メール・フレンド (12-659)

Last-modified: 2007-05-10 (木) 16:41:37

概要

作品名作者発表日保管日(初)
メール・フレンド12-659氏06/07/3106/08/19
 

お題「ハルヒに毎日電話かメール」に対する作品です。

作品

「こんばんわ。
 今日のSOS団の活動はこれといって変わったことはなかったかな。
 いつも通り見目麗しき朝比奈さんはメイド服でみんなに笑顔を振りまいてくれて、
 長門はいつも通りパイプ椅子にから一歩も動くことなく黙々と本を読んでいたし、
 いけ好かないにやけ面の古泉は俺とバックギャモン対決で10連敗して、
 ハルヒはハルヒで来年の文化祭の映画の事とかSOS団でバンドを組むとか、
 そのことで頭がいっぱいだ。
 ただ、いつものような突然の思いつきで俺に今からドラムの特訓をさせようと
 コップを並べて割り箸を持たせ
 【さあ、キョン!魂がふるえるような、熱いビートを刻ざむのよ!】
 と言い出しやがったけどな。」

 

俺はたどたどしいキー操作で携帯のメールを打ち込むと送信ボタンを押した。

 

はっきり言って、俺は携帯メールは苦手だ。どちらかといえばメールを打つより、
電話して用件を言う方が手っ取り早くてすむ。

 

だが、訳あっておれは2ヶ月前よりこうして、一日の出来事やSOS団のことを
ある人物に報告するようになっていたのだ。

 

詳しく説明をしたいのだが、行数の都合でカットさせていただく。
めんどくさいからとか力量が足りないとかそういうことではないので、勘違いしな
いでほしい。ただ、一通の間違いメールで何となくその子とメル友になってしまっ
たという感じだ。
そのメル友はカナちゃんという名前らしい。本来なら中学3年生なのだが、病弱で
ここ一年ずっと入院しているというのだ。

 

  ――♪~答えはいつも私の胸に~♪――

 

おっと、もうメールが帰ってきたようだ。
こういう事は女の子の方が得意なのかもしれないな。
ちなみにメールの着信音には深い意味はない。

 

『キョンさんいつもありがとう。SOS団て、いつ聞いても本当に楽しそうでとても
 うらやましいです。私も北高に入れたらSOS団に入ってみたい。』

 

あーなんだ、何でこの子はいつもありのままSOS団のリアルな内情――摩訶不思議
な体験は除く――を知っているのに、なぜこういう反応が出来るんだ?

 

「いつも言っているけど、SOS団入団なんてやめた方がいい。
 俺なんて毎日命が縮む思いをしているんだ。
 せっかく元気になって高校に入れたのにSOS団のせいでまた病院に逆戻りなんて
 事になったら俺が困る。」

 

『あははは。キョンさんっていつもおもしろいですね。
 私、キョンさんとSOS団の皆さんに会えたら、思い残すことはないですよ。』

 

答えに困るような返事をくれるよなこの子はいつも……

 

「まあなんだ、よく考えたら別にSOS団に入団しなくても俺はいつでも会いに行け
 るけどな。事情を話したらみんなも一緒に会ってくれるはずだ。
 そうだ、今週末にでも、みんなでお見舞いに行こう!」

 

『本当に?皆さんに迷惑になるんじゃ?』

 

「迷惑だとかそんなこと誰も思わないだろうさ。」

 

なぜかしばらく間があった。何だ?悩んでいるのだろうか?
いきなり押しかけるのはやっぱりまずかったか。しかも、病院に似つかわしくない
騒がしいやつの存在を思い出して、やっぱまずかったかと後悔し始めたとき、
返事が返ってきた。

 

『やっぱり私SOS団の皆さんに会ってみたい。わがまま言ってすみません。
 よろしくお願いします。あ、そろそろ消灯時間。
 じゃぁ。また。おやすみなさいキョンさん』

 

「OK。俺に任せておけ。自称心優しく団長に言えば必ずみんな来てくれるさ
 じゃあ、また。」

 

『おやすみ。キョン……』

 

「おやすみ。今週末には必ず会いに行くから。おやすみカナちゃん。」

 

さて、そろそろ風呂にでも――そう思ったとき突然携帯電話が鳴り始めた。
メールではなくて今度は電話だ。相手はハルヒだった。
ちょうどよかった。早速ハルヒに今週末のことを――

 

『――このバカキョン!!!だれよカナちゃんて!!!
 今週末に必ず会いに行くっていったいどういう事!!!
 不純異性交遊は団規違反よ!!今すぐその根性をたたき直しに言ってあげるから
 待ってなさい!!!!』

 

ハルヒは喚くだけ喚くと電話を一方的に切った。
まさか……最後の『おやすみ。キョン……』はハルヒからのメールだったのか……?

