サイコメトラーItsuki 2nd season The Last File(163-39)

Last-modified: 2017-02-09 (木) 09:02:01

概要

作品名作者
サイコメトラーItsuki2nd season Last File163-39氏

作品

登場人物紹介
獅○光……某少女漫画のキャラクターで原作では14歳と言う設定だが、21歳の大学生。髪型は原作と変わらず。水をかぶると女になる格闘家と同じ髪型。
一色沙弥華……眼鏡をかけていて一見高学歴に見えそうだが、中学でバスケ部、高校では剣道部に所属していたという経歴の持ち主。高校で剣道部に入った理由は中学でバスケをやっていたせいか身長が伸びすぎたから。頭を叩けば身長が縮むんじゃないかと言われて入部したが、更に伸びた。
齊藤平八……骨董屋を経営している。メタボと判断されてもおかしくない体格。
園部葉月……名前の通り八月生まれで葉月と名付けられた。フラワーショップで働く小柄で手足の細い女の子。
桜○花道……某バスケ漫画の主人公と同姓同名だが、身長を170cmとサバを読むくらい漫画とかけ離れている。本来の身長は168cm。
服部三四郎……館の主人で二年前のとある事件がきっかけで一気に大金持ちに。身長も高くガタイもいい。今回のツアーの企画者。
シド・ハ○ウィンド……中古車の修理工場を営んでいる。服部と似たような体格だ。
以上七人が最終回の登場人物である。

 

古泉の部屋に森が訪れる。呼び鈴が鳴ってハルヒが応対する。
「は~い、どちら様………ゲッ!?あんた!一体何しに来たのよ!?」
「どうかしたのか?ハルヒ……って、おまえ!!」
「こんばんは。今日はあなた方に招待状をお届けにあがりました」
「招待状だぁ!?そんなものを貰って俺たちが参加するとでも思っているのか!?」
「ええ、あなた方は参加せざるを得ませんので。これがどういう意味か、お分かりですね?」
「あたし達の関係者を殺すって言いたいの!?」
「その通りです。勿論、あなた方も含めて。何人でもいいように団体客用のフェリーを手配しましたので、中に詳細がありますので、『皆さんで』お越しください。お待ちしております。では、失礼致します」
室内にしばしの間沈黙が流れ、招待状を握りしめた古泉が叫ぶ。
「上等だ!今度こそケリをつけてやる!!ハルヒ、おまえはここに残れ!」
「嫌よ!あたしも一緒に行くわ!!誰かに監視されているかも分からない状態でいるなんてゴメンよ!あたしだってアイツ等と決着をつけてやるんだから!!」

 

招待状の中身を開けて日時を確認。みくると、面白そうだからという理由でジョンが加わった。
「いくら交通費を出してくれたとはいえ、こんなへき地まであたし達を呼び付けるなんて一体どういう神経してんのよ!フェリーで六時間なんてありえないわ!それに、これからどっちに行ったらいいのか分からないじゃない!」
『そうでもないようだ。クソジジイ自らお出迎えにきたようだぞ?』
「クソジジイって……あれか!あの女と一緒に立ってやがる!」
「よほど今回の犯罪計画に自信があるようね」
「そうみたいだな、招待状に書いてあったことに注意しろよ?」
『アイツ等の素性は他の客にはバラさない、だったか?今頃向こうで裕が監視されていてもおかしくなさそうだ』
「当然、あたしたちの命も狙われることになるわね。気を引き締めていきましょ!」
古泉たちが新川さん達の元へと近づいていく。
「古泉一樹様ご一行でございますね。わたくしは執事兼料理長を務めております、新川と申します」
『料理長!?』
「このあと、皆様がお帰りになられるまでの食事はすべてわたくしがご用意させていただきます」
「(ちょっとあんた、こんな奴が料理を作るなんて、いつ毒を盛られるか分かったもんじゃないわよ!)」
「(それは心配ないわ。一樹君に挑戦状を叩きつけてまであたし達を呼んでいる。組織が作り上げた完全犯罪で勝負を仕掛けてくるはずよ。そうでもなきゃ、あたしたちはとっくに殺されているわ!)」
「(そのようだな。だとすれば、行った先にアイツも待っているはずだ)」
「メイドの森園生です。よろしくお願いします」
「君たちもツアーに参加するのかね?」
齊藤平八が古泉たちの後ろから声をかけてきた。
「ええ、まぁ、あの……あなたは?」
「私は齊藤平八と申す者。骨董屋の経営をしております。あなた方は?」
「古泉一樹、美容院のトップスタイリストをやっています」
「涼宮ハルヒ、ただのOLよ」
「朝比奈みくる、雑誌編集者をしているわ」
『俺はジョン、ただのフリーターだ』

 

「(ちょっと!雑誌編集者ってどういうことよ!?)」
「(刑事がツアー参加者の中に混じっているなんて知ったら、犯人の方が組織に殺されてしまうわ!組織の仕事はあくまで完全犯罪計画の立案。依頼人はあたしたちがこれから会う人の中の誰かってことになるわ。そして命を狙われる人間には相応の理由がある。とにかく今は流して頂戴)」
「なんだ、あんたも抽選で当たったのか」
「おお、これはシドさん。お久しぶりですな」
「この連中もツアー参加者ってことでいいのか?」
「お話し中のところ、恐れ入ります。すでに館の方で待っておられる方もいらっしゃいますので、自己紹介はそのときにされてはいかがでしょうか?あと、お二人いらっしゃったところで出発致します」
「ちなみに、その二人と言うのは……?」
「お二方とも女性で、獅○様と一色様と申されます」
『獅○!?』
「獅○って、もしかして短髪で後ろだけおさげの女のことじゃないだろうな?」
「わ――――――――――っ!!二人とも久しぶりだねっ!わたしの名前を呼ぶ声が聞こえたからこっちに来てみたけど、まさか二人がいるなんて吃驚だよっ!」
「あ、あぁ、久しぶりだね。相変わらず、明るいところは変わらないようだ」
「では、一色様が御到着次第出発致します」
「わたしならもうここにいるわよ?」
サングラスを外した直毛長髪の女が古泉たちに近づいていく。
「一色沙弥華よ。宜しくね」
「では、皆様クルーザーの方にお乗りください。館のある無人島までご案内いたします」
青新川さんが運転席につき、ツアー客八人と園生さんが乗り込んだところでクルーザーが発進した。

 

『しかしあのジジイ、料理もクルーザーの運転もできるとは意外だな。そんな奴がどうしてこんな組織のボスに成り下がったんだ?』
「馬鹿!声が大きいわよ!」
『心配はいらない。聞こえても精々あんたくらいだ。普通に話すくらいなら風で声が届かない』
「それより姉ちゃん!先に館についているツアー客ってのはどんな奴なんだ?」
『見ろ、あれだけでかい声を出して、ようやく俺たちにも聞こえるレベルだ。あの女には聞こえていない』
「………、……………」
「え―――――――――――葉月ちゃんにも会えるのっ!?楽しみだな~♪桜○君も身長が伸びてるといいんだけどっ。ふふっ」
「君、まさかとは思うが館の主というのは……」
「………………」
天真爛漫の少女は「またみんなと会えるんだね!!」と喜び、あとの二人は表情を曇らせるどころか、顔色が悪いくらいだ。下を向いて何も喋らなくなった。
「朝比奈さん、『またみんなと会える』って……」
「ええ、この前の事件と同じようね。何かはまだ分からないけど、館の主も含めてミッシング・リンクで繋がっていることに違いないわ。久しぶりというのがどのくらいかまでは分からないけど、多丸警部に連絡をって……圏外!?一樹君、あなたの携帯借りてもいいかしら?」
「駄目だ、俺のも圏外だよ。おそらく、ハルヒやジョンの携帯もそうだろう」
「これから行く館の電話線も切られているでしょうね。クローズドサークル……このクルーザーが壊されでもしたら孤島から出られない」
「じゃあ、あいつらの目的もそれか!?」
「いいえ、そうとは限らないわ!あの孤島でしか出来ない計画だってことも考えられる。とにかく、今あたし達のやるべきことはこれから起こるであろう事件を未然に防ぎ、早急に解決することよ!」
「上等だ!あのジジイの鼻っ柱をへし折ってやる!」

 

 クルーザーから降りて孤島に上陸。館までの道のりを眼にしたハルヒが一番に声を上げる。
「え――――――っ!こんな山道を登るの!?もう疲れたわよ……一樹、あたしの荷物持ってくれない?」
「ったく、しょうがねぇな。一つだけだぞ」
「しっかし、抽選に当たったのはいいけどよ、こんな冬の時期に孤島に来たって泳げもしないぜ。せいぜいあそこにあるネットを使ってビーチバレーってところか?」
「ビーチバレー!?面白そうだねっ!後でみんなでやろうよっ!」
「私は館でゆっくりさせてくれ。若者同士で楽しんでくるといい」
「悪いが、俺もそんな気分になれそうにねえんだ。そこの五人を誘ってみたらどうだ?」
「わたし、獅○光っ!正式な自己紹介はみんなが揃ってからにするとして、バレー経験のある人いるかなっ?」
「あたしは中学も高校もソフトボール部よ」
「俺は帰宅部、こっちのジョンもそうだ。そういや、朝比奈さんは?」
「あたしも似たようなものよ。ミステリー小説に興味があったくらいかしら?」
「えぇっ!?じゃあ、この前のあのバッティングの説明がつかないわよ!ほとんど打ち返していたじゃない!」
「ストレスが溜まったときはバッティングセンターで憂さ晴らしをしていただけよ」
「わたしは中学まではバスケ部。でも、身長が伸びすぎちゃって、高校では剣道部に入部したわ。頭を叩かれていれば縮むかと思っていたんだけど、縮むどころか更に伸びてしまったわよ」
「わたしも中学から剣道やってるんだっ!桜○君もバスケ部だし、全員初心者ってことで皆でバレーしないっ!?」
『普段はバイクにばかり乗ってるんでね。荷物を置いて一休みしてからだな』
「じゃあ、それで決まりっ!葉月ちゃんも呼んで四人対四人の勝負だねっ!」
館に着く頃には疲労困憊。到着と同時に荷物を降ろしていた。

 

「はぁ、はぁ……もう歩けそうにないわよ」
「個室に入ったらしばらく休んでいればいいわ。あたしと一樹君は建物内をチェックしてまわるから」
「おいおい、勘弁してくれよ。俺はハルヒの荷物も持っていたんだぞ!?少しは休ませてくれ」
「あなたのサイコメトリーで屋敷内のものに触れてまわるのよ!先に館の内部にいる人間が何か仕掛けているかもしれないわ!」
『たとえそうだとしても、アイツがとっくに情報を書き換えているはずだ。やるだけ徒労に終わる。精々、この館の見取り図と誰がどの客室で寝泊まりするかをチェックする程度に留めておいた方がいい』
「あんた、いつの間にそんなに頭が切れるようになったのよ?」
『なぁに、俺もあのクソジジイ達との勝負に挑みたくなっただけだ』
「それでは、館の主を呼んでまいります。こちらで少々お待ちくださいませ」
「えっと、獅○さんだったかしら?あなた達も抽選でこのツアーに参加したの?抽選で当たったにしては随分と知り合いが多いみたいだけど、どんな関係なのか、もしよかったら聞かせてもらえないかしら?」
「光でいいよっ!さっき、朝比奈さんって呼ばれていたよねっ!?下の名前はなんて言うのっ!?」
「みくるよ。朝比奈みくる」
「じゃあ、みくるちゃんって呼んでもいいっ!?」
「ええ、いいわよ」
ようやく玄関の扉が開き、新川さんと服部三四郎が現れた。みくるの表情が曇っている。一番情報が引き出せそうな奴から色々と聞こうとしたところで遮られてしまった。

 

「これはこれは、お揃いでようこそ。この館の主の服部三四郎と申します。長旅でお疲れでしょうから、どうぞ中に入っておくつろぎください。部屋はどこを使っても構いません。ちなみに、入って右奥の和室は私の部屋になっておりますので予めご了承ください。部屋が決まり次第、ここにいる新川と森にお申し付けください。部屋の鍵をお渡し致します。もう一名、メイドがおりますので、その者に声をかけていただいても構いません」
「こんな館に和室があるなんて驚きだぜ。服部さん、あんたの趣味か何かか?」
「例の事件以来、高所恐怖症になってしまいましてね。私の部屋だけは他とは別になっております」
「他とは別ってどういうことっ!?この建物にテーマのようなものがあるのっ!?」
「入っていただければ、おわかりになるかと思います。ささ、皆様もどうぞ中へ」
館の主に促されて中へと入っていく。ハルヒも古泉に渡していた荷物を自分で持った。
『なっ!?』
「何よこれ!?エントランスだけで、何でこんなに武器がたくさんあるのよ!?」
「凶器は選び放題ってわけね」
『ここまで堂々と置かれているとはな。逆に清々しいくらいだ』
「ねぇねぇ!もしかしてさっ!服部さんの和室にも武器が置いてあったりするっ!?」
「なるほど、西洋の剣だけでなく日本刀も置いてあるということですかな?」
「これは驚きました。お二人が仰った通りでございます。確かに、私の部屋には日本刀が飾られております」
「だが、どうしてこんなに武器だらけなんだ!?説明しろ!!」
「まぁまぁ、シドさんもおさえて。光さんの言う通り、この館を建てる際にコンセプトのようなものがあるようですから、それを聞いてみようではありませんか。服部さん、それでよろしいですかな?」
「コホン、では、お疲れの方もいらっしゃるようですので手短に。この館はヨーロッパで起きた事件の舞台となった館をほぼそのまま再現したものです」
「面白そうね。ジャーナリストとしては是非聞いてみたい事件だわ」
「(あの一色さんって人、ジャーナリストだったの?)」
「(そうらしいな。とりあえず、その話はあとだ)」
「今からおよそ40年前、この館と同じ建物で政財界の著名人を集めたパーティが催されたのです。ですが、その実態はこの館の本当の主が盗んできた財宝のオークション会場になっておりました。オークションが順調に進んでいた頃、寒い雪の中を歩いて館に辿り着いたという二人の男が現れました。支配人もオークションのことは知っておりました故、二人の男を招き入れることを拒もうとしていました。そこへ男の一人が支配人に一本の葉巻を渡したそうです。それを吸ってしばらくすると、支配人の表情が一変して明るい笑顔で二人の男を迎え入れました。男たちはオークション会場にいた著名人達にもその葉巻を渡し、会場全体に煙が充満していった。それからしばらくの間、客たちは陽気なバカ騒ぎをしておりましたが、そのあと様子が変わっていったのです。ある男は周りの人間を見て悲鳴をあげ、『来るな、近寄るな』と騒ぎだし、ある女は何かに許しを請うようにさめざめと泣き始めました。そしてまたある男は自分の手をペンで突き刺した。やがて、盗品や財宝の奪い合いが始まり、オークションの品として出品されていた武器を手に取り殺し合いを始めました。オークション会場は地獄絵図と化したのです。そしてその翌朝、オークションに出品されていた武器や財宝と一緒に、二人の男は姿を消してしまったという逸話です」
「その葉巻って、もしかして麻薬!?」
「おそらく、マリファナと見て間違いなさそうね」
「みくるちゃん、どうしてそんなこと知ってるのっ!?」
「職業柄、色々と雑学が必要なのよ。最近調べたものだったから覚えていただけよ」
「でもよ!ってことは、ここにあるものはそのオークションとやらで出品された武器のレプリカってことか?ハッ、笑わせてくれるぜ!!そんな事実かどうかも分からないような昔話に付き合っているほど俺は暇じゃないんだ。部屋が決まり次第、そこにいる執事やメイドに言えばいいんだったな。俺はこっちにするぜ」
館の主とは関わり合いたくないとばかりに、入って左の廊下へ歩き出したシドを服部が止めた。
「シドさんの仰る通り、ここにある武器はすべて、あの逸話をもとにして私の想像で作ったもの。だが、レプリカとはいえひとつ残らず本物です。私の部屋にある日本刀を含めてね」
『本物!?』
「馬鹿な!一つ残らずだと!?あんた一体何をおっぱじめようって言うんだ!!その逸話とやらの再現を俺たちにやらせるつもりか!?」
「その逸話を元にこの館を作ったってだけでしょ?折角こんなところまで来たんだから楽しまなきゃ!それとも、その逸話の再現が本当に起こるかもしれないとでも思っているのかしら?大の大人が聞いて呆れるわね。部屋は好きに決めてもいいんでしょ?わたしは二階にさせてもらうわ」
「クソッ!!」

