ミステリックサインは終わらない (73-216)

Last-modified: 2007-12-19 (水) 22:46:30

概要

作品名作者発表日保管日
ミステリックサインは終わらない73-216氏07/12/1807/12/18

作品

俺・長門・古泉・朝比奈さんの4人は、約10mぐらいだろうか、先に居る俺・ハルヒを見つめている。
つまり、俺が2人居ると言う事なのだが…
 
ハルヒを庇って倒れこむ俺。
古泉の打った猛スピードの赤い球を避けた、だと…
俺を心配しているハルヒ。
「何、今の?」
「解からん…」
たぶんこんな会話をしているんじゃなかろうか?
 
俺とハルヒの2人を見ながら、俺・古泉・朝比奈さんは呆然と、長門は無表情で立ち尽くしていた。
 
状況を整理するため一旦、時間を巻き戻すことにしよう。
 

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昼休みの部室に長門によって、俺・古泉・朝比奈さんは集合を掛けられていた。
「前回と似た状況。涼宮ハルヒによって作成された画像により、前回とは別口の情報生命体素子の活動開始を促された。
 それにより、この学校の生徒の1人が位相のずれた空間に取り込まれた。」
やれやれ。嫌な予感ほど当たるとは本当らしい。
しかし、あの数分の間にウチのサイトを覗いている奴がいる確率は相当低いのではないか?
誰なんだ、俺の努力虚しく、長門による緊急応急処置より早くあのアホ絵を見た馬鹿は?
「谷口『へぇっっ!』、あなたと同じクラス。」
朝比奈さん、驚くのはいいですが、長門が話してる途中に割り込むのはやめてください。
はぁー、溜息を何度ついても足りんね。
『涼宮の謎行動にこれ以上、巻き込まれたくないね。勘弁してくれよ。』
こっちが勘弁して欲しい。そもそもウチのサイト見に来てる時点で説得力無いな。
そういえば、あいつ、昨日と今日、学校に来てなかったっけ。
てっきり失恋のショックで休んでるんだとばっかり思ってたぞ。国木田と共にな。
結局、部活終了後、この4人で谷口を助けに行くことが決定してしまった。
「あなたもつくづく変なお友達をお持ちで。」
うるさいわ。
 
事の発端は2日前、いつもの様に俺が古泉をコテンパンに負かしていると、ハルヒが、
「キョン、これを見なさい。」
今度はなんだ?その得意げな顔に俺は身構えながら、ハルヒの指差すディスプレイを覗き込む。
「…これは何だ?」
すぐにわかったが、一応聞いておこう。あまり聞きたくなかったのだが。
「見て解かるでしょ。SOS団結成1周年を記念してサイトのシンボルマークを変えたのよ。
 どう、斬新なデザインでしょ。アクセスカウンタを新しいやつにしなきゃね。すぐにカウンタストップする、間違いないわ。」
カウンタの上から2桁はまだ0だぞ。
いや、そんな細かいことを気にしている場合ではない。どうして俺に頼まず、自分で更新作業したんだ?
「あんたに出来て、あたしに出来ないことはないの。」
今回だけは俺に任せてほしかった。
ハルヒの摩訶不思議な絵がまた、謎の宇宙的生き物を起こすことになりかねんからな。
 
俺の苦心の末(ハルヒに変な目で見られ、その上財布まで軽くなった)、
速やかにハルヒを部室から一時的に引き剥がすことに成功した。
その日の帰り道、
「あなたには感謝しています。おかげで長門さんにすぐに処置をお願いできましたよ。」
だったらせめてハルヒのジュース代分ぐらい払ってくれ、必要経費だろ。
「涼宮さんと2人きりで語り合う時間が持てたのですからいいではありませんか。」
次からは協力してやらん、俺はもう知らんぞ。お前が頑張れ。
「フフ、あなたにそんなことできるとは思えませんが。それとも僕の見込み違いでしょうか。」
それで構わん。良かったな、古泉。次から出番が増えるぞ。
「残念ですが、僕は今のバイトだけで手一杯です。やはりあなたが適任かと。」
古泉の話では、案の定、ハルヒの謎絵は200ペタバイトもの情報量を持っていたらしい。
今度は変な生命体やらを起しませんように…
 
