一年後… (37-645)

Last-modified: 2007-01-23 (火) 03:00:08

概要

作品名作者発表日保管日
一年後…37-645氏07/01/2307/01/23

作品

今年もまたバレンタインデーがやってきた。
去年はドタバタして気が付きもしなかったからな。
今年は人並みに楽しませてもらえそうだ。
でも後ろの席のハルヒはいつもと変わらないように見えた。しかし…。
「おい谷口、なんで睨んで来るんだ。俺は何もしてない」
「…何が「何もしてない」だ。何もしてないやつが、今日この日にそんな余裕でいられるか!」
「なんで怒ってるんだよ。諦めてるだけかもしれないだろ」
「いーやそんな訳ない。男ってのは諦めてるなんて言っても心の底では「もしかして…」なんて思ってんだ」
「なんなんだその決め付けは…。じゃあ俺は何だって言うんだ」
「絶対にもらえる確信のある勝ち組だよ。お前は敵だ。ちくしょうモテる奴みんな死ね!」
国木田が割って入ってくる。
「あはは…キョン、気にしないで。谷口は「俺彼女いるんでチョコいらないよ」なんて言ってたら
 このバレンタイン直前にその彼女と別れたらしくって」
そりゃあ…ご愁傷様。

 

ハルヒは俺たちの会話を聞いているようだがノーリアクション。
まあいい、時間はまだたっぷりある。ちょっと廊下にでも出よう。
谷口にはああ言ったが、実は既に妹から貰っているのだ、家族だからノーカンかもしれないが。
しかし妹は「ホンメイだよー♪」とか言ってた…、小六にもなって兄貴に本命は冗談でもまずくなかろうか。
「おっやぁ、いたいた。おーいキョンくーん」
このよく通る大きな声は…鶴屋さん?それに朝比奈さんまで。卒業を控え学校に来ることすら珍しいのに。
「よかったーっ、もしかして会えないかと思ったよっ」
「えと、こんにちはキョンくん」
「お二人ともこんにちは。どうしたんですか今日は?」
「実はねー、よしっ!いくよっ!ドラムロールっスタートっ!ダララララララララララララーじゃん!
 さあみくるっ、どーんと言っちゃえ!」
引っ張っておいて自分では言わないのか。
「あ、あのキョンくん、その、今日は部活に出られなそうなので先に来ました」
わざわざ会いに来てくれるなんて、そんな大事な用が…。一体なんですか?
「あのね、これ、受け取ってください!」
突き出されたのは…何かの包み?…もしかしてチョコ?なんだ、なにか思ったら…。
「ちょーっと待ったー。キョンくーん?そりゃいけないよ。女の子からのチョコのプレゼントに対して
 それはないんじゃないかなっ。反省しなさい、うりうりー」
ゲンコツで頭をぐりぐりやられた。朝比奈さんもちょっと傷ついてるっぽい。まずいな…。
「ええと、すみません朝比奈さん。その、「あっちの」ことかと思って身構えてしまってて、すいません」
「ううん、いいの、こっちこそ思わせぶりに言っちゃったから…」
「よしっ!これで仲直りっ!一件落着っ!それとキョンくん、あたしからもプレゼントさっ」
「え?いいんですか、むしろ俺のほうが世話になってばっかりだったのに」
「いいってことさっ、他にあげる人もいないしねっ!」
「それじゃ本命みたいですね」
冗談めかして言うと鶴屋さんも冗談めかして返してくれた。
「はっはー、そうだねっ!まさにその通りっ!」
「よしっ!そいじゃ行こうかみくる。時は金なりさっ!キョンくんお返し待ってるよっ」
一人で行ってしまった。
「ちょ、朝比奈さん早く追いかけたほうがいいんじゃないですか!?」
「…えっとねキョンくん、さっきの悪いと思ってるなら…」
さっきのって…ああチョコの話か。
「一度でいいから、名前で呼んでください」
「…えーと、何でまた、急に?」
「ダメ、ですか?」
「そんな顔しないでください。言いますから、でも、えーと照れくさいので一度だけで勘弁してください。
 えーっと、ごほん…みくるさん」
「…はいっ!
朝比奈さんは嬉しそうにその花のような魅力満開で微笑んだ。