 

 窓を本気で叩いたシドに古泉たちの視線が集まる。
『あれだけガタイの良い男が本気で殴ってもヒビ一つ入らないってのはどういうことだ?』
「私も年中ここにいるわけではありません。この孤島を見つけて、ここで寝泊まりしようとする連中がいるので、窓はすべて超硬化ガラスを使用しております。ここに武器が飾ってあるのは、そんな輩を撃退するためでもあるのです」
「へ~っ!そうだっ!服部さん、葉月ちゃんや桜○君はどの部屋にいるのっ!?」
「彼らなら二階の部屋のどこかだったはずです。ここにいる森に調べさせましょう。長旅で疲れているようでしたから、休んでいるはずです。夕食の時間には食堂に現れるでしょう」
「それは残念っ!折角三階まであるんだから、みんな三階にすればいいのにさっ。みくるちゃん達はどうするの?」
『俺はどこでも構わない』
「一樹と同じ部屋だったら、あたしはどこだっていいわよ!」
「おまえ、何もこんなところに来てまで一緒にいなくてもいいだろう?」
「こういうところだからこそ一緒にいたいって言ってるの!」
「だったら、わたし達も三階でどうかしら?光さんとさっきの話の続きもしたいし」
「じゃあ決まりだねっ!みんなで一緒に行こうっ!!」
古泉たちがエントランスホールの階段を昇っているところで、服部が口を開いた。
「ほっ、本当にこれで命だけは助けてくれるんだろうな!?」
「ええ、指示に従っていただければ、『我々は』一切あなたに危害を加えることはありません」

 

「さっき話していた葉月ちゃんと桜○君ってどんな人達なの?随分仲が良さそうだけど」
「葉月ちゃんは、えーっと今でも変わって無ければ花屋の店員さんをやっているはずだよっ!ちっちゃくて凄く可愛いんだけど、髪がすっごく長いのっ!ポニーテールにしてもお尻に届くくらいまでだったかな。桜○君はね……」
「よう」
三階の階段から降りてきたキョンが古泉たちに声をかける。
「やはり来ていたか。また俺たちの邪魔をするつもりか?」
「そういうことになるな。俺もアイツ等に雇われた身だが、こんなところにまで来させられるとは思ってなかったよ。まぁ、その分報酬は上乗せしてもらうつもりだがな」
「みくるちゃん、この人知り合い?」
「ごめん、詳しい事情は後で話すわ。今は流して」
「金さえ手に入れば殺人現場にも乗り込む……か?」
「おまえだって同じだろう?喧嘩に強いだけの一般人がサイコメトリー能力のおかげで一気にトップスタイリストにまで昇りつめ、今も尚そのマスクと技量で女性客に追われている状態。そうだろう?古泉一樹。今の俺の仕事はおまえのサイコメトリーの邪魔をすること。おまえは俺を嫌っているかもしれないが、俺にとってはようやく仲間に出会えた気分なんだ。おまえは神の存在を信じるか?俺たちに与えられたギフトをどう使うかは俺たち次第。まずは事件の幕が上がるのを待っていればいい。俺たちの仕事はそこからってことだ。三階の一番奥が俺の部屋だ。扉が開いている客室は誰も使っていないから、部屋を決めたらフロントで鍵を貰ってくるといい。鍵がかかっていれば誰かが使っている証拠だ。またあとでな」
「クソッ!何が仲間だ!!あんな奴等に手を貸しやがって!!」
『バカとハサミは何とやらってヤツだ。折角親切に教えてくれたんだ。部屋を決めたらフロントに鍵を取りに行こう。いつまでも重い荷物を持っているわけにもいかないだろう?』
「そうね、部屋がいくつ残っているのかまでは行ってみないと分からないけど、あの男とだけは隣同士にはなりたくないわ!あたし達の会話を盗聴していることだってありえるもの!」
「良く分からないけど、早く三階に行って部屋を決めようっ!!」
四人の視線がキョンに向いていた。

 

「すみません、すっかり眠ってしまっていて……」
「あ―――っ!葉月ちゃん!!久しぶり――――-っ!二年ぶりになるかなっ!?元気してたっ!?」
「ふふっ、光さんも前と変わらずお元気そうでなによりです」
「光って呼び捨てでいいって言ったじゃない!」
「それはまだちょっと抵抗が……でも、苗字で呼ぶとシドさんと間違えられてしまいそうで」
「そんなこと気にする必要ねえよ!このツアーが終わったら、金輪際誰とも会うことはないだろうからな!」
「君からすればそうかもしれないが、彼女たちならこのツアーをきっかけに仲良くなれるだろう。君ももう少し楽しんでみてはどうかね?色々と館の中を歩きまわったが、地下には遊技室もある。ビリヤードで私と勝負しないか?」
「仕方ねえな。暇つぶしに付き合ってやるよ」
「しかし、桜○君はまだ起きてこないようですね。森、すまないが彼の様子を見てきてくれないかね。新川の料理は彼女に運ばせてくれたまえ」
「かしこまりました」
「(ちょっと、彼女って誰のことよ?)」
「(あの男まで出てきたんだ。残りはアイツしかいないだろう?料理と一緒に現れるだろうぜ)」
台車に料理が盛られた皿を乗せ、朝倉が古泉たちの前に姿を現した。ハルヒとみくるが思わず口を塞ぐ。
「(一樹君、あたしが自分で絶対にありえないって言ってたんだけど、本当に毒が盛られていないかどうか不安になってきちゃったわ。念のためサイコメトリーしてくれない?)」
「(分かった)」
「すっ、すみませ―――――――――ん!!熟睡してしまって、メイドさんに起こされるまで全然気がつきませんでした!皆さん、ごめんなさい!!」
「もうっ!桜○君、遅いっ!!次に遅れたら、その逆立てた髪型をバリカンで丸坊主にしちゃうよっ!?」
「えっ!?光?どうして光がここにいるんだよ!おまえも抽選に……って、他のみんなも!?」
「私も君や園部さんがいると聞いて驚いたよ。それにしても、君も変わらないね」
「コラァ!!ちょっと待て!あんた今、俺の身長が変わってないって言いたいんだろ!?あんただってメタボリックな身体はそのまんまじゃねぇか!この中年オヤジ!!」
「君もそのことについてはすぐそうやって反応してしまうようだ。早く席にかけたらどうだね?」

 

ようやく椅子に腰かけた桜○を入れて、これで全員が揃った。朝倉たちは執事やメイドとして料理を一緒に食べるようなことはない。座席の配置は服部が館の主として奥に腰かけ、その左隣にハルヒ、古泉、みくる、ジョン、一色。右隣に獅○、園部、桜○、齊藤、キョン、シドの順で座っている。
「では、全員揃ったようですし、改めて自己紹介をさせてください。私がこの館の主、服部三四郎です。どうぞ宜しくお願い致します。次は……光さんからでいいかね?」
「わたし、獅○光っ。剣道一筋、華の女子大生ですっ!!」
「園部葉月です。誕生日が八月なので葉月って名前をつけてもらいました。今はフラワーショップで働いています」
「俺は桜○。まだアルバイトで食い扶持を稼いでいる就職浪人だ」
「桜○君っ!名前もちゃんと言わなくちゃだめだよっ!あの漫画の主人公と同姓同名だって宣言しちゃいなよっ!」
「うるせえな!おまえだってそうだろ!!……桜○花道だ。中学や高校じゃバスケ部には入ってみたがずっとベンチウォーマーのままだったよ。身長が伸びなかったせいもあったんだけどな」
「今は金髪を逆立てて身長稼いでま~っす!」
「うるせぇ!余計な御世話だ!!」
「じゃあ今何センチか言ってみなよっ!齊藤さんは変わってないっていってたけどっ、少しくらいはのびたんじゃないっ!?勿論、髪を逆立てている分は身長に入らないからね!」
「17……168cmだよ」
「うんうんっ!素直でよろしいっ!」
「齊藤平八と申す者です。骨董屋をやっております」
「鈴木四郎だ。ルポライターをやってる」
「(朝比奈さん、鈴木四郎って……)」
「(ええ、偽名の可能性が高いってことになるわね。でも、逆に言えば、新川、森園生、朝倉涼子の三人は本名を名乗っている可能性も高いということになるわ。森はまだしも、新川や朝倉なんて滅多にないはずよ。でも、あの男は組織から依頼を受けた人間。他の三人とは別と考えた方がいいかもしれないわね)」
「シド・ハ○ウィンド。中古車の修理屋だ」
「一色沙弥華よ。まだ駆け出しのジャーナリスト。ジャーナリストの卵と言ってもいいかもしれないわね」
「へぇ~っ!ちなみに、ルポライターとジャーナリストってどう違うんですかっ!?」
「ルポライターは真実のみを書くんだ。ジャーナリストはその事実に基づいて自分の考え、価値観を加える。批判する場合も当然あるけどな」
『ジョン・スミス。ただのフリーターだ』
「朝比奈みくる。雑誌編集者よ」
「古泉一樹。美容院のトップスタイリストだ」
「美容院のトップスタイリスト!?葉月ちゃん、一樹君に髪切ってもらったら!?」
自己紹介をしてすぐに名前で呼ばれた古泉が引きつっている。
「光さん。私は平気だよ。それにカット用のはさみなんてこんな場所にあるわけないし……」
「でも、ポニーテールですら腰までくるくらいの長さなのに、しゃがんでばっかりの仕事じゃ邪魔でしょ?」
「そうでもない。もう慣れたから大丈夫」
「じゃあ、最後はあたしね!涼宮ハルヒ!職業はOL!宜しく!!」
「天真爛漫は光さんだけかと思いましたが、もう一人いらっしゃったとは……若者が多いのは嬉しい限りですな。楽しいツアーを満喫していってください。君、一品目を皆様に」
「かしこまりました」
「ったく、自己紹介程度で時間をかけすぎなんだよ!!自己紹介しながらでもいいじゃねえか!!」
「私も新川の料理の味に驚いてしまって、ここにいる全員で一斉に食べていただきたかったのです。ルポライターにジャーナリスト、雑誌編集者の方も混じっておられるようですし、記事にしていただければ幸いです」
全員に一品目が行き渡ると古泉がハルヒとみくるの皿をサイコメトリーした。
「(大丈夫だ。この品に関しては毒はない)」
「(なら、遠慮なく。あたしもお腹が空いていたのよ!)」
『ンム―――――――――――――――――!?』
服部以外、大袈裟にリアクションをしてもらったが、初めて食べたときも大体こんな感じだったな。
「何よこれ!!五つ星レストランの料理長か何かやってたの!?」
「服部さん、あの人は一体どういう経歴の持ち主なのか教えていただけませんか?」
「そういえば、クルーザーも普通に運転してたよねっ!!」
「新川の経歴については……本人もあまり触れられたくないようで聞いたことが無い。直接聞いたとしても答えてくれるかどうか……」
「いやはや驚きました。ツアーの期間中はずっとこの豪華絢爛な料理にありつけるというわけですかな?」
「すべて新川の方で用意させていただきます。こちらが二品目になります。どうぞご賞味ください」
「つまらねぇツアーだと思っていたが、少しはマシになったようだ。おい、姉ちゃん。酒はないのか?」
「ドリンクメニューをお持ちいたしますので少々お待ちください」

 

