リレー「ハルヒ姉さん」 (92-365)

Last-modified: 2008-06-25 (水) 01:15:50

概要

作品名作者発表日保管日
リレー系作品「ハルヒ姉さん」92-365氏、368氏、401氏、408氏、409氏、415氏、413氏、444氏、456氏、450(365)氏08/06/2408/06/25

 
※分かりやすいように一部順番を入れ替えております

発端 (365氏)

「ロリ巨乳キャラでしょ? 無口読書キャラでしょ? 爽やかイケメンキャラでしょ?」
「何の話だいきなり」
「幅広いニーズに応えるには、もっと色々な属性持ちが必要だと思わない?」
「ニーズって、どこの誰がSOS団に何を求めてるんだ」
「みくるちゃんも有希もどっちもロリ寄りでしょ? 年上キャラよ! 先輩キャラよ! 姉属性が居ないのよ!」
「朝比奈さんと鶴屋さんの立場はどうなるんだ」
「みくるちゃんはロリ! 鶴屋さんねぇ、うーん。確かに付き合ってるぶんには良い先輩だと思うけど、友達のイメージが強くて先輩としては弱いと思うのよ。
 もっとこう、いかにも先輩風吹かした先輩みたいなさあ! オトナのオンナなさあ! いわゆる『お姉ちゃん』なさあ! わかるでしょ!?」
「まー、言わんとすることはわからないでもないが、そんな先輩が出て来たらお前の団長としての立場が危ぶまれることになるぞ」
「むっ……そっかぁ……じゃあ決めた! あたしが姉になる!」
「姉っておい、誰の?」
「アンタの!」
「………………え?」
 
↓わっふるわっふる

 

368
「ただいま……」
「キョンくんおかえりー! あれー? ハルにゃん? いらっしゃーい!」
 どうしようもなく無気力に帰宅した俺を迎えた妹は、不思議そうな顔をして隣に立つハルヒを眺めたが、すぐに持ち前の深く考えないという羨ましい能力を発揮して嬉しそうにまとわりついた。
「どうしたのー? あそびにきたの?」
 妹の至極まともな意見を肯定してくれればどれだけありがたいことかと思った俺の願いをあっさり否定するのはもちろんハルヒである。
「違うわよ! 今日からあたしはキョンの姉なの! 姉なんだから一緒に住むのが当然でしょ!」
「待て、正気か? お前の家はどうするんだ、だいたい俺の親だって許可するわけないだろ!」
 学校でも散々こんな会話をしたにも関わらずまたここで再現しちまったが、仕方ないだろ? どう考えたっておかしい。何故ハルヒが突然俺の姉として我が家に転がり込むんだ?
「ハルにゃんがキョンくんのおねえちゃん?」
 妹は再び不思議そうな表情が顔をよぎったかと思うとパッと笑顔に変えた。
「じゃ、今日からハルにゃんはあたしのお姉ちゃんでもあるんだ! やったー!」
 やったーって。何故そこで喜ぶんだ、兄だけじゃ不満だというのか妹よ。
 
 じゃれ合っている妹とハルヒを見て、取りあえず遊びに来ている分には問題ないかと無理矢理自分を納得させてみるが、しかしこれからどうしようかね。
 
↓わっふるわっふる

 

401
 ……まったくうちの両親はどうかしている。
 玄関先でのハルヒと妹の会話を聞いた母親は
「あら、いいじゃない。お父さんは子供は二人で充分だって言ってたけど、お母さん実はもうひとり女の子が欲しかったのよねー。それがハルヒちゃんなら大歓迎よ」
 と言い出し、親父に至っては
「こんな花も恥じらうお年頃のべっぴんさんがうちの子になりたいとはな。こりゃあ華やかでいいな」
 とまで言い出した。
 当然それを聞いたハルヒは調子に乗り、暫くうちに居候することになってしまった。
 ハルヒの親御さん? 放任主義なんだそうだ。いや、意味間違ってるだろそれ。放任じゃなくて放し飼いとしか思えない。
 
 そんなわけで、ハルヒと俺の家族との奇妙な同居生活が始まったのである。
 
 
 
 眠くなってきたので続きは誰か書いてw
 
 わっふるあっふる

 