 

相手をみないで返信しちまった……迂闊だ……
こちらから電話する手間が省けたのかややこしくなったのか……やれやれまったく。

 

さて、しばらくして俺は酸素欠乏症にかかる前にハルヒに今までの状況をすべて、
説明し、新たな罰ゲームの実行を約束をしてようやく解放されたのだった。
そのあとカナちゃんが入団希望という話を聞いて

 

「ちゃんとわかる人には判るのよ!SOS団の良さが!
 来年は入団希望者入れ食いでウハウハよ!!」

 

と上機嫌になり週末のお見舞いの話も当然のごとく
「全員強制出席させるわよ!今すぐみんなに電話して!」という感じだった。

 
 

さて、日曜日、市内の国立病院に出向いたSOS団以下団長以下5名は、病院に似つ
かわしくない上機嫌のハルヒに引き連れられてカナちゃんの病室に向かった。
部屋番号と名前を確認し俺はドアをノックする。

 

「は~い、どうぞ」

 

情けない話だが、この時初めて俺はカナちゃんの声を聞いた。そういえば一度も電話
したことがなかったっけ。
カナちゃんは朝比奈さんのような清楚な可憐な感じの声だが覇気が全く感じられない
弱々しい声だった。

 

ドアを開けると色白で茶色味がかった大きな目をしたかわいらしい女の子がベッドの
上で上半身を起こし不安そうにこちらをみていた。どうやら個室に、彼女一人だけし
かいないみたいだ。彼女は俺の姿を確認すると、その不安そうな瞳は突如としてきら
びやかな大輪の花が咲いたような輝きを見せた。

 

「やっほー!あなたがカナちゃんね!SOS団全団員勢揃いで来てあげたわよ!」

 

俺が挨拶をする前に、ハルヒはズカズカと病室に入り込み、カナちゃんの両手をと
ってブンブンと両手で握手をした。
俺は後ろから苦笑いしながら、中に入る。

 

「メール以外では初めましてだったっけ。おれが――」

 

と俺が本名で名乗ろうとしているところを、ハルヒが遮った。

 

「そ、あれがあなたのメール相手のしがない一団員のキョンね。
 それから、ちょっとちっちゃいけど一番年上のみくるちゃん。」

 

「あ、はじめまして朝比奈みくるです。」

 

「そこにいるショートカットの制服の子が有希ね。」

 

「…………」

 

「そんで、一番後ろにいる長身の男の子が副団長の古泉君!」

 

「どうもはじめまして。」

 

「あーそうだ、肝心のあたしの紹介してなかったわ!
 あたしが、絶対にして無二の存在SOS団団長の涼宮ハルヒよ!よろしくね!」

 

カナちゃんはあっけにとられたようにキョトンとした目で俺たちを代わる代わる見
ていたが、そのうち方を振るわせうつむくと、唐突にカナリアが鳴くように笑い始
めたのだった。

 

「ご、ごめんなさい。い、いきなり笑っちゃったりなんかして。
 キョンさんが説明したとおりの人たちで、とても……あははは。」

 

「キョン!あんたねぇいったいどういう説明してたの?」

 

ハルヒは例のアヒルくちを見せてふくれっ面になったって俺をにらんだ。
俺は有りの侭しかカナちゃんには教えていない。
ま、ある意味万年チンドン屋の俺たちSOS団をみればこういう反応を見せるのは
当然だろうなぁ。

 
 

「本当に、最初からいきなり笑っちゃってすごく失礼だと思うんですけど、
 でも本当にキョンさんの言うとおりのすてきな人たちだなって。」

 

「あったり前じゃない!だってすてきなあたしのSOS団なのよ!
 団員のみんなもとてもすてきなのよ!」

 

なんだよその理屈は、と思ったがまあ、つっこまないことにした。
カナちゃんの大輪のひまわりのような笑顔に免じてな。

 

そのあと、ハルヒの独壇場でハルヒの武勇伝を延々とカナちゃんにしゃべり続けて
いた。俺たちは、合いの手を入れたりつっこみを入れたり、朝比奈さんが持ってき
たポットでお茶を配ったり、長門がいつも通り読書を始めたりと、まるで、部室が
ここそのまま移動してきたような錯覚を俺自身が起こしたくらいだった。

 

ハルヒとカナちゃんはすっかりうち解け、まるで仲のいい姉妹のようだなと思った
ときハルヒがこう言い出した。

 

「あたしカナちゃんのこと気に入ったわ。
 来年、北高に来たら、絶対にSOS団に入団しなさい!
 本来なら入団試験を進入団員に受けさせるところをあなたは特別に入団試験なしで
 SOS団に入団させてあげるわ!」

 

そのとき、一瞬カナちゃんの笑顔が曇った気がした。でもすぐに笑顔を取り戻すと

 

「本当ですか?私絶対北高に入学します!……絶対に!」

 

今までみせた最高の笑顔だったに違いない、その笑顔をみたハルヒはカナちゃんに
抱きつくようにして、頭をなでた。

 