 最後のデザートが行き渡ったところで、古泉がみくるに小声で話しかける。
「(朝比奈さん、さっきからずっと全員の料理をサイコメトリーしていたが、毒なんてどこにもついてないぞ。アイツが情報を操った痕跡もない。あの四人は完全犯罪計画の立案とサイコメトリーの邪魔だけだ。そろそろ犯人が動いてもおかしくないと思っていたが……)」
「(動くとしたら、今夜ってことになりそうね)」
「(止める手立ては?)」
「(とりあえず、あなたの個室で話し合いましょ)」
ビリヤードの約束をした齊藤がシドを連れて遊戯室に向かい、獅○から誘いを受けた古泉たちも「長時間の船旅で疲れたから部屋で休む」と告げて古泉の部屋へと集り、四人での密談が始まった。
「ところで一樹君、さっきの料理、一品目は直接皿に触っていたけれど、二品目以降はどうやってサイコメトリーしていたの?」
「腕が机にあたった瞬間に情報が伝わってきて俺も吃驚したぞ。その後は料理や飲み物が出るたびにテーブルの裏に触れて確認をしていた。アイツが居て情報を弄った痕跡すら無いなんて、サイコメトリーして損をした気分だぜ」
「いいえ、彼らは直接手を下さなくても、犯人は何らかのアクションを起こす。それを未然に防げるのなら犠牲者を出さずに済むわ。それにしても、サイコメトリーも学習やスポーツと同じようね。使うたびに精度が増してきている。あなたがたった数ヶ月でトップスタイリストになったわけが良く分かったわよ。それより、問題はこの後。あたし達四人と彼ら以外の七人の中からほぼ間違いなく犠牲者が出る。そして、光さんが園部さんに対して『二年ぶり』だと言っていたわ。そのときに起こったものかどうかはまだはっきりしないけれど、何かしらの事件にあのメンバーが巻き込まれた。ほぼ全員が高所恐怖症になるような事件に間違いないわ」
『ほぼ全員!?』
『声が大きい。扉の向こうでアイツが聞き耳をたてていたらどうするんだ。獅○という女を除く全員が一階か二階の個室を選択している。そう言いたいんだろ?』
「ジョンの言う通りよ。同じトラウマを持っていたとしても光さんのような天真爛漫な子にはそこまでの恐怖は生まれないかもしれない。でも、それ以外のメンバーとも接点を持っているから、光さんもその事件の当事者の一人。当然殺害対象になるわ。そのときに何があったのかはまだ分からない。でもその事件が今回の動機になる可能性が極めて高い」
ジョンの表情に変化はないが、ハルヒと……みくるも、自分で説明しながら獅○光が殺されてしまうんじゃないかと不安気な表情を見せていた。
「ちょっと待ちなさいよ!あの服部って奴、あの三人を従えていたじゃない!あんな奴の発言を本気にするの!?アイツが本当のボスってこともあり得るわよ!一階からでも十分景色が良かったとか三階まで荷物を持って行くのが面倒になったからじゃないの?」
「そういや、ハルヒもそうだったな。やっと孤島に着いたと思ったら、この館まで歩けと言われたんだ。館の前に着いただけで疲労困憊、その上にあんな話を聞かされたら誰だって脅える」
「でも、クルーザーに乗る前から脅えていた人物もいるわよ?」
『シド・ハ○ウィンド、だろ?』
「そう、齊藤という男もそうだった。この館の主が服部だと知って何も喋ることができなくなった程ね」
「それで、これからどうする気だ。誰かが殺されるのを待てっていうのか?」
「あたしだって誰一人として犠牲者は出したくないわ!でも、一番に狙われそうな人物の部屋の前で見張っていればどういうことになるか分かるでしょ!?悪いのは……これから計画を実行しようとしている犯人やあの人たちだけじゃない。メンバーの中にも、殺害してしまいたい衝動に駆られるくらいの罪を犯した人もいるはずよ」
『じゃ、俺は遊戯室とやらに行ってくる』
「ちょっと待ちなさいよあんた!そんなことやってる場合じゃないのが分からないの!?」
『シドと齊藤はビリヤードに行った。獅○の名前を聞いただけで驚いていた奴らだ。アイツ等なら一番情報が引き出しやすいし、護衛もできる。ご丁寧に抽選なんてまわりくどい真似までして作った舞台なんだ。以前起きたとかいう事件の真相を明らかにした上で、計画を実行に移す前にケリをつけるだけだ』
「あたしも行くわ!」
ジョンの一言で三階の部屋から遊戯室へとやってくる。ジョンはシドと齊藤の二人とビリヤード。残り三人は二人でも楽しそうにトランプをしている獅○達の輪の中に入った。
「あっ!みくるちゃんっ!!みくるちゃん達も一緒にトランプしようっ!」
「ええ、いいわよ。あら?桜○君は一緒じゃないの?」
「今日は早く寝るって言ってたよっ!」
「アイツ、夕食にも寝坊してきたのにまだ寝足りないわけ!?」
「明日の朝、寝坊してこなければそれでいいよっ!でも、寝坊したときは……むふふっ」
「光さん、何もそこまでしなくても」
会話はそこで打ち切られ、五人に配られたトランプを持ってゲームが始まった。
「上っがり―――っ!わたしが一番っ!」
獅○のそのセリフが取れれば、遊戯室でのシーンは終了。獅○がトップになったところでトランプチームは解散。みくるがジョンに一言告げて遊戯室を出る。

 

二日目の朝、朝倉と森は食器を並べ、登場人物たちが次々と食堂に集まってくる。
「おっはよ――――――――――――――っ!!みんな起きるの早いねっ!桜○君も今日は寝坊しなかったみたいだし、えらいえらいっ!」
「昨日遅れてしまった分、朝一番に来て手伝いをしてたんだよ!そういうおまえこそ、朝からテンションが高すぎだ!もうちょっとなんとかならねぇのか!!アァ!?」
「うわぁ―――――っ!!パンの香ばしい良い匂い!これも新川さんが作ってくださったんですか?」
「左様でございます。後ほどお好きなものを選んでいただければこちらでカットさせていただきます」
「全部食べてみたいけど、後でお腹が痛くなっちゃいそう」
「葉月ちゃん、美味しいパンがあったら教えてっ!わたしも葉月ちゃんに教えるからっ!」
「うん、光さんもぜひ教えてください!」
「朝比奈さん、そのバッグどうしたんだ?」
「化粧直しのためよ。(それに、このあとどうなるか分からないし)」
「(そうみたいだな。今のところ料理に問題はない)」
「(じゃ、異常があった時点で教えてくれる?)」
「(分かってる)」
「さぁ、昨日遊べなかった分今日は丸一日外で遊びましょっ!!ビーチバレーしようよっ!ビーチバレーっ!」
「今朝のニュースで見ましたが、今日はこの辺りは午後から雲行きが怪しくなるそうですよ?」
「え――――――っ!!それじゃあ練習もできなさそうだね。初心者ばっかりなんだよ!?あっ、でもバスケ経験者ならトス上げられるよねっ!シュート撃つのと変わらないでしょ!?シド君や一樹君ならスパイクも撃てそうだしさっ!」
「ケッ!餓鬼共でやってろ。俺は参加しねーよ」
「わたしもこの孤島のことを書き留めておきたいのよ。ほら、昨日服部さんが話していたでしょ?この館が何をモチーフにされたものだったのか」
「そういえば、服部さん遅いですね。どうかされたんですかな?」
「一人くらい居なくたっていいだろ!?俺は今目の前にあるパンを丸ごとかじりたくて仕方がないんだ!」
「こら、桜○っ!昨日の夕食、誰のせいで遅れたと思っているんだっ!」
「そっ……それはっ……」
「では、皆様でお先にお召し上がりください。我々の方で確認してまいりますので。朝倉、お願い」
「かしこまりました」

 

 桜○がパンを掴んで直接かじりつきそうになったところを獅○が止め、森に渡して切り分けてもらっていた。
「キャ――――――――――――――ッ!!」
叫び声と共に再び和室へとかけていく。一番に古泉が駆け出し、次にみくる、三番目にはハルヒ、ジョンは辺りの様子を探りながら和室へと向かっていく。和室の枕もとに転がっていた生首を確認して古泉が叫ぶ。
「見るな!ハルヒ!!」
「殺されているの?」
「服部さんの首がはねられている」
『首がはねられた!?』
「朝倉さん、すみませんが下がってください。この場を現状保存します」
「みくる……ちゃん?」
獅○光は甲冑が持っていた剣を和室の前まで携えて、緊急時の場合に構えていたが、その必要は無くなったと言わんばかりに剣を降ろし、朝倉はみくるの指示通り和室から外に出た。
「皆さんごめんなさい。職業柄、本職を言うと周りが警戒してしまうので、昨日は雑誌編集者だと嘘を吐きました」
「では、君の本当の職業はもしや……」
「お察しの通り、あたしは警視庁捜査一課の刑事です。現時点をもって、ここにいるすべての人間を服部三四郎氏殺害の容疑者として、この孤島に残っていただきます。逃げようとすれば殺人犯でなくとも警察で事情聴取をさせていただくことになります。予めご了承ください。森さん、すみませんが警察に連絡をお願いできますか?」
「かしこまりました」
「ふざけんな!!この中に殺人犯がいるかもしれないっていうのに一緒にいられるか!俺はクルーザーで帰らせてもらう!おいあんた、運転してくれ!」
興奮状態のシドが新川さんの肩を鷲掴んだ。
『そう死に急ぐことはないだろう?』
「この俺が死に急ぐだとぉ!?てめぇ、それは一体どういう意味だ!?」
今度はジョンの胸倉を両手で掴んで顔を近づけた。シドに照準を合わせたままジョンがいい返す。
『この孤島に来るためには専用のクルーザーで来るより他は無い。当然その逆もな。あのクルーザーに爆弾が仕掛けられている可能性が高い。そこのジイさんと一緒に木端微塵になりたいのなら勝手にしろ。俺にはあんたを止める権利はないからな』
「ぐっ……くそぉ………」
「とりあえず、皆さんは一旦食堂へお戻りください。クルーザーは危険でも警察のヘリや船がくれば、帰ることができます。一樹君、お願い!」
「分かった」
みくるの一言でハルヒと他のメンバーが戻っていく。
『しかし、妙だな。首をはねるのは犯人の勝手だろうが、胴体はどこへ消えたんだ?』
「そう、おかげで死亡推定時間が全く分からないの。あの人たちのこともあるし、このあと警察がやってくるなんてまずありえないわ!『電話線が切られている』と言われるでしょうね。少しだけど、指紋を採取するような道具はいくつか持ってきたんだけど、使うだけ無駄に終わりそうよ。一樹君、そっちはどう?」
「その生首に触れるのだけは勘弁してくれよ?俺も胴体を探しながらサイコメトリーしていたんだが、まったく関係のない情報か、殺害されるシーンを操作されて犯人の着ている服すら分からないようになってる。ただ、操作されてはいるようなんだが一つ気になるものがある」
『気になるもの?』
「アルファベット二文字のイメージが流れ込んできた。SとMだ。どういうつもりでアイツがこれを残したのかが分からん。まったく関係ないことだってあるかもな」
「どちらか一方、あるいは両方が変えられていることもありえるわ。アルファベット二文字が浮かんできただけでも十分よ。それで、殺害されるシーンっていうのは?」
「ナイフで胴体を刺されてから首をはねているらしい。この和室においてあったはずの日本刀で間違いない」
古泉のセリフにジョンとみくるが、刀が置いてあったであろう場所に視線を移した。
「脇差も無いってことはこの後の犯行に使うつもりでどこかに隠しているかもしれないわね」
『館内にこれだけ武器が揃っているんだ。胴体と一緒に海にでも投げたんじゃないのか?隠すとしてもリスクが高すぎる。空き部屋は全部解放された状態なんだろう?全部の部屋を調べても出てくるとは思えない。あの連中も関わっていることだしな』
「持ち物検査も無駄に終わりそうね。でも、日本刀なら分かるけど、どうして胴体まで……」
「とりあえず戻ろう。組織のボスはやっぱりアイツで間違いなかったってことだ」
「一樹君ちょっと待って」
「もう十分調べただろ?これ以上何をするってんだ!?」
「圏外でも、カメラ機能は使えるでしょ?」
『なるほどな。マスターキーは奴等の手中にある。その前にこの状況を抑えておこうというわけか』
「それでバッグをもっていたのか。流石だな」
「刑事としての勘よ!二人も携帯は持ち歩くようにして頂戴!」

 

「ったく、あんなもの見ちまったら折角の御馳走も気分が台無しだ」
「わたしもあんなに美味しい料理なのに……食べられるかどうか………」
「ちゃんと食べなきゃ元気がでないよっ!桜○君も葉月ちゃんも一緒に食べてビーチバレーに行こう!」
「フン、おまえに言われなくても分かってらい!大体だな、両手でシュートするのは女子の方だ!」
「あははっ!それってもしかして『左手は添えるだけ』って名言っ!?」
「やかましい!」
「あら?涼宮さん、パーカーに何か入っているわよ?わたしが取ってあげる」
「あっ、ありがとう。何だろうこれ……っ!!」
「どうかしたの?」
「いえ、何でもないですっ!」
獅○、園部、桜○、そしてキョンの順で食堂へと戻っていく。森と朝倉はメイドの仕事を果たすべく早歩きで食堂に戻り、遅れて齊藤とシドが明らかに青ざめた顔で入って来る。最後に一色とメモ書きを見て顔がカメラに映らないくらい頭を垂れたハルヒ。
「折角パンの香ばしいいい匂いだったのに、それも無くなっちゃいましたね」
「大丈夫だよ、葉月ちゃんっ!少しくらい冷めてたって昨日のディナーみたいに美味しいはずだよっ!」
「美味い!美味いっすよコレ!!」
「ふふっ、『美味い!美味いっすよ!晴○サン!!』とか言いたげだねっ!」
「やかましい!今度は東京スカイツリーから異世界に行ってろ!」
「いやしかし、これほど優雅な朝食を食べたのは私も初めてだ。あまりみんなに思い出させたくないが、先ほどの事件が嘘のようだ」
「いいえ、あれは現実です!」
「みくるちゃんっ!?」

 

 ようやくみくる、古泉、ジョンの三人が現れた。
「一樹!どうだったの!?」
「和室に合ったのは、刎ねられた首だけだった。おそらくだが、殺されてから首を刎ねられたらしい。だが、理由は俺にもさっぱり分からないが服部さんの胴体が和室のどこにも見当たらなかった。和室に置いてあったはずの日本刀とその脇差も無くなってる」
「胴体が無くなっているだと!?一体どういうことだ!?」
「犯人が別の場所に運んだとしか考えられません。森さん、警察の方にはつながりましたか?」
「いえ、かけようとしたのですが、私が気付いたときには電話線が無くなっていました。切られた程度であれば再度つなげられるのですが……」
「ちょっと待て!!ってことは誰も助けに来ないってことじゃねえか!?おい、姉ちゃん!食料はあるんだろうな!?」
「そのことに関しましては心配はいりません。主は皆様がお帰りになられてからも、しばらくはここに滞在する予定でしたので」
「しかし、それは服部さんやお嬢さん方の話であって、我々の分までまかないきれるのですかな?」
「落ち着いてください!皆さんに確認したいことがあります。……ここに来ることを誰かに告げてこられた方はいらっしゃいますか?旅行に行くだけでなく、行き先も含めてすべて」
「おいおい、ジャーナリストやルポライターが行き先を誰かに伝えると思うか?そんなことをすれば、大スクープをそいつに横取りされかねん。こういうツアーで職業を雑誌編集者と偽るならそのくらい分かるだろう?」
「わたしも、旅行に行くとしか……」
「我々もクルーザーで戻る予定でしたので他の者には何も……」
「ところで、クルーザー以外にボートのようなものは無いのですかな?」
「申し訳ありません。夏場であればエアボート等の手配はしたのですが……」
「大丈夫だよっ!!行き先は告げてなかったとしてもフェリーに乗ったことくらい記録に残っているだろうし、きっとわたし達が帰ってこない事を心配して気付いてくれるよっ!!」
「けどよ!この中に殺人鬼が紛れ込んでいるかもしれないんだろ!?数日も経たないうちに俺たち全員殺されるんじゃないだろうな!?」
「それなら対策はあります!マスターキーは森さん達が管理していますし、部屋に一人でいるときは鍵をかけたまま、いつ誰が来ても絶対に扉を開けない様にしてください。もし、行動する場合は三人以上で行動するよう心がけてください」
「ってことは、ビーチバレーもできるし、遊んでいる間はそこにいるみんなが安全ってことだよねっ!やろうよっ、ビーチバレー!!」
「俺は無駄な体力を使うつもりはねえよ!部屋でのんびりさせてもらうぜ」
「わたしも忘れないうちにまとめておきたいし……パスさせてもらうわ」
「光さん、ごめんなさい!ビーチバレーに行った方が安全なのは分かるんですけど、わたしどうしても怖くて」
「気にすることないよ、葉月ちゃんっ!今夜またみくるちゃん達とトランプしようっ!!」
返事は無かったが園部の表情は明るくなっていた。みくるたち三人が自席に付き食事を再開。朝倉は飲み物の要望に応えていたが、森は動く気配が無い。
「あの……一つ皆様に提案があります。朝食を摂るのもこんな時間になってしまいましたし、午後から天候が崩れる心配もございますので昼食を遅らせて二時ごろからというのはいかがでしょうか?それならビーチバレーもより長く楽しめるかと……」
「うんっ!それだよっ!!やっぱりお腹が減っているときに食べなくちゃ駄目だよっ!!わたしは賛成っ!」
「わたしもそれがいいです。お昼だとあんまり食べられそうにないですし」
「少しでも食料が持つのなら私も賛成です」
「ふふっ、この機会にダイエットしてみるのはどうかしら?齊藤さん」
「ふはははは、違えねぇや!いいぜ、俺も乗ってやる!それと、服部さんがあの世に逝っちまったのなら、あの野郎の分は俺がいただくぜ!!食料ならたんまりあるんだろう?」
「勿論でございます。では、午後二時にこちらの食堂にお集まりください」