410
 正気を疑いたくなる様な家族の反応に溜め息を吐きながら部屋に戻ると、そこには既にハルヒが陣取っていた。おいおい、俺のプライバシーはどちらにお出かけされたんですか?
「姉が弟の部屋に入るのにいちいち許可なんか取るわけないでしょ?」
 いや俺は妹の部屋に入るときはノックするぞ。妹はしたことないけどな。
「ふん。一応ノックはしたわよ。部屋の中で怪しげなコトとかされてたら困るしね。でも返事がなかったから勝手に入っただけよ」
 方法論としては正しいような気がしないでもないことを言っているが、結論としては不法侵入をされただけである。
 で、なんか用か? 俺はさっさと部屋着に着替えてダラダラしたいんだがな。
「あそ、好きにすれば? あたしはあたしで好きにさせてもらうし。さてと……」
 そう言うとハルヒは本棚を物色しはじめた。
 あんま勝手にいじるなよー……って、そうじゃないだろハルヒ。あんまりにも自然だったから流しちまったが、俺は着替えたいんだ。
「だから好きにすれば?」
 あのな。俺は着替えるっつったんだぞ? ブレザーを脱いで、ネクタイを外して、ズボンを脱いで、それらをハンガーにかけてからワイシャツを脱ぐ。
 それから靴下を脱いで部屋着に着替えて、靴下は風呂場の洗濯機に放り込む。これが俺の日常スタイルなんだ。いいか? よく考えてくれよ?
 その工程で俺は半裸になるわけだ。一般的に言えばパンツ一丁、略せばパンイチ、ブランド化するならP-1(ピーワン)だぜ?
 その間お前がここに居続けるってことは、その姿をお前の眼前に晒すってことなんだ。わかってんのか? 追加して説明するならば、俺には露出狂の気はないんだ。
 さ、わかったら部屋を出てくれ。その後でなら本を貸すことも吝かではないからな。
「だからー。好きにすればっつってるでしょ!」
 人の話を聞かないヤツだな。そんなに俺の半裸を見たいのか?
「ばーか。そんなもん見ても嬉しくもなんともないわよ。興味もないわ。あたしは今あんたの姉なの。おねーさんなのよ? 姉が弟の半裸姿見たってどうってことないでしょ?」
 どういう理屈だ。まーいいか。別に見られて減るもんじゃないしな。それにいつぞや島に合宿に行ったときには海パン一丁だったわけだし、そう変わるもんでもないか。
 やれやれと呟きながら、俺はカバンを放り出すとブレザーを脱ぎ、ネクタイを緩めた。ついでにベルトも外して、ズボンのホックに手を――。
 あのー……?
「……あ、へ?」
 へ? じゃねーよ。凝視されてると着替えにくいんだが。
「だ、誰が凝視してんのよ! バカキョン!」
 お前だお前。
「あ、あんたの着替えなんか興味ないっつってるでしょ!」
 いや、その、なんだな。ネクタイを緩めた辺りから、激しく視線を感じているんだが。
「きっ……気のせいよ! あんたって自意識過剰なのよ!」
 酷い言われ様だな。まぁ見てないっていうんなら、そうなんだろうさ。
 俺はハルヒの態度及び言動にちょっとした悪戯心を刺激されて、ネクタイを大きく緩めてだらしなくぶら下げると、ワイシャツのボタンをゆっくり外し始めた。
 一つ、二つ……やっぱ見てるじゃねーか。まぁ予想通りだけどな。
 気づかないフリをしながら続ける。三つ……思わずわざとらしい鼻歌まで出ちまうね。当たり前に恥ずかしい気持ちもあるが、ハルヒをからかってやりたい気持ちの方が今はでかい。
 赤面しそうな自分やら、笑い出しそうな自分を抑えて――イメージはいつぞやバラエティ番組で見た男性ストリップだ。そして四つ。ワイシャツの胸元は大きくはだけられる。我ながらなにやってんだかね。
 だが、作戦は成功のようだ。痛いくらいに視線を感じる。こんなもん見て何が楽しいんだかな。
――ごくり。
……喉を鳴らして唾飲み込むほどのもんなのかね。おっといかん、笑うな笑うな。
 俺は込み上げてくる笑いを噛み殺しつつワイシャツの裾の下に手を伸ばし、ズボンのホックを外そうとして……思い出したように手を止めるとベッドに座り込んだ。

