概要
作品名 | 作者 | 発表日 | 保管日 |
ハルヒと親父 外伝 ー ショットガン・ウェディング | 104-479氏 | 09/01/13 | 09/01/14 |
- ハルヒと親父より
作品
「まさか、あいつらが本当に結婚するなんてな」
「何言ってるんですか。こんなにお似合いなのに」
「別に結婚なんかせんでも、今まで通りツンデレとアホキョンでいいじゃないか」
「ちゃんと付き合うようになってからは、ツンデレというよりバカップルでしたけど」
「言うなあ、母さん。惚れ直しそうだ」
「またですか?」
「百歩譲って籍を入れるのはいいとしよう。だが結婚式までやることはないだろ。俺たちだってしてないぞ」
「そりゃまあ、結婚式に乱入して、ほんとに花嫁をさらっていくような人ですから」
「ありゃ、かあさんが悪い。あんな奇麗な人がピーピー泣いてたら、男なら誰だって」
「あの時、教会には200人いて半分は男性でしたけど」
「俺が一番男前だったから、みんな譲ってくれたんだ」
「カタギの人があそこまでやるとは思いませんでした。あと『こんな奇麗な人』ね」
「すまん。照れたんだ。この後『花束贈呈』もあるのに、目を合わせられなくなる」
「その前に『両親への手紙』がありますよ」
「控え室へ行って、その『手紙』をすり替えてきたんだけどな。ほれ」
「……『はずれ』。さすがハルね」
「もう、泣きそうだよ」
「さっきから泣きっぱなしじゃないですか」
「うう」
「教会式でなくてよかったわ。バージンロードが川になるところですよ」
「言うなあ、母さん。弟子入りしたいぞ。ぐすん」
「はいはい」
「ほら、キャンドル・サービスですよ。2人が来ますよ」
「帰ってもらえ。今、取り込み中だ」
「バカ親父、いいかげん泣き止みなさい。そんなに、キョンが嫌なの?」
「なぐったり、蹴ったりしないから、むしろ好き」
「あんたねえ」
「だからキョン君、一発殴らせろ。ぐすん」
「後にしなさい。新婦だけで火つけて回るわけにいかないんだから」
「あー、俺ならかまわんが」
バキ!
「母さん!」
「お義父さん!」
「大丈夫よ。『両親への手紙』までには起こしとくから。みんなを待たせちゃいけないわ」
「(すごいな、お義母さん。ハルヒの蹴りでも倒れないお義父さんを一撃で)」
「(言ったでしょ。涼宮家最強だって)」
(以下、気絶する親父の回想)
「……お義父さん、お義母さん。ハルヒとの結婚を」
「待った! その先は俺が言う」
「バカ親父は引っ込んでなさい!!」
「ちょっとは敬えよ。俺はおまえが生まれる前から結婚してるんだぞ」
「わたしもそうよ、お父さん。はい、キョン君、続きをどうぞ」
「あ、はい。……ハルヒとの結婚を認めてください。かならず幸せにします」
「待った! 続きは俺が言う」
「続きなんかないわよ!! 認めるの!?認めないの!? 認めなくてもするけどね。もう案内も送っちゃったし」
「ええ、うちにも届きましたよ」
「すみません。止めきれなくて」
「親父が逃げ回ってるからでしょ! 『明日、2人で挨拶に行くから』って電話したら、次の日から海外逃亡して1年も帰らないし!」
「海外出張だ。プラント3つもつくっちゃった」
「つくっちゃった、じゃないでしょ!!」
「キョン君、すまん。俺は仕事で家庭を犠牲にして来た人間だ。君はこんな風になるな。ハルヒをよろしく頼む」
「はい!」
「キョン、こんな目の潤んだヘンタイの言葉に耳かさなくていいわよ。ヘンタイがうつると困るし」
「ときに、キョン君。長門さんとは、その後どうだね?」
「は?」
「キ~ョ~ン。どういうことかしら?」
