ハルヒと親父 外伝 (104-479)

Last-modified: 2016-12-10 (土) 00:16:26

概要

作品名作者発表日保管日
ハルヒと親父 外伝 ー ショットガン・ウェディング104-479氏09/01/1309/01/14

 

作品

「まさか、あいつらが本当に結婚するなんてな」
「何言ってるんですか。こんなにお似合いなのに」
「別に結婚なんかせんでも、今まで通りツンデレとアホキョンでいいじゃないか」
「ちゃんと付き合うようになってからは、ツンデレというよりバカップルでしたけど」
「言うなあ、母さん。惚れ直しそうだ」
「またですか?」
「百歩譲って籍を入れるのはいいとしよう。だが結婚式までやることはないだろ。俺たちだってしてないぞ」
「そりゃまあ、結婚式に乱入して、ほんとに花嫁をさらっていくような人ですから」
「ありゃ、かあさんが悪い。あんな奇麗な人がピーピー泣いてたら、男なら誰だって」
「あの時、教会には200人いて半分は男性でしたけど」
「俺が一番男前だったから、みんな譲ってくれたんだ」
「カタギの人があそこまでやるとは思いませんでした。あと『こんな奇麗な人』ね」
「すまん。照れたんだ。この後『花束贈呈』もあるのに、目を合わせられなくなる」
「その前に『両親への手紙』がありますよ」
「控え室へ行って、その『手紙』をすり替えてきたんだけどな。ほれ」
「……『はずれ』。さすがハルね」
「もう、泣きそうだよ」
「さっきから泣きっぱなしじゃないですか」
「うう」
「教会式でなくてよかったわ。バージンロードが川になるところですよ」
「言うなあ、母さん。弟子入りしたいぞ。ぐすん」
「はいはい」
 
「ほら、キャンドル・サービスですよ。2人が来ますよ」
「帰ってもらえ。今、取り込み中だ」
「バカ親父、いいかげん泣き止みなさい。そんなに、キョンが嫌なの?」
「なぐったり、蹴ったりしないから、むしろ好き」
「あんたねえ」
「だからキョン君、一発殴らせろ。ぐすん」
「後にしなさい。新婦だけで火つけて回るわけにいかないんだから」
「あー、俺ならかまわんが」
バキ!
「母さん!」
「お義父さん!」
「大丈夫よ。『両親への手紙』までには起こしとくから。みんなを待たせちゃいけないわ」
「(すごいな、お義母さん。ハルヒの蹴りでも倒れないお義父さんを一撃で)」
「(言ったでしょ。涼宮家最強だって)」
 
(以下、気絶する親父の回想)
 