 

教室に戻ると阪中から義理チョコを貰った。まあよく話すようになったしな。
昼休みが終わってもハルヒからは音沙汰なかった。

 

放課後、ハルヒはさっさといなくなってしまった。仕方ないので部室に行くとしよう。
何かに期待しつつドアを空けると、長門一人だった。
「みんな来てないのか…って朝比奈さんは来れないんだったな」
長門に伝える為にも呟く。
すると長門が顔を上げ、俺を凝視する。
「どうかしたのか?」
長門は無言で立ち上がり、自分の鞄を探ってなにやら取り出した。
一体…いや同じミスはすまい。
「もしかしてチョコか?」
コクリ。長門はうなずく。
去年ハルヒに付き合わされたおかげで長門も「チョコをあげる日」と理解したのだろう。
「ありがたく受け取っておくよ。でもな長門、今日はな俺にチョコをあげる日じゃないぞ。
 好意を持った男性にチョコをあげる日だ、まあ義理とかも…」
「知ってる」
「え?知ってたのか。でもそれじゃなんで俺に…」
「…好意を持った相手だけでなく世話になった相手にも渡すと書いてあった」
一体どんな本だよそれ。
「これ」
長門はさっきまで読んでいた本の表紙を見せる。
「バレンタイン特集!」派手な色の文字が舞う表紙。こんなの長門は読まないだろ、誰のだよ…。
「朝比奈みくる」
朝比奈さん長門のこと苦手にしてたのに…微笑ましい気分になる。
「二人が仲良いってのは俺も嬉しいよ」
「…同士だから」
何かよくわからないことを言われた。一体どういう意味で同士なのだろう?

 

結局ハルヒが姿を現さないまま部活が終わった。
「はぁ…」
そりゃ溜息も出るだろうさ。もう真っ暗だからだ。帰りは気をつけないとな。
「はぁ…」
古泉のやつは紙袋一杯にチョコを入れていた。まああいつならそのぐらいモテてもおかしくないだろう。
問題はそれらのチョコとは別に大切そうに抱えていたチョコのことだ。
「これは涼宮さんから貰ったものです。本当に嬉しいですよ。あなたは…え!貰っていないのですか?」
ぶん殴ってやろうかと思ったが堪えた。不機嫌を隠さず古泉とは別れた。
何だあの野郎。自慢しやがって、谷口の言うとおりだ。モテる奴はみんな死ね。
「はぁ…」
もう家についてしまった。鞄の中のチョコを見る。いつもに比べれば大漁も大漁だ。嬉しいね。
「はぁ…」
ドアを開ける。待ち構えていたように妹がいた。
「おかえりーキョンくん。ハルにゃん来てるよー。キョンくんの部屋に…」
妹の言葉の続きを聞かずダッシュで部屋に向かう。制服のままのハルヒがいた。
「ん?ああ、おかえり、遅かったわね」
「…なんでいるんだ」
「先に来てたから」
「違う、なんでチョコ…えーと、そう部室に顔出さなかったんだ」
「みんなには伝えておいたわ、キョンには言わないようにっていうのも」
「なんでそんなことしたんだ。俺が一体どんな気持ちだったか…」
「んー?どんな気持ちだったの?」
「なっ!そ、それは…」
「チョコ、欲しかったの?」
にやーという笑い。ちくしょう。美人は得をする。
「あのな、いい加減怒るぞ」
「う、その、ゴメン。で、でもみんなの前で渡すのはさすがに、えーっと、恥ずかしいって言うか…」
「去年はみんなの前で渡したろうが」
「あ、あれは義理だったから…じゃ、じゃなくてほら。さっさと受け取りなさい!」
なにか気になる発言があった気がするがとりあえず受け取ろう。恭しく受け取る。
「そうそう、手作りなんだから感謝しなさいよ」
ハルヒは笑った。ハルヒの笑顔が眩しい。でも俺もきっと笑ってる。やばい、マジで嬉しい。
一年前はそう嬉しいとも思わなかったのに、今は本気で嬉しく思う。本当にありがとうな、ハルヒ。

 

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