 
俺の願いむなしく、長門より昼休みに谷口があの謎空間に閉じ込められたらしいことを聞いてしまった。
谷口の家は何度か行ったことがある、そういや久しく行ってなかったな。
うちの同じくらいの平凡な1軒屋。電気がついているということは家族が居るのか。
さてさてここで問題発生だ。どう言って部屋まで上がりこむか。
ハルヒなら強引に因縁つけて上がりこむ所だろうが、俺は幸いにも一般人なのである。
結果から言えば杞憂であった。
谷口が学校に来ていない理由の手がかりを見つけたいという、出鱈目な理由で入れてもらえた。
古泉の野郎、俺が上手く説明できずパニックってるのを見て、ニヤニヤしてやがる。すぐにフォロー入れやがれ。
 
谷口の母親と話をしていて分かったことだが、谷口のことは全然心配していないらしい。
「失恋のショックで旅にでも出たんじゃない?」
放任主義の鏡である。どうりで自由奔放で、かつ自由の向かう方向が間違った性格になってしまったんだろう。
『世の中で一番難しいのは、女の愛を全身で感じることだ』とは谷口の持論。
 
「すぐに帰りますから、お気遣い無く。」
そう言って、俺ら4人は2階の一番奥の部屋へ向かう。
今度は何が出てくるのかと怯える朝比奈さん、無理してついてこなくてもいいんですよ。
「ほんとは行きたくないんですけど…上からの命令で…」
なるほど、朝比奈さん(大)になるまでに朝比奈さん(小)は様々な経験をしたわけだ。
これも規定事項とやらなんだろう。
そう言えば、前回はカマドウマが出たが、今回はどうなんだ?
「おそらくですが、今回も谷口氏の畏怖する対象が具現化されたものであると。違いますか、長門さん?」
「違わない。」
うーん、谷口の恐れる物?あいつは無類の女好きではあるが、恐れの対象など思いつかんぞ。
「では、長門さん、お願いします。」
長門は高速言語を呟いた。
 
一面に広がる砂地。青い空。そして…
「へ?」
長門以外の3人はびっくりするほどまぬけな顔をしていたに違いない。
さっきまで俺の横で怯えていた朝比奈さんが呟くには
「……キョン君と涼宮さん?」
間違いない。あれは教室の机に座り、会話する俺とハルヒである。
何の話をしているかまでは遠くて分からないが、ハルヒは笑顔みたいだな。
とりあえず危険性は無いようだが。
それにしても何だ、この状況は?砂地に2つしかない机。そこに座り、会話する男女。
それが谷口の恐れる物というだけで相当謎なのに、それが俺とハルヒとは……
呆気にとられていたであろう、古泉が一番早く(長門除く)立ち直り、
「これは…長門さん。本当にこれが谷口氏の畏怖の対象ですか?」
「そう」
いや、長門よ。そう、って言われても全くわからんぞ。
「何か心当たりは?」
うーん、ハルヒだけならまだわからんかも知れんが、俺はおかしいだろう。
それにハルヒは笑顔である。俺は…まぁ、まんざらでもなさそうだ。
 
 
4人が沈黙している間に、俺とハルヒは立ちあがり、歩き出した。
長門がそれに続き、あとの3人も続く。
俺とハルヒの後姿を見ながら考えるが、全く分からん。物理のテストのほうがまだマシという物だ。
何しろ、友達と思っているヤツの恐怖が自分だというのだ。そんな素振りなど谷口が見せたことなど未だかつて無い。
古泉ですら、真剣な表情で考えていたが、
「とりあえず、2人を消してしまい、なぜ2人なのかはそのあと考えるか、谷口氏に直接聞くことにしましょう。
 よろしいですか?」
火の球を手に、古泉は俺に確認してくる。
本物そのままの2人を消滅させるのも、少し気が引ける。
間が空いた後、答えようとすると朝比奈さんがポツリと、
「でも、2人仲良さそうですよね、消しちゃうなんて可哀相…」
朝比奈さん、優しいあなたもとても魅力的です。
 
「そうか。分かりました。そうだったのか。」
なんだ、古泉。藪から棒に。何を分かったかは知らんが、勝手に一人で納得しないでくれ。
「谷口氏の畏怖の対象ですよ。別にあなたたち二人を恐れていた訳じゃないんです。
 谷口氏の女性経歴を教えてもらってもいいですか?」
また突然だな、一体お前は何に興味を持ってるんだ?答えるのはいいが、一度その物騒な球をしまえ。
「まぁ、彼女ができても1週間続いたらいいほうだな。あいつ、ナンパばっかりしてるくせに、全くモテない。
 あいつのモテなさぶりは異常だ。」
「やはりそうでしたか、思ったとおりです。」
おい、谷口。さらりと酷いこと言われてるぞ。
「つまりこういうことですよ。」
古泉が言うことをまとめると以下のようになる。
谷口は自分のモテない原因は努力が足りないからだ、と思っていた。
そんな中、中学時代男との付き合いが1度たりとも上手くいかなかったハルヒが、
何の特徴もない俺と1年以上上手くいっていたように見えていたらしい。
そこで谷口は考えた。なぜ、何の努力しないくせに俺は上手くいくのか、と。
もしかしたらモテるか、モテないかの能力は生まれつきのものではないか。
であればこのまま一生、自分は女性との関係が上手くいかないのではないか?そう、疑い始めたらしい。
この考えの元となった俺とハルヒを見るたび、この考えが頭に浮かび、疑心暗鬼に陥ってしまう…
 
