スノースマイル (73-305)

Last-modified: 2007-12-19 (水) 00:23:00

概要

作品名作者発表日保管日
スノースマイル73-305氏07/12/1907/12/19

作品

季節は冬真っ只中である。朝から降り続けていた雪はもううっすらと積もり始めている。絶好の睡眠時間とも言える授業を終え、俺は今SOS団の部室もとい文芸部室に向かっている。習慣というものはいつの間にか、ついてしまっているものであり、俺が部室に行くのはもう既に規定事項となっている。今日は掃除当番だったのでおそらく部室に着くのは俺が最後であろう。ノックはせずに部室に入る。案の定、長門はだんまり読書、古泉のやつはいつものように意味もなくニコニコスマイル、朝比奈さんは俺が入ってきた瞬間目を輝かせてうれしそうにしたのはおそらく俺の気のせいだ。そして我らが団長、ハルヒはというと、
「ちょっと、キョン遅いわよ!なにしてたのよ!」
と、いきなり俺に罵声を浴びせている。俺は掃除当番で遅れるといったはずだが?
「え、あぁ、そういえばそうだったわね。まぁいいわ!それよりキョンちょっと来なさい!」
今度は何だ?また怪しいサイトでも開いてるんじゃないんだろうな?
「ちがうわよ!これはSOS団の活動にかかわる重要なことよ、いいから来なさい!」
「やれやれ。」
見ると古泉が3割り増しのにやけ面でこちらをみてやがる。なんだその意味ありげな表情は?そんなことを考えているとハルヒに急かされた。仕方のないやつだ。
 その後ハルヒのとんでもない考えを何とか言いくるめ、ようやく席に着くと今度は古泉のやつが顔を近づけ、(顔が近い!もうちょい離れろ!)小声でささやいてきた。
「ごくろうさまです。あなたも大変ですね。」
そう思うなら変わってくれ。俺は疲れた。
「いえ、そうもいきません。涼宮さんはあなたじゃないと嫌でしょうからね。」
「どういう意味だそれは。」
「言葉の通りですよ。まぁあなたが気づくにはもう少し時間が必要ですが。」
なんかむかつくな。遠回しに俺が鈍感だと言ってるみたいで。
と言うと古泉はやっと顔を離し、
「ふふ、まぁいいじゃありませんか。それよりオセロでもやりませんか?」
なんかうまく流された気がするが、いいだろう盤上を真っ白に染めてやるよ。
「では、さっそく。」
そうしてオセロをやり始め、俺が古泉に3連勝し、今この瞬間、また古泉に止めをさそうとしたとき、
パタンと長門の本が閉じられた。今日の団活はこれで終了である。早速帰ろうと思い、
「ハルヒ、帰るぞ。」
といったが返事がない。机を覗き込んでみるとすぅすぅと寝息を立てていた。
「涼宮さん寝ちゃってますぅ。」
「・・・・・・・。」
「おやおやこれでは帰れませんね。涼宮さんが起きるまで待つとしましょう。」
と、古泉が言ったが、
「いや俺だけ残ろう。」
ハルヒのせいで迷惑をこうむるのは俺だけで十分だからな。
「えぇ?そんなの悪いですぅ。キョン君だけに苦労を掛けてるみたいで、私も残ります。」
「いいんですよ、朝比奈さん。これも雑用の俺の役目なんですから。」
そうこれはそのためだけであって、他意はないんだからな。・・・・・・・・・・本当だぞ?
「いいじゃないですか。朝比奈さん。彼もそう言ってる事ですし、邪魔者はお暇させていただきましょう。」
「おい、古泉、それはどうい「私がそのほうがいいと思う。」
って、長門!?そりゃどういう意味だ!
「・・・・・そういう意味。」
長門、お前まで・・・・。
「では、意見も一致したことですし、そろそろ帰りましょうか。」
古泉が嬉しそうに言い、3人は帰っていった。帰り際、朝比奈さんに、「頑張って下さいね。」
と、言われたがなんだってんだ、今日に限って。
 3人が帰ってから特にすることが無い俺は、長門のハードカバーを一冊取り出して読んでいたが、ハルヒがいつまでたっても起きずそのままうつらうつらと寝入ってしまった。
 