 

 そのまましばらく会話をしながら食事を続け、ビーチバレーに参加するのが獅○、桜○と青古泉たち四人。二人前をぺろりと平らげたシドが先に食堂から姿を消し、キョン、齊藤、一色、園部が食堂からいなくなった。
「あっ、スカートでビーチバレーはできないので、着替えてきますね」
まずは六人でサークルを作りレシーブ練習からスタート。獅○が投げたビーチバレー用のボールにしどろもどろしながらレシーブをする桜○。
「おい光!レシーブってこんなに痛いのか!?」
「多分、慣れちゃえば平気だよっ!わたしも小手を打たれたときは痛かったもんっ!」
しばらく練習を続けると、獅○が実際に試合をやってみようと提案した。チーム決めの結果、獅○、桜○、ジョンVS古泉、ハルヒ、みくるとなった。桜○にセッターを任せた獅○からの「桜○君、ボールを持っちゃ駄目だよっ!」と一言。みくるがスライディングでレシーブ。ジョン、獅○、ハルヒのスパイクシーンも数回見ることができた。
食堂にはキョン、一色、園部、齊藤の四人と昼食の開始を待っている森と朝倉の計六人。ビーチバレーを終えて自室で着替えていた獅○達が遅れて食堂へやってきた。
「みんなおかえりなさい。どうでしたか?」
「初心者ばっかりなのにあんなに白熱するなんて吃驚だよっ!」
「六人ってことは三対三で試合していたの?どんな結果になったのか教えてもらえないかしら?」
「最後は点数なんて数えてなかったから、どっちが勝ったかなんて分からないわよ」
『俺は上がった球を撃っていただけだ』
「朝比奈さんがあんなにレシーブが上手いなんて初めて知ったよ。バッティングセンターに通っていた成果か?」
「ったく、結局俺にセッターを押しつけやがって『ボールを持ったら駄目っ!』なんて言われてもそう上手くいくわけがあるか!!……ってシドはどうしたんだ!?」
『!!!』
「とにかくシドの部屋に行くぞ!」

 

 古泉の一言をきっかけに全員が走りだす。
「ちょっと一樹!どの部屋だか分かるの!?」
「玄関を入ってアイツは左に行った。服部と反対なら一番奥のはずだ。なにより使っていない部屋は扉が開いてる!」
「一樹君ってトップスタイリストじゃないのっ!?なんだか刑事みたいだっ!」
『そこの刑事さんからスカウトされたんだよ』
「冗談言ってる場合!?」
『それが真実だろ?』
ジョンの一言に言い返す暇もなく、シドの部屋の前に全員が辿り着いた。みくるが全員を代表するかのようにシドの部屋の扉をノックする。
「ここで間違いなさそうね。シドさん?いらっしゃいますか?……シドさん!?仕方ないわね。朝倉さん、マスターキーを!」
「すぐにお持ちします!」
朝倉がマスターキーを取りに行こうとした瞬間、古泉がハッとしてドアノブを掴んだ。
「嘘、開いてる……?」
「中を確認する!見たくない奴は見るなよ!?」
その一言でシドの生首を連想してしまった女性陣が眼を瞑る。
「……誰も、居ないぞ?」
『誰も居ない!?』
「本当ね、ベッドは使った形跡があるし、彼の荷物も置いてある。あたしたちがビーチバレーをやっている間もクルーザーの音なんてしなかった!彼は一体どこに行ったの!?」
『おい』
「ちょっとあんた!そんな場所全然関係ないじゃない!」
『俺たちが館内を回っていたときは開いていたはずだ。だが、今は閉まっている』
「朝倉さん、この部屋は本来何に使われる部屋だったのかご存じですか?」
「拷問部屋だったと聞いています。ですが、武器を飾るだけならまだしも、拷問部屋まで忠実に再現するのはためらったそうで、パイプ椅子が一つあるだけの主の瞑想部屋だったと」
「マスターキーをお願いしてもいいですか?」
「かしこまりました」

 

「ま……まさか、この拷問部屋にシドさんが!?嫌だ……いやだああぁぁぁ!!」
「光さん!わたし怖くて見てられない!!」
「大丈夫だよっ!『見たくない奴は見るな』って一樹君が言ってた。葉月ちゃんは絶対にわたしが守ってみせるっ!」
「これがマスターキーです!」
古泉が鍵を差し込むと、ロックが解除される音が鳴った。重い鉄の扉を慎重に開いた。
「遅かったか……」
パイプ椅子の背もたれに上半身を預け。右手にはこの部屋の鍵が握られている。シドの頭部は冷たいコンクリートの床に転がっていた……。
「こっ、殺される!みんな殺されてしまうんだ!!うあああぁぁぁ!!」
「齊藤さん!単独行動は危険よ!!」
『心配することはない。自分の部屋で閉じこもるだけだ』
「とりあえず、他のみんなは食堂に戻ってくれ。くれぐれも単独行動はするなよ。ハルヒ、みんなを頼む」
「分かった」
食堂に戻っていくメンバーが角を曲がって古泉たちから見えなくなった。みくる、ジョン、古泉による殺害現場の捜査が始まった。
「本当にパイプ椅子しかないな。あとは精々あの小窓が開いている程度。鍵は死体が握っているし、密室殺人ってことになりそうだ。これを解かない限り、事件は解決できそうにないな」
『こんなもの、俺にとっては密室でも何でもない。あらかじめ、脚立であの小窓の鍵を空けておき、外からロープを蔦って下りてくる。先に殺害しておけば逃げられることもない。あとはロープを昇って外に出るだけだ』
「あたしもジョンと同じ考えよ。ジャンプしてもあの小窓には届かないだろうけれど、ロープ一つで解決するわ」
「そのロープを結ぶ場所がどこにもないんだよ。あとで確認することになるだろうが、この扉のノブに触れた瞬間にこの館の屋上の情報が伝わってきた。アイツ等がその程度のトリックでシドの死体をここまで運ばせたとは俺には思えない」
「それもそうね。でも、念のため本当にロープを結ぶ場所がないか確かめる必要がありそうだわ。だけど、ロープを使わないで一体どうやって……それに、この殺害現場、明らかにおかしいのよ。服部殺害のときもそうだった」
「おかしいって何のことだ?」
「血の量よ。首まで刎ねているのに、この血の量はいくらなんでも少なすぎるわ!」
「シドの部屋で殺害して首を刎ねたんじゃないのか?警察が来られないのなら、血を拭き取るだけで済むだろ」
「一応、シドの部屋のルミノール反応を調べるわ。鑑識が来られないことを見越して計画を立てているでしょうから。でも、部屋で首をはねてからここに運びこむなんて考えられないのよ。大量の血を拭き取っていたら時間がかかり過ぎて、誰かに見つかる可能性が極めて高くなるし、床に刀で斬った跡のようなものはなかった」
『ベッドのシーツを被せてから首を刎ねればいいだろう。リネン室に行けば、シーツや枕カバーのストックが大量にあるはずだ。こんな孤島の別荘なら尚更な』
「確かに、シーツを使えば返り血を浴びることなく犯行に及ぶことも、廊下に血液が付着することなく服部の胴体を運ぶことも可能ね。でも、首を刎ねるときには使えそうにないわ」
『どういう意味だ?』
「首の斬られた位置が問題なのよ。ただ首をはねるだけなら、こんな首の根に近い位置ではねる必要はないわ。シーツを被せて斬ったとしてもあんな小窓からの光やこの部屋の照明じゃ、シルエットもロクに映らないでしょうし、ここまで正確に斬ることができるかしら?」
『この部屋で得られる情報はどうやらこれだけのようだな。確認するのなら、さっさと済ませてしまおう。雲行きが怪しくなってくるんだろ?』
「一樹君、サイコメトリーの方はどう?」
「駄目だ。ロープが使えないことと、あの小窓付近の指紋がすべて拭きとられていたことくらいしか分からない」
「それだけでも有力な情報よ。あの小窓が何らかの形で使われたことに違いないわ!」
「ところで、確認に行くのはいいが、ハルヒ達はどうするつもりだ?」
『ついでに、齊藤が殺られる前に、例の事件のことを聞いてみたらどうだ?』
「そうね、行きましょ」
犯行現場から出た後、外で待っていた森にマスターキーを返した古泉たち三人が食堂へと向かっていく。
「あら?他の人たちはどうしたんですか?」
「齊藤様が部屋に閉じこもってしまいまして、一向に出ていらっしゃらないので他の皆様が『説得に行く』と仰って向かわれたのですが……」
『やれやれ、世話のやける連中だ』
「とにかく、あたし達も行ってみましょ!」
二階の一番奥は先に来た桜○に陣取られ、その横に園部、そして一色。齊藤の部屋は二階の一番手前。階段のすぐ傍で他のメンバーが集まっていた。
「どうしたの!?」
「さっきから何を言っても出てこないのよ。『一緒に昼食を食べよう』って何度も声をかけているんだけど……」
「こうなったらマスターキーを借りてきて強引にでも!」
「桜○君、それはだめだよっ!そんなことをしたら齊藤さんの逃げ場がなくなっちゃうよっ!!」
「分かったわ。みんなは食堂で待っててもらえませんか?先に食べてもらっても構いません。あたしが齊藤さんと話してみます。一樹君、一応護衛役ってことで居てもらってもいいかしら?」
「ああ」

 

 ハルヒがみくる達を睨むように他のメンバーを誘導した後、辺りが静かになったところを見計らってみくるが話し始める。
「齊藤さん、朝比奈です!他の皆さんには食堂に戻ってもらいました。念のため、いつ……いえ、古泉君にも同席してもらっています。今朝、警察手帳をお見せした通り、あたしは刑事です。古泉君はあたしが事件のことで悩む度に助けてくれる人なんです!あたしと古泉君は、齊藤さんの言う『みんな』の中には入っていないと思うんです!部屋から出て来られなくても、あたしはそれで構いません。扉越しでいいですから、少しお話を聞かせてもらえませんか?この事件の犯人を突き止めて、齊藤さんを守りたいんです。話したくないことであれば、それでも結構です。こんな大きな声じゃ、他の皆さんにもあたしの声が聞こえてしまいます!扉の近くに来ていただけませんか?」
『事件のことで悩む度に助けてくれる人』という表現に古泉が怪訝な表情を浮かべていたが、しばらく沈黙したあと、フロアを擦るような音が聞こえてきた。
「刑事さん、服部とシドが殺されたら、次は俺の番だ」
一人称が『私』から『俺』に変わったことにみくると古泉が視線を合わせる。
「どうして次が自分だと思うんですか?齊藤さん、さっきは『みんな殺される』って言ってたじゃないですか。他の誰かの可能性だってあるわけですよね?」
「いいや、俺に違いない!あの事件のとき服部の口車に乗せられて……」
「事件というのは、光さんが二年前って言っていた事件のことですか?年齢もバラバラですし、皆さんどうやって知り合いになったんですか?」
「……そのときまでは、あの事件が起きるまではみんな赤の他人だったんだ。………二年前、俺は豪華客船に乗って顧客に絵画を届けに行くつもりだった。それなのに!その船の中で火災が発生して!!服部が高所恐怖症だというのは刑事さんも聞いていたはず。アイツの高所恐怖症はあの事件がきっかけなんだ!俺も!シドも!同じ高所恐怖症になってしまったんだ!!」

 

みくるが警察手帳に『内容をメモして』と書き、古泉に手帳とペンを託した。
「火災が発生して……豪華客船から海に飛び降りた………ってことでいいですか?」
「最初に突き落されたんだ!!服部も!シドも!二人とも飛び降りるのを躊躇していたら、船員が二人の背中を押したんだ!!その光景を見て、海に浮かんで気絶している二人を見て、誰もそこから動かなくなってしまった!!それでも、二人を助けるために飛び降りたのが光さんだった。園部さんを抱いて一緒に飛び降りたんだ。服部もシドもあの二人に助けられたようなもんだった。俺もそれを見てようやく決心して飛び込んだよ。他の客たちも飛び込み始めて、海面に浮かび上がった俺の近くにあった救命ボートがたまたま服部たちの乗ったボートだった。似たようなボートに何人も乗り込んで、豪華客船に乗った客全員が乗りきれるほどの救命ボートが無かったんだ!俺たちのボートももう限界だった。その頃には服部もシドも意識を取り戻していたよ!とりあえず、これで命は助かった、そう思ったそのときだ!!服部とシドを押し倒した船員が俺たちのボートに乗り込もうとしてきたんだ!!乗り込もうとすればするほどボートが傾いて、今にも転覆しそうだった!!そしたら、服部とシドが二人で『そいつを振り落とせ』って叫んだんだ!!俺もそのときは自分の頭がどうかしてしまっていたんだと思ったよ。自分の持っているバッグで何度もそいつを殴りつけた。向こうも俺のバッグについているプレートを握って離そうとしなかった。それを見かねたシドがその船員を蹴り飛ばしたんだ!!突き落されたお返しだと言いたそうに!!そのおかげでそいつは気絶してボートから離れていったよ。でも、アイツが掴んでいた俺のプレートだけは引きちぎられてしまったんだ!!すり替えられることのないように俺のものだと分かるようにつけていたプレートだったんだ!!
服部とシドが殺された!次は間違いなく俺の番だ!!刑事さん、お願いだ!!俺を助けてくれぇ!!」
「分かりました。それで次は自分だと勘繰ったわけですね?齊藤さんから聞いたことは決して無駄にはしません。必ず犯人を突き止めます。ですが、それまで飲まず食わずじゃ餓死してしまいます。食堂から『あたしの分の食事』を運んできます。また声をかけますから、扉を開けて食事を取ったらすぐ閉めてください。あたしが齊藤さんの分の食事を食べます。もしそれであたしが死んだら、それ以降は助けが来るまで絶対にここから出ないでください。あたしが生きているうちは食事を毎食届けに来ます」
「う、ああぁ……ありがとぅ…ありがとうございます……」
「じゃあ、取りに行ってきますね」
みくるが立ち上がり、メモを終えた古泉がそれについていく。
「一樹君、分かっているわね?」
「毒が入ってないか確かめるんだろ?テーブルに触れば全員分わかるから大丈夫だ!」