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【参照】
movic_kyontelcL.jpg

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んで、わっふるわっふる。続きヨロシクw

 

418
 ニヤニヤしそうになる表情筋を叱咤激励してあえて真顔を保ったまま、正面からハルヒの視線を捉える。
「う……あ……?」
 ハルヒは可能な限り血液を顔に集めましたと言うほど赤い顔をして、口を半ば開いたまま俺を見つめていた。誰が見てないって? とツッコミを入れたくなる気持ちを抑えて俺も黙って見つめ返す。
 絡まる視線。正直少し恥ずかしいが、目をそらしたら台無しになる。
「キョン……」
 放心したように俺のマヌケなあだ名を呟き、ハルヒはふらふらと俺の方に近づいてきた。おい、どうした、大丈夫か? なんて思っている間にハルヒとの距離はどんどん短くなって行く。
 目の前に来たハルヒは俺の頬にそっと手を触れる。顔が近い、と思っているのに何故か金縛りにでもあったように動くことも出来ない。
 そのままハルヒはゆっくりと俺に顔を近付けた。
 後10cm。吐息が顔にかかる。
 後5cm。ハルヒは目を閉じていた。俺も目を閉じて――――
 
 
「キョンくーん! ハルにゃーん! ご飯だってー! ……あれえ? 2人とも何してんの?」
「ななななんでもないわよ妹ちゃん!」
 ハルヒの運動神経が良くて助かった。ドアが開いた瞬間にバネ仕掛けのように俺から離れて距離を取ったからきっと妹は気がついていないに違いない。
「2人とも、お顔まっかっかー」
 不覚にも、ハルヒだけでなく俺も顔に血液を集中させてしまっていたのは誤魔化せなかったらしい。気にするな、なんでもない。
「とにかく俺は着替えたら降りるから、ハルヒは先に行ってろ」
「そ、そうね、そうするわ」
 今度は素直に、そそくさと妹を伴って部屋を去ってくれた。やれやれ、ようやく落ち着いて着替えられるってもんだ。
 しかし……さっきもし妹が乱入してこなかったら……?
「おい、お前は俺の『姉』なんだろ?」
 いなくなった自称「姉」に空しくツッコミを入れることで誤魔化しておこう。顔の火照りが治まるまでは階下に行くことはできないな、こりゃ。
 
 
 食事の後、ハルヒは「荷物を取りに行くわよ!」と俺を運転手に自転車で自宅に向かった。このまま帰れと言っても無駄なことは百も千も承知だが、やっぱり帰る気はないのか?
 なんて諦め半分なのが悪かった。
 
 いきなり他人が自分の家に転がり込んでくるということは、様々な課題をクリアしなければならない。お互いの生活環境が違えば、家の中での暗黙のルールみたいな物も違うだろう。
 もちろんそんな課題など物ともせずに突っ走るのが涼宮ハルヒの涼宮ハルヒたる由縁である。
 
 って、だからといってその解決法はねえだろ、おい!

 

408
ここに一つの疑問がある。疑問、いや課題と言うべきか。
「今日はもう遅いし、もう寝ましょ」
そう言ってハルヒは俺のベッドにもぞもぞと潜り込んだ。っておい何やってんだ!
「何よ、床に寝ろっての?」
──そう、ハルヒの部屋が無いのだ。当たり前だが俺の家に余分な部屋なんてあろうハズが無いわけで……。

 

409
「妹の部屋に行けよ」
 
「あ、そうね」

 

