メールフォルダ (53-628)

Last-modified: 2007-07-17 (火) 02:51:13

概要

作品名作者発表日保管日
メールフォルダ53-628氏07/07/1607/07/16

作品

「ういっす…て誰もいないのか」
 
なんて呟きが漏れてしまった放課後、俺はいつものように部室へと足を運ばせていた。
入室前のノックに返事がなかったから癒やしの天使は御在室でない事が分かっていたが、長門までいないと「何かあったのか」と思案せざるを得ない。
俺は掃除をしていたのでハルヒは先に部室に来ていると思ったが…団長閣下も御到着でないようだ。
古泉?知らん。昼休みに俺を呼び出し、
「後輩から恋文なるものを頂きまして…」
なんてしなくてもいい報告をした挙げ句、今頃その後輩を丁重にお断りしているであろう輩の事なんぞこれっぽっちも知らん。
 
結局この部屋には俺1人だけであり、皆の到着を静かに待つことにした。
 
「しかし暇だな…」
 
そんな言葉が自然に零れる。独り言をする時は淋しい時、なんて話もあながち間違いではなさそうだ。
 
それにしても最近独り言が増えた気がする。
俺としてはなかなか興味深い事象なのだが…ハルヒに報告したところで「ボケが始まってるんじゃないの?」等と一蹴されるのがオチだ。
 
 
ボケてるかどうかはどうでもいいが、俺は淋しさからか今はいない団長席を見つめていた。
「ふぅ…」
ネットでもするか。
 
 
 
団長席に腰をかける。団長席である事を示す赤い三角錐が妙に心地良い。
と、ここで目に入った物体があった。
「ハルヒのケータイだ…」
しかも開きっぱなし。充電中のようだが不用心にも程がある。
アイツのケータイがここにあるという事は一度来ているのだろう。
しかしケータイを開けたままにしている辺りにハルヒの性格が如実に反映されているが、さすがに開いたままは不味いだろう。
そのケータイを閉じようとしたときに信じられないものが目に飛び込んできた。
 
 
『メールフォルダ』
・その他(20)
・団員(36)
・家族(11)
・ダーリン♪(433)
 
 
団員とは勿論俺を含む…4人であろう。家族はそのまま家族であり、フォルダに振り当てられなかった者がその他だ。
 
……ダーリンって誰だ?
あのハルヒが『ダーリン♪』だぜ?『♪』ってなんだよ。はっちゃけ過ぎだろ。
括弧の数字はフォルダに入っているメールの数だろうが他のフォルダとの差が圧倒的だ。
どんだけメールしてるんだよ。団員の軽く12倍だ。
 
ダーリンだけじゃなくて少しは俺たちの考えてくれと小一時間ばかり説きたい。
…むしゃくしゃする。
なんだろうな、この気持ちは…まぁ理解しているが。
 
ヤキモチ
 
俺はハルヒにダーリン♪と呼ばれる男が許せなかった。
もちろん、ハルヒに男はいないと半ば確信していただけあってショックは大きい。
 
…駄目だな。考えてばかりじゃ苛々が募るばかりだ。
しかし、行き場をなくしたこの感情をどうする事もできない。
気付いたらハルヒにメールを送信していた。
後で内容を確認したがその時送った文面は『ダーリンがいるなんて良い身分だな』との事だった。
八つ当たりもいいとこだ。俺って最低だな。
ハルヒのケータイは受信画面へと変わり、空虚な空間にバイブレーションが鳴り響き元のメールフォルダへと移った。
 
『メールフォルダ』
・その他(19)
・団員(36)
・家族(11)
・ダーリン♪(434)
 
 
………ん?意味がわからん。団員を増やさずにダーリン♪を増やすとはどういう了見だ、この精密機械野郎。
ショックで打ちひしがれている俺への当て付けか?こんちくしょうが。
 
 
しかし…その…なんだ、希望的観測を以てして万が一、億が一ということもあろう。従って再度メールを送信した。
今度は空メールだ。
 
 
『メールフォルダ』
・その他(19)
・団員(36)
・家族(10)
・ダーリン♪(435)
 