 

食堂には沈黙を保ったまま、誰も食事に手をつけようとせず、朝倉や森もその場で立って待っているだけだった。
「みくるちゃんっ!!齊藤さん、どうだったっ!?」
「自室で昼食を食べるって言ってくれたわ。安心して!すみません、料理を運ぶトレイをお借りしたいんですがよろしいですか……?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「わたしも手伝うよっ!」
「ごめんなさい。齊藤さんとは、あたしと一樹君の二人だけで行くって約束しちゃったの。心配してくれているのは齊藤さんにもちゃんと伝わっていたから、あとはあたしたちに任せてもらえない?」
「光さん、ここは二人に任せた方がいいよ」
「そうだね。でも、食事が食べられるようになってよかったっ!!」
「お待たせ致しました。どうぞ」
「(大丈夫だ。毒はない)」
トレイを受け取ったみくるが自分の席の料理をトレイに乗せ始めた。
「えっ!?朝比奈さん、何を……?」
「あたしの分の食事を齊藤さんに届けるのよ。齊藤さんの分の食事はあたしが食べる。齊藤さんとそういう約束をしてきたのよ!」
「そんなの駄目だよっ!!もし、齊藤さんの食事に毒が入っていたら、みくるちゃんがっ!!」
「だからって齊藤さんを見殺しになんて光さんならできるの?」
「それはそうだけど……でもっ!!」
「もしあたしが毒で死ぬようなことがあれば、すぐに全員の持ち物を検査してくれればいいわ!光さんにならそれができる!それに、刑事みたいな一樹君が必ず事件を解決してくれるわよ」
「嫌だっ!みくるちゃんが死ぬのを黙って見ているわけにはいかないっ!!」
『これだけの事件を起こす犯人だ。二人を殺害しただけでなく首まではねている。そんな奴が周りの人間の前で毒殺なんてありえない。いくら状況が変わったからとはいえ、自分のポリシーも貫けない腑抜けに殺される程、俺たちは軟じゃないってことだ。それで納得しろ!』
「とにかく、みんなは先に食べていて頂戴。二人で齊藤さんのところに届けに行ってくるから」

 

 そのあと、食事を齊藤の部屋の前に運びみくるが声をかける。扉を開けた瞬間、みくると古泉が齊藤に見えるような位置に二人で座っていた。それを見た齊藤はこれで安心して食事にありつけるという表情を見せていた。食堂に戻ると、みくるが齊藤の席で食べていた。沈黙を保ったまま自室に戻ったみくるが、部屋の窓を開けて屋上に登ろうと試みている。
「朝比奈さん、俺やジョンが先に行った方がいいんじゃないのか?」
「もう少しなのよ!一樹君、肩貸して頂戴!!」
『肩!?』
何をする気なのかと分からない三人を見ながら古泉に指示を出す。言われた通りに窓に腰かけた古泉は、外に落ちないよう窓と壁を掴んで堪えている。そして、古泉の方の上にはみくるの両脚が乗っていた。
「一樹君、上見ないでよ?」
「上!?」
素直に上を見上げた古泉にみくるの着けているランジェリーが映る。
「あんたバカ!?見ないでって言われたのにどうして見るのよ!?そのくらい察しなさいよ!」
「悪い、つい朝比奈さんのセリフにつられて……だが、屋上に登ることはできたようだ。ハルヒ、今度はおまえが行け。俺はサイコメトリーで屋上の様子は知ってる。最後でいい」
ハルヒ、ジョンが屋上へと登り、ジョンの手を掴んだ古泉がようやく屋上へと登ってきた。肩についた靴跡を払っている。
「俺の言った通りだろう?この屋上のどこにロープなんてひっかけるつもりだ?それに、俺の肩に乗ってようやく登って来られたんだ。服部やシドのような奴でもない限り、登ることすら無理なんじゃないのか?」
古泉の問いに誰も答えないまま辺りを見渡す三人。みくるとジョンは屋上からの様子を携帯で撮影していた。
『とりあえず、めぼしい場所の写真は撮れた。次だ』

 

 次にやってきたのはシドの部屋、みくるが口臭スプレーのような容器を取り出し床に噴射しようとしたところで古泉が止めに入る。
「朝比奈さん、それ、血液の反応を見るスプレーだろ?やるだけ無駄だ」
「一樹君、それは一体どういうこと?」
「あのときはこの部屋に誰もいないことだけ分かった時点でジョンが鉄扉に気付いた。ようやくサイコメトリーできたよ。どうやって扉を開けさせたのかは不明だが、返り血が付着しないようにシーツ越しに数回刺して仰向けに倒れたらしい。そのあと、首の下にシーツを何重にも折って首を刎ねたんだ。この情報は操作されてない」
『だが、それでも犯人に返り血はつく。シドの首にシーツは被せてないんだろ?』
「あのな!今の俺の職業を何だと思っているんだ!美容院で使用するようなケープ代わりにすれば返り血を浴びずに済むだろ!腕だって枕カバーを繋げるだけで十分だ」
「分かった。あたしも少量しかもってきてないし、一樹君のサイコメトリーを信じるわ。この部屋にまだ情報が残ってないか見てもらえないかしら?あたしはその間にシドの荷物を調べるわ!」
「ああ、任せろ!」
みくるとハルヒでシドのバッグの中身を調べ、古泉が部屋中を隈なくサイコメトリーしてまわった。
「あんたも少しは手伝いなさいよ!」
『シドはここに旅行をするために来たんだぞ?他の目的で来たのなら話は別だが、服部や獅○の名前を聞いて愕然としていたんだ。持ち物検査をしても無駄だと言ったのは……誰だったかな?』
「そうね、何か特別なものが混じっているわけでもないし、財布を盗まれているわけでもない。特になくなっていそうなものも思いつかないし……一樹君、そっちはどう?」
「さっきと似たようなイメージしか流れてこない。肝心なものについてはアイツに弄られている。でも、何か変なんだよな……」
「どういうことか、詳しく説明してもらえないかしら?」
「アイツが敷いたレールに乗せられているような感じがするんだ。情報をめちゃくちゃにされている方がまだマシだ。『シドの殺害はこうやって行われました』と教えられた気分だよ」
『要は、アイツが俺たちをミスリードしようとしているってことだな』
「真相は、もっと別なところにある……か。部屋に戻りましょ、光さん達の様子も気になるし、ドア越しに話してみることにするわ!一樹君、一緒についてきて!」
「また俺かよ……」

 

 シドの部屋の現場検証を終えて、獅○達の部屋をまわった後、古泉の部屋にみくる達が入ってくる。
「どうだった!?」
「収穫ゼロだ。全員の無事が確認できた程度。先に屋上の確認をしておいて良かったな。どうやら降り始めてきたようだ。これじゃ爆弾が仕掛けられてなくてもクルーザーが出せそうにない」
「それでも、齊藤さんも含めて、みんな少しは明るくなっていたから心配ないわよ」
『その齊藤から情報は引き出せたのか?』
「ええ、二年前の事件の真相もすべて話してくれたわ」
警察手帳にメモ書きされたものを見ながらみくるが話し始める。
『なるほどね。自分のものだと分かるプレートが奪われたから、次に殺されるのは自分だと勘繰ったわけか』
「ええ、でもこの事件の犯人が絞れたわ。あとはシド殺害時の密室の謎さえ解ければ……」
「そんなの無くても犯人が絞れたのなら、どこかに閉じ込めておけばいいじゃない!!」
『そんな行動に出れば、あの三人が黙っちゃいない。シドは二日目の朝食までは生きていた。そのあと、獅○、桜○と俺たちは昼食までビーチバレーをしていた。館内に残っていた三人の誰かだと見て間違いなさそうだ』
「三人って、齊藤さんまで入っているってこと!?」
「服部とシドを殺害して自分が次に狙われると脅えている振りをしていれば、いくらアリバイがなかったとしても齊藤が容疑者として加えられることはない。二年前の事件が本当に起こったことだったとしても、シドに顔面を蹴られて気絶した人間にプレートを引きちぎることができると思うか?』
「シドに蹴られる前に引きちぎられた可能性もあるわ。その点については他の人たちにも事情を聞く必要がありそうね。ところで、昨日はシドや齊藤さんとどんな会話をしていたの?あたし達が遊戯室を出たのは……10時頃だったかしら?」
『齊藤からそこまで詳細を聞いているのなら俺が追加することは何もない。昨日話していた内容と相違点も無かった。俺たち三人が部屋を後にしたのは11時過ぎだったってことくらいだ』
「ねぇ、ロープが使えなかったとしたら、どうやってあの部屋から抜け出すの?」
「それをさっきから考えているんだ!」
「でも、ひとりで考えていても一向に進まないわ。思いついたものを何でもいいから話してみて」
「あっ!脚立にロープを引っかけるのはどうだ!?」
「それよ!脚立にロープを通して持ち上げればいいんだわ!」
『残念だが、それはできない。あのパイプ椅子と首なし死体はあの小窓の真下にあった。脚立をロープで引っ張れば、死体にあたって胴体の方も倒れているはずだ』
ジョンのセリフを受けて、みくるが撮影した映像を確認しだした。
「駄目ね。ジョンの言う通りだわ。何回かやればそのうち成功するかもしれないけど、首を刎ねているのにそんな時間は無いはずよ。細い糸を通して外から鍵だけ中に入れることも考えたけど、落ちているだけならともかく、鍵を握りしめられていたんじゃ、その策も使えそうにないし……」
「……ハルヒ?どうかしたのか?顔色が悪いぞ」
「えっ?うっ、ううん。何でもない!あの密室トリックのことを考えていただけ」
「そういえば、もうこんな時間なのね。そろそろ食堂に向かいましょ。齊藤さんにも食事を届けなくちゃ!」
食堂にはみくると古泉以外の全員が集まり、みくるがトレイを持って戻ってきた。
「みくるちゃんっ!齊藤さんどうだった!?」
「心配はいらないわ。ほら、この通りお昼も食べてくれたみたい。夕食もあたしが声をかけたら扉を開けてくれたから、今頃食べているんじゃないかしら?」
「良かった。これで迎えが来てくれればみんなで帰れるよっ!」
「でも、この嵐いつ止むのかな?」
「大丈夫だよ、葉月ちゃんっ!いつか必ず晴れる日が来るよっ!だから今はちゃんと食べて元気出そうっ!」
「うん。光さん、ありがとう」
「えへへっ!」

 

 談笑しながら食事を進めることしばらく、一番に食べ終えた一色が席を立った。
「ご馳走様。ごめんなさい、わたし先に部屋に戻ることにするわ」
「一色さん、具合でも悪いんですか?」
「それもあるけど、自分の身は自分で守らなくちゃ!ごめんね」
「要するに俺たちは信用されてないってわけだ」
「そんなことないよっ!みんな揃っていれば絶対に安心だよっ!そうだっ、今夜はみんなで遊戯室に遊びに行こうよっ!」
「ええ、いいわよ」
「ごめん、一樹。あたし、どうも具合が悪くて……先に部屋に戻っていてもいい?一樹たちは光さん達と一緒に居てあげて。部屋の鍵もらってもいい?」
「ああ、本当についていなくても平気か?」
「日付が変わる前には戻ってくるんでしょ?大丈夫よ」
「ハルヒさん、大丈夫かしら?」
「アイツも一人になりたいときだってある。これ以上は逆に怒られかねない。早めに戻って休めばいい」
「じゃあ、みんなで遊戯室に行こう!」
「光、今日は俺も参加させてくれ!」
「勿論だよっ!鈴木さんはっ!?」
「なら、俺も入ろう。何をするんだ?」
「フフン!人数も多いしババ抜きに決まりっ!!」
全員が食べ終えて遊技室に向かい、玄関の前でメモを手にしたハルヒが洞窟へと向かって行った。

 

古泉とみくる、ジョンが階段を駆け下り、エントランスホールに両サイドから走ってくる。
『そっちはどうだ?』
「駄目だ、館の中にはどこにも……」
「ということは……」
自然と玄関に視線が向き、俺が扉をサイコメトリー。
「一樹君、どう?」
「クソッ!時間は不明だが、嵐の中メモ用紙を片手に持っているハルヒのイメージが流れ込んできた!犯人に呼び出されたんだ!さっき、朝比奈さんの言っていた通りなら、今度はあいつが!!」
『メモの内容は?』
「分からない!この島のどこかに誘い込まれて……そうだ!クルーザー!!」
「待って!他の人間ならともかく、ハルヒさんがあたし達に内緒でクルーザーを使って逃げるなんてことは絶対にしないわ!この島のどこかに特別な場所がある筈よ。まずはそれを探しましょ!」
ハルヒがやっとの思いで洞窟に到着。ずぶ濡れで着けているランジェリーが透けて見えている。
「ここね!来てやったわよ!!出てきなさいよ!……も―――っ!人を呼び出しておいて現れないなんて!……っ!まさか、アイツにはめられた!?すぐに戻らないと!」
洞窟の入り口の方へ向いたハルヒに岩かげに隠れていた何者かが飛び出し、ハルヒの後頭部を殴る。ハルヒが倒れ、首を刎ねようと日本刀を構えたところで、みくる達の声が聞こえてくる。
「ハルヒさ――――――――――――ん!!」
「ハルヒ―――――――――――っ!居たら返事をしろ――――――――っ!!おい、ジョン!おまえもハルヒに聞こえるように……って、どうかしたのか!?」
『あの場所、洞窟のように見えないか?行き先がクルーザーでないのなら……』
「とにかく行ってみましょう!」
洞窟に向かって駈け出して行った三人が見えなくなったところで、洞窟内から何者かが抜け出し、反対方向へと逃げていく。洞窟に向かって走っている間にジョンがみくるに疑問を投げかける。
『いい加減話したらどうだ?俺たちを急き立ててまでアイツを探させた理由は何だ?』
「一樹君が服部の部屋からサイコメトリーした二文字のアルファベットと、齊藤さんが話していた自分だと分かるように付けていたプレートの二つがようやく繋がったわ。あれはSとMじゃない。SとHだったのよ!」
『なるほど、確かにプレートに刻みこむならイニシャルで間違いない。これで犯人が判明した』
「涼宮ハルヒでS・Hか。リンクの中にハルヒが入っているって言ってた意味が良く分かったよ。だが、服部はどうなるんだ?アイツだけH・Sだろ?」
「以前はファーストネームを先に書く傾向が強かったから、あたしの場合なら朝比奈みくるでM・Aになるわ。でも、今はそれも廃れつつあってM・AでもA・Mでもどちらでもよくなったのよ。そして、あたしたちとあの組織の人たちを除くメンバーの中で、そのリンクから外れている人間はただ一人」
「I・S……一色沙弥華か!服部とシドどころかハルヒまで襲いやがって!一発殴るくらいじゃ済まさねぇ!!」
「見つけ次第逮捕したいところだけれど、シド殺害時のトリックと証拠が判明しない以上、逮捕できないわ!」
『重要参考人として連行できないのか?他の連中も殺されるぞ』
「それはあくまで任意同行であって、本人が拒否したら連れていけないの!」
「くそっ!頼む、間に合ってくれ!!」