415
てなわけでハルヒが妹の部屋へと行ってようやく俺は一人きりになれた。
ベッドに腰掛けると今日の疲れがどっと押し寄せて上半身だけ大の字に倒したくなる。
やれやれ、あいつと姉弟ごっことはねぇ、ハルヒが飽きるまで
明日も明後日もずっとこの状態って訳か。考えるだけで冬でもないのに薄ら寒くなってくる。
妹がよくても俺は全くよろしくないのだ、そうでなくともあいつには我が家に干渉されまくってるというのに。
こんなお芝居、早めにハルヒに飽きが来る事を祈るしか出来ないのが無力な小市民たる俺の哀しき性、笑っておくれよ。
とまあひとしきり頭でぼやいた所で下半身も移動させて寝ようと試みたが、
ふと脳の隅っこで歯茎に挟まった食べカスの如く引っ掛かった事柄が浮かんで来た。
今日の数学の宿題、まだ指先すら触ってなかった。
しかも締切は岡部教諭いわく明日の朝一だと来た。こいつはまずいぜ、ハルヒに付き合わされてたお陰でどうやら今まですっかり忘れてら。
案の定開いたノートは一面見渡す限りの雪原さながら真っ白である、どうするよ、これ?
 
よかったら続きよろしく

 

432
 思案すること数十秒。
 俺はベッドから起き上がると膝を叩いた。なーんだ、我が家には現在頼もしき姉君がいらっしゃるではないか。
 晩飯前は俺が変な悪戯心を出したせいで、危うくアレがナニな空気になりかけたが、晩飯と荷物取りに行く間にはそこそこ普通に戻ってたしな。
 追い出して早々で恐縮だが、ここは『ハルヒ姉さん』にご助力いただいて、ぱぱっと片付けちまおう。
 俺は我ながらナイスアイデアだと思いながら開いたノートとテキスト、筆記用具一式を携えて部屋を出ようとした。
――がちゃり。
「ぅあっ?!」
 おわっ?!
 素っ頓狂な声を上げてしまったのは俺自身、そして同じくして声を上げたのはビックリ顔のハルヒだった。
 えーと『お姉さん』。いつの間にかすっかりパジャマ姿ですが、俺の部屋の前でなにしてやがるんでしょうか? 足音どころか気配すらしませんでしたけど。
「え、と、その……い、妹ちゃんがもう寝てたのよ! 起こしちゃ悪いと思ったから!」
……で?
「あの、その、だから……もう洗面所でパジャマに着替えちゃったし! こっそりあんたの部屋で寝ようかなーって!」
……よっぽど動転しているのか、洗いざらい喋ってしまっているハルヒである。
 まーいいか。っつっても、俺の部屋で寝ることが、じゃないぞ。俺もお前に用事があったんだよ。丁度いいや、まぁ入ってくれ。
 まだパニック状態のままの顔をなんとか訝しがるような表情に変形させつつあるハルヒを部屋に招き入れる。
 さてと……。座卓に差し向かいに座り込む俺とハルヒ。
「……で? なに?」
 ハルヒ、いや『ハルヒ姉さん』。ちょっと頼みがあるんだ、聞いてくれ。
「な、なによ? 改まっちゃって。お小遣いならあげないわよ? 戸棚のクッキー食べたのあんたでしょ!」
 思わぬタイミングで『姉さん』と呼ばれたことで、余計にパニックになっているようだ。
 お前はどこの世田谷在住なうっかり主婦兼姉だ。ウチのシャミセンはちゃんと躾けてあるからお魚咥えて逃げたりしないぞ。裸足で駆け出すなよ? 財布も忘れるな。
 それはともかく、だ……スマン! 数学の宿題全然手ぇつけてないんだ! 手伝ってくれ!
 パチンと音がするくらいの勢いで手を合わせて拝んでみる。
「はぁ?!……え?……あ、あたしもやってない!」
 数瞬の忘我の後で事態を把握したのか慌て出すハルヒ。まぁ帰宅してからずっと一緒だったわけだしな。俺がやっていない以上、こいつもやってないわけだ。
「えーと、どこからどこだっけ? ちょっとキョン。教科書借りるわよ?」
 俺の手からテキストをひったくって出題範囲をチェックするハルヒ。
「あー、えーと……よし、大丈夫! これなら一時間もあれば終わるわ!」
 助かったー。心底安堵の溜め息を吐く俺。枕元のデジタル目覚ましの表示は23:30。普段なら既に寝ている時間だが、ほんの少し夜更かしする程度で済むな!
「は? なにいってんの?」
 なに、とは?
「あんたは自分でやるのよ? あたしは一時間もあればちゃっちゃと終わるけどね。写させる気なんて全然ないんだから」
 えええっ?! そりゃないよ『姉さん』!!
 思わず世田谷在住な丸刈り半ズボンの弟のように慌ててしまう俺である。
「だーめ! あんたはあんたでちゃんとやりなさい!……まぁ、どーしてもわかんないところがあったら教えてあげるけどね」
 そう言うと自分の荷物から宿題セットを取り出すべく部屋を出てしまったハルヒである。
 今更だがハルヒは頭はいい方だ。そのハルヒで一時間かかる宿題。さて、俺のこの平均をやや下回る頭脳ではどのくらいかかるんだろうね?
 俺は座卓に突っ伏すと、もう一度タタキにすると美味しい魚の名を持つ弟の口調でボヤいた。
 ひどいや『姉さん』……。

