今。そして、これから (47-37)

Last-modified: 2010-03-30 (火) 01:27:57

概要

作品名作者発表日保管日
今。そして、これから47-37氏07/04/2307/04/23

作品

「遅い!罰金!!」
そのセリフはもう聞き飽きたよ。今まで何度払わされてきた事か知れたものじゃないからな。
そのおかげで俺の財布はいつまで経っても厚みを保てない。しかし、今日は何かが違う。
そう。メンバーが足りない。俺と、目の前に居るのはハルヒ。それだけだ。
「なんでもいいから、飲み物買って来なさい!速く!」
はいはい。わかったから。そんな大声出すんじゃありません、はしたない。
後ろから、なんですってーとか聞こえたが、無視した。
・・・と、いろいろあって、俺は自販機の前に着くことができた。
小銭は500円玉しかなかったので、なけなしの旧500円玉を投入。
一通り見てみると、いろんな商品があった。
サイダーと、サイダーだろ?そしてサイダーに最後にサイダーだ!
・・・まぁ、三ツ矢サイダーしかなかったのだ。こないだの新ペプシの販売機みたいだね。
迷わずボタンを押す。選択肢を決めれないのはもう慣れてるからな。
ゴトン!とサイダーが落ちてきた。取り出し口をあけ、商品を取る。
・・・?まだ買える!今日は運が良かったようだ。サイダーがもう一本吐き出され、
お釣りのレバーを引く。1本分の値段で済んだから、お釣りは350円かな
とか考えていたら、チャリンチャリンと2枚の硬貨の音。
・・・200円?1本分なら 500-150=350。
     2本分なら・・・? 500-150×2=200円。
音は2枚分。つまり、俺は・・・
「ウッソ、マジかよ!普通に2本買っちゃったよ!」
人間というものは期待していた出来事に裏切られるとすごくガッカリするのはみんなも体験するだろう。
というか、俺は凄くくだらない事に計算式を立ててしまった虚無感に打ちひしがれている。
仕方ない。サイダー持って、さっさと戻る事にする。
「遅い!気品高き団長閣下を待たせるなんてアンタどんな神経してんのよ。!」
自分で気品高きとか言うんじゃありません。ほい、サイダー。
手渡ししたが、ハルヒは乱暴に取った。中身がシューシューいってる気がする。
ハルヒはおもむろにフタをひねった。
「うわ、わわわ!」
・・・案の定、ハルヒは盛大に中身を噴出させてしまった。
服や身体にかかることはなかったが、手にダイレクトでかかってしまっている。
「うっわ、ベタベタする・・・」
砂糖水の常識だろう。誰でも知っている規定事項さ。
「このまんまじゃ、やっぱ嫌だから、手洗ってくるわ。」
そういってハルヒはトイレに向かった。
まったく、昨日見た悪夢の次の日には2人きりで市内探索。デートのようだな。
アレは俺のファーストキスだったのに・・・。いや、あれは夢。夢だ。
ハルヒも悪夢を見たと言っていたが、やっぱ偶然だろうね。
サイダーを飲みながらそんな事を考えていたら、
「ただいまー。このサイダー、以外に美味しいわよ」
お前まさか舐めたんじゃないだろうな。
「そんなはしたない真似しないわよ!ちゃんとボトルの中身を飲んだわ!」
ウソウソ。わかってるって。とりあえず俺は座りたいのだが。
「そうねえ、あ!あのベンチ空いてるわよ!」
よし。確保しろ!
「命令するんじゃないわよ!」
そう告げるハルヒはとても嬉しそうに見えた。

 