 
………全くもって理解できない。このフォルダを信じるとすれば、だ。
俺=ダーリン♪
という図式が成り立つ。
しかし見間違いである可能性も否定できない。
そこで俺は再度メールする事と相成った。
 
『なぁハルヒ…』
『俺って団員か?』
『それとも…』
 
今度は3通だ。これで確証を得られるだろう。
 
 
 
『メールフォルダ』
・その他(18)
・団員(35)
・家族(9)
・ダーリン♪(438)
 
 
………おいおいおい。これは決定的じゃねえか。
どうやらハルヒの中ではダーリン♪らしい。どんだけぶっ飛んでるんだよ。
少々気恥ずかしい、いや、訂正だ。
…かなり嬉しい。
そんな事を考えていたら部室の前が騒がしくなってきた。
どうやら帰ってきたようだ。
 
「たっだいまぁ♪って……あっ!!」
 
ハルヒ、もとい般若と目が合った。
 
 
「あ、あああんた何してんのよ!」
 
「いや…ただのネットサーフィンだが…」
 
「ふうん…そう…じゃぁこのメールはなんなのよ!」
 
「あ!ああっ!それは!!」
 
「さいてー!さいってー!こんのアホンダラゲ!!!」
 
「スマン!見る気はなかったんだ!」
 
「本当でしょうね?ならあんたのフォルダ見せなさいよ!」
 
「!!!だ、だめだ!フォルダだけは!フォルダだけはぁ!!!」
 
 
『メールフォルダ』
・その他(16)
・団員(21)
・家族(8)
・ハニー♪(455)
 
 
「…誰よ…『ハニー♪』って…あんたはあたしの『ダーリン♪』が誰なのか知ってるでしょ?ならあたしにも知る権利はあるわよね?」
 
「いかんぞハルヒ!ああっ!ハニーだけは!ハニーだけはぁ!!」
 
 
『ハニー♪』
ハルヒ
ハルヒ
ハルヒ
ハルヒ



 
「あ、あたしぃ!?」
 
「…すまん」
 
 
…要するに俺とハルヒは同じ事をしていたのだ。
 
「な、なんであたしがハニーなのよ!誰も許可してないわよ!」
 
そんな事を言われてもだな…
 
「やってしまったものは仕方ないだろう?…反省はしてるが後悔はしていない」
 
ああ…なんて清々しい気分なんだ…
 
「開き直んなっ!」
 
しかし聞くことはこっちにもあるんだ。心してくれ。
 
「なんで俺がダーリンなんだ?俺は許可しちゃいないぜ?」
 
「それは…」
 
俺はここぞとばかりに攻める。しゅんとしたハルヒなんて珍しいしな。
 
「なあ?お前は誰から許可をもらったんだ?宇宙人か?未来人か?はたまた超能力者か?まさか神様から許可を受けたなんて言わないよな?」
 
「そ、そうよ!あたしは神様にお伺いをたてたわ!」
 
なんで神様に食いつくんだよ。一部ではお前が神様と認識されてんだぜ?まぁ…ハルヒはハルヒだがな。
 
「何よ。文句あんの?」
 
「いいえ、滅相もございません」
 
 
 
その後の話をしよう。
結局俺たちは付き合う訳ではなく、ただのダーリンとハニーの関係に落ち着いた。
その関係にはいくつかの制約も存在する。
 
一つ.浮気をしたら死刑!
一つ.登下校は一緒!勿論手は繋ぐわよ!
一つ.デートは月4回以上!
一つ.夜には電話をしなさい!
 
「やれやれ…」
 
「それから…」
 
なんだ?まだあるのか。勘弁してくれよ。
 
「…キスは毎日してよね?」
 
「…ああ……」
 
断じて言うが俺たちは付き合ってはいない。
団員も今まで通りだし、クラスメートの視線も今まで通り生暖かいものだ。
 
「きょぉん♪」
 
「なんだい?はるひ♪」
 
ああ、俺たちは何も変わってなどないさ。
 
「ん~♪」
 
「おいおいまたかよ?さっきもしただろ?」
 
「いいから早く!」
 
「ったく…ん…」
 
「ん…」
 
こうして昼休みにキスする事も大した問題ではない、と思う。
 
古泉長門みくる谷口国木田阪中他クラスメート
「バカップル乙」