ドクターK (77-576)

Last-modified: 2008-01-22 (火) 23:16:19

概要

作品名作者発表日保管日
ドクターK77-576氏08/01/2208/01/22

作品

今日は朝から涼宮の態度がおかしい。キョンもどうやらそんな様子を察知してしきりに涼宮を気にかけている。
 
俺?あぁ、気にすんな。今日はキョンのモノローグは休みだそうで、
今日は俺が神の視点から進行を司る事になったらしいんだ。俺も何のことやら分からんがそういう事だ。
 
んでだ、今日は何故涼宮の元気が無いのかと言うと…
どういう風の吹き回しか、あの捻くれ天邪鬼女がついにキョンに告白するつもりらしく、どう話を切り出そうかそればかり気になって仕方ないみたいなんだな。
つーか、あの二人まだ付き合ってなかったのか?俺だけじゃなく、恐らくクラス全員そっちの方が驚きだと思うんだが…。
 
3時間目の終わり、涼宮がついに動いた。
「キョン、昼休み部室に来なさい!」
「どうした?何か用事でもあるのか?」
「用件なら部室で言うから、とにかく昼休みになったらすぐに部室に来なさい。良いわね?」
キョンは溜息を一つついて「分かったよ」とそっけなく答えた。
その顔には『どうせまたろくでもない事でも思いついたんだろ』と書いてある。
 
4時間目の授業が終わると涼宮は一目散に部室に走って行っちまった。
「部室で用があるなら一緒に行けばいいのに、何考えてんだあいつ」
キョンはこれから自分の身に起こる事も知らねーで暢気な事を言いつつのんびりと部室に向かった。
 
部室に着いたキョンがドアをノックする。
「ど、どーぞ!」
「なんだ、声が裏返ってるぞ?って、長門は居ないのか?」
ドアを開きながらキョンが聞く。
「うん。有希にはちょっと席を外してもらったの。ちょっとここ座ってもらえる?」
涼宮はこう答えると『団長』と書かれた三角錐が置いてある机の横にパイプいすを出してながらキョンに座るように促した。
 
「で、用件って何だ?」
「うん…用があるのには違いないんだけどね…」
涼宮が俯き加減でボソボソと話している。
「やらなくて後悔するよりやって後悔したほうが良いって言うじゃない。あんた、それってどう思う?」
キョンの顔が一瞬青ざめた。なんだ?その言葉に何かトラウマでもあるのか?
「…ま、まぁ、その通りの意味じゃないか?」
急に落ち着きが無くなり、後ずさりしたような体勢で周囲をキョロキョロ見渡しながらキョンが答えた。
 
「それじゃ、もしもよ、目の前で病気で苦しんでいる人が居たとして、自分ならその人を救える。何もしなかったらその人の容態はどんどん悪くなるかもしれない。そんな時あんたならどうする?」
「何だそりゃ?…まぁ、俺には医療の心得なんぞは皆無だが、自分が助けられるってなら何とかしてやるだろうな。」
「うん。あんたってそういう人よね。自分のこともろくに出来ないのに人の事になると気を回すというか…ね。」
「それは俺を褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ?」
「それで、ここからが本題なんだけど…」
涼宮が真剣な表情でキョンに向き直った。キョンも釣られて背筋を正している。
 
「最近、あたしは妙な病気に罹っているようなの。多分ある種の精神病の一種。原因はあんた。そして、治療できるのも多分あんただけ。さっき『自分が助けられるなら何とかする』って言ったわよね。それならあたしの事も何とかできるでしょ?だから何とかしなさい!」
 
この鈍感野郎にそんな遠まわしな物言いで通じるのかねぇ…
ってほら見ろ。キョンの奴ポカンとした顔で固まって居るじゃねーか。
 
顔を真っ赤にして固まる涼宮とポカンとマヌケ面晒して固まるキョン、
永遠に続くかとも思われたある意味シュールな光景だが、沈黙に耐えかねた涼宮が口を開いた。
 
「…何か言いなさいよ。いつまで黙ってる気?」
「あ…うん…あぁ、要するにお前のその妙な病気を何とかしろって言うんだな。うん。ちょっと待ってくれ。そうだな、放課後、放課後まで待ってくれ。その時にはどうするか決めておく。」
キョンはそう言うと部室を飛び出した。
 