 

 洞窟前に辿り着いたみくる達が穴の両サイドに隠れて中の様子を伺っている。
「(朝比奈さん、ライトか何か持ってきてないのか?)」
「(ごめんなさい、さすがにそこまでは気がつかなかったの。相手は日本刀を持っている可能性が高いわ。慎重にね)」
「(分かった)」
一歩ずつ洞窟内に足を踏み入れていくと、倒れている青ハルヒを見つけた俺が叫ぶ。
「ハルヒ!!」
「不用意に近づいては駄目よ!一樹君!!その奥に犯人がいるかもしれないわ!」
みくるが腕を掴み古泉がハルヒに駆け寄るのを防いだ。ようやく洞窟の奥まで辿り着き、一本の刀を発見した。
「脇差?脇差が置いてあるわ!ハルヒさんの方は!?」
「まだ脈はある。だが、身体が冷え切って……そうだ!ジョン!ライター貸してくれっ!」
『生憎と禁煙中なんだ』
「とにかく、一刻を争うわ!あんな道じゃ、気絶しているハルヒさんを運べそうにないしロープか何か借りてくるわね!一樹君はハルヒさんの身体を暖めて待ってて!」
「はぁ!?身体を暖めるって一体どうやって!?」
『人肌恋しい季節ってヤツだ。さて、邪魔者は退散させてもらうとするか』
「おっ、おいジョン!クソ、こうなったら仕方がない!」
ハルヒの服を脱がせて古泉も上半身だけ服を脱いだ。ハルヒの首に腕を通して抱きしめ背中をさすり続けることしばらく、ようやくハルヒが眼を覚ました。
「……一、樹?ちょっ!あんた、あたしの身体に何してんのよ!!」
「馬鹿!離れるな!!おまえの身体が冷え切って今にも死にそうだったんだ!この嵐の中戻ったら館に着く前に死んでしまうだろ!もう少しジッとしてろ!」
「だからって、許可なくあたしの服を脱がすことないじゃない!」
「しょうがないだろ?服は乾いてもおまえが死んでしまっていたら、こうしている意味がないだろうが!」
「……バカ」
「うるせぇ」

 

 しばらくしてロープで降りてきたジョンと共に崖を登り、館内で冷え切った体を温めていた。
「ちなみに、どうしてこの三人までずぶ濡れなんだ?」
「光さんが『わたしも助けに行くっ!』って飛び出そうとして、桜○君と二人で引き止めていたんです。そしたら、一色さんと朝比奈さん達が帰ってきて……」
「一色さん、あなた一体どこに行っていたんですか?」
「クルーザーを見に行っていたのよ。この暴風雨ならクルーザーの音も聞こえないと思って向かったんだけど、クルーザーの何処を探しても爆弾は見つからなかったわ。船底に仕掛けられていることだって考えられるし、悩んだ末、諦めて帰って来たのよ。そしたらこの三人が居たってわけ」
「犯人はあたし達が必ずつきとめてみせる!それだけは忘れないで」
「じゃあ、そのときはわたしも呼んでくれない?ジャーナリストとして事件をまとめておきたいのよ。どうやってあの二人を殺害したのかも含めてすべてね。ルポライターの彼も、真実を知りたがっているんじゃないかしら?とにかく、こんな状態でいつまでもここにいるわけにはいかないわ。桜○君、園部さん、一緒に戻りましょ」
「はい」
「うー…ようやく暖まれるぜ」
「あたし達も部屋に戻りましょう。お風呂で十分温まったら、一樹君の部屋に集合。いいわね?」
それぞれ自室に戻ろうと階段を登っていく。
「ハルヒ、おまえが先に入れ。俺は朝比奈さん達との打ち合わせが終わってからでいい」
「どういう風の吹きまわし?」
「おまえは命を狙われたんだぞ?ジョンなら犯人を返り討ちにできるが、朝比奈さんの場合はそういうわけにもいかない。声は朝比奈さんでも、一緒に犯人がいる可能性もある。ただでさえハルヒを仕留め損なったんだ。今度こそとやってくることもあるかもしれん。俺が風呂に入っている間は誰が来ようと応対しないようにするだけだ。あと、おまえが玄関先で持っていたメモ、見せてくれないか?」
「どうしてあんたがそんなこ……ってサイコメトリーで分かったのね。大分濡れたから滲んでいるかも知れないけど……これよ」
「ちなみに、これをどこで拾ったんだ?」
「和室から戻ってくるときに一色さんに言われたのよ。『パーカーの帽子の中に何か入っている』って」
「『入っている』んじゃない。何も入っていないのに、さも入っているかのように見せたってことになるな」
「えっ!?それじゃあ、犯人は……」
「一色で間違いない。だが、シド殺害の密室トリックと証拠が分からないと逮捕ができないそうだ」
「そんなの、重要参考人でも何でもいいから、あの女を連行しちゃえばいいじゃない!」
「ジョンも同じことを言っていたよ。任意同行だから、本人が拒否すれば無理だそうだ」
「も――――――――-っ!!犯人が分かってて捕まえられないなんて!!」
「とりあえず、風呂に浸かって温まってこい。ハルヒがあがる頃にはジョンも、朝比奈さんも来てるだろう」
「あ!一樹、あたしの下着取ってくれない?」
「自分で取りに来ればいいだろ?俺が選んだものに文句をつけるなよ?」
「もう全部脱いじゃったのよ!どれでもいいから早く取ってきて!」
青古泉が青ハルヒのバッグを開け、下着を取り出そうとしてピタリと止まった。
「何やってんのよあんた!早くしなさいよ!!」
「密室が解けるかもしれない」
「はぁ!?」
「犯人の使った手口のヒントが見つかったんだよ!これで証拠さえ見つかれば今晩中にあの女を確保できる!」
「本当!?」
嬉しさのあまりハルヒが浴室の戸を全開にした。ハルヒの裸体が網膜に焼き付く。
「あ!」
「あ``!も――――――――っ!!あんたがこんなときにそんな話をするからいけないんじゃない!!さっさと下着をよこしなさいよ!!」

 

 ハルヒに下着を渡して、古泉はベッドに横になりながら、渡されたメモを確認していた。
「『古泉一樹の命が惜しければ、今夜九時にあなた一人でこの地図の洞窟にいらっしゃい。朝倉涼子』か。館に戻ってからアイツの姿を見ることはなかったが、一色はずぶ濡れの状態で館に戻ってきた。これも一色に託した計画のうちなのか、それとも自ら手を下そうとしたのか……ダメだ。考えても分からん。それよりも、さっき閃いたことが本当に可能なのかどうかだ。それに証拠もまだ見つかっていない。アイツだと断定する証拠はないのか……」
「一樹君?ハルヒさん?居たら返事をしてもらえないかしら?」
「ああ、今開けるよ」
古泉が扉をそっと開けてみくるの周囲にだれもいないかどうか確認をしていた。
「どうかしたの?」
「犯人に脅されて俺たちの部屋に来たんじゃないかと勘繰ったが、どうやら大丈夫らしいな」
「ハルヒさんは?」
「今風呂で暖まっているところだ。一度命を狙われているから、今夜また来るかもしれない。マスターキーは奴等の手中にあるし、鍵のことなんて容易に解決できるだろ?」
「あの人達に限って言えば、抽選会を操作するようなお膳立てはあっても、自ら手を下すことはありえないわよ」
「これを見てもそれが言えるか?」
濡れたメモ用紙がみくるに渡り、内容を見たみくるが脅えている。
「これ……」
「一色がハルヒのパーカーに何か入っていると言って出してきたものだそうだ。これも一色に授けられた計画の一部なのか、本当に朝倉が入れたものなのかは俺にも分からない。どう思う?」
扉を叩く音が二回鳴り、『俺だ』という一言と共にジョンが合流。メモについて三人で語り出した。

 

『こういう手口を使うという判断でいいだろう。俺には通用しないがな』
「一色を捕えてここから脱出することができたら、筆跡鑑定をするように要請しておくわ!一致しなければ朝倉涼子本人が書いたと見て間違いなさそうね。今後の事件で関わるようなことがあればこれが使えるわ」
ようやくハルヒが髪を拭きながら浴室から出てきた。
「馬鹿!おまえ、下着姿で出てくるな!朝比奈さんはともかく、ジョンもいるんだぞ!?」
「ジョンはあたしの下着姿になんか興味ないから平気よ!ところで、さっきあんたが言ってた、『犯人の使った手口のヒント』ってヤツ、あたしにも教えなさいよ!」
「一樹君、それ、一体どういうこと?犯人の使ったトリックが分かったの?」
「可能かどうかは俺にも分からない。ただ、屋上を見に行ったときのように、シドの死体を土台にしてあの窓に届かないかどうか考えていたんだ」
『まず無理だな。シドの死体はパイプ椅子にもたれかかっているような体勢だった。ジャンプしたとしてもパイプ椅子ごとシドの死体が床に転がるし、服に靴跡が残る。おまえが最後に屋上に上ってきたときだって、肩を払っていただろう?』
「そんなの、靴を脱げば簡単に解決するわよ!」
『靴を脱いだとしても変わりはない。シドの肩に乗っても逆に窓から離れるだけだ』
「だったら壁に立てかけておいたらどうだ?窓から出るときにパイプ椅子に向かって蹴ればいい」
『問題外だ。座っている死体より更に不安定になるだけだぞ』
「待って!……いえ、でもそれを可能にするには半日は………っ!じゃあ、胴体が無かった本当の理由は……」
「自分一人で考えてないで、あたし達にも教えなさいよ!」
「一樹君、ナイスアイディアよ!これで密室の謎が解けるわ!あとは、証拠を見つけないと」
「証拠は後でもいいから、その密室の謎ってのを俺たちにも話せ!」
「いい?……………、………」

 

三日目。密室トリックの解明はできたが肝心の証拠が見つからないまま朝を迎えた。みくると古泉は齊藤の分の食事を届けに行き、ハルヒとジョンは食堂で考え事、桜○は既に席についており、一色、キョン、獅○の順で食堂に現れた。みくるが齊藤の部屋の扉をノックして声をかける。
「齊藤さん?朝比奈です。朝食を持ってきました。起きていらっしゃいますか?」
「……まだ寝てるんじゃないのか?」
「無理矢理起こしてでも無事を確認したいのよ。齊藤さん?返事をしていただけませんか?齊藤さん!?」
「朝比奈さん、ちょっとどいてくれないか?」
「……っ!一樹君、まさか!?」
「そのまさかを確かめるんだよ!」
ドアノブをサイコメトリーするなり、すかさず古泉が扉を開ける。扉のすぐ傍には血痕。齊藤はエントランスに飾られていた斧で首を斬られてベッドに横になっていた。
「きっ、キャ―――――――――――――――――――――――――!!」
食堂にいたメンバーがみくるの声に反応した。
「朝比奈さんの声!?」
『齊藤に何かあったんだ!』
すぐに全員が飛び出し、みくるのもとへと駆け寄る。みくるは膝をついて泣き崩れていた。
「見ちゃ駄目だ!!」
「一樹君、齊藤さんどうしたの?ねぇっ!教えてよっ!!」
「エントランスに飾ってあった斧で首を切断されている。腹部をナイフで何度も刺されてからな」
「そんなっ……」
ようやく涙が止まったみくるが頭を上げる。涙でメイクが崩れていた。
「……園部さんは?園部さんはどこ!?食堂に一緒にいたんじゃないの!?」
「あたし達が最初に来てからは見てないわよ?」
「葉月ちゃんっ!」
齊藤が殺されたという事実に絶句していた獅○がすかさず園部の部屋に向かう。扉を叩きながらドアノブを動かしていた。齊藤の方はそうではなかったが、また密室事件が起こったと判断したみくるが叫ぶ。
「葉月ちゃんっ!ここ、開けてよっ!!ねぇ、お願いだよっ!葉月ちゃんっ!!」
「森さん、急いでマスターキーを!!」
「かしこまりました」
「ちょっと待ってくれ」
桜○が自然体のまま身動きを取らずにいた。
「この部屋、誰も使ってなかったはずだよな?」
桜○の言葉に反応した獅○が桜○にかけより、ドアノブに手をかける。園部の部屋は密室だったが、こちらは開いていた。部屋の中央の照明に園部のポニーテールの先が結ばれ、胴体はこちらもベッドで横になっていた。
「そんな、葉月ちゃんが……葉月ちゃんが!!」
「光さん入っちゃ駄目!!」
「こんなの嘘だ。嫌だ、嫌だよぅ………嫌ぁ―――――――――――――――――――――――――っ!!うわぁ――――――――――――――――――――――――っ!!」
獅○とみくるの後ろから古泉が中の様子を覗きこむ。
「クソッたれ!こんな女の子にまで襲いやがって……」
古泉が扉を思いっきり殴り、殴った部分がへこんでいる。
「一樹君、手から血が………っ!」
みくるが何かに気付くと、同時に獅○が廊下を走りだした。第一の殺人で持って行った甲冑の剣を携えて戻ってくる。大きく振りかぶると、キョンに向かって剣を振り下ろした。
「嘘だろ!?光が振り下ろした剣を指二本で受け止めるなんて……」
「剣が曇っているぞ。剣道一筋、華の女子大生なんだろ?おまえの剣はこうやって復讐するために使うのか?もっとも、矛先を間違えているけどな」
「うるさいっ!服部さんとシド君を殺害して、二人の身体を運べるのはおまえしか残ってないんだっ!!」
「光さん、その人は犯人じゃないわ。真犯人は他にいる」
「みくるちゃんっ!!葉月ちゃんを殺したのは誰だか教えてっ!!」
「今のあなたに教えることはできないわ。あたしも真相を整理してから話したいし、朝食を食べ終えたら全員の前で話します。新川さんにも同席してもらうわ」
「分かりました、そのように新川に伝えておきます」