「・・・・・。」
「・・・・ン。」
「・・キョン・・・きなさい・・・・・。」
誰かが俺を呼ぶ声がする。なんだ?もうちょい眠らせてくれ。なんて思っていると、   「ちょっと、キョン!起きなさい!!」
ハルヒにたたき起こされた。
「何で寝てんのよ!みんなは?何であんたしかいないのよ!?」
お前がいつになっても起きないのが悪い。他のみんなはお前が起きそうに無いから俺が帰した。
「団員その1のくせになに勝手に指示出してんのよ!」
「仕方ないだろうが。じゃあなんだ、気持ちよさそうに寝てるお前を起こせばよかったのか?」
「う、それはダメだけど・・・・。それよりっ!キョンさっさと帰るわよ、下校時間とっくに過ぎてんだから!」
あぁ、そうだったのか。じゃあだいぶ俺も寝てたんだな。それは謝ろう。
「ふん、最初からそう素直にすればいいのよ。」
「お前に言われたくないんだがな。」
「なんか言った?」
いいえ、何も言ってませんよ、団長様。
「ふんだっ。」
そうやってハルヒは先に行ってしまった。まったく、やれやれ。
 外に出るともう雪は結構積もっていて、一面真っ白になっていた。
いつもの下り坂を歩いていると、前のほうでハルヒが、雪を見てはしゃいでいた。
「キョン、これすごいわよ!明日は雪合戦できるんじゃないかしら!」
と、雪を蹴飛ばして遊んでいる。
「おいハルヒ、そんなことしてたら転ぶぞ。」
「大丈夫よ、あたしはみくるちゃんとかとは違うから。」
一応怒っているつもりなんだが、どうしてこの団長さんはこうも楽しそうに笑ってるのかね?誰か教えてほしいもんだ。
そんなことを考え、注意を散漫にして歩いていると
パン!
いきなり前方から雪球が飛んできて、俺の顔面に衝突した。
「なにしやがる!」
「ぼーっと、してるあんたが悪いのよ。悔しかったらやり返してみなさい!」
と言ってハルヒは走り出した。
「こら、待てハルヒ!」
「ふんだ!キョンのノロマ!そんなんじゃいつまでたっても追いつけないわよ!」
ついに俺の闘争本能に火がついた。
手近にあった雪を丸めて、全身全霊を掛けて(とはいってもハルヒも一応女の子なので少し加減はしたが)ハルヒに向かって投げつけた。見事にハルヒの後頭部に命中!・・・・・・したのが運のつきだった。
「・・・やったわね・・・・・キョン?」
と、今日一番の凄みを効かせて振り返ったハルヒの顔は、いつぞやの朝比奈さん誘拐事件の時に森さんが見せた笑顔にそっくりだった・・・・・。
 それからは言うまでも無く、道路でハルヒと俺の雪合戦が開始され結果もまた言うまでも無く、ハルヒの圧勝で終了し、ようやく普通に俺たちは歩き出した。
 「まったくあんたって奴は・・・どうしていつも団長に反発するのかしらね?」
だから悪かったって。さっきから謝ってるだろうが。
「ふん、どうかしらねっ!」
てな感じでさっきからこの調子である。一体どうすれば機嫌が良くなるのか俺には皆目、見当がつかん。誰か俺にヒントをくれ。
「まったく!いつもいつもあんたは団長であるあたしに迷惑掛けすぎなのよ!この前の不思議探索だって・・・・」
どうやらまだ続くようである。誰か本当に何とかしてくれ・・・・・。
・・・ん?なんだハルヒの奴さっきから手こすり合わせて・・・そういえば雪合戦の時も手袋つけてなかったな。仕方の無い奴だ。
「だいたいあんたは「おい、ハルヒ。」
「なによ、まだ話は終わってないわよ!」
「ほれ。」
「え?なにこれ?」
「何って手袋だ。お前さっきから手こすって寒そうにしてただろ。つけろ。」
「べ、別に寒くなんか「いいからつけろ。」
俺の有無を言わせない口調にしぶしぶ、
「わかったわよ・・・・・ねぇキョン・・・。」
なんだ。
「何で片っぽしかないわけ?」
片方あれば十分だろ?俺だって片側は寒いんだ。
「でも、これだと変じゃない?左手のほうも貸しなさいよ。」
そいつは無理だ。
「なんでよ!いいから貸しなさい!」
「あーもううるさい!」