 

437
 かっきり一時間後――。
 ハルヒは手早く座卓の上に広げていた自分のテキストとノートを片付けると、洗面所に手を洗いにいってしまった。つまり一足お先にゴールってこった。
 俺はといえば……ま、半分くらいってとこかね。どうにもこうにも数学ってやつは相変わらず好きになれんね。といっても他の科目も好きなわけじゃないんだがさ。
「さーてと。そんじゃあたしは、お先に寝るわよー」
 実に非情な事を言う『姉さん』である。って! 待て待て! それは俺のベッドだっつってんだろ! お前に先にそこに寝られたら俺はどこで寝りゃいいんだよ!
「しーらなーい」
 語尾に四分音符がつきそうな語調で言うハルヒである。俺の布団にそそくさと潜り込んでごろごろしている。枕は頭の下に敷くもんであって抱え込むもんじゃないぞ?
「いーからちゃっちゃと片付けちゃいなさいよー電気ついてたら眠りにくいでしょー」
 へいへい……。
 再び数字と取っ組み合いを始める。
「んー……ぷふー……キョンの匂いだぁ」
 ぶふっ! なに言ってやがるんですかいな!
「うっさーい! こっち見てないでさっさとやりなさいって言ってんでしょ! 明日のおやつ抜きにするわよー」
 ううっ。横暴だ。別にこの歳になっておやつが欲しいというわけじゃないんだが、背後でもふもふ言ってるハルヒが気になって仕方がない。数式のxとyが染色体に見えちまうじゃないか。……ナニ言ってんだ俺は?
 
 結局その一時間後、ようやく俺も出題範囲を全て終えることが出来た。まぁ四分の一はハルヒの手助けあってのことだったんだけどな。なんだかんだ言って優しいヤツではある。いや、早く寝たかっただけか?
 それにしてもうつぶせのまま上半身だけベッドから出して、人の肩にアゴをのっけてくるのはどうかと思うぞ。弟に対してそんな風にベタベタする姉なんて、谷口の蔵書でしか見たことがないぜ?
「とにもかくにも終わったぜ……やれやれ」
 ノートと教科書なんかを通学バックにしまい込んで、俺は肩と腰を拳で叩いてから大きく伸びをした。時計は既に午前2時に近づいていた。
 やれやれ、週末でもないってのにとんだ宵っ張りだな。
 俺は起床時間までの残り時間を計算して、明日の授業の五割以上が安眠タイムにすることを自分会議で議決した。
「んー終わったんなら早く寝なさいよー。電気消してー」
 布団に戻り直したハルヒがステレオタイプ過ぎるほどのムニャムニャ声で言う。
 まぁその、なんだ。早く寝たいのは山々なんだがな。何度も言うが、ここは俺の部屋で、それは俺のベッドなんだぞ?
「うっさいわねーあんた姉をこの温まったベッドから追い出すつもりー?」
 ハルヒは既に50%はオチている状態らしい。
 さてどうしたもんかね……。まぁ仕方ないな。コート引っ張り出してそれを掛け布団にすりゃ、床で寝ても風邪引くこともねーだろ。
 年頃の男女が同じ部屋に寝るってのは微妙だが、今更両親や妹を起こすのも偲びないしな……。

 