 

先ほどまで握っていた剣を没収され、獅○は今の想いをどこにぶつけていいか分からないと言った表情で朝食を平らげ、武器をすべて遊戯室に置いてきた古泉たちが食堂に戻り、ようやく朝食を食べ始めている。
「(朝比奈さん、証拠は見つかったのか!?)」
「(ええ、さっきのあなたの行動で気付いたわ。ここはあたしに任せて)」
桜○も食べ進めてはいたが度々手が止まり、テーブルを何度も殴りつけていた。そんなことは気にも留めずに食べ進めていたキョンと一色。自分が真犯人としてトリックを暴かれ、証拠が提示されたとしても毅然とした態度で立ち向かうのか、はたまた死を選ぶのか、そのしぐさや表情からは読み取ることができなかった。全員が食べ終えたところでみくるが服部の座っていた席の後ろに立った。
「では、この孤島で起きた事件の真相のすべてをお話しします。まず、もう光さんも桜○君も気付いていると思うけれど、今回のツアーは抽選会で偶然当たったものではなく、過去に起こった事件をきっかけにそれに関わる人物全員を呼び出すためのものだった。齊藤さんから二年前に起こった事件のことをすべて聞いたわ。殺された人たちも含めて、ここにいるほとんどのメンバーが二年前の豪華客船に乗っていた。そして、その船旅の最中に火災事件が起こり、乗客は救命ボートに避難するように指示が出された。女性や子供を優先的に救命ボートに乗り込ませようとしたけれど、豪華客船だったが故に何mも高いところから飛び下りなければいけなかった。普通なら救命ボートの他にも滑り台のようなものが準備されているでしょうけど、そのときは何かしらの理由で使えなかった。そして、誰も飛び込もうとしない客たちの中から選び出されたのが服部とシドの二人だった。いくらガタイの良いあの二人といえど、海に飛びこむのを躊躇っていたそうよ。その間も、みるみるうちに火の手がまわり、乗客達のすぐ後ろまで火の手が回ってきていた。このままでは死傷者が大勢出てしまうと判断した船員が、服部とシドの背中を押して強引に海へと落としてしまった。着水もまともにできず、二人は浮き袋で水面には浮かんでいたけれど、気絶したまま動く気配がなかった。そこで二人を助けに行ったのが園部さんを連れた光さんだったと齊藤さんから聞いたわ。この話に間違いはないかしら?」
「そう、あのとき、わたしは何とかして二人を助けたかった。でも一人の力じゃ気絶している二人をボートに乗せるなんてできそうになかった。だから、わたしはすぐ近くにいた葉月ちゃんと一緒に飛び降りた。そうでもしなきゃ、葉月ちゃんは自分一人じゃ飛び降りられそうに無かったから」
「光さんが飛び降りたのをきっかけに次々と乗客が飛び降りて救命ボートに乗っていった。齊藤さんが飛び降りた場所に一番近いボートが偶然にも光さん達のボートだったそうよ。齊藤さんから名前は挙がらなかったけれど、桜○君もそのボートに乗っていたとみてよさそうね?」
「ああ、俺たち六人だけでこれ以上はもうボートが持ちそうになかったんだ。でも、服部とシドを突き落した奴が俺たちのボートに乗り込もうとしてきたんだ!乗り込もうとすればするほど、ボートは傾いて、海水がボートの中に入ってきた。そのときは俺もどうしたらいいのか分からなかったが、ようやく気が付いた服部とシドが叫んだんだ。『そいつを振り落とせ!』って。俺も自業自得だと思ったよ。服部とシドを突き落しておいて自分も助かろうなんてな。他の救命ボートに移ればいいのに、齊藤さんがバッグで押し返そうとしても何とか乗り込もうとしてきたんだ。見るに見かねたシドがそいつの顔面を蹴って気絶させた。それ以降、何の反応も示すことなく俺たちのボートからアイツが離れていった。そのあとだ、服部がそいつを犠牲に俺たちが助かったことを誰か一人でも警察にバラせば、六人とも捕まるようにすると言って、互いの身分を明かしたんだ」
「それでお互いの名前を知っていて、名前を聞いた瞬間に驚いていたのね。そして、その六人が抽選という偶然を装って再びここで顔を合わせることになった。あなた達は気付いていないかもしれないけれど、その事件に関わった以外にも別の繋がりがあったのよ」
「別の……つながり?」
「齊藤さんが言っていたわ。『その船員に自分のものだと分かるようにつけていたプレートを引きちぎられた』とね。自分のものだと分かるプレートがどんなものなのか、齊藤さんから話を聞いた時はまるで分からなかった。昨日の夜、トランプをしている最中にきづいたのよ。エースや絵札に書かれたアルファベットを見て、プレートに刻みこまれていたのがイニシャルだってことに」
『イニシャル!?』
「そう。獅○光、園部葉月、桜○花道、齊藤平八、シド・ハ○ウインド……五人ともイニシャルがS・Hになるわ。そして、服部三四郎もその一人。彼だけはH・Sになってしまうけれど、プレートに刻みこまれたアルファベットがSとHなら、どちらも点対称な図形で、S・Hとも、H・Sともとれる。それがあなた達六人を繋ぐもう一つのミッシング・リンク。そして、あたし達四人はある組織によって呼び出されたの。ここで事件が起こるとわざわざ招待状まで寄こしてね。そして、そこにいる鈴木四郎と名乗る男は、事件がある度にあたし達の捜査を邪魔してきた人間。あたしたちの敵ということになるわね」
「じゃあ、この事件の真犯人は……」
「私たち四人と彼、それに森さん達を除いて、唯一イニシャルがS・Hにならない人物。一色沙弥華さん、あなたよ!」
「あなた達がここに来た理由も、彼が本当はルポライターでないことは分かったけど、イニシャルがわたしだけ違うという理由だけでどうして犯人扱いされなきゃいけないのか教えてもらえないかしら?」
「言ったはずよ。『この事件の真相のすべてを話す』と。シド殺害の密室トリックもあなたが犯人だという証拠もすべてね」
「証拠も見つかったっていうの!?昨日あれだけ話しても何も出てこなかったのに……」
「ええ、園部さん殺害のときに一樹君が怪我を承知で扉を殴ったときに分かったわ。一色さんあなたが起こした行動のすべてをお話しします。まずあなたは、この孤島についた初日の夜、遊戯室には現れなかった。夕食後、服部の部屋に赴き、あたし達が遊技場でビリヤードやトランプで遊んでいる頃には、すでに服部を殺害してしまっていたのよ。服部には、『ここに着いたときに聞かされた逸話を詳しく聞きたい』とでも言えば、二年前の事故とは全く関係ないあなたなら簡単に招き入れたでしょうね。そして、あらかじめリネン室から盗んでおいたシーツ越しにナイフで服部を突き刺し殺害した。返り血は全てシーツが防いでくれる。ここからがあなたの使ったトリック。あなたは自分の服を脱ぎ、『返り血を浴びるのを承知の上で』服部の首を刎ねた。そのとき身体についた血はシーツでいくらでも拭きとることができるわ。そのあと、シーツや枕カバーを使って服部の手を拳を握っているように固定して、首から噴き出してくる血をシーツで防ぎながら、服部の胴体を壁にもたれかかるように立て掛けた」

 

「みくるちゃん、どうしてそんな面倒なことをする必要があったの?」
「服部が殺害されたとき、和室のどこを探しても胴体が見つからなかった本当の理由。それは、シド殺害時の密室トリックに服部の死体を利用するためよ!」
『密室トリックに利用する!?』
「そう。シドの殺害現場にあった胴体は、シドの服を着せた服部の死体だった。そして、服部の服を着せたシドの胴体をシーツごと館の外へと運び海へ落とした。あなたは服部を殺害した後、あたし達が全員遊技場から出てくるまで、服部の胴体の様子を見ながら和室に身を潜めていた。あたし達が全員部屋に戻ったのを見計らって下着姿のまま堂々と服部の胴体を拷問部屋へと運び、パイプ椅子で膝が曲がらないよう固定して鍵をかけた。日本刀や脇差も一緒に拷問部屋に隠しておいたはずよ。持ち物検査をされてもいいように。シド殺害を実行に移しやすいようにね。いくら血を拭ったとはいえ、服に血が付くのを恐れたあなたはそのまま部屋に戻り、証拠を隠滅するために血の付いた下着を細かく切り刻んでトイレに流した。翌朝、あたし達がビーチバレーに行っている間、シドの部屋を訪れ、『もし爆弾が取り付けられていても、わたしなら解体できる』とでも言ってシドを安心させ、部屋へと入りこんだところで服部と同様の手口でシドを殺害した。仰向けに倒れたシドの首の下にシーツを敷き、服部のときと同様下着姿でシドの首をはねた。そのあと、シドと服部の服を入れ替え、拷問部屋にシドの首だけを投げ入れて内側から扉を閉めた。固定していた服部の右手に拷問部屋の鍵を持たせたあなたはパイプ椅子に乗り、服部の胴体を脚立代わりにしてあの小窓から出て、小窓付近の指紋を拭き取った後、拷問部屋から脱出した」
「聞いて呆れるわ!死体を脚立代わりにするですって!?そんなことをしたら、いくら女でもわたしの体重に耐えきれずに死体のバランスが崩れて転倒するのがオチよ!」
「だから、シドの胴体ではなく、服部の胴体を使ったんでしょう?死後硬直が最大になるよう時間を見計らって」
『死後硬直?』

 

「あたしも首を刎ねられた死体の死後硬直なんて調べても、死亡推定時刻を割り出せるとは思ってなかったから、このトリックに気付くのに随分時間がかかったわ。人は死んでから2~3時間で顎関節が硬直し始め、上半身から次第に固まっていく。そして、12~15時間後に最大になり、そのあとは硬直していたのが緩くなっていく。シドの胴体を使えば、まず間違いなく膝の関節が曲がって、あなたの言う通り転倒してしまうでしょうね。でも、半日前に殺害した服部の胴体なら、あたし達がビーチバレーをしていたまさにあの時間、死後硬直がピークに達する。森さんが提案していなければ、あなたが言い出していたんじゃないかしら?あのとき森さんが告げた内容とほとんど同じことを。服部が殺害されている現場を見れば、誰だって脅えるわ。特にシドはそれが顕著に現れていた。二年前のあの事故のことを思い出した齊藤さんや園部さんも自分の部屋から出られなかったでしょうね。あたしたちがビーチバレーをしている場所からは館の様子は全く見えない。服部の硬直しきった胴体を利用して窓の外へと逃げ出したあなたは、シドの胴体をビーチとは反対側から海へと投げ捨て、自室に戻って血の付いた下着を切り刻んで証拠を隠滅した。土台として使った服部の胴体は硬直のピークを過ぎ、次第に筋肉が弛緩していく。昼食が二時頃なら時間も十分あったはず。膝関節が曲がって椅子に腰かけ、その勢いで上半身が背もたれに寄りかかる構図が出来上がった。その間もあなたは次の殺人を実行に移すための準備をしていた。みんなの会話を聞いていれば、あなたにも気づけたはず。でも、他の人と同様イニシャルがS・Hになってしまうハルヒさんをあなたは殺害対象の一人としてしか見ていなかった。『パーカーの中に何か入っている』と偽ってハルヒさんにメッセージカードを手渡し、あの洞窟にハルヒさんを呼びよせ殺害する計画だった。でも、ハルヒさんが居ないことに気付いたあたし達が叫んでいるのを聞いて、諦めざるを得なくなった。当然、凶器を持っていれば犯人として疑われる。だから洞窟に脇差を置いていったんでしょう?」

 

「じゃあ、齊藤さんと葉月ちゃんは……」
「ずぶ濡れの状態で部屋に戻ろうとしたとき、おそらくあなたは園部さんに耳打ちしたはずよ。『さっき言っていたのは嘘で爆弾はクルーザーから撤去したわ。園部さんの部屋だと桜○君に聞こえてしまうから空き部屋でここを抜け出す作戦を立てない?光さんにはわたしから連絡をしておくから三人で孤島から逃げだしましょ?』とね。そして、濡れた下着のまま空き部屋で待っていたあなたは園部さんを殺害し、齊藤さんの部屋をノックして扉の下からメッセージカードを投げ入れた。『爆弾は解体しました。犯人に気付かれないうちにクルーザーで脱出しませんか?朝比奈みくる』あたしの名前が入っていれば、齊藤さんは鍵を開ける。そう確信して鍵を開けた齊藤さんの口を封じて殺害した。既に園部さんの返り血を浴びているあなたにもうシーツは必要ない。血を拭き取るだけのタオルさえあれば十分。あとは胴体すり替えのトリックがバレないように二人の首をはね、残忍冷酷な犯人を演出するために園部さんの首を彼女の長髪を利用して首から吊り下げた。残りの事後処理は、服部、シド殺害のときと同じようにするだけ。どう?どこか間違えているかしら?」
「確かにそれならわたしにも可能かもしれないわね。でも、他の誰かでもそれはできたはずよ?さっきから証拠を隠滅したって繰り返しているけど、じゃあ、わたしが四人を殺害したって証拠がどこに残っているっていうのよ!!」
「あたしがレンズ越しにあなたを見ると輪郭が小さくなって見える。これは、あなたの眼鏡は印象を変えるためのものではなく、視力を補うためにかけているものだということ。この計画を実行に移すならコンタクトにするべきだった。返り血を浴びても下着なら細かく切り刻むことができる。でも、眼鏡に付着した血までは隠滅することは不可能よ。加えて、あなたが履いている靴にも服部の血が残っている可能性が高い。密室殺人のトリックを解くために、あたし達も屋上に行くときにあなたと同じようなことをしたわ。一樹君の肩を借りて屋上へと登った。でも、一樹君の肩にあたし達の靴のあとが残ってしまった。あなたが密室から脱出するときも同じよ。服に足跡が残ってしまえば、このトリックが簡単に解かれてしまう。そう考えたあなたは、靴を脱ぎ、パイプ椅子に乗って服部の死体を土台にした。ほとんど血は固まっていたでしょうけど、本当に血がつかなかったと言いきれるかしら?外に出た後すぐに靴下は脱いだかもしれない。でも、あなたの足に付着してなかったと言いきれる?そして、最大の証拠はあなたの全身についた返り血。身体についた血っていうのはね、一度や二度洗い流したくらいじゃ落ちないのよ。服部とシドの血の跡は出てこないかもしれないけれど、齊藤さんと園部さんの血の跡なら間違いなく残っている。少量だけどルミノール反応を調べる液体を持ってきている。眼鏡や靴、身体に血の跡が残っていないかこれで確かめることができるわ!」
「朝比奈さん、いつそれに気が付いたんだ?」
「一樹君が園部さんの遺体を見てドアを殴りつけたとき閃いたのよ。一樹君は血がにじみ出すのを分かっていながら扉を殴りつけた。それと一緒で、返り血を浴びることを分かっていながらわざと返り血を浴びたんじゃないかってね。返り血を浴びない様にそれを防ぐ手立てだけを考えていたから証拠を見つけるのに時間がかかってしまった。あたしがもう少し、それに気が付くのが早ければ、二人は殺されずに済んだかもしれない。本当にごめんなさい」
『もしものことを考えたところでもう手遅れだ。死んだ人間は生き返らない』