とまぁ、嘘かホントなのか分からんことを長々と延べやがった。
そんな理由でここに俺とハルヒを作り出したと?
「憶測の域は出ませんが、もしそうならこの状況を説明できますからね。」
これが真相だとしたら谷口は真性のアホだ。天然記念物ものだ。
「疑問も無くなったところで、2人を消します。よろしいですね?」
あぁ、さっさとやってくれ。いつまでも谷口のアホに付き合ってやるつもりは無い。
 
古泉は火の球を作り出し、俺たち2人に向けてジャンプサーブを放った。
「危ない!ハルヒ」
「え?」
当たるすんでのところで俺はハルヒを庇いながら飛んだ。
 
 
ここで冒頭のシーンに戻る、というわけだ。
立ち尽くす俺ら4人。谷口の想像の中の俺はあんなに運動神経抜群なのか?
俺なら確実に当たる自信がある。
「まさか避けられるとは思いませんでしたね…」
2人は周囲を確認しているが俺らには気づかないらしい。
古泉が2発目を放つ。
当たらない。ハルヒが俺を引っ張りながら倒れ、回避。
なんというか…必死に泣き叫びながら、逃げる2人を傍観するのは…あまりいい気はしないな。
 
「長門さん、すいませんがサポートをお願いします。」
「…そう」
長門が何やら呟くと2人が固まり、そして、古泉が…終わらせた。
目を背けたくなるような光景であったが、不思議と最後まで見届けてしまった。
 
なんて間抜けな顔して寝てやがるんだ、このアホは。
長門もじっと谷口を見続けている。宇宙人もびっくりの間抜け面ということなのか。
1年前の話だが、長門に「面白い人」と言わせただけのことはある。
「谷口さん、大丈夫なんですか?」
こいつに朝比奈さんの優しさを与えるのも惜しいね。
明日には学校に来るだろうが、記憶操作の必要も無いだろう。こいつにも、家族にも。
しばしの沈黙の後、古泉が
「あまりいい夢ではありませんでしたね。」
2度と見たくないね、あんなのは。
「谷口氏のアフターフォローはお願いしますよ。あなたにしか出来そうにありませんから。」
まぁ、一応の友達だし、今回は勝手に谷口の心の中を覗いたも同然だからな。
しかし、どうしろってんだ。
そもそも、谷口が俺とハルヒの仲を勝手に勘違いしているからこんなことになったんだろ?
「いまさら、貴方達の仲を否定してーー」
はいはい、後半はスルーだ。
 
 
仕方が無い、一肌脱ぐとしよう。
翌日、俺は谷口に、ハルヒと一緒にいることで受けた被害を具体的に話してやった。
市内探索で幾ら使わされたとか、部室で受けた数々の暴虐。
奴隷同然の扱いを克明に伝えてやったさ。
 
「……キョン」
「でな、この前だって俺が集合20分前だぞ、20分前に着いたのに
 『遅い!罰金』っていいやがる。信じられるか?
 しかも、朝比奈さんとペアになれたのに、ハルヒのやつが、
 『デートしてたら一生もののトラウマになる罰を与えつけるから!』なんて言いやがる。」
「……キョンよ」
「あ、そうそう。クリスマスのときなんか酷いんだぞ。受けるまでギャグを続けさせられた。
 ハルヒのやつ、俺を見ながらずっとニヤニヤしてやがったんだ。」
「……なぁ」
「その後鍋を食べたんだが、ハルヒのやつ俺ら男の何倍も食べてやがった。どこの怪物だってんだ。
 まぁ、美味かったから分からなくは無いんだがな。ちなみに作ったのはハルヒで」
「キョン!」
「あぁ、すまん。何か言ったか?」
「お前さぁ、もしかして俺に嫌がらせしてるのか?」
はて?俺は谷口の勘違いを解こうとしていただけなんだが。
古泉、やっぱり俺には無理そうだ。