413
「やれやれ。じゃあ俺は床で寝るからせめて枕だけは渡してくれ」
年頃の男女が一緒のベッドで寝るなんて…俺にはまだ無理だ。
「キョン!床だと体痛くなるからあんたもベッドに入りなさいよ。ほら」
そう言ってハルヒは毛布をひらひらして俺を手招いている。
うーん。正直たまりません。
「あたし達姉弟なんだし別に一緒に寝たっていいじゃない。妹ちゃんだってたまにあんたと寝てるって言ってたし」
本当の兄妹ならいい。それにあいつはまだ小学生だ。だがハルヒと一緒に寝るといろいろ困るんだよ。
朝の生理現象を見られるたりしたら死ぬほど恥ずかしい。それに気になって気になっておそらく寝れん。
「ぶつぶつ言ってないで早く来る!」
そういってハルヒは俺の腕を引っ張って強引に布団へ押し入れた。
隣にいるハルヒの香りが俺の嗅覚を刺激する。あーいかん。このままでは禁則事項になってしまう
あやうく俺が幻想の世界へと旅立とうとする寸前、
「ねえ、キョン。あたしね一人っ子だからずっと姉弟が欲しかったのね。あんたや妹ちゃんが楽しそうでいつも羨ましく思ってた。」
と急にまじめな口調で語りだした。
「妹ちゃんはあんたを頼ってくれてる。あたしも弟や妹に頼られてみたかった。だから、あたしはあんたのお姉ちゃんになろうと思ったのよ。」
そうか。やはり一人っ子って寂しいものなんだな。ただあんな騒がしい妹がいるとたまには一人っ子が羨ましくなるもんだぞ。
「あんた…妹ちゃんが悲しむようなこと言わないの」
「いや、だからごく希に思うだけだ。本当に妹がいなくなったりしたらそれこそ血眼になって必死で探すさ」
そう…ハルヒがいなくなってしまったあの12月の時のように
「あんたからそこまで思われてるなんて妹ちゃんは幸せね…あたしも本当にあんたのお姉ちゃんだったらよかったかも…」
なんか妙にしんみりとしてしまった。
「ただハルヒが本当に姉だったりしたらたまらん。それに…」
「それになによ!はっきり言いなさいよ!ふさぎ込んでると精神に毒よ!」
はあ…まったくこいつは。俺はハルヒの目をしっかりと見つめて、
「ハルヒ。お前が俺の姉ちゃんだったらお前と、け、けk」
「け?何よ!はっきり言いなさい!」
「結婚できないだろ!!!」
そう言うとハルヒの顔は夕日に染まったように真っ赤なった。言うまでもないが、俺もたぶん真っ赤だ。
うろたえるハルヒを抱き寄せると
 
 
 
 
わっふるわっふる

 

444
 うろたえるハルヒを抱き寄せると、その滑らかな髪に顔を埋めた。シャンプーの匂いが俺と同じなのが妙にくすぐったい。
「……本気で言ってるの?」
 俺の胸に顔を埋めているせいもあるだろうが、夜中の静寂でなければ聞き漏らしそうな声でハルヒが呟いた。確かにこんなこといきなり言われても戸惑うだけだろう。
しかし正直言って、ハルヒが俺の姉になるなんて言い出したときから少し面白くない気持ちを持っていたことは事実なんだ。
どうせ一時の暇つぶし、そのうち飽きるだろうとは思っていても、ハルヒと姉弟になりたいか? と聞かれりゃ答えはNOだ。理由はたった今言ったとおり。
「本気だし、ついでに言うなら正気だ」
「……」
 ハルヒは何も言わない代わりに抵抗もせず、俺の腕の中で大人しく三点リーダを発するだけであった。俺の言葉をどう思ったのか、少し不安になる。
この状況による理性の崩壊と勢いだけで告白どころか一気に「結婚」まで言い出してしまったわけで、返事をしろと言われても困るだけかもしれない。
 うわ、もしかして俺やっちまった? 明日からハルヒは普通に接してくれないかもしれない。
「なあハルヒ」
「……」
 不安にかられて声をかけても返事はない。ああ畜生、だから一緒の布団なんて無理だと言ったんだ。これで明日から避けられたりしたら俺は今日の俺を一生恨んでやる。
 さすがに本気でマズイかと思い、腕を放して顔を覗き込んでみた。
「……すぅ」
 おーい、ハルヒさん? いや、ハルヒ姉さんと言うべきか?
 お前は俺の一世一代の大告白を前にしてあっさり寝ちまったってわけですね。なんだよ言った直後はあんなにうろたえていたくせに睡魔には勝てないってわけですかそうですか。
 身体の力が抜けるとともに、俺にも強烈な睡魔が襲ってきた。もうこうなったら俺も寝るしか選択肢は残されていない。とっとと寝ることにしよう。後のことは明日(いや、厳密には今日だが)考えるさ、tomorrow is another dayってことだ。英語は宿題なかったよな…………。
 