「……お義父さん、お義母さん。ハルヒとの結婚を」
「待った! その先は俺が言う」
「バカ親父は引っ込んでなさい!!」
「ちょっとは敬えよ。俺はおまえが生まれる前から結婚してるんだぞ」
「わたしもそうよ、お父さん。はい、キョン君、続きをどうぞ」
「あ、はい。……ハルヒとの結婚を認めてください。かならず幸せにします」
「待った! 続きは俺が言う」
「続きなんかないわよ!! 認めるの!?認めないの!? 認めなくてもするけどね。もう案内も送っちゃったし」
「ええ、うちにも届きましたよ」
「すみません。止めきれなくて」
「親父が逃げ回ってるからでしょ! 『明日、2人で挨拶に行くから』って電話したら、次の日から海外逃亡して1年も帰らないし!」
「海外出張だ。プラント3つもつくっちゃった」
「つくっちゃった、じゃないでしょ!!」
「キョン君、すまん。俺は仕事で家庭を犠牲にして来た人間だ。君はこんな風になるな。ハルヒをよろしく頼む」
「はい!」
「キョン、こんな目の潤んだヘンタイの言葉に耳かさなくていいわよ。ヘンタイがうつると困るし」
「ときに、キョン君。長門さんとは、その後どうだね?」
「は?」
「キ~ョ~ン。どういうことかしら?」
「ハルヒ、落ち着け。お義父さん、何をいうんですか?」
「気安く呼ぶな。君のような息子を持った覚えはない」
「キョン、今夜はたっぷり、精も魂も尽きるまで、みっちり絞ってあげるからね。覚悟しなさい!!」
「ハルヒ、無駄にエロいぞ。5つ子ができたら大変だ」
「このセクハラエロ親父!!」
「キョン君、今日は食べて行くんでしょ。お母さん、腕振るうからね」
「楽しみです。でも、あの、フルコースとかじゃなくて、いいんで。ほんとに」
「今夜は満漢全席よ」
「(中華かよ!) って、仕込みとか、めちゃくちゃ大変なんじゃ?」
「平気よ。でも、ほんの少し大変だから、ハルヒをお借りするわね。この子、こう見えて器用だから、助かるの」
「(さすがだな、お義母さん。これでハルヒと親父さんがケンカせずに済む)はい。じゃあ、ごちそうになります。……ハルヒ」
「わかったわよ。母さんとキョンがそういうなら。……親父、結婚式までには必ず始末するからね! 首洗って待ってなさい!!」
「というわけだから、キョン君、お父さんをお願いね」
「って、俺ですか!?(そりゃそうだよな。……やれやれ。わるい人じゃないんだが)」
「キョン、貞操だけは守るのよ。……でも、何があっても、キョンはキョンだからね。あたしの気持ちは変わらないわ」
「(結婚するんだから、そろそろ本名で呼んで欲しいぞ)。って、のああ!! お義父さん、いきなり、お姫様ダッコはやめてください! いや、あらかじめ申し込んでも駄目です!」
 
 
「キョン君、楽にしなさい。悪ふざけはハルヒの前、限定だ」
「はい。あの……、ハルヒと同じで、照れかくしなんですね」
「小さい子が、大人がいやがるんで『ウンコ、ウンコ』といつまでもしつこく言うのと同じなんだ。『いやがる』ってのも『相手をしてくれてる』ことの一種だから」
「……不躾だし、僭越だと思うんですが、うまい言い方が思いつかなくて。あの、ハルヒと……このままでいいんですか?」
「俺とあいつは、多分、ずっとあの調子だよ。俺は、変わるにはいささか歳を取りすぎた。あいつは、変わる気などさらさらないだろう。俺の方は、そうだな、バカ親父を楽しくやらせてもらってる。あいつの方はわからんがね」
「ハルヒは、自分が親父さん似だって、言ってました」
「……そうか。自分が幸せだと認めるのは、恥ずかしいもんだな。正直、死にそうだ」
「今のは、ハルヒには内緒にします」
「二人分の、いや三人分だな、礼を言うよ。ハルヒも俺も、母さんも、君に会えてよかった。……ところで」
「はい」
「実は、古い映画を見るのが趣味なんだ。さすがのバカ親父も、娘の彼氏とサシで話すのは、結構消耗する。かといって、ただの沈黙に耐えられるほどは心臓が強くない。そこでだ、何か、見るかね?」
「ええ。……すごいコレクションですね。どんな映画でもありそうだ。お義父さんが選んだのが見たいです」
「そうだな、……あれにするか。『三十四丁目の奇跡 Miracle on 34th Street』(1947)。サンタクロースの存在を、よってたかって証明する映画なんだ。もちろんハッピーエンドだ。娘と、ハルヒと、ずっと前に一度、見たことがある」
「『必ずしも子ども全員の願いがかなうわけじゃないからって、サンタクロースがいないことにはならない』」
「キョン君、それは……」
「ええ、いつだったか、ハルヒが。そうか、この映画だったんだ。あ、確かもうひとつあるんですよ。えーと、『常識が……』」
「『常識が、信じては駄目よ、とささやきかけるときにも、その何かを信じて疑わないことを信念というの』。キョン君、はじめるぞ。そっちの壁がスクリーンだ。しばらく振り返るんじゃないぞ」