「ハルヒ、落ち着け。お義父さん、何をいうんですか?」
「気安く呼ぶな。君のような息子を持った覚えはない」
「キョン、今夜はたっぷり、精も魂も尽きるまで、みっちり絞ってあげるからね。覚悟しなさい!!」
「ハルヒ、無駄にエロいぞ。5つ子ができたら大変だ」
「このセクハラエロ親父!!」
「キョン君、今日は食べて行くんでしょ。お母さん、腕振るうからね」
「楽しみです。でも、あの、フルコースとかじゃなくて、いいんで。ほんとに」
「今夜は満漢全席よ」
「(中華かよ!) って、仕込みとか、めちゃくちゃ大変なんじゃ?」
「平気よ。でも、ほんの少し大変だから、ハルヒをお借りするわね。この子、こう見えて器用だから、助かるの」
「(さすがだな、お義母さん。これでハルヒと親父さんがケンカせずに済む)はい。じゃあ、ごちそうになります。……ハルヒ」
「わかったわよ。母さんとキョンがそういうなら。……親父、結婚式までには必ず始末するからね! 首洗って待ってなさい!!」
「というわけだから、キョン君、お父さんをお願いね」
「って、俺ですか!?(そりゃそうだよな。……やれやれ。わるい人じゃないんだが)」
「キョン、貞操だけは守るのよ。……でも、何があっても、キョンはキョンだからね。あたしの気持ちは変わらないわ」
「(結婚するんだから、そろそろ本名で呼んで欲しいぞ)。って、のああ!! お義父さん、いきなり、お姫様ダッコはやめてください! いや、あらかじめ申し込んでも駄目です!」
「キョン君、楽にしなさい。悪ふざけはハルヒの前、限定だ」
「はい。あの……、ハルヒと同じで、照れかくしなんですね」
「小さい子が、大人がいやがるんで『ウンコ、ウンコ』といつまでもしつこく言うのと同じなんだ。『いやがる』ってのも『相手をしてくれてる』ことの一種だから」
「……不躾だし、僭越だと思うんですが、うまい言い方が思いつかなくて。あの、ハルヒと……このままでいいんですか?」
「俺とあいつは、多分、ずっとあの調子だよ。俺は、変わるにはいささか歳を取りすぎた。あいつは、変わる気などさらさらないだろう。俺の方は、そうだな、バカ親父を楽しくやらせてもらってる。あいつの方はわからんがね」
「ハルヒは、自分が親父さん似だって、言ってました」
「……そうか。自分が幸せだと認めるのは、恥ずかしいもんだな。正直、死にそうだ」
「今のは、ハルヒには内緒にします」
「二人分の、いや三人分だな、礼を言うよ。ハルヒも俺も、母さんも、君に会えてよかった。……ところで」
「はい」
「実は、古い映画を見るのが趣味なんだ。さすがのバカ親父も、娘の彼氏とサシで話すのは、結構消耗する。かといって、ただの沈黙に耐えられるほどは心臓が強くない。そこでだ、何か、見るかね?」
「ええ。……すごいコレクションですね。どんな映画でもありそうだ。お義父さんが選んだのが見たいです」
「そうだな、……あれにするか。『三十四丁目の奇跡 Miracle on 34th Street』(1947)。サンタクロースの存在を、よってたかって証明する映画なんだ。もちろんハッピーエンドだ。娘と、ハルヒと、ずっと前に一度、見たことがある」
「『必ずしも子ども全員の願いがかなうわけじゃないからって、サンタクロースがいないことにはならない』」
「キョン君、それは……」
「ええ、いつだったか、ハルヒが。そうか、この映画だったんだ。あ、確かもうひとつあるんですよ。えーと、『常識が……』」
「『常識が、信じては駄目よ、とささやきかけるときにも、その何かを信じて疑わないことを信念というの』。キョン君、はじめるぞ。そっちの壁がスクリーンだ。しばらく振り返るんじゃないぞ」