 ヤケに抱き心地のいい抱き枕のおかげで、朝妹が起こしに来るまでそのまま寝てしまったのは一生の不覚と言ってもいいだろう。

 

456
ヒヨコのけたたましい鳴き声と目覚まし代わりの妹のボディプレスが俺と横の自称姉貴ことハルヒを強襲し、
意識を覚醒せざるを得なく無くなった翌朝。
にも拘らずハルヒは寝息を立てて意識は未だあっちの世界に留まっていた。素晴らしい神経である種羨ましくなる。
そんなハルヒを目覚めさせるのもサファリーパークで熟睡中のライオンかはたまた虎を起こすような危険な香りがするので
俺はハルヒの手とベッドから離れて妹の「ハルにゃん起こさなくてい~の~?」の声を遮っていざ洗面所へと足を運んだ。
まだ瞼が重い、お世辞にもいい起し方じゃないからな、うちは。眠い目を擦ってトレーナーの上を脱いで、
水道を捻り、水を溜めて両手で掬い、顔を洗った後は棚からシェービングクリームを取り出して
顎や揉み上げに塗って剃刀を手に不精髭の手入れと寝起きの準備は進む。
そんな時に後ろから妹の声が剃刀を肌に滑らしながらも聞こえてくる。
「ね~、ホントにハルにゃん起こさなくてい~の~?」
「んなのすぐ自分で起きるだろ。それよりお前も飯食って学校行ったらどうなんだ、今日は早いんだろ?」
「別に早くないよ~、今日はハルにゃんとキョン君と出たいからさ、楽しみなんだっ♪」
はは、楽しみか。我が妹ながら甘いな。そんなに起こしたきゃ盛大な起こし方を教えてやろうか?
「例えばぁ?」
水をぶっかけたりとか。
「わかった、キョン君のチューで起こすんだね!」
絶対聞いちゃいないだろ、とそんな他愛ないトークをしながらいよいよ剃刀を頬に滑らせた時、
「ちょっと、キョン!」と妹とは明らかに違うボイスがリアルに鼓膜に響いた。
 
ピッ!
 
と、手元がいきなり滑って左頬に小さな赤いラインが通った。

 

470
「キョン!?だ、大丈夫?」
ハルヒのやつが珍しくも慌てている。
「なに。少し切っちまっただけだ。気にすんな。男だったら何回経験することだ」
「で、でも…」
ハルヒはやはり気にしているようだったが、急にはっとしたかと思うといつもの100Wの笑顔を浮かべた。
何か妙なことを思いついたらしい。
「なんだ?急にどうし…!?」
言い終わる前に頬に柔らかな感触が訪れた。なんだ?今のは…ハルヒが頬にキスしただと…
「ハ、ハルヒ。起きたばかりで、ね、寝ぼけてるのか?」
「あんたじゃないんだしそんな訳ないじゃない!あたしをキスで起こそうとしてたみたいだからこっちからしてやったのよ」
畜生。妹との会話、やっぱり聞いていたのか。今日は厄日なのか?全く。
「それに傷口に唾つけるといいって言うじゃない。だからあんたのためを思っての行動よ!ありがたく思いなさい」
とかハルヒは強気な発言をしているがそんな真っ赤な顔して言われても説得力ゼロだ。やれやれ。
ガタガタ
「お母さ~ん!キョン君とハルにゃんがおはようのキスしてたよ~」
ぬかった!妹に見られてしまうとは…今日は本当に厄日だ。忌々しい。ああ忌々しい忌々しい。
 
