した。」

 

ハルヒは何か叫んでいるが、俺はかまわず走り出した。
すまないハルヒ。お兄ちゃんじゃない、俺はこの状態はちょっと不自然だと思うぜ。
ちょっと行って元に戻してやるからな。先に帰ってろ。

 

おれは、いつもの通り、こういうときに一番頼りになるあいつの元に向かった。
いつものマンションのインターホンに向かい、押し慣れた番号をプッシュする。
いつも通りの無言で長門は出る。

 

「長門、すまない。俺だ今やっと気が付いた。話がある開けてくれ」

 

「……入って」

 

と短く、答えるとオートロックのドアが開く。すぐさまエレベーターに乗り込むと、
七階のあの部屋を目指した。
ベルを押すと、いつもの無表情な顔が現れ、いつものように無言で俺を部屋内に招き入れてくれる。

 

「長門、お前はわかっているよな。何かが違うことを。」

 

長門は一ミクロンほどうなずいた。

 

「古泉も朝比奈さんも別人になっていたがお前は変わってなかったからな。
 説明する手間が省けた。それでだ、俺はこの状況をあまりうれしくない。」

 

「……そう」

 

長門はそう答えたが、何となく落胆の色が出ているような気がした。

 

「お前、ちょっと残念がってないか?」

 

「…………」

 

右の眉が一ナノミクロンほどつり上がってるぜ長門。
いつもと性格が違うメンバーを見てこっそり楽しんでいたって言うのか?
まあ、俺も思い返せば、お兄ちゃん命なハルヒや、イケイケ姉ちゃんの朝比奈さんや
やたら弱気な古泉とか滅多に見られない物が見られたけどな。

 

「ま、とにかく俺の居心地が悪い。何とかみんな元に戻したいのだが、
 一体誰が原因だ?」

 

「……あなたと妹、……そして涼宮ハルヒ」

 

何となく予想はしていたが……、
昨日妹と大げんかをして、たまたま家に来ていたハルヒに妹が泣きついた。
色々なだめすかしてみたが、妹に同情したハルヒが全面的に俺が悪いとか言い出して、
っと、おかしい?そのあとの記憶がない?

 

「あのとき、涼宮ハルヒとあなたの妹の意志とが混ざり合いこの世界を作り出した。
 つまり、涼宮ハルヒはあなたの妹になりたかった。あなたの妹は涼宮ハルヒになりたかった。
 その二つの願望がこの世界の根源となっている可能性がある」

 

なるほどね、ところで、そういや元の妹はどうなったんだ?

 

「涼宮家の子供として生存している。問題はない」

 

そっちのほうはたぶん安心だ。問題はハルヒだな。
今度ばかりはキスオチって訳にはいかなそうだぜ。今の俺たちは実の兄妹だしな。

 

一応、元に戻す方法を聞いてみたが予想通り「あなたが鍵」としか長門は言わなかった。
とりあえず、長門に礼を言い、マンションでると、困ったことに、ハルヒが外で待っていやがった。

 

「急用って何よ?有希の家に行くことだったの?ねえ!お兄ちゃん?」

 

とりあえず、どういう言い訳で答えようか。
いや、別に言い訳することはないんだよな。なにしろ俺たちは今、兄妹だから。
やましい気持ちなんて持たなくていいし、長門とつきあって居るんだって言うのも
実は有りじゃないか?

 

「まさか、お兄ちゃん、有希のことがす……ううん、そんなことないよね?」

 

な、なんだその目は?俺がいくら鈍っていってもわかるぞ。
俺は今、俺たちは兄妹なんだよな。だから、そう言う目で見るな。

 

「お兄ちゃんはいつも、何かあるたびに有希と二人でコソコソとやってたわよね。
 いつもあたしをほっておいて。何か、二人の間に特別な感情があるって言うの
 あたしでもわかってる。でもね、あたし、有希以上にあなたのこと……」

 

それ以上は言わせない、俺はハルヒ言葉を遮る。

 

「待て、ハルヒ!俺たちは実の兄妹だろ?俺はハルヒのことが妹として大好きだし
 ハルヒが俺を思う気持ちも兄としての気持ちだと思っていたんだ。
 だから、それ以上は駄目だ。」

 

「じゃあ、有希とあたしとどっちが好きなの!ハッキリしなさいよ!」

 

ハルヒの表情が一瞬、いつものあの団長様の表情に変わった。
だがすぐさっきまでの妹の表情に戻ると、

 

「お兄ちゃんのバカ!!兄妹じゃなきゃ良かった!!」

 

と言って駆けだした。
俺はハルヒを止められなかった。
俺は一人、答えを持たないまま、そこに取り残されたのだ。

 

今の俺は、その答えを持ち合わせていない。いや、たぶんもとの世界に戻ったとしてもな。
だが、いつ出るかわからない答えの懸案がようやく俺自身認識させられたようだ。

 

しかし、きっとこれで、元の世界に戻る。
俺と兄妹で居ることの弊害がわかれば、あいつも元に戻りたいと思うだろうからな。

 

そしたら、きっと……本当の答えを見つけられるだろさ。
とりあえず、明日、ハルヒに謝ろう。このことを覚えていないかもしれないけどな。

 

俺はそのあと、重い足取りでだらだらと歩き続けてようやく家の玄関にたどり着き、
ドアを開けるとそこには母親が立っていた。
妹が帰ってきているかと尋ねると「先に帰ってる」と答えた。

 

よかった。元にもどったんだな。俺の足元にシャミがからみついてくる。

 

だが、母親は真剣な顔つきで大事な話があるから部屋に入って待っているようにと言う。
なんだ?あ、そうか例の妹との喧嘩の件だな。きっと全面的に兄貴が悪くなるんだろうな。
俺の部屋に入ってきた真剣な表情の母親になんて怒られるのか覚悟していると、
母親は予想外のことを言い始めた。

 

「あんたと、妹の『ハルヒ』のことなんだけどね。
 双子って事になっているけど、本当の兄妹じゃないの。」

 

俺の世界が再び暗転した。

 
 

 

本作品は未完です。