残された涼宮は狐に摘まれたような顔をしていたが、しばらくすると大きく溜息をついて椅子に深くもたれかかり何も無い天井を仰いだ。
 
教室を飛び出したキョンが向かった先は9組の教室だった。
そこで、古泉とか言ったかな、連中の仲間の一人の男を捕まえてなにやら話し込んでいた。
 
最初はキョンの話をニヤケ面で聞いていたが、途中真剣な顔になりキョンになにやら小言を言っているようだ。
キョンはブスっとした顔で「んな事は分かってる」とでも言っているような素振りを見せていた。
そして二人でしばらく話し込み、古泉はニコニコ、キョンは渋々といった表情で何かを確認し二人は別れた。
…何企んでんだあの二人は?
 
5時間目が終わった休み時間の事だ。
「なぁ、ハルヒ。昼休みの話だが。今日お前掃除当番だったよな。掃除が終わったら9組に行ってもらえないか?そこで古泉が待ってるはずだ。とりあえず行けば分かるから掃除が終わったら9組に行ってくれ。」
「何で古泉君が関係あるのよ?」
「今は何も聞くな。とにかく9組に行けば分かるから、な。」
珍しくキョンが涼宮を押し切る形で会話を終了させ、何となく微妙な雰囲気を残したまま6時間目とホームルームが終わった。
 
キョンはホームルームが終わると一目散に教室を飛び出した。
 
掃除当番を終えた涼宮が9組に向かうと、教室に一人佇む男が居た。古泉である。
「あ、古泉君…キョンに9組に行くように言われて来たんだけど…」
「お待ちしていました。ご足労頂き恐縮です。彼に頼まれごとを仰せつかっていまして。」
「キョンが?古泉君になにを?」
「涼宮さんが最近精神的にお疲れの様子なので、腕のいい精神科医かカウンセラーでも紹介してやってくれ。と言われまして」
 
涼宮は大きな溜息を着くと呆れ返ったように首を二三度振った。
「僕もここ数日の涼宮さんの様子が気がかりだったもので、何かお力になれればと思いまして、お待ちしていました。」
「その事だったらもう良いわ。あたしは大丈夫。心配かけちゃったみたいで悪かったわね。」
涼宮の投げやりなせりふが2人しか居ない教室に響いた。
 
「実は先生を学校にお呼びしているんですよ、無料のカウンセリングだと思って、先生とお話だけでもして頂けませんか?僕の勝手の行動とはいえ、わざわざ学校まで呼びつけてしまった手前もありますし。」
「…そう。そうね。来て貰ってそのまま追い返すのも悪いわね。話だけでもしてみるわ。」
「ありがとうございます。先生はこちらでお待ちです。どうぞ。」
 
そういうと古泉は涼宮を先導して歩き出した。歩きながら何故か古泉は白衣を羽織っていた。そしてその格好で向かった先はというと…
「え?…部室?」
「はい、他に場所が無かったもので、部室をお借りしました。他の皆さんには席を外していただいています。」
にこやかに答えた古泉は部室のドアをノックし「失礼します」と言って部室に入った。
 
そこに白衣を纏い最奥の机に座り物憂げに窓の外を眺めているのは…
 
「何やってんの?キョン。」
「ここに座りなさい。あ、古泉君。君はもういい。下がりなさい。」
「はい。失礼します。」
そう言うと古泉は一礼して部室を去った。
 
「で、キョン。これは何なのか説明して貰おうかしら?」
涼宮がキョンに詰め寄るがその白衣の自称ドクターは顔色一つ変えずに。
「キョン?誰だねそれは。私はさすらいの精神科医、ドクターKだ。」
「何バカなこと言ってんのよ!あんた何考えて…」
 
「助手の古泉から話は聞いている。確かに君はある種の精神病を患っているようだ。その専門医として私がここに呼ばれた。と言うわけだ。」
そういうとドクターはニヤリと笑った。
涼宮もどうやら多少落ち着いてきたようで、ドクターに対して睨んでるのか笑ってるのか良く分からん顔を向けながら、
「で、その専門医とやらはあたしをどうするって言うわけ?」
 
「そうだな。まずは症状を確かめるとするか。ちょっと熱でもあるようだね。計ってみようか?」
キョ…もとい、ドクターが真剣な面持ちで涼宮に言った。
体温計なんて用意してたのか、小物まで準備万端整えやがっって…ておい、顔が近いぞ!何やってんだキョン!
 