 

「一色さん、これ以上反論できますか?」
「そう、二年前のあの事故でそんなことが起きていたなんて知らなかったわ。確かに兄の遺体には齊藤のバッグから引きちぎられたとかいうプレートが握りしめられていたわよ。S・Hとイニシャルが刻み込まれたプレートが!!服部とシドを最初に殺しておいて良かったわ。この場に残っていたら、今すぐにでも殺していたでしょうから」
「齊藤さんならまだしも、どうして園部まで殺す必要があったんだ!答えろ!!」
「結局あなた達二人も一緒じゃない。緊急事態で仕方が無かったとはいえ、兄もあの二人を突き落した。でも、ボートに乗ろうとした兄を見捨てたあんたたちも同罪よ!!」
忍ばせておいたナイフを一色が構える。桜○は一色から距離をとり、獅○の後ろに隠れた。
『やめておけ。真相が明らかになった時点で、もうあんたの負けだ』
「うるさい!その二人もあたしが殺してやる!!」
「もうやめようよっ!さっきはわたしもついカッとなってしまった。でも、これ以上誰かが死ぬなんて悲しすぎるよっ!!」
「それなら、悲しむ必要が無いようにあんたから殺してやるわ!」
突如、大きな爆発音がなり、食堂が揺れる。一瞬の隙をついたジョンが一色の腹部を殴り一色を気絶させると、落ちたナイフを見当違いの方向に蹴った。
「何よ!?一体何が起きたって言うの!?」
「しまった!あいつらが居ない!!」
「すぐにここから脱出するのよ!みんな玄関に急いで!!」
全員食堂から去り、玄関に繋がる階段を降りて行く。玄関扉の前でキョンが待ち伏せ、ドアノブには鎖が巻かれ、南京錠でロックされている。最初にキョンに気付いた古泉が真っ先に駆け寄ってくる。次第に館全体が炎に包まれ始めた。
「おまえ、最後まで俺たちを邪魔するつもりか!?」
「見ての通り、ドアノブは鎖で固定されて南京錠がかけられている状態だ。そして、南京錠の鍵は俺が持っている。これがどういう意味か分かるな?」
鍵を古泉たちに見せてからポケットにしまいこんだ。
『面白そうだ。ここは俺がやる。その女は責任を持って館の外へ連れ出せ』
「館中に火の手がまわって時間が無い!二人でさっさと倒して抜け出すぞ!」
「おっと、俺は別に二対一でも構わんが、同じサイコメトラーとして忠告しておいてやる。俺は自分の能力でこの館がどういう状態にあるか常に察知することができる。おまえにも相応のことができるはずだ。おまえが俺とやるのは構わないが、他の連中のことを気にした方がいい」
『二対一じゃ時間稼ぎにすらならないとしか俺には聞こえないね』
「だったら試してみたらどうだ?時間が無いんだろ?」

 

 一歩前に出て構えたキョンにジョンがすかさず攻撃を仕掛けてきた。ジョンの蹴りの連撃をすべてかわしていく。
「頭が切れることと、度胸があるのは認めてやる。だが、バトルにもそれがでているようだ。おまえが今何を考えて、何処を狙って、何で攻撃してくるかすべて読み取れてしまうぞ。そんなことで俺に勝てると思うな!おまえは一撃足りとも当てられずに俺に負ける」
隙を突いて顔面を殴られ、ジョンがホールのど真ん中に倒れる。
『ジョン!!』
『解せんな。俺に触れてすらいないのにどうやってサイコメトリーしているのか聞かせてもらいたいね。コイツと同じサイコメトラーなんだろう?』
「ジョン!後ろに跳べ!!上から降ってくるぞ!!」
バックステップで大きく後ろに下がったジョンの前に、キョンとジョンを阻むように支柱が落ちてきた。
「なんだ、前にあのジイさん達とやり合ったときに同じ状況になったと資料に書いてあったが、聞いてないのか?」
「嘘……床を蔦って間接的にジョンの思考を読んでるってこと!?あのときの一樹君は敵味方の区別すらできずに暴走した。自我を保ったまま同じ事ができるなんて!」
「サイコメトラーとしての実力の差ってことだ」
『なるほど、暴走状態のコイツと同じ強さってことになりそうだ。一度闘ってみたいと思っていたが、こんな場所で機会に巡り合えるとは思わなかった。コイツ等とつるんでいるとこうやって面白いことが起きる。あんたの実力がどの程度のものか試させてもらおう』
「残念だが、もうおまえらの運命は決まっている。この俺がここにいる限りな」
『そいつはどうかな?』
落ちてきた柱に飛び乗ると跳躍だけでキョンとの距離を詰め、右足での襲撃。腕でガードしたところでジョンが左拳を繰り出してきた。ジョンの攻撃を受けること数回、次第に攻撃が受け切れなくなり、ついにジョンの一撃がキョンに命中した。
「さっきまで避けられていたのに、ガード!?一樹以上のサイコメトラーを相手に、ジョンは一体何をしたのよ!?」
「考えながら攻撃するのを止めたんだ。何も考えてないからサイコメトリーしても読めない」
「言うのは簡単でも、これまでの闘い方と真逆のことをするなんてそう易々とできるはずがないわ!これほどまでのポテンシャルを持ちながら、どうして何の職にも就いていないのかあたしの方が聞きたいくらいよ!」
「簡単さ。自由気ままに生きる。それがアイツのポリシーだ」
『「一撃足りとも」……何だったか忘れてしまったな』
「ここまで簡単に闘い方をシフトできる奴も珍しいもんだ。いいだろう、久しぶりに俺も楽しめそうだ」
次第に崩れていく館の中でジョンとキョンの壮絶なバトルが繰り広げられる。互いの攻撃が命中するようになり、キョンの左拳にジョンが右拳でのクロスカウンター。利き手を使ったジョンに軍配があがり、キョンがその場に倒れる。すかさずポケットに入っていた鍵を奪い、南京錠のロックを解除した。
「よし、俺たちも行くぞ!」
「駄目よ、一樹君!ジョンも鎖は解いても扉は開けちゃ駄目よ!!大爆発が起きるわ!」
『一体どういうことだ?』
「バックドラフト現象よ!密閉空間の中で火災が発生したとき、急激に酸素が流れ込むと一酸化炭素と化学反応を起こして燃焼する。つまり、扉を開けて密閉状態の館の中に酸素を入れると爆発してしまうの!!」
「じゃあ、どうやってここから抜け出せって言うのよ!!」
『要は扉を開ける一瞬だけ爆発するんだろ?扉は俺が開ける。安全な場所に避難していろ!』
「それじゃ、あんたが死んじゃうじゃない!!」
『さっきも言っただろ。あんた等とつるんでいると面白いことが起きる。俺が爆発に巻き込まれればそれまでの運命だったってことだ。とにかく急げ!』
「ジョン!!」
「よせ、ハルヒ。今のアイツに何を言っても無駄だ。爆発に巻き込まれないことを祈ろう。安全な場所に避難する」
「それなら地下よ!爆発は上には広がっても下には広がらないわ!遊戯室に急いで!!」

 

 古泉たちが遊戯室に避難している間に、ジョンがキョンを抱えて和室付近まで運びだした。
「どう……いう………つもり…だ?」
『タイムリミット有りの状態であんたとやっても面白くもなんともない。俺が手出しするのはここまでだ。あとは自分でなんとかしろ』
「後…悔する……ぞ?」
『俺が面白ければそれでいい』
「変な……野郎だ…」
玄関扉まで戻ってきたジョンがドアノブに手をかけた。
『準備できたか?』
「こっちはいつでもOKだ!絶対に生きて出てこいよ!?」
『運が向いたらな』
先ほどより大きなバックステップと共にドアノブを引っ張った。その刹那、爆音と共に酸素と一酸化炭素が化学反応を起こす。二度目のバックステップを踏んだジョンに炎が急接近していた。
「今のうちよ!!玄関から脱出するわ!」
「ジョン!……ジョン!!」
「今はあいつを信じろ!早く外に出るんだ!!」
館を出た古泉たちがある程度の距離とって座り込む。館が上から順に崩れていく光景をそこにいる全員が見つめている。みくるが一色の手を後ろに組んで手錠をかけていた。突如、エンジン音が鳴り、全員の眼がそちらを向く。視線の先には新川さん、森、朝倉の三人がクルーザーで逃げていく様子が映っていた。
「アイツ等……クルーザーには何も仕掛けてなかったのね!誰よ!?クルーザーに爆弾が仕掛けられているなんて言い出したのは!!」
「ジョンよ。シドがクルーザーを動かせとあの男に命令したときにそう言ってたわ。でも、紀獏スイッチを押してないだけで、爆弾自体は仕掛けられていたのかもしれないわね。たまたまジョンが発言しただけで、誰がそのことに触れてもおかしくなかったはずよ」
「……っ!ジョンは!?ジョンはどうなったの!?」
「ハルヒ、あそこを見てみろ。……ったく、心配かけさせやがって!崩れ落ちている最中だっていうのにのんびり歩いて出てくるんじゃねえよ!」
ジョンの服が焼け焦げて手首から肘までの部分が無くなっていた。どうやら、両腕で頭部を炎からガードしてそのまま倒れこんでいたらしい。姿を現したジョンにハルヒが駆け寄っていく。
「ジョン!」
『よう、全員無事のようだな』
「バカ!それはこっちのセリフよ!みんなあんたのことを心配していたんだから!!」
「みんなあなたのおかげよ。捜査一課にスカウトしたいくらいだわ!」
『生憎と、何かに縛られるのは性に合わなくてね。またこういう機会があったら呼んでくれ』
しばらくして、燃え尽き、焼け焦げた館跡にみくるや古泉、ジョンが入り込んでいた。
「鉄扉は無事のようだが、中の死体は丸焦げだな。これじゃ誰の遺体なのか判別できそうにない」
「一樹君が死体入れ替えトリックに気付いた時点でこうなることを予測しておくべきだったわね。警察が来れば服部の死体だとすぐにバレてしまう。そこまで考えてなかったわ。でも、数が足りないわ。服部の首、シド、齊藤さん、園部さん、そして……あの男の遺体が見当たらないのよ」
『別の脱出ルートでも用意していたんじゃないか?どうせまた姿を現すだろ』
「おい!おまえら、そんな呑気なこと言っていられる場合か!?食料も全部燃え尽きてしまったんだぞ!!」
「あいつら……あたしたちをこの孤島に閉じ込めて餓死させる計画だったのね!!って、あ――――――――――――――っ!!あたしのお気に入りの服が!!」
「事件が起こると分かっていて、どうしてそんな大事なものを持ってきたんだ?おまえは」
「館ごと燃え尽きるなんて考えもしなかったわよ!!あたしも朝比奈さんみたいに何かしらの準備はしておくべきだったわ!絶対に生きのびてアイツ等に仕返しをしてやるんだから!!」
『釣りでもしながら気長に待てばいい。刃物ならこのガラクタの中にどっさり埋もれているはずだ。イカダでも作るか?』
「その必要はないわ。そろそろ、迎えが来るはずよ」
『迎え!?』
「コラァ、てめぇ!俺たちに『誰かにここに来る事を連絡してきたか』なんて聞いておいて、自分だけ秘密にしていたってのか!?あのときそれを話していれば他の三人は助かったかもしれないんだぞ!!」
「桜○君、止めなよっ!みくるちゃんは万が一のことを考えて、今日この時間に迎えに来るよう連絡していたんだ。わたし達の方から通信する手段がない以上、今日まではここで過ごさなくちゃならなかったはずだよっ!」
「ごめんなさい。犯人を捕らえるまでは話すことができなかったの。このことを話せば、彼女は計画を早めようとしたでしょうし、無事に戻れたとしても今度はあなた達が一人ずつ殺されていくことになる。そうでしょう?」
「うっ、それは……」
「みくる――――――――――――――――――――――――――――っ!!迎えに来たにょろよ~!!」
「つっ、鶴屋さん!?」
ヘリの音が次第に大きくなり、10人は軽く乗れるようなヘリから鶴屋さんが降りてきた。
「随分派手に暴れたにょろね~。誰の仕業っさ?」
「この前の事件で英語の教師をやってた奴の仲間よ!」
「アイツも来てたにょろ?今どこにいるっさ!?」
『他の奴等とは別に逃げて行った。またどこかで会うだろう』
「とにかくみんなヘリに乗るっさ!すぐに応援を呼んで現場を調べるにょろ!!」
獅○、桜○を含めた全員がヘリに乗り、孤島から去っていった。

 

数日後、閉店後の美容院で古泉がハルヒにシャンプーをしていた。
「ホンット、自分から挑戦状を叩きつけておいて、最後は逃げていくなんて信じらんないわよ!」
「いや、最初から館を全焼させるつもりだったんだろう。爆弾もちゃんと用意していたようだし、ジョンでなければアイツに勝てなかった。それに、朝比奈さんがバックなんとか現象だとか言って止めに入らなければ、俺とジョンは木端微塵になっていたはずだ。ドアノブにロープや何かをひっかけて扉を開けるなんて真似もできなかっただろうな。俺たちが無事に脱出できて、こうやって帰ってこられたのもジョンや朝比奈さんのおかげってことだ」
「バックドラフト現象よ。そのくらい覚えておきなさいよ!結局、あいつらとの決着はつけられなかったんだから!またあの手で来るかもしれないのよ!?」
「そうだな。次こそ決着をつけよう。そのときはまた手伝ってくれるか?」
「あんた、あたしがピンチになったら助けに来てくれるんでしょうね!?」
「勿論だ」
「それならいいわよ!」
目隠しをしたハルヒに古泉がキスをした     おしまい。