「あーもうかわいいい!こんな妹ほしかったのよー!
 やっぱり今すぐ入団しなさい!
 北高に来なくても永遠にあなたはもう、SOS団員よ!」

 

と言って、ハルヒとまた両手でブンブンと握手し始めた。
そのあと彼女は、SOS団団員としての抱負を語らされたり、来年の映画の配役を
何にしようとか、そういう他愛のない、いつものSOS団の会話が続いたのだった。

 

「さて、そろそろ帰りましょうか。あまり長居してもカナちゃんの体に毒だろうし。」

 

「いやもう十分毒な気がするぞ。いろんな意味で。みろ、ハルヒをみるカナちゃんの
 キラキラした目を。変な影響を受けなきゃいいな。宇宙人とか未来人とか超能力者
 しか用がないと言い始めたら俺はいったいどうすりゃいいんだ?」

 

「なによ!どこがそれの悪い影響なの?」

 

ハルヒは俺に悪態をつきながらも、じゃあまたと言い、俺たちも病室をあとにしよう
としたとき、

 

「あ、あのキョンさん?ちょっとだけ二人で話があるんです。」

 

と言いだした。ハルヒは俺の方を振り返ると、じゃあ病院の外で待ってるわといって
カナちゃんにじゃあまたね!ととびきりの笑顔で笑ってみんなを引きつてれ出て行った。

 
 

「あ、あのキョンさんにお願いがあるんです。」

 

「なんだい?」

 

「あのね。あたしとやり取りしたメール。ずっととっておいてもらえます?」

 

あ、ああいいけど?それに女の子と延々とメールのやり取りをすると言うことが、
この先なさそうだからな。メモリーカードにバックアップして家宝にしてとって
おくよ。絶対にな。

 

「それと……もう少し素直になってくださいね」

 

そういうと、ハルヒと話をしていたときの煌びやかで、でもどことなくはかなげな
笑顔を俺に見せた。
なんていうか、俺は素直なつもりなんだけどな。だから、今こうやって涙が止まら
ないんだよ。最後まで、笑っていようって思っていたんだけどな。

 

俺たちが病院から離れて、みんなと別れたしばらく歩いたあと
俺は彼女からメールをもらった。俺は公園のベンチに座るとメールを開いた。

 

『キョンさんとハルヒさん、長門さん、朝比奈さん、古泉さん。
 今日は本当にありがとうございました。お父さんとお母さんに無理言って、
 個室に移動してもらった甲斐がありしました。本当は、もう、普通に座る
 ことも出来ないって言われてたけど、皆さんと会えると聞いて、神様が
 ちょっぴり元気をくれたのかな?これで思い残すことはありません。
 黙っていたけど、やっぱり気づいていたんですね。
 あたしはたぶんもう明日にはこの世にはいないけど、
 あたしもずっとSOS団の団員ですよね?

 

 それじゃ、さよなら……本当にありがとう……』

 

俺は涙が止まらなかった……
最初から判っていたんだが……本当にどうすることも出来なかったのか?
宇宙人とか未来人とか超能力者が口をそろえてもうどうしようもないと言ったけど
本当にどうしようもなかったのか……
一ヶ月前に、いやもっと早くかに間違いメールを出していれば……

 

気がつけば、ハルヒが隣にいた。
そして優しくだき抱えるように俺を抱きしめてくれた。
俺は子供のように、ハルヒの腕の中でしばらく泣き続けたのだった。

 
 

数日後、カナちゃんの葬儀はしめやかに行われ、俺は普段通りの生活に戻りかけて
いた。ただ、毎晩のメールのやり取りがそんなに重要なことだったとは、俺も思い
もよらなかったんだけどな。何かぽっかり穴の開いたようなそんな感じだった。

 

いつものような朝、俺は何となくハルヒにきいてみた。

 

「なあ、魂てのは本当にあると思うか?」

 

「あたしが知るわけないわ。
 でもね宇宙人や未来人や超能力者がいるっていう人が昔いたのよ。
 その人ならたぶん魂もあるって言うんじゃないかしら。
 魂があったら、輪廻転生とかもありそうよね。
 だからきっと彼女も今頃どこかで生まれ変わってるとおもうわ。」

 

ああ、そうだろうな。俺もきっとそう思う。

 

「ったく、いつまで湿っぽい顔してんの!
 まさか、毎晩メールが来てたのに来なくなったから寂しいとか思ってたりしない
 わよね?」

 

ばかやろー図星だ。俺は、憂鬱げに窓の外を眺めた。

 

「あ!!そうだ!忘れてたわ!
 あんたに罰ゲーム新しく追加するって言ってたわよね。
 この前の公園のベンチの件もプラスアルファーしてと……」

 

ハルヒはあのときのカナちゃんの笑顔にも泣けないくらいの煌びやかな笑顔で

 

「いいキョン? 罰としてこれから毎日一日一回私に電話やメールをすること!
守らなかったら許さないんだからね!」