と、俺はめんどくさくなってハルヒの右手をつかんで自分のコートの左ポケットに押し込んだ。
「え、えぇ!ちょ、キ、キ、キ、キョ、キョン!!!!!」
ハルヒは耳まで真っ赤にして叫んでいる。
「これで文句無いだろ。少しは静かに歩け。」
「大有りよ!」
なんだ、嫌なのか?じゃあ抵抗すればいいじゃないか。
「べっ、別に嫌じゃないけどじゃないけど・・・じゃなくて!その・・なんていうか・・・。」
「嫌じゃないんならいいだろ。ほら、さっさと行くぞ。」
「・・・バカキョン・・・。」
ハルヒは顔を赤くしてうつむいてしまった。いつもこの調子ならこいつも可愛いのにな、さっきの慌てた表情も良かったし・・・・・って!俺は何を考えている!!
というアホな考えを俺がしていると、
「ねぇ、キョン。さっきから歩くの早いんだけど。」
「え?あ、あぁ。スマン。」
全然気づかなかった。こいつの歩幅は大きいものだと思っていたからな。そういえばこいつもずいぶん変わったな・・・・。以前は勝手にガンガン大股で俺を引っ張っていたのに、今じゃ普通の女の子だ。さっきのような表情も見せるようになってきたし、こいつはこいつで成長したっていうか、なんというか・・・・・これを言うとまた古泉のアルバイトが増えちまう気がするが仕方ないな。悪いな、古泉、今夜は頑張ってくれ。
「なぁ、ハルヒ。」
「何?」
ハルヒはまだ少し頬を赤らめていたが、俺はその顔に向かって言ってやった。
「その、なんつーか・・・お前可愛くなったな。」
言っちまった・・・・。案の定、ハルヒの顔はストーブの真ん前にある温度計のごとく、見る見る赤くなっていく。
「!!!!は、はぁ!!ちょ、キョ、キョン!あんた今なんて・・・!!」
なんだきこえなかったのか?可愛くなったって言ったんだよ。あまり言わせるな、こっちも恥ずかしいんだから・・・。
「!!!!ほらまた可愛いって!」
そんなに俺がお前を可愛いって言ったのが嫌だったのか?だったら前言撤回するぞ?
「また・・!もういい!!キョンのばか!」
と、ハルヒは耳まで赤くしてそっぽを向いてしまった・・・スマン古泉。
 それからハルヒは口をきいてくれなかった。どうしたものかと、その辺にロープが落ちていたら首を吊りたいと思っていると、
「あ・・・、」
ハルヒがようやく口を開いた。
「雪・・。」
雪?上を向くと、
「おぉ・・・・・。」
さっきまで止んでいた雪がまた降り始めたようだった。ん?なんかこの雪、「ねぇ、キョン」
「なんだ、ハルヒ?」
俺はなるべくやさしく返事をした。
「この雪ってさ、・・・・・笑ってるように見えない?」
俺はその時驚きを隠せなかった。と言うか隠せと言うのが無理であろう。なぜかって?
俺も同じ事を考えていたからさ。
ハルヒは怪訝そうな顔をして、
「どうしたの、キョン?」
「いや、まったくその通りだなって思ってさ・・・。」
「ふうん?」
ハルヒはなにか聞きたそうだったが、やっぱりそうよねっ!と、言って笑った。
ハルヒは笑ってる。
雪も笑ってる。
俺も笑ってるに違いない。
なぜならこの笑顔はハルヒがくれたんだから。
だがそんなことを当に分かりきってる。ほかのどんなことよりもな。
だからもう一回、こいつに言ってやることにした。
「ハルヒ、可愛くなったな。」
「な!!ちょ、ちょっと!なんなのよ、さっきから!あんた今日おかしいわよ!?」
「まったくだ。今日は本当に俺はおかしいな。」
本当はおかしいなんて思ってないがな。ハルヒ、お前はもうちょい素直になれ・・・・・ま、俺も人のことは言えないか・・・やれやれ。
だが、しかしだ。
こんなことを思うのは今日が初めてだろうな・・・冬が寒くてよかった。なぜかって?
ハルヒの左手を俺の右ポケットに招待できるこの上ない理由ができたんだからな・・・。
いつかこのことをハルヒに話してやろうと思う。ついでに俺の気持ちも。
その時には俺もハルヒも素直になってるだろうしな。
・・・待ってろよ・・ハルヒ。