自分の額を涼宮の額に当て、目を閉じてなにやら考え込む素振りを見せている。
涼宮の顔が見る見る真っ赤に染まっていく、あーあ。ありゃ相当熱出たな。
つーか、自分も真っ赤になってりゃ相手の熱なんて分からんだろうに。
 
「すごい熱だ!何でこんなになるまで放って置いたんだ?すぐに治療しないと。」
おい、キョン、それ以上は自重しろ!ここは18禁じゃないんだぞ!
 
「それで、何するのよ?」
涼宮も相変わらず真っ赤な顔して居やがる。
「助手の古泉から君は重度の精神病に罹っていると聞いている。どうやらその原因はクラスメイトのとある男子らしいね。」
わざとらしいキョンの語り口に涼宮も「ぷっ」と思わず笑いを漏らし赤い顔をしたままプルプルと震えている。
「そ、そうね。あいつのせいであたしは変な病気になっちゃったみたいね。で、どうしてくれるわけ?」
「私は治療までは請け負っていない。治療方法はそのクラスメイトに教えておくからそいつと一緒に治療してくれ。」
「治療ってなによ?」
「君の精神病はもしかしたら一生治らないかもしれない。自分でちゃんと治るまで看病してくれって頼むんだ。」
「何であたしから言わないといけないのよ!」
「それが自分の病気の治療を依頼する患者の態度か?自分から頼むのが筋だろ?きっと断らないと思うぜ。」
 
…そろそろじれったくなってきたんで語り部降りてもいいか?駄目?あぁ分かったよ。やればいいんだろやればよ。クソッ。
二人とも真っ赤な顔して何やってんだかなぁ。
 
涼宮がキョンに挑むような目を向けたと思ったらおもむろに口を開いた。
「あんた、やっぱりヤブ医者ね!」
「んなっ!何を根拠に。」
「さっきあたしの熱を計るといって額で体温見たじゃない。あたしが患ってるのは内面の病気なの。表面の温度だけじゃあたしの内面の熱は分からないわよ!」
「じゃぁどうしろって言うんだ?」
「こうするのよ!」
涼宮が顔を更に赤く変色させ、ニヤリと笑いキョンに近づいていく。
「ちょっ…ハルヒ!」
 
・・・いや、お前らちょっと待て、何で顔近づけ…それ以上は大人の領…
 
ごゆっくりぃぃぃぃぃ!
 
□□□□□
…ったく、偉い目に遭ったぜチクショウめ。こんなもん引き受けるんじゃなかったぜ。
「やぁ、谷口さん。大役お疲れ様でした。神の視点はいかがでしたか?」
お前はいつまで白衣着て助手の振りして居やがるつもりだ、俺への多大な精神的苦痛の治療でもしてくれるのか?
「さて、どんな治療がお望みでしょうか?」
その意味深な笑顔はやめろ。
 
何だあの茶番劇は。あのバカップルがいちゃついてる様を俺に見せ付けて何の得になるってんだ?
「語り部たる人が居ないと物語が進行しないものでしたから。まぁ誰でも良かったんですが。」
 
さわやかに言い放ちやがって…誰でも良くてこの仕打ちか。
…待てよ、俺様はこの話の中では神の目を持つ者、つまり神なんだよな?
 
「ある意味においてはそうとも言えるでしょう。」
ほほう…つまり、こういうことも可能なわけだ。
「と、言いますと?」
 
・・・えー、この物語はフィクショ…んごがっ!!
 
「その言葉は言わせませんよ。我々もこれまでの苦労を水泡に帰すわけにもいきませんから。」
笑顔のままいきなり殴りやがって…ケッ。俺の知った事か。
 
あーこの物語はフィクションであr…ぬぉわ!
「言わせないと言っているでしょう?」
ってお前、ちょっと待て、止めるにしてもやりようってもんが…ちょ…やめっ…アッー!