ハルヒは昼食を作ってきていたらしい。
よかった。罰金がこれ以上増えたらたまったもんではないから。
手作りの単語が嬉しいわけではない。断じて違う。
「キョン!味はどう!?」
うむ。やはりお前には料理の神がついてるね。いや、おまえ自身が神なんだが
えへへ、とハルヒは可愛い仕草をした。
そんな表情、できるのか。とは言わなかった。この笑顔は崩したくなかったから。
ひとしきり食べ終えたころ、
「さて、そろそろ行きましょうか。」
とのお開きの言葉。そうだな、時間がもったいない。
ハルヒはペットボトルに手を伸ばしたが、途中でピタリと動きをとめた。
「キョン。アンタ、どっち飲んでたかわかる?」
俺の動きも止まった。
普段のコイツなら、そんなの構わずにガブガブのんでたろうに。
前日の夢心地な世界に・・・もとい。悪夢を見たせいか、なんだか乙女チックである。
中身はどっちも同じくらいで、見分けがつかない。種類も同じだから、不可能である。
俺は左側だと思うぞ?
そういって、手に取ると、長門もびっくり異常な速度で手首をつかんできた。
「ままま待ちなさいよ!あんたには躊躇いって言葉を知らないわけ!?」
お前にそんな事を言われるなんて驚きだ。その言葉から一番遠い生物はお前だと思うがね。
「う、うっさいわよ!」
いやでも、俺はさっさと飲んで次に進みたいのだが。
「・・・わかったわよ。アンタは左、私は右側!」
今度は逆に俺の顔に押し付けるようにサイダーをこっちによこした。
俺がなんら気にせず中身を胃の中に流している時、ハルヒが顔を真っ赤にしながらチビチビ飲んでたのは忘れられない。
・・・さてと。昼飯も取り、満腹感と眠気があいまみえるこの時間帯。
俺は毎回この時間帯が苦手である。立ったままでも眠りそうなんでね。
ハルヒはデパートに行こうと言い出した。・・・ベンチで寝ててもいいですか!
「駄目よ!団長を差し置いて眠るなんて許さないんだから!」
やはりか。わかってるよ。んで、何買いに行くんだ?
「秘密!!」
定番の受け答えだね。ドラマなんかではありきたりだ。
「さーて、何買おっかなー♪」
このハルヒ、ノリノリである。
デパートの自動ドアがいらっしゃいませと言わんばかりにOPENした。
なんか後ろのほうからごゆっくり~~~!と聞こえたが気にしない。
「まずは・・・そうね、服買いたいわ!」
ふむ。服か。ユニクロにでも行くか?
「なんでユニクロなのよ。そんな庶民的な店・・・」
庶民的だと?何をおっしゃるハルヒさん。
残り物には福があるというように、安いものにもいい物は埋まってるんだぞ?
「なによそれ、聞いたとも無いことわざよ。」
今俺が考えたからな。
「・・・あっそう。んじゃ、とりあえずユニクロで。」
わかった。俺もなんか買おうかね。
ハルヒは一着取っては俺に向かってどう?こっちは?んじゃこれは?
などといちいち聞いてくるので、俺の理性は爆発一歩手前である。
「う~ん。やっぱこれかしら?」
俺が一番キタコレ!と思った衣服をかざしながらそういった。
店員にこれくださーいと言うハルヒ。古泉一歩手前くらいニヤニヤしてるであろう俺。
店員さんは結婚式場にいる受付さんのような笑顔を俺たちに向けた。
「さぁ、買い物も済んだし、次はドコに行こうかしら?」
そうだなぁ、と考えながら時計を見たら、もう4時を回っていた。
俺たち、かなりの時間をあんなやりとりで過ごしていたのか・・・
ここにきて俺の羞恥心が悲鳴をあげた。やばい。恥ずかしい。
「キョンは行きたいトコ無いの?」
と聞かれたが、答えられなかった。思えばハルヒの行きたいところにくっついていく感じで、
俺が自分から赴くところはそうそうなくなってきているのだ。
そうだなあ、ちょっと見たい映画があったな。
「じゃあ、映画館で決まりね!」
そうだな。今は確か怖い怖いと巷で有名なあの映画が上映されているはず。
それを見ようじゃないか。
「い、いいわよ。私が怖がるような映画じゃないと、許さないんだから!」
俺に激昂するな。製作者に言え。

 

まぁ、到着だ。
映画の内容はこうだ。
最初は5人だった仲のいいグループが、正体不明のイキモノに次々と牙を向けられ、
最後には、互いにいがみ合っていた2人が力を合わせてソイツから逃げ切る。
・・・なんだろう。妙に親近感が。

 

上映開始。ギャアアアアア!とイキモノが襲い掛かり、1人目がやられた。甲高い悲鳴だった。
その様子を力なく見るもう1人の手を引いて逃げようとする正義感に溢れた青年。
『~~さんが!・・・~~さんがああぁ!!』
『立ち止まったら駄目だ!殺されるぞ!』
俺の左手に力が伝わってきた。なんだ、人並みに怖がるトコもあるじゃないか。
ゴオオオアアアア!2人目、先ほど手を引いて逃げようとした青年の右足が無くなっていた。
『い、イヤアアアァァァ!だめ、死なないで!』
『僕の事はいいですから、は、速く逃げてください。』
『イヤよ!私も残る!』
『いいから行けって言ってんだよ!』
女性は肩をビクンとさせ、その場から駆けていった。
『俺なんかより、アイツとくっついてくれたほうが、お前は幸せになれる。
                          ―――さようなら。』
グチャッ。肉を噛み潰す音が響いた。俺はもうまともに直視できん。
ハルヒの方をみると、一筋の涙を流しながら、ブルブルと丸まっている。
・・・ハルヒの頭を抱きかかえてやった。震えが治まった・・・気がした。
『**!無事だったか!』
『●●君が、私をかばって・・・!』
『そ、そうか、アイツが・・・なら、今は逃げ切る事だけを考えるんだ!
そうでもしないと、●●に申し訳がたたねえ!』
2人は走る。しかし、その前に一人の人間が。
『やぁ。今日はどうしたの?忙しそうだね?』
『こんなときにナニ言ってやがる!お前も逃げるんだよ!!』
『君のほうこそ、何を言っているんだい?』
主人公の男は、は?と相手を見つめる。
『君と彼女は生き残るべきだ。これは未来における規定事項でね。』
『な、何を・・』
『つまり、ここは私が引き受けると、言っている。』
『『!!??』』
なんて格好いいセリフを吐くんだろうこの女性は。
映画じゃなくて、現実世界で未来を見通すことの出来る人がいたのなら・・・別だが。
『ほうら、速く行きたまえ。長くは保たんぞ。』
『・・・すまない。』
2人が走り去ったのを確認し、女性は軽く微笑みながら
『これが私の物語だ!』
と叫んだ。と、ここで、光が戻った。
上映終了です。とアナウンス。どうやらシリーズ物らしい。
腕の中にいるハルヒに帰るぞ。と話しかける。・・・応答が無い。
おいハルh「キョンは」
ん?
「キョンは、私を置いてどこかに行ったりしない?・・・死んだりしない?」
搾り出すように言った。
・・・ああ。お前みたいな素直じゃない奴をほっといてどこかに行くわけないじゃないか。
SOS団の奴らだって、お前をおいていったりしない。本当だ。
「そう、よね。うん!そう!」
ハルヒは涙の跡を拭かずに、笑顔を見せた。
苦しそうな、笑顔だった。だから、俺は力いっぱいハルヒを抱きしめた。
そして、あの時の、夢の中と同じように、唇を重ねた。
せめて、今だけは、俺だけの神様でいてくれよ。