「キョン!お腹すいたし朝ご飯食べましょ!」
「そうだな。遅刻したらまずいしな」
俺はさっき起こった出来事を早く忘れてしまおうと急いで朝食を食べに向かった。
 
 
>>450の4行目へ

 

450(365)
「キョンくん、お姉ちゃん、朝だよー」
 ごっこ遊びの設定はなかなか忘れないあたりは小学生の特性で、律義にハルヒをお姉ちゃんと呼ぶ妹だったが、実の兄を差し置いて他人をお姉ちゃんと呼ぶのもどうなのだろう。知らない人が聞いたら俺のほうが他人かと思えるセリフだ。
 とりあえず一階に降りて朝食をとることにする。
 ごく自然に何の気兼ねも無く人んちの味噌汁を啜ってるハルヒを見ると、なんだか本当に元から家族だったような気がしてこなくもないが、いやいや、こいつはきっと何処の家に行ったところでこんな態度に違いない。
 それにしてもこいつ、平然としてるが昨夜のことは覚えてるのか? 忘れてくれてるなら有り難い。……ちょっと残念な気もするけどな。
「キョンくんとお姉ちゃん、すっごく仲良いんだよ? 起こしに行ったら一緒にベッドで寝てたの!」
 ぶふっ!
 俺とハルヒは同時に味噌汁を吹き出した。
 しなくても良い報告をなんでするんだ。小学生ゆえの無邪気さなのか、はたまたそれを装ったわざとなのか……。
「押し入れにお客さん用ふとんあったから出せば良かったのに。ねー」
 くそっ、妹の笑顔が黒い。黒すぎる。健やかに育ってると思ってたのにいつの間にこんなに悪い子になった。
 耐え兼ねたハルヒが反論した。
「ねっ、寝てただけなんだからね! 本当よ! 決して変なことはしてないんだから!」
「……? 変なことってなーにー?」
「うぐっ……」
 藪蛇も良いところだ。ハルヒは顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。
 オフクロも、いい年こいた中年おばさんが頬を染めてあらあらうふふってな表情をするんじゃない。あなたの大切な息子は、きちんと貞操を守っております。……なんだろう、それもそれで悲しいような気がする。
 朝食を終えて学校へ向かう。道中、ハルヒは浮かない顔をしていた。
「はぁ、なんだか結局いつものあたしと全然変わんなかったな。全然『お姉ちゃん』できなかった」
 そこなのか、気にするところは。
「あんたももうちょっとしっかり弟しなさいよね? やりにくいったらありゃしないのよ!」
 お前の求める弟像なんか知らん。
「はぁー、頑張ってちゃんとしたお姉ちゃんにならないとな」
「おいおい、いつまでこの下らんごっこ遊びを続ける気だ」
「何言ってんの? あたしは本当のお姉ちゃんになるのよ」
 勘弁してくれよ、うちの養女にでもなる気か?
「……妹ちゃんの、お義姉ちゃんに……よ」
 は?
「ん何よ、変な顔して……あんたがゆうべ言ったんじゃな……はっ、あんたまさか覚えてないの……? い、今のナシ! 忘れて!」
 ハルヒは逃げるように走り出した。
「おい待てよ!」
 後ろから追い付き肩を掴んで振り向かせる。そしてそのまま反射的に、腕の中へ抱き寄せた。
「……今のが、昨夜の返事なんだな……本気にして良いんだな?」
「……そうよ……冗談でこんなこと言うわけないじゃない……」
「そうか……」
 俺は一旦ハルヒを放し、左手を掴んで、指輪をはめる動作だけした。
「何コレ?」
「今は持ち合わせが無いからな。予約だ、予約。いつかこの指に、指輪をはめてやる」
 ハルヒは口に拳を当ててクスリと笑った。
「キザなふうに決めたつもり? 全然ダサいわよ、それ」
「そうかなあ」
「まあ、いいわ。そんなちょっとズレたところもあんたらしい」
 俺はもう一度ハルヒを抱き寄せた。
「ハルヒ、好きだ」
「プロポーズの後に『好きだ』か……順番が逆ね」
「普通じゃない方が好きだろ?」
「違いないわ。あたしも好きよ……」
 その言葉に続けて、ハルヒは初めて、俺を『キョン』じゃない方の名前で呼んだ。