ハルヒの婚約騒動 (21-72)

Last-modified: 2007-02-07 (水) 00:12:29

概要

作品名作者発表日保管日(初)
ハルヒの婚約騒動21-72氏06/09/3006/10/01

作品

俺が改変世界から戻って来て一か月後。本日ハルヒは家から電話が入ったらしいのでまだ部室には来ていない。
なんかやたらと慌てていたのが多少気になるが、取りあえず朝比奈さんのお茶をいただく事にする。それから30分程古泉とゲームを嗜んでいた。長門はやはり読書中である。
なんだろうな、この気持ち。朝比奈さんがいて、長門がいて、古泉がいて、そして…ハルヒがいる。
あの時長門は謝っていたが、むしろ俺としては逆にお礼を言いたいぐらいだった。
あの出来事がなければ、俺はここが大切な場所だという事を認めようとしなかっただろう。そして、ハルヒの事も――

 

そんな考えを中断させたのは、勢いよく開いたドアの音だった。振り返るまでもない。我らが団長様が来たのだ。
しかし、ドアの奏でた音がいつもの7割しかない。何かあったのか?
反射的に長門と古泉を見てみる。長門はいつもと変わりはない。古泉は俺と同じ事に気付いたらしい。そして首を横に振った。どうやら特に異常事態があるわけではなさそうだ。
結論を言おう。俺はハルヒの事をかなり理解したと個人的に思っていた。少なくともあいつの家族以外では俺が一番ハルヒを知っているとな。
しかし甘かった。まさかこんな事を言うとは夢にも思ってなかったからな。
「キョン、あたしと婚約しなさい!」

 

俺が湯飲みを落とし、朝比奈さんがお盆を落とし、長門が本を落とし、古泉が笑顔の仮面を落とす。
「お父さんが急にお見合いしろってうるさくてね。つい、もう心に決めた人がいるって言ったら連れて来いと言われたのよ。だから今日家に来て適当に演技してくれない? 」
なら最初からそう言え。いきなり婚約しろと言われたからお茶を零しちまったじゃねえか。
「ふふ…本気で言ってると思った? 」
なんだその顔は。そんな小悪魔的な笑顔をこっちに向けるな。こら古泉、お前もニヤニヤするんじゃない。

 

さて、今俺はハルヒの父親と対面している。ハルヒの父親だからどんな型破りな人かと思ったら、少なくとも見掛けはどこにでもいる普通の人だった。
「ハルヒ、お父さんはキョン君と二人で話すから席を外してくれないか」
そう言われると、ハルヒは二つ返事で部屋から出ていった。さあどうする俺。緊張が全身に走る。
しかし、ハルヒの父さんは堅い表情を崩してこう言った。
「いやーごめんごめん。実は婚約の話は嘘なんだ。本当は君にハルヒの事を聞きたくてね。ハルヒはいつも君の事を話してるから、多分君が一番ハルヒと接してると思ってわざわざこんな芝居をしたってわけさ」

 

一気に体の力が抜ける。さすがハルヒの父親だ。一筋縄では行かない。
「あの娘は変わったよ。中学生の頃はいつもつまらなそうでね。笑顔なんて見せなかったよ」
確かに、高校の始めの頃もそんな感じだったな。
「それが高校に入ってからは、すごく楽しそうなんだよ。あの娘が笑顔を見せながら学校の事を話してね。そうだなあ、半分以上は君の事だね」
あいつ、何を一体話してるんだろう。
「笑顔を見せたのも十分驚いたけれど、一番は去年の12月だね。あの我が儘な娘が学校を休んで家にも帰らず三日間君の側に付き添ってた事だね。その時わかった。あの娘を変えてくれたのは君だって。本当にありがとう」

 

「ところでここだけの話、君はハルヒの事をどう思う?正直に話してくれないか? 」
口調が変わった。この人は真剣に聞いている。なら、俺も正直に答えるべきだな。
「そうですね…ハルヒは太陽みたいな奴です。いつもギラギラしてて、何か不思議な事を思い付く。正直、最初は嫌だとも思っていた時期もありました。
でも…今は違います。12月のあの時、俺は夢を見ていました。ハルヒがいなくなるという夢を。
あれは気が狂いそうになりました。そして気付かされたんです。あいつが俺にとってどれだけ大事かという事を」

 

「なんで好きになったかはわかりません。案外、あの輝く笑顔に惹かれたのかもしれません」
「そうか…君にならあの娘を任せても大丈夫だろう。ありがとう、そろそろ切りもいいし終わりにしよう」

 

「話は終わったの? 」
ああ、なんとか誤魔化せた。
「ふーん、わかったわ。じゃ、また明日ねー」
ああ、また明日な。
疲れた。あんなに自分の心をさらけ出すのはやっぱり恥ずかしいな。ハルヒに顔が赤いのは熱のためだと説得したが。

 

翌日、あの長い坂をいつもの様に登って教室に入った。早く来過ぎた精か、ハルヒしかいなかった。
「キョン、学校が終わったら買い物に付き合ってもらうわ。SOS団は今日は休みね」
なんで俺がお前の買い物に付き合ってやらなきゃならんのだ。
「ふーん、そんな事言っていいの? あの事学校にばらすわよ」
俺は犯罪に手を染めたわけでもないし、ばらされて困る物はない。
「ところでキョン。これなんだと思う? 」
何って、テープレコーダーにしか見えないが。

 

ハルヒがテープレコーダーのスイッチを入れると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『そして気付かされたんです。あいつが俺にとってどれだけ大事かという事を』
…!!
「あんたが日頃団長であるあたしの事をどう思ってるかを知りたくてね。お父さんに協力してもらったのよ」
するとあれか、もしかして電話の所から始まっていたのか。そしてあの父親もグルですか。くそ、やはりハルヒの親父だけある。
「んで、これを学校にばらまいてもいい? 」
…まいった、降参だ。頼むからそれはやめてくれ。
「じゃ、決定ね。さーて何を買おうかしら」
なんかやたらと嬉しそうなハルヒを見てると、愚痴を言う気も起きなくなった。
「キョン!」
「なんだ」
ハルヒはニューヨークの夜景にも勝るとも劣らない笑顔でこう言った。
「一生放さないから覚悟しなさい!」